台湾日記  2003年4月〜
 
台湾日記 バックナンバー 2001年6月〜2003年3月 
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4月28日
SARS危機総動員
○ とうとう、昨日(27日)、台湾で初めてのSARSによる死者がでた。昨夜、陳水扁総統が国民にSARS対応を呼びかけた。ニュースチャンネルでは、殆どの時間を使ってSARS関係ニュースを流している。画面には、「SARS危機総動員」の文字が、固定で表示されている。台湾への出張、旅行は、しばらく延期した方がいいと思う。

○ 和平病院の封鎖がこちらのテレビで大々的に報道されているが、一般の人は、「騒ぎすぎ」と受け止めているようだ。実際、街中でマスクをつけている人は、本当に稀にいるだけだ。ただ、僕が心配なのは、隔離されている和平病院と全く無関係の場所で症例が出始めたことである。と、いうことは、そこからの拡散の可能性がある。そこで、皆さんにいえるのは、一応念の為、今のこの拡大の波が静まるまでは、台湾に来るのはよしたほうがいい。住んでいる人間がこういうのは、つらいものだが、安全な日本にいるならわざわざ来ることはない。

○ SARSが大々的に報道されると奇妙なことが起こっている。まず、テレビ局が大挙押しかけている和平病院の前では、屋台が出てきた。さすがである。また、健康にいいというので、ゴルフ場が一杯だ。中国へ出張できなくなった社長連中が、暇つぶしにみんなゴルフ場に来ているのだ。他には、ダイエット中の若い女性の多くが、SARSへの対抗力をつけるため、ダイエットを中止している。台湾の人は、笑いながら、「今、女の子は、SARSのおかげでどんどん太ってる」と言っている。

○ 繰り返しになるが、日本は、もっと様々な対応を準備しておいた方がいいと思う。数十人程度の症例が出た場合。数百人の場合。数千人の場合。それぞれどうするのか、ちゃんと想定して準備した方がいいと思う。


4月27日
SARS大騒ぎ
○ 台湾で、一時話題としてはピークを過ぎたSARSが、この数日、これまで以上の大騒ぎになっている。全てのニュースチャンネルが、殆どの時間、SARS関連ニュースを流している。街行く人でマスクをしている人も少なく、スーパーに人が殺到してる訳ではなく、市民は、比較的平静だが、テレビなどのマス・メディアを見ていると、ちょっとしたパニック、または、パニック寸前の状態である。因みに、現在、SARSの症例は、50人くらい。

○ 台北市立の和平病院でSARSの院内感染が発見された。そこで、医者、看護婦、見舞い客も含め、その病院内にいた人間を全て、約1000人を外に出せないようにして隔離した。病院丸ごとの隔離が始まって、今日で4日目である。テレビでは、たくさんのカメラを病院周辺に設置し、「和平大封鎖4DAY」とタイトルをつけてずっと報道している。台湾のテレビニュースのワイドショー化は、日本にも負けない。

○ 隔離が始まってから、SARSの疑いありといわれた人が、悲観して病室で首吊り自殺をした。衝撃的だ。また、何人かがその隔離をきらって和平病院から逃げた。発熱がありながら逃げた看護婦の一人は、遠距離バスにのって高雄まで行った。それから彼氏とデータした。と、まあ、こんなことまで報道していたら、ニュース番組が何局あっても足らない。

○ 他にもこの数日で、台湾の各地で症例が出始めている。大抵は、中国から出張や旅行から帰ってきた人だが、中には、ただの家庭の主婦で、外出といえば台湾内で電車に乗ったことくらいしか思い当たらないという人まで出てきた。

○ 状況を断片的に書いてみよう。台湾当局は、香港から台湾への旅行者へは、ビザをおろさなくなった。繁華街では、人通りが目立って減っているようには見えない。町では、マスクをしている人は、まだまだ少ないが、時折みかけるようになった。バスや電車の中では、マスクをつけている人が多い。レストランの売上が落ち、その分、みんなが家庭で料理をするので、スーパーの売上が伸びている。いつも行列が出来て、下手をすると2時間近く待たされる小龍包が名物の「ディン、タイ、ホン」も、今は、待たずに入れる。また、夜は、予約が必要な人気のカラオケボックスもがらすきだ。さらに、日本人サラリーマン相手の飲み屋街である林森北路も、閑古鳥が鳴いている。

○ 日本にあるアメリカ系の外資系企業は、SARS発生地域から来た客や友人と会ったとときは、一週間会社に来るなとのおふれをだした。その中に、台湾も含まれている。ここまでいくと「よく言うよな」と悪態の一つもつきたくなる。アメリカだって症例が出ている。アメリカ人は、今、毎日会社を休んでいるのですかい。日本人も、よく台湾と中国を区別しなくて、困ったものだと思うが、欧米の人間は、日本人よりもっとひどい。台湾の人は、もう慣れっこで、腹もたたないようだが、台湾で住まわせもらっている身としては、やっぱりいちいちひっかかる。国として認めるかどうかは別にしても、台湾と中国は、衛生面、医療水準などは、全く別の次元の社会である。

○ ここから先は、中国に関する未確認の噂の話。確証もないのに、中国の問題をあげつらうのは、やりたくないが、ただの民間人としては、虚偽報告をされたのだから自分の身を守る為に、色々な情報を交換するべく動かざるをえない。あまりこのサイトではやったことのないだが、本件に限っては、噂話も含めて書きしるす。

