断腸亭日常日記 2001年 その12

−−バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で−−

por 斎藤祐司


過去の、断腸亭日常日記。  −−バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で−−

太い斜字で書いてある所は99年、2000年、2001年、のスペイン滞在日記です。

99年1月13日〜2月16日 2月19日〜4月14日 4月15日〜5月11日 5月12日〜6月4日
6月7日〜6月10日 6月13日〜7月9日 7月11日〜8月8日 8月9日〜9月9日
9月12日〜10月7日 10月10日〜11月10日 11月14日〜11月28日 12月12日〜12月31日
2000年1月1日〜15日 1月16日〜1月31日 2月1日〜2月28日 3月2日〜3月29日
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8月16日〜8月31日

 9月1日(土)

 7月の闘牛の会、定例会報告はサン・イシドロ祭をやった。初めのビデオは6月9日サン・イシドロ最終日のフランシスコ・エスプラの2頭目。ピカドールのアンデルソン・ムリージョが登場。初めのピカは、割と近くに牛が置かれた。ピカを持った右手を頭の上まで挙げて牛を誘い肩骨の間の背骨の上にきっちり刺した。見事。教科書通りのピカ。2回目のピカは、牛が遠くに置かれた。馬はタブラの所で待っていた。馬の向きを変え牛を受ける右側を向けてピカ全体を大きく振って牛の注意を自分にむけ牛を前後に移動して牛の来るポイントを探しピカを振り上げると、牛は蛇行しながらやってきたがしっかりと肩骨の間の背骨の上にピカを入れた。物凄い喝采がなる。まさに感動的なクイダッソだ。そして、3度目も割と遠めに牛が置かれた。声を出して誘うと牛がやってきた。クイダッソの位置も3回とも同じ。非常に良いところに入った。闘牛場全体がピカドールのアンデルソン・ムリージョのグラン・クイダッソの虜だった。

 退場していくアンデルソン・ムリージョに観客は全員が立ち上がって喝采を送る。こんなクイダッソ観たことがない!胸が熱くなるプロの技だ。 エスプラも男。アンデルソン・ムリージョが退場して行くまでアレナの中でバンデリージャを持ったまま待っていた。退場し喝采が鳴りやんでからバンデリージャを始めた。今度も3回とも左側に回っていって打ったが良いバンデリージャだった。喝采がなり今度も挨拶をした。ピカドールのアンデルソン・ムリージョがあまりにも良かったので観客も盛り上がってる。エスプラも乗った。

 ムレタでは、左しか通せない牛だった。つまり、ナトゥラルだけ。それも何度も続けられなかった。そして、コヒーダ。右手のパセをするとブスカンドしていたが、左手でももう出来なくなったので剣刺し。ファエナ自体は良い物でなかったが、観客は耳を要求したが、プレシデンテは耳を出さなかった。そして、エスプラに対して物凄い喝采。出てきて挨拶。喝采が止まず場内1周。テンディド3とテンディド4の間にあるプエルタ・デ・クアドリージャの所にいたアンデルソン・ムリージョにエスプラが挨拶。そして、アレナに出てくるように呼んだ。アンデルソン・ムリージョとエスプラが並んで場内1周。物凄い喝采。エスプラも粋なことをするぜ。口笛を吹いて抗議する観客は1人もいない。長い間ラス・ベンタス闘牛場で闘牛を観てきたが場内1周の時ピカドールが一緒に回ったのを観たのは初めてだ。

 9月からNHKでやる、山田風太郎事件帖は21日の金曜日、21時15分から始まるようだ。

 朝、新宿駅に降りたら毎日新聞が号外を配っていた。歌舞伎町で起きた雑居ビル火災で44人が死亡の大見出し。用事を済ませて歩いていくと歌舞伎町一番街の通り、新宿コマ手前の所に立入禁止地区が大きく取ってあり警察消防、報道、野次馬が多数いた。本当に小さなスペースのビルで、ここで44人も死んだのが信じられないことだ。報道陣の我が物顔ぶりが目立った。おそらくこういう大きな事件の時の報道陣に対する警察の対応マニュアルが完全な形で出来ていないのだろう。こんな状態では、大震災になったら現場のパニックは火を見るより明らかだ。とんでもない状況になるだろう。

 31日の結果。 サン・セバスティアン・デ・ロス・レジェス。フィニート、耳なし。エウヘニオ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。エル・フリ、耳2枚。プエルタ・グランデ。 カラオラ。ホセリート、耳1枚。ヘスリン、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。オルドニェス、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。


 9月2日(日)

 7月の闘牛の会、定例会報告。二つ目のビデオは、5月18日のマヌエル・カバジェーロ。この牛は最優秀牛に選ばれた。結果的には、そうなったが、決して初めから良い牛には思えなかった。始めはマンソだった。ベロニカで左前脚を悪くした。でも、それも右後ろ脚がコッホだったからだ。キーテは、牛の前2,3mの所に正面を向いて立ちベロニカを繋ぐと牛は体ギリギリに3回通っていった。そして、メディア・ベロニカを決めた。素晴らしい出来映えだった。これこそ誰にも真似の出来ないベロニカだ。ホセ・トマスのキーテは、チクエリナ3回ラルガ2回。脚を引いたチクエリナだったがマノロの時よりはるかにでかい「オーレ」が叫ばれた。何故なんだ。出来はホセ・トマスの方が落ちる。今日は良くない。

 ムレタは、右手のパセから始めた。初めのパセから牛を誘う前の立ち位置からクルサードしてる。手の低いパセが繋がると、「オーレ」がなった。パセ・デ・ペチョで一旦パセを切って牛をアレナの中央部分に持っていった。右手の長い低いパセを繋ぐと「オーレ」の声がより一層大きくなった。右手のパセの後、足をそのままの位置でムレタだけを動かし、牛を通し、ムレタを右肩の真下に出してピタッと止めて牛を誘いパセ・デ・ペチョを通した。見事としか言いようのない一連のパセを締めくくった。こういう高等技術はビリヤードで、打った球を何処に止めるかを知って打って行く技術に似ている。マノロはパセの後、牛が何処に来るのかを完全に把握して牛をパセしている。

 見栄えは決して美しいわけではないので、こういうパセを判らない人がいるのだろうが、これこそが男を見せている技術なのだ。技術者、職人マヌエル・カバジェーロの本領発揮だ。ナトゥラルも手の低い長いパセを繋いだ。その中に例のムレタを動かさないで誘うパセを織り交ぜながら巧みに牛をパセした。クルサードも凄かったし、パセを連続して繋ぐリガールも何気なしに繋いでみせるのも素晴らしい。

