断腸亭日常日記 2014年 その3

−−バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で−−

por 斎藤祐司


過去の、断腸亭日常日記。  −−バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で−−

太い斜字で書いてある所は99年、2000年、2001年、2002年、2003年、2004年、2005年、2006年、2007年、2008年、2009年、2010年、2011年、2013年のスペイン滞在日記です。
太字で書いたモノは2010年11月京都旅行。2011年3月奈良旅行東日本大震災、11月が京都旅行、2012年4月、11月、12月の京都旅行、2013年4月京都旅行5月出雲遷宮旅行10月伊勢神宮の遷宮旅行11月京都旅行滞在日記です。

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 3月12日(水) 晴 14326

♪うららかな春の陽射しは
待ちわびた顔に照りつける
前のことは洗い流せと
思い出に塗り替える♪ ーー『里帰り』泉谷しげる よりーー

 一気に春である。道を歩いていたら、上の歌が浮かんだ。泉谷の初期の頃の歌はかなり聴いた。だから高校の頃は、自分の気分に合わせて良く口ずさんだ。だからだろう、こんな陽気で、自然に浮かんだのだろう。


 3月14日(金) 曇 19885/2

 昨日の雨と風は変だった。雨の後の生暖かい風で、非常に多い湿気を含んでいた。

 「新型万能細胞「STAP細胞」の論文に不自然な点が指摘されている問題で、理化学研究所は3月14日、中間報告を発表し、画像への指摘2点については「データの取扱いに不適切な点はあったが、研究不正には当たらない」などとした一方で、4点について継続調査が必要とした。

 Nature論文1本目 で図「Figure 1f」のd2とd3の色付き細胞が不自然に見えるという指摘については「図を作製する過程には改ざんの範疇にある不正行為はなかった」とした。

 また2本目「Figure 1b」の胎盤の蛍光画像と「Fig. 2g」の胎盤の蛍光画像が極めて類似している点については、「本文及び図の説明の中に言及されておらず、規程に定める『改ざん』の範疇にあるが、「論文作成過程で図を削除し忘れたという説明に矛盾などは認められず、悪意があったと認定することはできないことから、研究不正であるとは認められない」とした。

 一方で、論文中の画像が小保方晴子研究ユニットリーダーの博士論文に掲載された画像と酷似することが判明したことなど4点については「調査継続中」とした。」 ーーITmediaニュースよりーー

「理化学研究所は3月14日、STAP細胞問題についてNature論文の責任著者のうち小保方晴子氏、笹井芳樹氏、丹羽仁史氏の3人の連名によるコメントを発表した。

 理研は調査中間報告で、論文中の画像への指摘2点については「データの取扱いに不適切な点はあったが、研究不正には当たらない」などとした一方で、4点について継続調査が必要とした。また理研は論文の取り下げを勧告したことも明らかにした。

 小保方晴子氏、笹井芳樹氏、丹羽仁史氏の連名によるコメントは以下の通り。

 STAP現象に関する私共の論文の不備について多方面から様々なご指摘を頂いていることを真摯に受け止め、そのことが混乱をもたらしていることについて心よりお詫び申し上げます。本件に関して、理化学研究所で行われている調査に、今後とも迅速に応じて参る所存です。また、論文内に確認した複数の不適切または不正確な点に関しては、速やかに Nature へ報告して参りましたが論文にこうした不備が見つかったことはその信頼性を損ねるものと著者として重く受け止め、今回の論文を取り下げる可能性についても所外の共著者と連絡をとり検討しております。

 今回は、経過中の調査の中間報告がなされる場であることから、書面でのコメントになりますが、適切な時期に改めて説明する機会を設け、誠意をもって対応してまいります。」 ーーITmediaニュースよりーー

 「STAP」細胞について、発表から世界中で研究者が作成にトライしているが未だに作成できていないという。今日の会見で、地下学研究所の野依良治(ノーベル化学賞受賞)理事から発表された。非常に異例の事だろうと思う。少し前に、理研は、STAP細胞は作成できると、発表してHPでも、作成方法を詳しく公開するとしていた。この問題は、どうなるか?


