断腸亭日常日記 2020年 3月

--バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で--

por 斎藤祐司


 3月14日(土) 雨/雪 15529

 雨から寒いので、雪に変わった。中山競馬場も雨から雪に変わった。寒い日だ。昨日とは一転、真冬に戻ったような感じだ。

 新卒者の内定取り消しなどの動きが、あるという。旅行会社の倒産は目前のようだ。観光バスは、インバウンドで成り立っていたので、解雇などが急速に進んでいる。国内旅行や出張をひかえているので、新幹線の乗車率も凄く減っているようだ。製造業も、不振だと思う。その他、飲食店なども凄いっことになりそうだ。中小企業は、資金難で大変だと思う。勿論大企業も苦しい。そのしわ寄せは、下請けに行くわけだから…。

 スペインのサンチェス首相は、14日付で非常事態を宣言することを発表した。向こう数日で、感染者数が1万人を超える可能性があるという。感染者は、4209人になり(5232人という情報もある)、前日から1241人増え、死者は、120人(133人という情報もある)なり、前日より36人増えた。ついに、日曜日までの野放し状態のつけが、そろそろ感染者数に現れて来たようだ。首相は、非常に厳しい数週間に備えるという。スペインがヤバイ。マドリードは、レストランやバルの営業停止。イタリアのように、食料品店と薬局は営業する。カタルーニャ州で感染者が増えているイグアラダ市など4自治体を封鎖するという。バルセロナは、ショッピングモール、ジム、ナイトクラブなどの閉鎖。カタルーニャ州全体の閉鎖も検討しているようだ。マドリード州、カタルーニャ州は、住民に対して旅行をひかえるように通達している。マドリードは、自主的に協力してくれない場合、隔離閉鎖せざるを得ないといっているようだ。マドリードで、セカンドハウスをムルシアやバレンシアに持っている人は、封鎖前に、そっちへ脱出しようとしているようだが、それを防ぐために、ムルシア、バレンシアでは、1部隔離閉鎖を始めたという。

 本当に非常事態になった。スペインに住む知り合い全てが、感染者にならないことを願う。旅行ガイドをやっている人も多い。接客サービスなども多い。だから話してると色々なことを知っている。情報を持っている。もうサッカーとか、闘牛などといっていられない局面になってきたことを、認識するべきだろう。

 こういう状況になれば、セマナ・サンタとか、春祭りとか、サン・イシドロとかできる状況にはないと、思うべきだ。サッカーもリーガ・エスパニョーラも、チャンピンズ・リーグなども中断し、再開の話も目途も全くたたないだろう。FCバルセロナは、医療チームからの助言により、トップチームの全活動停止を発表し、自宅での自主トレを行うという。

 フランスのマクロン大統領も100年に1度の危機と訴えている。おそらく今年は、サン・イシドロは出来ないだろうし、観れないだろうと思う。スペインがイタリアみたいにならないで欲しいと思うが、少なくとも感染者数は1万人を超えるのは、目に見えているような気がする。それでも、医療機関が機能すれば、まだ救われる。トランプも非常事態宣言したようだ。


 3月15日(日) 晴 6109

  朝起きてネットを観たら、スペインのサンチェス首相は、全土外出制限したと書かれてあった。全土封鎖とは書かれていないが、実質同じようなものだろう。スペインの感染者数は、6391人になり、死者は、195人になった。スーパーなどでは、棚が空になっている処が多いようだ。スペインの新聞は、3月7日8日に各地で行われた、世界女性デーのデモが、新型コロナウイルスを拡散させたと、政府の対策を批判している。7日8日のリーガ・エスパニョーラの各試合にも、多くの観客が入って開催された。これも同様に、拡散させた要因になっているだろう。

 天理大学のホームページに、スペインへの留学生に対して、帰国するように書いているが、これが3月14日付だ。それじゃ、遅いと思う。もう動けない。フランスは、食料品店、薬局以外、全店舗閉店にした。そんな中で、15日地方統一選挙を実施する。一定の間隔を取って投票するようにいっている。各国の閣僚やその夫人の感染が発表されている。カナダ首相夫人、サンチェス首相夫人など。

