台湾日記 2003年5月
台湾日記 バックナンバー 2001年6月〜2003年4月
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5月31日
峠を越したか?
○ 台湾のテレビで、SARS関係のニュースは、全体の3−4割程度になってきました。それも、地方での補欠選挙において、投票所前で検温している様子とか、偽物のマスクの話とか、SARSの恐怖を直接的に伝えるものではなく、間接的に派生した問題を伝えるものです。つい10日程前の、隔離封鎖された病院前からの生中継の時のような緊迫感は、感じられません。
○ 今、テレビで流しているSARS以外のニュースを適当に拾い上げると、地方で水道管を間違って切断してしまって断水が起こっている話、マグロを日本に輸出している話、田舎で秋田犬が子供に噛み付いた話、アルカイダのテロの話、ロスアンジェルスの動物園の象の話等々です。こうして書き並べると、のどかとすら言えますね。
○ 日本では、競争の激しい台湾のメディアが撮った強烈な映像が随分流れたので、SARSの猛威によって、街で人がバタバタと倒れているようにイメージしている人も多いようです。僕も、よくお気遣いの電話やメールを受けています。住んでいる身としては、別に「5%だけSARSにかかる」とか、「SARSにはかかっていないが、体が重い」ということは、あり得ない訳で、実に健康そのものです。よく食べて、よく寝ていますので、太りました。僕は、「SARSデブ」と自称しています。
○ 今、台湾への出張を考えている方が、台湾人のスタッフに日本から電話して尋ねると、十中八九「大丈夫です。街でも、普段と変わりなく人々は、暮らしています。」と答えると思います。台湾に住んでいる日本人は、もう少し慎重なことを言うと思われます。出張を考慮中の方は、このあたりの温度差も考慮して、考えた方がいいと思います。
○ 僕自身の見方はというと、そんなに怯えることもないとは、思います。しかし、トロントのようにこれから復活する可能性もあります。また、現時点では、SARSそのもの以上に、派生する問題も予想され、出張に来る事はすすめしません。例えば、出張中に他のカゼで熱を出して、SARS患者のいる病院に隔離されるのは、イヤですものね。それに、出張から日本に帰ってきたあと、熱でもだそうものなら、日本の社会のことですから、殆ど病原菌扱いするでしょう。それも危険です。下手をすると、企業の社会的責任とやらまで問われかねません。ある意味で、企業にとって、日本のメディアへの対応は、SARSウィルスと同じくらい難しいですから。
○ 独断でいうと、もう2週間程待って、結論をだす。出来ればWHOのいうレベルがもう一つ下がってから出張すると言うのが妥当なところだと思います。 ―尚、この意見は、僕の勤める会社の判断とは全く無関係です。クワバラ、クワバラ。―
5月30日
マスクうらおもて(2/2)
○ 前回は、マスクにも、平面型、おわん型、ひも一体型などがあるが、どれもなかなか吾輩の眼鏡にかなうものはないことを縷縷述べさせていただいた。
○ そこで、斯く成る上はと、使ってみたのが、マスクの上辺中央、鼻にあたる部分に5cm程の針金が水平についているマスクである。この針金を鼻の形に合わせて曲げて使うのである。高い鼻の人はより高く、吾輩の場合は、それなりに、使うことになる。こうすると、鼻の横の隙間がなくなり、息が目のほうに通らず、眼鏡が曇ることもない。できれば、さらに、マスク自体が単なる平面ではなく、水平方向にひだひだがついているのがよい。さすれば、でっぱった口と鼻をやさしく立体的に包みこんでくれる。うむ、これぞ、天使の感触。これならば、口の前に隙間があるのでゆるりと話すこともできる。苦しゅうない。
○ さらに一つ注文をつけると、使い捨てがよい。おしゃれにデザインされた洗濯して使うものは、マスクの邪道じゃ。朝、家を出る時に、新品のマスクをきりりと着けると、頭の上でシンバルがジャーンと鳴ったように、背筋がしゃきっとするものである。つまり、ここおいて、遂に吾輩は、「針金、ひだひだ、使い捨て」がマスクの王道と知る。
○ この「針金、ひだひだ、使い捨て」の王道マスクには、上下と裏表がある。まず、鼻に当たる針金のある辺が上であるのは、初級者にも容易に分かるであろう。さて、マスクに於ける通の道は、うらおもてを知るにある。それは、煎じ詰めれば、ひだひだの向きである。表のひだひだが斜め下方向を向くようにつけるのがよい。ひだのそれぞれが斜め上を向くようだと、なんとも様にならぬ。粋(いき)ではないのだ。
○ 閑話休題。−このくだらない話に、閑とか休があるのか疑問ではあるが..ー この「針金、ひだひだ、使い捨て」の王道マスクに於いて、マスクのうらおもてを知った時、雷にうたれたように一つの思い出が蘇った。学生時代、北海道を一日500円の予算でヒッチハイクしながら旅行していたときのことである。夜は、寝床である駅の待合室に同じようなバックパッカーが寝袋を持って集まり、話し込むことになる。こういうときは、決まって、貧乏自慢になる。悲惨な旅行自慢となる。遂に、ある猛者が、洗濯ができないので、パンツをうらおもて替えてはいていると告白した。ここで俄然場は、盛り上がった。ある人は、恥ずかしそうに前後を替えれば更に使える。一枚で4回使えると言い出した。と、もう一人が、顔を輝かせて、「おれは、正三角形のパンツを持っている人を知っている!」とのたまわった。うぶな吾輩などは、さて、正三角形だと、何回使えるかと考え出すと、眠れぬ一夜を過ごす事になった。
○ さて、話は、マスクである。下着ではない。まこと、マスクの道は、極め難いものだ。台湾では、キャンペーンガールが、ミニスカートのワンピースと同じ色のラインをいれてコーディネイトしたマスクを着けたりしている。なかなか、商いの道にもつきぬものがあり、味わい深い。
○ 味わい深いというと、ある日本人駐在員の話が、思い起こされる。この駐在員氏、齢は50も越しているが、御母堂が流行り病を心配して、毎日のように日本から電話をかけてくる。手を洗った?はい。うがいした?はい、しました。夜更かししていない?はい。しないようにしています。いや、全く、歳はいくつになっても、親は親、子は子。この心こそが、やまいを防ぐマスクの道の極めなのかもしれぬ。
5月29日
マスクうらおもて(1/2)
○ 流行り病のご時世となり、急に身近になったものにマスクがある。吾輩は、幼少の頃よりマスクの経験などなかったが、毎日つけてみると、このマスク、表もあれば裏もあり、上もあれば下もある。可愛げもあるし、ご機嫌もある。誠に奥が深く談ずるにきりがない。人生四十余年、不惑の歳も越してようやく、吾輩は、マスクのうらおもてを知るに至った。
○ まず、最初に手にしたなんの工夫もない平板なマスクが、実は、あまり愉快ではないことに気付いた。そもそもでっぱった鼻がついている立体的な顔を、平面の布で押さえようとするから、どだい無理な話なのだ。鼻の横に、マスクと鼻とほおで囲まれる3角柱の隙間ができ、はいた息が鼻の横から目のほうに直撃する。途端に、眼鏡が曇り始める。スーハ−、スーハーの度毎に、眼鏡のレンズにびろろん、ぴろろんと白く曇った領域が広がる。不愉快である。
○ おまけに、口がぴったり塞がれていて、話しにくい。ただでさえ下手くそなのに、これで、英語や中国語を話したりしたら、通じるべくもない。そのわりに、あちこち隙間があって、ウィルスちゃんは、すっかすっかと入ってきそうである。要するに、害あって利の少ない代物なのだ。けしからん。
○ そこで、お椀型のマスクに挑戦した。そうそう、マスク不足と聞いて、ある台湾の人がブラジャーを改造してマスクを作っていた。「こうすれば、ほうら、一つから二つできる。」と名言を吐いた、あのタイプである。因みに、ニコニコしてこのブラジャーマスクを作っている映像を、よせばいいのに、NHKが深刻なニュースの合間に流し、さしもの森田美雪さんも絶句して、硬直してしまったという、いわくつきのタイプである。ここでは、今後、品よく、お椀型と呼ぶことにする。
○ ふむ、確かに似ていなくはない。顔が立体である限り、平板な布一枚で対応しようとするよりも、立体的に作られたXXXx−を使う方が、気が利いている。とはいえ、寄せて上げる必要がないのは、忘れてはなるまい。
○ 見たところ、具合が良さそうである。口の前に空間があるので、話し易そうだ。鼻の横もぴったりふさがれていて、息がもれない。眼鏡も曇らない。ところが、着(き)てみると、いや失礼、着(つ)けてみると、問題が、無い訳ではない。マスク自体が大きくでっぱっており、重量もあるせいか、他のもののように、耳にひっかけるタイプは、殆どない。首や頭の後ろまで回ったゴム紐で止める事になる。実際に使ってみると、これは、不便である。第一に、頭の上からかぶるようにして着けるので、着け外しが大変面倒だ。さすがの台湾人もフロントホックまでは作るに及ばずか。さらに、吾輩のようにお顔がほんの僅かに大きい人間には、とにかく痛い。きりきりと閉めあげられ、我慢がならぬ。このお椀型マスク、吾輩は、一度使ったあとは二度と使わなくなってしまった。