○ 今、中国の一部の国際空港では、入出国のときに全員の体温をはかる。それが、台湾の空港のように耳の穴で計る電子式の体温計のものがなく、昔の体温計を口にくわえて計る。体温計の数も少ないので、前の人が口にいれて計ったものを、看護婦が、消毒液をつけた布でさっと拭いた後、計らなければならない。これは、ちょっと恐ろしい。その前の人がSARSなら、より確実に移りそうである。そうでなくても、他の病気が移りそうだ。

○ 中国出国の際、高熱があると即時隔離だという。医療設備がそろっていないのは明白なので、もともとSARSでないにしても、隔離先で、SARSや他の病気が移る可能性も高い。今、中国に行くのは、よした方がいい。

○ 上海でモーターショーをしていたが、コンパニオンまでマスクをしていたらしい。これでは、もりあがらない。ショーは、開催途中で、中止となった。僕の知り合いにも何人か、この数週間に上海に出張で行った人がいる。こういう日本企業の判断は、よく分からない。大抵は、日本の重要な取引先の手前ということだが、自社の従業員の命に替えられる程、重要な取引先などないですぞよ。

○ さらに、北京の軍関係者の患者が非常に多いことから、実は、中国の軍隊が開発中の生物兵器がもれてしまったのではないかという噂もある。これは、憶測の域を出ない、かなりいい加減な情報で話半分に受け止めるべきだろう。例え半分にしても恐ろしい話には、ちがいないが..

○ だが、僕には、あの北京市民のパニック振りがどうも気になる。中国の都市がいくら発展したといっても、一歩街中に踏入ればまだまだ、不衛生なところも多い。そこでの腸炎などの病気に比べれば、SARSが飛び切り危険なすごい病気に思えない。にもかかわらず北京市民が殆どパニックに近い状況になっているのは、本当は、もっと恐ろしい状況なのではないだろうか。例えば、まだ公表値の何倍もの被害者がおり、庶民は、自分の知り合いの症例などから、実は、それぐらい被害がでていることを肌で感じて知っているとか。先にあげた生物兵器説がかなり本当らしく信じられているとか。SARSの疑いありと告発されると、ほうりこまれる隔離病棟の環境が本当にひどくて、そちらの方が危険だとか。

○ 僕には、何か日本人の対応がのんびりしているように見える。中国へは、上海を含めどこであろうとも、どんな用事があろうとも、行くべきではない。取引先の偉いさんが行く場合でも、自社は、行くべきではない。実際は、そうでなくても、会社のルールだと言い訳すればいではないか。成田空港で入国者にちゃんと体温検査をする。香港、中国からの入国は、空港で別の導線にする。等々手を打つべきだと思うがどうだろう。

○ 政府も、幸い日本でまだ症例が出ていない今のうちに、準備するべきだ。SARSが広がり始めた時のために、隔離病院を準備する手はずを整える。隔離する施設が無いので手が打てないなんて、のんびりしたことを言っているのを聞く。いざ伝染が始まれば、一室の建設費が何千万円もするそんな立派な施設で対応できるはずがない。例えば、自衛隊かどこかの病院一棟をSARS用に明渡すよう、準備くらいをしていてもいいと思う。必要なら、立法の準備をしなければならない。

○ 「よい手が打てないから、目をそむけて対応しない。」というのが後でどんなに大変なことになるかは、日本が、BSE、不良債権等で、手痛い代償を払って学んだ教訓だ。結局SARSも、最初はのんびりしていて、これまで同様、症例が出はじめると過剰反応して、日本中がパニックになるのだろうか。いい加減に、同じことを繰り返すのはやめてもらいたい。


4月24日
津上俊哉「中国台頭」
○ 先日、「中国台頭」(日本経済新聞社)の著者、津上俊哉氏と会って直接お話を聞かせて頂き大変参考になった。以下は、「中国台頭」に対する僕の感想である。

○ 中国の現状を、冷静に伝えながら、しかも、明るいタッチで描いているのが、一番印象深い。中国について最近書かれているものは、これまで中国で苦労してきた日本人ビジネスマンの経験も無視してとにかく「スゴイ、スゴイ」と言うだけ礼賛ものが多くて閉口する。また、少し現実を知っているものになると、「コワイ、コワイ」という脅威論か、また、いずれだめになるという「アブナイ、アブナイ」という崩壊論で、いずれにせよ暗いトーンのものが多い。例えば、何清漣「中国現代化の落とし穴」も面白いが、いかんせん、タッチが厳しすぎて読み疲れする。中国について「スゴイ」、「コワイ」、「アブナイ」という言葉を繰り返すだけの今の言論の中で、この本は、難しい現状を具体的に描きながら、それでいて、中国にも日本にも、前向きで暖かいまなざしをもっているのが、際立っている。

○ 色々興味深い実例が挙がっているが、例えば、2001年にネギの輸入急増に対して日本政府がセーフガードを発動した件の内情などは、印象深い。随分後に分かった事だが、この件は、本当は、一部の日中の業者が不当な(というか、もうからない自殺的な)商行為を行った結果であった。にもかかわらず、日本と中国の当局がそれと気付かず、日中相互の誤解が誤解を呼び、互いに相手のシグナルに気付かぬまま、相互不信と敵対行為の応酬にはまっていく。この本の中では、だから、相互のシグナルを正確に感じとれる様々なチャンネルを養成すべきだと述べている。