 久しぶりに、新宿へ行った。電車の中も、新宿の街も人が少なかった。喫茶店で新聞や本を読んだ。店など覗いて、駅ビルの100円ショップに行った。エスカレーターを登って行くと、目の前の店員が、「マスク、緊急入荷。お一人様1個です」と第一声は発していた。売り場がどこか訊いて、手に入れた。その声を訊いた人たちが、マスクめがけて走ってきた。非常にラッキーな形でマスクが買えた。実はダメもとで、マスクを探していたのだ。

 昨日、マドリードの友人と連絡を取った。やっぱり休みになっていた。元気そうだった。食料も確保していた。もう一人は、肉魚など普段から冷凍などして、食料を用意している。毎朝散歩しているという。それでも変化があって、子供が遊ぶ遊具などが、囲われて使えないようになっていた。それと、さすがに人が少なくなっているという。マドリードは、隔離閉鎖された様だ。バルセロナの友人との連絡では、食料を買って、冷凍庫に入れている。自宅勤務になっている。バルセロナもどうやら隔離閉鎖されたという。部屋にずっといると、ストレスがたまるという。気分転換で、外に散歩に出たらといった。


 3月16日(月) 晴 風強い 7544

 アメリカのFRBは、日曜日異例の形で、公定歩合を1%下げる決定を発表した。実質0%金利政策に4年3か月ぶりに切り替えた。また、日銀、FRB、欧州中央銀行など7の国と共同体が一斉に、ドルを強力に支えるため、協調して資金を入れたようだ。日銀は、金融緩和政策を決定して、株式市場へ巨額の資金を入れるようだ。日経平均は、乱高下して終値は、17002円。429円下落した。しかし、ダウの先物は、朝方1500ドル下落していた。

 強風の中散歩に出かけた。音と共に、強風が吹く。伊豆では、強大な竜巻が起こっていた。散歩道も人はまばらだった。マドリードも人が出ていないという。公園の門は閉じられ、とにかく、人が集まらないようにしているようだ。スペインは、基本的に外出禁止だから、買い物とか以外は、外出制限という建前になっているようだ。散歩の途中で、公園や広場のような処で、子供たちが元気に声をあげて遊んでいる。こういう当たり前の風景が、救われる。買い物帰りの小さな女の子がお母さんと手を繋いだり、放して駆けだしたりしていた。当たり前というのが、素晴らしいと思う。

 トイレットペーパーは、相変わらず品薄。棚にない処が多い。ドイツも感染者が増えて、フランスを抜いた。スペインとフランスの間にある。スペインは、7844人の感染者数になり、292人の死者になった。そんな中で、セビージャ市は、セマナ・サンタの中止に続いて、フェリア・デ・アブリル(春祭り)の中止を決断した。出来れば、9月に延期して実施したい考えのようだ。それに伴い、闘牛祭の方も中止を発表した。興行主のパヘナのラモン・バレンシアは、フェリアと同じように9月に組み替えて実施したい考えのようだ。セビージャの中止発表は、マドリードのサン・イシドロへ直結するものだと思う。マドリードの興行主プラサ1は、フランス人シモン・カサスが主体になっている。おそらく、ニームも中止になるだろうと思う。今年は、スペインとホセ・トマスを観に、ニームへ行こうと思っていたが、行けない。9月のニームだってどうなるか怪しい。


 3月17日(火) 晴 13179

 ニューヨーク市場は、史上最高の大暴落を記録した。開始直後から取引一時停止になり、一時3000ドル超の下落し、終値は、20188ドルで取引を終えた。2997ドルの下落。12.93%の下落率を記録した。開けた東京も下落が続いている。昨日夜、G7首脳テレビ会議が行われた。各国が情報の共有し協調して対策を行うことで一致した。特に新しい材料はなかった。イタリアの感染が拡大した時に、隣国との話し合いの中で、国境は封鎖しない事で合意した。しかし、ドイツが国境封鎖したと思ったら、EUの欧州委員長が、EU域外からEUへの入域を30日間制限する措置を導入することを発表した。新型コロナウイルス感染拡散防止策として対応策である。

 マドリッド、カタルーニャだけでなく、スペインの全国民は  自宅からの外出が基本的に禁止。外出が許可される例外は概ね、次の通りのようだ。生活するための必需品の購入目的での外出(食糧、薬品類、眼鏡類、新聞)。お金を引き出す目的での銀行訪問。高齢者や身障者など、自分で頭を洗えない人に限り美容院への訪問。クリーニング、恐らく、コインランドリーの利用もOKのようだ。職場へ行かなければならない場合。医療機関を訪れなければならない場合。どこかへ出かけていた人が自宅へ戻るための移動。ガソリンを入れる目的での車での外出。

