台湾日記 2004年6月〜
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6月30日
「昭和史」半藤一利
○ 「昭和史」半藤一利(平凡社)を読みました。一ページ読み進めば、一ページ読んだだけ賢くなる気がします。半藤一利は、文藝春秋社の元編集長で、立花隆の師匠みたいなものです。昭和の戦争については、多くの著作もあり内容にウソは、無いと思われます。ときに講談調で話したという口述筆記をもとに書き起こしたもので、読みやすいです。
○ 考えて見れば、日本では、昭和史を学校でほとんど教えていないのではないでしょうか。高校でも中学でも、一学期に縄文時代から始まって、三学期の終わりに、せいぜい明治維新までくるのが精一杯だったと思います。しかし、現代を生きる日本人にとって最も大切な歴史は、昭和史であるのは間違いありません。それなのに、この本に限らず昭和史の記述を読むと、本当に基本的な事実も知らない自分に愕然とします。
○ 自分の整理の為にも、いくつか印象深いところを長くなりますが、抜書きさせて下さい。
○ 満州事変(柳条湖事件)への新聞の対応について
−新聞がいっせいに太鼓を叩く−
一方、日本国内では、この日の朝刊が−当時は朝日新聞と東京日日新聞(現在の毎日新聞)がダントツの部数でした−ともに俄然、関東軍擁護にまわったのですよ。繰り返しますが、それまでは朝日も日日も時事も報知も、軍の満蒙問題に関しては非常に厳しい論調だったのですが、二十日の朝刊からあっという間にひっくり返った。
(3ページ後)
こうして「この全国民の応援」を軍部が受けるようになるまで、くり返しますが、新聞の果たした役割はあまりにも大きかった。世論操縦に積極的な軍部以上に、朝日、毎日の大新聞を先頭に、マスコミは、競って世論の先取りに狂奔し、かつ熱心きまわりなかったんです。そして満州国独立案、関東軍の猛進撃、国連の抗議などと新生面が開かれるたびに、新聞は軍部の動きを全面的にバックアップしていき、民衆はそれらに煽られてまたたく間に好戦的になっていく。
○ 南京事件について
正直にいって、今となっては、南京アトローシティ(虐殺)による正確な被害統計を得ることは、理論的にも実際上も不可能に近く、あえていえば、“神のみが知る”なのでしょう。
(その後、偕行社「南京戦史」の分析を紹介したあと。)
けれども「南京戦史」は、この人数のどれだけが戦闘行動による死か虐殺にあたるのか、ということまでは記していません。が、これらすべてがいわゆる不法な行為によって殺されたとすれば、三万人強がその数ということになりましょうか。どうもだんだん自己嫌悪に陥りますので、これまでとしますが、とにかく軍にはちゃんと法務官がいるのに、裁判もせずに捕虜を大量に処刑したのはいけないことなのです。南京で日本軍による大量の「虐殺」と各種の非行事件の起きたことは動かせない事実であり、私は日本人のひとりとして、中国国民に心からお詫びしたいと思うのです。
ただ、中国が言うように三十万人を殺したというのは、東京裁判でもそう言われたのですが、あり得ない話です。当時、南京の市民が疎開して三十万人もいなかったし、軍隊もそんなにいるはずはないのですから。
○ 庶民の感覚(438ページ)
思えば昭和十七年頃は戦争の話で賑やかでした。十八年頃は、工場や食い物の話が中心でした。十九年になりますと闇の話、また後半は空襲の話が盛んに交わされ、昭和二十年になると、もうほとんど誰もなにも語ろうとしなくなったのです。
○ 太平洋戦争での日本人の死者の数について
(15章の記述)
日ソのいわゆる「一週間戦争」は、日本側戦死8万人。
日本側の数字で、57万4538人がシベリアに捕虜(?)として送られ、何年も労働をして無事に引き揚げてきたのは47万2942人で、10万人以上がシベリアの土の下に眠っていることになります。ソ連側の数字はありません。
(16章(むすびの章)で)
フィリピン−レイテ島、ルソン島、マニラ周辺など全域合計―では、戦死47万6800人。
沖縄では、戦死者10万9600人。市民の死亡10万人。
日本本土空襲による死者は、29万9485人。
8年間にわたる日中戦争の死者は、満州事変と上海事変も入れて、総計41万1610人。
戦争が終わってしばらくは、日本の死者は合計二百六十万人といわれていましたが、最近の調査では約三百万人を数えるとされています。
○ 昭和史は、先人が三百万人の命をかけて残してくれた教訓であり、遺産だと思うと、五百頁のこの本の一頁一頁が痛いほど大切に思えます。また、「台湾つれづれ」の管理人としては、「日本軍人」として尊い命を落とした台湾の人達にも思いをいたさざるを得ません。
6月29日
もの忘れ
○ 26日(土)に「台湾日記」を更新したつもりだったのですが、28日(月)に会社で見てみると、更新されていませんでした。WEB作成ソフト上では、ファイルの変更をしていたのですが、そのファイルをアップロードするのを忘れていました。僕の場合、会社では、ホームページ(HP)に関することをほとんどしておらず、更新する環境も整えていないので、こういうことがおこると、家に帰るまで手の施しようがありません。
○ 憂鬱な気分で昼食をとっていると、いやな事は重なるもので、奥歯のつめものがとれてしまいました。HPの更新忘れとともに、一日中、奥歯にもののはさまったというか、ものがはさまっていないというか、とにかく、そういう晴れない気分で過ごしました。僕は、台湾でニ軒ほど歯医者をチャレンジしましたが、どうもしっくりしません。どなたか、台湾で日本語が通じて、腕のいい歯医者さんをご存じないでしょうか。歯医者ばかりは、言葉が通じたいものです。
○ もう一つ。どこかでスーツのジャケットを無くしました。ある日気がつくと、ハンガーにズボンだけがぽつねんとかかっています。かーぜもないのに、ぶーらぶーら。もちろん、ズボンとそろいなので、上半身の部分がなくなるとズボンも使えなくなります。そればかりでなく、いつどこでなくしたか分からないというのは、何かと間が悪うございます。林森北路の飲み屋に一二軒行って聞いてみましたが、ありません。飲み屋のママに「どこでなくしたの?」といやみっぽく笑われて、とぼとぼと帰ってきました。いえいえ、決して、やましいことはしていないはずです。
○ 命がけで思い起こすと、上海出張の帰りの台北空港から自宅へのタクシーに忘れたかもしれないと一週間後に思うにいたりました。おっしゃいますな、はよ気付けよと。幸いなるかな、出張精算の為にもらった領収書があり、それを頼りにタクシーと連絡したら、なんと我が最愛のスーツがありました。親切な運転手さんで会社まで持ってきてくれました。お礼に1000元渡そうかと台湾人の同僚に相談すると、500元以下でいいと言われました。そこで、ハダカで悪かったのですが、お礼に500元をお渡ししました。こういうので、お礼の気持ちをストレートに表現できるのが、台湾のいいところですね。おかげさまで、安泰でございます。奥の歯以外は...
