台湾日記 2002年11月〜
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11月17日
台湾に学ぶ
○ 昨日書いたが(ココ)、台湾の経済は、以前ほどは調子良くないが、日本よりもずいぶんマシだ。台湾の経済にも、高すぎる大陸への依存度や不安定な金融業界など構造的な問題もある。総じていうと、日本の経済の方が底力は、あるとは、思うが、日本も、役立つものは、なんでも学び、自分たちに合う形に「改善」して持ち込めばいいと思う。
○ 中位の台湾
台湾は人口23百万人。(ココ参照)小国とはいえない規模である。人口の少ないニュージーランドやアイルランドの例をひかれても、日本で実現できそうも無いことが多いが、台湾で実現できていることは、日本でも実現できる可能性が高いと思う。ここでは、部分的であれ、台湾で、よいなあと思うことを挙げてみたい。
○ 女性が職を持っている
殆どの家庭がいわゆる共働きである。転職をよくするが、奥さんも働いているので、旦那が職を失っても即座に家計が無収入にならない。いわば、セーフティネットになっている。IT関係の仕事では、女性は、営業などに多い。あるIT系台湾企業では、管理職も含め営業の9割が女性だ。そこの経営幹部曰く「営業と言うのは、コミュニケーション能力だ。コミュニケーション能力は、女性の方が高い。」と、さっぱりしている。その為に、色んなレベルの保育園がたくさんある。極端なものでは、0歳児を月曜日の朝から金曜日の夜まで預かるところまである。共働きなので、レストランも多く、外食をよくしている。そこで、そういう職の人に従事する人も多いことになる。
○ エンジニアの尊重
エンジニアを非常に大切にする。また、給料も高い。IT系では、技術者出身の社長が多い。日本では、技術者として能力の高い人でも管理者としての能力が高くないと偉くなれず、給料もあがらず、何かと思い通りにならない。日本企業は、ノーベル賞の田中さんを良い刺激として、人の管理なんてしたくない優秀な技術者を手厚く、居心地の良い環境においておく方法を考えた方がいいと思う。
○ 3−5年の中期契約
台湾がLCD事業を立ち上げるにあたって、日本人のベテランの技術者を競って雇った。そうした技術者は、日本では考えられない厚遇を受けて喜んでいる人が多い。人の管理にあまり気を使わず、思う存分研究と開発に専念し、しかも、時に経営会議にも参加できたりしている。ある台湾企業が終身雇用になじんだ日本人に対応するために考えたのが、3−5年の長期契約である。日本人技術者は、金額よりもそうした技術者としての好環境と3−5年の中期的な身分の保証を好むようである。だから、給料は、日本時代よりも良いものの、欧米系の企業の例や、その持ち込んだ技術に比べると意外な程に小さい金額なこともある。それでも、満足しているのである。
○ スピンアウト後の出戻り:ホイコーロー
台湾では、起業家精神が非常に旺盛で、大手企業の優秀な人材が会社を辞めて起業することが多い。驚くのは、そうした人が、事業に上手くいかないと、辞めた元の会社に再び戻ってくることが多いことだ。もちろん、会社によっては、(例えば半導体最大手のTSMC)戻ってくることを許していない。しかし、半導体のNo.2のUMCは、戻ってこられる。Acerグループなどは、戻ってくるの歓迎したりしている。確かに、外の風に当たって苦労もし、しかも、社内事情も良く分かっている人材なのだから、役立つに違いない。台湾では、こうして戻ってくることをホイコーロー(回鎬肉)という。なんでも、ホイコーとは、一度調理したものを再び鍋に戻すという意味で、ホイコーローは、ゆでて、その後で焼くからだそうだ。日本でも、なんらかの形でこの発想を使えないだろうか。
○ 個人投資家