 トランプ大統領やFRB、EUや欧州中央銀行、日本や日銀がどういう経済政策を発表しても株価の下落は止まらない。それは、そうである。原因ははっきりしている。新型コロナウイルス感染拡大が原因だからだ。これが止まらない事には、何をやっても、焼け石に水。医療現場は、大変なことになる。いま、イタリアは、医療崩壊を起こしている。ちょっと前の武漢のように。スペインやフランス、イギリス、アメリカも危惧される。日本だって、検査がしっかりされていない訳だから、感染者が隔離されずに街中を移動していると考えた方がいいだろう。今の感染者数の少なくて倍はいると考えた方が良いだろう。外国の医療関係者は、10倍いるという人までいる。感染者数が増えると、ベット数や、人工呼吸器などが、不足する事態になると考えた方が方が良い。

 学校閉鎖から2週間が過ぎた。感染者数がこの2週間で増えている。もし、学校閉鎖やイベント中止などを行っていなかったら、感染者はもっと増えていただろう。おそらく、4月の新年度になっても、明るい見通しにならないかもしれない。もっと時間がかかるような気がする。たぶん今、研究者は必死の思いで、ワクチン開発を行っているだろう。それが出来なければ、この一連の騒動は終息しないだろう。

 スペインでは、外出者に、警官やドローンが注意喚起を行っているようだ。長い忍耐の時を強要される。暗い話ばかりだが、それぞれが、自分の体をいたわり、他人もいたわらなければならない。朝起きて、食事して、昼食、夕食を取って寝る。その間に、仕事をして。タバコを吸って、酒を飲む。日々は繰り返される。その中からしか学ぶことは出来ない。生活に困窮する人も出てくると思う。政治とは、そういう人に、どうゆう手を差し伸べられるかで、価値が決まるはずなのだが…。


 3月18日(水) 晴 10932

 暖かい日で、公園には驚くほどの自転車がとまっている。中では、小学生たちのはしゃぐ声や、笑い声が響く。マスクをした母親たちもいる。鬼ごっことがもしていて、忍び足で背をかがめて鬼に見つからないようにしている姿が、愛らしい。こういう光景が、あるべき姿だと思う。桜の花もだいぶ咲いてきた。散歩中にスマホを出して桜や他の花の写真を撮っている人がある。

 スペインの感染者数は、11279人。死者は、533人になった。ドイツも1万人弱。メルケル首相は、何日か前に、このままでは、国民の60~70%が感染する。と、いった。ドイツの医療制度は、非常に充実しているようだ。手術をしてもタダ。地域に密着したホームドクター制度があって、普段はドクターに相談治療にあたる。それから、専門医への振り分けをする。大学などの医療機関で、13年以上勤務すると、ホームドクターの試験を受ける資格を得るのだという。それから、試験に合格して初めてホームドクターになれるようだ。専門医への振り分け時にも、大学教授と対等に治療について話し合いが出来るのだという。

 つまり、ドイツは医療体制について、自信があるのだ。実際に感染者数は増えているが、死亡者は極端に少ない。検査だって、日本よりずっと多いのだろう。消費税が17%と高いが、その分が、医療費にまわされているのだという。日本の医療が、ドイツのようになれば良いと思うが、そうならないだろう現実がある。

 マドリードのスーパーは、入場制限をしているようだ。感染を防ぐための措置のようだ。トイレットペーパーなど、棚から消えた商品も多いのかもしれない。取りあえず、あるもので食事をして、欲しいものが出るまで、我慢しなければならないんだろうなぁ。

 「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。」(『方丈記』鴨長明)


 3月19日(木) 晴 13198

 暖かい穏やかな天気だが、午後になり風が強くなってきた。夜には、横殴りの雨が降るという。図書館へ行った。この前、行った時は、入口に係員が立っていたが、今日はいなかった。借りていた本を返却した。散歩や買い物などで、出掛けて家に戻ったら、必ず、石鹸で手洗いしている。20秒以上水を流して、石鹸を洗い流している。