 3月17日(月) 晴 44803/3

 土曜日なんかちっとも頭が動かなくて、日曜日にようやく動き出した。どうやってんだ。と思った。あれは、パッと動かないときは、無理矢理やっても、駄目だ。だから、作業を止めた方が良いと言うことを感じた。それでも、入って来るときもたまにあるが、なかなかそうならないことの方が多いと思う。

 体調はようやく治ったようだ。鼻水は多少出るが、咳などは治まりつつある。


 3月18日(火) 晴 10279

 昨日の朝は、話を訊いていてイライラしてきた。どうしようもない人間っているんだなと、改めて思った。非道いもんだ。夕方、医者に行って薬を貰ってきた。風呂に入りサッパリした。スパに行きたかったが、また、近いうちに行くことにしようと思った。


 3月19日(水) 晴 10479

 マドリード、ラス・ベンタス闘牛場のサン・イシドロのカルテルが発表された。タラバンテは、3回。カステージャは、2回。フリも、2回。ポンセも出る。が、やはり、ホセ・トマスは出場しない。予想通りだ。今年は多分、スペインには行かないだろう。代わりに、三陸鉄道や京都へ行こうと思っている。セビージャには、タラバンテが出なかったが、アポデラードがマドリードなので、3回出る。それでも、今年行くだけの強い理由にならない。

 梅雨の時期の京都へ行って、苔寺が観たい。紅葉の時期に行ったときに、苔の勢いが無かったので、是非梅雨時の苔が元気な時期に観たいと思ったのだ。それと、『あまちゃん』で有名になった北鉄こと、三陸鉄道は、復興のシンボルとして4月に全線開通する。それを観に行きたい。そして、ウニ丼が食べたい。


 3月20日(木) 雨 7704

 雨の中、下山さんと会った。イタリアレストランで、昼食を取った。下山さんのセビージャの語学学校時代の友人Kさんと話をした。水神神社、芭蕉庵などを観た。歩きながら、色んな話をした。芭蕉庵では、事務所の爺さんと長話。楽しい一時だった。スペインの話、日本の話。沢山した。水神神社のおそらく御神木の銀杏の木2本が何とも味があった。ああいう木は始めて観た。爺さんとの話もとても面白かった。こういう空間が、東京にあるというのが素晴らしいと思った。

 Kさんと別れ、椿山荘の庭園を観た。なかなか良いが、中にある料亭とかは、馬鹿高い。京都の料亭くらい取るだろう。それから、夕食を取り、スカイツリーで、買い物に付き合って帰ってきた。


 3月23日(日) 晴 46423/3

 連日、下山さんと会って、食事して話をした。今日も会う予定で、約束時間まで競馬をやって待っていようとウインズで、友人と一緒にいた。電話がかかってきて、庭園の近くの喫茶店で本を読んで待っているということだった。メインレース直前にまた、電話がかかっていて体調が悪いので、帰るという事だった。予定より早く電話してきたこと自体が、そもそも体調が悪かったのだろう。

 競馬をやっていても、眠くて頭が痛くなって来た。保つのかと自分の体調が不安だった。終わって直帰して、夕飯を食べて、録画した『ごちそうさん』を観ていたが、流石にもう駄目で、横になった。それから、大河ドラマ『官兵衛』を観た。これだけ体調が悪い状態で、成果が出たのだから、おそらく、アルゴリズムは成熟した状態になった様だ。後は、邪念や、欲を出さなければ大丈夫そうだ。

 下山さんとは明日会えないので、今回の一昨日が最後の食事会になるのだろう。


 3月24日(月) 晴 10906

 何だろう?昼寝をしていたら変な夢を見た。中学時代に隣に座っていた女の子が、突然何かで知り合って、飯を食べていて、昔話を始めて、喫茶店に行こうと誘ったら、道中腕を組んできた。話をしながら腕を組んだからか、反対に組んで来るので、歩きにくくなって、気付いた彼女が変えて・・・。家に行きたいと言うと、「いつでもどうぞ」という。夢なのだからこうなるのだ。