○ このネギ騒動の話を聞いて、役人や政治家同士の珍妙なやり取りと笑えない。前線で中国とビジネスをしている人は、日本の本社と大陸中国側とのトンチンカンなコミュニケーションによって起こるこのような事件に大なり小なり、苦労していると思う。というか、毎日がそれの連続のようにみえる。

○ この他、僕が大陸中国とのビジネスをしていた時に感じた事と一致する指摘が多かった。中国の人々は、意外な程一つの国でいることにこだわりがあることや、実は日本企業を高く評価していることなどは、僕の肌触りの感覚と一致する。このようにビジネスや政策の実務に携わる人が、違和感無く読める点が、この本の貴重さだと思われる。

○ また、著者の日本へのアドバイスも具体的で、且つ、現実的だ。その中で、道路公団民営化論に対して、必要な国庫を投入して料金を下げろといっているのは、僕が主張していたこと(「道路料金の値下げ」ココ)と全く同じで、僕にとっては、非常に気持ちがいい。

○ この場を借りて、もう一度、僕の意見を整理すると、道路に対する方策の優先順位を次のようにしようというものである。
    従来の政策: 1)道路の拡大    2)国庫投入の削減 3)道路料金の値下げ
    小泉改革 : 1)国庫投入の削減  2)道路の拡大   3)道路料金の値下げ
    らくちん案: 1)道路料金の値下げ 2)国庫投入の削減 3)道路の拡大
津上氏も他の優先順位についてはともかく、道路料金の値下げを最優先に考える点では、一致していると思う。

○ やはり、日本について語るなら、「頑張れ日本」という気持ち無しに本質に迫ることはできない。そしてまた、中国について語るなら、「頑張れ中国」という気持ちも忘れてはならないと改めて思い直した次第である。


4月22日
つれづれ生活
○ 最近、このサイトの原稿をいつ書いているのか、という質問を時折受けます。小サラリーマンの僕は、さすがに、会社の勤務時間中は、書けません。普通に家に帰ってから書いているだけなのです。但し、通勤時間にぼんやりと色々考えていることが多く、そうした考えを家に帰ってから文章にします。

○ 家に帰って中国語の宿題があるときはそれを少しして、それが済むと、一時間くらいかけてサイトの文章を書いています。お客さんとの夕食+飲み会があるときは、サイトを更新しません。つまり、友がくれば酒を飲み、友が来ない時は、文を書く。これが僕の理想とするつれづれ生活なのです。

○ ところが、昨年暮れ頃は、中国語のテキストが変わって宿題が増えるは、会社の仕事は増えるは、お客さんとの夕食が増えるは、出張は多いはで、てんやわんやでした。このサイトの更新も相当苦しんでいて、余程、中断しようかと思ったくらいでした。今は、幸か不幸か手がけていた仕事の一部か没となり、ちょっと時間もできました。まだ平日に更新するのは苦しいですが、年末頃よりもかなり気楽にやれています。

○ なんて書いて、バックナンバー(ココ)を見ると、苦しいと思っていた時期も結構更新しているのですね。そうか、ほとんどサイトに文を書くことでストレスを発散していたのかもしれません。そう思うと、ずっと読んでくださった読者の方に申し訳ないやら、ありがたいやらです。今後も宜しくお願いします。


4月21日
コヨーテの世界 (2/2)
● アメリカ先住民の民話 
○ 昨日(ココ)の続きである。本論に入る前に、コヨーテにまつわるアメリカ先住民の民話を紹介したい。飢えに苦しむ人々を救おうとする一人の少年に、コヨーテが同情し、協力して火の精霊から火を盗む話である。火は、コヨーテから少年、少年から次の走者へと、次々にリレーされ、とうとう人間のものとなる。少年は、後に「火をもたらす男」として、語り継がれる。

○ 「火をもたらす男」
http://www.happano.org/pages/indian_tales/indian_tales_7.htmlによる)
夜がふけて、火の精霊たちが山の外に出て来たところを見計らって、コヨーテは山に入って火を盗み、燃えさかる斜面を走り降りました。火の精霊たちは逃げるコヨーテを見つけるや、怒りで真っ赤になって流れ出し、蜂の大群のような音をたてながら、コヨーテの後を追いかけてきました。
(中略)
少年はその後ろからついてくる火の精霊たちの歌い声を聞き、コヨーテの苦しそうな息づかいが闇を近づいてくるのを耳にしました。そして良き獣は少年の足元にあえぎ伏せ、燃え木を口から落としました。少年はそれをつかむと、くるりと向きをかえて、矢をいったように走り始めました。家の方に向かって飛び出した少年のうしろを、火の精霊たちがパチパチ音をたて、歌いながら追ってきました。次の走者が待っているところまで、精霊たちが追いかけてくるのに負けない速さで少年は走りました。燃え木は走者たちの手から手へと受けつがれていき、火の精霊たちはといえば、雪の山を下っていく間に、やぶで身をズタズタにされていきました。


● コヨーテの普及経路
○ 「コヨーテ」型の製品はどのように普及するだろうか。僕は、普及にいたる経路は、次のようなものではないかと考えている。そう、まるでコヨーテから始まる火のリレーのように。