○ ところで、先日、会社からこのお椀型のマスクが支給されたことが一度だけある。吾輩は、意を決して、総務部長殿のところにこれを二つ持っていった。深刻ぶって「話があります」と言ったところ、「見えた!お前のギャグは」と、マスクを胸につける前にいわれてしまった。あんなにニヤニヤして近づけば、誰だって分かるさと、一刀両断。吾輩もまだまだ修行が足りませなんだ。
○ この他には、耳にかける部分がひもではなく、口に当たる部分と同じ素材のマスクがある。ひも一体型である。一枚の平面の素材を耳にかける部分も含めて打ち抜いて作っており、恐らくは、一番安いマスクである。こいつは、感心しない。耳にかけるひもの役割をする部分が、伸縮しないのでかなり短めに作ってある。吾輩のように、エラがちと張っている輩には、ひもが耳を口の方にひっぱって、痛すぎるのである。痛いのもつらいが、それ以上に、つけている間中、マスクに「おまえのエラははっている。おまえのエラははっている」と耳元でずっとささやかれ続いているようで我慢がならない。マスクごときに、心身ともに攻め立てるのもたいがいにしてもらいたいものだ。
○ このように、マスクには、平面型、おわん型、ひも一体型などがあるが、どれもなかなか吾輩の眼鏡にかなうものはない。うむ、くだらん話をこんなに長く書いてしまった。読んでしまったあなた、吾輩がいうのもなんであるが、相当暇か酔狂な人でござるな。さて、マスクの道を極めて知った、王道のマスクとは、何か。それは、明日の台湾つれづれをお楽しみに。
5月28日
楽観的
○ 台湾の人は、日本の人よりは随分楽観的なようです。まだ、患者も新規にでているし、死亡者がいるにも関わらず、もう、SARSは、収束に向かい始めたと思っているようです。街に人出が戻り、テレビでも関連のニュースが減ってきました。
○ 台湾の人というのは、恐らく、世界中で一番、日本の文化に近い人達のひとつだと思いますが、このちょっと、能天気なくらい楽観的で、飽きっぽいところは、日本人には、いつまでたっても驚かされます。今、同じ場所にいても、日本人と台湾人では、現状認識が全然違っています。僕の家の近所で、マスクをしている人を見ると、「あ、日本人かな」と思うくらいです。
○ この点に関して言えば、深刻そうにSARSのニュースを報道している大陸中国の北方の人々の方が、まだ、日本人に近いかと思うことすらあります。ある人は、台湾の人には、世間で言われているよりもたくさん南方系の血が入っており、漢民族の血が薄いと言っています。この話の真偽の程はともかく、本当に多面的な社会と文化だと、痛感します。飽きません。
5月27日
陳水扁総統3周年
○ 少し前の話になるが、5月20日に、陳水扁総統が就任3周年を迎えた。国民党/連戦と、親民党/宋楚瑜の間で提携が成立し、来年の総統選挙では、相当苦しいようだ。陳水扁総統陣営からですらも、このままでは必敗との声が聞かれる。では、世論調査を見てみよう。
○ CATV大手、TVBSの世論調査によると、陳総統の施策の満足度調査で、満足:33%、不満:51%。一年前の就任2周年のときの、満足:51%、不満:18%から大幅に下落している。尚、游行政院長に対する満足度は、55%であった。また、来年、政権担当政党が交代する事に、58%が賛成。望まないが26%。TVBSについては、統一派寄りだと言う本土派の人が多いが、僕の感覚では、日本の朝日新聞や、読売新聞ほどスタンスをはっきりさせているようには見えない。
○ 香港系でスキャンダル報道で有名な「りんご新聞」が、国立政治大学に委託した調査によると、
陳水扁政権に対して、満足:15%、普通:34%、不満:44%。
民進党支持者でいうと、満足:45%、普通:40%、不満:10%。
国民党支持者では、満足:7%、普通:19%、不満:69%。
無党派層では、満足が17%、普通が37%、不満が41%。
○ 現時点では、連宋コンビが、強い。しかし、台湾の選挙は、直前の世論調査から推測しても、かなり違った結果が出ることが多い。決めてかかるのは、禁物である。
5月23日
SARS時代のタクシー
○ タクシーでの感染というのも、可能性0では、ありません。乗客がタクシーでSARSをうつされることもあるし、運転手が乗客にうつされることもありえます。
○ そこで、タクシーに乗り込むときは、ちょっとした緊張感があります。乗客が行先を言うとき、バックミラー越しに運転手の顔を見ながら、(咳、してないよね。マスクしてるよね。)と確認します。運転手さんの方も、行き先の場所の確認をしながら、(熱、ないよね。マスクしてるよね。)とこちらを検分しているのを感じます。
○ お互い、大丈夫そうだと分かると、少し一息いれます。
これで、うつされたらしょうがない。
一期一会。一連托生。窓を開けて、空気を入れ替えながら走りましょう。
てな、感じですね。
○ 台湾では、よく、タクシーの運転手が人懐こく話しかけてきたものです。(ココ)しかし、SARSが流行り始めてから、余り話し掛けてこなくなった気がします。マスクをしていて話しづらくなりましたから。それに、なんだか話し込むとうつるような気もしますから。
○ お互い黙って車が進みます。車のスピードが出てくると、窓からの風が耐えられなくなるほど強くなります。びゅーびゅーと風が顔にあたると、これでカゼをひくのではないかと思います。そこで、また、バックミラー越しに運転手の顔色を見ながら、遠慮がちに窓を少ししめます。窓をしめるのを運転手が拒否する事もあります。だって、運転手さんだって、ちょっと命がけですもの。ですから、完全には、閉めません。
○ こうして、かすかな緊張感をもって、しばらく、右へ左へ道を進んでいくと、運転手さんと妙な連帯感すら感じます。余り話しませんけれど。マスクの上からでている目だけをお互い見つめて、会話をしているようです。前の車の運転、ひどいよねって。バックミラー越しに。
○ 目的地に到着してお金を払う時は、昔より少し心をこめて「謝謝(シェーシェ)」と言える様になった気がします。運転手さんも、昔の明るく元気な人よりも、しっとりとやさしい人が増えたように思えます。ぼそりと言ってくれます。端数の5元いいよって。
○ もしかすると、口を覆うことによってコミュニケーションが豊かになることもあるのかもしれません。
5月19日の2
SARS対応
○ 日本でも専門家の方々が必死で対応しているのに、またまた、釈迦に説法だと思いますが、台湾での失敗を間近で見た感想を素人の独断で書いてみます。
○ とにかく、医師の認識、対応力を高めるのが最優先です。台湾での感染は、8割が医療機関でおこりました。台湾でも、マスク、手洗い、うがいの励行とか、SARS患者の通ったところの消毒などを必死でやっていますが、この病気、鍵を握るのは、結局、医者です。
○ 第一に、発熱症状のある患者をみた初期の段階で、SARSの可能性のある患者を一早く見つけ出すのが大切です。台湾でも、町医者が最初にただの風邪と診てしまい、治らないので病院を変えてようやくSARSと認定、そのときには、家族などに感染していたという悲劇が頻発しています。町のお医者さんの意識が高いことが求められます。台湾のSARS患者が旅行した旅館の消毒も大切ですが、それよりも、その地域の町医者の連絡をよくすることの方が、効果が大きいようにみえます。
○ 第二に、院内感染を防ぐのを徹底する必要があります。残念な事に、台湾では、院内感染及び、医療関係者の家族から感染が広がってしまいました。つらいことですが、SARS患者を収容した医療機関の関係者は、しばらく、特別の宿泊施設に泊まり、家族とも接しないくらいのことをした方がいいと思います。
○ 第三に、今回、日本を旅行しちゃって大ひんしゅくをかった台湾医師の二の舞をしないことです。つまり、担当外の医療関係者が、SARS患者に「直接接していないが近くを通る」などという状況をつくらないようにすることです。また、SARS患者に接する医療関係者が他の医療関係者と、(むつかしいでしょうが)できるだけ接触をしないようにすることです。
○ SARSは、発熱などの症状が出ている人は、四方八方にうつしまくる可能性があり、症状のでていない人は、なかなかうつさず、発症の有無により感染力が格段に違うということです。症状がでた人は、医者に来ます。そこで、その患者を早くみつけ、他に感染しない状態にもちこみ、ちゃんと対応するかどうかが、勝負の別れ目になると思います。
○ 先程、鍵は医者だと書きましたが、上記のように、医療設備とかのハードではなく、医者の心構えといったようなソフトが重要です。台湾は、医療設備は、先進国並みにしっかりしていたのですが、おさえきれませんでした。ベトナムでは、貧弱な医療設備だが、初期動作がよくて沈静化しました。さて、日本は、医療設備は立派でしょうが、医者の心構えは、どうでしょうか。
