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12月31日(月)

息子が猫を連れて帰ってきた。 例によって睨みあい。
庶民なので、すごく久しぶりに、こういう時でなければ畏れ多くて買えないカニをたくさん食べ、蕎麦の代わりにケーキで年を越す。 この年ごろになると、家族が健康であることはなんと幸せかとしみじみ思うよ。

12月30日(日)

読んだ長編:
  • リチャード・マシスン「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」
    宋代の儒書からの「盡人事待天命(人事を尽くして天命を待つ)」という故事成語がぴったりの読後感。
    原作者リチャード・マシスン諸作品に深く関わっている人(試写と初日の2回観たそうだ)によると、後半で特にオリジナル脚本よりカットされたところが多く、原作を読んでいなければわかりにくいのではないかと、また映画のほうは「人事を尽くして」より「万策尽きて」の雰囲気だと聞いた。 それでは原題また最後の文(legend)の持つ意味が失われてしまうのでは? NYロケで膨れ上がった制作費を回収するため配給側の方針でR指定(18歳未満の鑑賞を禁止)からPG-13(13歳以下の鑑賞には親の同意が望ましい)へ切替えたそうで、それならディレクターズカットで観たいものだ。
      ブックオフにて:
    • 横田順彌『人外魔境(ロストワールド)の秘密』(新潮文庫)
    • 戸板康二『中村雅楽探偵全集<1>團十郎切腹事件』(創元推理文庫)
    • 戸板康二『中村雅楽探偵全集<2>グリーン車の子供』(創元推理文庫)
    『人外魔境の秘密』の表紙はバロン吉元。なんと飛行船その名も「飛天狗号」!恐竜たち!探検隊!おもしろそうだ、これは買わねば。 ハードカバー『松風の記憶』は図書館廃棄本の中から見つけたのだけど、今年雅楽ものがシリーズで文庫化されたんだね。

    12月29日(土)

      到着便。同梱につき-340円:
    • アレッホ・カルペンティエール『バロック協奏曲』(サンリオSF文庫)
    • デヴィッド・リンゼイ『アルクトゥールスへの旅』(サンリオSF文庫)
    『バロック協奏曲』は、過去から現在へという直線的な時間の流れに沿って一応は進行するが、しかし終章に近づくにつれてテンポが速まり、 第六章から第八章までのあいだに250年ほどの時間が一気に経過する。この目まぐるしい時間のアッチェレランドがなければ、 『バロック協奏曲』のあの緊迫した味わいの半ばは、おそらく失われるにちがいない。
    (集英社版 ラテンアメリカの文学3『失われた足跡/時との戦い』鼓直氏あとがき)

    12月28日(金)

    仕事納め、とはいっても郵便物を開封してからが勝負の仕事なので普段どおりだったよーん。
      到着便:
    • リチャード・マシスン『アイ・アム・レジェンド』(ハヤカワ文庫NV1155)
    すごいなあ、11月刊行からひと月でもう3刷だ。 ウィル・スミス主演の映画公開直前に「天下の」A紙に掲載されたインタビューで、翻訳者(映画パンフレットにも「伝説の作家リチャード・マシスン」という解説を書いている)尾之上浩司氏ご尊顔を初めて拝した。おお。 旧訳(田中小実昌)ヴァージョンも手もとにあるのだが、レビューも好評なこちらの新訳から先に読むとしよう。

    12月27日(木)

      到着便:
    • スタニスワフ・レム『浴槽で発見された手記』(サンリオSF文庫)
    筒井康隆「脱走と追跡のサンバ」がこの作品に近いとな。 中高生時代にお小遣いでなんとか買えた文庫はほとんど読んでいるはずなのに、全然覚えていない。 だめじゃん。 再読したいが実家の本も処分してしまっただろうしなぁ。