台湾では、株式による直接金融の比率が高い。金融資産の23.3%が株式だ。(日本は、8.2%)しかも、株式の売買代金の86.1%を個人投資家が占めている。取引の最低単位での値段が安いので、家庭の主婦が、大根の入った買い物かごを片手に、買い物帰りに、証券会社に寄って、株を買っていく。日本でも、証券会社は、面倒くさがらずに、こうした客を育ててなければいけなかったのだと思う。
○ 標準化によるモノづくり
台湾のIT系企業は、とにかく標準品の部品を使って、ちょこっと差別化できるところをつけて、安くて大量に高品質な製品を作るのが上手だ。日本メーカーは、やたらと、特注品の部品を増やす傾向にあるが、台湾のメーカーは、できるだけ標準品を使おうとする。日本のメーカーに競合他社の使っている部品を薦めると、少しでも特別改良した部品を作ってくれと言われることが多い。台湾メーカーの場合は、競合他社が使っているなら、同じ部品を、供給して欲しいということすらある。そして、「まとめると量がでるから安くなるでしょ。」と念をおされる。僕はこれを台湾IT企業の「競争的共同購入」と呼んでいる。青木昌彦のいう「モジュール化」のメリットを最大限活用している。日本企業も全部とは言わないがもう少し取り入れてもいいと思う。
○ やわらかい規制
以前にも書いたが、宝くじになっている政府認定統一レシートを使って脱税を減らしたり、渋滞するのが分かっている日の前日の夜中に高速道路料金をタダにしてみたり、政府がユニークな規制、誘導をしていることを時折見かける。よく言えば「やわらかい規制」、率直に言えば、「人間の欲望によって動機付けられる誘導」を行っている。日本も大いに参考にすればいいと思う。日本の経済関係の省庁も、補助金、行政指導とは異なる、こういう一ひねりした政策実施手法も研究してみればどうだろうか。
11月16日
台湾経済の近況
○ 台湾の経済は、日本ほどは悪くないが、やはり調子がいいとはいえない。昨年は911事件があったので、前年比較となると、そこそこの数字が出る。しかし、春頃の景気回復の足取りは、ここにきて停滞している。最近幾つかのデータ出てきたので、自分の参考の為にも、掲載してみます。
○ まず、台湾実質GDP成長率・寄与度の推移。UFJが行政院主計処のデータにより作成したものです。今年の夏頃から調子は良くないが、僕個人としては、「立派なもんだ」と言うのが、率直な感想です。(資料は、みずほ総合研究所が、行政院主計処資料に基づき作成したものによる)
単位:%
伸び率
個人消費 | 政府消費 | 固定資本形成 | 輸出 | 輸入 | 実質GDP | ||
00 | Q1 | 7.5 | -10.0 | 9.5 | 14.2 | 11.7 | 7.9 |
Q2 | 5.3 | -12.8 | 8.5 | 19.1 | 19.4 | 5.1 | |
Q3 | 4.3 | 13.8 | 15.5 | 23.6 | 20.7 | 6.7 | |
Q4 | 2.5 | 15.2 | 2.5 | 13.6 | 6.9 | 3.8 | |
01 | Q1 | 1.1 | -7.0 | -8.7 | 1.4 | -5.0 | 0.6 |
Q2 | 0.6 | -0.0 | -16.5 | -7.8 | -13.0 | -3.3 | |
Q3 | 0.7 | -0.0 | -31.0 | -17.3 | -22.9 | -4.4 | |
Q4 | 1.7 | 2.2 | -23.1 | -6.4 | -13.5 | -1.6 | |
02 | Q1 | 1.6 | 0.1 | -14.4 | 2.4 | -6.3 | 1.2 |
Q2 | 2.4 | -0.7 | -5.4 | 10.1 | 4.2 | 4.0 |
寄与度
個人消費 | 政府消費 | 固定資本形成 | 在庫増減 | 輸出 | 輸入 | 実質GDP | ||