5月19日
SARS患者の日本旅行の修正・追加
○ 昨日書いたものが、必ずしも正確では、なかったようなので、もう一度修正も兼ねて、書きます。僕自身が、中国語の能力が乏しく、いつまでたってもはっきりしない事をお許しください。
○ 日経の記者は、「台湾はSARSの件で中国を非難していたが、台湾の人が日本にSARSをうつしたのでは、同じではないか」ということを言いたかったようです。この記者の中国語が非常に聞き取りにくい中国語であったことと、激昂していたので、台湾の人でも、何を言っているかはっきりとは分からなかったようです。
○ また、病院側も会見の途中で、「医者は、海外旅行してはいけないというのか。」というような、やや感情的な発言もあったようです。
○ 台湾に駐在する日本人の反応は、概ね、このときの日本の記者に批判的なようです。こんなBBSもあります。
http://233.teacup.com/kib16639/bbs
○ 一方、この記者会見に対する台湾の人の反応は、確認できていません。
ある台湾人の中年の女性は、「朝日の記者の発言は、理解できる。だって、感染を防ぐ為には、一番言いにくそうなことも含めて全ての行動を知りたいじゃない。」ということでした。日経の記者については、「彼は、親大陸派ね。」とかすかに微笑みました。台湾の人らしい反応です。
○ いずれにしても、誰かが言っていた「敵は人ではなく、ウィルスだ」という言葉が真実だと思います。この記者会見の話は、これで終わりとさせてください。
5月18日
SARS患者の日本旅行
○ 台湾人の医者が日本を旅行した後、SARSだと認定された事件がでた。このニュースを聞くなり、多くの台湾人が僕に向かって「スイマセン」と言ってくれる。いや、別に、その人が謝る事でもないし、僕に謝ることでもないと思う。僕の方としても、「はあ」と、きょとんとするしかない。しかし、多くの良心的台湾人が心を痛めているのは確かだと思う。
○ 台湾でも、テレビで、この事件を繰り返し、報道している。台湾のニュース専門チャンネルは、5つくらいあり、30分毎くらいに、内容を差し替えながらニュースを繰り返している。今は、どのチャンネルも8割がたSARS関連のニュースを流しており、今回の件は、SARS関連ニュースの内、トップ3の一つぐらいに報道されている。結局、5つあるニュースチャンネルをくるくる変えながら、15分ほどテレビを見ていると、このSARS患者の日本旅行に関する報道が見られる。報道の頻度は、そういう具合である。
○ 今回の事件で、ことの本質とは違うところで、思ったことを少しだけ書き連ねてみる。
○ 坂口厚生大臣が「医の倫理に反すると、週明けにでも厳重に抗議することを検討している。」と発言。
らくちんコメント:銀行員じゃあるまいし、週明けまでまたずに、今日やればいいじゃない。
○ 日本旅行をした医師のいる馬偕病院側が、記者会見で、「日本の方には、まことに申し訳ない」といいつつ、一生懸命事実関係を説明していた。
−この医師は、SARS患者と直接接する医師ではなかった。
−台湾出国時は、熱はなかった。休暇を取得しての旅行であった。
−日本にはいってから発熱、症状がでたので、SARSの疑いがあると認識するのは難しかった。
−台湾人のバスツアーだったので、日本人との濃厚な接触はなかった。
らくちんコメント:台湾では、院内感染をコントロールできていないのが最大の問題。別の担当であっても、SARS患者のいる病院にいた医療関係者には、日本側も入国時のチェックを考えざるをえないと思う。一方で、日本で、SARSが広まったとき、上記のような医者を本当に行動の自由を拘束できるのだろうかと、思ったりする。日本の大きな大学病院でSARS患者の治療にあたったとする。そのとき、患者の接点のない、同じ病院の皮膚科の医者は、どんなに大事な国際会議であっても海外に行くべきではないと割りきる必要があると思う。
○ この記者会見で珍事件がおこった。日本のメディア関係者の一人(日経の記者)が、中国人がするよるももっと派手なジェスチャーで、中国語で猛烈に抗議し始めた。
らくちんコメント:ほお、すごい人もいるなあと感心。良し悪しは別にして、驚くばかり。その答えの中で、病院側は、「SARSの件で、台湾もうつされてきたのだが・・・ここで、そう、日本に批判されても….いや、もちろん、ご迷惑をおかけした事は、謝罪します。」というコメントは、傾聴に値する意味を含んでいる。いずれにしても、映像を見てもらえれば、分かるが、この記者が例えどんなに正しい事を言っていても、記者会見当事者につかみかからんばかりのその記者の態度は、芸能レポーターならともかく、日本を代表するマスメディアとしては、誉められたものではない。
○ また、同じ記者会見で、朝日新聞の記者が、「この医師が、日本で買春をしたとの話もあるが」と聞くと、さすがに病院側の人が怒気を強め「彼が買春をしたことは、我々は知らない。但し、台湾で、誰が買春をしているかは、我々は知っている。」と言った。後で、病院側は、再度日本側に詫びた。この様子も、台湾のニュースで映像つきで報道されている。
らくちんコメント:先の件とあわせ、日本のマス=メディアの品のなさを示す話でもある。また、台湾の病院側も、メディア慣れしていないお医者さんだけに、見事に挑発にかかってしまった。なんだか、こういうのを見ると、台湾の人に「スイマセン」といいたくなってしまう。僕自身は、朝日と日経の読者であり、最近の台湾の報道は、随分、詳しくなってきたので、喜んでいたところである。恐らく、ここで目立ってしまった二人の記者の努力で台湾の報道が増えたのであろう。そう思うと複雑な心境ではある。台湾の人には、大目にみてやって、といいたいし、日本のメディアには、もうちょっと、紳士にねといいたくなる映像だった。
(5月18日深夜に青字部分を追加、5月28日にも少し修正))
5月17日
天母でのSARS
○ らくちん(筆者のペンネーム)の住んでいる天母(テンム)地区にある大葉高島屋デパートの女性店員が発熱、SARS陽性となった。この件が日本人駐在員の家庭に与えた動揺は、大きい。
○ 天母は、台北市には属するが、中心部からは少し離れており、台北駅からだと車で30分くらいかかる。こちらの感覚では、「郊外」にあたる。天母には、日本人学校があるので、小中学生の子供がいる日本人駐在員の家庭は、ほとんど、ここに住んでいる。
○ 天母は、SARSで病院が封鎖された萬華地区からでも、車で40分くらいかかる。また、SARS患者もでていなかった。だから、とうとう天母にもきてしまったかというのが、日本人の住人の印象だと思う。以前、天母にあるアメリカンスクールの職員がSARSの疑いありとなり、アメリカンスクールが夏休み明けまで休校となった。しかし、後にSARSでないことが判明。ちょっと、ほっとした直後であっただけに、ショックは、大きい。
○ 天母にある、この日系デパート大葉高島屋の地下一階には、日本人客をあてこんだスーパーがある。日本の食料品などが充実しているので、天母に住む日本人は、週に一度くらいは、買い物をするようなところである。台北市内で日本人学校の次に日本人密度が高いところとも言えるかもしれない。今回のSARS患者は、日本人が一番行き来するこの地下一階にある、タコ焼き屋の女性店員であった。
○ このニュースを受けて、日本人学校では、今日予定されていた運動会を中止。来週一週間休校となった。運動会といっても、今回のSARS騒動で、父兄も来させず生徒だけで授業と同じようにやる予定であった。しかし、さすがに、身近な生活圏に患者が出ては、それすらも中止せざるを得なくなったようである。
○ 僕自身も、このデパートの地下一階には、5月4日に行った。その後2週間以上たつが、発熱も咳もないので、SARSには、かかっていないのだろう。この女性店員は、仕事をずっと休んでおり、5月10日に一日だけデパートに来、そのときに熱があったので、以後職場には来なかった。つまり、実質5月10日の一日だけが、このデパートで感染する可能性のある日ということになる。今、台北に住む日本人の各家庭では、カレンダーをめくって、その日にどこに行っていたか、思い出す作業をしているのである。異様な光景ではある。
○ 龍山寺のある萬華地区がSARSのメッカのような状態になったときに、以前、お客さんを連れてよく行ったあたりだなあ、などと思っていた。(ココ)今度は、つい2週間程前に行ったその場所であり、また、自分の住んでいるところのすぐ近くになった。こうして、時間的にも、遠い昔の話から、つい先日の生活行動に関連づいてき、場所的にも、ウィルスの影がひたひたと、自分に近づいて来た。まるでヒッチコックの映画のようである。
○ なんて、深刻そうに書いておきながら、今日もゴルフに行ってしまったらくちんであった。チャン。チャン。
5月15日
台湾の戦略的価値
○ 国際政治の中における台湾の位置について、久しぶりに目の覚めるような文章を見ました。岡崎久彦の"The
