台湾日記  2001年9月1日〜
  
(台湾日記 バックナンバー 2001年6月2001年7月2001年8月


9月3日
タイに行く
○ タイに行った。私の愛しい台湾は、東南アジア的エギゾチズムと混沌とした活気の点で、あえなく負けてしまった。金属フレームをキラキラ輝かせた三輪車が黒い煙を出して走り抜ける。ビトンとプラダが所狭しと屋台に並ぶ。水商売の女達が、店先にでて「イラシャイマセ」と絶叫する。極彩色の装飾が街を覆う。

○ しかし、タイの人と一度接すると、アジア的な優しさと、穏やかな態度を、すぐに感じ取ることができ、心からほっとする。どこか懐かしいしっとりとした、人への接し方を見ると、ああ、アジアだなあと思う。両手を顔の前で合わせるタイのお辞儀は、美しい。

○ 歴史は、長くて豊富だ。建国以来独立を保ち続けている。中国とインドから文化的影響は受けられる近さだが、侵略は受けにくい遠い距離にあったので、適度な刺激を受けつつ独自の文化をゆっくりと醸成できた。この点は、日本に似ていなくもない。西洋列強からも日本からも侵略されずに独立を保ち続けた唯一のアジアの国。タイ人の政治的叡智の確かさを示す歴史だ。古い寺院や王宮を大切にしている。やはり歴史を大切にする国民には、何かしら畏敬の念が沸いてくる。失礼をしちゃいけないよねって。

○ たまげた商売があった。パソコンのソフトがずらっと並んでいる。これを買うというと、ちょっと待っていろと言って、その場でCDRにコピーを焼いて渡してくれるという。どのソフトも一律、150バーツ(=450円程)だ。オラクルだって、マイクロソフトのOSだって、クソゲー(くだらないゲームソフト)だってなんでもありで、なんでも150バーツ。未だ発売されていないWindows XPの開発中のバージョン(Build番号付き)まで出ている。

○ 話は、すっとんで、帰りの機内。ちょっといい日本の曲に出会い幸せになった。三木道山の"Life Time Respect"。 レゲエのDJが作った、関西弁のレゲエ、ラヴソング。酔いも手伝って、しびれてしまった。

○ 日記風に書くとこうだ。台湾の航空会社の運営する、バンコック発台北行きの飛行機内で、オーストラリアワインを飲みながら、黒人で初のアメリカ国務長官コリン=パウエルの自伝を読んでいると、ふと、イヤホンから、関西弁のレゲエがなり、感動してしまう。

○ グローバルやなあ。でも、やっぱり、関西弁ってええなあ。

9月4日
空洞化も花のうち
○ 台湾の企業がどこもこぞって中国に工場を建て始めた。統計によっては、上海近郊だけで、40万人の台湾人がいるという。台湾の人口が2300万人だから、台湾人の60人に一人は、上海近郊にいるのだ。もはや台湾タウンができており、そこでは、繁体字の看板が並び、台湾語で、話ができるという。また、台湾人の子弟用の学校すらある。そこで、台湾では、経済の空洞化が大変な危機として話題の的である。

○ ところで、中国の成長をアメリカが警戒し始めたと言われるが、大きく見ると、経済的には、アメリカと中国は、明らかに最も強い補完関係にある。日本もそうだろう。これに対して、タイを含めたアセアンの諸国は、競合関係にある上に、勝負はする前から、中国の勝ちが見えているような状態だ。最近では、10年前から逆転し、アセアンへの海外投資の受け入れ額合計より、中国の受入額の方が多くなっている。アセアンの国は、この「強い中国」を前提として、国づくりをしなければならない。気の遠くなるような現実に直面している。

○ ここで、やや真偽の程は疑わしい下品な余談を一つ。アジアでは、「アメリカンスタンダード」というブランドの便器をよく見かけるが、このブランド名が、前回の金融危機のときに話題になったらしい。タイの人にとっては、グローバルスタンダードと言われるままにやっていたら、結局アメリカンスタンダードの押付けに過ぎなかった。最後には、大変な目にあってしまった。と、まあこういう話なので、この「アメリカンスタンダード」なる便器が売れなくなったのかと思ったら、さにあらず。あの危機以後異常に売れたという。動機は、「用を足してうさを晴らす!」