 確か喫茶店に行く前に夢から覚めた。続きは観れなかった。あの子、中学卒業と同時に福島の高校へ行った。何で、今頃こんな夢を見るのだろう?何を食べていたかも判らない。人前ではいつも明るく、自分が可愛い娘だということを判っている子だった。不思議な夢。もう大分年を取っているだろうが、夢の中では30代か40代だった。もうすぐ桜が咲くだろう。そんな春は曙の夢の話だ。


 3月25日(火) 晴 11087

 春は曙の夢の話を何故観たのだろうと、考えていたら思い出した。下山さんと昼食を取っている時、若い夫婦がベビーカーに子供を乗せて入って来た。その母親の方が隣の席の女の子の雰囲気に似ていたので、顔を観たが一目で違うことが判った。年も違うのに何故か観たかったのだ。そんなことがあったので夢を見たのだろうと思う。淡い夢である。

 それと同時に非常に嫌なことを思う出す。それを打ち消すように、バランスを取るように淡い夢。人はこうやって心のバランスを取ろうとしているのだろう。バランスを崩すと、心の平安を失い、とんでもない考えが頭を支配する。そうならないように嫌なことを、強く意識しないようにする為に、淡い夢を見たのだろうと思う。

 昨日の夜、下山さんへ電話して、夢の話をした。そして、何でそんな夢を見たかも話をした。そして、嫌な話もした。そしたら、自分の気持ちが下がるような所に行かないで、気持ちよくなるところや、興奮するところに行った方が良いと言われた。その通りだと思った。


 3月27日(木) 雨 18877/2

 忙しい日々を送っている。弟からメールが来て、三陸鉄道の鉄橋の写真があり、母が病院から介護施設へ変わったと書いてあった。近づいているのは間違いない。色々思うところがある。

 ○○の会のようなマイナスのエネルギーを発する処には、近づかない方が良いと、下山さんからアドバイスを貰った。良いことがないかと、日々探している。本当は、こういう日常の中に、大事な事が一杯あるというのも事実なのだ。


 3月28日(金) 晴 14874

 一昨日から喉が痛く、切れているような感じで痛かった。それが夜になってトム・ウェイツのような濁声になり、飴を舐めても改善されない。タバコはいつより少なめで、吸った後、咳き込むことが多くなった。喉頭癌になるんじゃないのとか、言われているが、それはそれで良いじゃないか。好きな事して、そうなるなら良しとしなければならないと思うからだ。

 たぶん、鼻水が鼻に詰まって口を開けて寝ていたのが原因だろうと思う。東京は桜の花が咲いたが、昨日は寒かった。もう春だ。桜の花が表現する自己主張を、とっくり観ることにしよう。俺は、枝に可憐に咲く桜の花たちより、幹に、ぽつりと一輪咲く、桜の花が好きだ。


 3月31日(月) 雨のち晴 10731

 昨日は激しい咳の後、タンがからんでティッシュペーパーに取ったら血が混じっていた。咳で喉が切れて血が出たのだろう。今日は、医者に行った。薬を貰ってきた。定食屋でカレーを食べて薬を飲んだ。一気に薬を飲んだら、体がボーとしてきた。それでも、酒を飲んで寝たいと思う。

 今日で32年間続いた『笑っていいとも』が終わった。仕事場の女性が、みんなに好かれてますもんねぇ。と、言っていた。特別番組があることを言ったら、観たいなぁとも言っていた。


 4月1日(火) 晴/曇 7151

 テレビ東京のワールド・ビジネス・サテライトのキャスターが代わった。何か観る気が半減した。小谷キャスターの時ならグッと来たが、新キャスターには、そういう物が感じられない。

