断腸亭日常日記 2000年、その2

−−バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で−−

por 斎藤祐司


過去の、断腸亭日常日記。  −−バーチャル・リアリティーとリアリティーの狭間で−−

太い斜字で書いてある所は99年のスペイン滞在日記です。

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2000年1月1日〜15日

 1月16日(日)

 ラグビー大学選手権の結果が新聞に載っていた。昨日言った大西一平のコメントは、精神で上回った、となっている。ラグビーに対する個々の理解力では関東学院が上回ったがそれをくつがえしたのは慶應の精神の充実だそうだ。

 全く理解の出来ないコメントだ。関東学院のラグビースタイルは個々の能力に頼った昔ながらのラグビーだ。これは新日鐵釜石に代表されるラグビーなのだ。釜石は、僕の地元なので大好きなチームだった。あの頃は、そんなことはあまり考えなかったが今は解る。それでは国内で勝てても、ナショナルチーム同士の試合では勝てないだろうと言うことが解ってしまった。

 今年優勝した慶應のラグビーは、日本に新風を吹き込んだ。豪州でプロコーチ免許を取得した林コーチが、相手チームのデータを作るのに自らコンピューターソフトを開発して入力。その情報を元に、学生が試合に必要なデータをピックアップした。ただがむしゃらに死にものぐるいで、魂のタックルをしていた昔の慶應とは、根本的に違うのだ。

 練習や合宿でも有効に時間を使って内容のある練習を繰り返せたのは、こういうコーチングスタッフがいたからだ。林コーチは、14年前の上田監督の教え子だ。右ロックの阿久根は、「ニュー魂のラグビーです。上田さん、林さんのお陰です。」と、言っている。このコメントに代表されるように、選手の自主性を重んじて1年やって来た結果だ。

 こういう態勢を作った上田監督の手腕がチームを1つにまとめ上げることが出来たのだ。日本のラグビーは変わるべきだ。その事を、慶應というチームが示しているように思う。

 今日の競馬の結果はクラシックや天皇賞には繋がらないだろう。行っていればあの馬券は取れたな。


 1月17日(月)

 5年前の今日阪神大震災があった。

 15日の結果。モレリア(メキシコ)。エル・フリ、場内一周、耳2枚。イグナシオ・ガリバイ、場内一周、耳1枚。騎馬闘牛士、ホセ・マリア・フエンテス、耳1枚。 パチュカ(メキシコ)。フェスティバル闘牛。アルミジータ、耳2枚と尻尾。騎馬闘牛士、パブロ・エルモソ・デ・メンドーサ、エロイ・カバソス、エル・フリ、耳2枚。ニーニョ・デ・ラ・カペア、耳1枚。ホルヘ・グティエレス、−。


 1月18日(火)

 今日も残業。明日は打ち合わせでもっと遅くなる予定。闘牛の面白いニュースがあるがそれは後日にしよう。

 城や中田がスペインやイタリアで活躍している。2人とも試合後の反省を忘れないところが良い。ジーコだったと思うが、こんな事を言っていた。一流の選手になろうと思ったら、今日のプレーを冷静になって分析して反省をしなさい。だったと思う。海外で若い内に自分の能力試す事の出来る人間はそうはいない。

 特に中田は、「イタリアに来て最低のプレーをしてしまった。」と、言っている。これが大事だ。そういうことが出来る選手が一流の一流になれるのだ。自信というものと、反省というものは、別のものではないのだ。

 16日メキシコの結果。マノロ・メヒア、口笛。マヌエル・カバジェーロ、耳2枚。フェルナンド・オチョア、野次。


 1月19日(水)

 夜中NHKで、『新日本紀行』をやっていた。もう25年以上前のドキュメンタリーだった。海で素潜りをする男達は褌姿だった。腰には網を下げ潜って取ったアワビを入れるために下げられていた。そんなに昔ではない日本にはそんな格好で仕事をする男達がいたのだ。資源保護のために、素潜りでしかアワビを捕ることが許されていなかった。

 そんな男達にその地域の経済が支えられていた時代があったのだ。岩手県九戸郡種市町は、当時日本の潜水夫の60%を輩出していた。そうやって出稼ぎで稼いだ金が家族と地域を支えていた。俺はあの白い褌姿の男達を逞しいと思った。そして冨田勲のテーマ曲が実に良くあっていた。映像を盛り上げる音楽だった。


 1月20日(木)