○ 話を戻そう、では、中国との関係でいうと台湾は、どうだろうか。台湾は、香港・シンガポールに比べても、もともと製造業が強く、高い技術を持っている。少なくとも数年は、中国と補完関係にあるのは間違いないだろう。補完関係にあるからこそ、空洞化などという、現象が起こりうるのだ。そう思うと、空洞化などといっていられるうちが花と言えなくもない。なんて、第三者的なことをいうのかとお叱りを受けるかもしれない。しかし、第三者だからこそ、敢えて、言うのだ。空洞化が心配な程、台湾は立派な社会なのだと。もちろん大変だろうけれど、日本人ビジネスマンのした失敗などをよく研究し、慎重に進出すれば、こなせる可能性は、かなりあると思う。

○ タイの人々がこの現実の中でも頑張っているのだから、おいらも明るく元気にやらなきゃと思った勢いで書いてしまいました。

9月6日
98年の不況と今年の不況
○ 「溜池通信」というサイトで、今年の不況は、98年の不況とどこが違うかという、興味深い議論を続けています。僕も一言emailを入れると、載せていただきました。筆者の「かんべい」氏のコメントと合わせ引用します。(詳しくは、ココの9月5日あたりを見てください)

−−−−引用−−−−−−−−
(らくちんのemail)
経済論議、楽しく読んでいます。
98年のは、鋭い日本刀で切られたような痛み、でした。本当におれの首と胴はつながっているのかな、と一瞬考えるような沈黙がありました。今回のは、どしりと重石をのせられたようなつらさで、少し性質が違うと思います。

(かんべい氏のコメント)
これこれ。言いたかったのは、この感じなんですよ。「らくちん」さんはかんべえとご同業にお勤めですが、98年に多くのジャパニーズ・ビジネスマンが感じたあの動揺を、よく覚えていると思うんです。
−−−−引用終わり−−−−−

○ これは、僕だけのものかもしれませんが、98年のは、とにかく、何故か「しーん」と静かだった印象が、強烈に残っています。それまで、不況だ不況だと大騒ぎしていたのが、本当に「もしかしたら、日本がこわれるんじゃないかな」という思いを急にみんなが共有したとたん、黙ってコトリという物音にも耳を澄ましている感じがしました。こういうのが、経済危機なんだなあって、思いました。

○ 今年の不調には、このような、背筋が寒くなるような感覚は、あまりないかもしれません。どちらかというと、90年代前半の、ぼんやりとした、しかしながら、対応策の分からない、戸惑いとともに来た不況感に似ている気がします。それだけに侮ると根が深い気がします。90年代前半にも、「オイルショックよりましだぜ」という声を聞いたことを思い出します。経済の議論をこんな文学的な個人的な印象で語るのは、いけないとは思いますが、みなさん、どうでしょうか。

9月7日
台湾の政治家の人気
○ 台湾での世論調査の結果が出ていた。8月19日から23日の間に、明日総統選挙があるとすると誰に投票するかと聞いた質問に対して、次のような答えだったという。(Open Mgazine)この統計自体、信頼できるものかどうか僕にはよく分からないが、そんなに、ずれていないような気がするので、あげてみる。

陳水扁 (現総統、民進党主席)  31.3%、
宋楚瑜 (親民党主席)       26%
馬英九 (台北市長、国民党)   12.5%
連戦   (国民党主席)       10.1%
李登輝 (前総統、国民党)    2.9%

○ 国民党主席の連戦の人気が余りに低く、台北市長の馬氏にも及ばないのには、驚く。国民党の主席を馬氏に代われという動きがあるのも分かる。前回の総統戦に陳水扁に破れ、苦しい。有数の資産家の名門の出身で「優等生」、「おぼっちゃん」と言われている。

○ 馬英九は、国民党で台北市の市長。ハーバード大学博士。1950年生まれで、若くてハンサム。外省人であるが、たどたどしいながらビンナン語(台湾語)を話す。1998年に、台北市長再選を目指す陳水扁を破り台北市長となった。その時に、李登輝との掛け合い演説は、有名。李登輝「君は何人か」。 馬「私は、台湾の米を食べ、台湾の水を飲んで育った台湾人です。」 李登輝「そうだ、新台湾人なのだ」

○ 宋楚瑜は、元々国民党の幹部、現在は、親民党主席。1988年に李登輝を党主席にすべきだと、身を投げ打って主張し、それが為に、李登輝が国民党主席になれたと言われている。外省人だが、台湾省長時代に、地方振興策を行い民衆の人気を確実なものとした。田中角栄型政治家。前回の総統選挙の際は、中国政府から「宋楚瑜なら文句はない」というコメントがあったりした。

○ 日本人には、李登輝の低さが目立つかもしれない。これは、質問が総統候補を聞いているので、いまさら、李登輝を挙げる人が少なかったのかもしれない。「好きな政治家」と聞けば、もう少し高くなる可能性はある。ただ、日本人が思うほどには、人気が高くないことは、知っておいた方がいい。

○ この結果をいうと、「へえ、まだ、陳水扁が一番なの?」と驚く人もいる。経済の停滞が、人気をどんどん落としている。少数与党なので、難しいだろうなあとは思うが..

