台湾日記  2004年3月〜
 
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3月31日
収束か
○ 中正記念堂に集まっている抗議の人達も、夜になると増えるものの、昼間は数百人レベルまで減っている。政治家は、まだまだ激しい駆け引きをしているが、民衆レベルでは、かなり落ち着いてきたようにみえる。

○ 台湾の人達は、ここまで死傷者を出さずに上手くやっていると、僕は思う。これだけ人種、文化的に多様で、利害対立も内包している社会が、80%の投票率の選挙を行った結果が0.2%の得票差となれば、もめないほうが不思議だ。そこを泣いたり怒ったりしながらも、暴力だけは振るわないように、ぎりぎりのところで衝突を回避している。

○ しかし、まだ安心する気にはなれない。僕が3年間ここで暮らした印象でいうと、台湾人は、危機に際しては、最初、特別なリーダーなくしても、みんなが大局観をもって柔軟で且つ果断に、実に適切に対応していく。しかし、あと5%で完成というときに、みんなの気が緩むのか、チョンボをしてしまうことがある。ゴルフでいうと、林の中に打ち込んでしまったトラブルショットのときに、やにわにドライバーを取り出し、ブーンと打ってそのままオンさせるようなことが大得意である。しかし、その後、50cmのパットをはずすことが多い。

○ SARS対応の時もそうだった。最初は、外国帰りの感染者が出るなり、迅速且つ厳格な対応をし、一ヶ月間程、台湾内感染を完全に防ぎきっていた。ようやく大丈夫かというとき、和平病院で院内感染が発生、それへの対応が下手で、感染を広げてしまった。(ココ)せっかくここまで持ってきたのだから、あと少し油断せずに、今の調子で社会の安定を取り戻して欲しいと思う。


3月29日
無効票
○ 帰りのタクシーで緑(陳呂ペア)支持とおぼしき運転手に、中正記念堂の群集の数を聞くと、、「千人くらいに減った」と答えた。今、テレビをみても人数の確認ができなかったが、どうやらかなりの人が家に帰ったらしい。抗議集会は収束しつつある。今日は、陳連宋三氏の秘書長が、党首会談の事前うち合わせをした。(本人同士が今日会うかのように昨日書いたのは間違いでした。すいません。)今後は、票の再集計の方法と、銃撃事件の真相解明が焦点になる。

○ 野党側の要求に従って票の再集計をすることになったが、得票差が0.2%なのに、無効票が2.5%(33万票)もあるのが、大問題になっている。この無効票として、あり得そうなものを挙げてみる。

1)意図的な無効票。政治意識が高い人で、民主主義の義務を果たす為に投票所に行ったが、陳呂ペアにも連宋ペアにも票を投ずる気になれなかった人の票。これは、意外に多いように思える。0.5%いても、僕は、驚かない。

2)ハンコ間違い。台湾では、投票用紙を受け取るのに自分の名前の入ったハンコを投票所に持って行って捺印しなければならない。そして、受け取った投票用紙には、投票机に備え付けの「○」のハンコで、支持する候補者の名前の上にあるハンコ欄に「○」判を押すのである。ここで、投票用紙に、「○」のハンコではなく、自分の名前のハンコを押すと無効になる。これが、ハンコ間違いの無効票だ。これは、多いと思う。

3)ハンコの場所違い。上の2)の場合で、「○」のハンコを、候補者の名前の上部にある四角いハンコ欄に捺印しなければならない。候補者の名前のところに押したり、ハンコ欄の外に押したりすると無効になる。

4)肉印のうつり。ハンコを押した投票用紙を折り曲げて、肉印が反対側の紙の上にうつってしまうとこれも無効になる。

5)投票箱間違い。総統選挙と公民投票とが同時に行われたので、間違えて、総統選の投票用紙を公民投票の投票箱に入れた人が多かったようだ。テレビで、蘇貞昌台北県長が、一族のおばあさん達を連れて投票所にいっているところを放映していたが、蘇氏の前でおばあさんが別の投票箱にいれそうになり、遠くから、「おい、ちがう。ちがう。違う投票箱だ。」と蘇氏がおばあちゃんに叫んでいて面白かった。あれは、ややこしそうだった。

○ 2)、3)、4)を厳格に無効票とすることを事前に取り決めていたために無効票が増えたようだ。その厳格なルールを決めるとき、田舎のおじいさん、おばあさんに支持層が多いグリーン陣営は、陳水扁票が無効となるのが多そうだと思って抵抗したそうである。かなりの人は、再集計して無効票が減り、有効票になると陳水扁有利だと思っている。

○ そういえば、ブッシュ対ゴアの投票再集計の時に出たジョークだが、票の数え直しの為に、正確で中立な日本の破綻銀行の元従業員でも派遣しますか?


3月28日
総統府前の集会
○ ブルー陣営(連宋ペア)支持者は、小差で総統選に敗れたことに納得せず、総統府前選挙翌日の21日から抗議集会を続けていたが、27日に、大規模な抗議集会を行い、47万人が集まったという。届出た集会の期限を越した28日には、まだ残っていた支持者達を警察が強制排除した。流血の事態は、起こっていないようだ。ブルー陣営支持者は、総統府から400m程離れた中正記念堂に移動して、抗議活動を継続している。今、また、人が少しずつ増えたりしているらしい。来週、どうなるか、全く分からない。

○ 明日28日は、連宋両氏の秘書長と陳総統の秘書長との会談が予定されている。陳総統側は、投票再集計をすること自体には、原則同意しているものの、方法、時期について、両陣営の厳しい駆け引きが続く。また、銃弾事件の自作自演説に対しては、陳水扁氏が、人格の冒涜とか、口を閉じろとかと、激しい言葉で非難している。その言葉遣いが良くないとの批判もある。

○ ブルー陣営内も色々あって、連戦氏には、幾つかの失言もあり、陣営内からも指導力への疑問が出始めている。宋楚瑜氏は、票の再集計でなく、再投票を主張するなど、主張をくるくる変えている点が非難されている。また、宋氏は、くじけそうになる連戦氏を強硬路線に引っ張っていこうと四苦八苦しているようだ。国民党副主席の王金平氏は、連戦氏にぴったりくっついて行動を共にしており、禅譲を狙っているとも言われている。国民党の人気No.1政治家の馬英九氏は、27日の集会でも演説して、内心感動しているんだと発言するなど、抗議行動への支持はしているものの、連宋両氏の動きとやや距離をおいた動き方になっている。

○ 市内は、いたって平静で、市民は、街で買い物をしたり食事をしたりしている。部外者の身でこんなことを言うのは、台湾の人に失礼かもしれないが、21日から今日まで、よくもまあここまで、死傷者を出さずにやってきたものだと思う。

○ とはいえ、百貨店などの小売をやっている人に聞くと、この一週間は、売り上げが落ちているらしい。それは、人々が集会にいくからとか、政治に関心を持って消費活動が不活発になるからではなく、株が下がったからだとのことである。この話を教えてくれた人は、政治より株ですよ、と微苦笑した。台湾らしい現実的な話だ。

