台湾日記  2004年5月
 
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5月31日
「童話王国」
○ 以前(ココ)にも宣伝しましたが、仕事で担当しているネットゲーム「童話王国」日本語版の無償試用が始まりましたので、宣伝させてください。(童話王国公式サイト

○ ネットゲームは、開発も利用も韓国がNO.1ですが、台湾は、韓国に次ぐぐらい盛んです。一方、ゲーム大国の日本でネットゲームがなかなか流行らないのは、ほとんど世界のゲーム業界七不思議の一つです。だから、ビジネスとしては、とてもチャレンジングですが、このゲームが一石を投じれば面白いと思っています。

○ この「童話王国」については、開発が始まったばかりで数枚のイメージ図を見ただけの頃から僕は、注目して追いかけていました。他のネットゲームが、戦闘的で、不意打ちや裏切りが多いのに対して、この「童話王国」は、破壊よりも創造、戦闘よりも協調に重点を置いており、ほのぼのとした癒し系でとてもユニークでした。それが、僕には向いているように思えましたし、日本でユーザーの裾野を広げるのにいいのではないかと思いました。今風にいえば、「スローライフ」の一部の「スローゲーム」といえるかもしれません。

○ 12月から限定ユーザーの無償試用テストをしていましたが、今回5月20日からユーザー数を限定せず、無償試用を始めました。今のところ順調にユーザー数を増やしており、サーバーの増設を続けています。ありがたいことに、限定ユーザー試用の頃から、熱心なファンが下手な攻略本より詳しい紹介サイトを作ってくださっており、初めての人でも、楽しみやすくなっています。(例えば、どうわおうこくがいど?

○ ユーザーも他のゲームと随分雰囲気が違うようです。ユーザーの半分近くが女性ユーザーで、小学生からOL、主婦まで楽しんでいます。僕としては、昔OLをやっていて、パソコンに抵抗感のないお母さんが小中学生の娘さんと一緒に楽しんでいるなんて図もいいなあと思っています。残酷なシーンがないので、台湾などでも、PTAに評判のいいゲームです。

○ オペレーションをやっている人によると、ゲームがほのぼのとしているせいか、ユーザーがとても優しく、困っている人がいると通りすがりの人が助けてくれたり、アドバイスをしてくれたり、なかなか他のネットゲームではみられない光景が展開されているそうです。また、オペレーター側が小さなミスをしてもユーザーが優しく接してくれるので、本当にありがたいということです。

○ 有償になる前に、是非一度、ほのぼのとお楽しみください。

ゲームの内容及びダウンロードは、次のサイトで:童話王国公式サイト


5月30日
首相再訪朝
首相再訪朝について、僕の受けとめを率直に書かせてください。

○ 小泉首相
・ ◎の大成功とは、思いませんが、まあまあこんなところで、よしとせざるをえないのではないのかと思います。もう少し訪朝を遅らせて交渉を続ければ、少しましな条件を引き出せた可能性は、あったかもしれません。しかし、その分、一日でも、一時間でも早く合流したい二家族の合流が遅れます。また、なにか事故があると、その二家族の合流もすっとぶかもしれません。とにかく、取り返せるときに取り返してくるというのが、現実的な気がします。

・ 以前にこの台湾日記で紹介しましたが、ある50歳代の台湾人の女性(本省人)が北朝鮮の日本人拉致事件を聞いたときへのコメントです。
とにかく、どんな手を使ってでもすぐにとり返してきなさい。とり返した後は、一切付き合わないこと。取引とか交渉なんて絶対あてにしちゃだめよ。あの手の政権は、全くどうしようもないんだから。そんなこと、私たちは、ようく知っているんだから。ココ

・ とにかく、こちらが大切に思っている人の身柄を押さえており、その人達の命すらもそれほど大切にしていない側が、立場として強いのは、間違いありません。「正しいが弱い人」と「正しくないが強い人」のどちらが強いかというと、明らかに「正しくないが強い人」です。これは、言葉の定義上明らかです。ふむ、これはこのまま人生訓にしたいほどですね。ついでにいうと、「強いが正しくない人」と「弱いが正しい人」とどちらが正しいかというと、明らかに「弱いが正しい人」です。これも、本当に当たり前のことですが、よく頭に刻んでおくべきですね。

・ 一国の首相が、相互訪問ではなくて、自分から続けて二回も出向くなんて。という批判がありますが、僕は、ピンときません。売上げ数兆円の台湾の優良企業グループの総帥でも、生産量の不足している部品を確保するために、必要となれば、日本のどんな田舎にでも行って、売上げ数百億円の中小企業の部品メーカーの部長に頭を下げます。僕は、その台湾企業の総帥の姿を見て、その迫力に圧倒され尊敬することはあっても、軽々しくみたりみっともないと思うことはありません。外交儀礼はよく知りませんが、一般的に、プライドとかそんなことを言って、自分からの訪問を渋るのは、僕に言わせると、ただのぼんぼんのあほうです。

△ 小泉首相を批判した拉致被害者家族の人達
・ 「子供の使い」などと激しく批判したようで、それをまた、厳しく批判する人もいるようです。僕は、拉致家族の人達に同調して小泉首相を批判する気にはなりませんが、かといって、この拉致家族の人達を批判する気になりません。自分の子供を拉致されて、怒ったり泣いたりしない親がどこにいるでしょう。感情的になる瞬間があるのは、周囲が許容してあげられればいいなと思っています。