 後は、剣だけだった。スエルテ・ナトゥラルでメディア・エストカーダだったが良い場所に決まった。しかもいつもの角度の浅いテンディダではなくちゃんとした角度で刺さっていた。牛が倒れた。闘牛場が白いハンカチで徐々に埋まった。マノロはアレナの中央で剣とムレタを持って観客に挨拶をした。凄い口笛が吹かれた。プレシデンテは耳1枚の許可を出した。今年サン・イシドロのマタドール・デ・トロスで始めての耳になった。

 今週の競馬界の大ニュースは、何と言ってもアグネスタキオンの引退だろう。屈腱炎が治らずオーナーと調教師が話し合って引退を決めた。最強3歳世代の頂点に立つタキオンが引退、来春から種牡馬になる。シンジケートが組まれ一株3000万円で、総額18億円にのぼる。これは、エルコンドルパサーと同額で内国産では最高額になるのだろう。ああ、もう一度ジャングルポケットとG1で対戦して欲しかった。そして、ジャングルに勝って欲しかったが。また、オペラオーと同世代の5歳馬、メイショウドトウも年内で引退、来春から種牡馬になる。これも宝塚記念でオペラオーに勝ってG1タイトルを取ったからだ。これでオペラオーと併せてG1馬3頭が、今度は種牡馬として新しい競争が始まる。

 1日の結果。 バイオンヌ(フランス)。クーロ・バスケス、ホセ・トマス、耳なし。エル・フリ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。 パレンシア。ポンセ、口笛。ヘスリン、耳なし。フィニート、口笛、凄い罵声。 サン・セバスティアン・デ・ロス・レジェス。パディージャ、口笛。エドゥアルド・フロレス、耳1枚。ヘスス・ミジャン、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。 アルマサン。ファン・モラ、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。バレラ、場内1周。オルドニェス、耳なし。 メディナ・デル・カンポ。ミゲル・ロドリゲス、耳2枚、耳1枚。プエルタ・グランデ。ペピン・リリア、耳1枚。エル・カリファ、耳2枚。プエルタ・グランデ。 ダイミエル。カバジェーロ、耳1枚。エル・コルドベス、耳2枚。プエルタ・グランデ。モランテ、耳なし。 イジェスカス。ウセダ・レアル、ミウラ、耳なし。カルニセリト・デ・ウベダ、耳1枚。 ビジャルエンガ・デル・ロサリオ。フェスティバル闘牛。ホセ・フエンテス、耳なし。オルテガ・カノ、耳2枚と尻尾1つ。牛、場内1周。ペペ・ルイス・バスケス、耳1枚。アパリシオ、耳2枚。


 9月3日(月)

 一馬とTELで話したら、子供は20日に生まれ、母子共に健康だそうだ。胸が大きくて出てくるときにちょっと引っかかって嫁さんが痛がって、子供は少し保育器に少し入っていたそうだ。「出産の時、会陰でしたっけ。それを切りましたけど」と、言っていたので、曖昧に「うん」と言ったが、ちょっと違うだろうと思った。あいつそういうこと判ってないようだ。あれは出産時に産道から出てくる子供の圧力で産道ないし、膣から陰唇が裂けて肛門などにその裂け目が達するとばい菌が入ったり、肛門の括約筋などが損傷するので、それを避けるために、大抵は子供の頭などが見えた時点で、ハサミのような物で陰唇を足の方に切ると、裂け目が肛門に達する可能性が極端に低くなるために行う医療行為なのだ。医者は、大抵は右利きが多いだろうから妊婦の陰唇は右足側に向けて切れ目を入れるのだろう。だから会陰を切るというのは間違っているはずだ。会陰とは、性器と肛門の間の部分を言う医学用語だからだ。

 ともあれ、子供が生まれた。名前を聞いたが女の子の名前だった。子は名前の最後には着かない最近流行の付け方だ。どうもああ言う名前は、キャバレーの女の子の源氏名のようで、現実感を感じない名前のように思うのは僕だけだろうか。宝塚や芸能人じゃあるまいしと言う感覚があるんだよなぁー。

 山田風太郎 『かげろう忍法帖』 『信玄忍法帖』 読了。風太郎は、ドラマツルギー、伏線の張り方、忍者の個性、忍法の奇抜さ、歴史的事実の正確性、などによって読者を魅了する。こんな物語は、凡人じゃ書けない。

 例えば、『信玄忍法帖』 の中に出てくる、あそこに肉筒を挿入すれば男となり、これを抜去すれば女となる。六字花麿の忍法「陰陽転」。

 「たんに、形態の変化ばかりでない。その女たるやーーーまさに、女の精だ。現実の女は、いかに女らしい女でも或る程度男性ホルモンをそなえているものだか、この場合、六字花麿は、全身女性ホルモンに満たされるのではないかと思われる。ーーー嘗て、女性美というものに不感症ではないかとすら見えた金山奉行大蔵藤十郎を痴情妄念の虜としたのも、まさにこの女の化身であった。
 しかも、彼は、ーーーいや、彼女はいま、おのれの身に纏う女衣装をクルクルとぬぎすてた。ぬぎすてるというより、女衣装が五彩の滝のように足もとにおち、それを踏みはだけてすっと立ったのである。

 「若衆」
 染まりそうな蒼い空を背に、雪白の裸身をくねらせ、彼女はにっと笑った。白すすきの中で、源五郎たちは金縛りになった。花麿の忍法に驚愕したのではない。彼らは、花麿がもともと男であったのか、女であったのかも知れない。ただ、その女身の裸像は、彼らの男性を衝撃した。あらゆる理性、抑制を溶鉱炉に投げ込んだ。それほど原始的な力を持っていた。それは、あらゆる男の肉体と精神状態を、射精直前の状態におくものであった。彼らが、獣のようにまろびで出ないで、自らを金縛りにしたのは、彼らなればこそといっていい。」

 風太郎は忍法と、その忍法によって変化する相手の状況を克明に描写することによって、その忍法とその中にある人間たちを、次に来る状況を読者に考えさせ巻き込みながら話を進めていく。忍法を特殊な能力として描きながら、尚かつ、その時の人間を描いていく。例えば、射精直前の状態になった肉体を、金縛りという状態の肉体に代えるというように。

 こういう視覚的な描写は読者のイメージを鮮明にしていく。そして、このあとに来る物は必ずと言っていいほど、どんでん返し、逆転、ひねりが待っている。こういう手法はミステリーの方法を使っている。まぁー兎に角上手い。

 札幌競馬場で岡部幸雄が1,2日と特別レース5連勝というトチ狂ったような事をした。これは記録になるのだろうか?一馬と競馬の話を少しした。ジャングルポケットが負けた札幌記念。馬体が、がれていたと報道していないと言っていたので、レースの調教の週に新聞に書いていたことを言った。あいつは3着に負けたのはどうも・・・。と、言っていたが、でも、レオダーバンも3着だったからな。と、言うと、あっそうですね。と、言うので、でも、エアエミネムに負けたのがちょっとなぁーと言うと、あれは、マル外だから天皇賞の路線でしょうと、言っていた。そういえばそうか。