 今日は体調を考えて出歩かなかった。洗濯をして、買い物をして、飯は家で食べた。薬を飲むとボーとする。未だ、風邪気味だ。

 理研は、小保方晴子の論文を、不正・捏造があったと判断した。はたして、「STAP細胞」は存在するか。焦点はこの1点にある。


 4月3日(木) 雨 6669/2

 1日中雨が降っていた。咲いた桜が花びらになって散っている物もあり、5枚の花びらがくっついて散っている物もある。テレビでは、桜の開花を伝えている。京都では、洛中では満開の処が多い。今度の土日は、花見で人が一杯になるだろう。おそらく、東京でもそうなるだろうが、天気はどうなるのか?京都は、土曜日が雨予報。東京は、晴/曇になっている。


 4月4日(金) 曇のち雨 4325

 風邪による体調不良は続いている。ずいぶん長い。3月の初めからだから1ヶ月は経つ。その間治ったと思った時期もあったが、また、咳が、喉の痛みが非道くなった。朝も新年度になって電車が混んできた。

 勤務状態もかなり苦しい状態が続いて疲れも出て来ている。のんびり、ゆっくりしたいのが本音だ。


 4月5日(土) 曇一時雨 6268

 昔、芝居に良く通っていた頃、役者のことが気になって、役者同士の比較をしたりして、考えたこととがあった。草野大悟と蟹江敬三を比べてどっちが凄いか?自分なりに比較して、幅広い役柄を出来るという意味でも、草野大悟の方が大きな役者じゃないかと思った事がある。しかし、時間が経つにすれて、その思いには変化が現れた。大役が出来たり声が良かったりしても、それだけで良い役者か?という思いが湧いてきた。

 蟹江敬三は、何か不思議な役者で、ダメ親父や、人生の敗北者の様な役柄をやればやるほど、味がある役者で、男の背中を感じさせる役者だった。寂しい男を演じさせたら右に出るものがない。去年NHKの朝ドラ『あまちゃん』で、主人公天野アキの祖父、天野忠兵衛役を好演した。妻の夏と会うと喧嘩して、それでも、夏に会うのを楽しみに海から陸に上がってくる。夢だけは大きく語り、アキに、人生を語る。アキが目を輝かせ、忠兵衛を観て、「かっけー」という。自慢げなあの顔も良かった。不器用な人間を演じるのが上手かった人だ。

 芝居を観ていた頃、色々調べて生きている時期に、観たかったなぁと思う芝居が2つあった。1つは演劇センター68/69(黒テント)の『翼を燃やす天使たちの舞踏』マルキ・ド・サド作 佐藤信・山元清多・加藤直・斎藤憐構成 佐藤信演出 佐藤充彦・岡林信康音楽。未だ自由劇場が別れる前で、金子研三、村松克己、清水紘治、新井純、加藤直、服部良次、串田和美、伊川東吾、安田南、草野大悟、吉田日出子、根本和史、山口美也子、中村方隆、広瀬昌助、斎藤晴彦、佐藤信など。岡林信康が『墜ちた鳥のバラード』を歌い、バックは、はっぴーえんどだったはず。観たかった。清水紘治に新井純、吉田日出子、山口美也子、ジャスシンガーの安田南。加藤直、佐藤信、斎藤憐、串田和美、服部良次が一緒にやっているのも凄い。そして、草野大悟。

 もう1つは、伝説の劇団『現代人劇場』『櫻社』脚本、清水邦夫、演出、蜷川幸雄。役者は、石橋漣司、蟹江敬三。の4人が中心だった。1968年から『櫻社』が解散する1974年までのこの4人の芝居が観たかった。『真情あふるる軽薄さ』『狂人なおもて往生をとぐ』『ぼくらが非情の大河をくだる時』『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』『盲導犬』(作、唐十郎)『泣かないのか?泣かないのか?1973年のために?』おそらくそこには、日本現代演劇の原点があるのだと思う。

 蟹江敬三が3月30日に胃ガンで死んだ。

 「蟹江さんは昨年放送されたNHKの朝ドラ「あまちゃん」で、ヒロイン・アキの祖父で漁師の天野忠兵衛を演じ、強烈な印象を残していた。

 同ドラマにも登場した「北三陸鉄道リアス線」のモデルとなった三陸鉄道は、今週末に全線運転再開を控えており、その目前で帰らぬ人となった。

 北リアス線(宮古‐久慈)は6日に、南リアス線(盛‐釜石)は5日に、計107・6キロの全線で運転再開する。三陸鉄道は、東日本大震災の津波で線路や駅、橋の流失など317カ所が被害を受けたが、震災5日後に一部で運転を再開。費用のほぼ全額を国負担としたことで復旧が進展した。」 ーーデイリースポーツよりーー