・ もともと、この拉致被害者達は、日本政府をどんなに批判しても許される人達だと僕は思います。生命と安全を守るという最低限の国家の義務に対して、歴代政権が怠慢をしていたのは明白です。現首相とて、政府の代表としてこの被害者からどんなに厳しい批判を受けても、甘んじて受けるほかありません。

× 元首相経験者
・ 元首相経験者達から小泉首相に、「準備不足」「粘り足りぬ」との批判があったようです。僕には、この元首相経験者のコメントほど、腹立たしいものはありません。小泉さんならずとて「てめえらが、引き起こして、何もせんとぼーとしとった問題の後始末をしとるんじゃろが!」と、怒鳴り返したくなりますね。

・ サラリーマンとして、本当に身につまされます。ビジネスの撤退処理などをたまたま担当していると、自分が悪くした案件でなくても、色々な個人的な批判を受けるものです。そうそう、まさしく「準備不足」「粘り足りぬ」「もっと好条件がとれたのではないか」なんて批判は、現場を知らない社内評論家からよく受けます。よく批判者を見てみると、その損失ビジネスを作るのに責任のある人だったり、少なくともその案件に関して僕より以前になんらかのハンコを押したことのある人だったりして、「文句をいいたいのは、こっちのほうじゃい」と腹が立つやらおかしいやらということがよくあります。

・ 例えば、今のUFJ銀行にしても、OBの経営幹部の誰かが現経営陣を批判しているなら、それは、恥知らずというべきでしょう。種を撒いた人が、後片付けをしている人にとやかくいえるものではありません。歴代の元首相は、小泉首相にひたすら迷惑をかけて申し訳ないと謝り、苦労をねぎらうべきではないでしょうか。

・ そうそう次回に僕が撤退処理の説明をするときは、この元首相のコメントを載せた記事をポケットに入れてもっていきましょう。相手が、「準備不足」「粘り足りぬ」と批判を始めたら、その記事を取り出して、「種を撒いた責任のある人に限ってそういう批判をするものですね。」と言うことにしましょう。

・ しかし、まあ、こういう性格だから、撤退処理を担当させられるのかもしれません。


5月29日
インフレ参照値
○ 5月4日の台湾日記で、「景気が少し上向いた今こそ、実は、インフレターゲット政策が、効果的なのではないでしょうか。」(ココ)と書いていましたが、それほど、的はずれな議論では、なかったようです。

○ 5月25日に公表された4月8日、9日の日銀の金融政策決定会合議事要旨によると、複数の出席者がインフレ参照値に前向きな発言をしていました。これを比較的大きな記事で報じた、5月26日付朝日新聞によると、「参照値をデフレ心理好転の「起爆剤」としてではなく、デフレから完全に脱却するまで量的緩和を延ばす道具として使うという議論」に、最近、理解を示している日銀幹部が多いということです。

○ 僕が書いている、次の議論とトーンが似ています。
(インフレターゲット政策が)車のエンジンでいうと、0回転から最初の回転を起す「スターター」のように力強いものではなくて、回転し始めたエンジンの加速を追加補助的に増す「ターボ」のようなものだと僕は、ずっと思っていました。だとすれば、経済が凪ぎ状態の2年前より、景気が上向いてきた今のほうが効果的なのではないでしょうか。(ココ

○ 僕の理解が大雑把だったところもあるので、自分の勉強のために、ここで幾つか修正と補足を付け加えておきます。

○ まず、福井総裁は、インフレ参照値に否定的なようです。現在既に、量的緩和策の解除の条件として、消費者物価指数の対前年比上昇率が安定的にゼロ%以上としており、「準インフレ参照値的な色彩を持っており、今はその達成に全力をあげる」と強調しています。確かに、「0%以上」を達成する前に他の数字を示すのは、ややこしすぎますね。

○ 次に、僕が以前言っていたインフレ目標(ターゲット)というのは、提示したインフレ率を中央銀行のノルマのようにすることを意味するとのことです。今、日銀関係者で議論されているインフレ参照値は、達成義務のないものです。僕は、インフレ目標とインフレ参照値を余り明確に区別せずに議論していたと思います。

○ 次に、僕は、インフレターゲットが「ターボ」のようなものなので、今こそ導入すればどうかと書きました。新聞記事によると、日銀関係者での議論は、現在の「準インフレ参照値的」な「0%以上」が近づいてきたときに、量的緩和処置の延命、あるいは、ソフトランディングに、インフレ参照値を使おうとしているようです。彼らは、エンジンを加速する「ターボ」というよりも、スムースにスピード調整をする「気の利いたギア」ととらえていると言えるかもしれません。僕も、ソフトランディングに使えるともしていますが、やはり、微妙にニュアンスが違うと思います。

○ 最後には、読者からの反応にありましたが(ココ)、量的緩和の出口にインフレ参照値を導入したとして、その、インフレ参照値の出口をどうするのか。出口を必ずしも用意しなくてもよいとしても、では、柔軟に且つ実効性のある形で運用できるのか。という疑問が消えません。