00 | Q1 | 5.0 | -1.3 | 1.9 | 0.8 | 7.0 | -5.3 | 7.9 |
Q2 | 3.0 | -1.8 | 2.0 | 1.4 | 9.8 | -9.3 | 5.1 | |
Q3 | 2.7 | 1.6 | 3.5 | -2.9 | 11.5 | -9.5 | 6.7 | |
Q4 | 1.4 | 1.7 | 0.7 | -3.7 | 7.2 | -3.4 | 3.8 | |
01 | Q1 | 0.8 | -0.8 | -1.7 | -0.7 | 0.7 | 2.4 | 0.6 |
Q2 | 0.3 | 0.0 | -4.0 | -2.1 | -4.5 | 7.0 | -3.3 | |
Q3 | 0.5 | 0.0 | -7.6 | 0.6 | -9.7 | 11.9 | -4.4 | |
Q4 | 1.0 | 0.3 | -6.2 | 0.1 | -3.7 | 6.9 | -1.6 | |
02 | Q1 | 1.1 | 0.0 | -2.6 | -1.3 | 1.2 | 2.8 | 1.2 |
Q2 | 1.4 | -0.1 | -1.1 | 0.2 | 5.6 | -2.1 | 4.0 |
○ 10月28日に、台湾の行政院経済建設委員会が発表した景気対策信号総合判断指数は、30ポイントで、過去2年7ヶ月で最高を示した。また、景気対策信号は6ヶ月連続して、安定を示す「緑」だった。しかし、経済建設委研究所処長も認めているように、比較の対象が911事件後なので、良い数字がでてしまっており、今後の景気は、先行き不透明のようだ。
○ 概して言うと、台湾企業も、「去年ほどで悪くはないが、良くないなあ」と思っているようで、さらに、日系の台湾進出企業となるとさらに良くない気分のようだ。尚、JETROのアジア・クイックDI調査結果によると台湾に進出する日系企業の業況判断については、次の通り。
よくなる | 変わらない | 悪くなる | DI | |
現時点 | 42.7 | 33.8 | 23.5 | 19.2 |
先行き | 27.4 | 42.3 | 30.3 | -2.9 |
今が悪いというより、先行きが悪そうだと心配している姿が浮かぶ。
11月11日
訪日ビザ申請
○ 李登輝前総統が訪日ビザ申請をした。台湾に住む日本人としては、日本政府がごちゃごちゃせずにすっきりビザを出すことを祈るばかりである。台湾人は、李登輝氏を好きな人も、嫌いな人も、この件でもたもたする日本政府には、一致して不快感を持つと思う。
○ 日本政府は、中国政府の反発が気になるようだが、そんなに心配する必要もないと思う。中国の外交は、立派だから、一旦、認めて入国してしまうと、そうキーキー騒がないのでは、ないだろうか。もし、大きく騒ぐようだと、李登輝氏の政治的存在感を増してしまう。
○ あるとすれば、本件を直接的には無視し続け、一見無関係のところで、しっぺがえしをすることだろう。例えば、木枠の検疫を強化するとか。そういう細かいやりとりこそ、日本の外務省の腕の見せ所ではないか。色々大変でしょうが、あんじょうやってくださいね。
11月9日
見直し
○ この台湾日記などでの僕の言動に関係する話を最近見聞きしましたので、少しここで、見直してみます。
○ まずは、道路料金値下げ(「台湾日記」 9月6日 ココ)に就いてです。11月6日付けの読売新聞の「下を走れ」という記事によると、高速道路料金が高すぎるので、トラック運送業者の8割が、高速道路の利用を減らしています。また、西濃運輸では、片道190km以内の運送は、高速道路を使わないようにしているとのことです。普段仕事で見聞きしたことに基づいて書いただけでしたが、サポートする資料を見つけ安心しました。やはり、今の高い高速道は、肝心の地域の産業振興に役立っていないといえるようです。「作ることが悪い」というよりも、「高いことが悪い。あんなに高いのなら作らない方がいい」というのが、僕の気持ちです。