 ついこの間、久慈市は、『あまちゃん』の北三陸編出演者に名誉市民にしたことを発表したが・・・。

 「舞台俳優からキャリアをスタートさせ、映画やテレビドラマなど多くの場面で活躍してきた蟹江敬三といえば、常軌を逸した悪役のイメージが強くあった。悪役を演じるうえで意識してきた「悪」について蟹江が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。

 1970年代、蟹江敬三は数多くの刑事ドラマや時代劇で悪役を演じてきた。しかも、そのほとんどは『Gメン75』に何度も登場した殺人鬼・望月源治のような、容赦ない凶悪犯である。当時の彼の目からは狂気ともいえる冷たさが宿っており、お茶の間の視聴者を震撼させていた。

「当時は悪役ばかり来るわけですから、工夫しなきゃと思っていました。『その役を面白くする』ことを面白がるといいますか。そうやってその役の魂っていうか心根に入っていくわけです。そうすると、いい衝動が出てきたりするんですよ。

 役者にとって、悪は魅力的ですよ。普段の自分にはできない非日常なことをしているわけですから。もしかしたら、悪っていうのは自分にありえたかもしれない人生だと考えると、役に入りやすい。どんな人でも、そういう悪の芽をいっぱい持っているんじゃないでしょうか。

 それから、あまり怖そうに演じない方がいいと思います。『俺は怖いんだぞ』ではなくて『私は普通ですよ』という人の方が怖いっていう気がします。実際に人を殺した人って、一見すると普通の人に見えることが多い。ところが、どこか目がイッている。そういうところに恐怖を感じるんだと思うんです。

 ただ、それを長いことやっていると『もっと他にやれる役があるんじゃないか』と思い始めたんですよね。1980年前後でしたか、そんな時に『熱中時代 教師編Part2』で峰竜太とコンビを組む警官や『野々村病院物語』の病院事務長役の話がきて、役の幅を広げることができました。『悪役ばかりで嫌だ』と思っている時に『違う役をやらせてみよう』という人がいてくれたのは、ありがたいですね」 ーーNEWS ポルトセブンよりーー

 「個性派俳優として広く知られる蟹江敬三が語った『役作り』という言葉に感じる違和感を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。

 蟹江敬三は名脇役として数々のテレビドラマを支えている。中でも、刑事ドラマや時代劇などで相手の独白を聞く「受けの芝居」をする際の情感あふれる表情は絶品で、そこに蟹江がいるだけで感動的な名シーンになってしまう。こうした場合、演じ過ぎると鬱陶しく映るし、演じないと下手に映る。そのバランスが難しいのだが、蟹江の場合はそこが絶妙だ。

「たとえば僕が刑事役で犯人の独白を聞いている場合、その刑事の犯人への感情をきちんと理解していれば、自然な対応としての表情が生まれていくと思います。ですから、まずは相手のセリフをよく聞くということですよ。そこは、基本中の基本です。自分の反応なり、衝動なりは、相手の言葉を聞かないことには出てきませんから。

 演じる上で一番大事にしているのは、衝動です。人間が生きるってことは、心の衝動の連続だと思います。衝動のない演技はありえない。そのためには、役に魂を入れ『役になる』しかないんじゃないですかね。

『役作り』という言葉は、どうもピンと来ないんです。役は『作る』ものではなく『なる』ものだと思います。最近は『なりきった』と思う瞬間はあまりないですが、舞台をやっている頃はそういう瞬間を感じたことはありました。そういう瞬間が、俳優を続けさせる魔力みたいなものなのでしょう」 」 ーー週刊ポストよりーー