○ そこそこ当たっていたけれども、微妙な発想の違いはありそうです。まあ、リフティングを三回もできないサッカーの素人が、Jリーグの試合の勝ち負けを的中して宝くじが当たるようなものだったかもしれませんね。


5月26日
未納
ここは、地獄への入口。4人の大物政治家が閻魔様の前に引き出されて裁きを受けることになった。
福田さん 「私は、未納のくせに、年金法案に関わりました。どうか裁きをくださいまし。」
菅さん  「私は、未納のくせに、未納の人を責め立てました。どうか裁きをくださいまし。」
小沢さん 「私は、未納のくせに、リーダー就任受諾をしてしまいました。どうか裁きをくださいまし。」
小泉さん 「私は、未納のくせに、リーダーを辞めませんでした。どうか裁きをくださいまし。」
4人一同 「閻魔様!誰が一番悪うございますか。さ、さ、はよう、裁きをくださいまし。」
閻魔様  「弱ったのう。わしには、裁きがたいのう。わしも未納じゃからのう。」


5月25日
君付け
○ 会社などで、僕より10歳くらい若い世代の人、つまり、30歳前後の人が、自分の数歳年下の人に、○X君と呼びかけているのが、最近、耳につきます。電子mailでも、CCで落ちてくるものに、時々、冒頭「○X君」で始まるものもみかけます。

○ 僕の感覚が普通じゃないのかもしれませんが、どうも、この「○X君」というのを、30歳前後の若い人が数歳歳下の同輩に使っているのを見ると違和感があります。僕の感覚は、「若いのに威張っていて嫌らしい」というよりもむしろ、「おっさんくさくてかっこ悪い」、というものです。

○ そう思って、かなり前に僕の同年代の人におそるおそる僕のその違和感を語ると、えらく同調してもらえました。その人は、外資系で成功した人で、ポジションも高く部下もたくさんいる人ですが、部下に向かってさえ「○X君」と呼んだことはないと言っていました。こちらが「さん」付けで呼んだ10歳も歳下の30歳の部下が、組織上は同列の28歳の後輩に向かって、「○X君」と呼んでいるのを聞くと、とがめるほどではないけれども、なんだか妙な気持ちになると言っていました。

○ 先日も、日本の若い人が、台湾人のスタッフへの日本語のemailで、「○X君」と書き出して送ってきて、温厚だが日本語のよくできる台湾人スタッフが怒ってしまい大変でした。この会社に入って君付けされたのは、初めてだ。と、怒り心頭だったようです。

○ 僕の場合は、自分が人に対して君付けを使ったことはありませんが、自分が君付けで呼ばれても、別に腹は立ちません。どちらかというと、君付けで呼ばれるよりは、呼び捨ての方が、親しくしてもらっているようでいい感じがしますが、それは、育ちが悪いからでしょうか。

○ こうして思うと、僕達の上の世代も下の世代も「君付け」を日常的に使っているのに、僕や僕と同世代の一部の人だけが「君付け」に違和を感じるともいえそうです。僕達の世代は、同好会とか、野田秀樹がはやった、80年代の影響を大きく受けた世代です。少しでも威張るようにみえることをかっこ悪いと感じる妙な世代なのかもしれませんね。

○ そういえば、高校生の頃に、糸井重里が、「人に尊敬されるような人間にはなりたくない」と言っていたのを、えらく共感して聞いたのを今、思い出しました。それも時代だったのですかねえ。いやいや、おじさんくさい話になってしまいました。


5月22日
元気な日本娘
○ 海外で独立して元気にやっている日本人女性が増えています。例えば、台北で立派にスナックを経営している、元普通のOLもいます。台北の日本人相手の飲み屋街、林森北路にあるLupinというスナックは、日本人女性がオーナー兼ママを勤めるおそらく唯一の店です。(ココ

○ ここのママは、日本でごく普通に大学をでてOLを何年か(4、5年?)勤めたところで、一念発起、単身台湾に渡りました。1997年のことです。最初はなにも分からず、言葉を覚えつつ、林森北路のスナックのビジネスを数ヶ月研究しました。その後、貯金をはたいてスナックの経営権を得、今のLupinを始めました。

○ 店のコンセプトは、日本の駅前のスナックです。林森北路の他の店のような刺激的なことはないけれども、日本人のママ相手に愚痴の一つも言いながらちょっと一杯飲んで気を晴らす。そういう店を目指しました。ママ曰く、小さい店なのでそんなに大儲かりもしないけれども、6年程安定的にやっており、他の店がたくさんつぶれたSARSの間も赤字を出さなかったそうです。いやいやたいしたものです。

○ スナックを経営するにあたって、規制も手続きも何も知らなかったので、本当に手探りだったようです。台湾では、外資系企業は、資本金の額などに応じて日本人の就業ビザを得られる人数が決まります。まず、貯金をはたいて、自分の就業ビザを得るための最低限の資本金を拠出して会社を設立しました。会社設立の手続きなどどこに相談するべきかも分からなかったので、なんとあの名門一流会計法人デロイト=トーシュ=トーマツに設立手続きを頼んだそうです。その縁もあって、未だにスナックLupinの会計と税務申告は、トーマツがしているそうです。すごいですね。日本の一部の上場企業よりは、健全な経理処理がされているかもしれませんね。