6月26日(アップし忘れ、実際は、6月28日更新)
三菱自動車
○ 三菱自動車の欠陥車問題が続いている。あそこまで続くということは、担当者レベルの問題ではなく、企業体質になってしまっているのだろう。欠陥隠し以外にも、設計段階から社内政治にたけていれば、甘い設計でも通ってしまうようになっていたと思われる。そのようなよく言われていることのほかに、僕が不思議なのは、アメリカでどうして大掛かりな訴訟が起きていないのかということだ。また、もし既に訴訟があるならどうしてそれを大きく報じないのだろう。
○ 僕が2年だけアメリカに住んでいたときの印象では、アメリカで悪いことをして、且つ、ウソをついてしまったら、大変な目にあう。罪を犯してそれを認めたら、もちろん、きっちり罰せられる。ただ、過ちを犯してもウソをついていなければ、骨と皮ぐらいは残してくれることもある。しかし、もしウソをついていたと分かると、それはもう、命ばかりでなく骨をも焼き尽くすような罰が待っている。ウソをついたものに対するアメリカ社会の厳しい制裁は、ほとんど法理論などおかないましに見えるほどだ。
○ 三菱自動車の場合は、ウソをついていたのが明白になっている。あんなの、アメリカでクラスアクション(集団訴訟)でやられたら、北米三菱自動車はもちろん日本本社ですら倒産するまで徹底的に痛めつけられると思う。アメリカでは、自動車のリコール問題を専門として成功報酬で請け負う弁護士がごまんといるのに、どうして表立った動きが伝わってこないのだろう。もう少し「ためてから打つ」つもりなのだろうか。三菱グループが支援してキャッシュが増えてから取るつもりなのだろうか。不思議だ。
○ もし、三菱自動車がアメリカでは、ちゃんとリコールして部品の交換をしていたのなら、それはそれで腹立たしい。ま、そんな気のきいたことが出来る体質でもなかったようだが。
○ ところで、僕の勤める会社は、三菱系ではないので敢えて言うが、今回の事件の批判を三菱系のほかの会社にも浴びせるのは、よくないと思う。今のところ、三菱グループの体質というより、三菱自動車の一、二の社長の時代の問題のようにみえるからだ。三菱自動車の多くの勤勉で心ある従業員のことも思うと、早く健全に復活して欲しいものである。
6月25日
別れて後、
別れて後、一層愛(いと)おしさがつのる人がいる。
その人が自分のことを本当に愛してくれていたからだろう。
* 「溜池通信」 の特集:6月18日号「レーガンが愛された理由」 から想を得ました。
6月24日
台湾企業の中国投資 2/2 (昨日分の続き)
2) 電力不足
2004年の中国の電力不足は昨年以上に深刻である。中国全体の発電設備は、約4億KWであるのに対して電力消費は、年率15%増なので、6000kw増加する。万里の長城以来の大土木工事「三峡ダム」は1820KWだから、増加分6000KWというと、三峡ダム3つ分の電力供給の増加が今年は、必要になる。
○ 現在は、電力不足に対応して、役所が、各企業の優先順位をつけて、給電計画を発表している。X企業は、月曜から金曜の昼間12時間だけ、Y企業は、月曜から土曜まで、一日24時間。残りの時間を操業したければ、自家発電でやりなさい。と言った具合である。当局から重要でないとみなされた工場は、悲惨なことに、金曜から日曜日の一日12時間だけ給電すると言われたりする。電子産業などは、昼間の操業だけでも生産効率が落ちない上に、当局から優先的に給電を受けているので、問題は、少ない。しかし、素材系のプラントとなると、24時間電気がないと、生産性が大きく悪化する。
○ それに加えて、電気を受けるために役人の機嫌をとらなけれならないのは、海外企業には、煩わしいことだと思う。この状況で、新たに工場を立てて投資するという意欲は、なかなか出てこないだろう。
3) 奇美の株安
6月半ばから中国商務省は、「台湾独立を支持する台湾企業は歓迎しない」と強調、陳水扁総統支持派を強くけん制、投資制限も含めた制裁を科す可能性を示唆した。既に、陳総統に近い台湾の財界人、許文龍氏が率いる奇美実業の投資計画が中国当局によって停止させられたとも報道されている。この報道をうけ、奇美グループは、業績好調にも関わらず株が大幅に下がっている。ほとんど「みせしめ」的嫌がらせにあっている。
○ 今のところ、大陸進出企業というよりも、陳政権に近い企業グループに対して市場が不安になっている。しかし、長い目で見ると、中国当局の政治的温度の季節変動によって、こんな嫌がらせを受けるかと思うと、なかなか、台湾企業は、中国投資にアクセルを踏みにくいと思う。
4) 金融引き締め
中国は、加熱する景気を少し冷ますために金融引き締めをしようとしている。但し、金融業界が未熟なので、先進国のするような中央銀行による全般的な操作よりも、個別産業、プロジェクトを選んで、金融的手当てを絞るのが有効ではないかと言われている。その場合、どのようにその犠牲者を決めるかが難しい問題となる。台湾系企業などは、政治的合意をとりつけやすい対象なのであろう。奇美への嫌がらせも、中国子会社への融資の絞込みから始まっている。台湾系企業は、調整用として一番最初に使われやすい面は、ある。だからこそ、コストアップと意思決定ののろまさを甘受してでも、一部の台湾企業は、日本企業と組んで中国と出て行こうとするのである。
○ もともと、「豚は太らせてから食え」でもないが、中国が台湾企業の中国進出を熱烈歓迎し、優遇処置をとって招き入れたときから、招き入れられた台湾企業が将来ごっそり痛めつけられるのではないかと危惧する声もあった。僕は、少なくとも台湾からの資金流入が続く限り優しく接するだろうと思っていた。豚で言うと太り方が減り始めた頃に、中国側の本音が見えてくるかもしれない。
6月23日
台湾企業の中国投資 (1/2)