○ 友人の西村康稔さん(HPは、ココ)が、「リスクをとる人、取らない人」(PHP研究所)という本をだしました。今年の夏休みに彼と会った時、僕の意見を言いました。この本の中でも、「新たな道路より利用度の低い道路の値段を下げるべき」と書いていて、彼も僕の意見に同意見です。他にも僕の考えを幾つか採用してくれており、ちょっと気恥ずかしい思いがしています。西村さん、ありがとう。
○ このサイトでは、何度も登場頂いていますが、かんべいさんが、10月1日の溜池通信のニューズレター(ココ)で、北朝鮮の動きについて書かれています。その中で、北朝鮮が拉致と核開発を認めたことをどう読むかという議論があります。僕は、北朝鮮にしてみれば、「桜の木を切ったのは私です」と言った感覚ではないかと思っています。この意見も、一部採用して頂いて光栄でした。
○ 貴乃花について、怪我をしたスポーツ選手を無理に復帰させるのはよくないと書きました。(「台湾日記」9月4日 ココ)先場所は、心配していた程のことはなく、大変な健闘ができて、良かったなあなどと思っていました。そうしたら、貴乃花は、やはり故障の具合が良くなく、来場所は出ないとのこと。こちらは、書いた心配が当たってしまい、とても残念な心境です。
○ 繰り返しますが、このHPは、事前承諾なくリンクフリーですし、意見の引用も大歓迎です。気にせずご利用ください。時々、励ましのメールなんぞいただければ、喜んじゃいます。
11月4日
ゴルフつれづれ
○ つれづれ想うに、ゴルフほど腹立たしい遊びはない。空振り、チョロ、テンプラ、シャンク。とかくこの世は、失敗には、名が多い。右に飛ぶなと思えば、スライスし、無ければ飛ばぬ場所でも、池があればそこに飛ぶ。思ったより倍も進むのは、パターだけ。挙句に、キャディが、ドライバーをやめた方がいいと言い出す。一句できました。
「ティーショット そっと差し出す4番ウッド」
○ ゴルフは、卑怯である。普通、テレビゲームでもなんでも、上手な人ほど難しい環境になる。しかし、ゴルフは、下手ほど環境が難しい。上手な人がフェアウェーの平らで打ちやすいところで打っているのを横目で見ながら、吾輩は、毎回ラフで体を斜めにして打たねばならぬ。たまにフェアウェーにでると、芝生できれいに浮いている球なんて慣れないものだから、ダフッてしまう。おまけに、みんなから「おひさしぶり」なんてご挨拶。
○ 吾輩は、山や森を愛する心優しき人間である。ゴルフ場は、芝生の緑がきれいで美しいと思う。歩くことも大好きだ。だから、吾輩は、12番ホールあたりでいつも思う。「玉さえ打たなければ、楽しい遊びなのになあ。」
○ ところがである。あろうことか、(ナガイフリノアゲクニ)、先日、ハーフ自己ベストがでて、コンペで優勝させていただいた。年齢程もある巨大なハンディがあったので、残り半分がいつもどおりでも勝っちゃった。(ヤダネエコノカキカタ、ヤダ、ヤダ)生まれてからこの方、子供の時からスポーツは、もちろん、他のどんな分野でも盾やら表彰なんてほとんどもらったことがないので、嬉しくて仕方ない。大人げなんてほったらかしで、手放しで喜んでいる。
○ しかし、調子よく回っていた時につくづく思いました。「ああ、他の人は、いつもこういう遊びをしていたんだ。同じパーティで同じようにニコニコ回っていても、みんなそれぞれが全然違う遊びをしていたんだなあ。」と。ちょっと、アジアの国々の経済に似ていなくも無い。
(らくちんは、出張の為、今週金曜日まで、更新とemailのお返事ができません。)
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