サンスクリットのブラフマーの音訳。ウパニシャッド思想の最高原理ブラフマンを神格化したもので,ブラフマーはその男性主格形である。ブラフマーは造物主とされ,仏教の興起した頃には,世界の主宰神,創造神と認められるようになった。宇宙はブラフマンの卵=梵卵と呼ばれ,ブラフマーはその宇宙卵を二つに割って,天と地を創ったとされる。シバとビシュヌの両神の信仰が高まるにつれ,ブラフマーの地位は下がり,両神のうちのいずれかの影響力のもとに宇宙を創造するにすぎないとみなされるようになった。ブラフマーは,ビシュヌのへそから生じた蓮から出現したとされる。彼は人類の〈祖父=ピターマハ〉とか,〈自ら生じた者〉(スバヤンブー)と呼ばれる。創造神であるから,自ら活動し人々を救済することはなく,シバやビシュヌのように,民衆の熱狂的な信仰の対象とはならなかった。そのインドにおける図像は,赤色で四面四臂を有し,羂索,祭匙,数珠,水瓶,ベーダなどを手に持ち,蓮花の座(世界蓮)または鵞鳥の上に座っている。鵞鳥は彼の乗物(バーハナ)とされている。 |
すでにインド最古の聖典「リグ・ベーダ」で,全宇宙を三歩で闊歩したとたたえられている。彼のおおいなる三歩の中にいっさい万物は安住し,彼の最高歩(最高天)には蜜の泉があるとされた。これは,太陽が東の地平から出て,中天に達し,再び西の地平に没することを歌ったと考えられる。このベーダの太陽神は,ヒンドゥー教において,ブラフマー(梵天),シバとならぶ三大神の一つとなり,ブラフマーが宇宙を創造し,ビシュヌが維持し,シバが破壊するとされた。シバが山岳と関係あるのに対し,ビシュヌは海洋と縁が深い。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々は大海をかくはんして不死の飲料アムリタ(甘露)を得ようとした。ビシュヌはその際に海中から生じたシュリー・ラクシュミー(吉祥天女)を妻とし,宝珠カウストゥバを首に懸けた。彼はアムリタを盗もうとしたラーフ(日食,月食を引き起こす悪魔)の首を,その武器であるチャクラ(円盤)で切った。彼はまた,神々のもとからアムリタを運び去ろうとした巨鳥ガルダ(梼楼羅,金翅鳥)と友情を結び,乗物とした。彼は大蛇シェーシャを寝台として海上で眠る。ブラフマーはそのへそに生えた蓮花から現れたといわれる。ビシュヌは種々に化身して,悪魔に苦しめられる生類を救うとされる。化身の種類と数についてはさまざまな説があるが,なかでも1)猪,2)人獅子,3)亀,4)侏儒,5)魚,6)ラーマ,7)パラシュラーマ,8)クリシュナ,9)仏陀,10)カルキの十化身が有名である。 |
ビシュヌやブラフマーと並ぶヒンドゥー教の主神。「リグ・ベーダ」のルドラと同一視され,ハラ,シャンカラ ,マハーデーバ,マヘーシュバラ(大自在天)などの別名を有する。彼はまた世界を救うために,太古の乳海攪拌の際に世界を帰滅させようとする猛毒を飲み,青黒い頸をしているので,ニーラカンタ=青頸(しようきよう)と呼ばれる。天上から降下したガンジス川を頭頂で支え,その頭に新月を戴き,三叉の戟を手にし,牡牛ナンディンを乗物とする。常にヒマラヤ山中で苦行していたが,苦行の妨害を企てた愛の神カーマを,額にある第三の眼から発射した火索で焼き殺したとされる。またブラフマーが世界創造神,ビシュヌが世界を維持する神であるのに対し,シバは世界破壊神である。世界を破壊するときに恐ろしい黒い姿で現れるので,マハーカーラ(大黒)と呼ばれる。舞踊の創始者とされ,ナタラージャ(踊り手の王)と呼ばれている。その他の場合も破壊神としてのイメージが強く,金・銀・鉄でできた悪魔の三つの都市トリプラを一矢で貫いて焼き尽くしたので,三都破壊者と呼ばれる。彼はまた,妻サティーの死を悲しんで,彼女の父ダクシャの祭式を破壊する。ヒマラヤの娘パールバティー(ウマー,ドゥルガー,ガウリーなどとも呼ばれる)はサティーの生れ変りとされ,苦行の末に彼の妻となった。その間に生まれた息子が軍神スカンダ(韋駄天)である。象面のガネーシャ(聖天)もニ人の息子とされる。 |