○ 中国経済への影響が大きい台湾企業の中国への投資が、徐々に変容している。日本のメディアは、中国当局に遠慮してか、うまく実態を伝えきれていないようなので、現場の人には当たり前のことでしかもゆっくりとした変化でも、ある日、メディアが抑えきれずに報道をし始めると、日本の経済界には、サプライズにつながる可能性があるように思う。結論は無いけれども、関係する幾つかのポイントだけでも、挙げておきたい。
1)外資の対中国投資にブレーキ
海外からの対中国投資の伸び率は、2003年のSARSの頃から、急減し、SARSが終了してからもそれほど回復していない。中国商務省の発表によると03年の対内直接投資額(実行ベース)の各月別、前年同月比伸び率は、5月まで大幅なプラスだが、7月に減少に転じた後は、マイナス幅を拡大しながら推移し、11月は、約4割の減少となった。(日経ビジネス2004年1月号「対中国投資に急ブレーキ」)
○ また、4月20日に台湾の経済投資審議委員会が指摘したところによると、03年下半期から台湾企業による中国投資の増加速度が減退している。投資審議会が第1・四半期に許可した中国への投資件数は554件、投資金額は12.92億ドルで、前年同期比でそれぞれ6%、16%増のみとなった。主な原因は中国当局によるインフレ抑制政策と深刻な給電不足としている。
○ 台湾企業の対中投資の減速は、インフレ抑制策と給電不足に加えて、単純に中国への投資の定着期に入ったからでもあるだろう。台湾企業の中国投資は、アメリカ企業のタイへの投資のような金融市場への投資ではなく、中国の自社工場への投資が多かった。2000年-02年頃は、どの台湾企業も多額の米ドルを投下し、土地と建物を手当てし、製造設備を輸入して、工場を立ち上げた。2003年頃からは、立ち上げた工場の生産性を上げるために、技術を台湾から移転し、従業員を訓練し、利益を出すのに必死になっている。生産性を挙げるのは、手間はかかるが、巨額の新規投資がかかっているのではない。それで、投資の増加率が減っている面もあると思う。
○ また、台湾企業の実際の対中投資は、台中両政府の出している統計数字の何倍もの規模だと思われる。ケイマン島の孫会社経由など、なんだかよく分からないルートで資金が投下されていることが多く、実態をつかみきれない。さらに、2000年頃から急進展した中国のIT産業が、台湾企業の投資と技術移転によって成り立っているのは、現場の人間には、周知の事実であるが、メディアでは、余り報じられていない。従って、台湾の対中投資の変動は、統計数字以上の金額的インパクトと、日本にいる人の想像を超えた経済発展へのインパクトを中国の経済に与える可能性がある。
○ もともと日本のメディアは、台湾の対中投資の規模と影響の大きさをあまり報道していない。だから、その減少の影響も報じにくい面がある。いずれにしても、外資、特に台湾企業の中国への投資が減速してきているのは、今年初めくらいから、関係者には当たり前に分かっていることである。ただ、過大に受け取るのは禁物で、日経ビジネスの記事も経済投資審議委員会報道の指摘も、純減ではなく、伸び率の減少を指摘しているだけであることは、忘れてはならない。
(明日に続く)
6月22日
「電車男」読後 (2/2) (昨日の続きです。)
○ 即時性とほぼ同じですが、ネットの即興性についても「電車男」は、存分に見せ付けます。電車男の掲示板には、「ええぃ、皆何をぼやぼやしている!
総員対空爆防御で、まずは第一波をやり過ごすんだ!!本番は上陸部隊だ、ここでやられるわけには行かんぞ」と、軍隊調の文体で書く者、
∧_∧
( ・∀・) ドキドキ
( ∪ ∪
と__)__)
などと挿絵をはさむ者、親身にアドバイスする女性などがかわるがわるに書き込んでいきます。
○ また、これらの者達が、ネット慣れしているからか、結構、いい台詞を述べます。まるで、ジャズのバンドの即興演奏を聴いているように、事前の打ち合わせも無いのに、それぞれが自分の特徴を出しながら、全体で独特のリズムを刻みつつ、楽しく話が進行します。山崎正和が現代社会の問題を解く鍵として尊重してやまない「社交」が実はこんなところに成立しており、しかも、万人の目に公開されているのです。
○ さらに、「電車男」がこうしたネットの特徴と利用法を肝心なところで完璧に把握しており、それが故にこの話が成立しているいう点は、見逃せません。女性との付き合いという人生の中で最も大切なものを、2chを通じて不特定多数の者に相談するという大胆さがこの話のきっかけです。電車男は、無数のアドバイス、下手をすれば誹謗中傷もあるであろう中、自分の為になる情報をきれいにすくいとっていきます。
○ 敢えて俗に割り切って言えば、「電車男」の話の本質は、電車男とエルメス女の恋の話ではなくて、電車男と無数の名無しさんとの友情の物語だといえるでしょう。電車男とエルメス女の恋の物語は、実は、日本中にごまんとあるありふれた恋の物語であって、人に感動を呼ぶのは、電車男と名無しさんたちがネット上で奇跡的に成立させた信頼であるともいえます。名無しさんのいうところの「紹介できない」が、「いい友達」と電車男との友情ともつれあいながら、二人の恋が進行していくところが、「電車男」の話の面白みなのです。
○ こうしたネットの特徴を遺憾なく発揮しているという意味で「電車男」の話は、すごく現代的です。しかし、「電車男」の面白さが拠って立つ基盤は、この電車男の人間のよさと言葉のきれいさという昔からの人間の基本のところであることは忘れられません。
○ 電車男は、結構いい台詞をとっさにいいます。ぱらぱらとめくっただけで見つけることができます。
電車男>彼女に会ってから安定なんて無いです…
>彼女を基準に一喜一憂させられて…
これって、言う人と聴く人によっては、すごくベタだけれど、真面目な青年がいうと心に響きます。
○ もうひとつ名言を見つけました。
名無しさん>電車 アドバイスなにか たのむ
電車男>アドバイスか…なんだろう?