○ いずれにしても、12月の立法院(国会議員)の選挙まで、これから大変だ。

9月13日
テロ
○ テロの犠牲になったアメリカの方々の御冥福をお祈りするとともに、一人でも多くの方が救出されることを心からお祈り申し上げます。瓦礫の下で苦しむ人に対し何もできない自分にいたたまれない思いを感じます。

○ 台湾の人々は、米国で勉強したり勤めた経験のある人も多く、また、親戚の一人や二人は、アメリカに住んでいる場合が多いこともあり、みんな、本当に青ざめて驚き、アメリカに同情しています。

○ この数日は、言葉もつげません。では。

9月16日
911テロ事件の台湾での受け止め
○ いくらか問い合わせがあるので、台湾での今回のテロ事件の報道について、書いて見ます。

○ CATVのニュース番組は、連日ほとんどの時間、今回のテロの事件を報じています。番組の内容は、CNNの映像をそのまま使ったものが多く、ブッシュやパウエルの会見は、殆んど同時中継されていますし、時折、軍事や、中東情勢に詳しい台湾人の専門家のコメントを織り込むと言った具合で、構成は、殆んど、NHKやCNNと変わりません。新聞では、例えば、今日の「中国時報」の一面トップの見出しは、「全国進入緊急状態」サブタイトルが、「全球美軍総動員、将展開大規模報復行動」といった具合です。(全球=全世界、美国=アメリカ)

○ 強いて特徴を挙げれば、どこのニュース専門局も民放なので、飛行機がビルに突っ込んだ時の映像を、CMに入る度ごとに流すといった、やや刺激を強めた表現があります。また、この3日程は、もう戦争だといった雰囲気で、アメリカの軍隊の資料映像を頻繁に流したり、改めて軍事力の概要を解説したりしています。そういえば、これは、イスラム原理主義によるものだという決めつけた報道も、NHKよりかなり早かったようです。ただ、昨日今日は、例の沖縄あたりをうろうろしていた台風が台湾に上陸してきたのでその報道もかなり多く流れています。

○ マスメディアの報道の他にらくちんの周辺の友人知人から聞いた話を追加して御紹介します。

○ アメリカが今回の事件で忙しいので、その機に乗じて大陸中国が攻めてくるのではないかという話を時折聞きます。陳水扁総統も、そういうことをしないようにと中国に呼びかけたようです。一方で、アメリカが忙しい→台湾も独立を宣言しない→大陸も攻めてこないという人もいます。いずれにしても、こういう、議論をしなければならないというのは、平和ボケの許されない厳しい現実の中で暮らしている証しでしょう。

○ 日本は、企業からの駐在で米国に住んでいる人が多いようですが、台湾の人は、個人で移り住んでいる人が多いと思います。それゆえ、安否の確認は、日本のように会社で組織的に行うのではなく、かなり個人ベースになっていました。
ある人は、今回崩壊したビルの近くにチャイナタウンがあるので、親戚の経営しているレストランの30%が壊れたと話してくれました。
また、親戚がニューヨーク郊外に住んでいて、電話連絡ができたのだけれども、その親戚の旦那さんが勤め先のマンハッタンにから丸一日帰ってこなくて心配した。という話も聞きました。

○ 今回の事件で、改めて感じたのですが台湾の人は、生活レベルでのアメリカとのかかわりが深いといえます。
− アメリカに住んでいる親戚がいるという人が非常に多い
− IT産業を中心に、米国留学経験者、在住経験者が多い。従って、アメリカに友人が多い。
− 大陸中国からの攻撃があった場合、アメリカの支援が命綱だというのが、常識として定着している。
− ビジネスとしても主要な客先は、米国であり、アメリカの経済状態の影響が台湾の経済状態に直接反映する。
自分達でも、最もアメリカと縁の深い社会の一つだと自覚しているようです。
最も親アメリカ的な国として、台湾が次のテロの標的になるのではないかと話す人もいます。高いビルは、危ないのかなあという話がでたりしています。

○ 最後に付け加えると、事件のあった9月11日をとって、今回の事件のことをさす時に「911」を冠する事が多いようです。例えば、「911驚爆全球」 (全球=地球全部、世界中)、「911恐怖攻撃」というように使われます。 