 スペインのサンチェス首相は、国会で演説した。350席の議場には、閣僚5人、議員28人のみの出席者しかいなかった。その中で、すでに、欧州委員会が指摘してとおり、年間の国民総生産がマイナスになることが明白である。2020年は、12か月ではなく、10か月、ないし9か月である。と、いった。アメリカは100兆円の景気刺激策を検討してという。日本も景気刺激策を検討中だ。にもかかわらず、ニューヨーク市場は、一時取引停止になった。先週あたりから4度目である。最大2320ドル下落したが、終値は、19898ドル、1338ドルの下落を記録した。日経平均は、落ち着いている。終値は、16552円で、173円の下落だった。アメリカの市場の方がヒステリックになっている。このままだと、17000ドルを切るかもしれない。日経平均は、15000円を切るかもしれない。大変な事だ。世界的な不況が、起こる。

 誰か、「世界の中心で、愛を叫べ!」。世界中で、2500万人の失業者が出るといっている。それですめば、良い方だと思う。本当に大変な事になるだろう。それでも、人は生きていくのだが…。

 マドリードの外出禁止措置後、違反者に対しての罰金支払いを命じられた。1日目2日目、平均200人くらいのようだ。逮捕者は、1日目が1人、2日目が4人。理由は、公務執行妨害と侮辱罪だという。不満を皮肉でいう分には罰金で済むのかもしれないが、罵声を浴びせたり、人を馬鹿にするようなことをいうと、逮捕されるのだろう。警察官だって、好きで取り締まっている訳ではないだろう。国家の危機に、マクロン風にいえば、ウイルスとの戦争中の非常時に、外出禁止の取り締まりをやっている。警察官も、いわれれば人間。腹も立つ。それに明確な外出理由があれば、とがめられることはないはずだ。

 マドリードのスーパーでは、トイレットペーパーや米が棚にないようだ。イタリアだと、スパゲッティがなくなっているようだ。日本人なら、米さえ食べていれば、何とかなる。中国人がやっている、アリメンタシオンには、インスタントラーメンなどもある。大きい処だと、冷凍食品の中華食材まである処もある。食べたことがないから、美味しいかどうかは判らないけど。あとは野菜などの少ないのかもしれない。でも、こういう時こそ冷凍食品の野菜だ。あとトマトジュースや野菜ジュース。ビタミン剤よりもそういう物の方が良いと思う。食物繊維あるからだ。


 3月20日(金) 晴 12674

 朝食後、新宿で買い物をした。けっこう人が出ていた。天気が良いので、みんな出てきたのだろう。3連休の初日。旅行へ行かないくても、こうやって出掛けて、リフレッシュしているのかもしれない。

 昨日の夜、新型コロナウイルスの政府専門家会議が記者会見を行った。その中で、「今後、感染源が分からない患者が継続的に増加し全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として爆発的な感染拡大(オーバーシュート)を伴う大規模流行につながりかねない」という。イベント中止なども、ほぼ継続するようにという事のようだ。水際対策の強化とか言っているが、スペインの1部しか対象にしていない。今や、ほぼヨーロッパ全部を対象にしなければおかしいのに、それをやろうとしていない。野放し状態で、国内に感染者を入れているのと同じだ。それでいて、都市部で爆発的感染拡大の可能性があるという、いい方をしている。こういう矛盾を何も説明しようとしない。官僚が作成したシナリオなのか、助言をしている専門家会議の医療チームが作ったシナリオなのか?

 臨床をやっていない北里大学の関係者が専門家会議のメンバーを占めているという。戦前戦中に、軍部に協力してしていたという北里大学。そういう体質が危ないと、国会で証言した上雅広医師はいう。この人についての批判的なコメントも、ネットなどでみられるが、何故検査をしないのかという疑問を、払拭するものではない。また、臨床医が専門家会議のメンバーに入っていないという事にも、なるほどそれはおかしいを思わざるを得ない。彼の発言には、全部ではないが、一定程度の高い水準での説得力がある。それは、論点が整理されている事と、その語り口の穏やかさにあるのだと思う。専門家会議が、早期発見・対応といいながら、実際に検査をしない、あるいは、出来ない体制はどうみてもおかしいと思う。これが、クラスターの発見の遅れを、助けているのではないかと思うのである。

 専門家会議の会見で判ったことが1つある。これからも非常に大変なことになるということ。そして、こういう生活が1か月以上、場合によっては、2か月以上かかるだろうということだろう。