>色んな勇気を持つことかな
>あと誰かに相談するとか
これを読むと、自分も色んな勇気持たなあかんな。と、素直に振り返ってしまいます。
○ こうして色々考えてみると、「電車男」が僕のように掲示板など読むのも書くのも恐ろしくて近づけない古い人間にとっても、敬遠するばかりもどうかと考えさせられます。この話題が広がっていくなかで、ネットや掲示板への評価が高まり、垣根を低くすることは間違いないでしょう。
○ 一方、話題が広がる中で、雑誌や新聞といった「古いメディア」が、電車男の恋とプライバシーを、暴きたてやしないかと心配にもなります。電車男は、匿名性を維持しつつ有益な情報をすくいとるという意味でネットという「新しいメディア」を上手に使いこなす達人でしたが、どうみても、週刊誌などの「古いメディア」への対応には、経験が浅そうです。新しいメディアが育んだ昔からある純粋な心の交流を、古いメデイアが現代的な災難によってかき乱すという皮肉なことにならないことを祈るばかりです。
6月21日
「電車男」読後 (1/2)
○ 「電車男」の紹介を以前(ココ)にしましたが、読まれましたか?ちょっと、僕のようにネット掲示板になれていない者には、特殊な用語が分からないときがあって困ることはあります。ノシっていうのは、文字化けではなくてサヨナラの意味らしいと後半になって気付きました。(その理解で正しいでしょうか?)こんな僕が勧めるのですから、あまり2ちゃんねるとか、掲示板とかにいい印象をもっていない方も、是非、さわりだけでも読んでやってください。
○ これから先は、ネタばらしにもなりますので、これから「電車男」を読もうと思っている方は、その読後に僕の文を読んでください。「電車男」を読み終わったか、今後読む気の無い方にこの先の僕のコメントを読み進んでいただきたいと思います。
○ まずは、幾つかネット上のコメントを紹介しましょう。
よく挙げられるのがココです。また、こちらの梅本氏の6月13日のdiaryにもコメントがでています。
○ 梅本氏が「よっぽどのウルトラCがないと映像化は難しい。」と述べているのは、的をついています。この「電車男」話は、テレビドラマにしようと思ってもできないし、そのストーリーを小説にしてもつまらないものです。他の人のコメントで、「ネットでこんなことができるのか、と感動に近いものをおぼえました。」というのもありました。つまり、この「電車男」話は、ネットというメディアの機能を最大限引き出した読み物だと思います。
○ 一般的に、芸術でもなんでも、その使おうとしているメディア自体に対する強い自覚と緊張があるものは、エポックメイキングになりえます。20世紀初頭に、画家が、絵画を「2次元のメディアで写真ではないもの」と強く意識した時に、絵画の革命が起こったのがいい例です。また、浅間山荘事件の報道は、即時性、マス性、映像のリアル性など、テレビというメディアの特徴を関係者に思い知らせる事件となりました。蛇足で個人的な話を加えれば、僕は、太田省吾の無言劇「水の駅」を見た時に、テレビや映画や文学ではない、肉体性をもったメディアとしての演劇というものの強烈さを体験し、驚きました。
○ こういう視点で「電車男」を見ると、「電車男」は、まずネットの無名性を完全に維持しながら成り立っているのに驚きます。本人も匿名ですが、それにアドバイスを与えるのも、無数の「名無しさん」です。それにも関わらず、この匿名の無数の人たちに深い心のつながりが生まれます。
○ ラストの場面で電車男がいいます。
電車男>あと、俺、彼女に告白の事とか友達にずっと相談に乗ってもらってたって言ってある
そしたら彼女は 「いい友達ですね」 って言ってたよ
名無しさん>紹介できない友達ですね
名無しさん>電車 おめ。…友達って…オレらのこと…?
おいおいおいおい、マジ鳥肌たっちまったじゃねーか!!
名無しさん>俺たち、友達だって…。 ありがとう。
○ 顔や名前や素性も職業も知らない人達同士ですが、その何ヶ月間のコメントをみることによって、強い信頼が奇跡的に生まれています。まさに、「紹介できない」が、「いい友達」ができています。
○ ここまで書いて僕も、恥ずかしながらこのサイトも匿名で書かせていただいていることを思いだしました。匿名であるにもかかわらず、らくちんとしての筆者を信頼していただき、このホームページによって多くの方々と交流が生まれました。会社名と肩書きのはいった名刺を渡すよりも、匿名でも自分が過去3年間に書きつらねたものを見せる方が、誠意ある自己紹介と言えるのではないかと最近思い始めています。
○ こうしてみると、無数の人間との間での信頼と言うものは、結局、ブランドを頂点とする「名前」に依存することになると思っていたのが、ネットの世界では、名前から切り離して成立するかもしれないと思い始めてしまいます。過去の製品やサービスや態度の良し悪しは、細かく情報として残すことはできないし見ることもできないので、ブランドというもので信頼に関する情報のやり取りを簡単にしていると考えられます。しかし、ネットとなるとかなり細かい過去の履歴、言動を残して公開できるために、無名性を維持したまま、信頼を築けるのかもしれません。
