台湾日記  2005年4月〜
 
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4月27日
6次の隔たり
○ 以前に「複雑な世界、単純な法則」という本を紹介した文(4月10日分)に、「台湾つれづれ」の愛読者のXさんが、「この本は怪しいのではないか」という貴重な意見を寄せてくださいました。

○ 正直に言うと、Xさんのコメントを僕が完全に理解している訳ではありませんが、やはり紹介した本に対する批判的見解というのは、他の読者のためにも大変貴重だと思いますので、そのまま掲載させていただきます。


台湾つれづれの一読者です。台湾企業が日本企業とは異なる成長戦略を持っているという、後にoresightにも載りました記事、会社のたばこ部屋で大いに話題になりました。

そのお礼を兼ねて、6次の隔たりの法則につきまして、一言。

6人で繋がること自体は事実ですが、この法則を不用意に一般化するのは危険であることが知られています。ご紹介の記事を読んだ限りでは、ブキャナン氏の本には怪しさを感じます。

べき乗則、power law, Zipf's law, 80:20の法則、など様々な法則で呼ばれるこの分布、バラバシ先生という方が一般人向けのベストセラーを書いて有名にしたのですが、後にマンデルブロ大先生(フラクタルのあのマンデルブロ先生です)他から強烈な批判を受けました。「Power law分布の作り方は非常に沢山ある。だから、Aをしたらpower lawが出た --> Aがこの現象の原因だ、は成立しない」

ルーターの出線数はpower lawに従うことが知られています。でも、バラバシ先生が提唱した方法で作成した網と、実際のインターネットの物理リンクとを比較すると、power law以外にもある様々な重要な性質が再現できていないことが知られています。

「各人の投資の成功率を同じに設定して、みんなが投資を繰り返すモデルをコンピューターでシュミレーションすると、最終的に少数の金持ちと多数の貧乏人が確実に生まれる」という記述は、怪しい。原因と結果を取り違えている可能性を感じます。

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ご興味があれば、マンデルブロ先生の批判の要約。

正規分布というものがあります。非常に多くの現象が正規分布に従います。何故か?「中心極限定理という数学法則の教えによれば、雑多な分布を重ね合わせると、正規分布に近づくから」が答えです。

実はこの法則には限定がついています。「平均が有限の値を取る雑多な分布を重ね合わせると」が正確な記述です。

世の中には、事象の最大値 or 最小値が決まっていない事象が多数あります。川の流れ。貧富の差。ウェブのリンク。地震の大きさ。こうした事象の平均値は、0または無限大となります。

そして、平均値が0または無限大となる雑多な分布を多数重ね合わせると、常にpower law分布となることが、数学的に証明できます。ついでに言うと、power law分布と正規分布とを重ね合わせると、power law分布になります。Power lawは正規分布よりもありふれた存在なのです。


○ (らくちんのコメント)
Power lawについては、この本では述べていなかったように思います。原因と結果の関係についてこの本は、慎重に述べているようにみえ、そうならば、僕の紹介の仕方が悪かったのかもしれません。ただ、本当にこの本での記述がXさんの指摘した問題を完全に回避しているのか、判じかねます。いずれにしても、Xさんのmailで色んなことが分かり楽しかったです。ありがとうございました。


4月20日
反日デモ
○ 潜在的には長期、顕在化するのは短期。但し、16日のデモは、一線を越えた感があり要注意。とみます。

○ 日本の首相が代わっても、時の首相が靖国参拝をしなくても、後何十年と数年に一度は、こういう機運が盛り上がることでしょう。それでも、是々非々で根気よく付き合っていくべき隣人です。短期的には、今回は、中国の当局は、拡大しないように無事に収めるのではないでしょうか。内部の政治抗争がらみだとすると、話がややこしいですが、今までのところ、細かな行き違い程度ではないかと思います。

○ このように僕は、長期的には悲観的、短期的にはやや楽観的です。メディアでは、僕とは反対に、首相が代わったり行動を変えれば好転するかのような長期的な楽観視と、今すぐ反日運動が拡大する危険を強調する短期的な悲観視を混ぜたものが多いようですね。今後の動向を見てみましょう。

○ こんなコメントを僕がしていると、中国の人や、中国を知る日本の人が色々興味深いコメントをくださいました。ばらばらに紹介させてください。

○ 中国の人と、昔の中国を知っている日本人が偶然同じことを言うのを聞きました。一つは、「78年頃から90年頃まで、中国の人は、日本人大好きだったんだけどなあ。」と。高倉健と中野良子のファンで、おしんに涙した中国の人は、戦争を知っていても日本が好きな人が多かったようです。

○ もう一つは、「今回の反日の動きは、30歳代(または、40歳代)より年配の中国の人は、ほとんど参加していない」と。これは、先に述べた昔の親日的な時代を知っている人達という面もあるでしょう。別の言い方をすれば、天安門事件などを通じて中国当局の強力さを身にしみて知っている世代とも言えるでしょう。