 2日の結果。 バルセロナ。エンカボ、耳なし。フェレーラ、耳1枚。ディエゴ・ウルディアレス、耳なし。 パレンシア。クーロ・バスケス、口笛。エル・フリ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。ハビエル・カスターニョ、耳1枚。 セルセディジャ。マリアノ・ヒメネス、イバン・ビセンテ、ペドロ・ラサロ、耳1枚が2回。3人ともプエルタ・グランデ。 ダイミエル。エル・タト、耳1枚。モレノ、耳2枚。プエルタ・グランデ。ミウラ、耳なし。 エヘア・デ・ロス・カバジェーロス。フィニート、口笛。オルドニェス、耳1枚。ヘスス・ミジャン、耳1枚。 ホダル。アニバル・ルイス、耳2枚と尻尾1つ。ビクトル・ハネイロ、耳1枚が2回。エル・ファンディ、耳2枚、耳1枚。3人ともプエルタ・グランデ。

 メディナ・デル・カンポ。エスパルタコ、耳1枚。ホセリート、耳4枚。プエルタ・グランデ。モランテ、耳1枚。 トレラグナ。カナレス・リベラ、耳1枚。ロドルフォ・ヌニェス、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。騎馬闘牛士、ホセ・ルイス・カナベラル、耳2枚。プエルタ・グランデ。 バルデパンニャス。カバジェーロ、耳2枚、耳1枚。プエルタ・グランデ。ハビエル・コンデ、耳2枚。プエルタ・グランデ。エウヘニオ、耳1枚。 バイオンヌ(フランス)。フェルナンデス・メカ、耳1枚、場内1周。ポンセ、耳1枚。アベジャン、耳なし。 トレホン・デ・ラ・カルサダ。フェスティバル闘牛。トマス・カンプサーノ、耳2枚。エル・フンディ、耳2枚。ボテ、耳2枚。ミゲル・マルティン、耳2枚と尻尾1つ。フリアン・サモラ、耳1枚。


 9月4日(火)

 7月の闘牛の会、定例会報告。三つ目のビデオは、5月29日のラファエル・デ・フリア。牛がマンソでカポーテは上手くできなかった。良いバンデリージャを打ったバンデリジェーロが喝采を受け挨拶をした。ファン・マヌエル・モントリウ。92年にセビージャのフェリア・デ・アブリルで牛に心臓を一突きされて即死したマヌエル・モントリウの息子だ。良い仕事をした。お父さんも天国から見ていただろう。

 ムレタは、膝を折ったアジェダード・ポル・バッホ気味のパセから始め「オーレ」がなる。パセ・デ・ペチョが決まると牛を真ん中へ持っていった。右手の手の低く長いパセを繋ぐと「オーレ」の声が大きくなった。パセ・デ・ペチョはちょっと脇が開いていた。それとクルサード不足になってきた。が、右手の長いパセを繋ぐと「オーレ」が続いた。剣を代え、膝を折ったパセを繋ぐと「オーレ」の声はより大きくなった。形の良い美しいパセが繋がった。剣は、スエルテ・ナトゥラルで決まった。この瞬間観客は耳を確信しただろう。

 耳を受け取り場内1周。それからプレシデンテに挨拶して肩車に担がれた。冷静だ。僕は直ぐにプエルタ・グランデに向かった。もう沢山人がいた。プエルタ・グランデ正面にラファエルのワゴン車が止まっていた。ファエナを始める前から停めていたようだった。車の横には涙を流し続けている少年がいた。どうやらラファエルの弟のようだ。ファミリアが車の回りに集まってきた。子供を連れたラファエルそっくりの女性、年を取った伯父さん・・・。笑顔で携帯をかけて誰かにプエルタ・グランデの事を伝えているのだろう。横では泣き顔の弟に家族が抱きついてまた涙を流してる。

 家族が抱き合いながら喜びをみんなで分かち合っていた。それを闘牛ファンが嬉しそうに見ている。家族は泣き顔を恥ずかしげもなくその人たちの前にさらしているのに、喜びで一杯だ。男同士も、女同士も抱き合って喜んだり泣いたりしている。

 そして、プエルタ・グランデの門が開かれた。勝利したものだけしか通れないこの門をラファエルが肩車に担がれてやってきた。それを先導するのは2頭の騎馬警官。

 車の前で抱き合って泣いたり喜んだりしている家族を見るとつくづく思う。どんなに生意気な闘牛士であってもそれを支えているのは日常生活を共にする家族があるからだ。だからこそあのようにまるで自分のことのように泣いたりして喜び合っているのだ。それがなかったら闘牛士は寂しいだけだろう。危険に立ち向かう勇気すらなくなってしまう事だろう。ラファエル・デ・フリア、おめでとう。これから各地の闘牛場から君のアポデラードのエンリケ・カルモナにTELをかかるだろう。これで各地の闘牛場に出れるようになるだろう。闘牛士は生意気であるべきだ。でも、君を支えてくれる家族があってこそ君は安心して闘牛を出来ることを忘れてはいけない。あの涙を君は知らないかも知れないが、これは重要なことだ。


 9月5日(水)

 本日セサル・リンコンの36回目の誕生日。セサルの病気の状態はどうなっているんだろう。

 橋本治の山田風太郎追悼文が月刊『現代』(確か)に載っていった。その中で、山田風太郎先生は、大往生というより、涅槃に行ったという感じがするといっていた。そういわれるとそういう気もしてくる。最後に構想を練っていた小説を一行も書かず、インタビューに来ても話すことは何もないと言い続けていた風太郎。それでも毎日日記だけは付けていてそれが最近目が見えず、手の自由が利かないから一行とか一字とかの日記になったと、言っていた。

 インタビュー三部作の第二弾、『いまわの際に言うべき一大事はなし』 のタイトル通り涸れるように死んでいった。

 橋本治は、山田風太郎は死んでも、『幻灯辻馬車』 の干潟干兵衛のように幽霊となっていつでも、呼べば出てきて会えるような気がすると、書いていたがなるほど上手いことを言う物だと思ってしまった。毎日、風太郎を読んでいると死んだ気がしない。

 去年の日記にも書いた「68年東大駒場祭ポスターは文科U類2年生、橋本治(後に小説家になる)よって制作された。当時流行っていた任侠映画のように“いちょう”(東大の学章)入れ墨を彫った背中を見せた男の横に、「とめてくれるな おっかさん 背中のいちょうが 泣いている 男 東大どこへ行く」と書いてあった。「とめてくれるな おっかさん」は宮沢りえがCMでも言ったが当時の流行語になった。」が橋本治が始めて注目を浴びた事柄だが、講談社から出ている、『戦中派不戦日記』 のあとがきを書いているが、自身が全学連運動に加わらなかった、不運動体験と、風太郎の、不戦体験を絡めて言っていたが、あのあとがきを、あとから編集者を通して風太郎が褒めていた事を聞かされたとあった。直接言うのが恥ずかしいから風太郎は編集者に言って貰ったようだ。