○ 話を戻して、無名性の次にネットの特徴として挙げられるのは、即時性だと「電車男」で気付きます。この話の最初の圧巻は、女性と付き合ったことのない男が、初めて女性に電話する場面を掲示板上で、ほぼ実況中継するところです。彼女に電話をしながら、電車男は、2chに相談します。「めしどこかたのむ」。無名の人がすかさずアドバイスします。「とりあえず、待ち合わせの駅を決める。店を決めるのは当日まででイイから。」このあたりは、昔、公衆電話がまだ街角にあった頃、女子中学生が公衆電話ボックスに5人も6人も入って電話している風景を彷彿させるものがあります。結局、この最初の電話の実況中継により、そのスレッドが興奮のるつぼと化し、人気が定着します。
(明日に続く)
6月20日
上海
○ 中国に半年振りに出張していました。上海には、一泊だけでしたが、とりあえず、簡単な印象を書いておきます。
○ 大都市
何度来ても、上海は、でかい街だなあと思います。上海に来て、我が台北を想うと、台北が地方都市に思えます。
○ 上海の女性
街を歩く上海の女性は、本当にあか抜けていました。勝負おめかしというよりも、友達どうしで普通に歩いているかっこうが、自然にさっぱりとしていていい感じです。
○ ジャズハウス
駐在の人を呼び出して夜飲みに行きました。「カラオケがなくて、お姉さんがいないところ」というと、”blues
& jazz”というジャズハウスに連れて行ってくれました。(茂名南路158號。茂名南路と復興南路の交差点付近。) これがよかったです。食べ物は、ポップコーン程度、お酒を飲んで聴くだけです。カナダから来たというバンドがやっていました。うけうりで言うと、この店は、上海で5本の指にはいるようなジャズの老舗で、今は、新しくて実力のあるところがたくさん出てきたので、一番とはいえないかもしれないが、やはりトップクラス。日本人観光客が大挙して行く和平飯店とは、実力が大違いだそうです。
○ 空港と市内を結ぶリニアモーターカー
毎日、定期的に運行されており、出発駅が不便な場所にあるものの、普通に空港に行く時、実用的に使えるようになったとのことでした。出張のときに使っているという上海人にも会いました。市内から空港までのタクシーの運転が、台湾から来た僕にとってもなかなか恐ろしい運転ですので、その面でも、リニアモーターカーもいいかもしれません。
○ 両替
中国から出国のときに人民元からドルに替えようとすると、入国時にドルから人民元に替えた伝票の提出を求められます。それがないとドルに替えてくれません。ややこしくて、多くの外国人が窓口で「ええ、そんなあ」と驚いています。空港で両替をする銀行の窓口の女性も、昔のお役人的態度で、ツンケンしていていやなものです。こういうのって、些細なようでいてその国に対する印象をかなり決定付けると思うのですがねえ。
6月15日
日本男に恋する台湾女性に
○ 台湾の女性がもし日本の男性を好きになったら。という仮定のもとに、台湾の女性へのアドバイスを書いてみます。
○ ちょっとその前に日本の読者に予備知識を入れさせてください。台湾の男性は、女性を非常に大切にします。雨が降って女性が携帯電話で呼び出すと、男性が雨具をもってバイクですぐに駆けつけます。バレンタインデイに、女性から男性にものを送るのは日本の習慣ですが、台湾では、同じ日に、男性から女性に花束を贈ります。女性は、自分が暇になると電話してきて、「すぐそばに来て」と言います。そこで、男性が用件を聞いたりしたら、普通、台湾ではガールフレンドはできません。こうしてみるとどうみても、台湾の女性は、日本の男性なんかよりも台湾の男性と付き合った方がいいように思えます。
○ 日本の男性を好きになった台湾女性へのアドバイス1:
日本の男なんておやめなさい。今時、台湾の若い男性の方がよほど優しいですよ。今からの時代は下手をすると、日本の男性の方が、生涯年収が低いかもしれませんよ。
しかし、恋の道は、不思議なもの。万一、日本人男性を好きになってしまった台湾人女性へのアドバイスを以下に続けます。
○ アドバイス2:デートの時に臭豆腐を食べない。
豆腐に発酵処理をして非常に臭い「臭豆腐」という食べ物が台湾にあります。夜市などでよく売っています。日本食における納豆のように、台湾の料理の中では、外国人が苦手な食物の代表です。すごくくさいです。僕は、食べることはできますが、まさに牛小屋の臭いに思え、未だに美味しいとは思いません。大抵の日本人は、デートの時に女性が臭豆腐を注文すると、百年の恋も醒めるでしょう。
○ アドバイス3:知り合ってすぐのときに、相手の年収を聞いたり、持ち物の値段を聞いたりしない。
台湾では、男女に限らず、知り合うとすぐ相手の年収を聞きます。飛行機で隣り合わせになった台湾の人も、タクシーの運ちゃんも、すぐに「あんた給料いくら」と聞きます。悪気はなくて、素朴な性格がそのまま出ているとは思います。しかし、男女の仲で、ロマンティックな会話をしようとしている時に、給料の額を聞くのはいただけません。また、身に着けている時計を見て、「それ、いくら?」と、目を輝かせて聞くのも、感心しませんね。
○ アドバイス4:眉間にしわをいれない。
これは、僕の好みかもしれません。台湾の女性は、仕事がバリバリできて、会社での地位も高く、責任も重い人がたくさんいます。その仕事のストレスのせいかどうか、昔の山崎努のように、眉間に深い縦しわが入った厳しい顔をされる人がいます。せっかくの美しいお顔が台無しです。これは僕の主観で、個人的好みですが、目じりのしわより眉間のしわを気にした方がいいのではないでしょうか。笑顔のきれいな人の目じりのしわは、年齢よりも明るい性格を表しているようで、僕には、魅力的にみえるのですが...
