台湾日記  2001年11月1日〜
  
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11月4日
海外在留邦人
○ 外務省のサイトで海外在留邦人数が出ている。http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin
このHPのお得意様ののんたろうさんが、教えてくださった。よく見るとなかなか面白い。僕は、こういうのをこったグラフで見るよりも単純に数字が並んでいるのを見る方が好きだ。その方が、色々自分で想像がふくらんでいい。

ここでは、
在留邦人数=永住者+長期滞在者
   永住者=在留国より永住権を認められている日本国籍保有者
   長期滞在者=3ヶ月以上の滞在者で永住者でないもの
となっている。
従って、下の在留邦人数の順位が低くて長期滞在者数の順位が高い、ということは、永住者が少ないということだ。つまり、「長期滞在者数」で順位の高い国は、永住者が少ないという意味では、(「永住」に比べれば)短期の滞在者が多いことを示している。
ややこしいですな。役所の作る表というのは。

○ 国別在留邦人数上位1位

順位 国名 在留邦人数 国名 長期滞在者数
アメリカ合衆国 297,968 アメリカ合衆国 188,360
ブラジル 75,318 中華人民共和国 45,424
イギリス 53,114 イギリス 43,646
中華人民共和国 46,090 シンガポール 22,074
オーストラリア 38,427 オーストラリア 21,614
カナダ 34,063 ドイツ 21,237
フランス 25,574 フランス 20,632
ドイツ 25,021 タイ 20,405
シンガポール 23,063 大韓民国 15,751
10 タイ 21,154 台湾 13,613
12位台湾 14,041 20位ブラジル 2,674


○ 都市別在留邦人上位

順位 都市名 在留邦人数 都市名 長期滞在者数
ニュー・ヨーク 57,780 ニュー・ヨーク 46,339
ロス・アンジェルス 35,898 香港 22,399
ロンドン 23,560 シンガポール 22,074
シンガポール 23,063 ロンドン 19,804
香港 22,924 ロス・アンジェルス 17,680
シドニー 18,887 バンコク 16,345
サン・パウロ 17,723 シドニー 12,326
ヴァンクーヴァー 16,520 パリ 12,276
バンコク 15,785 上海 8,358
10 パリ 13,884 台北 8,297
11 ホノルル 12,564 ジャカルタ 7,734
12 サン・ノゼ 12,179 サン・ノゼ 6,159
15位台北 8,339 14位ソウル  5,866


○ 僕の住んでいる台湾は、在留邦人数で12位。長期滞在者数(大半は、おそらく駐在員及びその家族)で10位。どちらも韓国、タイ、シンガポールより少ない。台湾では、日本の物と文字と流行をよく目にするだけに、ちょっと意外だ。
また、国(地域)としての台湾は、韓国より在留邦人が少ないが、都市としての台北は、ソウルより多い。

○ では、台湾以外。
・ なんといっても、アメリカ、ニューヨークの在留邦人の多さが際立っている。
・ シリコンバレーと呼ばれるサン・ノゼの多さも目立つ。
・ 日本人は、アメリカ以外に海外に永住権をもつ人が、思いのほか少ない。在留邦人数で10位のタイで、もう、永住者数は、700人ほどしかいない。
・ ブラジルは、長期滞在者(=永住じゃないという意味では、比較的短期の滞在者)数では、20位だが、永住者も加えた在留邦人数では、2位になる。この移民の多さは際立っている。
・ あの小さいグアムには3,062人の在留邦人がいるが、インドには2,035人しかいない。
・ 僕の行って見た個人的な感覚と照らし合わせて都市別を見ると、大体5千人より少なくなると、日本人が長期間日本風に暮らすのがつらい。つまり、そこそこ食べられる日本食のレストランが4,5件はあって、日本の物がそこそこ手に入るというレベルだ。28位4,815人の北京では、そこそこ日本食屋もあるが、30位、4,121人のブエノスアイレスとなると、少しつらくなる。
・のんたろうさんの住んでいるドイツは、台湾より多いと自慢していた。ちょっとくやしい。理由は無いのだが...