○ 余りガツガツしていないのも、店が長続きしている理由でしょう。実は、僕は、この3年で、3、4回しか行っていません。先日行ったときは、前回から一年以上経っていました。ママは、ルールでは、一年経ったボトルは捨てることにしているんですよと、言いつつ、「ああ、腹立たしい。でてきちゃった。」といって、苦笑いしながら、1年以上前にいれたボトルを取り出してきてくれます。今日は、そのお詫びもこめて、この場で店の宣伝をさせていただきます。

○ このエッセイを書くために、もう一度店にいって、店を始めた経緯をもう一度確認したりしたのですが、OLだった期間や、店をやっている期間になると、「歳がばれる」といって、詳しく教えてもらえませんでした。足し算が合わないと思われる方は、店に行って自分で確認してくださいね。


5月20日
総統就任演説
○ 今日、総統の就任式が行われ、雨の中を陳水扁総統が二期目の就任演説をしました。選挙で分裂した社会の融和、多民族の融和、民主主義の確立と発展などを訴えましたが、やはり、注目は、台中関係にどう言及するかでしょう。

○ 台湾と中国は、実に微妙な駆け引きをしており、ときには、アメリカを間にはさんでのきつねとたぬきの化かしあい状態です。僕などは、語学力がないので、その微妙なやり取りは、他の人の解説を聞いてからでないと分かりませんが、取りあえず気付いたことだけ書いておきます。

○ 憲法改正
現在の憲法は、五権分立制度、選挙制度、徴兵制など台湾の現状に合わなくなっており、08年までに抜本的に見直すとしました。

○ 独立か統一か
しかし、主権、領土、独立か統一かという問題は、改憲にとりいれないとしました。

○ 5つのノー原則
陳水扁総統は、4年前の総統就任演説で、中国を刺激せず台湾の住民を安心させるために、中台関係について現状維持的な5つのノー原則を表明しました。今回の演説で、もう一度それを繰り返すかどうかが議論になっていました。結局、5つのノー原則については、言及しませんでしたが、文脈から明らかに5つのノー原則を指しているように語りつつ、4年前の総統就任時から4年間方針を変えなかったし、今後も変えないと述べました。このあたりが、微妙なところで、苦心の作でしょう。

○ ちなみに、4年前に表明した5つのノー原則とは、次の内容です。
中国に武力行使の意図がない限り、任期中は
(1)「台湾独立」を宣言しない
(2)(中華民国という)「国名」は変えない
(3)(李登輝前総統が提起した)「二国論」を憲法に盛り込まない
(4)「統一か独立か」を問う住民投票は行わない
(5)(統一の道筋を定めた)国家統一綱領を廃止しない

○ 余計な感想
僕は、TVBSというニュースチャンネルの生放送でこの総統就任演説を見ました。雨中に陳水扁総統が一生懸命演説している厳粛な映像なのですが、画面の右隅に株価指数(加権指数:日本の日経平均なあたるもの)が表示されているのには、驚きました。陳水扁の演説の内容によって、株価がピューと上がったり下がったりするのをリアルタイムで見られるという趣向だったのだと思います。何年住んでも、台湾は、愉快ですね。


5月18日
東大出の百姓
○ 中学の頃からの旧友の早川氏が京丹後市の市議会議員に当選しました。おめでとうございます。

○ 彼は、東大を卒業したあと、ほとんど何の縁もない網野町(現京丹後市)に住み着き、少しの土地を借り、百姓を始めました。東大出のお百姓さんです。無農薬とか、色々変わったことをしていたようです。お子さんの出産も自分で取り上げたとかというつわものです。

○ ナホトカ号の重油流出事故のときには、重油が流れついた網野の砂浜を守るボランティアの事務局長をしていました。そのとき、僕は、網野まで重油拾いを手伝いにいきましたが、それがほとんど、15年ぶりくらいの再会でした。行ってみると驚いたことに、ボランティアといっても、町役場の大きな会議室を占領して大掛かりに活動しています。その中で、町長さんや地元の方々を実に丁寧にたてつつ、てきぱきと事態をさばいているのをみて、いやあ、大人になったもんだなあと妙に感心したものです。

○ そのとき、僕は、大阪に行く用事のついでに二日だけ網野に行こうか、それとも、その旅費分をボランティアに寄付しようか彼に相談しました。早川氏は、お金よりも現地に来て自分の目で見たことを東京に戻って周囲の友達に伝えて欲しいと即座に断言してくれました。この種の活動というのは、そういうものかもしれません。

○ そこで、とにかく烈風吹きすさぶ冬の日本海だというので、持っているすべての防寒具をつけて行きました。しかし、偶然その日は天気がよくて、重油混じりの砂をザルでこしていると汗をかくほどで、拍子抜けしたのを覚えています。美しかったであろう白い砂浜は、無残なほどに汚れていましたが、空と海がほのぼのときれいだったのを覚えています。

○ 友人がこのように立派なことをしているのに、僕のような悪友の印象に残ったことは、第三セクターで細々と運営されている汽車のなかにいた女子高生がルーズソックスをはいていたことでした。失礼かとは思いますが、日本というのは、鉄道の運営も四苦八苦する田舎でも、都会と同じファッションなんだなあと感心しました。凡夫には、あのルーズソックスのまぶしい白さが忘れられません。