Strategic Value of Taiwan"「台湾の戦略的価値」 (ココ)です。日本で戦略論といえば、氏が第一人者であるのは、衆目の一致するところです。
○ 2年半前に、僕が、自ら希望して台湾勤務になったのも、おおげさにいうと、21世紀の日本、ひいては、世界を運命付けるのは台湾であり、それを見ておきたい、という思いからでした。
○ これはまた、僕独自のへんちくりんな読み方かもしれませんが、今、この岡崎氏の文章を読むと、改めて、来年の台湾の総統(大統領)選挙及び、選挙にいたる過程の重要性を再認識します。この選挙は、日本だけでなく、21世紀の世界に対して大きな影響のある選挙に思えます。そして、その重要性に対して、日本人が全く感づいていないだけでなく、台湾人ですら無自覚であるようにみえます。あと一年、とくと見させていただきましょう。
5月13日
道路料金の値下げ3
○ このサイトでは、道路料金の値下げを再三主張していますが、同じ考えの人がたくさんいることがどんどん分かってきて喜んでいます。(僕の意見については、02年9月6日「道路料金の値下げ」、9月8日「道路料金2」)
○ 「溜池通信」の5月12日のdiaryによると、J-WAVEの"Jam
the World"で、「高速道路を無料化して景気の起爆剤にする」という案を紹介すると、反響が大きく、番組終了時までにスタジオに届いたメールが、厚さ2センチに届くほどだった、とのことです。この案は、元ゴールドマンサックス投信社長の山崎養世さんが提唱している「日本列島快走論」で、『プレジデント』誌の5月19日号、あるいは先週の週刊新潮、「櫻井よしこの日本ルネサンス」などでも取り上げられているそうです。僕は、山崎さんのいう無料化までは、言い切っていない点が違いますが、同じ発想の方がいて、その案が支持を受けるのは、とても嬉しいものです。
○ もう一度、僕の意見を整理すると、道路に対する方策の優先順位を次のようにしようというものです。(ココ)
従来の政策: 1)道路の拡大 2)国庫投入の削減 3)道路料金の値下げ
小泉改革 : 1)国庫投入の削減 2)道路の拡大 3)道路料金の値下げ
らくちん案: 1)道路料金の値下げ 2)国庫投入の削減 3)道路の拡大
僕の知っている範囲で、同じような意見を明らかにされているのは、「リスクをとる人とらない人」の著者の西村さん(ココ御参照)、「中国台頭」の著者の津上さん(ココ御参照)などがおられます。
○ 有力な反対意見もあります。自動車を持っている人だけが受ける便益に税金を使うのは、不公平だというものです。僕は、この種の意見は、1974年に宇沢弘文が出した「自動車の社会的費用」という本の影響が大きいと思います。この本の出版当時に学生時代を過ごしたような年代、即ち、今40代後半から50歳代の方が、どうしても受益者負担にこだわられるのは、この本の影響でないでしょうか。その意味で、この本は、本当に名著です。僕達の年代は、自動車が最早贅沢品ではない社会で育っているので、感覚が決定的に違っていると思います。
○ らくちんも初めて「道路料金の値下げ」案を述べた時に、こんなサラリーマンの個人サイトにしては、大きな反響があったので、驚きました。そのときから、僕は、この案は、世間的にも人気を取りやすい案だとずっと思っています。J-WAVEでも肯定的な反響が大半であったということです。民主党か、自民党の「抵抗勢力」か、あるいは、他の政党が、この政策を掲げると、人気をとりやすいと思います。小泉さんでもいいです。僕としては、例え人気取りの為であっても、たとえどの政治勢力であろうとも、正面から取り上げ、実現してくれると、こんなに嬉しい事はありません。ちょっと、パソコンで自分の作ったフリーウェアが多くの人に認められるような喜びではないだろうかと夢想しています。
5月12日
SARSの問いかけ
○ 台湾社会でのSARSへの対応をみていると、グローバリズムの進展、医療制度、人権などの現代的で且つ複雑な議論とともに、仕事とは何か、隣人と暮らすとはどういうことか、隠してはいけない話と隠さなければいけない話とは何か、という身近で単純な問題を深く考えさせられます。
○ まず、職業について考えさせられた話です。病院ごと隔離された時に、逃げ出した医者や看護婦がかなりいました。その医療関係者達は、強く非難され、免許も取り消されました。一方、その後、その隔離された病院内で、任務を果たそうとした看護婦が数名、SARSに感染し亡くなりました。多くの人がその方々に敬意を表し、深い哀悼の意を表しました。しかし、死亡した医療関係者がでてしまった以上、逃げ出した医者や看護婦が、「人生の選択として、逃げ出したのは、やはり間違いでなかった。」と主張した時、私には、よい反論が思いつきません。
○ この議論は、すぐ、身近につきつけられる議論となります。一ヶ月後、台北なり、北京で、SARSがやや沈静化したとします。大変大きなビジネスのある客から、台北や北京に出張で来て欲しいといわれた時、どうしますか。あるいは、自分の部下を出張で出して欲しいといわれたとき、行かせますか。二ヵ月後なら行きますか。そして、ある日、日本人の出張者からSARS患者がでたとき、あなたはどう思いますか。
○ 次に、隣人との暮らしの話です。SARSは、よい検査方法がありません。従って、SARSの感染を止めるには、SARSかどうか分からない人も隔離する必要があります。「疑わしきは、罰せず」が人権の基本的な考え方であるにもかかわらず、SARSの予防策は、「疑わしきは、隔離」になってしまいます。
○ 例えば、台北では、SARS患者が数名でた通りを隔離封鎖しました。風邪ひとつひいていない、見るからに元気そうな人も隔離されています。中には、隔離の対象になったからといって婚約破棄された女性もいます。また、元気であるにもかかわらず、疑いのある地域に閉じ込められれば、隔離されている間に感染する恐怖は、並大抵ではないと思います。それでも、社会全体の為には、隔離した方がいいのです。自分が隔離される側にいた場合、あるいは、隔離地域のすぐ隣にいた場合、僕は、どう心を整理するべきかよく分かりません。
○ 次は、言うべきこと、言うべきでないことの話です。北京が情報を隠していて、SARSを広めてしまったのは、大失敗だったと思います。一方で、台湾では、マスメディアが感染者の名前(姓だけ)を明らかにする場合があるのですが、これは、行き過ぎのような気がします。どこまで、メディアが公表し、どこまでを公表しないかというのは、これからも議論が続くでしょう。
○ そして、個人の暮らしでも、すぐにこの問題を突きつけられます。例えば、今、台湾から日本に帰った駐在員の家族は、自主的に10日間、ホテルにいるようにと言われています。そのときに、すべてのホテルは、受け入れてくれるのでしょうか。自分は、台湾から来たので、自主隔離の状態だと言った方がいいのか、言わないのがいいのか、と考え出すと、悩みにはきりがありません。
○ あれあれ、もう夜も遅くなってきました。寝た方がいいようですね。こういうときに、こういうのもなんですが、
それでは、皆様、お元気で
5月11日
UCCファイル制度
○ 5月6日にこのサイトで書いた日本型UCCファイルの件(ココ)ですが、NY州弁護士の資格のある読者から、コメント頂きました。専門家の前で、愚案を開陳していたかと思うと冷や汗が出てきて、穴があったら入りたい気分です。でも、顧問料無しにコメントをいただけるのですからありがたいことですね。Iさん、ありがとうございます。これも、サイトをやっているありがたみだと思います。
○ 勉強不足で、僕は、コメントの内容を完全には理解できていませんが、御趣旨としては、「アメリカに似ているものは、それなりに日本で導入されている。しかし、一番大切な裁判所の強制手続き、なかでも法廷侮辱の制度が、日本では、決定的に欠けているのが問題。」というものです。
○ なるほど、法廷手続きの問題は、全く論点から抜けていますね。そちらの方が、大きいかも知れません。不良債権処理の新しい枠組みとかというと、必ず、検察関係者の名が挙がるのは、妙ですものね。
○ また、UCCファイルと同様の効果をもつ制度は、それなりに日本で導入されているというのは、僕も実感しています。この5年程の、この分野の法改正は、実務者には、ついていくのが大変なほどの改善(変更)がされており、僕は、それを肯定的に受け取っています。それでも、債務者不特定の将来債権など、まだまだ対象を拡大できるというのが、僕の考えです。電子化にしても、公示の対象にしても、拡大してきたのは、よく分かる、でも、もっともっとして欲しいというのが僕の立場です。
○ では、Iさんからのemailのご紹介します。