○ 無線LAN(11bや11gなど)は、今、確実に普及している。夏以降に日本で発売されるノートPCの半分近くは、標準で無線LANを装備しそうである。03年末には、半分以上が標準で持っていると思う。そうなると、04年以降は、家庭や小さなオフィスで有線LANを張る事の方が珍しくなる。今、殆どの全てのモニターが液晶で、ブラウン管のモニターを買う人がいないのと同じ状況になると思う。

○ そうすると、プリンターに無線LAN機能が必要になる。04年以降のプリンターの多くは、少なくともオプションで無線LANに対応できるようになる可能性が高い。プリンターに無線LANが付いているとなれば、デジタルカメラに無線ネットワーク機能を付けたくなる。撮ってすぐパソコンを介さずに印刷できるととても楽しい。それは、04年後半以降かもしれない。

○ ここまでくると、デジタルカメラでとった画像データを、無線LAN機能を使って携帯電話経由インターネットに送りたくなる。そのとき第三世代の携帯電話は、ウェラブルサーバーになる。そもそも、第三世代の携帯電話が実現する巨大な通信速度は、こんなことでもしないと使い道がない。

○ 少し話はそれるが、第三世代の携帯電話は、その巨大な通信速度を活かそうとして、100万画素以上のカメラ機能や、TV電話機能をつけようとする。しかし、そうすると、機器自体が大きくなり、また、消費電力が大きくなる。このあたりで、悩んでいるようだ。僕は、その付加価値の部分は、無線LANでつながる他の機器に任せればいいと思う。つまり、基本的な通話機能とネットワーク機能だけにする。他の無線LAN機器から、無線LANでデータを受けてインターネットに送り出す、コミュニケーションサーバーとしての役割を重視した方がいい。もちろん、今のiMode程度の簡単なインターネット機能や、簡単なカメラ機能ぐらいあってもいいと思うが、高機能を目指してやたらただの電話をブクブク太らせるのは、止めてもらいたいものである。

○ 最後は、ちょっと話がそれたが、以上のようなシナリオで、「コヨーテ」が普及していけばいいと思っている。

● コヨーテという概念提起の意味
○ 別に、「コヨーテ」なんてことを言い出さなくても、日本のメーカーは、上に挙げたような無線LAN対応製品を次々と出してくると思う。それでも、僕が「コヨーテ」という突拍子もない名前をだして、一括りにして考えてみようとしているのは、次の理由だからだ。

○ まず、ユビキュタス社会のように、すべてのものがインターネット上の名前=IPアドレスをもって、無線で接続されるというイメージは、技術的に非常にクリアで強烈だけれども、まだまだ先だと思う。この一、二年の動きを読むのには、もう少し限定した、ある意味で過渡的な状況をちゃんとイメージする必要がある。冷蔵庫とコミュニケーションする時代は、デジタルカメラとコミュニケーションするようになってから随分後だと思う。漠とした未来のイメージも大切だが、現実には、この数年先の将来の具体的なイメージをもつことが一番実利的だと思う。

○ 第二に、各社が独自に作ろうとしているものが、一つの概念で括れるものだということによって、別のメーカーの別種の製品が連携する気運が生まれてくればいいと思うからである。これは、僕のような、一サラリーマンがつぶやいていてもしかないかもしれないが、何もしないよりもましだろう。

○ 長くなってしまった。こういう仮説を持って思考実験をしてみて、また、二三年経ってから振り返ると、色々勉強になるのではないかと思い、書き記すことにした。興味のない人にはつまらない話だったと思うが、今後、新しい商品がでてくると、「ああこれがらくちんの言っていたコヨーテ製品だなあ」と思っていただければ、これ以上うれしいことはない。


4月20日
コヨーテの世界(1/2)(IT系の長い文です。興味のない方には、ごめんなさい)
● コヨーテの世界
○ 将来のIT製品として「コヨーテ」なる製品群を仮説として提唱したい。「コヨーテ」は、単独でも十分に機能する様々な小型のモバイル機器が、無線のネットワークによって協調して、ユーザーを楽しませる。ユーザーは、おでかけのときに、TPOにあった幾つかの「コヨーテ」製品選んで持っていく。

○ コヨーテ:
北米に住むイヌ科の肉食獣。体重は、9kgくらい。イヌ科の中でもとりわけ小さい。一匹で、つがいで、群れで、コヨーテは、狩りをし、テリトリーを守る。コヨーテは地球上で、もっとも適応力のある動物のひとつで、繁殖習慣や食料を変え、さまざまな環境の生育地で生き残っていく。
(参照:http://www.happano.org/pages/indian_tales/reference_coyote.html

○ 毎日、パソコンを持ち歩いている人は、少ないが、デジタル機器を余り意識せずに常に持っている人は、多い。僕などは、デジタルカメラ、デジタル時計、携帯電話をいつも持ち歩いている。他に、MDプレイヤーやヴォイスレコーダーを常に持っているという人も多いだろう。結局、カメラ、音楽、録音、電話、WEBブラウサ、時計、住所録(電話番号帳)、−これらの機能をもつ複数のモバイル機器が、無線のネットワークで協調する。これが僕のいう、「コヨーテの世界」である。その時、携帯電話は、ウェラブルサーバー(着ることの出来るサーバー。この場合は、コミュニケーションサーバー)となる。