5月17日
来日観光客数
○ 国別の来日観光者数で、88年から15年間連続首位だった台湾が、03年に韓国に抜かれ2位になってしまいました。(国際観光振興機構による)韓国の人は、SARSの影響で東南アジアや中国への旅行を日本旅行へ振り替え、韓国政府の日本文化開放政策や羽田・ソウル間の定期チャーター便の開始などもあって、21.2%の大幅増になりました。一方で、台湾の人は、SARSの影響で海外旅行を控えてしまい、前年比11.4%減でした。とはいえ、台湾は、日本の観光業界にとってまだまだ大口のお客様です。もっと、台湾人観光客向けに力をいれて大切にすればいいのにと思います。

○ 東京都は、外国人観光客の減少を心配しているそうです。石原都知事も20日の台湾総統就任式に出席するために台湾に来た際、台湾のメディアは大きく報道してくれるでしょうから、「どんどん日本に観光で来てください。」と宣伝していけば、どうでしょうか。

○ 台湾の人は、歴史的な浅草や京都などよりは、現代的な東京ディズニーランドか、自然を満喫できて涼しい北海道や東北が好きなようです。東京を宣伝するなら、ディズニーランド以外の現代的なもの、例えば、自分が少し関わっていたので手前味噌ですが、お台場とかを宣伝したほうがいいように思えます。それと東京は、公共交通機関を外国人に利用しやすくする必要がありますね。ジョルダンなどの「乗り換え案内サイト」を運営する会社にお金を出してでも、中国語版をサポートしてもらえばどうでしょう。

○ 自分の資料整理の意味もあって、数字をもう少し詳しく書きとめておきます。上記の観光で日本に来た台湾人68万人と、商用で来た8万人などを合わせた訪日台湾人旅行者数合計は、03年で79万人(10.5%減)です。この旅行者数合計では、台湾は、1999年以来5年連続して二位を保っています。

○ 03年は、SARSの影響が大きく、5月などは、台湾人の訪日旅行客が前年同月比△77.2%と激減しました。しかし、SARSが収束したあとは、中国や東南アジアへの旅行が減って日本旅行が増え8-12月では、前年同月比+14.4%の大幅増でした。

○ 日本の観光業界は、中国からの旅行者の伸び率に期待しているなんて新聞記事を最近よく見ます。しかし、台湾からの観光客の02年から03年への減少分を取り戻すだけで、今年は、昨年比7万人近く増えることになります。中国からの年間の観光客総数10万人弱と比べてれば、台湾からの観光客の重要さが分かると思います。商売としては、台湾へのプロモーションを徹底するのが、近道です。

○ そうそう、地方では、観光客を増やすために大金をかけて施設を作ったりするのを見かけますが、一番手っ取り早いのは、台北との直行便を運行することです。東北への観光客が増えたのは、昨年から、台北からの直行チャーター便を開始したからです。成田空港は、日本観光のがんです。(ココ参照)台北/羽田便を復活させるだけで、10万人以上観光客が増えても不思議ではありません。もったいないですねえ。

○ 最後に、03年の来日観光客の国別の票を載せておきます。

順位 02年の
順位
国・地域名 観光客(人) 前年比
伸び率(%)
1 2 韓 国 917,590 21.2
2 1 台 湾 681,490 -11.4
3 3 米 国 350,674 -15.1
4 4 香 港 228,073 -10.7
5 6 オーストラリア 122,002 6.7
6 5 英 国 110,510 -11.1
7 7 中 国 95,991 -5.2
8 8 カナダ 87,647 -3.2
9 9 シンガポール 52,390 2.0
10 11 タ イ 43,832 14.8



5月16日
台湾総統就任式
○ 5月20日に行われる陳水扁総統の就任式に、日本の政治家も出席するようです。台湾での報道によると、自民党系からは、石原慎太郎・東京都知事、平沼赳夫・前経済産業大臣(日華議員懇談会会長)、綿貫民輔・前衆議院議長、金子恭之・自民党青年局長、玉沢徳一郎・元防衛庁長官(亜東親善協会会長)らが出席するようです。民主党の国会議員では、長島昭久氏、中津川博郷氏、宇佐美登氏らが出席するそうです。台湾に、関心を持つ日本の政治家が増えるのは、日本の外交全体にとっても台湾にとっても、非常にいいことだと思います。

○ 先日、日本に出張したときに、かんべいさんにご紹介いただいて、楽しくお話させていただいた、民主党の長島昭久議員も来られるようです。長島議員は、このサイトを読んでいただいているようで、本当にありがたく思いました。昔の怖い顔をした自己顕示欲の強い政治家のイメージとおよそかけ離れた、さわやかな人でした。台湾は、今、連日30度を越す暑さですので、気をつけてお越しください。

○ 個人的には、台湾ファンの日本の政治家が増えるのは嬉しいのですが、台湾と大陸中国との両方に知見とパイプをもつ日本の政治家も増えてくればいいなあと思っています。長島議員もサイトでそのようなことを書かれていました。台湾の人もそういう日本人をむしろ歓迎する懐の深い人もかなりいると思います。それは、日本が多くの選択肢を持って膨らみのある外交をできることを意味することでしょう。


5月15日
今となっては
○ 今となっては、未納三兄弟が立派にみえる。少なくとも、日本の平均的な政治家よりも正直で潔いと、いえる。もちろん、それは、決して日本の政治の自慢にはならない。