○ 本当か嘘か分からない話を聞いた。ブルー陣営は、27日の大抗議集会に人を動員するため、来てくれた人にお金を配るという噂があった。一人500元(1600円くらい)とも1000元(3200円くらい)とも言われている。今後の民進党政権では、国民党が独裁政権時代から引き継いだ巨額の資産を吐き出させられそうだし、宋楚瑜氏も、どうせここで負ければ、政治生命もおしまいだし、持っているお金は、全部使ってしまえと考えても不思議ではない。

○ こういう話を聞くと、色々な疑問がでてくるもので、じゃあ、2回も3回ももらおうとする輩はでてこないのかとか。それなら、商業プールでつけるような消えにくいスタンプでも手の甲におすのだろうかとか。その場合、そのスタンプを消す薬を売る屋台が出てくるのではないかとか。疑問は、つきない。

○ テレビでは、おもしろい商売を始めた人を紹介していた。廃棄処分待ちの、ブルー陣営の選挙用ノボリを、切ってミシンで縫ってバッグを作っていた。連宋両氏のにこやかな笑顔がバッグの真ん中に来るようにして、ほら、いいでしょ、と得意顔で紹介していた。テレビカメラの前で、肩ひもをもう少し短くした方がいいかしら、とちょきんとはさみで切ってみたりしていて、この女老板(社長さん)、なかなか、愛らしい。

○ いずれも、台湾らしい、現実的な話だ。


3月25日
緑さんとブルーさん
○ グリーン陣営(陳呂ペア)とブルー陣営(連宋ペア)のそれぞれの支持者から聞いたことを順不同で書き並べて見ます。多くの人が言っていることもあるし、ごく少数の意見もあります。

ブルーさん:
○ 緑陣営の強い南部では、投票の集計のときに不正が行われました。南部のブルー支持者は、それを自分の目で見ていました。だからこそ、本当に怒って、わざわざ総統府まで来て、抗議しているのです。

○ お父さんの会社では、老板(ボス)がブルーなの。だから、会社休んで総統府前に行ってもしかられないんだって。どんどん行ってくださいって言ってるんだって。

○ (金融関係者)ほら、株が下がった。だから緑が勝つと株が下がるんだよ。困ったものだ。

○ 総統府前に集まっている人には、「勇気」を感じます。

○ 陳水扁は、必死だからね。ずるいことでもなんでもする人だからね。当選するためなら、少しぐらい痛い思いをしたって気にしないよ。

○ いくらなんでも、無効票が得票差の十倍というのは、ひどすぎますよ。どこの国の選挙でももめますよね。

○ ブルーが負けたから、この程度の抗議ですんでいるのですよ。もし、緑陣営が同じような僅差で負けたら、もっと乱暴なことをしていたに違いありません。

緑さん:
○ ブルー陣営が選挙に不正があるにちがいないと確信しているのは、自分達が政権をとっていたときに、選挙で不正をしていたからですよ。

○ 早く事態を収拾して欲しいですね。外国の人に恥ずかしいです。

○ 群集に家に帰るように言った馬英九は、まあ、正しいですね。でも、ちょっと、あのようにいいかっこしすぎるから、南部で全く人気がでないんですよ。彼は、連戦の次を狙っていますからね。

支持不明さん:
○ 連戦は、駄目ですね。再集計して、その結果負けたらどうしますか。と記者に聞かれて、分からないと答えたんですからね。あれじゃ駄目だ。今の抗議行動も、連戦は、コントロールしきれていないですよ。

○ 李登輝ては、すごいですよ。今回の件も、大きな意味で言うと、李登輝の書いたシナリオの範囲内って感じがしますよね。


3月24日
車の運転
○ 台湾に初めてきた日本人が驚くもののひとつに荒っぽいタクシーの運転がある。実は、タクシーだけでなく、公共バスも含めた全ての自動車の運転が、本当に荒っぽい。車線の割り込みなど、お互いが譲らず、あと10cmでぶつかるというその瞬間、日本人が目をつむったとその時に、どちらかの車がハンドルを切るかブレーキを踏んで、衝突を回避する。助手席に座っているのに、ありもしないブレーキを踏むかのように右足を突っ張り続け、目的地に着いたときには、足がつりそうになったこともある。それでも、そうそうぶつかるものでもなく、「ああ、これで社会が成り立っているのだなあ」と感心する。しかしだ。一ヶ月程台湾に住んでみると、実は、事故が多いのに気付くのだ。

○ 今日もまだ、総統府前に今回の選挙に抗議する群集が残っている。選挙後のブルー陣営と、グリーン陣営のやり取りを見ていると、台湾のタクシーを思い起こす。群集が集まりだして「危ない!」と思うと、要求を「験票(=投票再集計)」という、実に穏当なものにしていった。これに対して、陳水扁総統が、司法の判断を待つのみだとして頑として要求をのまなかった。そこで、群集がなかなか帰らず、「験票」を要求しつづけ、もうそろそろ爆発するかと思った頃、陳水扁総統は、「得票率の差が1%以下の場合は、再集計を行う。これは、今回の選挙にも遡及して適用される。」という法律を通すという、かなり譲歩した案をだした。これに対して、ブルー陣営は、同意せず、「即時の投票再集計」を要求している。ここまでは、ブルー、グリーン両陣営とも衝突寸前にブレーキを踏んで、なんとか済ましている。

○ ところで、車の運転の話に戻るが、台湾に住んでいるドイツ人や日本人は、台湾での運転は、どうも危なっかしく思えてしかたない。イタリア人は、母国と同じくらいの荒っぽさなので、運転しやすいとのことである。また、中南米を良く知っている人が台湾に出張で来ると、「台湾の運転は、南米より安全にみえる。」と述べておられた。

○ 衝突の可能性というのは、まあ、こういうものなのかもしれない。


3月22日
いつも通り
○ 今日は、日本からの出張者と台北から車に乗って、台中の先にあるお客さんの所を訪問。道も、いつもと変わらない込み具合。行った先の工場もいつも通り操業していた。夜、お客さんと日本人飲み屋街である林森北路に行っても、全くいつも通り店も営業していたし、いつもの込み具合でお客もいた。

○ 総統府前の群集は、未だ解散していない。今朝の「りんご新聞」によると21日夜に3万人いたという。誇張が多いリンゴ新聞だが、その報道が本当だとして、一人1mx1mのスペースを占拠しているとしても、180mx180m程度の群集である。大きなグランド二つぐらいだろうか。多いといえば多いが、24百万人の人口で、九州ぐらいの面積の台湾で、そこだけだといえば、そこだけの騒動と言える。その群集から数百メートルも離れれば、普通の生活がされている。平和に収まることを祈るばかりである。