 この文の中で、山田風太郎全集を毎月の楽しみにして暮らしていた時期があると書いてあったが、風太郎の本は兎に角楽しく面白く読めるのが1番だが、読みかけの 『明治ハベルの塔』 でもまいってしまう。これを楽しみながら書いたというのだから絶句してしまう。この本は多分前に読んだことがあるはずだが、読み返していて本当に凄い小説を書き続けていたことに、改めて思い知らされる。

 3日の結果。 メリダ。フィニート、耳2枚。アベジャン、耳1枚、耳2枚。エル・フリ、耳1枚、耳2枚。3人ともプエルタ・グランデ。 パレンシア。ホセリート、耳なし。ホセ・トマス、モランテ、口笛。 プリエゴ・デ・コルドバ。オルテガ・カノ、耳2枚。エスパルタコ、耳2枚。ポンセ、耳2枚、耳2枚と尻尾1つ。3人ともプエルタ・グランデ。 トレタグナ。カナレス・リベラ、耳1枚。ホセ・ラモン・マルティン、耳1枚。セバスティアン・カステージャ、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。

 4日の結果。 メリダ。ホセリート、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。ポンセ、耳2枚が2回。プエルタ・グランデ。モランテ、耳1枚。 メシジャ。。マノロ・サンチェス、耳1枚、耳2枚。エル・フリ、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。ファン・バウティスタ、耳1枚が2回。3人ともプエルタ・グランデ。 パレンシア。ルギジャーノ、耳なし。ビクトル・プエルト、耳1枚。アベジャン、耳1枚。 ポルクナ。エル・コルドベス、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。アニバル・ルイス、耳2枚、耳1枚。プエルタ・グランデ。エル・ファンディ、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。 モラレハ・デ・エンメド。ミゲル・ロドリゲス、耳1枚、場内1周。ラファエル・デ・フリア、耳2枚、耳1枚。プエルタ・グランデ。グレゴリア・アルカニス、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。


 9月6日(木)

 朝の涼しさは秋の気配を感じるようになってきた。

 7月の闘牛の会定例会報告。最後のビデオは、モランテ・デ・ラ・プエブラ。美しいベロニカを繋ぐと「オーレ」がなった。牛は後ろ脚が悪い。それで牛が交換になる。代わって出てきた牛も右前脚が悪かった。しかし、ムレタでは素晴らしすぎるファエナをした。右手で膝を折ったパセを繋ぐと「オーレ」がなった。アレナの内側に牛も持っていって右手で手の低い長いゆっくりとしたパセを繋ぐと、「オーレ」の絶叫がこだました。トゥリンチェラ、パセ・デ・ペチョ。特にトゥリンチェラの美しさをどう表現したら良いのだろう。涙が滲み出てくるような感動的なパセの連続だった。俺は思わず、「モランテ!バーモス・ジャ・プエルタ・グランデ!」と叫びそうになったくらいだ。

 この時点で観客は耳2枚出ることを疑わなかっただろう。しかし、剣は刺さらなかった。スエルテ・ナトゥラルでレシビエンドを試みるがピンチャッソ。再び試みるがまたピンチャソ。3度目もレシビエンドでバホナッソのメディア。耳は消滅した。アビソが2回鳴り、デスカベジョは1回で決めた。あー何と惜しいことをしたものだ。ボラピエで刺しに行っていれば耳2枚取れたような気がする。

 美とは、何か。この日のモランテはそれを語っていた。例えばランボーの詩を思い出して欲しい。「見つかった 何が? 永遠が それは太陽に繋がった海だ」 水平線に朝日か夕日か知らないが太陽がくっついている。その太陽が朝日か夕日かはランボーの研究者にお任せする。でもその美しさをランボーは永遠と言ったのだ。モランテのパセの美しい瞬間がつまり永遠なのだ。剣が失敗してもその美しさが失せるものはない。泣けるような、涙が溢れ出てきそうな美しさだった。

 6日の結果。 アランフェス。ホセリート、耳2枚。プエルタ・グランデ。エウヘニオ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。エル・フリ、耳1枚。 メリダ。ウセダ・レアル、場内1周(牛、場内1周)、耳1枚。ミウラ、耳1枚。ヘスス・ミジャン、耳1枚ともう1枚要求。 パレンシア。マノロ・サンチェス、口笛。エル・タト、口笛。エル・ミジョナリオ、場内1周。 ポスエロ・デ・アラコン。ポンセ、口笛。エル・コルドベス、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。アベジャン、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。


 9月8日(土)

 今日は、闘牛の会。準備は出来た。後は忘れ物をしないようにして出かけるだけだ。ヘミングウェイの、『危険な夏』 を読み直している。会に行く頃には読み終わっているだろう。いくつもの発見があった。闘牛を良く分かっていなかった頃に、2,3回読んでいるがその頃気づかなかった事がいくつも発見した。これは非常に重要な意味を今後持ってくるだろう。

 山田風太郎 『明治ハベルの塔』 読了。風太郎自身が、作者後口上というのを書いているのは非常に珍しいことだ。解説は、金井美恵子。彼女が文壇にデビューした当時、野坂昭如が、「天才美少女」といったが、何処が美少女なのか僕にはちっとも判らなかった。が、作品には彼女の鋭さが出ていると思う。この本の解説でも平岡正明の、『風太郎はこう読め』 をレベルが低いと一刀両断している。それは正しいと思う。

 風太郎を評すならもっと勉強しないと。上野昂志さんの、『現代文化の境界線』 や 『肉体の時代・体験的60年代文化論』 のような優れた解釈が風太郎ファンをあっと言わせる。上野さんの 『肉体の時代・体験的60年代文化論』 は僕のバイブルのような本だ。

 ニューヨークの株価は10000ドルを切っても下げ止まらず、1日に100ドルとか、200ドル近く未だ下がっていて9900ドルを一時切った。今年スペインに行く前に、去年アメリカの株で大儲けをした人の記事が載っていた。彼は超弱気展望で莫大な金額を稼ぎ出した。その時の記事には、アメリカの株価は5000ドルの水準になるだろう。ナスダックは1500ドルを切るだろうと言うのもだった。同じ記事に超強気のアナリストが紹介されていて、彼は株価が40000ドル近くまで上がるという予測を出していた。

 でも、その時点で思ったのは感覚的にも現実的にも超弱気相場に今後市場が動いていくだろうと思っていたが、現実問題として深刻な世界同時株安の状況を向かえつつある。日本の株価は1万円を割り、9千円すら切る状態になっても不思議じゃないだろう。この不況は日米だけじゃなくヨーロッパも例外じゃない。一時高かったユーロはドル円に対しても下げている。