11月7日
立法院選挙
○ 台湾では、12月1日の立法院の選挙(日本の国会議員の選挙にあたる)に向かって、激しい選挙戦が行われている。

○ まずは、ルールの説明。今回の選挙で選ばれた立法院委員の任期は、4年(従来は3年)。総定員は、225名。次のように、大選挙区制と比例代表制の組合せで選ぶ。
a)  
地区選挙大選挙区制:定数176。
 31区域で、定員1−10名。過半数の選挙区で定員5名以上。台湾原住民の定数8を含む。
b)全国区比例選挙:定数41。
c) 外国在住の国民からの比例選挙:定数8。
(政党ごとに一定の割合を女性にしなければならない。なんてルールがあるのは、おしゃれですね

○ ではプレイヤーの紹介。

政党 新党 国民党 親民党 民進党 台連
現有議席 112 20 66
同占有率 3.7% 51.1% 9.1% 30.1% 0.5%
最近の支持率 1% 10%強 約15% 20%強 5%弱
獲得議席予想 5以下 85−90 約40 80−85 約10
党首[後援者] 謝啓大 連戦 宋楚瑜 謝長廷 黄主文
[李登輝]
主な支持者 外省人 外/本省人 外/本省人 本省人 本省人
対中経済政策 中台統一 中国より あいまい 統一反対、
独立棚上
対中慎重
設立の経緯 国民党保守派
から分派
戦後共産党に破
れ大陸から避難
00年総統戦後に
国民党から分派
元反体制野党。 今年、国民党
から分離
現在の位置付け 外省人の党 最大野党。
豊富な資金力
利益誘導政治
地方、内政重視
少数与党。
現実路線に変換
財界支持
李登輝支持
者の党

* 台連(台湾団結連盟)は、国民党の李登輝支持勢力が今年結成したもの。
** 連戦、宋楚瑜、李登輝については、台湾日記の9月7日(ココ)を参照。

○ 論点は、何か。景気対策と対中政策が、大きな論点。
a) 経済政策
前回の選挙即ち、陳水扁総統就任以降、経済状態が悪化しており、経済政策への国民の関心は高い。野党である国民党は、経済が悪化したのは、与党民進党に経済運営能力がないからだと批判し、少数与党である民進党は、議会で多数を支配する国民党が重要な法案を通さないからだと野党を批判している。
b) 対中政策
対中国政策は、「中国から攻撃を受けないように、独立も統一もせず、経済発展を続ける=現状維持」という民意のコンセンサスに、各政党もあわせてきているので、主張の違いは少なくなりつつある。民進党も「独立」を棚上げしている。国民党から分離した親民党などは、あえて曖昧にしているほどだ。
c) 対中投資、経済規制
経済政策と対中政策がミックスした論点となっているのが、対中経済投資及びそれに伴う空洞化への対応である。これも民進党が、「戒急用忍」から、「積極開放、有効管理」に政策変更したので、違いが目立たなくなってきた。

民主的な社会の選挙の常で、選挙前に提示している政策をよく見ると、違いは実にわずかだ。しかし、選挙の後に実施される政策は、誰が政権を担当しているかによって随分違ってくる。

○ 選挙後の展開
いくつか、言われていることを羅列してみたい
民進党は、少数与党をなんとしても避けようとする。
現時点では、過半数を制する政党は無いと予想されている。
選挙後に所属党の変更の可能性がある。例えば、台連が、予想よりも多くの議席を確保した場合、国民党内の李登輝支持派が、台連に合流する可能性がある。
その上で、各党とも連立、共闘の可能性を模索すると思われる。従って、選挙後の合従連衡が選挙結果と同じくらい重要な意味をもつ。
−その合従連衡の結果、行政院長(首相)のポストをどこの党が受け持つかが当面の大きな焦点になる。

11月11日
野球W杯
○ ワールドカップ野球大会を見てきた。日本対キューバという好カードを自宅から歩いて見に行けるのだから、楽しい。ほんの2週間程前に、思いついたように行こうということになって、同僚がセブンイレブンに行くと簡単にチケットが手に入った。高橋は、見れたし、試合は、日本が勝つし、大満足であった。これは、10年たってもちょっとした自慢ネタに使えると思う。

○ チケットが簡単に手に入ったりしたので、観客は少ないのではないか、あるいは、たくさんいても殆んどが日本人だろうと思っていたら、満員で、しかも、台湾の人が大半であった。台湾での野球は、戦前に台湾の高校が甲子園にでたりして歴史もあり、人気もあった。しかし、プロ野球リーグがスキャンダルをおこしたり分裂したりしたおかげで、最近は、衰退気味のようだ。少なくとも、日本のように、朝の挨拶がわりに、昨日のプロ野球の勝ち負けを語る風景は無い。それでも、噂ぐらいはたつようで好カードとみて、人が集まったのだろう。球場も綺麗だし、若いカップルもたくさん見に来ていた。観客の様子を見ていると台湾が出ていないこともあるのだろうが、実に家庭的な優しいまなざしで見ていた。日本のように酔っ払いが野次を飛ばすということも無い。殆んど初めて球場に見にきた人も多かったのではないか。バックネット方面に高いファールが打ちあがると、その飛んでいるボールの高度に感心して観客が「ホー」と歓声をあげたりしていて、かわいい。