○ 僕も酔っ払って帰ってきたので、ここで力尽きた。これも、また、いつも通りだ。


3月21日
験票
○ 総統選挙で0.2%の僅差で敗れたブルー陣営(連宋ペア)は、投票の最調査、即ち「験票」を要求している。最高裁は、13,000ヶ所の投票所の投票箱を封印することを命じた。

○ ブルー陣営支持者は、台北、高雄、台中などで集結、らっぱをならして座り込み「験票」と書いたビラをかざして、投票の再調査を要求している。台北の場合、国民党本部が総統府の目の前にあるので、総統府前で且つ国民党本部前のところに集まっている。

○ 今のところ、かろうじて暴徒化するのを免れているようであるが、幾つか危ない場面もあった。例えば、高雄。ここでは、群集が裁判所に押し寄せ、ブルー陣営の選挙宣伝車が裁判所の鉄門に正面からぶつかったりした。もう一つは、台中。昨夜、台中の裁判所前に集結した群集が、興奮して出入り口のガラスの扉を叩き割ったりした。このときは、国民党の胡志強台中市長が出てきて群衆を静めた。胡台中市長は、うまかったと思う。そこに集まった群衆と同じように、悲憤にかられたような口調で、「これは、おかしいと、私も知っている。不公平だと私も知っている」と話し出す。群集もそうだ、そうだという。こんなときには、静まれといっても静まるものではない。一旦は、同調しないと余計に危ない。群集は、「そうだ」と言いながら、市長の声を聞いて、次第に落ち着きだす。そこで、台中市長が、「みんな、許せないから、座ろう。ここに座り込もう」といい、みんな座り込んだ。座り込むと、トビラを叩き割るほど、過激な行動はなくって来た。

○ 街中は、僕の見る限り平静で、今日の朝も、自宅近くのマクドナルドでもスターバックスでも、当たり前のように、みんな朝食をほうばっている。昨夜11時頃自宅に帰るときも、台北市内の車は、いつもより少ないように思えた。市民は、念のため外出を控えていたようである。

○ テレビでは、群集が集まっているところだけ取るので、海外の人は、その映像をみて革命かと驚くかもしれない。しかし、どうだろう、勝手な想像だが、総統府前でも、群集の大きさは、せいぜい数百m四方くらいではないだろうか。と、いうのは、それ以上広いエリアを映す引いたアングルの映像がでてこないからだ。もし、他の道路も埋め尽くすほど抗議する民衆が押し寄せているなら、それを映すはずだ。

○ 僕の見る限り、台湾の人は、みんな、持ち前の熱い心で抗議しているが、民主主義が壊れるようなことは、しないように必死で自制しているようにみえる。例えば、群集の抗議にしても、「打倒、陳呂」とか「インチキ選挙」という言い方でなく、「験票」といって投票の再検査を要求しているだけだ。(AM11時頃アップ)

○ ブルー陣営(連宋ペア)は、連宋両氏と幹部である王金平・立法院長(国会議長)の3氏が、抗議行動を続けている。しかし、馬英九台北市長は、姿を現さなかった。3氏が、馬氏をそのことで非難したが沈黙をしている。朝に一度、マスメディアの前に顔だけ出したが、多くのマイクをつきつけられても、口を真一文字に結んで一言も話さなかった。まるで、ノーコメントが、おれの最大のコメントだ、といわんばかりに。その後、昼前、市の当局(警察署?)で馬氏は、記者会見をし、「抗議は、今日で終わり、明日からは、普通の生活に戻ろう。」と呼びかけた。このあたり、個人的には、妥当な線だとみる。政治的にも、ここで連宋が敗れたほうが、自らの政治的地位の向上が見込める状況である。また、もう少し立派な、「民主主義を守る」という意味でも、台北市長としての職責を全うするという意味でも、そうそう軽々しく抗議行動に参加するわけにはいかないだろう。このあたり、連戦に丁寧に接して、従順にしていた馬氏が、少し牙を見せた瞬間かもしれない。(AM11:40頃アップ)

○ 日本での、今回の総統選についての断片的報道で、台湾が、治安が悪く、民主主義が未発達の民意の低い国と誤解されるのを恐れる。昨日の昼ごろに乗ったタクシーの運転手の話を紹介したい。「総統選は、一番(陳呂ペア)ですか、二番(連宋ペア)ですか」と聞くと、「ブルー(連宋ペア)」と答えた運転手さんだ。彼は、比較的冷静に選挙の話をしていたが、銃撃の話しになると、興奮したように必死になって、「あの事件でもって、日本人に、台湾は危険な国だと、絶対思われたくない。」と語っていた。「あなたも住んでいるなら知っているように、銃による犯罪なんて台湾では殆どない。あれは、本当に例外だ。ひどい。」と。確かに、やくざの抗争ならともかく、一般市民をまきこんだ銃による犯罪などは、日本より少ないのではないだろうか。さらに、この運転手さんは、あの銃撃事件が、海外から見た台湾の印象を悪くすることを、自分の支持する候補者が勝つことよりも心配していた。これは、民意が高いといえないだろうか。

○ そもそも、これだけ激しい選挙戦で、正副総統が、防弾チョッキもつけずに爆竹のなるなかを、同じオープンカーにのって群集の中をゆっくり走るなんて、平和な社会でなければできない。ロシア、中国、フィリピンで、こんなことができようか。民主主義を守ろうという意思と民意も高い。連宋ペアは、裁判所に選挙の無効を訴えた。これらは、アメリカ人が先の大統領選でしたことと同じである。前述したように、今も続いている抗議行動も、「打倒、陳水扁」ではなく、「投票の再検査」を要求している。冷静な要求だと思う。テレビでは、抗議の群集の派手な映像が写っているが、殆どの市民が、平静を保っていると思う。ハプニング的な事件が起こらないことを祈るばかりである。(AM12:10頃アップ)

○ ところで、総統銃撃だが、僕は、影響あったと思う。恐らく、連戦側が仕組んだと思っている台湾の人は、ほとんどいないだろう。メリットがないからだ。一方、陳水扁側がなにか仕組んだのではないかと思っている台湾の人は、いくらかいるようである。銃弾が余りにちゃちいとか、陳総統の負った傷が同情をかうが命に問題ないという意味で、余りにちょうどすぎるとかといわれている。僕は、陳水扁側が仕組んだとも思わない。余りに危険すぎるからだ。結局、ほとんどの有権者は、銃撃事件で余り影響されないように心がけたと思う。しかし、そこは、人の情、ごくわずか、同情票が集まったと思われる。なにせ、得票率の差が0.2%だったのだから、同情票が0.2%集まるだけで大違いである。総統銃撃について端的にいえば、票数に与えた影響は少なかったが、選挙結果に与えた影響は、大きかったと思う。(12:40頃アップ)