UCCファイルの応用については、売掛債権等の担保差し入れについて商業登記簿謄本への登記の制度が導入されています。さらに、電子的な登記についても、登記所で受け付けています。実務上の問題は、日本の民法では、対象を特定しなければいけない(訴訟物が定まらない)ため、どれくらいの将来の期間に発生する債権が担保になるか、金額の特定はどのような形で(3ヶ月毎に5百万円の債権が発生・回収される場合、累積式=年20百万円残高式=年5百万円)、登記の存続期間をどれくらいとみなすかなどに実務上の取り扱い慣行が確立していない点にあります。
しかも、日本の法律上は、謄本で登記されて第三者に対する対抗要件が具備されても、債務者に対する対抗要件があくまで債務者の承諾もしくは確定日付のある通知となっているため、債権の実行が出来ないし、支払請求も出来ないという問題があります。現実に商社の実務で債権の担保登記が行なわれることはありますが、商社法務部の見解としては「あくまで補助的なもの」としての認識しかありません。現実問題として、もし第三債務者への通知が内容証明で送付されたら、信用問題に発展して、商社の取引相手を倒産させることになりかねません。
また、この制度の対象はあくまで債権に限られます。動産なんかは、質権設定か譲渡担保で個別的に対応せざるをえない。
では、なんでUCCファイルがアメリカで実効性を持っているかというと、それは裁判所の持つ権威が実効性を保たせているとしか言いようがない。裁判所が、UCCファイルの実効性を認めれば、即座に支払禁止の命令が全第三債務者に出され、それに逆らう弁済は法廷侮辱となります。法廷侮辱となれば、即座に投獄です。上訴の機会も抗弁の機会もなし。相当の金額の罰金を支払わねば出してもらえません。日本の場合裁判所に、そんな権威も、全第三債務者に命令を出すなんていう方法もありません。第三債務者から支払われてしまえば、おしまい。取り返す方法もない。詐害行為とか、裁判の方法による手はあっても、被告は抗告も上訴も可能ですからいくらでも引き伸ばしが出来る。実効性がない。
UCCファイルにしても、アメリカの裁判所の強制手続き、なかでも法廷侮辱の制度の裏打ちがあって始めて実効性があるのであって、単純に日本の制度と比較は出来ません。正直な話、NY州弁護士として、91年から97年まで実務経験を持つ身としては、日本の制度は歯がゆくてしかたがない。
あと、追加的な論点として、金融慣行の問題があります。1.日本の銀行融資は個別銀行の相対貸付が基本ですが、アメリカではシンジケーションローンが一般的な為、総財産に対する担保設定が行ないやすい。2.日本では根抵当で変転する資金需要を担保するが、米国ではそれがないために、シンジケーション全体での不動産担保設定が必須である。抜け駆けはできない。など。
5月10日
SARS近況
● 龍山寺
○ SARSの為に隔離閉鎖されている二つの病院があるのは、観光名所の龍山寺の近くです。また、料理の為に蛇をさばく実演で有名な華西街観光夜市の近くでもあります。台北に来た時に、この龍山寺や華西街観光夜市に立ち寄ったり、華西街観光夜市の中にある「台南担仔麺」という高級料理屋で食事をしたことのある方は多いと思います。まさにあの近辺が、今、毎日台北のテレビが実況放送しているSARSのメッカなのです。昨日も、地下鉄龍山寺駅のすぐ南の大理街という通り全体が、全面隔離封鎖となりました。先日書きましたが(ココ)、SARS患者が出たことで廃業になった麒麟ホテルも、この近くです。
○ 台湾では、言論は自由すぎるくらいで、個人の権利主張も強いのですが、それにもかかわらず、当局は、病院ごと封鎖とか、通りごと封鎖とか、思い切ったことをしています。感染を検査する有効な方法がないので、全く症状もない、どう見てもかかっていそうもない人も含めて隔離せざるを得ません。封鎖された通りの住民には、隔離のおかげで婚約をキャンセルされてしまった女性がいて、それをまた、マスメディアが大々的に報じています。自由な社会で、この種の病気を封じ込めるのは、なかなか難しいものだと思います。日本で、例えば、感染しているかどうかはっきりしない人を強制的に隔離できるのかと考え込んでしまいます。
● 日本人
○ 台湾での患者の絶対数は、まだ比較的少ないですが、増加率などをみると、北京、香港などよりも、ひどく、今、SARSが一番ホットなのは、台北のようにも見えます。台湾に進出している日系の企業の多くは、外務省の危険区分が上がったことを受けて、駐在員の家族を強制的に帰国させ始めました。日本人の間では、帰ったところでどうせすぐに日本で流行るだろうから、同じではないか、と言った意見もあります。
○ ところで、駐在の人の間では、日本人は、SARSにかからないという珍説も、冗談まじりに飛び交っています。香港・中国には、10万人程も日本人がいるのに、一人もSARSにかからないのは、味噌汁をのむからだとか、いや、納豆がいいとかと言われています。この種の話は多く、韓国人がかからないのは、キムチのおかげ、インド人がかからないのは、カレーのせいと、幾つもヴァージョンがあります。
● その他
○ 大きなビルや、チェーンの飲食店では、入り口で体温検査が行われています。マクドナルドの入り口で、みんな体温を計っている図は、異様な光景ではあります。
○ タクシーに乗ると、空気を入れ替え、感染を防ぐ為に、窓を開け放しています。閉めようとしても、運転手さんは、閉めさせてくれません。スピードを出すと窓からはいる風が、びゅー、びゅーと顔に吹き当たり、風邪をひくんじゃないかと心配になります。
○ また、そごう台北店は、とうとう、三日間閉鎖して全店消毒する事となりました。百貨店、映画館、飲み屋、カラオケ屋は、客が殆どいません。ゴルフ場は、満員です。
○ 統計上の数字は、よく分かりませんが、ビジネスの現場の感覚としては、SARSの日本経済に対する影響は、大きいと思います。少なくとも、イラク戦争よりも、影響が大きいと思います。中国の経済自体が、自転車操業的に回っていた面もあり、一つブレーキがかかると、色んな影響が出ます。日本企業も中国に前のめりになりかけていたところほどうたれるのではないでしょうか。
● 以上、なんとも抑揚のない単調な報告ですが、後から振り返ってみるためにも、書き記してみました。つまらなかったとすればすいません。
5月9日
誕生日
○ 今日は、41歳の誕生日でした。僕の職場では、恒例により、その月の誕生日の人を祝って同僚が会議室に集まって、"Happy
Birthday To You"の歌を歌い、ケーキを食べます。僕はとても和やかないい風習だと思います。聞くと、台湾では、かなり多くの会社で同様のことをしているとのことです。こういう、ほんわかしたところが、台湾のすごくいいところです。
○ 僕は、今日、柄にもなく主役だった訳ですが、SARSの流行る時節柄、口から吹き出した息でろうそくの火を消すのは、まずいと思い、愛用の「ぽむぽむぷりん」の絵の入ったうちわで、消しました。このSARS対応のろうそく消しは、結構うけたようです。
○ 誕生日に一ついいことがありました。夕方に、総務のスタッフが、台湾人、家族分も含め各社員に高級マスクを配っていました。聞けば、マスクを作っているメーカーさんと取引のある本社の中間管理職の方が、気を利かせて、直接ビジネスもない台湾オフィスに日本から大量に送ってくれたそうです。台湾では、マスクが売り切れで、手に入らなくて困っており、ブラジャーを改造して、作っている業者がいるほどです。総務の台湾人の女性スタッフは、涙を流さんばかりに感激して、感謝状をこの会ったことのない本社の方に送ったそうです。こういうのは、とても日本人のいいところがでていて、しかも、世界でちゃんと通用する話だと思います。グローバリズムとよく言いますが、日本人にとってのグローバリズム対応というのは、結局こういうことかもしれないと思っちゃいました。ええ話やなア。
5月8日
SARSな日々
● 「おまえ自身は、SARS、大丈夫か」との問い合わせを受ける事が多くなってきました。個人的な話になり申し訳ございませんが、知合いへの近況報告というこのホームページの元々の趣旨に基づき、我家の対応と暮らしを御知らせします。
● 家族の帰国
僕の周囲では、子供が学校に行っていない場合は、家族を帰国させる人が多くなってきました。僕の勤めている会社は、担当により仕事の内容が多岐に渡っているので、基本的には、自己判断による対応を尊重することになっています。我家では、次のようにしようと思っています。
1)小学生の子供がいるので、学校のことを考え、当面は、家族を帰国させない。
2)さらにSARSが台北でひろがり、家族に感染する可能性が高まり、且つ、その状態が数ヶ月以上長期化すると思われる場合、家族を日本に帰して、子供は、日本の学校に転校させる。つまり、単身赴任に切り替える。一時的に帰国しても、結局、いつ台湾に戻れるか分からないので、帰すなら、もうちゃんと帰してしまえという発想です。決めるのは、5月中か、6月くらいになると思います。
会社と相談したところ、この場合、「家族先行帰国」という、一般的な海外赴任時でのルールが適用でき、「単身赴任、留守家族」という扱いにスイッチするだけで、別に特別な処理でもないとのことです。社宅も、空いていれば、入れるはずだとのことで、ちょっと安心しました。