○ 今となっては、「悪の枢軸」の悪さもほどほどにみえる。リビアもおとなしくなり、北朝鮮も切羽詰っており、イラクの悪さは、アメリカの人権侵害行為により相対化された。ラムズフェルドも、フセインのように穴があったらはいりたいか。もちろん、そんな自己を批判的に見る目など、彼は持ち合わせていない。

○ 今となっては、北朝鮮拉致被害者の方々のマスメディアや政府への対応が本当にすばらしくみえる。さすが何年も命がけで身を処して苦労された方々だと思う。イラクで拘束された方々とは、決定的に違っている。もちろん、本人達は、そんなことを自慢したくもないだろう。

○ 今となっては、小沢もぼんぼんにみえる。少なくとも、菅よりは、世論を感じ取るセンスは、悪かろう。テレビ受けは、小泉に遠く及ばぬ。もちろん、それは、民主党のぼんぼんが決めたことである。


5月12日

○ このサイトでは、台湾、エレクトロニクス産業、日本の社会の、三つの話題が中心です。これを仮に表芸とすれば、今日は、裏芸の紹介です。

○ まず、僕は、三年五ヶ月前に台湾に赴任する前、実は、エレクトロニクスとも台湾ともほとんど関係のない、アミューズメントなどの集客施設事業を担当していました。(参考:ココ)今でも、人気のレストランとか、新しい大きな集客施設にいくと、内装費や、売上げが一坪当たりいくらだろうとか、年間利用者どれくらいだろうと思わずみつくろってしまいます。このサイトでも、数えるほどですが、集客施設や建築関係の話題も書いています。これが裏芸の一です。(例えば、ココ

○ つい先日も、テーマパーク「工事中」というのは、成り立たないかなと書いてみました。(ココ)そうすると、台湾で不動産業を営むTさん(参考:ココ)から、小さいときから工事現場が大好きで、それが今の職業につながっているのかもしれないというご趣旨のemailを頂き、やはり同じ思いの人もいらっしゃるのだと嬉しく思いました。これからも、ちょこちょここの話題も書いていきたいと思います。

○ 次は、裏芸の二。このサイトでは、自分の日記代わりに、自分の読んだ本の感想をときどき書き留めています。(ココを見てください)中には、読者から面白いと言っていただけるものもあったので、それをアマゾンの読者の感想にも載せてみました。

○ 一つは、江國香織「号泣する準備は出来ていた」です。もう一つは、「溜池通信」のかんべいさん(吉崎さん)の書かれた「アメリカの論理」です。「溜池通信」は、永田町や金融業界では知る人ぞ知る、超人気サイトで、かんべいさんは、今マスメディアへの出演がどんどん増えています。そんな多忙なかんべいさんが、陰に陽にこの拙「台湾つれづれ」を応援してくださっており、いつも感謝しております。もっと早く、アマゾンに掲載しておけばよかったですね。

○ ところで、そもそもこんなサイトをやっていること自体が、ただのサラリーマンの僕の裏芸であるのは、間違いありません。


5月11日
非合理的行動の合理的な結果
○ 2002年のノーベル経済学賞をとったカーネマン教授などが始めた行動経済学の入門書、「行動経済学入門」(多田洋介著)を読みました。アダム=スミス以来の近代経済学の第一歩は、みんなが利己的に動くのだけれども、それが故に、−「それにもかかわらず」ではなく−世の中が上手くいくという説明でした。そして次に研究された補足的な説明は、そうはいってもある条件下では、人間が利己的で合理的に動くと、市場が失敗するケースもあるというものでした。結局、従来の経済学は、みんなが、@合理的で、A自制的で、B利己的であることを前提に、市場を通じて、ある均衡に達することを説明します。

○ 閑話休題。詳細を忘れましたが、太宰治の「斜陽」で、主人公が、「経済学なんてきらい。人間がみんなけちで強欲だという前提の学問なんだもの。私にはよく分からない。」というような内容のことを言います。僕は、中学生の時にこれを読んでひざを叩いて感心しました。数学以外は、どの科目も落ちこぼれだった僕が、文科系にすすんでしまったのは、この一文のせいだったかもしれません。

○ 話を行動経済学に戻します。行動経済学では、人間が完全に合理的でもなく、自制的でもなく、利己的でもないことを縷々実証します。さらに、限定合理的な人間がたとえ少数しかいない場合でも、その影響が市場全体に決定的に影響しかねないことも述べています。結局、現実の人間は、超利己的でもないし、超合理的でもないし、超自制的でもないので、従来の経済学がいうほど上手くは世の中が回らないという説明にいたります。これらの成果を使って、土地バブル、ITバブル、通貨危機などを説明できないかと想いをめぐらします。

○ そこで、蛇足で僕の思い付きを加えさせてください。人間は、超利己的でもないし、超合理的でもないし、超自制的でもない。だからこそ−「それにもかかわらず」ではなく−世の中が上手くいくという「合理的な」説明が、できるような気がしてなりません。ひとつは、NPOなどのある意味で非合理的な行動が、市場の失敗による損害を穴埋めするということでしょう。