● コヨーテと携帯電話
○ 携帯電話の高機能化がどんどんすすんでいる。今の携帯電話は、従来のPDAのほとんどの機能を持ち始めているし、おまけにカメラさえ付いている。確かに、デジタルカメラまでついた、3Gの高機能携帯電話のユーザーは、将来も少なからずいると思う。しかし、将来も全てのユーザーが、あんなにサイズが大きくて、電池の寿命も短くなった高機能携帯電話を持ち歩くとは、思えない。これは、一つでなんでもこなそうとする「ライオン型アプローチ」だ。

○ 僕などは、カメラが必要の無い時は、軽くて電池のもつ携帯電話だけ持っていきたいので、デジタルカメラと携帯電話は、別々にしたい。一方で、カメラが必要なときは、デジカメで撮ったものを、無線で携帯電話に転送しemailしたり、無線でデータを送ってコンビニでそのままプリントできたりするとありがたい。つまり、単独でも役に立ち、無線ネットワークで協調しても役に立つ、様々なモバイル製品があるととてもありがたいと思う。これが僕のいう「コヨーテ型アプローチ」になる。

● コヨーテとPDA、音楽
○ PDAについても、コヨーテ型のものがでてもいいと思う。今のPDAは、あらゆる機能を詰め込みすぎて、結局、「貧弱なパソコン」になってしまい、「弱いライオン」と同様、存在意義が不確かになっている。例えば、WEBブラウサーとしてPDAをみたときには、画面が小さすぎて通常のサイトは、ちゃんと見られない不十分な製品となっている。機能を絞りこんで、もっと画面のサイズを大きくし、無線ネットワークの機能を持つ、WEBブラウサーとして特化した製品がでてもいいと思う。他の機能は、無線ネットワークでつながった他の「コヨーテ型機器」にまかせ、そぎおとして軽くしていく。

○ また別のアプローチでは、今のPDAからWEBブラウサーを諦め、住所録、スケジュール、電子メールを見ることに特化すれば、名刺サイズの本当に小さいものにすることができると思う。この場合、住所データの入力などは、無線でつながるキーボードや、他のパソコンからの転送で行えば便利になる。

○ イヤホンについても、協調によりシンプルにできそうである。MDプレイヤーを聞いて歩いている人に携帯で電話がかかってくると、耳元がややこしくなってくる。このあたりも一つのイヤホンで、音楽も電話の音声も聞けると助かるだろう。例えば、MP3の音楽データを音声にするのは、デジタルカメラのもっているICを使い、イヤホンは、携帯電話と共有するといった事ができるといいと思う。これが「コヨーテの世界」の一シーンである。

○ 僕がいう「コヨーテ」は、別に「一機種一機能」に厳格にこだわっている訳ではない。携帯電話に30万画素程度のデジカメが、標準でついていることに文句をいう気はない。僕がいいたいのは、PDA、携帯電話、デジカメなどの機器が、みんな高機能化して、ぶくぶく太っていき、同じような汎用機能の製品になっていくのが、ユーザーとして愉快でないということである。小さくて機能を絞り込んだ複数の「コヨーテ」を状況に応じて持ち歩き、単独でも使い、複数で連携しても使うというのが、理想だと思う。

● コヨーテとユビキュタス社会
では、「コヨーテ」は、ユビキュタス社会のコンセプトと違うのだろうか。ユビキュタス社会というのは、あらゆるものがネットワークで連携する社会をイメージしている。その意味でいうと、「コヨーテ」は、ユビキュタス社会の構想の一部である。ユビキュタス社会というのは、まず、今の動きとしては、冷蔵庫などの家電製品への導入の試作が行われたり、極小の無線タグなどの実用化が目指されている。コヨーテは、これらの具体化の動きと少しニュアンスが違って、モバイルやデジタル家電に焦点をあわせ、「より普及時期の早いものは、この分野ではないか。その場合は、こういう使い方になるのではないか。」という主張を込めている。

● コヨーテの仕様
○ 「コヨーテ」の標準的な仕様は、どのようなものになるだろう。無線のネットワークは、ブルートゥース、11b(IEEE802.11b)や11gなどの無線LANの規格、ウルトラワイドバンドなどが使われるだろう。なかでも、無線LANで標準となった11bが、大本命だ。技術的には、本来は、安くて消費電力の少ないブルートゥースが最も適していると思われるが、普及に時間がかかりすぎ、今では、急速に普及した11bと値段が変わらなくなってきた。こういう、ネットワーク系の規格は、相手と同じ規格でなければならないために、普及してしまったほうが、断然強いと思われる。

○ 無線LANの11bの規格は、LANをつなぐ為の規格である。「コヨーテ」として、別の機能をもったモバイル機器が本当に協調して動くには、そのための、11b上で動くソフトウェアのプラットフォームがあると便利だと思う。例えば、近くにある無線LAN機器を表示する際に、その機器がプリンターとかカメラであるかどうかなどを表示できるようになっているといいと思う。果たして、標準作りの下手な日本メーカーが作れるかどうかが見ものになる。

○ OSについては、Linuxや、Linux系の組み込みOSといわれるものが強いだろう。またモバイルやデジタル家電の分野で強い日本のメーカーが、既存商品でTRONを使っているので、TRONも有力だ。WINDOWS系は、Microsoftが、WidnowsCEの技術情報をどれだけ開示し、値段を安くするかによるだろう。もう一つ現実的で重要な要素として、無線LAN用のICチップセットメーカーが相次ぐ製品開発競争の中で、Windowsに対応するのが精一杯で、LinuxやTronになかなか対応できないのは、Windowsに有利である。
(次の台湾日記に続く)