我々が日頃何気なく使っている日常用語の中にはインド起源のものが少なくありません。丁寧に調べてゆけば膨大な数にのぼるでしょう。中国経由でワンクッション置かれたので、それと気がつかないわけです。今回はその中の一部を取り出してみました。
|
あばた:サンスクリット語の<アルダブ>に由来。腫瘍を意味する言葉。 閼伽(あか):サンスクリット語の<アルガ>に由来。尊敬に価する人に水を捧げる儀礼。 鳥居:サンスクリット語<トーラナ>に由来。アーチ型の門を意味する。 馬鹿:サンスクリット語の<モーハ>に由来。知恵がなく、心が迷い、正しい判断が出来ない状態。 荼毘(だび):パーリ語の<ジャーペーティ>に由来。燃やす,点火する、火葬するを意味する。 旦那:サンスクリット語の <ダーナ・パティ>に由来する。施主の意味で仏教の後援する者からきました。 鉢(はち):サンスクリット語の <パートラ>に由来。容器や器を意味します。 瓦(かわら):サンスクリット語の <カパーラ>に由来。古代日本では瓦は使われておりませんでした。 栴檀(せんだん):サンスクリット語 <チャンダナ>に由来。 伽藍:サンスクリット語 <サンガーラーマ>に由来。仏教徒の共同体を意味する。 沙門:サンスクリット語の <シュラマナ>に由来。努力するの意。 袈裟(けさ):サンスクリット語の <カーシャーヤ >に由来。くすんだ地味な色を意味する。 供養:サンスクリット語の <プージャー>に由来。食物や衣服などを仏法僧や死者の霊に供える。 三昧:サンスクリット語の<サマーディ>に由来。心を一つの対象に集中させ乱さない。 娑婆(しゃば):サンスクリット語の<サハー>に由来。耐え忍ばなければならない世界。 舎利:サンスクリット語の <シャーリーラ>に由来。身体や骨を意味する。 修羅場:サンスクリット語の<アスラ>に由来。血なまぐさい戦闘の場。 刹那:サンスクリット語<クシャナ>に由来。時間の最小単位。 奈落:サンスクリット語の<ナラカ>に由来。地獄を意味する。 彼岸:サンスクリット語の <パーラミター>に由来。河の向こうを意味する。 涅槃:サンスクリット語の<ニルヴァーナ>に由来。煩悩の火をフッと吹き消した状態。 不思議:サンスクリット語の<アチャンティヤ>に由来。人間の言説や思慮の及ばないこと。 方便:サンスクリット語の <ウパーヤ>に由来。目的に到達するための道筋で方法、手段を意味する。 菩薩:サンスクリット語の <ボーディサットヴァ>に由来。悟りを求める人、求道者を意味する。 菩提:サンスクリット語の<ボーディ>に由来。覚、智、道、悟りを得ることを指します。 魔羅:サンスクリット語の<マーラ>にゆらい。殺者、奪命を意味する。 無常:サンスクリット語の <アニトヤ>に由来。あらゆる物は生滅変化し、同じ状態にとどまっていない。 煩悩:サンスクリット語の <クレーシャ>に由来。心を汚すもの、損なうもの、苦しめるものを意味する。 羅漢:サンスクリット語の<アラハント>に由来。尊敬に値する人、供養を受けるに相応しい人。 輪廻:サンスクリット語の<サンサーラ>に由来。流れることという意味。 六波羅蜜:サンスクリット語の <パーラミター>を音写したもの。彼岸に到るの意味。 般若:サンスクリット語の <プラジュナー>に由来。悟りに到るための知恵を意味する。 分別:サンスクリット語で <ヴィカルパ>の由来。対象を分析する知やその作用を意味する。 |