○ ちょっと、ゴルフの打ちっぱなしに行って来た。いつもの日曜日と同じくらいの込み具合で、何事も無かったようにみんな球をうち、おしゃべりしていた。練習場までの道でも、全く普通どおり、人々は、お買い物をしていた。

○ テレビをつけると、総統府前の群集の人数は、どんどん増えているようだ。昨夜一睡もしていない人たちがかなり興奮している。みんなで、「験票!験票!」と、シュプレヒコール連呼している。誰かが火をつけると危ないぞよ。これは。

○ 奇美病院は、変な疑いを晴らすため治療時の写真などを公表した。さすがに、病院がぐるになってでっち上げたりしないだろう。ブルー陣営も、ここをつくのは、焦点がぼけるので、愚策だと思う。あくまで、再集計にこだわった方が得策にみえる。(15:20頃アップ)

○ 日本から出張で来たお客さんがあったので、夜、街中にでた。台湾に来た日本人なら、行ったことのある人も多いだろう小龍包のディンタイフォンの前を通ったが、いつもどおり行列ができて、人でごった返していた。また、近くの永康街もいつも通りの人の多さだった。ディンタイフォンから、抗議の人たちが集まっている総統府前まで、ほんの2kmほどである。台北市内の中心部も全く普通どおり。シャターを閉めている商店も見当たらない。取りあえず、騒動は、総統府前だけと思っていいと思う。

○ 日本の一部の新聞では、「市内は、厳戒態勢」と報じていたが、ちょっと言い過ぎではないかと思う。もちろん、総統府前は、何が起こっても不思議ではないし、治安当局は、最高レベルの対応をしているだろうが、総統府前のせいぜい1km弱四方の場所以外は、人も商店もいつも通りだ。

○ 総統府前の人は、0時15分の今も帰ろうとしない。馬市長が先程、群集の前にでてきて、「家に帰って、明日、学校と仕事に行こう」と呼びかけたが、余り効果は、なかったようだ。

○ 街中に行くときのタクシーの運ちゃんは、ブルー(連宋ペア陣営)だったが、「総統府前の群集には、困ったものだ、早く家に帰ったほうがいい」といっていた。帰りのタクシーの運ちゃんは、グリーン(陳呂ペア)だった。彼に、「明日まで群集が残っていると、株は下がりますよね。」というと、即座に「1000ポイント下がります」と答えていた。1000ポイントが正しいかどうかはともかく、こういう話に運転手さんが自分なりの考えを持ち、数字で即答できるのは、なかなか台湾らしいと思う。(0:30頃アップ)


3月20日
陳総統再選
○ 陳総統が再選された。投票率は、80.28%という、日本では考えられない高率。(有権者は約1650万人。)しかし、それでも、前回の82.69%よりも低い。陳氏と連氏との差は約3万票で、これは、有権者数の約0.2%でしかない。これに対し無効票は約33万票もある。これじゃあ、もめますわなあ。連宋陣営は、選挙の無効を裁判所に訴えた。

○ 公民投票は、2つの項目とも、賛成5百万票台、反対50万票台で、どちらも50%の得票率に達せず、無効となった。

○ 今日は、溜池通信で、再三登場する上海馬券王さんが台湾に出張で来られると聞きつけ、押しかけていって、台北であちこち一緒に遊んでいた。開票が始まったのが午後4時。僕たちは士林夜市でぶらぶらしながら、野外大型テレビで、開票状況を見始めた。スロットマシンのようにくるくると、両陣営の得票が増えていく。5時過ぎくらいまで、50万票差くらいで連戦陣営がリードしていた。これは、勝負あったですかねえと言っていた。ところが、6時頃士林夜市を去るとき、タクシーの後ろのガラス越しに振り返ってテレビを見ると、陳水扁陣営が数千票差まで追いついていた。その後、レストランで聞くと、同じくらいで分からない、とのこと。更に一時間後くらいに、レストランのおかみさんに聞くと、陳陣営の勝ちが確定したとのこと。劇的ですね。

○ 食事の後、このサイトでも何度か登場した飲み屋(04年2月19日02年12月16日)に上海馬券王さんと行った。ここのママは、連宋ペア支持なので、がっかりしていた。今日の夕方、連宋ペアが勝つのを確信したとき、陳呂支持者が騒動を起こすと思い、危険を避けるため、店の他の3人の従業員に店に来ないように行ったとのこと。だから、今日は、店には、ママさんだけだと。でも結果は、陳呂ペアの勝利になり、騒動はないと思われ、それなら、従業員を呼んでおけばよかったと悔やんでいた。確かに、民進党の支持者の方が負けたときの方が暴れかねない雰囲気がある。とはいえ、夜中の12時を越しても、党本部前に大勢の民衆が集まっており、投票の再検査を求めている。


3月19日
陳総統銃撃
○ 陳総統が今日午後銃撃された。とりあえず、臓器には達しておらず腹部の脂肪を長さ11cm深さ2cm幅2cm程えぐっただけで、命に別状は無い。歩ける程度のようだ。語学力に自信は、ないが、僕の分かる範囲でこちらでの報道を断片的に書いてみる。勝手に修正もするし、同じ日付の最後に書き足すこともあるかもしれない。

○ 銃撃の起こった台南は、陳総統の故郷で、熱狂的な陳支持者がたくさんいることで知られている。陳総統が最後のお願いのパレードをしているときに、爆竹を派手にならして歓迎していて、銃弾の音が聞えなかった。銃撃を受けてすぐに駆け込んだ奇美病院は、許文龍氏率いる奇美グループの病院だろう。病院で14針縫って、夜には、飛行機で台北に戻り、総統官邸にはいった。

○ 選挙は、予定通り明日行われる。選挙法によると、候補者が選挙日の前に死亡しない限り選挙は、予定通り行われる。陳総統も、呂副総統も予定通り投票するとしている。

○ 犯人については、呂副総統に当たった弾など、複数の弾が確認されており、複数犯ではないかとのことである。その後、民進党に、犯行を示すようなファックスが入った。228氾濫分子の陳総統、李前総統は許せないといった内容だが、果たして犯人かどうか分からない。

○ 犯人は、少なくとも、まっとうな国民党の支持者では、ないだろう。ここで、銃撃を受ければ同情票が陳総統に流れるのが明白だし、もし、まともに当たって殺してしまったら、選挙が延期になるからである。また、民進党の支持者のやらせでもないだろう。本当に殺してしてしまう可能性があって、リスクが高すぎる。

○ 選挙への影響は、同情票の期待できる陳呂ペアに有利だろう。問題は、何%動くかだ。テレビのあるコメンテーターは、4%程度ではないかと言っていた。民進党本部には、総統を心配する大勢の民衆がまだ集まっていて、23時の今も帰ろうとしない。ただ、台湾の人は、これが、連戦候補のしかけたことではないと、確信していると思う。また、民進党本部に集まって盛り上がっている民衆も、もともと民進党の支持者だろうから、得票の上積みにどの程度影響あるかは、分からない。但し、もともとが接線だったと思われ、ここで数%動くと大違いである。
(ここまで台湾時間23:30頃アップ)