 イタリアの死者は、中国の死者を超えた。もう韓国の感染者数を超えた国は、中国以外では6か国になる。イラン以外にイタリア、スペイン、ドイツ、アメリカ、フランス。ヨーロッパだけで、感染者数が、10万人を超えた。スペインの感染者数は、18077人。死者は、831人になった。スペイン政府は、全国のホテルに休業を命じた。おそらく、ホテルに軽い症状の感染者を隔離するつもりなのだろう。マドリードでは、高齢者養護施設で集団感染が数件あり、一気に死者が増えたという。16分に1人の死亡者を出したという。また、アメリカのカルフォルニア州知事は、今後8週間で州内のホームレス10万8千人のうち、6万人超の感染が出ると演説した。これは州民にとって、医療システムの大きな懸念になるという。

 マドリードのスーパーなどは、場所によって、長い列が出来ている処、そんなに列が出来ていない処もあるという。それでも、棚に並ぶ商品が、多くなってきたという。これは、救いだ。ただ、3月で外出禁止がとけるとは思えない。長いことかかると思った方がいい。

 カナダのシルクドソレイユは、95%にあたる4700人を解雇するという。特殊技能をもった彼らだが、公演できない状態が続き、このようなことになった。シルクドソレイユって、てっきり、フランスだと思っていた。これから、こういう解雇のニュースが増えていくのだろう。世の中が、暗くなって行くのだろうなぁ。


 3月21日(土) 晴 11353

 朝食後、新宿へ行く。ブラブラして馬場の喫茶店へ入る。若冲の資料を読む。明心を月に見立ててという、言葉が妙に引っ掛かった。何故、それを明心と観るのか、月と観るのが本当なのではないかと思う。それは、「俯し仰ぐ松間の路。明心紫霄(ししょう)に在り」という若冲自筆の短い自題をいっている。そこから芭蕉の間の空に浮かぶ月の話になる。それが、月ではなく、明心だという。明心とは、真心。心を明らかにすること。さとりを開くこと。さとりの心。

 こういう絵の解釈は、苦手だ。自題の漢文に書かれた意味をもって、こうだといわれると、うーんと、思ってしまう。他の美術史家や研究者の意見は、おおむね、月という解釈である。そう思っていた。しかし、若冲自筆の自題から、明心と書かれると、さすが悩む。考えてしまう。コーヒーとタバコを吸いながら、年表を読んでいた。この鹿苑寺大書院の襖絵を描いた後、金比羅の奥書院の絵を描いている。他年表の、若冲関連の事を読む。ちょっと整理して考えても良く判らない。

 スペインの感染者数は、21571人、死者は、1093人になった。ついに、2万人、千人を超えた。ドイツ、アメリカも2万人弱の感染者数になり、カルフォルニア州は、外出禁止になり、ニューヨークも検討しているという。世界では、27万人の感染が確認された。それと、危惧されていたアフリカの感染が36か国になり、感染者数は、900人になった。いよいよ、パンデミック本番になる模様だ。どうなるか、予想できないことが起こりそうだ。

 山中伸弥が13日にホームページを公開し、新型コロナウイルスとの闘いを「短距離走ではなく、1年は続く可能性のある長いマラソン」と表現したという。自身のiPS細胞の研究以外のことを、あえてホームページを開いて発言したのは、研究者をしてジレンマとか焦りもあるのだろうが、科学的な根拠に基づいて行動するように、うながす意図もあるのだろうと思う。つまり、忍耐強く、長いマラソンを走ろうということなのだろう。


 3月22日(日) 晴 6743

 散歩に出ると、桜の花がドンドン咲いてきた。もうすぐ満開になる。さつきも蕾が大きくなってきた。今日は良い天気で暖かい。もう春といって良いだろう。それでも、この連休中も、新型コロナウイルスに対して、厳重な注意が必要だ。散歩からの帰りは、手洗いは絶対しなければならない。

 TBSだけが撮った、東大全共闘と三島由紀夫の対話集会。1969年5月13日に、東京大学の900番教室で行われた。それを映画にしたものを、20日から映画館での上映が始まった。19日映画公開の宣伝を兼ねて、太田光と又吉直樹が、それを観て、感想をいう番組があった。三島ファンの又吉と、太田の話は、三島賛辞のコメントが多かった。今年のはじめ、本屋に関連の本が出版されたことを知った。でも、これは本で読むものではなく、映像で見るものだと思った。