インド最古の文献である「リグ・ベーダ」賛歌における最大の神。全賛歌の約4分の1が彼に捧げられている。元来,雷霆神の性格が顕著で,ギリシアのゼウスや北欧神話のトールに比較しうるが,リグ・ベーダにおいては,暴風神マルト神群を従えてアーリヤ人の敵を征服する,理想的なアーリヤ戦士として描かれている。中でも,工巧神トバシュトリの作った武器バジュラ(金剛杵)を投じて,水をせき止める悪竜ブリトラを殺す彼の武勲は繰り返したたえられている。彼はブリトラハン(ブリトラを殺す者)と呼ばれているが,ブリトラハンはイランの勝利の神ウルスラグナに対応する。しかしインドラの地位は後代になるにつれて下落する。彼は名目上は依然として神々の王とみなされるが,相対的に弱い神となり,世界守護神(ローカパーラ)の一つとして東方を守護するとみなされるようになった。仏教にも取り入れられ,仏法の守護神とされ,帝釈天と漢訳された。 |
サンスクリット名を写したもので多聞天とも訳す。古代インド神話中のクベラ=抑尾羅が仏教にとり入れられた。拘毘羅=毘沙門と称されることもある。四天王の一尊として北方をつかさどり,また財宝富貴をも守るといわれる。密教においては十二天の一尊であり,やはり北方に位置される。形像は,甲冑を着る武神像で,左手の掌上に宝塔をのせ,右手に宝棒を持ちニ邪鬼の上に乗る姿が一般的である。四天王の一尊として造られた像は立像であり,単独に造像された場合に両脇侍として吉祥天と善膩師(ぜんにし)童子が加えられることが多い。なお,異形の像としては西域の兜跋(とばつ)国に化現した像を写したと伝える兜跋毘沙門天があり,空海請来の伝承がある教王護国寺(東寺)像(唐時代,国宝)が日本におけるこの系統の手本となった。また日本では持国天とともに二天王の一つとして造像されることも多い。 |
古代インド神話の神格の一つ。かつてインダス川の東方を流れていたサラスバティー川が女神として神格化されたもので,インド最古の文献である「リグ・ベーダ」においてすでに,河川神の中で最も有力な地位を占めている。リグ・ベーダでは,穢れをはらい,さまざまの富をもたらす神として崇拝されるが,これは大地に肥沃をもたらす河川の力と水の浄化能力とが重視されたものであろう。のちにブラーフマナ神話にいたると,同じく重要な神格である言葉の女神バーチュと同一視され,学問・芸術をつかさどる女神となった。仏教にも天部の一つとして取り入れられ,弁才天として崇拝されている。 |
吉祥天とも功徳天ともいわれる。インド古代神話ではラクシュミー(シュリー)といわれ,美,幸運,富の女神である。ラクシュミーはビシュヌ神の妃で愛の神カーマの母とされる。この世にさまざまな姿をとって現れるビシュヌの神話が形成される過程で,多くの要素を統合しながらその妻として確立されたと思われる。したがって起源についても多くの説があるほか,蓮華,象など多様な事物とも関連づけられている。これが仏教にもとり入れられ,福徳を司る女神吉祥天として《金光明経》などに説かれ,少なからず信仰をあつめた。密教では毘沙門天の左脇侍として作られる。その形像は,二臂(にひ)像で冠,瓔珞(ようらく),臂釧(ひせん)を身につけることは諸経が一致するが,両手の持ち物や印相については諸説がある。現存作品は彫像が多く,左手の掌に如意宝珠をのせ右手を施無畏印にする立像が一般的である。 |
”金毘羅様”といえば四国の琴平宮は有名ですが、この金毘羅様、実はインドのガンジス河のワニを神格化したもの(クンビーラ)がその起源なのです。いつの間にか、日本に来て神様に祭られています。同様、おそれ入谷の”鬼子母神”や”水天宮”、お稲荷様の"茶枳尼天"など、みなインド起源の神様です。インドは遠くて近い国、昔の人たちは現代の私たち以上にインド=天竺を身近に感じていたのかもしれません。 |