9月17日
パウエル国務長官
○ 最近例のテロ事件に関係してよくテレビに出てくるアメリカのコリン=パウエル国務長官の自伝をたまたま読みかけていて、色々、考えさせられる。(角川文庫で、「マイ・アメリカン・ジャーニー」のタイトルで売っています。安いしお勧めです。単行本は、平成7年に出版されています。)

○ 黒人初の国務長官。いわずとしれた、湾岸戦争時の統合参謀本部議長。しかし、よくもまあ、今回のテロに対する「戦争」を指揮するフタッフとして、ぴったりの経歴なのだろうと驚いてしまう。ベトナム戦争では、2回任務に就いており、ジャングルの中を戦い続け、対ゲリラ戦の怖さを骨身にしみて知っている。ドイツ勤務の経験もある。湾岸戦争の指揮をとり、各国の支持を取り付けながら行う戦争は知り尽くしている。いわゆるエリートであらゆる優れた能力を持っているには違いないが、中でも、彼のプレゼンテーション能力が優れていたことが、その後の、成功の鍵になったようだ。今後、その優れたプレゼンテーション能力を国内外へ披露することになるだろう。

○ いくらか、興味深い内容もあるので、引用してみる。
ベトナムで実戦を経験した後、陸軍幹部学校でパウエルが勉強をしていた頃、試験で自分が率いる師団が側面攻撃された場合の対応について答えなければならなかった。教官が求めていたのは、積極的な攻撃一辺倒の戦術であるのを知りつつ、敢えて、違う解答をした。つまり、自分が率いる師団を戦術的な守勢においたまま、敵の兵力と展開状況と意図に関してさらに情報を得てから反撃に出るという答えだ。この解答は、結局、成績優秀のパウエルの、全教科の中で唯一の2点という悪い点がつけられてしまう。しかし、自分の答えがやはり優れているとパウエルは、思っている。自伝では、次のように述べている。
「やがて、私の助言や決断が実人生で報いられる日がくるだろう。その日がきたら、私はこの方法を変えるつもりはない。私にとっては、足を止め、見て、聞くーそれから必要なあらゆる力を結集して一気呵成に打ってでるのが信条なのである。」

○ 今回、一気呵成に済むかどうかは、分からないが、少なくとも、現在のアメリカの国務長官は、こういう信条の人だと知っていることはいい事だと思う。また、この慎重に調べてからという慎重さは、アメリカ軍人のいう慎重さであって、日本人の感覚とは、必ずしも同じででは無いと思ったほうがいいだろう。

○ 湾岸戦争の時もそうであったが、こういうときによく中東の専門家、軍事の専門家というのがメディアに出てこられるが、展開を読むにあたって、半分以上の重要性を持つのが、アメリカの分析だと思う。

9月18日
納莉台風

○ 昨日(17日)は、台風の直撃で会社は、休み。今日(18日)も台風で休み。政府が、会社、学校休みと発表をだし、テレビでずっと放映し続けるので便利だ。昨日は、午前中一杯、我家でも停電にあった。88万戸が停電だというからこれもやむをえまい。この台湾日記でも紹介したように(ココ)前回の停電の時に買った非常灯が役に立ち、ひそかに得意であった。

○ また、昨日夜に、明日も休みだとニュースで知ったとき、ほくそ笑むのを隠しきれなかった。子供の頃、台風が来た時に、学校が休みになる大雨警報になってほしいと祈ったことはないだろうか。僕自身も停電に会いそこそこ被害には、あっていても、やはり休みと聞くとうれしい。これで、4連休だ。ふむ。(被害にあった方すいません)

○ 今回の台風は、歴史的な大量の雨になったとのこと。テレビを見ると、台北駅の地下のプラットフォームが水に埋まっていた。幹線道路も、使えないケースがほとんどのようだ。あちこちで、洪水が起こっている。台湾の人が面白いのは、こんなに困っていても、どこでもみんな少しずつおちゃめを試みる。台北駅では、水がごうごうと流れているプラットフォームの横でギター一本もって、歌っているストリートミュージシャンを、テレビで数秒映していた。また、洪水で避難している住民が、避難場所でニコニコとマージャンをしている映像もあった。確かに、どうせすることはないのだろうから、できるだけ気楽に構えた方がいいかもしれない。色々、人生の勉強になるなあ。