 又吉の賛辞は、1000人の敵、全共闘を相手に、相手を攻めることをせずに、対話したことをいっている。確かに、その通りだと思う。三島の誠実さが出ている。が、最後の方に太田がいった、どうしても、市ヶ谷駐屯地での割腹自殺とのギャップに、違和感を感じるということ。三島文学も、全共闘との対話集会の姿も、割腹自殺も、そう感じるのだ。ある人がいったが、『豊饒の海』を読まなかったら、三島を理解できないと。でも、それを読んで仮に理解できたとして、何になるのだろう。相変わらず、違和感だけがくすぶるような気がする。

 三島由紀夫は、違和感の人だ。若松孝二が作った、三島由紀夫と盾の会の映画は、良く出来た映画だった。心情的に、市ヶ谷駐屯地での割腹自殺に至る過程は、良く判った。だからといって、三島に対する違和感がなくなるものではなかった。むしろ、森田必勝の強いベクトルに引っ張られて行ったような気がした。ここにも違和感がある。

 『東大全共闘vs三島由紀夫 50年目の真実』の中で、全共闘側が、三島由紀夫に対する出演料(全共闘は、飼育費という言い方をして茶化している)は、100円。本当にそうだったのだろう。そんなお金で、三島は、母校の後輩の話を訊くために出演した。自分の意見を、全共闘へ押し付ける為ではなかっただろう。全共闘の話を訊き、自分との違いを確認しようと思っていたのだと思う。集会の中で、三島はタバコを吸う。おそらく、三島が好んで吸っていたピースだと思う。10本入りピース1箱は、50円。2箱買えた。20本分のピースのタバコの味以上に、集会を楽しんだと思う。今、100円といえば、100円玉を思い浮かべるが、当時はまだ、100円札が流通していた。全共闘の学生もタバコを吸い、三島もタバコを吸う。それが、大学の教室の中である。今では考えられないことだろう。

 この集会は、三島にとって何だったんだろう?盾の会の政治的な活動。小説などの文学活動。テレビや映画などのナルシシズムの活動。こういう風にやっていったら自分を追い詰めたのだろうと思う。ノーベル文学賞が欲しかったのに、取れなかった挫折感。日本、日本人、あるいは、天皇制。又吉が語るのは、小説家、あるいは、人間三島。政治的な三島は、ほとんど眼中にないような語り口だ。太田には、政治的な姿勢として、割腹自殺に対する腑に落ちないことを語っている。そういえば、又吉のお笑いコンビは、確かピースだった。関係ないけど、三島が吸っていたタバコの銘柄と同じ名前だ。ピース、平和よりも、日本、日本人、天皇をまず考えるのが、あるいは、根本にそれを置かなければならないと考えるのが三島のやり方なのか?しかし、母校の後輩には、優しいまなざしがある。ここにあるのは、意見が違う側の話を訊こうという姿勢だ。ネット社会になって、そういうものが極端に少なくなった。今、三島の姿に1番共鳴するのは、そこなのではないかと思う。言葉と言葉をぶつけ合う。絡ませ合おうとする。そこにはネットのような、「マジうぜぇ、死ね」などという匿名の無責任な発言はない。集会の中で、「殴ってやる」というのがあった。でも、それも、三島がいる舞台に上がり、言葉を絡ませ、ぶつけ合っていた。基本は、ここだと思う。そういう処は、全共闘も三島も非常に真摯で真面目だ。それでこそ、何かが起こる。化学反応が起こるのだ。映画が観たい。

 スペインでは、死亡者が増えている。レアル・マドリードのロレンソ・サンス元会長が死亡した。ラウルやセルヒオ・ラモスが哀悼のコメントを出している。闘牛サイトには、ラス・ベンタス闘牛場の座布団売りの爺さんが死んだことが記事になっていた。30年座布団を売っていたという。ほとんど、ラス・ベンタス闘牛場の経歴は俺と一緒だと思った。笑ちゃいけないが、こんな人まで記事にするほど、闘牛の記事がないのかと感じたのだ。その後、闘牛関係者の新型コロナウイルス感染死亡記事が続いている。アメリカでも、ケニー・ロジャースが死んだ。カントリー歌手だが、ポップな曲で、トップ40にも多くのヒット曲を送り出した。カントリーなのに都会っぽくて好きではなかった。やっぱり、ウィリー・ネルソンの方が断然好きだ。田舎臭さが良い。ボブ・ディランは、来日中止になったが、70年代に聴いていた人たちは、もう高齢だから、コロナがなくてもそういう時期に来ている。