ガネーシャは〈(神々の)群(ガナ)の主〉という意味で,ガナパティとも呼ばれる。シバ神とパールバティーの息子とされる。彼は身体は人間であるが象面で,一牙を持つから,エーカダンタ(一牙を持つ者)と呼ばれる。また,あらゆる障害を取り除く力をそなえているとされ,ビグネーシュバラ(障害を除く主)とも呼ばれる。ネズミを乗物とする。彼は土俗神で,後代にシバ神話と関連づけられた新しい神であるが,古代の動物崇拝のなごりと考えられる。彼に関する顕著な神話は大叙事詩《マハーバーラタ》や《ラーマーヤナ》にはみられず,また,今までのところ,5世紀以前につくられたガネーシャ像は発見されておらず,その信仰は6世紀前後に生じたとみなされる。しかし,後代,ガネーシャ信仰は急速に広まり,ヒンドゥー教のガーナパティヤ派の主神とされた。仏教,特に密教でも取り入れられ,大聖歓喜自在天(聖天,歓喜天)となって,象頭の男女が抱きあつた双身像は、夫婦和合や子宝の神として一般に人気があるが、その形態から秘仏とされることが多い。 |
ヒンドゥー教の軍神,神々の将軍。カールッティケーヤ,クマーラなどとも呼ばれ,韋駄天,私建陀などと漢訳される。六面を持ち孔雀を乗物とする。一般にシバ神とその妃パールバティーの息子とされるが,《マハーバーラタ》においては,直接にはアグニ(火天)とスワーハー(醍婆訶(そわか))の息子とされ,病魔を生み出す疫病神である。元来は非アーリヤ的な土俗神であったと推測される。古いタミル地方の主神ムルガンと関連づける説も有力である。 |
鳥類の王とみなされる伝説上の巨鳥。梼楼羅(かるら)と音写される。「リグ・ベーダ」に見えるスパルナ(〈美しい翼を持つもの〉の意)の神話がガルダ伝説の淵源と考えられ,金翅鳥(こんじちよう),妙翅鳥と訳される。ガルダは蛇族の奴隷にされた母のビナターを救うために,不死の飲料であるアムリタ(甘露)を神々から奪い,蛇族のもとに運ぶ。しかしインドラ神と密約を結び,それを蛇から取りもどし,かつそれ以後,蛇(竜)を常食とするようになったという。ガルダに食い尽くされそうになった蛇族を,自らの身体を犠牲にして救ったのがジームータバーハナ王子である。また,ガルダはビシュヌ神と主従関係を結び,ビシュヌの乗物となる。仏教にもとりいれられ,八部衆の一つとされる。 |
インド神話における鬼神の一種で,闘争をこととする。サンスクリットのアスラの写音。アーリヤ人のインド・イラン共通の時代にはアスラとデーバはともに神を意味したが,彼らが分かれて定住してからは,インドではアスラが悪神を,デーバが善神を意味するようになり,イランではアスラはゾロアスター教の主神アフラ・マズダとなった。インドでは「a」 を否定辞とみなし,〈非天〉〈非酒〉などの語源解釈をおこなった。神 deva と阿修羅の闘争はインド文学のよきテーマとなった。仏教では阿修羅が日月をさえぎって食をおこすとされ,六道説では三善道(天,人,阿修羅)に入れられるが,五趣説では餓鬼・畜生に入れられることが多く,住所は海底や地下とされる。 |
「リグ・ベーダ」においてヤマはビバスバットの子と呼ばれ,ゾロアスター教の聖典アベスターにおけるビーバフバントの子イマに相当する。リグ・ベーダにおけるヤマは死の道を最初に発見した者で,祖霊の世界の王であり,その世界は楽園であるとされる。またその楽園に通じる死者の道には2匹の犬がいて番をするといわれる。《リグ・ベーダ》においては,死者の罪の判定がヤマの職能の一つとされたといいがたいが,時を経るにつれその傾向を示すようになる。ヤマにはヤミーという双生児の妹があり,リグ・ベーダには両者の近親相姦を暗に示す賛歌が載せられている。ヤマの兄弟には人間の祖とされるマヌがある。後世ビバスバットは太陽神と同一視され,ヒンドゥー教の聖典の一つであるプラーナにはヤマなどの誕生をめぐる興味深い神話が語られている。ヤマは仏教とともに中国に伝えられ,夜摩,閻魔などと音写された。 |