  「NHK連続テレビ小説「あまちゃん」でヒロインの祖父を演じるなど名脇役として多数の作品に出演した俳優、蟹江敬三(かにえ・けいぞう、本名同じ)さんが3月30日午前8時27分、胃がんのため東京・新宿区の病院で死去していたことが4日、分かった。69歳だった。今年1月から入退院を繰り返していたという。多彩な役を演じ分けてきた名バイプレーヤーが突然、この世を去った。

 ドラマや映画で悪役も善人役もこなした強烈な個性派。「あまちゃん」(昨年9月まで放送)では、能年玲奈(20)扮するヒロインの祖父で武骨な漁師、天野忠兵衛を演じきった蟹江さんが、ひっそりと息を引き取っていた。

 所属事務所が4日深夜、文書で「蟹江は1月より体調を崩し入退院を繰り返していましたが、3月30日、残念ながら他界永眠いたしました」と発表した。故人と遺族の希望で今月2日に家族葬を済ませ、後日、お別れの会を開くという。

 蟹江さんは12年間ナレーターを務めていたテレビ東京系ドキュメント番組「ガイアの夜明け」を体調不良を理由に1月から降板しており、体調が心配されていた。

 エンジニアを目指して工業高校に進学したが、2年生の文化祭で芝居に開眼。普通高校の都立新宿高校に転入し、卒業後は劇団青俳演劇研究所へ。同劇団員となり、演出家、蜷川幸雄氏(78)の演出舞台で主演を重ね演技の腕を磨いた。

 1966年にTBS系「おかあさん」でドラマデビュー、「あゝ同期の桜」(67年)で映画デビューした。日活ロマンポルノで猟奇的な役をこなすなど、30代半ばまでは野性的な顔立ちとイメージから、悪役がほとんどだった。

 しかし、水谷豊(61)主演の日本テレビ系「熱中時代」(80年)で峰竜太(62)とコンビで巡査役を演じてから、善人役も舞い込むように。5日に放送されるテレビ朝日系「おとり捜査官・北見志穂」(後9・0)が遺作に。このドラマでは主役の松下由樹(45)とコンビの刑事役で、昨年12月に撮影したという。

 俳優になってから体力作りを兼ねて草野球チームを作り、ピッチャー兼外野手をしていた。巨人軍終身名誉監督、長嶋茂雄氏(78)の大ファンで、「努力の跡をいささかも感じさせない。そこがいい」とかつて長嶋評を語っていた。

 夫人は劇団青俳の同期で、長女は女優、栗田桃子(40)、長男は俳優、蟹江一平(37)。関係者によると、栗田の舞台に必ず足を運んだが、感想を直接話すことはなく、子供に対しても寡黙な父だった。家族にも職人肌の背中を見せ続けた名バイプレーヤーだった。」 ーーサンスポよりーー

 「 能年玲奈(20)が4日深夜、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」で共演し、3月30日に胃がんでなくなっていたことが分かった蟹江敬三さん(享年69)の死を悼むメッセージを所属事務所を通じて発表した。蟹江さんは、能年演じる主人公天野アキの祖父忠兵衛を演じた。

 「『あまちゃん』という作品で、ご一緒させていただきました。忠兵衛さんが、大好きです。いつかまた絶対に共演したい、出来るようにもっと頑張らなきゃ、と思っていました。そんな中、あまりに突然の事過ぎて、どう受け止めたらいいのか戸惑っています。蟹江さんの、内に感じるパワーと外に放出するパワーどちらもが心地よくて、忠兵衛さんとのシーンは毎回とても楽しみにしていました。すっごく大好きでした。何て言ったらいいのか、ニュースで初めて知って、ビックリしました。どうしよう、という思いです。悲しいです。本当に、心から、お悔やみ申し上げます」 」 ーー日刊スポーツよりーー

 『櫻社』が解散して、日活ロマンポルノに出演。蟹江敬三の演技は、「強姦の美学」と讃えられたという。60年から70年代に時代が変わるその頃だ。今、清水邦夫は何を思っているだろう?今、蜷川幸雄は何を思っているだろう?今、石橋漣司は何を思っているだろうか?そこには、それぞれの男の背中が見えてくるだろうなぁ。


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