○ 今日、午後、台北市内をタクシーで走っていると、緑軍(陳呂ペア支持者)が、大挙してパレードをしていた。それも、色々な場所でしていた。緑軍は、最後に台北を重点地域として、力を入れてきたようであった。ただ、陳総統銃撃のニュースが入ったからか、夕方には、なくなった。

○ ある意味で、与野党の危機管理が試されているようでもある。国民党側は、総統銃撃のニュースを受け、すぐに今日夕方に各地で予定されていた大決起集会を中止した。民進党も、中止した。このあたりは、両党とも手際が良かったと思う。

○ 病院側が、治療前で傷に血がにじんでいる、総統の腹部の写真を公表し、テレビで報道された。日本でこのなまなましい写真が報道されているだろうか。それを見ると確かに、命に別状はないだろうとはっきり分かる。こんなときにこんなことをいうのもなんだが、やはり年齢相当の男性の、脂肪がのったお腹である。

○ 李登輝前総統は、陳総統銃撃されるの報を聞くと涙を流して悲しんだという。銃撃のニュースの後、公の前に顔を出していない。

○ 連戦候補が、総統官邸に見舞いに行った。官邸には入ったが、「総統は、休んでいるので」と秘書長が応接した。これは、まあ、少しまぬけな感じがしたが、どうだろうか。

○ その後、録画した、総統、副総統の挨拶の映像がテレビで公表された。1分もない実に短いもので、私は、問題ありません。安心してください。台湾の安全に問題はありません。といった内容のもの。総統は、机の下に腹部をかくして患部を見せなかったが、副総統は、机がなく、白い包帯を巻いた右ひざが画面の隅に見えるアングルだった。ここは、民主主義を守れだとか、色々言うより、陳呂両氏がしたように「大丈夫です。安心してください。」とだけ言うほうが、同情もかいやすい。呂副総統の包帯が少しあざとかったが、比較的好印象ではなかったか。
(ここまで、24時頃アップ)

○ 色々な疑問が出始めている。
−何故総統は、防弾チョッキを着ていなかった。
−どうして、総統と副総統が同じ車に乗っていたのか。危機管理上よくないのではないか。
当局によると、防弾チョッキを着ないことも、正副総統が同じ車に乗ることも前例があるとのことである。

○ 陳文茜立法委員が、奇美病院が病歴を偽ったのではないかと疑問を提示した。これに対し、奇美病院は、猛然と反発。国民党の馬台北市長も、陳文茜氏の意見は、国民党を代表した意見ではないと発言。色々、妙な話もでてくる。

○ アメリカ、日本のニュースで、陳総統銃撃のニュースが大きく取り上げられた。ということを、こちらでも、大きく報道している。また、大陸中国では、簡単にしか報道されていないことも、報道されている。
(AM1時頃アップ。今日は、これ以降更新しません。)


3月18日
サッカーと選挙
○ 祝、オリンピック出場!サッカーの日本チームがオリンピックに出られて本当に喜んでいます。

○ 今回の予選は、「いかに選手をださないか」という監督の采配が光ったと思います。過密日程の大久保を休ませる意味もあって暑い中東には連れていかなかったことや、日本ラウンドのレバノン戦で主力を休ませたことが効果的でした。反対にUAEラウンドでのレバノン戦で、田中などを休ませなかったのを責める声もありましたが、結果論でいうとあそこで無理をして主力をだして4点取っておいたのが、最後に非常に効いてきました。山本監督には、脱帽です。いつ休むか。休ませるか。―難しいものですね。

○ 話し変わって、台湾の総統選挙です。ノーベル賞学者で台湾の民衆に非常に尊敬され、世論に影響力のある李遠哲氏が、陳呂ペアの支持を公表しました。前回の総統選では、この李遠哲氏の陳水扁支持が、陳総統誕生の決定打になったといわれています。とはいえ、4年後の今も、前回と同じだけの影響力がるのか、不明です。

○ EverGreenの長栄グループ張栄発総裁と台湾プラスチックグループの王永慶董事長は、陳水扁政権が三通をなかなか実現しないことを非難していますが、今回の総統選で誰を支持するか未だ明確にしていません。このように、ノーベル賞学者や、大企業の経営者の支持が、選挙に少なからぬ影響を与えるというのは、台湾の選挙の特徴だと思います。

○ ところで、少し考えるともっともなことですが、国民党の馬英九台北市長にとっては、今回の選挙で国民党の連戦候補が負けた方がいいと言われています。連総統候補と宋副総統候補との間で密約があるとの噂があり、だとすれば、少なくとも、連総統4年、宋総統4年、合計8年先でないと馬氏に総統候補になる順番が回ってきません。馬英九氏は、連戦氏より明らかに人気がありますので、国民党としても連戦候補にした、今回の選択が正しかったのどうかという気持ちが残るでしょう。ただ、馬氏にとっては、どちらにしても今回、連戦氏が負けるなら、民進党の中では、人気の高い陳水扁氏と今回は戦わず、万全の準備をして4年後の総統選に出たほうがいいと思われます。いつ休むか。休ませるか。−難しいものですね。


3月17日
総統選3日前
○ 総統選もあと3日となり、さすがに騒々しくなってきた。テレビでは、幾つかあるニュースチャンネルが殆どすべて総統選がらみの報道ばかりを流している。タクシーもちらほらと支持政党の旗を掲げた車をみるようになった。
 
○ 総統選挙の結果について行われている賭けでは、70万票から80万票の差で連宋ペアの勝ちというのが、1:1の倍率で賭けが成立するポイントということである。全有権者が1650万人なので、この80万票という差は、約5%の差である。

○ 選挙にどちらが勝っても、選挙後に政界再編があると思う。連宋ペアが負けた場合、宋氏率いる親民党は、党の継続ができなくなると思う。また、連氏も国民党のリーダーを追われる可能性が高い。そうすると、国民党側がバラバラになってしまう可能性もいくらかある。ところが、国民党がばらばらになってしまうと、民進党は、もともと様々なグループが反国民党で寄り集まっているので、結束を維持できるか、疑問に思えてくる。民進党と台連の二大政党制という図式は、美しいが、なかなか現実のものとしてイメージしにくい。一方、陳呂ペアが負けた場合、民進党と台連がどうなるか、全く分からない。比較的人気のある蘇貞昌台北県長に選挙で負けた野党勢力をまとめあげる力があるかどうか未知数である。

○ とかなんとかいいつつも、台湾の人は、当座、ほがらかにブラックジョークに笑いながらたくましく生きていくに違いない。


3月16日
弱いサッカー
○ 今日も5:30(日本時間6:30)にチャイムがなるなり会社をでて、日本の五輪予選のサッカーを見ました。日本、弱いですねえ。バーレーンに対して1敗1分けですから、要するに、日本は、バーレーンより弱いのです。ドーハの悲劇の頃、ひやひやしながら日本代表を応援していた頃を思い出します。