 死者の日、メスカル、誕生。死者の日があるのは、メキシコ、オアハカ。

 死者の日のお供え物は、死者のパン。死者の顔が付いている。祭壇に飾るのは自然界にある、火、土、水、風、を意味するものを飾るのが慣わし。蝋燭は火。「明日家に帰ってくる死者がお墓からの道を迷わないように来るようにこれを灯しておくんですよ」。祭壇に供える飲み物は、水を表し、野菜は土を表す。鮮やかなオレンジ色の花は死者の花。この地方にあるマリーゴールドの1種。それと骸骨の砂糖菓子。

 死者の日は、先住民族にとって重要な日。日本のお盆の様な日だ。そしてなくてはならないのがメスカル。竜舌蘭から造る酒。メスカルの1種がテキーラなのだそうだ。これは初めて聞いた。本当の飲み方は、レモンに、竜舌蘭に巣くっている虫をすりつぶしたものと塩と唐辛子を混ぜたものを着けて口に含みメスカルを飲む。美味そうな飲み方だ。

 この飲み方は、テキーラの飲み方に似ている。テキーラはレモンに塩を口に含みテキーラを飲む。こういう飲み方をするとテキーラが水のように入っていく。あまりに美味いので飲み過ぎになる。よったなと思う寸前に止めた方が良い。そうしないと腰が抜けても知らない。メスカルを本当の飲み方で飲んでみたい。うめえーだろうな。映画『イージー・ライダー』のジャック・ニコルソンの様に、「ニック、ニック、ニック・・・」と言って喜びの声を上げるだろう。

 メスカルを造る職人、プラシドは、「生まれることは死ぬことにとても関係していますから。死も生きることの一部なんです。僕も、僕の回りの人もやがては死んで行くんですから」と、言う。

 かつて、オアハカで奇妙なものが発掘された。紀元前に作られた、生と死の顔。この顔は向かって左に生きているときの顔が、右には死んだときの顔が描かれてある。死は生の一部であると、言う考え方は古くからあった考え方なのだ。死を身近に感じ、しかも死を敬う。それが死者の日だ。

 死者の日の翌日、プラシドに長男が生まれる。これで跡継ぎが出来た、と言っていた。息子の手を触りながら、わかるぞ、働き者になるぞ。と、喜んでいた。この言葉がジーンと来た。良い家族だ。こういう当たり前のことを日本の家族は忘れていないだろうか?労働は素晴らしいことなのだ。人のために役立つと言うことは素晴らしいことなのだ。人に支えられ人を支える。そういう喜びが、生きる支えになっていく。

 スペインに行って闘牛を観る。まさにそれは、死は生の一部だと言うことを感じるだろう。だから生も際立ち、死も際立つのだ。生きることは素晴らしい。当たり前のことだけど本当に素晴らしいのだ。


 1月21日(金)

 残業の帰りの電車で競馬新聞を読む。G1の時は始めに見るのは馬柱。それ以外の時は、清水成駿の、今日のスーパーショットから読む。今日はそれを読んでいて思わず笑ってしまった。

 「 かつて競馬にしろ競輪にしろギャンブル・ファンは、いつも怒っていた。頭に鉢巻きを巻いた親父だけではない、銀行員も学校の先生も鉢巻き親父以上に罵声をとどろかせていた。たまに決まりそうになれば、そのままと大声で叫び、外れればバカ野郎か八百長である。そんな怒りが重賞レースでは、地の底から沸き上がる大歓声となった。競馬場には喜怒哀楽が渦巻き、何にも替えがたい自由があった。

  だが今は紳士に淑女、それにジーパンの若者。罵声が横断幕に変わり、怒りは手拍子にかき消された。昔に比べれば本当に大人しい、馬券を買っているのだろうか?」

 ここで初めの笑いが出た。

 「 いや、競馬ファン自身が、今の日本に口を閉ざしたように、怒ることを忘れてしまったのだ。ワイドで当たって照れくさそうにフフッでは、日本も競馬も良くならない。だから大阪府民は先ず投票に行こう。知事選は民度を問われるのだ。」

 で、また笑った。競馬予想なのにこんな文章を書く予想家もいるのだ。競馬は文学である。自分の経験を記したのが私小説。競馬は、今の自分を記していく、記述と現実が同時に進んでいく文学なのだ。だからこそ競馬は、個人個人それぞれに違う形で存在するのだ。「100万人がダービーを観るなら、100万人のダービーが存在するべきだ」 と、言ったのは寺山修司だ。

 アーでも、明日競馬に行けないんだよな。


 1月23日(日)

 恵まれた環境、そうでない環境。様々な環境で人々は働いている。

 フジTVの『ドキュメンタリー』では、中学を卒業して板前になった子達の事をやっていた。30人近くが3年前の4月に入社し残っているのは2人。厳しい職場だ。毎日が怒鳴られ、叱られ、自分の不甲斐なさに涙する。