    読み始めた長編:
  • A・D・G「病める巨犬(おおいぬ)たちの夜」
    「ベリー地方で、どん百姓が探偵ごっこをやる郷土推理小説の最初の傑作」
    た、楽しい! 地の文はフランス・ベリー地方の方言で書かれ訳者(日影丈吉氏)泣かせの作品だそうだ。ベリー地方の人々は、物語の語り手によると「鈍(とろ)くて、うたぐり深くて、早くいえばすこし遅れてて、迷信で頭がいっぱい」。
    この田舎に住みついたヒッピーたちと村人がなんとなくウマがあったり、 お産の面倒をみてやったり、人嫌いの老女の怪死に物見高い人たちが押しかけ、それをアテこんだ露店が立ち並び賑わいをみせるなんて なんとまあのどかな(失礼)ことだろう。
    ヒッピーたちと一緒に声を合わせて歌う村人。 その曲こそアメリカ公民権運動のテーマソングともいえる"We Shall Overcome" (勝利を我らに)なのだが、せっかくの歌も彼らには英語の意味がわかりませんでな……

    12月26日(水)

    観た映画:
  • 野村芳太郎監督『拝啓天皇陛下様』(1963年)
    小林信彦の渥美清評伝「おもろい男」で興味を持った作品。
    山田正助は物心つかぬうちに両親に死別した。 腹いっぱい三度のオマンマにありつける上、俸給までもらえる軍隊は、正助にとって『天国』だった。 意地悪な上官のイビリも問題ではない。 昭和7年大演習の折、正助は天皇陛下の「実物」を見た。 この日から正助は天皇陛下が大好きになる。 戦争が終わるという噂が巷に流れ出すと、正助は『天国』から送り出されまいと、自分一人くらいは軍隊に残して下さいと手紙を書き始めた。 「ハイケイ天ノウヘイカサマ…」 (DVDパッケージより)
    正助に読み書きを教える朴訥とした代用教員あがりの初年兵を本来ボケ役の藤山寛美が演じて、出番は少ないがすごくいい。

    12月25日(火)

    連休の間に換気扇と台所まわりの掃除、襖2枚の張替え、年賀状も作り終えた。 新調してもらったコーヒーメーカーも快調でごきげんである。 2割引セール開催中のIdearecordsよりグリーンのフリースジャケット到着。 今期のデザインはリバーシブルで前が全開になるもの、もちろん背中には例のUffington White Horseが駆けている。

    読んだ短編:
  • アンソニー(アントニー)・バウチャー「九本指のジャック (Nine-Finger Jack)」
    2ページ目で顎の落ちるような脱力感、こういうお話は大好きだ。 鰓をもつ花嫁に8人の前妻殺しの弱味を握られた男、SF版「浴槽の花嫁」! ほら、あなたの横にも金星人が〜。

  • フリッツ・ライバー「過去を変えようとした男 (Try and Change the Past)」
  • ロバート・F・ヤング「九月は三十日あった (Thirty Days Had September)」
  • ロバート・F・ヤング「魔法の窓 (Magic Window)」
  • ロバート・F・ヤング「ピネロピへの贈りもの (A Pattern for Penelope)」……猫好きにはたまらない。
  • ロバート・F・ヤング「雪つぶて (The Other Kids)」
  • ロバート・F・ヤング「空飛ぶフライパン (Flying Pan)」

    12月24日(月)

    クリスマス・イヴなのにお子は補講(講師休講の穴埋めとはいえ何もこんな日にしなくても)のあとピアノのレッスンで21時帰宅、だいぶ遅くなったがローストチキンとケーキを食べる。 今年は近くに移転してきたパウンドハウスのオーソドックスなイチゴのショートケーキで、生クリームが絶品。
      到着便:ディックのベスト4冊は送料節約のためセット出品を、神保町で微妙な値段のため見送った『失われた部屋』とともに密林マーケットプレイスで購入。 「サンリオ」で検索すると楽なので、いきおいサンリオSF文庫ばかりになってしまうんだな。
      『死の迷宮』は先に山形浩生訳で読んでしまったんだけど……。
    • フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『失われた部屋』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックI』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックII』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックIII』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックIV』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『時は乱れて』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『アルベマス』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『ヴァリス』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『聖なる侵入』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『死の迷宮』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『虚空の眼』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『最後から二番目の真実』(サンリオSF文庫)
    • P・K・ディック『暗闇のスキャナー』(サンリオSF文庫)

    12月23日(日)