○ アドバイス5:脇の下をちゃんと処理する。
これは、知り合いから聞いたアドバイスです。どういう訳か、らくちんは、実感したことがありません。
○ そういえば、6月7日の新聞がこんな報道をしています。台湾の内政部(内務省)によると、2003年に結婚したカップルの28%が、外国籍の女性だそうです。素朴な大陸の女性や、働き者のベトナムの女性と結婚する台湾人男性が増えているようです。大陸中国の人とのカップルを除けば、外国籍の新婦のうち、最も多いのはベトナム籍、次に多いのがインドネシア籍。これに、タイ、フィリピン、日本、マレーシアなどが続くそうです。また外国籍の新郎では、最も多いのは日本籍、次いで米国籍ということです。
○ 色々お説教臭いことも申しましたが、台湾の女性の方々、これからもどうぞよろしくお願い致します。
(出張の為、6月19日頃まで更新できません)
6月14日
液晶テレビの訴訟
○ 台湾の液晶パネルメーカーAUOをシャープが特許侵害で訴え、イオンが輸入している液晶テレビが売れなくなりました。その件で、イオンとシャープが不思議な喧嘩をして、一日でまた、不思議な和解をしたそうですね。
○ エレクトロニクス産業では、特許訴訟なんて日常茶飯事で、農業における天候のようなものです。死活的に重要だけれども、毎日のことなので驚きはない。といったところでしょうか。1990年代に韓国のメモリーICメーカーが力をつけ始めた頃、アメリカの会社が、韓国の会社を特許で訴え、輸入差止めになると、メモリーICの相場が上がり、日本の半導体メーカーの業績が好転しました。米韓のメーカーが和解すると、相場が崩れ、日本の半導体メーカーの担当者がしおれていました。訴訟の行方に業界の関係者が一喜一憂したものです。
○ 今回の件は、僕が丁度液晶テレビについて、6月8日に次のように書いていたことだったので、読者には、タイムリーだったかもしれません。(ココ)
台湾では、液晶パネル製造でも、それを使ったパソコン用液晶モニター製造でも、日本を既に凌駕しているが、なかなか、液晶テレビになると日本勢に追いつかない。
と僕は、書きましたが、台湾製の液晶テレビをシャープの半額で売ってもなかなか売れていない実態を新聞で確認することもできました。
○ また、米韓の特許紛争を見ていた人間にとっては、シャープの取った処置は、アメリカで見慣れた処置ですが、イオンが取った動きは、相当奇異に見えました。しかし、もしかするとこれが、僕が指摘していた、液晶テレビと液晶モニターの流通の違いを象徴的に表しているのかもしれません。
○ 先日、液晶モニターの分野から液晶テレビに入ろうとしている人が、売り方、即ち、流通の文化が全然違うので、困っているという話をしていました。液晶モニターは、そこそこ技術的知識もあるパソコンの販売員が、仕様の説明をしながら販売します。しかし、液晶テレビも家電のルートになると、とにかくはっぴを着て、販売員が朝の朝礼で猛烈な渇をいれて、ライトバンにのって、量販店を走り回って売らなければなりません。メーカーの流通に対する立場も比較的弱いのでしょう。
○ パソコン業界では、流通の人も液晶が台湾製か韓国製で、時に特許紛争があることなど百も承知です。客だってかなりの人は、知っています。一方で、イオンで液晶テレビを売っている家電の販売ルートとなると、そんなことは、知ったことかということでしょう。憶測と誇張をたくましくして言えば、「家電メーカーずれが、何をやいこしいこと言うて、ワシらの売っとるもんに文句つけるんじゃい。」ということだったのかもしれません。
○ 今回の事件は、以前に僕が指摘した、日本のアナログ技術の優位性や、液晶モニタービジネスと液晶テレビビジネスの違いだけでなく、実は、台湾メーカーと韓国メーカーの特許抵触への対応の違い、現在のデジタル家電の生産分業のあり方、日本の過剰スペック問題などの面白い論点がたくさん含まれています。
○ 時間があれば書きたいところですが、酔っ払いにて本日は、これにておしまいでございます。
6月12日
詐欺
○ 先日恐ろしい話を聞きました。ある日の昼さがり、日本人駐在員の家庭に、怖い顔をした屈強な男6人がやってきます。中国語を話せない日本人の奥さんは、目を白黒させます。男達は、自分達は警察であると言っているようです。手にかざしている書類には、「逮捕令状」とあり、罪状は、「詐欺」。家の中に入れてくれといっているようです。マンションの管理人さんが、慌てて、近くに住む中国語の分かる日本人を呼んできてくれました。
○ 結局、その家庭で使っているブロードバンド回線と無線LANルーターが、クレジットカード詐欺に利用されているとのことでした。警察も令状を持っているので、無理やり踏み込めますが、外国人でもあり、一応、穏便に本人の了承を得て家に入ろうとしたようです。結局、警察は、家に入るなりパソコンのところに突進、パソコンを立ち上げ何事かを調べ上げていきました。
○ どこかの悪い人が、家の外から無線LANを介してその家のパソコンにログインし、その家に来ているADSL回線を通して、クレジットカード詐欺をしていたそうです。警察も、目を白黒させて泡を食っているその日本人の奥さんが犯人とは、思っておらず、調べた内容を書類に記し、著名して終わりだったそうです。警察は、少なくともログインするパスワードは、パソコンに設定しておいた方がいいと言い残したそうです。
○ この話を聞いて、僕は、慌てて家に帰るなり、無線LANルーターのスイッチを切りました。自分が開発・発売に関わった無線LANルーターで、発売当時としては、「WEP」とか、「.1X」とかのセキュリティ機能がそこそこ充実しているのがウリだったモデルですが、僕は、全くの無防備で使っていました。やばい。やばい。医者の不養生というか、医者程立派ではないので、病院の掃除係の不養生といったところでしょうか。
○ 台湾に駐在する日本の人は、気をつけてください。無線LANルーターを使っている人は、セキュリティ機能を使うか、無線LANを使わないか、考えた方がいいと思います。
6月9日
電車男
○ ネット上で「電車男」という一つの都市伝説が、広まっています。これは、テレビというメディアにおける「浅間山荘事件」のように、ネット掲示板というメディアにおけるエポックメイキングな事件ではないかと思います。
○ 本当にいい話です。2チャンネルもいいところあるよね。と、素直に思います。とにかく、初めの部分だけでも読んでください。
「電車男」の話は、このサイトで見ることができます。 ココ
URL: http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Aquarius/7075/trainman.html
○ 僕は、まだ読み終わっていませんが、さわりを紹介させてください。ネタバレがいやでない方だけ、読み進んでください。
○ インターネット掲示板の巨大サイト2チャンネルでこの物語は、綴られました。女性と付き合ったことのない、2チャンネルを愛用する、平凡な「電車男」がこの話の主人公です。「電車男」は、ふとしたきっかけで電車の中で知り合った女性、「エルメス」と付き合いたいと思います。そこで、電車男は、2チャンネルで不特定多数の読者に相談します。
電話したほうがいい?やっぱりできない.....今からかけます...
デートのときの服装は?
レストランは?
支払いは割り勘がいい?
2チャンネルでは、匿名の多数が電車男に親身になって相談にのり、議論し、励まします。
電車男は、緊張して初めてエルメスに電話をするところから、実況中継で掲示板に書きつづけます。
興奮のるつぼとなる掲示板。
果たして、電車男の恋のゆくへは?