 小泉内閣の構造改革は恐らく頓挫するだろう。不況の向かい風もあるが、日本は変わらない。徹底的に変わらない。この国の国民も政治家も企業も呆れるほど変革には消極的だからだ。そして、不況はさらに進んでいくだろう。それが、日本だ。現実を受け入れることが出来ず、だから、構造改革など期待だけで終わってしまうだろう。まぁ、失業率が10%になったら本気でやるかも知れないが。

 7日の結果。 アルカサル・デ・サン・ファン。フィニート、耳4枚。プエルタ・グランデ。エル・フリ、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。ハイメ・カステジャノス、耳1枚。 アルコルコン。イガレス、耳1枚。ヘスス・ミジャン、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。ラファエル・デ・フリア、耳なし。 アンドゥハル。ポンセ、耳4枚。ヘスリン、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。ビクトル・プエルト、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。トレアルタ牧場の牛、インドゥルト。3人ともプエルタ・グランデ。 ソティジョ・デ・ラ・アドゥラダ。エル・フンディ、マリアノ・ヒメネス、耳なし。エンカボ、耳2枚。プエルタ・グランデ。 ビジャルビア・デ・ロス・オホス。エスプラ、耳1枚。エル・コルドベス。耳2枚。イグナシオ・ガリバイ、耳2枚。3人ともプエルタ・グランデ。 ビジェナ。マヌエル・ブラスケス、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。バレラ、耳2枚。プエルタ・グランデ。ウセダ・レアル、耳なし。


 9月9日(日)

 先週ずっと頭が痛かったが、仕事をしていたら治ってしまった。便利な身体に出来ているらしい。

 土曜日闘牛の会があった。TV局の人が来たりした。7月もTV製作会社の人が来て情報を仕入れていった。今回も同じ。TAKEさんとは、当日の12時過ぎにメールで連絡が取れ発表できることが確認できた。会のことは日記に少しずつ書いて行くが今日はこの辺で止める。

 昨日、中学教師が逮捕された。女子中学生に手錠をして車に乗せ高速道路を走行中、その女子中学生が車から落ちて死亡した事件についてのものだ。教師が教え子と同じ年頃の生徒を手錠をしてその自由を奪うという事自体が異常なことで、知り合ったきっかけがテレクラだというのが現在の犯罪状況を表しているのだろう。生徒も荒れているし、教師も人に物を教えるに値しない人間の沢山いるから学級崩壊が起こるのだろう。それは、家庭崩壊にも絡んで進行しつつある人間関係の異常さが普通の状態にすり替えられて、誰も何にも感じなっくなってきている日常に問題があると思う。

 アメリカの教育現場で始まったスキル教育。これは、荒れた生徒たちが正常な人間関係を作っていくための、他人との人間関係を作っていくための技術を教える授業だ。不良ですぐに切れて暴力ばかりふるっていた生徒が、ちゃんと授業を受け、正常な人間関係を作っていくという、成功例を数多く出し注目を集め、全米に広がっていった。最近は日本でもそういう授業を実験的に始めた所があるらしいが、ほんの初期の初期段階にとどまっている。

 もしも、こういうスキル教育が完全な形で日本の教育現場に持ち込まれたら現在の状況は大きく変わって行くことだろうが、何年、何十年先の話だろう。実は人間不信などは家庭内の親や兄弟の身近な人間関係から始まる。そこの部分を、スキル教育はケアし修正してくれる。本来根本的な家庭内の親と子の関係をしっかりと結びついていればこういうスキル教育の必要性は低下するのだが、こういう教育が必要とされる現代が、複雑な社会になってきている証拠だろう。

 しかし、事は非常に簡単な事で解決していく物だと思う。そのキーを見つけるのが難しいのかも知れない。人と話すことから何かの糸口を見つけるのと同じように、親子でしっかりと話、親が子とものことを抱き留め愛情を注ぐ気持ちがあることを子供が確認できれば、事は簡単だと思うのだが。

 昔友人にこう言われたことがある。「祐司、人と友達になるのに1番近い方法は何だと思う」 僕はその答えが良く分からなかった。どう答えて良いのか、どういう答えが求められているのかが判らなかった。だが、答えは簡単だった。友人は言った。「人の話を聞いて上げること」 それは、話を聞いてそれを実行して上げることではなく、相手の気持ちをしっかり聞き出すことを意味していた。実行することは、事柄によって出来るか出来ないか判らない。しかし、しっかり聞き出すことは、相手が話し下手で表現が下手でも時間をかけて色々な聞き方をすれば相手はそのうち気持ちを許すようになるからだ。これが、重要なのだ。この世の中でたった一人でも良いから自分を解ってくれる人がいることはその人間にとっては非常に重要な生きる支え、力になっていくのだから。

 この事件は、教師にも、被害者の女子中学生にも、このスキル教育の正常な人間関係を作る作業が日常的に欠けていたような気がしてならないのだが。

 競馬は、中山、阪神に帰ってきて、秋競馬が始まった。いよいよ競馬場に行く季節になった。

 アルバセーテ、ムルシア、バジャドリード、のフェリアが始まった。ロンダで恒例のゴヤ闘牛が開催されてホセ・トマスが耳4枚でプエルタ・グランデした。エル・フリがアルルでインドゥルトした。

 8日の結果。 ムルシア。ヘスリン、耳1枚。エル・コルドベス、耳なし。ビクトル・プエルト、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。 ロンダ。ゴヤ闘牛。オルドニェス、耳1枚。ホセ・トマス、耳4枚。プエルタ・グランデ。モランテ、耳なし。 アルカサル・デ・サン・ファン。ルギジャーノ、耳1枚が2回、場内1周。エウヘニオ、耳2枚、耳1枚。2人ともプエルタ・グランデ。 カラタジュ。クーロ・バスケス、口笛、耳1枚。ホセリート、耳2枚。プエルタ・グランデ。フィニート、耳2枚。プエルタ・グランデ。 アルル(フランス)。エスパルタコ、耳なし。エル・フリ、耳2枚、耳2枚と尻尾1つ。サルドゥエンド牧場の牛、インドゥルト。プエルタ・グランデ。ファン・バウティスタ、耳2枚。プエルタ・グランデ。 ダックス(フランス)。フェルナンデス・メカ、耳なし。エル・タト、口笛。エンカボ、耳なし。