    観た映画:
  • クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙 (Letters from Iwo Jima)』(2006年米)
    二宮和也が飢えと乾きと上官の苛めに耐えしたたかに生還への望みをつなぐ兵隊を好演していた。
    硫黄島にロサンゼルス五輪の馬術金メダリスト「バロン西」こと西竹一中佐が!ふだんは忘れている雑学も意外なところで役に立つものだ。 映画の中で何度か登場する「千人針」は合力祈願のひとつで兵士の弾除けのお守りだが、彼らの母や妻が街頭でひとりずつ頭を下げ玉結びを作ってもらい兵士に渡した、または戦地へ送っていたもので、家族の必死の願いが託されていたということを若い子たちにも知っていてほしいところだが、あまり本も読まずドキュメンタリーにも興味を示さないうちのお子は(当然)知らず、教えても反応がいまひとつだった。うーむ。
      密林マーケットプレイスで注文した『グールド魚類画帖』原著がオンライン書店より到着。安い本であるにもかかわらず宅配便での発送だった。 (十分美しい)日本語版で実現がかなわなかったという印刷(多色刷り)は本当にきれいだ。
    • Richard Flanagan "Gould's Book of Fish - A NOVEL IN 12 FISH" (Grove Press)

    12月22日(土)

    読んだ短編:
  • ロバート・F・ヤング「ピーナツバター作戦 (Operation Peanut Butter)」
    ここ数年オーストラリアでは過去最悪の干ばつが続き、小麦などの農作物に深刻な被害が出ているそうだ。 大干ばつに見舞われた峡谷の村で、7歳のジェフリイが出会った<ミスター・ウィングズ><きらめきサリー>との交流を描いた作品。

    12月21日(金)

      今年最終の古書会館倉庫市、結城昌治は1冊60円:
    • 結城昌治『ゴメスの名はゴメス』(角川文庫)
    • 結城昌治『夜の終る時』(角川文庫)
    • 結城昌治『葬式紳士』(角川文庫)
    • 結城昌治『暗い落日』(角川文庫)
    • 結城昌治『魚たちと眠れ』(角川文庫)
    • リチャード・フラナガン『グールド魚類画帖  十二の魚をめぐる小説』(白水社)
    ロバート・F・ヤングの作品を3編:
  • 「ジョナサンと宇宙クジラ (Jonathan and the Space Whale)」
  • 「たんぽぽ娘 (The Dandelion Girl)」

    甘酸っぱい思いに浸ったあとはクリスマスにふさわしい短編を読む。
  • 「サンタ条項 (Santa Clause)」
    悪魔と取引してサンタ・クロースを独り占めした男。 望みどおりのものを手に入れた代わりに、サンタ・クロースが存在する付帯条件としてオトナの生活を失ってしまった。 「ジェーン・マンスフィールド型美女」つまり叶姉妹のような悩殺ボディに手も出せず、ジャックフロスト、寝室にうずくまる砂男、ギター抱えた守護天使たちに囲まれ、思い余って再び悪魔を呼び出し……

    12月20日(木)

    先週フィギュアと放送時間が重なり録画しておいた『風林火山』をようやく観る。 伝兵衛、よくやった!太吉、よくやった!

    読んだ短編はいずれもアルフレッド・ベスター:
  • 「花で飾られた寝室用便器 (The Flowered Thundermug)」
    花を生けているのかと思ったら花模様の、なんである。 いっぱい出てくる固有名詞(おもにハリウッドスター)の顔で読んでみると映像が目に浮かぶようで本当に楽しい。

  • 「そのままお待ちになりますか? (Will You Wait?)」
    相手が悪魔であれ天使であれ、契約にはそれなりの手続きが必要だ。

  • 「昔を今になすよしもがな (They Don't Make Life Like They Used To)」
    「地上最後の」生残者もの、エイリアンもの。アリスと三月ウサギとマッドハッター像の変化にはゾッとした。『年刊SF傑作選4』の「ジープを走らせる娘」と同じだけど……
    「利口な女は、質のいい洗濯石鹸をつかって、結婚生活を長続きさせる(ジープを走らせる娘)」と「利口な女は石鹸一個あれば結婚なんかしないでいられる(昔を今になすよしもがな)」
    利口な女は一体どうすればいいのだ。