○ 少し期間をおいて僕の感想なんかも載せたいと思います。
6月8日
液晶テレビ(前回、「デジタル」景気?の続き)
○ 三種の神器の一つに数えられる液晶テレビは、今も年間1億3千万台出荷しているブラウン管テレビに入れ替わる巨大市場だとして、米韓台の各企業が血眼になって日本企業に追いつこうとしている。台湾では、液晶パネル製造でも、それを使ったパソコン用液晶モニター製造でも、日本を既に凌駕しているが、なかなか、液晶テレビになると日本勢に追いつかない。受託生産でなく台湾メーカーの独自設計の液晶テレビが、日米欧の一流ブランドにOEM(ODM)で出荷できているのは、僕が知っている限り無名の一社しかない。それは、日本企業が長年培ったアナログ技術に台湾メーカーが一朝一夕に追いつかないからだ。
○ パソコン用液晶モニターと液晶テレビというのは、似たように見えるが実は、技術的には大きく違った製品である。必ず将来論点になると思い2年前に指摘したように(ココ)液晶テレビの方が、明るさ(輝度)、視野角、反応速度などの点で、格段に高機能な仕様になっている。また、そうした仕様書に含まれない微妙な品質面も非常に重要になる。字を読むことが機能の大半であるパソコンモニターとしては気にならない微妙な色むら、黒や赤の原色の出具合、色のコントロールなどが、液晶テレビでは重要になる。こうした微妙な点をファインチューニングする優れたアナログ技術が日本企業の真骨頂である。
○ さらに、販売対象がパソコンユーザーでなく、茶の間の一般消費者になるので、メーカーに要求される姿勢が決定的に異なってくる。パソコンモニターは、仕様書を調べてネットで購入したりするが、液晶テレビは、電気店で実機の画像を比較して決めることが多い。
○ 例えば、微妙な色むらなど、それ一台でみていてもほとんど気付かないが、電気店で実機を並べて比べると、10人中7人までが気付いてしまうようなものがある。テレビでは、この微妙な色具合の違いが、売れ行きを3割くらい簡単に変えてしまう。この種の量産効果のある(費用逓減効果)商品で、生産数量が30%違えば、コストが10%は違うだろう。利益が10%違えば、電子産業では、もう勝負あったで、一方は大黒字、敗者は大赤字で撤退もしくは倒産となる。普通の消費者が一台だけみてみてもまず気付かない微妙な色むらで、こんな決定的な違いが起こるのである。
○ 先日、パソコン用液晶モニターを作っている台湾の中堅メーカーが液晶テレビを作り始めたというので見に行った。サンプルの出来はまだまだで、つい「アメリカ市場向けにしては、少し青みが強いかな」と言うと、相手は、にっこり笑って自信満々に色の強度の調整画面をだしてきて、「ほら、簡単に好みの色味に変えられます」と言ってきた。それを聞いてこの会社は、しばらく液晶テレビで苦労するだろうと思った。
○ パソコンのユーザーと違って、テレビのユーザーというのは、何の調整もせず、箱から出してスイッチを入れた時点で消費者の最も好む状態で画面が映らなければ、満足しない。立派な調整画面がついているのは何の自慢にもならず、出荷時に各市場にあったベストの色にしておく必要がある。技術よりもその市場へ対応する会社の姿勢が問われることになる。因みに、同じ白でも、日本市場向けは、やや青みがかった白、北米は、やや黄色がかった白が好まれる。
○ 今、液晶テレビの分野でどういうことが起こっているかというと、日本勢がブラウン管テレビや一日の長のある液晶製造技術などで長年培ってきたアナログ技術をもとに一歩リードしている。日本の大手テレビメーカーは、アナログ技術を駆使した独自のテレビ用ICをもち、それを外販しないで囲い込んでいる。茶の間の消費者をターゲットユーザーとする社内体制も確立している。
○ 一方、台湾、アメリカ勢が、パソコン用モニターで培った、安価でそこそこの性能がでるデジタル技術を高度化することで、日本勢に追いつこうとしている。例えば、モニター用ICメーカーが標準品としてのテレビ用ICを開発し、複数の台湾メーカーに販売していこうとしている。そうして安価で大量にできた液晶テレビを欧米や中国の市場で、量販店とダイレクトセールで売ろうとしている。
○ 繊細なアナログ技術を使って逃げる日本勢を、デジタル技術でねじ伏せようとする台湾・アメリカ連合が追いかけている構図である。
○ こんな激しいやり取りを目の前で見ている現場の人間にとって、日本が「デジタル景気」だなんていうのは、あまりにも寝ぼけた表現に聞える。今「デジタル家電」と言われる売れ筋の商品の主要な部分が、デジタル技術だけで出来るようになったときは、日本企業が負けるときであり、日本の景気が悪くなるときである。
○ こうして見ると「デジタル景気」という言葉は、現在の好調の理由をぼかしているだけでなく、危うい部分に対する認識でも、ピンボケを起しているのがよく分かる。それを「デジタル景気」と呼ぶのは、「たまちゃんフィバー」を「多摩川人気」と誤解するようなものだと思えてならない。
6月7日
「デジタル」景気?