● 小学校の様子
○ 小学生の長男が通っている日本人学校では、毎日、体温を記入した健康観察カードを持っていくことになっています。忘れると、保健室で体温を計ってから教室に入る事になります。健康観察カードには、体温の他に、呼吸の様子、咳の有無、頭痛・筋肉痛・悪寒などの症状、保護者印、担任印などの欄があります。また、学校として、交流協会(領事館にあたる)と協力して、マスクを1000個注文し、届き次第、登校時のマスク着用を義務付けるとのことです。運動会、プール、修学旅行、宿泊学習などの予定も見直しをしているとのことです。
○ 日本人学校の真向かいにあるアメリカンスクールの幼稚部の職員にSARS疑い例がでて、アメリカンスクールは、全校閉鎖となりました。夏休み後に開校するそうです。本当に日本人学校から15m程しか離れていないので、職員も家族も驚き、緊張しています。
● 仕事
○ 僕の今日の一日を振り返って見ます。朝の通勤時、家の近い人とワゴン車で乗り合わせて会社に行くのですが、車の中でも、「Xさんところは、家族が帰るらしいね。」などと話しています。
○ 朝、会社があるビルの入り口で体温を計られます。最新の体温計で、機器を体に接触させる事なく、額にかざすだけで体温を計れるすぐれものです。何度やっても、体温を計る前は、「熱があったらどうしよう」と、ちょっと緊張します。
○ オフィスにつくと、日本人の同僚が、あわてた顔で立っていました。日本の外務省が、台湾を「十分注意」から北京市、広東省、香港などと同じ「渡航の是非検討」に切り替えた。台湾からの帰国者には、強制ではないが自宅隔離要請がでた。とのことです。丁度、今日明日あたりに家族が日本に帰る予定だったり、日本に出張する予定だったりした人は、ばたばたと、あちこちと相談をしていました。
○ 今日は、勤務時間前に中国語の勉強がある日だったのですが、中国語の先生とも、教科書そっちのけで、SARSの話になります。「今日、仕事で、台中に行きます。」というと、とても驚いて、「飛行機?電車?」と聞かれます。長距離電車の中で感染したと思われる有名な例があったので、台北・台中間のような電車は、危険な印象があります。「それは、危険です。車で行きます。比較的安全です。」と答えます。語学力がないので、短い文になりますね。
○ 勤務時間が始まると、まず、SARS関連のニュースの入った電子メールをチェックします。
「SARSウイルスは乾燥したプラスチックの上で48時間生存する。」なんて情報がはいると、ちょっとドキドキします。こんな話がゆがめて伝わると経済への影響は大きいでしょうね。
○ 台中に行く車では、運転手さんが、「このSARSは、ひどいよう。経済に対するインパクトは、イラク戦争以上だろうね。」と話し掛けてきます。台湾では、庶民が広く株などをやっているので、世界経済の動きには、いろんな人が関心を持っています。
○ また、車中では、台湾人の同僚が現地の新聞を見せてくれ、「そごう台北店でSARS疑い例が出たおかげで、全然客が来なくなったと言っています。客より報道陣の方が多いって書いていますよこの新聞。自分も報道陣のくせにね。ハ、ハ、ハ。」と乾いた笑いをしています。そごう台北店は、台湾全土で最高の売上を誇るナンバーワン店舗です。そこのレジ担当の職員にSARS疑い例がでて大騒ぎです。昨夜も、ニュース番組に会長がでてきて、店舗の閉鎖や隔離は、勘弁してくれと、泣きつかんばかりに主張していました。スキャンダルで売っている香港系「リンゴ新聞」などは、「そごうもキリンホテルの二の舞か!」という大見出しをつけています。キリンホテルは、SARS患者が出たのを契機に、閉鎖・廃業に追い込まれたホテルです。
○ 台中のお客さんのところにつくと、ガードマンのおじいさんが、典型的な日本統治時代に覚えた日本語で、申し訳無さそうに、「すいませんが、体温を計らせてください。」と言います。そこで渡された使い捨てマスクをつけて、会議室へ案内されます。ところが、会議室に入って打ち合わせが始まると、先方から、「マスクはずしましょうか?苦しいですものね」と言われ、「いやあ、助かります」といって、マスクを外します。実際、マスクをつけて会議なんてできません。
○ 台中では、マスクをしている人を余り見かけませんでした。台中では、それほど騒ぎは大きくないようです。同僚によると、台中や高雄の人は、台北がパニック状態になっていると思っているとのことです。
○ この後は、何事もなく仕事を終えて早目に家に帰ってきました。日本からの出張者も皆無となり、夜、お客さんと食事に行く事も殆どなくなりました。SARS騒ぎが始まってから、このサイトの更新の頻度も増え、家族と過ごす時間も増えたようにも思えます。病気を心配しているだけで、全く健康体であるのは、間違いありません。場違いですが、「真綿でホンワリくるまれたようじゃよう」といった心境です。(ココ)
5月6日
日本型UCCファイル制度
○ 日本での登記に似た制度で、アメリカでは、UCCファイル制度が、公示制度としてよく利用されている。僕は、このUCCファイル制度を日本の実態に合わせ、且つWEB化して日本に導入すれば、デフレに対する構造的な対策になるのではないかと思っている。
○ UCCファイルが日本の登記制度と違うのは、日々発生する売掛債権とか、流動している在庫などを担保としてUCCファイルに登録することができ、より柔軟な融資・ファイナンスが受けられる点である。契約書自体をファイルに登録してしまうので、日本の登記制度よりも驚くほど柔軟だ。
○ 日本でも柔軟なファイナンスを実現する為に、譲渡担保、仮登記担保、特定債権法と色々な制度を、立法や解釈によって実現している。学生時代、余り勉強熱心ではない法学部生であった僕の眼から見ても、日本が資金難の時代から、経済界法曹界の方々が苦心惨憺して作り上げてきた苦労が伝わってきて、えらく感心したことを覚えている。法解釈だけで、作ってしまった「譲渡担保」なんて、ちょっと涙ちょちょぎれものである。しかし、今、素人目で、担保の公示制度全体を冷静に見ると、建て増し改築を繰り返した古い旅館のような制度になってしまっているようだ。
○ ここらで、いっそ、それらを壊してしまうのではなく、大筋は残しながらできるだけ統合する形で、簡単に登録、参照できるようにして、導入すればいいのではないかと思う。その機に乗じ、リース物件の所有権の変更なども、今、占有改定というなんとも不思議な制度で運用しているけれども、かちっと確認できる制度も導入すればいいと思う。
○ それらをこれまでの手法でおこなうと行政事務が大変で、かえって混乱を招くと思われるが、電子化し、WEBで検索確認できるようにすれば、対象を大幅に拡大し、柔軟な運用ができると思う。
○ 更に、電子化に対応するため、すべての法人に番号を振る、法人総背番号制を導入して、同時にスタートすれば良いと思う。国民総背番号制というのは、プライバシーなどなかなか難しい問題がある。しかし、法人に限るのであれば、公器であるともいえ、そもそも、倫理的な意味で人格がないのであるから、番号を振るぐらいいいと思う。因みに、台湾では、すべての法人は、統一番号というのを持っており、お客の接待をした飲食店でもらう領収書にも、会社名とともにその番号を書いてもらうことになっている。
○ また、会社の番号を使って管理するとすれば、登記内容を必要に応じて柔軟に秘匿、公開を管理することも技術的には、可能だ。つまり、登録している法人がOKした法人にのみ、登記内容を見せることができたり、閲覧した企業名を電子mailで連絡することもできる。登記内容、当事者の希望に応じ、そういう、アクセス権を柔軟に設定することも可能だろう。日本では、経営者が自分の会社の資産に担保がついていることを出来るだけ人に知られたくないという気持ちが働く。従って、このアクセス権を柔軟に設定できるのは、制度の利用を促進するのに大切だと思う。
○ つまり、第一に、これまでの債権保全の為の登記を統合する。第二に、これまで、公示制度によらなかった、リース、債務者不特定の将来債権、流動する在庫への担保などを公示できるように、対象を拡大する。第三に、インターネットを活用して、アクセス権を柔軟に設定し、且つ、見る権利のある者は、簡単に調べられるようにする。さらに、第四に、すべての法人に番号を振る、法人総背番号制を導入する。これを加味した制度とシステムを同時にスタートすれば良いと思うがどうだろう。
○ 今、デフレ対策とか、インフレターゲット論など、日銀のとるべき政策についてさかんに議論している。日銀の政策の議論は多いが、日銀から銀行へは、お金がじゃぶじゃぶに流れているので、銀行から民間企業への有効なお金の流れをつくることの方が大切である。とはいえ、いきなり、アメリカのように直接金融を広げろ、株式による資金調達を広げろといっても難しい。また、銀行は、担保主義から決別して、事業をみて融資すべきだなどと新聞ではいうけれども、日本の銀行は、そもそも、そういう骨格で組織が出来ていない。銀行を脅したりすかしたりしても、埒があかないのは、これまでの経験ではっきりしている。