4月19日
「アメリカの論理」吉崎達彦 (新潮新書)
○ この本は、面白い。にもかかわらず、ためになる。そして、ウソがない。およそ、面白い本には、ウソが多くてためにならず、ためになる本は、説教臭くてつまらない。ウソが無ければ、ためにもならぬ当たり前のことばかりで、面白くない。そうした他の本、特に巷溢れるアメリカの分析の本に比べ、ホームページ「溜池通信」のかんべいこと吉崎さんの書いたこの本は、読みやすくて面白く、リスクを張った思い切った分析も入れているのでためになり、それでいて、ウソがない。ついでに言えば、おまけに安い。680円。

○ 著者は、前書きで、あっけからんと宣言する。ブッシュ政権にディープスロートがいる訳でもないし、こまめにワシントンに飛んでいるわけでもない。インターネットを通じて公開されているデータをもとに推論を働かせているだけだ。と。しかし、この著者の推論の的中率は、驚異的だ。氏の運営する「溜池通信」では、アーミテージリポートの重要性を世に知らせ、ネオコンの影響力をいちはやく指摘し、イラク戦の開始時期を的中した。「特別な道具はありません」といえばいうほど、その腕前に感心するばかりである。

○ この本を読んでいて感じるのは、「溜池通信」と同じく、ものを見る視線が実に自然で無理のないことである。肩幅の広さに足を広げて自然に立っている剣術家を見るようだ。そして、剣をまっすぐ真ん中に上段に振り上げて、まっすぐに振り下ろす。それで、あの複雑で巨大なアメリカ社会がスパッと切れる。

○ 先日、この著作が出版される直前に、著者とお会いし、この本の出版の際のちょっとした裏話をお聞ききした。イラク戦が必ず行われると書いた原稿は、イラク戦が始まる前に印刷段階にはいっていた。編集者は、「本当に戦争は、あるのですか。まだないですよ。」とずっと心配していたそうだ。ところが、イラク戦が始まると、同じ編集者が、「前倒しで、早く出版できないですかね。先に出しておけばよかった。」と、嘆き始めたそうである。著者本人は、そんな話を、カラカラと笑いながら話してくださる快活な方である。


4月18日
SARSあれこれ
○ 3日間の日本出張から昨日帰ってきたところなので、空港の様子から話しましょう。日本への入国は、意外な程にあっさりしていて、SARSの疑いのある人は申し出てくださいといった程度です。一方、台湾に入国するときは、全員が耳の穴で体温を計られ、38度以上ある人は、即時隔離です。僕はというと、計られている間、この体温計で別の変な病気が移らないことをお祈りしていました。

○ また、台北空港も成田空港も、今まで見たことも無いほどに、がらすきでした。成田空港第二ターミナルでは、飲食店や売店のある一段高いフロアから、出発カウンターのある広いフロアを見渡す事ができますが、僕の見たところ、本当にお客がまばらで、航空会社のスタッフよりも少なかったです。誰かが、ボールペンを落とせば、カランという音がフロア中に響きそうでした。

○ 台湾に住んでいる人間にとってありがたいのは、台湾での感染者が意外な程に少ないことです。14日時点で、台湾の累計感染者23人、死者0です。米国の174人、カナダの100人、シンガポール158人、ベトナム63人という感染者数に比べても随分少ない。台湾人の香港と広東省への往来の多さを考えれば、驚異的ともいえるかもしれません。(4月12日に、スイスの感染者数が多いかのように書きましたが、それは間違いで、スイスの感染者は一人です。お詫びして訂正します。)

○ 以前にも書きましたが、台湾では、一般の人の対応が実に早かったと思います。3月中には、新聞の一面が全てSARS(当時は、「非定型肺炎」)になり、イラク戦争の報道が、二面以下に追いやられました。その時、日本の新聞では、SARSは、社会面で4cm四方くらいの小さな記事でした。中国政府が認めるか認めないかの内に、みんな、「これは、本当は、多いぞ」と直感し、パタリと自ら中国との往来を止めたようです。もともと、入国管理上、台湾人が中国にでかけることは簡単だけれども、中国人が台湾に入るのは、極めて困難です。そこで、自分たちが足を止めさえすれば、往来が止められるというのも幸いしたようです。

○ 3月には既に、台湾から中国に行く旅行や出張を中止するのはもちろん、台湾から中国に派遣した社員に、しばらく台湾に戻ってくるなという指示を出した会社すらあるということです。4月初めに日本のメディアがようやくSARSをトップニュースで扱い始めた頃、台湾では、話題としては、もう下火になっていました。

○ 台湾では、まだ一度も、街行く人がマスクをするような事態にはなっていませんが、副次的な思わぬ被害もでているようです。旅行業者がつぶれるだけでなく、人々が感染をおそれて、百貨店、レストランにも、あまり行かなくなり、売上が激減したようです。一方で、台湾・インド間の飛行機は満席で大繁盛だそうです。通常、インドに入る時に、香港でトランジットする客が、今は、みんな台湾でトランジットしているとのことです。

○ 日常生活で困るのは、エレベーターや電車の中で、くしゃみ、咳をしたときです。周囲の人から、「ショックと恐れ」ならぬ「恐怖と疑い」の無言のオーラを感じ受けます。エレベーター内でクシャミをしてから、目的階に止まるまでの沈黙の時間は、月に旅するほどに長く感じます。