○ 今日のレバノン戦、NHKのBSのアナウンサーは、終始日本が好調であるかのように言っていました。しかし、1-0で日本がリードしながらなかなか追加点がはいらないときなど、僕には、好調と思えませんでした。

○ 明後日、日本がUAEに勝っても、バーレーンがレバノンに勝つと得失点差になることが分かっています。ならば、今日のレバノン戦は、4 − 0くらいで勝つ気でなければ駄目です。野球の五輪予選の時に、台湾の人が、日本は、韓国にわざと負けるのではないかと、本気で心配していましたが(ココ)、僕も、台湾的思考を身に着けたのでしょうか、レバノンがちゃんと戦うようには、全く思えません。次の試合で、バーレーンは、戦意のないレバノンに10 - 0で勝ってもおかしくない。そうすると、たとえ日本がUAEに1-0で勝っても、得失点差でオリンピックに行けません。そう思って戦っているようには、僕にはみえませんでした。

○ いや、やはり、Kさんもmailで述べられているように、日本のサッカーは、まだまだそんなに強くないのでしょう。ワールドカップ予選を勝ち抜いたのは、一回しかないのですから。これは、選手の気力の問題でも、監督の問題でもありませんね。

○ ところで、選手にブーイングしたり、卵を投げつけたりするのは、いけませんよね。戦っているのは、選手であって、僕たちは、外野で応援しているだけなのです。気の抜けたプレーや非紳士的な行為ならまだしも、単に試合に負けたときに、実際に汗を流してプレーをしていない人が、汗を流してプレーをしている人を非難するなんて、変ですよね。

○ そう自分に言い聞かせて、投げつけたクッションや、テレビにどなりつけた罵声を片付けてから寝ることにします。


3月14日
政治家のイメージ
○ 3月10日の台湾日記(ココ)に、イメージとして、「陳水扁=菅直人、呂秀蓮=土井たかこ、連戦=鳩山由紀夫、宋楚瑜=亀井静香」というのは、どうかと書きました。

○ この点について、修正をこめた補足ですが、台湾の政治家は、日本の政治家に比べ、数多くの修羅場をくぐっています。反政府運動をしていたときに、陳水扁の奥さんは、突然やってきた車に轢かれ今も車椅子の生活です。呂副総統も牢獄に行っていました。そういう意味では、菅や土井など、洟垂れ小僧みたいなものでしょう。その点、レベルが違うのだから一緒にするのは、失礼かもしれません。

○ しかし、僕が言いたかったのは、台湾の社会の中で政治家達がもたれている印象を、日本の社会でたとえるとこうではないかという意味です。台湾の政治家も修羅場をくぐっていますが、台湾の市民の方も、今の日本人の何倍もの修羅場をくぐっています。大変な苦労を重ねてきた台湾の人々にとっては、日本人には百戦錬磨に見える民進党の闘士ですら「書生ぽい」と思われています。台湾には、おじいさんが反政府運動を理由に殺されたとか、同級生が警察に引っ張って行かれたとか、おじさんが牢獄に行ったという人などは、たくさんいます。本当に苦労してきた台湾の人に、民進党が反政府運動をしてきた苦労だけをアピールしたとしても、「それが、なんぼのもんじゃい。ちゃんと今の経済運営と行政をやらんかい。」といった気持ちがあるように思えます。

○ 総じて言うと、企業の経営者など一部の本省人が民進党政権を批判するときによくいうのは、「批判や理屈はうまい。口げんかやイメージつくりなら、国民党より上。でも、実務遂行能力に欠け、経済運営は下手。」というものです。これは、日本では、菅直人が持たれている印象に似ているのではないでしょうか。下手なたとえとは思いますが、そうとでも思わなければ、「人口の85%を占める本省人を支持基盤とする陳水扁政権が支持をのばすのにどうしてこんなに苦労するのか」という、僕の今の最大の疑問に答えられないように思い始めています。


3月11日
最終世論調査
○ 台湾では、総統選挙の投票日10日前からは、意図的な操作を避けるため、世論調査の発表が禁止されています。そこで、9日までに各マスコミが発表した最終世論調査を挙げておきます。また、台湾の面白いところですが、国民党、民進党自身が世論調査をし、結果を発表しています。これも、あわせて挙げておきます。

単位:%

陳呂ペア(A) 連宋ペア(B) (A)-(B)
中国時報 39.8 38.1 1.7
聯合報 38 41 -3
TVBS 36 44 -8
蘋果日報 37.6 42.6 -5
年代民調中心 34.1 39.0 -4.9
山水民調中心 40.4 39.5 0.9
民進党 39.1 38.0 1.1
国民党 30.5 35.1 -4.6


○ 一般的に、実際の結果は、世論調査の結果より陳呂ペアのほうが、数%上回ると言われています。しかし、これもそれほど確かなものでもありません。過去の選挙を振り返ると、98年の陳水扁が馬英九に敗れた台北市長選も2000年の前回の総統選も、世論調査から人々が予想した結果とは、違っていました。実際には、両陣営の差は、ほとんどなく、最終コーナーを回って、横一線といったところでしょう。

○ 後10日間は、民進党陣営が自らの調査結果に満足して慢心しないか、宋氏が思ったより支持が伸びないのに苛立って連批判をにおわせてしまわないか、連氏が政治的チョンボをしないかといったところがポイントになりそうです。他には、直前まで隠し持っていた大きなスキャンダルの暴露が、もしかすると、どちらかの陣営からあるかもしれません。


3月10日
総統選、街の声
○ 僕のような外国人には、うまく聞ける機会は少ないのですが、総統選挙について台湾の人が述べた言葉の中で、幾つか印象に残ったものを書き連ねてみます。尚、僕の場合、どうして人口の大多数をしめる本省人が陳水扁氏を支持しきれないのかという疑問が頭から離れずに聞いてしまうので、その分、偏って取り上げているかもしれません。御留意ください。

○ 「陳水扁は、独立を急ぎすぎる。」(30歳代、男性)
これは、意味深いと思いました。つまりこの人は、台湾の独立に賛成なのです。しかし、今の陳水扁総統の進め方は、性急過ぎると思っているのです。このあたりが、今ひとつ、陳水扁氏を支持しきれない本省人の本音かもしれません。

○ 「連戦が総統になると、統一を実現してしまうかって?絶対ありえない。連戦は、そんなこと出来ないよ。」(40歳代男性、他多数)
支持政党に関わらず、結構、こういう意見が多いです。おぼっちゃんといわれている連戦氏には、統一を実現できるだけの政治力と実行力がないと思われているようです。しかし、李登輝前総統だって、総統になるときは、本省人だけれども学者で政治力がなく、体制変革なんてできないと国民党支持者から信じられていました。いまだにかなりの外省人は、「李登輝にはだまされた」とよく言っています。にもかかわらず、本省人が今度は、自分たちの番だと思わないのは、不思議です。それだけ連戦氏の人柄と能力について確信できるものがあるのでしょう。