○ しかし、もっと本質的な話として、限定合理的な行動があるからこそ、市場のダイナミズムが生まれ、市場が機能しうるという説明ができないでしょうか。例えば、経済理論で、「何らかの事情でXX曲線がシフトしたとき」、というような説明をよく見かけますが、このあちこちででてくる「何らかの事情」は、人間の限定合理性によって起こるのではないでしょうか。

○ 「人間、ちょっとのろまでお馬鹿なところがあるから、世の中上手くいくんだ。」という説明は、生活実感からもとても納得しやすく、また、こういう風に思うと、生きていくのがずいぶん楽しくもなります。僕も、人生の進路を中学の頃あたりからどうも間違ってきたような気がしないでもないですが、それもこれも、世の中が上手く回ることにつながっていると思うと、なんだか、腹を立てるのも忘れて愉快になってきます。


5月10日
読者の反応
最近のこのサイトへの読者の反応を載せさせていただきます。

○ Aさん>修学旅行前の、良い勉強に、なりました。
学生さんでしょうか。たった一行ですが、こういうemailもとても嬉しいですね。

○ インフレターゲット論再考(5月4日分)について
Bさん>台湾総統選挙の前後はお世話(?)になりました。良質の情報が多く、助かりました。
いえいえ、そういわれると、照れます。何かウソを言っていないか、今だにびくびくしています。

他方でインフレターゲット(IT)は「?」です、
(中略)
ITをいったん設定してデフレを脱却したら、ITを放棄できるのか問題があります。
来年のことを考えると、ルール設定よりも、景気が後退局面を向かえた場合を想定して裁量の余地を残した方がよいと思います。
いやあ、そうかもしれませんね。リフレの「ターボ」的アクセルと、金融緩和の出口の準備との両方をインフレターゲットに兼ねさせようというのが、僕のアイデアでした。しかし、では、そのインフレターゲット政策の出口をどうするのか、という、また、大変な問題を残してしまいますね。

と、まあ、経済や経済政策については、素人で、建設的な反論もできずに申し訳ありません。台湾に関しては、たとえば、この前の総統選に関することなど、読者の台湾への印象を決定付けるかもしれないという思いもあって、あれでも随分慎重に書きました。しかし、経済や、経済政策については、読者に他の検証方法もあるだけに、自分に自信がないことをおおぴらにしつつ、思い切ったことを書いていこうと思います。そして、こういう色々なご意見をいただくと、僕自身非常に勉強になります。ありがとうございます。

○ 42(5月9日分) について。
Cさん>面白く拝見させてもらってます。厄年は数え年で計算します。数えでは我々はもう43歳なので後厄になってます。ご参考までに。
同じような指摘を別の読者からも頂きました。「今年の僕は、「後厄」だそうです。」とは、書いていたのですが、誤解を生みやすい書き方でした。反省です。

ところで、このCさんは、中学、高校の同級生です。実に久しぶりの連絡だったので、驚いちゃいました。同級生だけに、厄年か後厄か、よく分かっていますね。

○ 冒頭の修学旅行の学生さんも、「数えでは、我々はもう43歳なので...」というmailをやりとりする時代がくるのですよ。それも、結構すぐに...


5月9日
42
○ 今日は、42歳の誕生日。とはいえ、何があるわけでもありません。これを機会に、誕生日にこのサイトで何を書いていたか、見てみました。昨年一昨年となんとまあ、見事に何もなかったのですねえ。いやいや、何も無いことを神様に感謝するべき歳なのでしょう。

○ ところで、この二、三年、しばしば「厄年」だとかどうかと言われていました。体が変わる頃でもあり、健康に気をつけろという程度にしか受け止めていませんでした。今、インターネットで調べてみると、今年の僕は、「後厄」だそうです。例えば、ココには、こう説明されています。

【男性の42歳、女性の33歳は一生の大厄】とされています。厄年の前後の3年間をそれぞれ前厄、本厄、後厄とし、その間はつつしましく生活を送ることが望ましいとされています。

○ 今年一杯は、ゆっくりのほほんと、つつましく暮らすといたしましょう。


5月8日
台湾近況
○ 台湾株下がる
5月3日からの週は、台湾の株がよく下がりました。5日には、6000ポイントを割れ5854ポイントまで下がり、昨年12月29日以来の低水準でした。この一ヶ月で13%強下げ、アジアで最大だそうです。アテネでのテロ、政局の混乱などが要因と言われています。5月7日の終値では、6040まで戻しました。下げ幅のわりには外資の売り越が小さいので、下げは収束するという見通しもあります。

○ 総統選
10日から裁判所主導で総統選の票の数え直しが行われます。一週間ほどではっきりする予定です。どういうわけか、もう国民党側の勝利は、あり得ないというのが常識となっており、国民党支持者までもそう言っています。20日には、総統就任式です。もう話題は、12月立法委員(国会議員)選挙までにブルー陣営がどう立て直すかが、焦点になっています。連戦にリーダーとして残って欲しいと一番強く願っているのは、陳水扁でしょうね。

○ 中国の軍艦が台湾海峡を通過
香港に寄港していた中国の軍艦8隻は、5日に出港後、静かに台湾海峡を通過しました。派手な動きはなかったので、台湾海軍は、静かに見送りました。このあたり、相変わらず微妙なやり取りをしています。でも、どうしてこの報道が日本であまりされないでしょう。