○ ところで、このサイトの台湾読書案内のコーナーで、台湾国民中学歴史教科書の紹介をしてみました。(ココ)見てやってください。

9月20日
バチアタリ
○ 台風で会社が休みになるのも悪くはないというようなことを思っていると、とんだバチアタリになってしまった。大変な被害だ。日本での報道がどうしてこんなに少ないのかと驚いてしまう。55人が死亡、23人が行方不明。昨日(19日)の夜の時点でも、まだ64万世帯が停電、67万世帯が断水。地下鉄は、復旧に半年かかるという。多くの日本人を含む台北の街の真ん中に住む人達が、水道も電気もないので、ホテルに避難している。月曜、火曜あたりは、幹線道路が殆んど川のようになってしまい、町中どこでもひざの高さぐらいまで水があるのは、当たり前の状態であった。いわば、台北市全体が、大きな波にあらわれているようだった。今は、使えなくなった家財道具がゴミとして捨てられ道の角々に山となっている。

○ 当然のように、政府などに批判が及んでいるが、僕は、よくこんな被害ですんだものだと思う。学校だけでなく、会社もいわば強制的に休みにさせていたのが、大きい。そうでなければ、台北市内は、交通が麻痺している上に、多くの人間が動こうとして大惨事になっていたのではないかと思う。日本の場合だと、結構、休みにしない会社が多かっただろうと思うとぞっとする。

○ また、そうはいっても、どこの会社も水曜日からちゃんと仕事を始めている。このあたりが、僕が台湾の人のことをリカバリーショットの天才と呼ぶゆえんだ。当面、交通渋滞は、更にひどくなるだろうが、産業に対するインパクトは、思いのほか少ないのではないだろうか。

9月21日
大きな災難と小さな幸せ
○ ニューヨークの友人からです。
火曜日の事件のときははるかダウンタウンにたなびく巨大な煙と、続々と徒歩で北上してくる人々、WTCに身内が勤めている人が泣き崩れる様子など、胸に迫る光景を数多く目撃しました。仕事で少し関係のあった人々がWTC北棟の100階前後に勤めており、本日現在連絡が取れないとのこと。中には20代の前途有望な青年もおり、本当に残念な気持ちと無倖の人々を狙うテロに対する冷たい怒りが湧き上がってきます。今後、米国が報復に出た場合、様々な再報復がある可能性高く、当面は飛行機に乗りたくありませんが、そうも言っていられません。当分は注意して動くつもりです。

○ ドイツの友人に今回の同時多発テロのドイツでの報道に就いて聞いてみました。
ニュース自体の論調は基本的には同じ。背景には「ドイツ人もテロで多数死んだ」ということがあって、その意味では日本と同じようなものではないか。ビルのどの階にドイツのどういう企業が入っていたとか、何人ドイツ人が死んだとか。
残念ながら(?)現在のヨーロッパはどこも、なにもアメリカ無しにはやって行けない(それこそ言ってみれば欧州の内部問題であるコソボ問題だってアメリカ無しでは解決できなかった)ので、公式な発言はすべてアメリカ追従であり、ニュースなんかの論調も同じ。
ただ、「報復だ!」「やり返せ!」という感情論はもちろんなくて、ただただ誰がどう言った、どこで何人逮捕された、という事実を流すのみ。
これはドイツがやられた訳ではないから当然と言えば当然と言えよう。
雑誌のタイトルは「自由世界に対する戦争」という衝撃的なタイトルと爆発した瞬間のビルの写真が表紙になっていたりして、ちょっと刺激的だが、それとて、日本と同じでしょう、多分。
ドイツ語力が不足していることもあるだろうが「戦争は避けるべきだ」「報復なんてしてもなにも生み出さない」と言ったような今のアメリカの感情に水を差すようなことは、市民レベルで思っていても少なくともニュースの論調ではない。

○ 僕は、台湾の報道もあわせて考えると、文化/社会によりテレビの報道の仕方の癖のようなものはあるけれども、言論の自由のある社会の報道はそんなに違わなかったのではないかと思っています。なんといっても、今回の事件は、どんな解説やアナウンサーの絶叫よりも、映像の持つインパクトの方が断然強いからでしょう。それよりも、むしろ、マスメディアとインターネット内での情報に違いがあるような気がします。気のせいか、インターネットで回ってくる情報は、アメリカの報復攻撃に対し冷静になるよう求めるものが多いような気がします。

○ 一方で、台湾の台風の被害ですが、これは相当ひどいです。この3日ほど、お客のところに行くために市内のあちこちを通りましたが、ところによっては、捨てられたどろどろの家財道具が多すぎて小道が殆んど封鎖状態のところもあります。食堂で昼ごはんを食べながら周囲の会話を聞いていると、「水かぶった?」とお互いに聞きあうのが、挨拶のようになっているようです。60万世帯以上が、未だに断水と停電ですが、みんな頑張って会社に来て働いています。台風が過ぎても休んでいるような企業は聞いたことがありません。大手の半導体メーカーは、自家発電を使って、台風のいる間も夜中まで操業していたとのこと。多くの車が冠水で廃車となりました。保険屋の株が下がり、車屋の株があがりました。