○ 「3人とも駄目。陳水扁も連戦も宋楚瑜も」(40歳代男性他多数)
非常に多い意見です。

○ 「迷ってる。台湾の将来を決める大事な選挙ですからね。でも、陳水扁かなあ。連戦は、それだけのことができる大きな人物とは思えないけれど、万一、統一への道をつけちゃうと怖いから。」(30歳代、女性)
もちろん、こういう意見もあります。

○ 「今回は、連宋ペアにします。陳水扁は、tricky(策略を使う。騙す。の意)ですね。うーんと、それに、impolite(失礼な。ぶしつけな。の意)です。」(40歳代男性、会社経営者、本省人)
前回選挙で陳水扁総統を支持した本省人の会社経営者、幹部には、今、陳水扁総統に批判的な人がかなりいます。中国との経済交流の規制をなかなか緩めなかったことなどが不評です。それと陳水扁氏が政敵を批判するときの言葉が汚いといって、嫌がる教養人も多いようです。日本でいうと、良識のある多くの人が、学生運動に一定の理解を示しつつも、全学連の語彙の貧困さ嘆いていたのと同じようなことかもしれません。

 「公民投票には、投票しない人がたくさんでますよ。あんな長い質問文、田舎のおじいさんやおばあさんが読んで、YESとかNOとかと書くと思いますか。たとえ陳水扁に票をいれても、面倒くさくて公民投票には、何も書きませんよ。」(40歳代、女性)
確かに、質問文は、長いですね。こういう文脈で「田舎のおじいさん、おばあさん」というと、普通、陳水扁または、李登輝支持者と思われています。

○ ここまで飽きずに読まれたあなたは、かなり台湾の総統選挙通ですね。では、陳水扁、連戦、呂秀蓮、宋楚瑜を日本の現役政治家に例えてみませんか。僕の案は、陳水扁=菅直人、呂秀蓮=土井たかこ、連戦=鳩山由紀夫、宋楚瑜=亀井静香です。どうでしょう。台湾の人が盛り上がらない気分が少し分かってきませんか。


3月9日
戦略の欠如
上司に戦略がないと嘆く人は、大抵の場合、戦略立案能力も戦闘能力もないものだ。

(蛇足ですが、僕は、未だにジーコ監督支持です。)


3月8日
陳水扁支持率上昇か?
○ 6日付け中国時報によると、陳呂ペアの支持率は39.8%で、38.1%の連宋ペアを上回った。選挙が近づいてからは、陳呂ペアがこれだけの差をつけて、リードしたのは始めてである。と、いっても1.7%だけだ。

○ 3月3日のTVBSの調査では、陳呂ペアの支持率は35%、連宋ペアの支持率は40%で、その差5%。2月28日の調査では、7%差だったので、2%縮まっている。逆転したかどうかは、調査により数字が違うので分からないが、この一週間程で、陳水扁が支持を広めたのは確かなようだ。

○ このTVBSの調査で、年齢別支持率の違いがでていた。興味深いのは、陳呂ペアの支持率が、20代の若年層で高く、30代になると最低になり、老齢層になるとまた、上昇することである。それにしても、全体での支持率の差が5%であるにもかかわらず、30-39歳の層で、陳呂ペアの支持率が34%、連宋ペアの支持率が53%で、その差が19%というのは、大きい。

単位:%

全体 20-23歳 24-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60歳以上
N=1557 (9%) (13%) (22%) (22%) (15%) (19%)
陳呂ペア 35 52 40 34 37 38 29
連宋ペア 40 44 51 53 46 39 33
未決定 25 4 9 13 17 23 37


○ 30歳代といえば、李登輝総統時代に大学生から社会人の初期を過ごした世代で、最も政治的に敏感な年頃に自由と民主主義の進展を味わった世代である。しかし、別の見方をすれば、国民党的歴史観を中学・高校で学び、且つ、国民党独裁支配といっても、蒋経国後期の比較的自由な政治しか知らない世代でもある。その世代が、台湾民主化の立役者、李登輝の支持する民進党に背を向けている。民主主義というのは、難しいものだ。

○ また、50歳、60歳以上の年齢層で、未決定の比率が非常に高い。こういう人々の大半が結局は、民進党に入れるなら、確かに世論調査の数字以上に民進党の本当の支持率は、高いことになる。


3月6日
総統選挙の温度
○ 地元のテレビでは、今月20日の総統選挙の話題がずっと報道されている。毎月何十万円かの公設秘書給料を取っただけで議員辞職になる国なら、どの話一つとっても、あっという間に政治的死刑になりそうな新しいスキャンダルが毎日のように相互に暴露されている。テレビでは、大騒ぎしているけれども、市民の方は、実に平静で、たいていのスキャンダルは、面白がって話題にするものの、「やっぱりそんなこともあるんだろうね。」と台湾の政治全般への認識を再確認するだけで、支持候補を決定する引き金にまでには、至っていないようである。

○ 台湾や香港の繁華街で、われもわれもと道路側にはみ出してくる赤や金色の看板は、どれもが目立とうと派手になる余り、結局どの看板も目立っていない。ちょうど、その林立する派手な看板のように、どのスキャンダルもどハデであるがゆえに、個々の話題には、みんな心を動かさなくなっている。

○ 表面を総じて言うと、4年前の選挙戦より派手さがないという。何故だと聞くと、大抵の答えが「お金がない。」なるほど、台湾の人らしい、実にクリアな答えである。4年前は、街中のタクシーが支持政党の旗を立てて走っていたらしいが、今回の選挙戦では、どちらの陣営も一日一台数千円相当の協力費が払えず、そんな派手な光景はない。

○ 内心は、どうかと思い、一般の人に個人的意見を聞くと、誰それ候補は嫌いだという意見ばかりで、何々候補が好きだという意見をみかけない。これは、民主主義の危機ともいえるし、民主主義の成熟ともいえる。日本でもアメリカでも、選挙では、好きだから選ぶというよりも、比較的嫌いでない方を選ぶという風潮が強まっているのではなかろうか。これは、熱意の欠如ともいえるが、冷静な判断への意思ともいえよう。

○ 表面上、特にテレビでの派手で軽はずみな大騒ぎと、市民の側での井戸の底を覗き込むような冷静な視線が、対照的に思えるのは、僕だけが持っている特異な印象だろうか。


3月2日
人民元切上げと台湾2/2
○ 人民元の切上げが、台湾の企業の株にどう影響するか、という問題についての前回(ココ)からの続きです。台湾企業は、中国に巨額の投資をしているので、人民元の切上げが一見、プラスになるようですが、意外とマイナス面も多いようです。