○ これから、見に行く人にアドバイスを一つ。実に台湾らしい話なので、行かない人も読んで欲しい。球場前では、まず、セブンイレブンとかで購入した購入証を、チケットに交換しなければならない。ここに行列が一つ出来る。それから、球場に入るところで、また行列ができている。この二つの行列にひっかかると、試合開始に間に合わなくなるし、座席は全席フリーなので、いい席がなくなってしまう。まず、チケットの交換は、試合のかなり前でもできるので、事前に交換しておくほうがいいようだ。次に、球場に入る行列だが、たくさん並んでいる行列とえらく短く並んでいる行列が入り口あたりで合流したりしている。つまり、一時間並んだ人と10分並んだ人が同時に入ったりする。ロープも張っていないし、行列整理の係員が少ないからこうなるのだろうが、ようく行列をみて、短い方に並んだ方がいいと思う。長い行列のほうも、実に整然とならんでいるのに、最後に、入り口当たりで短い行列とくっついてしまう。台湾では、ありがちなことで、「98%は、実にすばらしく、残りの2%が柔軟というかいいかげん」という典型的な例だ。このあたりの呼吸は、野球を見にくるような台湾在住の人ならよく分かると思う。あまりいらだたずに、「これこれ、台湾は」と納得して、短い行列に並びましょう。

11月12日 
選挙あれこれ(11月7日の台湾日記ココを参照)
◎静かな選挙
今回の選挙は、らくちんが思っていたよりはずっと静かだ。前の選挙では、のぼりが街のあらゆる道に立ち、タクシーは支持政党や候補の旗を立てて走り、職場では、指示する候補の旗を机の上に立てたりしたとのことだ。今回は、テレビでは、連日、演説と舌戦、それに集会の模様を報道しているが、街では、何事もないように静かだ。ちょっと不謹慎ながら、お祭りのような賑やか選挙を期待していたのだが、これまでのところ、日本の選挙よりも静かなほどでひょうしぬけしてしまう。理由を周囲に聞くと、色々ユニークな答えがあって面白かった。まず、経済状態がよくなくて運動資金がないからだろうという説。これは、程度の差はあれ大きな理由の一つだろう。次にでたのが、贈賄の仕組みが洗練されてきたので、宣伝に時間とお金をさくよりも、そちらにお金を使った方が効率的になってきた。というもの。特に、民進党が、これまでイメージに頼った選挙をしていたが、資金もそこそこできて組織的になってきたということを言う人もいる。個人的には、にわかに信じがたいが、さてどうだろう。僕自身は、先進国特有の政治的無関心の雰囲気が出てきたのではないかと思っている。また、経済状態が悪く、一般庶民も選挙どころじゃないといったところだろうか。

◎ 舌戦
さて、各政党のリーダー達の舌戦の模様は、このサイトを見て欲しい。
http://www.roc-taiwan.or.jp/news/week/105.html
こうした舌戦になるとどんな事象も政治の目を通せば、黒くも白くも見える。例えば、中国によりAPECへの欠席を余儀なくされたことも、色々な見方がある。これまで、選挙のときに行った中国の対台湾強硬策は、ことごとく、台湾の選挙民の対中嫌悪感をひきおこし民進党に有利に働いた。今回のAPECの件も、中国の失敗ではないかという人もある。
(なるほどザ台湾http://www.naruhodo.com.tw/ の編集長の意見 )
また、それを狙って、民進党がわざと強めに出たという人もいる。こうなると、素人の目には、駆け引きが微妙すぎて、ついていくのが大変だ。

◎ 支持層
○ 支持層は、大きくいって、外省人と本省人、地方と都会、財界経営者と一般庶民といった、軸がある。そして、それが、対中政策、経済政策などに反映している。

○ 地域別にいうと、南部即ち田舎に行くほど台湾人意識即ち「本土」意識が強く、民進党支持者が多い。特に、陳水扁総統の出身地である、古都台南は、民進党がとても強い。しかし、大都市台北では、若い人々に本省人・外省人の意識が弱いので、流動的だ。台北の若い本省人で、台湾語が余り上手でない人も多く、また、若い外省人で台湾語が上手な人も増えている。