    12月19日(水)

    きのういい小鯵を買ってきたので、今日は南蛮漬けだ。
    「サラリーマンNEO」の保存版を作りつつ夏秋放送分を観て、 昼からは再放送ドラマの定番「家政婦は見た!」と「山村美紗サスペンス 京都・茶道家元連続殺人 鞍馬の火祭りの夜、事件は始まった! 胡蝶蘭が死者に舞う… 」を観る。
    人気作家の豪邸で、その息子に誘惑され心が揺れる秋子(市原悦子)!どうなるかと思ったがやっぱり最後は猫のはるみちゃんと一緒に家政婦紹介所の2階に落ちついた。
      密林マーケットプレイス到着便:
    • スタニスワフ・レム『泰平ヨンの現場検証』(ハヤカワ文庫SF532)
    • ロバート・シルヴァーバーグ『内死』(サンリオSF文庫)
    • E・S・ガードナー『検事方向転換す』(HPB596)
    同じ人から購入、2,600円。 出品価格がとても安く、その上支払った送料と実際の送料との差額の一部を記念切手で返金してくれた。 入手困難なヨン様など数千円でも売れるだろうに。でも良心的な出品者のおかげで今回のように諦めかけていた本も読めるのだ。

    15時過ぎに終了のオークションを滑り込みで見つけ、P・K・ディック9冊を入手。 すでに別出版社から復刊された本がほとんどだし、サンリオは高いし、中には読みにくい作品もあるというので全部読もう・その前に集めようという野望は捨てたが、1冊200円くらいで見つけるとやっぱり嬉しいね。1,700円。明日給料日だし。

    12月18日(火)

    辛いものがまったくダメなお子がゼミのレポート提出打ち上げで外食。 それじゃあ、とこちらは鶏肉と茄子とピーマンと玉葱でココナッツミルクたっぷりのグリーンカレーを作る。か、からい。辛いのが食べたかったとはいえこれはすごい。 でもグリーンカレーはご飯に添えるよりスープとして単品でいただくほうがいいと思う。

    読んだ短編:
  • アルフレッド・ベスター「ピー・アイ・マン (The Pi Man)」
    ピーマン、ではない。円周率を表す16番目のギリシャ文字“π”とマザー・グースの一曲に引っ掛けたシャレがなかなか効いている。
    「ぼくはお人よしサイモンの出会ったただの男にすぎない」
    Simple Simon

    Simple Simon met a pieman,
    Going to the fair.
    Said Simple Simon to the pieman,
    "Let me taste your ware."

    Said the pieman unto Simon,
    "Show me first your penny."
    Said Simple Simon to the pieman,
    "Indeed I have not any."

    Simple Simon went a-fishing,
    For to catch a whale;
    But all the water he had got
    Was in his mother's pail.

    Simple Simon went to look,
    If plums grew on a thistle;
    He pricked his fingers very much,
    Which made poor Simon whistle.

    He went for water in a sieve,
    But soon it all fell through;
    And now poor Simple Simon
    Bids you all adieu.

    12月17日(月)

    フィギュアスケートGFのエキシビジョン。
    往年の名演技(カタリナ・ヴィットのムーンウォークや宙返りキャンデロロ!)を再見できたのはもうけもので、競技そのものより音楽や小道具に趣向を凝らしたエキシビジョンのほうが楽しみな邪道ファンの密かな愉しみなのだ。 選曲では高橋大輔の"Bachelorette"(ビョーク)がミステリアスな演技とよく合っていたが、 アップになると、アイドルをお手本にしたような「顔のカッコつけ」が子供が精神的にずいぶん背伸びしているようにしか見えず、なんだか興醒めしてしまう。 あ、素の高橋くんは好感度高し。

    12月16日(日)