○ ところで、最近やたらと長時間見るようになったテレビで、2人の魅力的な女性を発見しました。
一人は、NHKのニュースのキャスターをしている、森田さん。ただ、日本語を読むのが上手なおねえさんなのかと思っていたら、要人へのインタビューなんて、鋭い鋭い。田原総一郎より余程、豊かな教養と、鋭い感性を感じます。今みたいに原稿を読むのが大半の仕事なんてもったいない。いっそ、外務大臣とか、官房長官とかしてみたらと思っちゃいます。
もう一人は、アメリカの国家安全保障担当の大統領補佐官ライスさん。写真は、例えば、ここで見れます。
http://www.jiji.com/edit/topics/data2000/200012/1214uselc/1218index.html
ホワイトハウス内のパワーゲームでは、力を失いつつあるとも聞きますが、話しているのを見ていると、とてもきれいな英語で(もちろん、僕の英語力で思う範囲で...)、隠しようもない聡明さを感じます。

9月23日
日本の対応
○ 今回のテロ事件での日本の対応が話題になっている。余りに難しいので、それをもって人を説得するような自説をもっている訳では、ない。いい設問をすれば、問題は解いたようなものだともいうので、論点だけでも挙げてみたいと思う。床屋談義の助けにでもしてもらえたら幸いです。

○ あ、そうそう、批判的なことをならべているが、その上で、僕は、現時点では日本政府の対応を、躊躇しながらも、他に代案がないので支持するし、やる以上、早くやるべきだと思う。

○ 「アメリカの意思」なるものはあるか 
「アメリカ」の意思なるものは無い。アメリカの政府の意思決定は、世論をベースとして様々の政治の結果でてくるもので、アメリカの意思といえるようなものはない。これは、国際政治の関係者では、いまや常識になっているにもかかわらず、マスメディアの世界では、安易に使われるので、注意が必要だ。「アメリカの本当の意思は、・・・」なんて不用意に言う人がテレビで出てくると、眉に唾をつける準備をした方がいい。

○ 報復は正義か
「報復」を正義と思うかどうかは、随分人によると思う。僕も、今回の件では、やや考え込んでしまう。言うまでもなく、日本の刑法では、「報復」は、正義ではない。親を殺した犯人を探し出して殺せば殺人犯になる。もちろん、刑法と、戦争状態にある国と国の関係は違う。この論点は、結構、議論の根本になることだが、人によっては、論ずることもなく当然のようにどちらかに決めて、次の議論を展開する。ある人の意見を聞く時にその人がこの点についてどう思っているか注意すると理解しやすい。どの国にもこの「報復は正義」という論に対し、賛否両意見ある。日本よりアメリカの方が、報復を正義と考える人が多いとは、思うが。

○ 日本が、「武力行使をしない」というのと、「アメリカを支援する」というのは、根本的に矛盾していないか
手伝う以上は、金で協力しても、人を出しても、少なくとも、攻撃を受ける方には同じだ。線引きをしろとか、線引きがあいまいだとかという批判があるが、これは、ナンセンスだと思う。「ももひき」を「たけの長いパンツ」と呼べるかどうかと言う議論であって、ズボンの下で見えないこともあって、外部の人には、議論の意味すら分からない。やるのかやらないかは、憲法にも関わる重要な議論だが、どうやるかというこの微妙な線引きを憲法の解釈論から出すというのは、曲芸のようなものだ。「ももひき」の定義を刑法に尋ねるようなものだ。

○ テロの犯人を捕まえるという目的に対して、アメリカ軍は、マッチしているか。
米軍というと、湾岸戦争のときの、ミサイル攻撃を思い出す人が多いだろうが、あれは、山奥の穴倉にいる人をやっつける道具とは思えない。湾岸戦争の時は、当時世界第四位とも言われたイラクの近代的な軍の設備やインフラを狙ったから成果もあった。アフガニスタンは、伝え聞くところによると、電気すらまともに通っておらず、空軍力は実質上ゼロに近い。いわば、道具と目的が矛盾している。刺身包丁で、シャツのボタン付けをするようなもので、料理人もシャツも血まみれになるのが関の山かもしれない。では、何が、いい道具かって?そりゃ、「ゴルゴ13」でしょう。今こそ、壁を背に立つ男が必要だ。でも、ビンラディンも言ってみれば、かつては、アメリカに雇われた「ゴルゴ13」みたいなものだったんだよね。