○ 財界は、民進党支持が多い。民進党も反政府野党だったころは、クリーンで攻撃的だったが、政権を担当するとなると、穏健且つ、現実的に路線変更し財界の支持をつなぎとめる必要がでている。陳水扁総統が、第4原発の建設中止を決めたのも、ドイツ緑の党ばりの環境志向ばかりが理由ではなく、民間電力供給会社を営もうとする財界の意向が反映しているという人もいる。また、経済政策の名のもとに、対中投資に慎重であった李登輝の政策を変更し、「積極解放有効管理」に変えたのも、財界向けの政策の色が濃い。対中投資の規制緩和をしても失業率が下がるとは思えないのだから。

○ マスメディアは、外省人が多く、本省人の一部や民進党支持者は、国民党よりの報道が多く不公平だと思っていることが多い。これは、長い国民党支配の歴史のせいもあるだろうが、言葉の職業であるジャーナリストには、北京語のネイティブスピーカーである外省人が、有利であったからでもある。台湾のメディアの主張の違いに就いては、このサイトを見て欲しい。
http://tanakanews.com/b0910taiwan.htm

◎ では、最後に能天気な、らくちんの私見。
○ 一つは、大きな論点になっている「対中経済投資か本土回帰か」と言う論点。らくちんは、両方の議論を超えて「国際化」を目指すべきだと思う。これは、二つの意味を持つ。一つは、中国に関心が集中している経済進出を、中国以外の地域特に東南アジアに一部振り向けた方がいいと思う。中国という、台湾を基盤にする企業にとって特に政治リスクの高い地域に集中的に投資するのは、投資のリスク分散の観点からは、好ましくない。フィリピン、マレーシア等他のアジアの国にもう少し分散させた方がいいと思う。また、中国に進出したからといって、台湾の経済状態の改善に対し即効性は、無い。二つ目の意味は、そうはいっても、産業が高度化してくると、海外への投資は避けられない。闇雲に本土回帰を訴え続けても抗しきれないものがある。また、余り「本土化」をいうのも、外省人系の台湾人を悪い意味で刺激する。台湾内の人心の統合の為にも、「国際化」を表に出した方がいい。

○ もうひとつのらくちん意見。台湾の人には民主主義に寛容でいて欲しい。経済が悪くなると政治の無策を嘆く声が大きくなる。しかし、民主主義の社会では、そう大胆な政策が取れるわけではない。歴史的にみても、日本、アメリカ、イギリスどこでも、経済の回復に政治が果たした役割は、ごく限定的だ。経済の回復を政治のせいにするほどには、政治は、有効なものではない。民主主義は、史上最も非効率なシステムであり、それにもかかわらず、長期的な視点でみると比較的不幸の少ないシステムといえる。台湾の人々が、政治に倦んだり、民主主義にいやけがさしたりしないことを心から望む。

○ 「期待しすぎず諦めず」が、僕のような無力な市民が民主政治に向かう時の現実的な姿勢だと思っているのだが、いかが。

11月25日
IT裏話
○ IT関係の裏小話を二つ程させてください。

○ マクドナルドで子供向けのセットを買うとおまけのおもちゃがついてきます。そのおもちゃで使われているICは、立派なマイコンですが、たったの0.05ドル、日本円で6円程なのだそうです。あまりの安さに、驚いてしまいます。6円とはいっても、論理処理、記憶などコンピューターとしての機能は一通りもっており、25年ほど前なら、カバン程度の大きさで同等程度の機能を出せれば「コンピューター」として十分売れるような機能を持っています。まあ、一回の注文で2千万個なので、商売にはなっているのだけれどと言いつつ、苦笑いするメーカーの人の気持ちも分かります。

○ もう一つは、かなり信憑性が怪しいが強烈な話。マイクロソフトのビル・ゲイツが、ラスベガスで行われた業界最大の展示会であるコムデックスで、「タブレットPC」なる商品を大々的にプレゼンテーションしました。WindowsXPの技術を使って、キーボード無しに、リビングルームで誰もがパソコンを使えるという、ペン入力タイプのパソコンです。そのプレゼンテーションで、ビル・ゲイツが実際に使って見せたデモ機のOSは、実は、Windowsではなくて、競合商品のLinuxだったという情報があります。画面にでてくるところだけ、Windowsに似せて、作ったデモ機だということで、これが本当なら、ちょっとしたニュースです。僕自身は、どちらかというと間違いだとは思っていますが、情報源自体は、かなり近い筋からです。こういう話は、これ以上真偽を確かめずに小話として楽しむのが、いいと思いますがどうでしょう。

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