    フィギュアスケートGFのフリー。

    読んだ長編:
  • パトリック・クェンティン「癲狂院殺人事件」(1936)
    A Puzzle for Fools
    別冊宝石93号所収。
    カラメルソースは焦がしやすいし、作ったあとの鍋は洗うのが面倒だ。でもあの香ばしさとほろ苦さがいいんだよねぇ。
    演劇プロデューサーのピーター・ダラス(ダルース)は上演中の劇場火災で女優の妻を亡くし、失意の末アルコール中毒になる。 入院先の精神病院で出たデザートが「カスタードの焼き糖蜜がけ」。 これはクレーム・ブリュレかカスタードプディングかっ?
    精神疾患やその患者たちが多数登場するので、昭和34年の翻訳のままではいろいろ不具合があるかもしれない。 改訳後単行本化するにしても、「癲狂院」はどうか? この邦題は変わるんだろうなぁ。

    12月15日(土)

    フィギュアスケートGFのSP。
      ヤフオクとオンライン古書店より到着便:
    • ジャック・ステルンベール『五月革命'86』(サンリオSF文庫)
    • F・W・クロフツ『二つの密室』(創元推理文庫)

    12月14日(金)

      職場そばの古書店と到着便:
    • ディクスン・カー『帽子蒐集狂事件』(新潮社文庫)
    • F・W・クロフツ『クロフツ短編集1』(創元推理文庫)
    • F・W・クロフツ『クロフツ短編集2』(創元推理文庫)
    • F・W・クロフツ『フローテ公園の殺人』(創元推理文庫)
    もうじきクリスマス。 寒くなるとシーベリイ・クインの「道」のようなきびしい宗教ファンタジーを読みたくなる。

    12月13日(木)

    観た映画:
  • イングマール・ベルイマン監督『叫びとささやき』(1972年スウェーデン)
    殉教聖女アグネスの名前をいただく女性が苦しみぬいた挙句の死と、ぶざまに捻じ曲がった両足の形。 姉カーリン(イングリッド・チューリン)と妹マリア(リヴ・ウルマン)が長年の溝を埋めようと会話をほとばしらせる場面のマリアの顔、特に(言葉を雄弁に裏切っている)薄い色の目を強調したアングル。 また姉妹の見せかけの和解のあと、彼女たちがいまだ天国の安息を得られずにいるアグネスの魂を受けとめるどころか「腐りかけているのよ!」と恐れ拒絶し本音を吐き出させる演出には情け容赦がない。

    浅倉久志編・訳『救命艇の叛乱』より。読んだ短編:
  • フリッツ・ライバー「マリアーナ」
  • ジェローム・ビクスビイ「きょうも上天気」
  • クライヴ・ジャクスン「剣は知っちゃいなかった」
  • C・M・コーンブルース「わが手のわざ」
    粒よりだ!

    12月12日(水)

    WOWOWで録画した『どろろ』を観る。 うん、お子さま向けでなかなかおもしろい。
      到着便はエリアーデの代表的な幻想小説(1964):
    • ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』(法政大学出版局)

    12月11日(火)

    読み始めた本:
  • アルフレッド・ベスター『ピー・アイ・マン』(創元推理文庫)
    1964年に出た短編集 "The Dark Side Of The Earth" の全訳で、「ピー・アイ・マン」は収録作品のひとつ。

    「時間は裏切りもの」……いい奴だなアルセステ(涙目)
    「マホメットを殺した男たち」……歴史改変の意外な結末は。
    「この世を離れて」……電話の混線により偶然知り合った男女が一緒に昼食でも、という話になるが。 3編を読んでみてどれも洗練された作風だと感じたがベスターは生粋のニューヨーカーとのことで、男女が待ち合わせをする場所もマンハッタンは五番街にあるロックフェラー・プラザ、万国旗の「左から三番目の旗竿」だ。

    12月10日(月)

    読み終えた長編:
  • F・W・クロフツ「フレンチ警部と賭博船」
    作者のかなり保守的な女性観が窺える。これだってフレンチでなく作者自身の心の投影でしょう?
    すばらしい娘だな、とフレンチは思った。 若いが、モダンすぎはしない。 むずかしい顔をして、大声で話し、ジンをちびちび飲む、というような若い女が、フレンチは大きらいだった。(p339)
      楽オクとオンライン古書店到着便:
    • ケイト・ウィルヘルム『クルーイストン実験』(サンリオSF文庫)
    • R・A・ラファティ『悪魔は死んだ』(サンリオSF文庫)
    • R・A・ラファティ『イースターワインに到着』(サンリオSF文庫)
    イースターワインが到着、なんちゃって。
    深夜1時をまわり(お子がレポート作成で0時過ぎまでPCを使っていた)たまたまつけたNHKで「プロフェッショナル 仕事の流儀」を再放送中。 「仕事は体で覚えるな〜文化財修復師・鈴木裕」 こ、これは2時まで起きてなきゃかな……