○ 現実的に効果が大きそうなのは、融資の方法と可能性を拡大し、銀行が融資をやりやすい合理的な環境を整備することだと思う。何度も書いたけれども、日本の銀行は、今、その業務内容と社会的ニーズに比べて、余りに、多くの優秀な人材を抱えすぎている。これを利用しない手は、ない。かといって、彼等がなれない全く新しいことをしても却って危険だ。今回の僕の提案では、銀行にとっては、従来からの「担保主義」の拡張と考えることも出来る。とれる担保がより拡大し、明確になれば、日本の銀行が、融資を拡大する一助になるのではないだろうか。
○ さらにいえば、公示制度を整備する事により、債権の証券化を行いやすくなる。そのため、金融機関以外の会社でも、債権をバランスシートから外す事が出来る。また、ほとんど同じことではあるが、事業主体に会社保証を要求しない、つまり、事業主体がバランスシートを膨らませない(ノンリーコースの)プロジェクト=ファイナンスなども組みやすくなり、企業がリスクのある事業に取り組みやすくなる。
○ このように、公示制度を電子化を通じて、拡大し、柔軟にすることは、非常に重要で有効だと思う。正直言って、上記の提案を実現したからといって、たちまちデフレが消えるほどの効果を期待するのは、ちょっと大げさだ。しかし、これは、上手くうけば、今後何十年も使える貴重なビジネスのインフラになると思われる。高速道路ばかりがインフラではない。こうしたビジネスのインフラ、特に、リスクをとったビジネスをするときに役に立つインフラを充実してもらいたいものである。
5月5日
まんが「刑務所の中」
○ 花輪和一のまんが「刑務所の中」(青林工藝舎)を読んだ。余りに変で、意表をついていて、衝撃的だった。まんがを読んで、この種の衝撃を受けたのは、岡崎京子「pink」以来である。
○ 「刑務所の中」は、作者の花輪本人が銃刀法違反で逮捕され、拘置所と刑務所にいたときの様子を描いたまんがである。とはいえ、刑務所の中のつらさや、看守の厳しさを報告したものではない。また、罪の改悛の告白でもない。刑務所の中の様子を、淡々と微細に綴っていく。刑務所内の暮らしに嬉々としているわけでもなく、かといって、惨憺たる思いを描いているわけでもない。とにかく、無感情に、実に細々とした刑務所内の道具、日課、しきたりを、繊細な絵柄でえんえんと描いていく。主人公の刑務所暮らし全般についての数少ない感情の描写といえば、昆布の佃煮、麦飯、味噌汁のご飯を食べながら、「悪事をはたらいたのにこんなにいい生活していていいのかな。こんなんじゃはりあいがありゃしねえ。真綿でホンワリくるまれたようじゃよう」とつぶやく場面ぐらいである。
○ まんがの一シーンを文章で引用するなど、野暮の極めではあるが、敢えて少ししてみたい。朝食時の描写である。
おわようございます!!!
全室の点検が済むまで正座してまつのであった。
スポンジの座ぶとんには、それぞれボールペンで自分の印がついているのだった。S、△、H
点検終了―・・・の声がするや素早く動く座ぶとん! スー、パー、ザッ、タッ
電光石火で用意されるテーブル! バッ、ガチ、バチン
すべるはし箱! パシ、ツー、カチャ。 カチャ、カチャ、スー。
すぐに配食がはじまるのだった。
○ ポエムじゃ、ポエムじゃ。
5月4日
賢い投資
○ ヘッジファンドを率いている友人が言っていた。
この10年、日本の金融マーケットで、一番合理的な投資行動をしていたのは、実は、日本の個人投資家では、ないか。日本の個人投資家は、「リスクをとらない日本人」などとくそみそに言われながらも、バブル崩壊後に株を損切りして売って、利息の無い銀行預金に移した。これは、結果的に大正解だった。少なくとも、今の今まで株を持ちつづけた日本の機関投資家、金融機関よりも、損失が少なく、「賢い投資家」であったのは、間違いない。
○ 統計的な裏づけのある話かどうかよくわからないが、話としては、面白い。とにかく個人投資家が、機関投資家よりも早く株式市場から遠ざかったのは、事実だし、それは、結果的に正解だったと思う。
○ このディーラー氏、外資系証券会社でデリバティブの敏腕ディーラーとして大成功し、この20年近く日本の金融市場で勝ちつづけている、業界では、名の知れた人である。中学のときからの親友なので、ちょくちょく飲みに行くが、素人ながら彼の話を聞いていて思ったのは、彼の成功の歴史は、結局、広い意味で大蔵省の逆張りの歴史ではないかということである。
○ 大蔵省が、右を向けというと、市場実勢と離れていても日本の銀行は、一斉に右を向いた。そうすると、市場にひずみができるので、彼のような冷静な投資家が、さやを抜いていく。また、日本の金融機関は、システム上の体制も整わぬのに、当局の言にのりビッグバンだ自由化だと掛け声だけでいいかっこをしようとした。それでは、彼のように本当に体制を整えていたところに、こてんぱんに負かされる。とはいえ、当局に正面きって歯向かう訳ではなく、大蔵省が無理をしている時に、その無理によって生まれるひずみを非常にエレガントにすくい取っていたように見える。
○ 彼もキャリアの最初のうちは、試行錯誤と膨大な研究の末、結果的に大蔵省の逆張りをしていたのだろうが、キャリアの後半では、とにかく大蔵省の逆を張っていると安心していた節がある。こうなると、もう、古い道徳観でもってしても、このディーラー氏を攻めるのは、筋違いで、非は、市場に無理をおしている側にあるように思われる。
○ と、ここまで書き進めてきて、ふと思った。この敏腕ディーラー氏の成功の本当の鍵は、市場で勝ちつづけてきたプロ中のプロであるにもかからわらず、「待てよ、日本の個人投資家は、実は、自分よりも賢くて合理的ではないか。」と、素人から学ぶ姿勢では、ないだろうか。今、日本人は、リスクをとるべきだとかと言う話が、金融界や、オピニオンリーダーから聞こえてくる。しかし、大切なのは、そういう説教ではなくて、市井の個人の投資行動を謙虚に受け止めることであり、それが、即ち、よい意味で市場の声に耳を傾けるということだと思う。市場の健全な運営を計ろうとするときに、「投資家は、xxすべき」という「べき論」を先にしてしまっていては、いつまでたっても、適切な手を打てない。彼のように、日本の金融市場で成功している人と、日本の銀行を惨憺たる有様にした人との、より本質的な違いは、当局のいうことに従ったか逆らったかどうかというよりも、「べき論」に惑わされずにこうした市場の声に謙虚に耳を傾けたかどうかという、姿勢の問題のように思えてきた。
○ 「名手は、名人に学び、名人は、凡人に学ぶ。」という。この件も、その好例かもしれぬ。そして、凡人の僕は、名人から一つ学ぶ事ができたことでよしとしよう。
5月3日
アメリカがやりすぎるとき
○ アメリカがやりすぎで失敗するのは、ある社会が崩壊した後に、救済してやるとばかりに乗り込んでいって、アメリカ式システムを導入しようとし、結果的に失敗するパターンである。その意味では、今度のイラクの場合も、心配では、ある。前回は、アメリカが、ゆれ戻す時の危険性に就いて述べたが、今度は、「やりすぎ」で失敗する例をみてみたい。
○ まず、ソ連崩壊後のロシアに乗り込んでいった経済政策アドバイサーは、性急に市場経済の導入を計ろうとして、結局、とんでもない混乱と災難を引き起こした。また、前回のアジア金融危機の時に、ウォールストリートの考え方を代表し、韓国やタイに超引き締め政策を強制したIMFのやりかたは、後にIMF自らも認めるほどの大失敗であった。IMFのスタッフは、対象国の実態を全く無視して、首都の五つ星ホテルに一週間泊まっただけで作成した政策レポートをむりやり対象国に実行させた、と、ノーベル経済学賞学者のスティグリッツが、厳しく批判している。(「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」 ココ御参照)
○ 日本の占領政策からも貴重な教訓が得られる。日本の占領政策は、アメリカがした占領政策のなかでも非常に成功した稀有の例とされているけれども、実は、占領期間中に大きく変更されスイングしている。対日政策担当者の政治力が大きく変わるに伴い、非常に上手くやっていた期間と、殆ど滅茶苦茶だった時期とがあり、コントラストがはっきりしている。結局、途中、全く失敗だったのは、左翼ニューディーラーと言われる人々が、日本の歴史や社会に通じた専門家を意思決定から締め出し、自分たちの信ずるアメリカ的なるものを強要したときであった。(岡崎久彦のココの説明御参照。詳しくは、岡崎久彦の「吉田茂とその時代」が面白い。ココ御参照)
○ 結局、アメリカが外国にのりこんで「やりすぎ」で失敗する時には、政策担当者に次のような共通する考え方の特徴があるようだ。