 へレスのフェリア・デ・カバージョは、新型コロナウイルスの影響により、5月9日から16日までの予定だったものを、10月10日から17日までに変更することを、市役所が発表した。スペインの感染者数は、25496人。死者が1361人になった。アメリカがスペインを抜いて、27111人の感染者になった。ニューヨーク州は、1万人超えたという。ドイツの感染者数は、22364人、死者は、84人。イタリアは、1日で約800人の死者を出した。マドリードのスーパーは、だいぶ列を作らなくても入れるようになっているようだ。いよいよ、外出禁止も厳しくなって来たようだ。20時になると、外から拍手が聴こえるそうだ。もともとイタリアで始まったもので、医者や看護師に対する感謝の気持ちを表しているのだという。ここ2、3日前からは、医療関係者だけではなく、警察、治安警備隊、軍隊などにも同様の拍手が送られているという。イタリア、フランス、スペインのラテン3国は、非常に厳しい状況でも、そうやって、陽気になろうとしているのだろう。


 3月23日(月) 曇一時雨 10597

 昼食後、散歩に出る。昨日に比べて寒い。寒気が下りてきているからだ。朝方、小雨が降った。

 スペインは、非常事態態勢になって2週間が過ぎたが、さらに15日間延長が発表された。つまり4月11日まで。国会の承認が必要なので、まだ正式な決定ではないようだ。サンチェス首相は、非常にあやふやな表現で、EU以外の第3国の国民の出入国について、制限を設けるという。詳細は判らない。事実上の鎖国体制になるようだ。スペインの感染者数は、28603人、死者は、1756人になった。アメリカの感染者数はスペインを超え、3万4千人と激増している。スペインでは、マドリードが最多で、9702人。次がバルセロナで、4704人。

 エル・パイスの記事には、年齢別の感染者数と死亡者数と致死率が載っている。簡単に書けば、0~59歳の致死率は、1%以下。60~69歳が、2.16%。70~79歳が、5.24%。80歳~は、死亡者も多く、17.91%の致死率だという。50~59歳が、0.64%だが、それ以下の年齢は、0.5%以下になっている。

 ドイツのメルケル首相を診た医者の感染が判り、メルケル首相も隔離された。スペインのオペラ歌手プラシド・ドミンゴが感染したことを発表した。ロンドン市長は、市内にいる1100人のホームレスを、ボランティアを申し出た黒塗りタクシーで、インターコンチネンタルホテル・グループの2つのホテルに移送し隔離を始めたという。新型コロナウイルスに感染しないようにという事のようだ。アメリカのセントルイス連邦準備銀行総裁が、今年の4月~6月の米の経済成長率がマイナス50%になり、失業率が、30%になるという試算を出したという。適切な政策対応があれば、10月~12月、2021年1月~3月は、極めて力強く持ち直すとの見通しを示した。

 昨日の夜、NHKで放送した、『パンデミックとの闘い』。集団感染や感染拡大を防ぐために、監視下に置くことが重要だという。検査数が少ないが、今はこの感染を、監視下に置いているという認識のようだ。しかし、ヨーロッパで起きているような集団感染、感染拡大になると、日本の医療体制でも、抑えることが出来ないという。都市封鎖などしなければ、抑えられなくなる。経済的に苦しい状態の飲食店や、観光地、イベントや演劇など大変だと思う。しかし、イベントや、演劇などはやらない方が、今は良いと思う。

 今まで日本で、大規模な集団感染や感染拡大が起きなかったのは、幸運だったという。これからも、こういう状態が続くとは、考えられないそうだ。つまり、専門家会議の会見のように、これからが本番と思った方が良いということ。しかし、そう思っていても、収入がなくなり、生活が苦しくなる人が、多くなるだろうし、この状況に不安をつのらせる人も増えるだろう。自粛という日本の概念は、世界には通用しないだろう。そして日本でも、この概念が、いつまでもつのか判らない状態に、なってきているのかもしれない。

 おそらく、2か月はこういう状態を続けないと、ヨーロッパやアメリカのような事になるだろう。集団感染や感染拡大が起これば、もっと時間がかかるだろう。大阪、兵庫が3連休に、行き来をしないよう発表した。予想では、爆発的に感染者が増えるというデータを提示していた。こういうデータの開示が必要だと思う。危険性を認知させる必要がある。今生活に困るのか、それとも、爆発的な感染を容認するか、どっちを選ぶか考えた方が良い。


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