○ また、咳やくしゃみなるものは、すまい、すまいと思えば思うほど、のどのあたりがむずかゆくなるものです。飛行機の中では、空気も乾燥していますし、そういえば、ホコリぽくも思えます。今、咳を二つ、コン、コンとすれば、残りの3時間をどんな思いですごさなければならないかとついつい考えてしまいます。そうすると、よけいに、神経が集中し、お喉の粘膜が敏感になってきます。そこで、なんとか咳を防ごうと、唾を飲み込めば飲み込んだで、今度は、緊張しているものだから、飲み込もうとした唾が気管にひっかかり、咳こんでしまいます。く、苦しい。

○ いやはや、小人の人生は、小人の人生で、悩みの尽きぬものでございます。


4月14日
知的とは?
○ ラムズフェルド国防長官をテレビで見ていると、知的とは何かと考えさせられる。

○ 同氏を見ているとどうしようもない不快感にとらわれるという人が多い。僕の悪友などは、「下品なのだ」の一言で片付けてしまう。不快の元について、もう少し上品にいうなら「知的でない」と言えそうである。

○ ラムズフェルド氏は、どうみても、豊富な知識と卓越した論理的思考力のある人である。機転の利いたジョークも得意だという。にもかかわらず、「知的でない」という印象を与えるという事実は、「知的とは何か?」という難しい問いに貴重な示唆を我々に与えてくれる。つまり、知識や論理的思考力がいくらあっても、それは、周囲の人に「知的」という印象を与える鍵にはなり得ない。機転の利いた会話も、すぐには、「知的な印象」につながらないようだ。

○ つらつら思うに、彼にどうしようもなく欠如しているのは、「自分を批判的に見る目」ではないだろうか。自分の主張を変えずに通すにしても、「自分が間違っているかもしれないと思い考え直してはみたが、やはり正しいと思う。」とか、「あなたの方が賢くて正しいかもしれないが、私の能力では、こう思うのが限界である。」とか、そういった発想が微塵も相手に伝わって来ないことが、「知的でない」印象を強めているようだ。さらにいえば、「限りない相対化の波に洗ってみて、それでも尚残った仮説こそが真実に近いと考える」といったしなやかな知的営為をないがしろにしていては、「知的」には見えない。

○ 逆にいえば、知的とは、「自分を批判的に見る目」を常にもって、話をし、人に接することではないだろうか。ふむ、これぐらいの知的収穫でも得なければ、やってられないではないか。


4月13日
長期戦
○ 3月の末、アメリカ軍がバグダッドに向けて北進中に攻撃を受け、長期戦を危惧する声が一番大きかった頃に僕は、日本で友人とお酒を飲んでいました。3月30日とか31日です。金融のマーケットも長期戦を心配してそれなりに反応していたと思います。僕には、何故みんながそんなに騒ぐのか分からず、友人に「歴史が、3ヶ月以内の戦争を長期戦と記することは無い。」などと言っていました。(かんべいさんにも申し上げたかもしれません。)「方法を問わずに勝て」と言われれば、米軍が3ヶ月以内に勝つ事は明白なのに、どうしてあんなに騒いでいたのか不思議です。今となっては、僕が不思議に思った感覚を誰にでも理解できると思います。

○ 今から思うと不思議なほど騒ぎが大きくなった理由について、小サラリーマンの視点から考えてみました。

○ まず、今回の長期戦騒動で思い出したのが、大きなプロジェクトを担当として遂行しているときの感覚です。大きなプロジェクトには、思いがけないアクシデントは、つきもので、小さいハプニングまで数えあげれば、毎日のように起こります。その度毎に、社内の管理部門などが、右往左往して、怒ったり悲しんだりして担当のところに来てくれます。

○ 曰く、
1)影響の度合いは?
2)今後も続くのか?
3)開始前のシナリオに無かったではないか?聞いていないぞ。
4)解決できるのか。それはいつか。

○ 僕が答えて曰く、
1)影響は、無視できないが、プロジェクト全体が崩れる程ではない。
2)この程度の事は、今後も続きうる。
3)これは、大きなプロジェクトで全てのことを予想する事はできない。(あなたが青い顔をして私のところにやってきて、こうして私の仕事を止めるであろうということは予想していたが...)今回の件は、担当内部で無数に検討したシナリオのどれかには含まれている。
4)いつ解決できるかは、正確には分からない。相手のあることなのだ。
こうしてみると、アメリカ軍当局の答えと全く同じですね。

○ ただ、マスメディアは、マイクを突きつけるのが仕事ですが、社内の管理部門は、そうではないはずです。社内メディア対応が繁雑すぎる。このあたりが日本の民間企業の問題かもしれません。

○ 次に思ったのは、ラムズフェルドやその周辺が余りにも戦争の早期終結について、楽観論をふりまき過ぎたということです。「風呂敷の広げすぎ」です。プロジェクトを実行する決定を得るためには、このプロジェクトがどんなにリスクが少なくて、どんなに効果が大きいかを意思決定者に説明しなければなりません。ウソではない範囲で、楽観的な事も言うかもしれません。しかし、今回のイラク戦争の件は、不必要な程に風呂敷の広げすぎです。