○ 結局のところ、巨視的にみると、中国の経済成長の減速、台湾元のつられ高などにより、短期的にはマイナスがありそうです。また、個々の企業では、その台湾企業の中国投資が、その企業の資産にとってどの程度を占めているか、輸出指向型か中国市場を狙っているかという進出の形態によるところが大きいように思います。そこで、全体では、どちらの進出形態が多いのかを見てみます。

○ まず、台湾企業の総資産における、中国内資産の割合について。従業員数200名以上の台湾の大企業の場合、国内外資産総額に占める中国内資産の比率は、10%以下の企業が50.4%、11〜20%が20.4%で、そんなに高くありません。つまり人民元切上げによる資産価値アップの効果は、つれて台湾ドル高がおこり効果が弱められることも加味すると、台湾企業へのプラスは、限定的なようです。

○ 次に、台湾企業の中国拠点が輸出志向か、中国市場志向かという点です。あるアンケート調査では、在中国台湾系企業の中国内販売比率は、平均で48.15%となっており、輸出比率とほぼ同じだそうです。特に、台湾の株式市場で株価形成に一番影響をもつ電子産業系の企業は、中国への投資のほとんどが輸出目的です。人民元の切上げで、台湾企業の中国工場で製造した製品の国際競争力が弱まると、一番影響を受ける産業は、電子産業でしょう。それは、株価には、マイナスに反映するかと思います。

○ 結論的には、人民元が切りあがると、一瞬台湾企業が儲かるように思えるが、実は、マイナスの要素もかなり大きく、総体では、若干マイナスではないか。と、その程度のことしか、僕には言えません。この結論も、率直に言って自信は、ありません。

○ ただ、言えるのは、中国にとっても、IT投資のかなりの部分が台湾系企業でなされており、一方で、台湾のIT産業にとっても、ここ数年、対外投資の大部分が中国でされています。台湾と中国との資本での関係は、明らかに競合ではなく補完関係にあり、実に強力に結びつきつつあります。その資本での関係は、アメリカのファンドがアジア金融危機の前に行ったような、短期的な金融上の投資ではなく、製造拠点を作り再輸出を狙ったもので、複雑なオペレーションが入っています。人民元切上げが、即、中国に投資している台湾企業に、プラスとして直結できないことに、台湾と中国の経済上の結びつきの強さ、複雑さを感ぜざるを得ません。

○ 最後に、問題の設定の仕方にコメントさせてください。人民元の切上げが行われるかどうか、いつ行われるかという議論が多い中で、政策担当者ではない我々のような民間の実務者は、切上げの是非や時期の予知よりも、「もし切り上げられたらどうなるか、どうするか」を考えたほうが、実際的だと思います。市井の民が地震に備えるなら、あてにならないなまずを飼うよりも避難場所への逃げ道を考えておく方が大切なのです。


3月1日
人民元切上げと台湾1/2
○ 「人民元を切り上げると台湾の株は、上がるか下がるか。」という、問題を考えてさせてください。今回は、何人かの台湾専門家や経済の専門家にこの質問をぶつけて、頂いた答えをふまえて自分の責任で書いてみます。下記の議論の多くは、専門家の意見の受け売りも多いですが、匿名希望とのことにて、いかにも自分の考えであるかのように書いてしまいます。こんなことをできるのもサイトをやっている喜びの一つですね。

○ この質問の背景には、台湾企業の中国への巨大な投資があります。まず、少し古いですが、このサイトで昨年初め(1月29日)に書いているものを引用してみます。(ココ

○ 台湾の02年の対中投資額は、前年比38.6%増の38.6億ドル(ざっと5千億円)。これは、台湾の対外投資総額の53.3%。
○ 中国の02年の情報機器生産額(ハードウェア)352億ドルのうち、64%が中国に進出した台湾系メーカーによるもの。因みに日本は、315億ドル。ざっといって、日本の生産額の7割に相当する額を、台湾系企業が中国で生産している。恐るべし台湾パワー。
○ 台湾のノートパソコンの中国生産比率は、01年に5.2%だった。それが、02年は40%になった。
(引用終わり)

○ さらに今年1月初めの投資中国雑誌社の発表によると、台湾系企業が中国31省市に投資した金額は、当局の公式統計が発表している中国投資累計額を大幅に上回り、2003年までの累計で1295億4600万ドルに上るとのことです。

○ 実務の感覚でいうと、台湾系の企業の中国への投資は、ケイマン島や香港経由の投資や、他の中国内の事業で得た資金の活用などが大半を占めており、公式の数字より大幅に多いのは間違いないと思われます。02年の投資がたったの5千億円というのは、あり得ないので、その何倍だろうかと思います。では何倍くらいかというのは、額が大きすぎて見当もつきませんが、累計で1300億ドルと聞いても驚きません。

○ さて、こうした状況下で、「人民元の切り上げ」が行われると、台湾企業は、困るのでしょうか、喜ぶのでしょうか。それは、即ち、株が上がるのか下がるのかという質問になります。

○ 一般的に考えると、これだけ巨額の投資をした後で、その国の通貨が切り上がれば、大儲けです。台湾企業の株があがり、台湾企業が喜んでも不思議ではありません。しかし、この一般的な結論が、台湾企業の中国投資にはあてはまらない点があります。

○ まず、第一に、通貨水準の変更により投資簿価以上の価値を持つことができるといっても、その利益をすぐに現金化できるのかという問題があります。台湾企業の中国への投資は、中国の会社の株への投資よりも、中国にある自社工場への投資が圧倒的に多くなっています。こうした自社工場への投資は、その中国法人を上場するとか、他社に売却しないとなかなか現金化できず、すぐには、人民元の切上げのメリットを享受できないと思います。

○ 次に、台湾の電子産業系の企業が大挙して中国に進出していますが、彼らの投資は、輸出産品の組み立て工場に対するものです。この場合、人民元の切上げは、台湾系企業の中国工場からの輸出価格の上昇になってしまいます。中国工場の国際的競争力の低下は、即ち、台湾本社の収益力の悪化に直結します。

○ 上記2つの点は、台湾企業の中国進出のフローとストックの面を示しています。大雑把に言うと、人民元切上げは、台湾企業のストック面でプラスであり、フローの収益面でマイナス面があるといえます。

○ さらに、違った視点で、第三にいえるのは、人民元高になると台湾ドルもつられて上がる可能性があります。実際に、規制の及ばないオフショア市場の先物取引(NDF)では、人民元と台湾ドルの間で正の相関関係が強いようです。

○ 第四には、人民元の切上げが、中国の成長スピードを減速してしまうと、台湾の企業にとってマイナスに作用する可能性が高いことです。これは、かなり巨視的な(しかし、短期的な)見方になります。

○ このように、人民元の切り上げが、中国に投資している台湾企業にとって、すぐさまプラスにならない要素があります。そこで、では、願いまして結論は、というと、それは次回のお楽しみにさせてください。(といっても余り期待しないでくださいね。もやもやとした結論しかありません。)


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