○ 空襲で、降伏するか
これまで空襲だけで降参した戦争は無いともいわれている。通常は、地上軍がこないと、戦争は、終結しない。また、指導者が、国民の痛みを自分の痛みとして感じる人であれば、空襲は効果があるが、自分が痛くなければ何とも思わない人には、効果が少ない。今回のタリバンなんて、なんとも思わない政府の典型のようだが...また、一つ前にも書いたが、ソ連との10年もの戦争で、空襲は受け尽くしている。そこに空襲を加えても、ガレキに爆弾を落とすようなものだ。おそらく人命を除けば、爆破される物より、爆破する爆弾やミサイルの方が高価だろう。

○ 日本は、友達米国がやられたから助けるのか、自分の為に戦うのか
これは、自主的に自分のこととしてやるのかどうかということにつながる。例えば、中国が、アメリカとの交渉の際に「日本の自衛隊が参加するのには反対する」と圧力をかけたときに、日本がどういう態度をとるか、この問題に対する答えが問われる。

○ 軍というのは、常に好戦的か。
先進国では、文官より、軍の上層部(武官)の方が、武力行使に慎重だ。第二次大戦の日本軍の印象があり、軍人というのはやたら好戦的だと思うかもしれないが、概して言うと、先進国では、立派な軍人ほど、部下の命を預かっているという使命感が強く、実際の戦争への参加に慎重な態度をとる。パウエル国務長官が、統合参謀本部長の時、湾岸戦争にたいして慎重すぎたといって批判を受けたのは有名な話。日本の自衛隊も湾岸戦争の時に、一部の武官の上層部は、慎重だったという。逆にいいかげんな文官や政治家程、武力行使を安易に考える。

○ 今回のビルへの攻撃は、テロか戦争か
アメリカはもう戦争だと割り切っている。事実、彼らの歴史からすると被害者の数から考えれば、戦争だ。湾岸戦争時、シュワルツコフが、戦争直前に予測した最大の戦死者数は、5000人だ。しかし、「戦争」を経験したアメリカ以外の国、特に発展途上国は、戦争の被害として今回の被害がそれ程大きなものに思えないかもしれない。このあたりの受け止めのズレは、よしあしは別にして、注意深く、頭の隅においておきたい。

○ 今回のオペレーションでの日本の国益は何か
別にあさましいことでもなんでもない。自分の国にこういう国益があるから参加しますといった方が余程信頼されると思う。手伝われる方も、善意でやりますなんていわれても、いつ、やめるか分からなくて不安だ。目的をはっきりさせることは、支援策の迅速な実施と同じくらい大切なことだ。

○ 今回の戦争の目的は何か
アメリカでは、ベトナム戦争に対する深い反省から、戦争の政治的な目的を明確にしてから戦争を始めようと考える人がかなりいる。クラウゼビッツの教えに忠実であろうと言う訳だ。目的がはっきりしていると、戦争の方法も明確になるし、戦争をやめる時もはっきりする。例えば、湾岸戦争の時、目的が、「クェートからイラクを追い出すこと」であったため、イラクを追い出せば、サダム=フセインの首を取らずにやめてしまった。パウエルは、今きっとこの明確化を必死でしているのだと思う。
次のような選択肢があるが、微妙にしかし、決定的に違うと思う。
−ビンラディンを捕まえるか殺す
ータリバン政府がアフガニスタンを実質支配できないようにする
ーアフガニスタンに民主的な親米政権をつくる
ーイスラム原理主義に基づく反米的なテロ組織を撲滅する
上の内、軍隊に何を求めるか。おそらく、この問いが一番重要なものだ。

○アメリカの軍事作戦は?
前回の湾岸戦争の時、クラウゼビッツやリデルハートと言った戦略論の古典に実に忠実だったなという印象が強い。偶然かもしれないが、上陸部隊の侵攻経路などは、リデルハートの「間接的アプローチ」のお手本のようなものだ。当時、僕は、たまたまだけれど、新聞からの情報だけで、侵攻経路を随分当てた。企業の幹部や戦略担当部署の方々も、口を開けば一分おきに戦略、戦略と言っていないで、これを機会に、戦略論の古典の勉強でもされたらどうだろう。

○ タイミングは、重要か
特に日本にとっては重要だ。こればかりは、アメリカの例は参考にならない。アメリカは、超大国故に、自分のペースで、戦争目的を策定し、その目的遂行の為の準備を整え、戦争ができる。しかし、日本は、周りの環境も見ながら、タイミングよく決断していかなければならない。それと、「時限立法」という議論があるが、これはナンセンスだ。「シンデレラ軍隊」と馬鹿にした記事が、外国のメディアに出るのが見えるようだ。