○ また、やむを得ず、風呂敷きを広げたならば、計画承認後、計画実施の前には、たたまねばなりません。背後の味方が過剰な期待を持っていると、小さなアクシデントが起こった時に、動揺して前線の現場の味方を撃ってしまうからです。素人目で見たところ、今回の件では、戦争不可避となった後、戦争中止とならない程度に、「戦争というのは、そんなに容易なものではない。」ということを伝えて、風呂敷きをたたむタイミングが十分あったと思います。コンサルタントをやっていた親友から聞いた言葉ですが、「期待値の管理」ができていないのが、問題でした。

○ とまあ、こんなえらそうなことを書いていると、上記の内容を3月31日付けでサイトに書いとけばよかったじゃないと叱られそうですね。まさしく、タイミングを逃さないことも、戦争にせよ、サラリーマン生活にせよ大切なことと痛感した次第でした。といいつつ、またまた、台湾を3日程離れるので、今週の更新は、できないかもしれません。懲りずに、見てやってください。


4月12日
SARS
○ 2週間台湾を離れていた為、更新が滞っていました。すいません。

○ さて、SARSが話題です。台湾では、4月10日現在感染者数23人。台湾への不要不急の旅行は、やめましょう。が、公式見解です。

○ しかし、台湾の街の様子は、何事も無いかのように平静で、道行く人でマスクをしている人も、みかけません。3月下旬頃は、新聞でも、イラク戦争を押しのけて一面で報じられていましたが、今では、新しい患者が台湾で見つかりでもしない限り、一面には、なっていません。話題としてのピークは、過ぎた感がします。むしろ、SARSのおかげで、中華航空が史上最大の乗客数の落ち込みになったとか、旅行会社が何百社つぶれたとか、日本人相手の飲み屋がガラガラだとかといった、SARS騒動による副次効果の話題の方が、多くなってきました。

○ 台湾の新聞やテレビは、日本よりずっと早く、3月下旬頃から今回の件を「非定型肺炎」としてイラク戦争を超える最重要ニュース扱いで報じていました。日本の新聞では、社会面の小さな記事にしかなっていなかった頃からです。重要ニュースになった理由としては、次のようなものが考えられます。まず、香港、広東省へは、多くの台湾企業が進出しており、何万人という台湾人が現地に住み、出張などの往来も非常に多いからです。次に、台湾の人は、もともと「健康オタク」と言えるほど、健康に関することに非常に敏感だからでしょう。なにせ、台湾でPHSを売るセールストークの第一が、「携帯電話より電波が弱くて健康に良い」なのですから。次の理由は、中国政府が隠していた時点から、「中国で発表された数字の何倍かの症例がありそうだ。」と感じ取っていたからだと思います。そして、最後は、実利的な台湾人の現実的な判断だと思います。イラク戦争で台湾人が死ぬことはないけれども、非定型肺炎では、死ぬかもしれない。また、イラク戦争で台湾の人ができる対策は、無さそうだけれども、非定型肺炎は、旅行を延期するなどの対策を講じることができそうだからなのだと思います。現時点では、台湾の感染者数は、アメリカよりやカナダよりも少ないです。また、死亡例もでていないので、話題としてのピークを越したのだと思います。

○ これは、裏返すと、日本の報道の特徴が見えてくると思います。3月下旬に、香港で発症例が判明し、広東省でたくさんの発症例があったらしいと推測された時点で、「これは、大変なことだ。」と考えるのが当然です。しかし、日本のメディアは、「ボー」としていました。また、日本人にとっても、イラク戦争よりもSARSの方が短期的な実害が大きいだろうに、この点についても、日本のメディアは、「ボー」としていたという訳です。そして今になって、慌てて報道しています。報道を始めると、今度は、時々、台湾と香港との区別がつけられない人の報道とかがあって、日本では、実態以上に台湾が危険であるかのようなイメージが広がっているのだと思います。繰り返しになりますが、台湾の発症例は、アメリカの数分の一。死亡例は、0です。

○ 今回の件で台湾が少し得をしたかもしれないのは、台湾のWHO加入問題が海外の注目を少し受けたことです。台湾は、WHOにオブザーバーとして参加しようとしていますが、中国が反対しておりなかなか実現できません。このWHO参加問題は、国際政治における生存空間を広げようとしている台湾にとって、大きな外交上のトピックスです。今回は、WHOに加入している中国がWHOに協力しなかったので、感染が広がったと言われており、台湾当局は、この点を一生懸命指摘しています。一方、台湾は、WHOに十分な情報提供をしていると、主張しています。確かに、こういうSARSのようなことがあると、政治的な駆け引きなどやっている場合ではなく、ステータスに関わらずWHOがカバーできるエリア、人口を増やすべきだという主張には、説得力があると思います。

○ 色々のんきなことを書いてきましたが、僕は、台湾が安全だと思っているわけではありません。あれだけ多くの台湾の人が、広東省と行き来しているのに、発症例が二、三十人で済んでいるのが不思議でなりません。かといって、今の報告数字が実態よりも過小な数字だとも思えません。マスメディアが日本以上に健康の話題に敏感で且つスキャンダリズムの強い台湾で、当局による大きな虚偽報告は、国内上の政治的リスクが大きすぎます。とすれば、これから増えるかもしれないと用心するべきでしょう。聞くところによるとSARSの予防法は、手洗い、うがい、マスクをすることだそうです。そして、大切なのは、よく寝て、よく食べることだそうです。では、早速、その予防策を実行しようではありませんか。

○ おやすみなさい。


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