    12月8日(土)

    テレビ朝日系土曜ワイド劇場30周年特別企画(そうですか)「半落ち」を観る。 原作と映画版は家人が観ていたっけ。

    12月7日(金)

    深夜に放送された『叫びとささやき』がちゃんと録画できていたかチェック、安心した。

    読みかけの長編:
  • F・W・クロフツ「フレンチ警部と賭博船 (Fatal Venture)」(1939)
    イギリスでカジノが合法化されたのは1968年だそうだ。 船籍をフランスに変え、接岸中はカジノを封印することによって法の目を巧みに潜りぬけた「近海巡航株式会社」の賭博船に乗り組んだ青年スタッフの目を通しての前半、フレンチ警部の目を通しての後半との二部構成だが、まだ事件は起きていない。クロフツの小説は導入部が長いんだよ。

    12月6日(木)

      ヤフオク到着便。ナボコフは単品、それ以外はセット出品(幸い手持ちとのダブリはなかった)で800円、お目当てはベスターの長編。 映画化もされた「ロリータ」「マーシェンカ」などのナボコフ作品は楽しめたが、短編集『ナボコフの1ダース』は微妙だったっけ。
    • ウラジミール・ナボコフ『ベンドシニスター (Bend Sinister)』(サンリオ文庫)
    • アーシュラ・K・ル=グイン『辺境の惑星』(サンリオSF文庫)
    • アーシュラ・K・ル=グイン『幻影の都市』(サンリオSF文庫)
    • ロバート・アダムス『ホースクラン登場』(サンリオSF文庫)
    • アルフレッド・ベスター『コンピュータ・コネクション』(サンリオSF文庫)
    「ベンドシニスター」という用語は、紋章の楯の左上から斜めに引かれた筋、あるいは帯をさす。 これを表題に選んだのは、屈折によって乱された輪郭、存在という鏡に映るゆがみ、人生上の誤った進路、左巻きの邪悪な世界というものを暗示するためである(序文より)。

    12月5日(水)

    仕事は休み。映画2本とそれぞれの特典を観て一日が過ぎた。
  • カルロス・サウラ監督『カラスの飼育 (Cría Cuervos)』(1975年スペイン)
    DVD (THE CRITERION COLLECTION 403)
    『ミツバチのささやき』から少し成長したアナ・トレントのつぶらな瞳は健在だ。 繰り返し流れる曲 "Porque te vas" (Because you are leaving) "を歌っているのはJeanette。 恋人との別れに泣く少女の歌が、母親を慕う子供の心情とオーバーラップしてもの哀しい。 原題はスペインの諺より、逐語訳ではわかりにくいが「恩を仇で返す」とか「飼い犬に手を噛まれる」という意味だそうだ。
    Cría cuervos y te arrancarán los ojos.
    (If you raise crows, they will peck out your eyes.)
    両親をあいついで亡くした幼い三姉妹。優しく繊細な母親を賛美し彼女の幻影をしばしば見る真ん中の娘アナは、厳格な未婚の叔母にことごとく反発する。 叔母も反抗的なアナへの愛情を次第にすり減らしていく。とうとうアナは「ひとさじで象も殺せる毒」を父の時と同じように叔母のミルクに溶かし……
    アナが母親の幻影と戯れる場面はなかなかエロティックだ。