 母親と妹3人で育った子は、板前の給料では仕送りの金が少ないと、止めて建築現場の作業員になって家族を支える。「あそこで働いていた頃の方が生き生きしていた。でも、(母親は、人工透析をやっているので働けない)板前には未練はないです。」と言う。 もう1人は、地元に帰って親戚の店の調理場で働く。「やあ、東京は良いですよ」 その彼が、1年降りに東京に出てきて、店を訪ねる。

 親方は、快く向かえ、同期の2人に料理を作らせ食べさせる。食べ終わって「いやー、まだ僕の方が上手いと思ってたけどダメです。追い抜かれてました。」と、言う。店で入社して半年後の調理試験では、彼が1位になった。今残った2人はその時男でビリと女でビリの子だ。ビリの子が残ったが店で教わるので腕は上がる。料理を食べた子は、「正直まだ自分の方が腕が良いと思ってましたが、負けました。」と言っていた。地道な努力は成果を出す。

 何故だろうなぁ、オイラはこういう不器用な、そしてひたむきな子が好きだ。不器用な子は謙虚だし真面目だ。親方は、「人生マラソンだ。」と、言ってこの2人を励ます。

 宮沢賢治の詩を思い出した。  「 これからの勉強は泣きながら体に刻んでゆくことなんだ それがやがて大きく芽をふいていく 」 そんな詩だった。これは学校を卒業した生徒に宛てた詩の一部だ。

 美浦トレーニングセンターの藤沢和雄厩舎所属、北村宏司騎手は、去年37勝をあげて東西を合わせた新人賞を獲得した。チーム藤沢は、調教には岡部幸雄、横山典弘などの実力ある騎手が調教を着ける。この中でG1馬にも乗って一緒に調教する。わからないことがあれば、先輩の岡部、横山両騎手に聞けば殆どのことがわかる。

 北村騎手は、リーディング・トレーナーの藤沢和雄のもと、騎乗技術に磨きを掛けて去年以上の成績を上げようと努力している。今日も1勝をあげた。恵まれた環境にいてもダメな奴はダメだ。努力だけではどうにもならないものもある。一流とはそういうものだ。北村騎手には、恵まれた環境だけではない才能がある。が、写真家の浅井慎平は、「二流だったら誰でもなれる」と、言っている。だから、一流になれない人は、二流になればいいのだ。

 サラリーマン社会の日本でこうやって職人が輝くのは良いことだと思う。俺は、サラリーマンより職人が好きだ。いい加減さと、妥協できない面を持っている彼等がどうしようもなく好きだ。闘牛士も職人の一種だと思うが。

 所で、朝のTVに江川紹子さんが出ていた。オウム事についてコメントをしていたが、違うときに今まで見せたことのない様な反応をした。あの冷静で論理的な語り口の彼女が、女子大生のように驚いた表情などして異常に明るかった。恋でもしているのだろうか。とても幸せそうな感じだった。


 1月24日(月)

 仕事が終わったのが22:30。帰りの電車では寝ていた。駅について腹が減っていたことに気づき飯を食って家に着いたのが0:30を廻っていた。今日一体何が起こったのか知らない。ニュースを見れないので判らないのだ。3時間以上コンピューターを操作していたのに結局全部終わらなかった。明日早めに行って仕上げることにしよう。リベラ・デ・ドゥエロでも飲んで寝るか。


 1月25日(火)

 小雪が舞う肌寒い1日だ。今日から夜の仕事になる。寒いだろうな。

 23日の結果。メキシコ。エロイ・カバソス、耳1枚、耳2枚と尻尾。エンリケ・ポンセ、耳1枚。 ボゴタ(コロンビア)。ネルソン・セグラ、−。セサル・カマチョ、耳1枚。エル・ヒノ、場内一周。


 1月26日(水)

 寒い夜だった。顔も手も足も寒かった。でも、1番寒いのはオイラの懐だ。さみ〜い。

 朝、上がって朝食はマクドナルドでホットケーキ・セットを食う。疲れていると甘いものが食べたくなる。これからこのパターンだなきっと。朝昼が逆転したので腹の具合が悪い。糞詰まりの状態だ。ああ快便がしたい。


 1月27日(木)

 雑誌アエラの電車中吊り広告はいつも面白い。中吊りの下の部分に一行添えられている言葉が面白いのだ。

 アレフ思議、まだ「尊師」とは。

 オウムも名前を変えて誤魔化そうと画策していたが、上祐とアーチャリーが上手く行かなくなって誘拐事件を起こしたりしている。内部崩壊していくのだろうか。血を分けた兄弟同士の覇権争い。茶番だ。