1) 自分たちは、なんでも知っており、その国の現場から学ぶものはない。
2) なんでも、少しでも、アメリカに似ていることがよいことだ。現場の制度や仕組み相互間の補完性などは、全く無視して、とにかく1mmでも似ているのがいい。
3) 成果を達成するまで、自分達の政策を対象国の市民に確実に強制できる。途中で、市民側の抵抗に会うと考えないので、実現する結果には関心があっても、実現する経路には、無関心である。
やや誇張して言っているが、方向としては、こういう要素をもった人が政策を担当すると、失敗している。蛇足ながら付け加えると、僕の知る限り、アメリカ人の大半は、もっとプラグマティック(実用的)で、上記の特徴は、必ずしもアメリカ社会に共通する特徴では、ない。
○ 前回に書いたように、僕は、現時点では、アメリカが出すぎるときの危険性よりも、引っ込んでしまう危険性の方が重要だと思っている。しかし、ゆれ戻さないことを前提とすれば、上記のような傾向をもってアメリカが出すぎたときは、イラクの戦後は、なかなかすっきりとはいかないと身構えた方がいいと思う。
5月2日
アメリカがゆれ戻るとき
○ ブッシュが、「戦争ほぼ勝利宣言」をした。そして、みんなは、アメリカが占領後のイラクを一人で取り仕切ることに、不満顔だ。しかし、僕は、アメリカが「やーめた」といってほっぽり出す方が、余程心配だ。
○ まず、「やーめた」と言い出す可能性について、考えてみたい。いわゆるアメリカの孤立主義は、歴史的に外交政策の突然の変更を引き起こして、周りの国を慌てさせてきた。代表的な例は、国際連盟へ加盟しなかったことである。第一次大戦終了後に、ウィルソン大統領が理想主義に基づき、国際連盟を設立しようとしたが、いいだしっぺでもある肝心のアメリカが、議会の承認を得られず国際連盟に加盟しなかった。最近の例では、パパブッシュの時の湾岸戦争終了後、イラクで反フセイン体制派が蜂起したときに、クリントン新大統領は、全く支援せず、見殺しにした。このときの反体制派の死者は、数万人とも言われている。アメリカが当然でてくるものだと世界中が信じていても出て行かないというこの手の「はしごはずし」の消極政策の例は、アメリカには、枚挙に暇ない。世界中が出て行かなくていいと思っているのに出て行った例よりも圧倒的に多い。
○ イラクの戦後処理では、今すぐに消極的になるという様子ではないが、これも、いつか、なんらかの形かで、突然ゆれ戻す(=消極策に転じる)ような気がしてならない。その時期については、いくつか候補があると思う。
1)ブッシュ大統領の在任中
「ボン、もうオイタはおやめ、帰っておいで」とばかりに、アメリカの世論が外交よりも内政、戦争よりも経済だというふうにまとまってくると、再選を目指すブッシュは、突然消極策に転じるかもしれない。
2)次の選挙で大統領が変わるとき
ブッシュが来年の大統領選で敗れたとき、次期大統領は、表立っては、イラク戦争のことは、称えつつ、しずしずとイラク戦争の後始末から手を引いていく可能性が高い。丁度、クリントンがそうしたように。
3)ブッシュが二期の大統領任期を終えるとき
ブッシュがたとえ来年の選挙に勝って、イラクへの関与を続けたとしても、今から5年後には、いずれにしても大統領の任期を終える。その次の大統領は、ブッシュほどは、イラクに関与しないだろう。たとえ、あからさまに非難をすることはなくとも、消極的な不関与を行うと思う。
○ 結局、長くても5年以内に、今よりは、外交的に消極的になると思う。それを越してまで、今の路線のまま一本調子で行くとは、僕には、どうも思えないのである。
○ 次にアメリカが「やーめた」と言ったときの影響は、どうだろう。
戦後処理について、アメリカ主導ではなく、国連主導と言う声をよくきく。しかし、今、現時点で、寄り合い所帯の国連で治安を維持し、復興の体制を整えるのは不可能だと思う。最初は、アメリカ主導にし、時間と体制が整うに従い、他の多くの国が関与するようにするのが、現実的だ。今、アメリカが「やーめた」といってほっぽりだせば、いくら国連が頑張っても、収まりがつかないと思う。例えば、フランス、ロシア、イギリス、中国の主導権争いで重要な意思決定が迅速にできないだろう。火事場で合議制による対策会議をする人はいない。結局、国連主導を言う人が今するべきことは、アメリカに「引っ込め」と言う前に、「いつ引っ込んでもいいですよ。」といえる体制をできるだけ早く整えることだと思う。それが本当にイラクの人のことを思う行動ではないだろうか。
○ つまり、アメリカが領土的野心をもつなど、これまでの歴史からは考えられない行動にでも出ない限り、大局的には、行き過ぎることよりも、ゆれ戻したときのリスクの方が大きいと思う。
5月1日
SARSイン香港、中国、台湾
○ 香港に住むなおきんさんからのemailです。
SARSの悪影響はいまさらいうまでもないですが、特に普通の風邪すらひきにくい状態で、毎日風邪だけはひかないようにと緊張しています。あと、これから暑くなるのに外でマスク着用ってのは、意外としんどいですね。
台湾ではどうですが? やはりみんなマスクとかしてるんでしょうか?
SARS影響の副産物で、街や住んでいるマンションがずいぶん清潔になってきている気がします。
香港は大気汚染が原因で、毎年急性喘息にかかり何十人か死亡しているらしいですから、マスク着用必須の現況時では、これら喘息患者数はむしろ減っているのでは??と思ってます。あと、ほとんどのマンションは住人に消毒液とバケツ、ゴム手袋などを配って、定期的に排水溝や床を消毒するよう呼びかけているので、かなりゴキブリあたりも減ってきていると思われます。また、カラオケとかも行きにくいし、十分な睡眠を!ということで仕事も無理しなくなりました。
タバコもお酒も減るし、ビタミンはとるようになったし・・
町のおじさんたちも、夜遊びが減っているようです。
まったくSARSのおかげで、ぼくも香港もずいぶん健康になったもんです。
○ 台湾での対応
台湾でもちょくちょくマスクをしている人を見かけるようになりました。また、あちこちのビルや工場で、入館時に体温検査をするのが、数日前から始まりました。SARS患者がでて、ビルごと隔離されたり、工場が閉鎖せざる得なくなると困るからです。このおかげで、昨日、らくちん(筆者)が会うはずだった日本からのお客さんが、別の訪問先で体温計の間違いにより足止めされ、打ち合わせに数時間遅れて来ました。色々あります。
○ 中国経済への影響
SARSの中国経済への影響を書きます。まず、IT関係について。今、流れているビジネスへの影響は、それほどありませんが、新規のビジネスは、技術者同士の打ち合わせがないと進まないので、出張が出来ない状態では、ほぼ全面ストップです。それから、中国に進出している台湾のIT系企業は、OEM客先からSARSで供給に支障がでないか聞かれると、「いざとなれば、台湾の工場でバックアップ生産します。ご安心ください。」と答えているようです。主力を中国に移したとはいえ、まだ、台湾のラインを残しているところも多いのです。このあたりの身のこなしの速さは、台湾企業の真骨頂ではあります。次に他の産業に就いて言うと、中国では、金属、化学品などの素材関係が、イラク戦争前にバブル気味に高騰していたのですが、戦争終結とSARSの影響で、売上が急減しています。中国では、ちょっとしたバブル崩壊の様相で、大小の信用問題がでるかもしれません。
○ 日本の対応
本当にしつこくてすいませんが、SARSは、世界にとって大変な問題になると思います。中国政府が1万人隔離状態にあり、コントロールできていないと言っているのですから、もう、中国内に押さえ込むのは不可能と考えるべきでしょう。万一、中国政府が、押さえ込みに成功すれば、世界中は、その偉業に真剣に感謝するべきです。それほどのことだと思います。世界に広がった時、SARSは、ビルや工場ごとの隔離という手段がとられやすいので、経済上のインパクトが大きく出るように思われます。そして感染を検査する明確な方法がないので、疑いのある人を隔離した場合など、深刻な人権の問題もでてきます。日本も、SARSが広まった時に、どういう手を打てるのか、今のうちに、レベル1、レベル2…というふように対策を決めておくべきだと思います。
○ サイトの紹介
最後に、台湾でのSARS関係のサイトの紹介です。
SARS関連: http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7663/
台湾関連: http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7663/TAIWAN.html
SARSの台湾経済への影響: http://www.jptwbiz-j.jp/bizinfo_j/trp_j/030424_j.html
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