  • ボー・ヴィーデルベリ監督『刑事マルティン・ベック (Mannen På Taket)』(1976年スウェーデン)
    DVD (KKDS 398)
    原題は「屋根の上の男」
    マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー「唾棄すべき男」の忠実な映画化で、マイ・シューヴァルによればマルティン・ベックのモデルは「若き日のヘンリー・フォンダ」だそうだが、映画ではでっぷり太ったコメディアンのカール=グスタフ・リンドステッドが演じている。 地道な聞き込み捜査や「デカ長」の呼び名が似合うからいいか。 DVDパッケージにはヘリからロープで吊り下げられたスナイパーが写っているが、彼(スタントマン)はリアリティを追求する監督の命令で本物の(豚の)血を口に含み撮影に臨んでいたそうだ、嗚呼。
    主役が途中退場!と驚いたが、刑事とて超人ではない。動けなければ同僚が後を引き継ぐのは現実では当然のこと。
    引き継いだラーソン(負傷した頭を紙ナプキンで応急処置したまま走り回る)のとどめのひとこと。「問題だな」、……。

    12月4日(火)

      職場そばの古書店にて:
    • ミシェル・グリゾリア『殺人海岸』(ハヤカワ・ミステリ文庫 HM79-2)
    • J・P・マンシェット『危険なささやき』(ハヤカワ・ミステリ文庫 HM92-1)
    このところフランス・ミステリづいているが、3冊200円コーナーで寒さに震えていたのをサルベージ。
    『殺人海岸』は『ジャン=ポール・ベルモンドの警部』原作者と同じグリゾリアの作品。
    『危険なささやき』原題"Que D'os! "「お、なんたる骨」はアラン・ドロン製作・監督・主演で映画化されているらしい。 あとがきによるとシトロエン2CVは「≪どですかでん≫の中で乞食の親子が暮している車」で「フランスでもっとも安く、つくりも大へんちゃらで、スピードも出ないもの」、本国では決してオシャレではなく大衆車だったわけだ。 こぐれひでこが2CVというブランドを展開していた頃、車のこととも知らず雑誌を見ながら「にしーぶい」と読んでいた私だった。

    数あわせにとり・みきの初期作品集『ときめきブレーン』も選ぶ。 「アビ・ノーマル」(元ネタはヤング・フランケンシュタインだね)な脳をつつきまわして「ブレーンストーミング」。 ところで水着姿とか下着姿とか入浴シーンとか、なんだかあざといなぁ。

    12月3日(月)

    対象の商品3点で25パーセントオフという「キングオブマルチバイ」セール開催中のHMVでまとめて注文したCDが到着。 1点だけ入荷が遅れ後日配送とのことだった。 同じリマスターでも日本語ライナー・対訳(はつくかどうか知らない)つき国内盤は2,600円のところ、輸入盤なら1,726円。 もちろん買ったのは輸入盤である。

    12月2日(日)

    ブックオフへCDを10枚ほど持ち込む。 古い盤ばかりだが新譜1枚分くらいにはなった。

    読み終えた長編:
  • J・P・マンシェット「狼が来た、城へ逃げろ」
    ジャプリゾの「ウサギは野を駆ける」のようにこれもそのままシナリオだ! 発表当時マンシェット30歳、1973年フランス推理小説大賞受賞作とのこと。 ジーナ・ローランズ主演の『グロリア』のような物語だが、「狼が来た、城へ逃げろ」のグロリア、もといジュリーは精神病サナトリウムから生意気な6歳児の子守に雇われ連れてこられたばかり。治ったのかそうでないのか、かなり頼りない。散歩に出ればわけもわからず殺されかけ、ぐずる6歳児を抱き上げ引きずり半泣きでの逃避行。めざすは一度写真で見たきりの「お城」。
    山のふもとに、ほとんど無政府的ともいえるごちゃまぜに、低い家の屋根がひしめいていた。重なりあっていた。それはいろいろな国から廃屋を集めてきて、現在の建築技術を用いて狭い場所に押しこめ、つなぎ合わせたようなものだった。しかもそれは長い年月をかけて不統一にばらまかれている。
    「城」にはちゃんと塔もある。中はアリスの迷い込んだ家みたいなんだよね。 食べて吐き飲んで吐き飛行機に酔って吐く胃潰瘍病み、ヒロインの敵である殺し屋トンプソン役のトーマス・ミリアンをやはりなんとしても観たくなった。
      市のリサイクルセンターで:
    • 荒巻義雄『宇宙25時』(徳間文庫)

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