○ 薄型テレビやデジカメなどのデジタル家電の販売好調による最近の景気回復を「デジタル景気」とマスメディアは、呼び始めた。しかし、これら大人気の製品群の技術的本質は、デジタル技術よりも高度なアナログ技術である。「デジタル家電景気」と言って、アナログ的ニュアンスのある家電という言葉をいれて使うのならまだしも、省略して「デジタル景気」というのは、技術・生産の現場にいる感覚からは、かなりピンボケに聞える。高度なアナログ技術による景気回復と理解した方がむしろ実用的だと思う。
○ 今の好況を「デジタル景気」と呼ぶのは、「タマちゃんフィーバー」を「多摩川人気」と報道するようなものだ。あれは、あざらしの人気であって、多摩川という都会の汚い川が人気になっているのではない。言うまでもなく、「タマちゃんフィーバー」の本質は、あざらしという動物の希少性と、多摩川という都会の川の平凡性という二つの特長によっているし、その二つの特徴では、あざらしの方により大切な意味がある。当たり前だが、人々が「キャー」と黄色い声で応援していた対象は、ありふれたうす汚れた川ではなくて、けなげに生きるあざらしなのである。
○ 薄型テレビやデジカメの「デジタル家電」で日本企業が潤っている本質的な理由は、その製品が優れたデジタル技術を必要とするからではなく、日本企業が得意とする高度なアナログ技術を必要とするからである。デジタル家電の技術的な特徴は、パソコンの製造などで広く普及し安定してきたデジタル生産技術と、最先端のアナログ技術を上手に摺り合わせ融合したことにある。日本の景気回復という視点から、この好調な製品群の特徴を技術面から表現するなら、デジタル技術よりもむしろアナログ技術にスポットを当てるべきである。(らくちんは、この点を一年以上前に指摘している。台湾日記03年3月4日「アナログハイテク技術の時代」ココ)
○ 実例をみてみよう。新三種の神器と言われるデジタルカメラの主要部品は、CCD、ズームレンズ、充電池、液晶、画像処理用IC、画像記憶用フラッシュICである。この6つで、デジカメのほとんどのコストを占めている。台湾メーカーが全く手も足もでないのが、光学ズームレンズモジュールである。日本と一部欧米の光学カメラメーカーが、特許をがちがちに握っているため、台湾勢は、どうしても製造することが出来ない。さらに、カメラをコンパクトにするために必要なガラスの非球面レンズの製造技術も日本だけの秘蔵の技術である。これらの光学技術は、どうみてもデジタル技術ではなくて、アナログ技術にほかならない。上に挙げた主要部品でも、デジタル技術の要素が強いフラッシュICでは、韓日のメーカーがシェアを二分しているが、それ以外のほとんどの主要部品では、アナログ技術を基礎にして日本メーカーが強い。
○ また、パソコン用液晶パネル製造で台湾に負けてしまった日本でも、パネル製造の為の部材や製造装置では、日本メーカーがリードしているものが多い。部材でいうと、光学シート、カラーフィルター、冷陰極管などがあり、製造装置では、ステッパーなどがある。これらの技術の核は、光学技術であり、材料を使いこなす物性技術であり、メカニックである。これらすべては、アナログ技術であって、0と1の論理回路を操るデジタル技術では、決してない。こうした優れたアナログ技術を駆使して液晶パネルの需要増に乗った日本企業は、軒並み高収益を記録している。
○ らくちん(筆者)は、約2年半前、不況のどまん中の時期に、薄型テレビ、デジカメ、DVDレコーダーを軸に日本の景気回復が期待できると書いている。(02年1月13日「楽観論」、ココ)まだ、「デジタル家電」など一般的には言われておらず、「新三種の神器」なんて言葉すらなかった頃である。
○ 予測をあてた同じその視点で、今の好況を見れば、これは、アナログ技術による好況というべきだろう。日本企業の得意とするアナログ技術の優位性を活かせる「デジタル家電」といわれる製品群が、世界市場で受け入れられるようになってきたから、日本の企業業績が回復しているのである。
○ こうしてみると、今の好況を「デジタル景気」と呼ぶのは、「たまちゃんフィーバー」を多摩川人気と誤解するような、トンチンカンなものに思えてくる。
(次回、「液晶テレビ」の説明に続く。)
6月5日
ホームページ三周年
○ 一昨日の6月3日で、このホームページを始めて3年になる。いやいや、よく続いたものである。
○ 始めたばかりの3年前の6月の台湾日記を読み返すと、停電にあったりして、それを楽しんでいた感もある。しかし、その後の3年間に、洪水、水不足による停水、地震、火事、SARSとこんなにたくさん、いろんな体験をできるとは、当時思っていなかった。いや本当に台湾は、飽きることがない。
○ 2年前の6月の台湾日記を読み返すと、日本で開催されたワールドカップサッカーの話が多かった。日本がロシアに勝ったときに、台湾の新聞が「神奇桃太郎!」と見出しをつけ、日露戦争から書き起こして報道したのには、たまげた。また、「小さな応援」というのを書くと、とても多くの方に支持してもらえたのが嬉しかった。
○ 昨年の6月の台湾日記を読み返すと、なんといってもSARSが最大の話題だ。とにかく収まってよかった。絶対冬を越すと復活してくると思っていたし、そう書いたりしたが、こればかりは、予想が的中しなくて本当に良かった。
○ こうしてみると、ホームページを書くという視点でいうと、台湾というのは、絶好の場所だと思えてくる。次から次へと変わった事件がおきて実に飽きない。日本にとっても重要な地域である。にもかかわらず、日本にはいっている台湾に関する情報が少ない。それでいて、台湾の人の日本への関心も高く、日本の情報がそこそこ取れる。
○ 実は、3年半前、色々ありがたいお話があったが、強硬に台湾への転勤を希望して来させてもらった。当時の理解ある直属の上司と先日飲んでいると、あのときは、「あいつ、台湾にいけなかったら会社辞めますよ」と周囲に言って希望を通してくれたそうである。そこまで強く言ったつもりはないが、またそれもよしである。
○ おかげさまで、こんなに楽しくホームページを続けることができて、色々な読者の方と知り合いになれた。ちょっと「一生の宝物」みたいなものだと思う。今後もよろしく御贔屓に..
6月2日
一言:商売は
商売は、十中八九儲からないものである。
愚者は、それでも自分だけは儲かると信じて失敗する。
賢者は、それ故に新たに商売を始めない。
よき商売人は、それを前提に組みたてて、新たな商売を成功させる。
6月1日
今こそインフレ目標を
○ 5月31日付け日経新聞の経済教室で、小峰法政大学教授と林内閣府主任研究官が記した「今こそインフレ目標を」という記事がありました。 5月4日に、「景気が少し上向いた今こそ、実は、インフレターゲット政策が、効果的なのではないでしょうか。」(ココ)と書いた僕としてはとても心強く思いました。
○ つい先日(ココ)にも書きましたが、ここでの僕の意見は、景気がどん底のところでは、インフレ目標の導入に懐疑的だが、今は、いい時期ではないかというものです。つまり、インフレ目標は、万能薬ではないが、時期に応じて使えば効果的で、今は、その効果的な時期だと思えます。
○ はてさて今後の議論がどうすすむか楽しみですね。
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