 アルカニス。パディージャ、耳4枚。ウセダ・レアル、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。ヘスス・ミジャン、耳4枚。3人ともプエルタ・グランデ。 アンドゥハル。騎馬闘牛士、パブロ・エルモソ・デ・メンドーサ、耳4枚。プエルタ・グランデ。闘牛士、ファン・モラ、場内1周。ミウラ、耳1枚。 アジャモンテ。騎馬闘牛士、サバスティアン・ロメロ、場内1周。闘牛士、ハビエル・コンデ、耳2枚。ビクトル・ハネイロ、耳2枚と尻尾1つ。 バルバストロ。ペピン・ヒメネス、耳なし。マノロ・サンチェス、耳1枚。ハビエル・カスターニョ、耳4枚。プエルタ・グランデ。トマス・ルナ、耳1枚。 ベルメス。ホセリート・デ・ベガ、耳2枚。チィコテ、耳1枚が2回。エル・シド、耳4枚と尻尾2つ。3人ともプエルタ・グランデ。

 シントゥルエニゴ。カバジェーロ、耳1枚。バレラ、場内1周。アベジャン、耳1枚。 フエンカリエンテ。カナレス・リベラ、耳1枚。モリタ、耳1枚。クルス・オルドニェス、耳なし。 ラグナ・デ・ドゥエロ。ミゲル・ロドリゲス、耳1枚。イガレス、耳なし。モレノ、耳2枚。プエルタ・グランデ。 レルマ。エル・フンディ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。ホセ・イグナシオ・ラモス、耳1枚。フェレーラ、耳4枚。プエルタ・グランデ。 サントナ。ペピン・リリア、耳1枚。エル・カリファ、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。ラファエル・デ・フリア、耳なし。 トゥリジョ。エスプラ、耳1枚。ホセ・ルイス・ゴンカルベス、耳なし。エル・ファンディ、耳2枚、耳1枚。プエルタ・グランデ。


 9月10日(月)

 また台風が近づいている。それも二つも。風太郎が死んで、これで三つ目の台風だ。どうも風ばかり僕の回りでは吹いているような気がする。

 今日のNHK23時から、あのジャニス・ジョップリンをやる。あのモンタレーのフェスティバルの 『ボール・アンド・チェーン』 も流れるようなので是非観たい。あんな歌は他の誰も歌えない。あの熱唱を映画で見たとき全身に鳥肌が立ち背筋がゾクゾクして涙が溢れ出た。あの時、映画館の暗闇で、燃え尽きるような歌い方に全身が衝撃を受けたのを昨日のように覚えている。溢れ出る涙をまったく恥ずかしいとも思う余裕もなく流し続け、感動に素直に浸ることが出来た非常に幸福な時間だった。確か69年にチェルシーホテルで死体になって発見され、その死因が麻薬とか言うようになっている。正確に事は未だに判らないのではないかと思うが。

 彼女の歌は、全身全霊を尽くして声という媒体を通して聴く者の肉体にいつまでも響き渡る、全人生を賭けて歌った魂の歌だった。番組で、荻野アンナという馬鹿な女が何を言うか知らないが、ジャニスの歌の本質が何も変わるものでもない。闘牛で言えば、2000年6月2日、サン・イシドロのラス・ベンタス闘牛場で観客の涙を絞りだしたミゲル・アベジャンの闘牛のようなものだ。

 9日の結果。 バルセロナ。ボテ、場内1周。ルイス・デ・パウロバ、耳なし。アルフォンソ・ロメロ、場内1周。 アルバセーテ。エスプラ、ペピン・リリア、耳なし。エンカボ、耳1枚。怪我。 ムルシア。ペピン・ヒメネス、耳なし。ホセ・トマス、耳2枚。プエルタ・グランデ。モランテ、耳なし。 バジャドリード。ファン・モラ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。オルテガ・カノ、口笛。ヘスリン、耳なし。 アルル(フランス)。リシャール・ミリオン、耳1枚。ソトルコ、耳2枚。プエルタ・グランデ。フレデリック・レアル、耳なし。 ダックス(フランス)。ポンセ、耳なし。エル・フリ、耳1枚。


 9月11日(火)

 台風が去って蒸し暑い夜を過ごして風呂に入ろうとしてらNHKニュースで衝撃的な事件が飛び込んできた。ニューヨーク、マンハッタンの世界貿易センタービルに航空機が2機突っ込んでビルが炎上している。TV中継中に2機目が突っ込んだ。誰が何の目的でこう言うことを起こしているのか判らないが、感覚としては、テロだろうと思う。今後の詳細をメディアが伝えるだろう。これは大変なことになるような気がしてならない。

 インターネットなどの情報網への影響や、近くにある、ニューヨーク株式市場のコンピューター関連、あるいは軍事関連のものに甚大な影響を及ぼす可能性がなければ良いのだが。

 今、ブッシュ大統領が声明を発表し、「これはテロリストによる犯行だ」と述べ、アラブ首長国連邦のメディアが、「パレスチナの組織が犯行声明を出した」伝えているそうだ。また、ワシントンでもテロが行われ国防総省(ペンタゴン)が黒煙を上げて燃えている。とんでもないテロをやったもんだ。信じられない。これは世界に大衝撃を与えるだろう。

 昨日、映画監督の相米慎二が死んだ。ワンシーン・ワンカットで、薬師丸ひろこ主演の、『翔んだカップル』 でデビュー。『セーラー服と機関銃』 などで知られる盛岡出身の人だった。生涯独身を通し癌告知を受け最後は盛岡でロケした映画製作を予定していたらしい。誰が脚本の映画を予定していたのか知らないが、高橋克彦の 『緋い記憶』 などを撮ってくれれば面白かったような気がする。

 薬師丸ひろこ主演の映画では、どうしても 『Wの悲劇』 が印象に残っているので相米慎二の映画の印象が薄いが、『台風クラブ』、『ラブホテル』 を思い出す。特に、『ラブホテル』 の速水典子の映像がいつまでも残っている。あんなに綺麗な裸体の印象を残す映像も珍しい。これは単なる僕の思い過ごしかも知れないが、そうじゃないとすれば相米監督は実は女性を描くことが上手かったんじゃないかなぁと思う。少女から女まで。

 9日の結果の続き。 アランダ・デ・ドゥエロ。フェレーラ、耳3枚。ファン・バウティスタ、耳2枚。エル・ファンディ、耳3枚。3人ともプエルタ・グランデ。 バルカロタ。イガレス、モレノ、ウセダ・レアル、耳1枚。 カラタジュ。エル・タト、耳2枚。プエルタ・グランデ。ヘスス・ミジャン、耳なし。 セエヒン。エル・コルドベス、耳1枚。バレラ、場内1周、耳1枚。エル・カリファ、耳1枚。 エヘア・デ・ロス・カバジェーロス。カバジェーロ、ペドゥリート・デ・ポルトゥガル、耳なし。ビクトル・プエルト、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。 フエンテ・エル・サス。ルギジャーノ、口笛。アルベルト・ラミレス、エル・レンコ、耳1枚が2回。2人ともプエルタ・グランデ。 ナバルエンガ。マノロ・サンチェス、ハビエル・カスターニョ、耳1枚。ラファエル・デ・フリア、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。 パレデス・デ・ナバ。エスプラ、耳なし。エル・シド、耳2枚、場内1周。アントニオ・ブラシオ、耳なし。