○ 他に噂話を二つほど。「今回の件で、一番得をしたのは、北朝鮮と台湾の独立派だ。」という意見も聞きました。日本と中国の仲が悪くなって得をするのは、この二者だというのです。僕としてはなんだか、背中がむずかゆかったですが...もう一つは、「今回の件で、温首相は、いろんな面で株を下げた」そうです。なかなか、中国で政治家をするのも大変だと思います。

○ 最後に印象的な言葉です。ある中国の方は、「中国共産党は、史上最もプラグマティックな政党だ。」としみじみ述べておられました。プラグマティズム(実用主義)というアメリカの哲学があったことを思うと、なんとも、わさびの効いた言葉ですね。


4月10日
マーク・ブキャナン著「複雑な世界、単純な法則」(草思社)
○ ある人から知り合いをたった6回たどるだけで、世界中の人にたどりつける。つまり、ボストンの株式仲買人でも、イラクの看護婦でも、僕の、知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いだというのだ。これは、多くの実験で証明されており、「6次の隔たり」として、そこそこ有名になりはじめている。

○ この本が紹介する、ネットワークの科学によると、世界中の人間関係というのは、「スモールワールド」と言われるネットワークの形態をとっているので、たった6次の隔たりでつながることができるのだという。「スモールワールド・ネットワーク」は、詳しくは、この本を読んでもらうにして、考え方はとても単純で、少数の長距離リンク、もしくは、きわめて多数のリンクをもつハブだけでできてしまう。この「スモールワールド」は、各要素が何であるかをまったく問わない。脳のニューロンでも、ミシシッピ川の流れでも、インターネットのウェブのリンクでも、食物連鎖でもみんな同じだという。なんだか、人を食ったような話で面白い。

○ このスモールワールド・ネットワークの分析は、人間社会のあり方にもいくつかの仮説を提供する。その中で、僕が気に入ったのをいくつか挙げてみよう。
−金儲けの才覚に関係なく、貧富の差は生じる
−貧富の差は投資により増大し、売買により減少する
各人の投資の成功率を同じに設定して、みんなが投資を繰り返すモデルをコンピューターでシュミレーションすると、最終的に少数の金持ちと多数の貧乏人が確実に生まれるという。実生活の感覚にあうではないか。じっと手をみる。のは、僕ばかりではあるまい。

○ 1998年にノーベル物理学賞を受賞したロバート・ラフリンという人は、「物理学は、いま、還元主義から創発、すなわち、自己組織化の時代へと大きく変わろうとしている。」とまで、言っている。最小単位の基本的な動きを記述しようとしてきた物理学が、多くの要素の複雑なつながり方の中に、単純な法則を見つけ出そうとしている。

○ 僕には、そこまで高度なことは、よく分からない。ただ、世界を複雑だととらえ、その中に単純な法則を見出そうとする姿勢は、常に心がけたいものである。得てして、世界を単純だととらえ、そのくせに、複雑な法則をあれこれ講釈することが多いものだから。


4月6日
中国人の理解
○ これまでに何の縁もなかったのに、最近、急に中国のビジネスに関係し始めた人が増えているようだ。僕は、中国のスペシャリストでもないのに、そういう人から中国人をどう理解すればいいのか色々とよく聞かれる。仕方がないので、エヘンと咳払いを一つして、周囲に本当のスペシャリストがいないのを確認してから、もっともらしくいくつかのアドバイスをしている。中国ビジネスで大した成功したこともない者の、生兵法と思って真に受けずに読んでいただきたい。

○ 中国の人は、得てして日本人には、理解しがたい強烈な行動にでることがある。それを文化や民族性としてしまっては、思考停止に陥ってしまい、得るものが少ない。僕は、「日本人より頭のいい人が、日本人より貧乏な状況におかれたときに、よく考えて行った合理的な行動」と考えれば、80%は、理解できると思っている。これが基本線である。中国とのビジネスを始めたら、まず、この台詞を呪文のように唱えると、納得できることも多くなる。

○ ただ、これだけだと中国でメシは、食えない。中国でビジネスをして大きな失敗をしないためには、もう少し知らないと心もとない。僕は、「商業の原点」、「政治の原点」に照らしてみれば残りの10%くらいは理解できると思っている。商人の「商」は、昔々の中国の王朝の名前からとったという。中国の人は、まさに「血が商人」なのであろう。ものを買うときには、必ず相見積もりをとる。買うものの欠点を指摘し、値下げ交渉をしてから買う。お金はできるだけ後から払う。こうした原始的な商人の基本が徹底されている。また、政治も選挙のような乾いたまやかしの道具を使うのではなく、生々しい力関係と命をかけた貸し借りと面子のやり取りのなかで行われるのである。

○ さらに、スペシャリストといわれる人、中国で大もうけしようとする人は、残りの10%をどう理解するかでしのぎを削っている。今の政権をどうみるか、歴史をどうみるか、彼ら特有のメンツという感覚をどう理解するか、彼らの時間感覚を理解しているか、などが最後の決断の勝敗を分けるだろう。これは、僕にはもう手に負えない話で、アドバイスできることは、ほとんどない。強いて言えば、中国の現代史を読んで、各自なりに理解していただくしかない。例えば、「中国の歴史11 巨龍の胎動 −毛沢東vs.ケ小平」(天児慧)などが、面白い。


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