 また、ナンバー最新号は、丸ごとラグビー特集。久々に買って読むことにしよう。


 1月28日(金)

 寒い日だった。どうやら日曜日も出勤になりそうだ。でも、競馬には行くぞ。

 ナンバーのラグビー特集は、読んでいると泣けてくる。特に慶應の所が良い。それと大西鉄之祐の事を書いている、「語り継がれる理由」は、改めて大西鉄之祐の考え方や実績を教えてくれる。


 1月29日(土)

 とても信じられない事件が起きた。10年前、9歳の時に誘拐され19歳になるまで犯人の家の2階に監禁されていた女性が発見された。衰弱して入院した。怖くて逃げれなかったと言っているが、いわゆるストックホルムシンドロームになっている模様で真相解明には時間が掛かるかもしれない。それにしても想像を絶する事件だ。不謹慎かも知れないがこの事件は小説や映画になるだろう。

 もう一つ事件の主犯と思われていた小松和人容疑者が北海道の屈斜路湖畔から溺死体で発見された。逮捕されている実兄が口を噤んでいる状態なので、こちらも真相解明には難航しそうだ。この事件はストーカーと言うより言うことを聞かないから、殺した様な非常に身勝手さを感じる。それと殺人実行犯達の動機なども不明だし、指示を出したとされる実兄がどういう考えだったのか・・・。


 1月30日(日)

 「 なぜ負けたのかと反省しても競馬にはキリがない、キリがないほど負けるからだ。だからどうやって当たったのかを忘れないことだ。勝因分析は数に限りがあるがあるぶん効率が良く、少なくとも健康的だ。これからは馬も人も粗探しはヤメにして、いい面だけを見ていこう。こんな時代だから、ふと思うのである。 」 −−清水成駿、今日のスーパーショットより−−

 清水成駿は、また笑わせてくれた。「いい面だけを見ていこう。こんな時代だから」と言う。話の初めを落語ではまくらと言う。清水はまくらが上手い。本当にこんな時代だからと言いたくなるようなご時世だ。

 今日は東京と京都の重賞の本命は共に藤沢厩舎のシンボリインディとスティンガーだった。共に前走G1で大敗していたが、当然勝なけれがならないレースだったがシンボリインディは9着に沈み、スティンガーはハナ差の苦勝だった。馬券はなかなか上手くは行かない。

 今日は仕事でトラブルが発生して休みになった。明日のことはまた明日にならなければ判らない。


 1月31日(月)

 神戸製鋼が5年降りにラグビーの社会人大会で優勝した。阪神大震災の2日前に日本選手権7連覇を達成して以来の優勝だ。オリックスが腕に、「ガンバレ神戸」と復興を願って着けていた。震災以来の優勝だ。

 レアル・バジャドリードは首位のデポルティーボに 4:1 で勝った。城が活躍してアシストを記録した。後半交代したが、ホームの観客はスタンディングオベーションして城を向かえたそうだ。監督は、「城は要求したことをすべてやってくれた」と合格点をつけた。「今日は耳1枚をやって良い」と、闘牛士になぞらえて言ったそうだ。信じられない結果だが城はバジャドリードの救世主になるのだろうか?これでバジャドリードは1部残留圏内に順位を上げた。ビア・デヒタルで闘牛放送を担当するディレクターであり、アナウンサーの、フェルナンド・フェルナンデス・ロマンと、解説の元闘牛士、ロベルト・ドミンゲスはバジャドリード出身。2人も喜んでいるのだろうか?

 まだ、火祭りのカルテルは発表になっていない。

 アハルビル(MAD)の結果。29日。マリアノ・ヒメネス、場内一周。ファン・ホセ・トゥルヒージョ、−。ミゲル・マルティン、−。

 サン・クリストバル(ベネズエラ)の結果。27日。ファン・モラ、耳3枚。マヌエル・カバジェーロ、耳2枚。オットー・ロドリゲス−。 28日。レオナルド・ベニティス、耳1枚が2回。ハビエル・コンテ、耳2枚。ミゲル・アベジャン、場内一周が2回。 29日。ホセ・ルイス・ボテ、−。ダビ・ルギジャーノ、耳2枚と尻尾(インドゥルト)、耳1枚。エル・マラビノ、−。

 メデジンの結果。29日。ファン・モラ、耳3枚。ウセダ・レアル、耳4枚。パキート・ペルラサ、耳2枚。 ボゴタ(コロンビア)の結果。30日。ネルソン・セグラ、耳1枚。ウセダ・レアル、−。エル・フリ、耳1枚。 モレリア(メキシコ)29日の結果。パブロ・エルモソ・デ・メンドーサ、耳4枚と尻尾2つ。


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