 パルラ。ロメリト、パディージャ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。アニバル・ルイス、耳3枚。プエルタ・グランデ。 サン・マルティン・デ・バルデイグレシアス。フィニート、エウヘニオ、耳なし。アベジャン、耳3枚。プエルタ・グランデ。 タランコン。ラファエル・カミノ、カナレス・リベラ、ゴメス・エスコリアル、耳1枚。 ウティエル。エスパルタコ、耳1枚。ホセリート、耳3枚。プエルタ・グランデ。マノロ・カリオン、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。 バルデトロ。エル・フンディ、ミゲル・ロドリゲス、耳なし。ホセ・イグナシオ・ラモス、耳1枚。 サラメア・ラ・レアル。ミウラ、耳1枚。フランシスコ・バロソ、耳4枚。プエルタ・グランデ。セバスティアン・カステージャ、耳2枚。プエルタ・グランデ。

 10日の結果。 ムルシア。ポンセ、耳なし。エル・フリ、耳1枚。アルフォンソ・ロメロ、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。 バジャドリード。エスプラ、口笛。エル・タト、ファン・バウティスタ、耳なし。 アランダ・デ・ドゥエロ。ヘスリン、耳2枚。プエルタ・グランデ。カバジェーロ、フィニート、耳1枚。 カルバネロ・エル・マジョール。ヘスス・ミジャン、耳2枚と尻尾1つ。フェルナンド・ロブレニョ、耳2枚。エミリオ・デ・フルトス、耳3枚。3人ともプエルタ・グランデ。 シエンポスエロス。フリアン・サモラ、耳1枚、場内1周。モレノ、耳1枚。ウセダ・レアル、耳なし。 ナバルカルネロ。ロメリト、耳1枚。フェレーラ、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。アベジャン、耳2枚。プエルタ・グランデ。

 パルラ。ファン・モラ、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。エル・コルドベス、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。ペピン・リリア、耳2枚、耳2枚と尻尾1つ。3人ともプエルタ・グランデ。 ソンセカ。イガレス、耳2枚。プエルタ・グランデ。ミゲル・アンヘル、場内1周、耳1枚。ヘスス・アグアド、耳4枚。プエルタ・グランデ。 トルデシジャス。エル・フンディ、耳2観亜。マノロ・サンチェス、耳2枚。アントニオ・ブリシオ、耳2枚、耳2枚と尻尾1つ。3人ともプエルタ・グランデ。 アジャヌエバ・デル・アルソビスポ。ホセリート、耳2枚。ビクトル・プエルト、耳4枚と尻尾2つ。オルドニェス、耳1枚が2回。3人ともプエルタ・グランデ。


 9月12日(水)

 一昨日はTVは夜中台風情報を流し続けたが、今日のアメリカで起こったテロをずっと放送していた。ドルは対円、対ユーロで売られ値下がりした。ニューヨーク株式市場は取引を停止したが、市場が開いていたヨーロッパ各国では軒並み株が大暴落した。ドイツでは、10%以上の大暴落を記録した。石油価格は高騰した。恐らく東京の株式市場は閉鎖されるだろう。為替市場も同じだろう。世界は今、大混乱している。

 11日の結果。 アルバセーテ。ポンセ、耳2枚。プエルタ・グランデ。マヌエル・アマドール、口笛。セルヒオ・マルティネス、耳2枚。プエルタ・グランデ。 ムルシア。カバジェーロ、耳1枚。ペピン・リリア、耳1枚。エル・フリ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。バンデリジェーロ、アンヘル・マハノ、重傷。 バジャドリード。マノロ・サンチェス、耳なし。エウヘニオ、口笛。アベジャン、耳なし。


 9月13日(木)

 昨日である。朝出勤の時に、あるホームで飛び込みがあって電車が遅れた。僕はそのホームから乗らないと行けなかった。山手線が止まっていたので中央線で東京へ。東京に着いたら山手線が思ったとおり動きだしたのでそれに乗り問題の駅へ。放送が流れていないのでホームへ。ホームでは、「お急ぎの所、大変ご迷惑をかけております」などとアナウンスが流れる。ホームのある場所には立入禁止のテープを持った警官が何人か立っていてその前には電車を待つ人が沢山いた。

 線路に係員が2人いて、1人は大きなビニール袋を持ち、もう1人は下を見て線路内で何かを探しているようだった。始めは何も落ちてないように見えたが、良く見ると係員が何かを拾っていた。拾っているものが人間の肉片だと気づいたとき、玉が硬くなるのを感じた。腕や足、首、目、耳などといった見てすぐ判る肉体の部分ではなかったが、二本ある線路のホームよりの外側に、飛び込みで破れ散った肉片が付いている皮が垂れているのを見たときぞっとした。

 そんなのもう見たくないと思い、喫煙所に行ってタバコを吸っていると、「只今遺体を搬出して、遺留品を捜しております。今しばらくお待ち下さい」と、アナウンスが流れた。馬鹿野郎、遺留品じゃなくて肉片だろう、と思ったが、タバコの味が良く分からない。現場にはあまり血痕が付いていなかった。だから、みんなホームから見ていたんだろう。注意深く見ないと、肉片とは判らなかったかも知れない。階段に並んで見ている人も沢山いた。あんな事件がアメリカであった次の日だったのでなおさら思った。

 世界貿易センタービルや、ペンタゴンなどの現場ではこのホームで感じる何倍、何十倍以上の玉が硬くなる惨状があるのだろう。死などを意識しない生活の中で死んでいった人々。飛び込みによって自ら命を絶つ人もいれば、そんなことをまったく考える暇もなく死んでいった人たちもいる。人間の生、あるいは死とは一体何なんだろうか。

 その日の昼飯が食えるかどうか心配だったが、肉ではなく、魚を食べたので吐き気などはしなかった。あれが飛び出した眼球、割れた頭から見える脳、もげた腕や足、腹から腸などが飛び出ているところを見ていたら食事が喉を通らなかっただろう。

 今日はHPを作ってネット上で公開して3年目にあたる。どうやら3万アクセスを記録したようだ。1年目が、6372。2年目が、15407。だった。3年目で30000を越えた。年々増えてきているが、HP発表前は1年で10000アクセスを越えるだろうと思っていたので開いた直後は、あまりに少ないアクセスにガッカリしたが、考えてみればスペインの、しかも闘牛という限定された世界のHPなので、興味を覚える人自体が少ないようだ。今では、何故1日に50くらいのアクセスがあるのが不思議に思う。ともあれ、トータルで1年1万アクセスを記録したのは当初考えていたおぼろげな数なので、感慨もある。そして、この日は同時に、エル・フリが正闘牛士になって3年目という事でもあるのだ。