[番外]台湾での報道
台湾での報道だが、もう戦争中だと言わんばかりの映像が増えている。アメリカ軍が、ザッザッと軍靴を響かせて行進している資料映像を背景に、最新状況を音声で伝えるといった具合だ。日本の基地から出発している米軍の映像もかなり長い時間流れている。これを見ていると、日本とアメリカってくっついているよなあと思う。

9月24日
アフガニスタンの現代史
○ いろいろあるようですが、下記サイトは、アフガニスタンの現代史を書いたもののひとつ。あまりに強烈な歴史に、頭がくらくらしてきます。
http://www.mine.ne.jp/a-rans/afghan/index.html

○ これによると、この地では、イデオロギー紛争とか民族紛争とか宗教紛争とはいいきれず、異民族だけでなく、同じ民族、同じ宗教の人々同士も周辺国の介入を受けつつずっとずっと戦い続けていたのですね。そのなかで、でてきたタリバンというのは、いろんな国や組織から様々な暴力の手段を吸収しながら、結局、どのイデオロギーともどの宗教とも異なりしかも最も暴力的な、フランケンシュタインのような異形の政治組織になってしまった。今回のテロの犯人がタリバンかどうかは別にしても驚くばかりです。また、この地の住民のことを思うと心も痛みます。

○ ところで、今回のテロ事件に対する台湾政府の対応も下記サイトで見られます。
http://www.roc-taiwan.or.jp/news/week/104.html
しっかりしたものだと思いますがどうでしょうか。

9月26日
またまた台風
○ またまたまたまた台風である。もううんざりだ。前の台風で浸水した人にとっては、そのゴミの除去もすまないうちにまた、台風がやってきた。普段はさわやかに見える街のあちこちにある噴水も、今日などは、ちっともさわやかじゃない。いまいましくさえもある。もう、水は見たくない。お風呂に入るのも嫌だ。そうだ、これからは2月6日の風呂の日にだけ風呂に入ることにしよう。

○ 昨日の小泉首相とブッシュ大統領の会見を見ていて思ったのだけれども、日本は、清水の舞台から飛び降りるつもりで、「自衛隊の派遣」をしようとしている。でも、「武力行使をしない」と言う限りは、外から見ていると湾岸戦争の時と余り変わらないように見えるのじゃないのかなあ。大統領が、一生懸命かばってくれて、「武力行使をしなくても○○ができる。」「武力行使をしなくてもxxができる。」と言えば、言うほど、「じゃ、お金をだすってことね」という印象が残る。

○ 日本が苦心惨憺してひねり出した「自衛隊は派遣するが武力行使はしない」という方針は、一部の知日派以外には、相当上手く説明しないとその苦心の程が理解できないと思う。結局、「湾岸戦争の時と同じようにたくさんお金払ってね。もちろん、新聞広告の感謝状のリストにはいれないからね。」と言われたら、がっかりだね。

9月30日
総統の娘の結婚
○ 陳水扁総統の娘が結婚した。そのニュースで、台湾のメディアは、過剰な程に大騒ぎだ。結婚式の当日も、各ニューステレビ局は、トップで長い時間を使って披露宴の様子を報じた。その後2人がどこに行って何をしたというのも、(ワイドショーではなくて)ニュースとして報道されている。お相手は、お医者さんで、政治的な意味は余り無いので、どうしてそんなに騒ぐのかよく分からない。僕の周囲の台湾の人も「騒ぎすぎだよ」という人が多い。「日本の首相の娘が結婚するからって、あんなに騒がないでしょう?」と言われて、そういえばそうだと思ったりする。

○ しかし、と、僕は、考え直している。天皇陛下の娘が、結婚するとなると、NHKのニュースだって、トップで報じるだろう。テレビを3分見て結論づけるのも、安易な論法だが、総統というのは、日本の首相に比べて、天皇がもっている統合の象徴としての機能を少しもっているのかもしれない。

○ そういえば、先日、日本の首相の息子がタレントとしてデビューした時は、ワイドショーは、随分取り上げたと聞いている。そう思うと、台湾のニューステレビ局は、日本のワイドショーの機能を少し持っているのだろう。なにせ、台湾では、民放のニュース専門のチャンネルが4つも5つもあり昼間もニュースのみで、視聴率競争をしているのだから。

○ 総統の娘さんも、自分の結婚が、変な一人の日本人にこんなことを考えてさせているとは、想像つくまい。

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