 10日予定していたNHK、『夢伝説』 ジャニス・ジョップリンは台風情報で、17日、月曜日に延期になった。21日NHKで21時15分から 『山田風太郎事件帖』 全9話が始まる。23日、日本TVの、「知ってるつもり」で山田風太郎をやる。忘れずにビデオをセットしておかないと。

 サラゴサのカルテルが発表になった。

 12日の結果。 アルバセーテ。フィニート、耳なし。アベジャン、耳要求。ハビエル・カスターニョ、耳なし。 ムルシア。ポンセ、耳なし。ペピン・リリア、耳2枚。プエルタ・グランデ。ホセ・トマス、耳1枚。 バジャドリード。カバジェーロ、凄い耳要求で場内1周、耳2枚。プエルタ・グランデ。モランテ、口笛。エル・フリ、耳2枚。マヌエル・カバジェーロのバンデリジェーロ、ゴンサロ・ゴンサレス、角傷を受け重傷。 バサ。オルテガ・カノ、口笛。エル・カリファ、耳なし。アルカサベノ、耳2枚。プエルタ・グランデ。


 9月14日(金)

 新宿の町をこの前歩いた人が言っていたが、以前に比べると人通りが少なかったと。あの火事の影響があるようだ。今、ニューヨーク市内も人通りが少ないそうだ。あんなテロがあったからだ。一体何処が安全で何処が危険なのか判断の基準が判らない状況になっているのかも知れないが、生活というものは変わることなく続くもので穏やかに暮らしたいと望む人が多いのだ。

 そろそろ秋の味覚を感じさせるものが店頭に並んできた。早速、栗を買ってきて食べた。大粒の栗を歯で噛んで食べるのは、何だか懐かしささえ感じる。黄色い色が濃いもの薄いものがあり、濃いものの方が美味しそうに見えるがそれこそ様々で栗一個一個が個性的だ。美味いものに当たると嬉しいし、不味いと次はどうだろうとまた手を伸びてしまう。そんな繰り返しで栗を食べた。子供の頃は、おばあちゃんが満月の日に十五夜の供え物でススキを取ってきて栗や芋などを一緒に添えて、それから食べたと記憶する。

 東京に住んでいるとススキなど見ないし、月でさえ仰ぐことが少なくなったが、秋の味覚はこれから本番にはいる。天高く馬肥ゆる秋!競走馬もこっちに帰ってきて闘志を燃やしているだろう。馬も一夏を過ぎて逞しくなって牧場から帰ってきただろうし、飼い葉代を財布に詰めてそろそろ競馬場に行こうかな。馬糞の臭いを嗅ぐと自然を感じられる。都会にあってそういうものに触れ合える場所が少なくなったので競馬場は貴重な空間になったということだろう。馬券を離れれば気持ちの良いところだ。

 13日の結果。 アルバセーテ。ホセリート、耳1枚。ヘスリン、耳1枚。カバジェーロ、耳なし。 ムルシア。エスプラ、耳を与えないプレシデンテに罵声。ペピン・リリア、耳2枚。プエルタ・グランデ。パディージャ、耳1枚。 サラマンカ。エル・コルドベス、耳なし。ロペス・チャベス、耳1枚。ラファエル・デ・フリア、耳なし。 バジャドリード。ポンセ、耳2枚。プエルタ・グランデ。ホセ・トマス、耳1枚で場内2周。エル・フリ、耳1枚。 グアダラハラ。エル・タト、耳1枚。ミウラ、耳なし。ヘスス・ミジャン、耳1枚。怪我。


 9月15日(土)

 今日は物凄く疲れた。足が攣りそうだ。風呂入って寝よう。と、思ったが、TAKEさんから教えて貰った文芸春秋を買ってきて、「夫・山田風太郎の臨終まで」を読んだ。涙が出てきた。結婚当初から、「僕の小説は読まなくていい」、と言われて夫人はまったく今まで読まなかったそうだ。家の中では仕事をしていても、仕事の話は全くしなかったそうだ。江藤淳とは大違いだ。彼は書いたものを真っ先に妻に読んでもらい、感想を聞いていたのだそうだ。自信がなかったのだろうか。風太郎は自分の書いたものを読者が面白がるのを不思議がっていたそうだ。

 何かに書いてあったが、「僕は書いてしまったら後は知らない。どう評価されるか全く気にしない」 と言っていた。一見自信がないように聞こえるかも知れないが、これほど自信があることはないと思う。勿論それは徹底的なマイペースがベースになっていくのだろうが。そういうことすら、人を喰っているのが風太郎だ。風太郎夫人はこれからは時間が出来たから少しずつ読んでいこうと思ってます。と、言っている。50年近く夫婦喧嘩をしたことがないと言うもの凄いものだ。

 「私もとりたてて感謝の言葉をかけられたことはありませんが、山田風太郎の妻として五十年近く、本当に幸せでした。」で、終わる眈々とした文章が2人の共に過ごした人生に似て、感動する。風太郎の小説を支え続けた生活は実に平凡極まりない様だが、1日に2回寝る生活で出筆活動をし、それを支え続けた奥さんの凄さも、風太郎に負けるものではないのかも知れない。

 人生とは徹底しないとダメなのかも知れない。疲れていて頭が上手く働かない。寝よう。

 掲示板に、フランスのニームにいる人からの書き込みがあり、ヨーロッパはアメリカの同時テロに、喪に服す為、闘牛が中止になったそうだ。フランスとスペインは、考え方が違うようだ。

 14日の結果。 サラマンカ。ヘスリン、耳なし。カバジェーロ、耳1枚が2回。プエルタ・グランデ。エウヘニオ、耳なし。 バジャドリード。ホセリート、耳なし。ポンセ、場内1周。フィニート、耳1枚。 グアダラハラ。ウセダ・レアル、エル・レンコ、耳なし。ファン・バウティスタ、耳1枚。 カダルソ・デ・ロス・ビドゥリオス。ファン・モラ、耳なし。フェレーラ、耳1枚、耳2枚。プエルタ・グランデ。ヘスス・ミジャン、耳なし。 カサルビオス・デル・モンテ。ホセリジョ・デ・コロンビア、口笛。カナレス・リベラ、耳なし。パディージャ、耳2枚。プエルタ・グランデ。 カステジャル・デ・サンティアゴ。エル・タト、耳1枚、耳2枚。モレノ、耳2枚、耳1枚。アニバル・ルイス、耳2枚。3人ともプエルタ・グランデ。 セエヘン。ペピン・リリアのウニコ・エスパーダ。耳1枚、耳2枚、耳2枚と尻尾1つ、耳1枚、耳2枚と尻尾1つ。プエルタ・グランデ。


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