5月5日(5月5日に書き込みしたのに、アップロードし忘れ、6日にアップしました。スイマセン)
台湾の休祭日
○ 日本は、ゴールデンウィークだそうで、うらやましい限りです。アメリカでも台湾でも国際的なビジネスマンの間では、日本の休祭日が多いのは有名です。みんな、「また日本は、休みだよ。よく休むなあ。」とうらやましさも半分こめて、文句を言っています。

○ 台湾は、ゴールデンウィークなんてないのはもちろんのこと、実に祝祭日が少ないのです。更に、昨年、今年と、休祭日が、土日に重なることが多く、殆ど休みがありません。台湾での、今年の土日以外の祝祭日を挙げてみます。

1月1日 :新正月(開国記念日)
1月21日、22日、23日:旧正月
6月22日:端午節
9月28日:中秋節

この6日間だけです。新旧正月休みの四日間を除けば、たったの二日。とほほ、でございます。今年は、年末まで、あと二日だけなんざんすよ。あんまりですよね。

○ 因みに、今年、土日に重なった休みは、2月28日(土):二二八和平記念日(休まないことが多い)、4月4日(日):清明節、5月1日(土):労働節、10月10日(日):国慶節。いずれにしてもそれほど多くありません。  

○ ということで、僕は、今日、有給休暇をとってずる休み。どこに行く用事もなく、ぼうと過ごそうと思います。これが最高の贅沢というものですね。


5月4日
インフレターゲット論再考
○ 景気が少し上向いた今こそ、実は、インフレターゲット政策が、効果的なのではないでしょうか。(らくちんは、この辺りの議論は、素人ですので自信はありません。ですが、それゆえに気楽に思い切ったことを言わせてもらいます。)最近、景気に対して楽観論がでてくると、インフレターゲット論が余り議論されなくなっているようです。しかし、インフレターゲット政策というのは、もともと目標インフレ率を明示することにより期待という心理的効果を使おうとしたものです。車のエンジンでいうと、0回転から最初の回転を起す「スターター」のように力強いものではなくて、回転し始めたエンジンの加速を追加補助的に増す「ターボ」のようなものだと僕は、ずっと思っていました。だとすれば、経済が凪ぎ状態の2年前より、景気が上向いてきた今のほうが効果的なのではないでしょうか。

○ もともと、インフレターゲット論が、他の数あるリフレ政策と違うのは、リフレ政策の実質的な経済効果だけでなく、アナウンスに伴う心理的効果や「期待」に大きな意味を見出すことだったはずです。これは、狭い意味のインフレターゲット政策です。しかし、ちゃんと日銀が約束しないと、「期待」もでてこないということで、日銀がコミットするべきだという話になりました。更に、その為には、実態がある政策的裏付けがいるということで、目標達成まで日銀が債券や株を買えばよいという意見にまで行きついてしまいました。結局、インフレターゲット論は、日銀がインフレ目標の実現のためにあらゆるリフレ政策を総動員することに責任をもつというような内容に変わっていったと思います。これが広い意味のインフレターゲット政策です。

○ 2年前、日本の不況感が強くインフレターゲット政策がこんな風に盛んに議論された頃、僕は、インフレターゲット政策を導入することに懐疑的でした。まず、日銀のアナウンスによる期待だけで、貨幣の循環が良くなるようには思えませんでした。そういう意見に対して、インフレターゲット論者が反論する時に、「125ページの数式を見て頂ければわかる様に、各経済主体が合理的に行動すれば、インフレを脱却できる。」というのを聞くと、ますます、こんなややこしいことを普通の人間は、考えるわけあらへんがなと思ったものです。

○ では、日銀が債券や株を買えばよいとまで言う人も出てきましたが、政治的にも、選挙の洗礼を受けない日銀が株や債券を巨額に買うのは、民主主義の否定ではないかとも思います。僕も、2002年10月に書いています。

日銀が長期国債や株式を買い取ればいいというなら、政府が「長期国債買入機構」でも「公社債株式買取機構」でも作って買えばいいという意見です。(小宮隆太郎教授「金融政策論議の争点」)選挙で国民の信任を得ている政府がそれをできないのに、どうして日銀が、そんなに国民にとってリスキーなことをやっていいのか。日銀が、そういうことをするのは、民主主義の否定ではないか、(02年10月27日、ココ

○ 現実には、日銀は、インフレ率のコミットこそしなかったものの、銀行保有株の買い上げをしましたし、金融緩和を継続する目安をしめしたりして、結局は、インフレターゲットに近い政策を行ってきました。皮肉なことに日銀は、1,2年前にいきつくところまで議論された広い意味のインフレターゲット政策の内、狭い意味のインフレターゲット政策以外は、全て行ったと、いえるほどです。

○ さて、今度は、現在の話ですが、景気が良くなっていると人々が実感し始めた今、日銀が、インフレ目標を明示すると、そのアナウンス効果だけでもなかなか大きいと思います。外需がどうか分からなくなってきたけれども、いよいよ国内需要も動きそうだということになると、影響も大きいと思われます。これは、こ難しい数式関係無しに、普通の人の感覚です。

○ 実質的な政策の裏づけがないと信じにくいといわれるかもしれませんが、今となっては、あの巨額の円売り介入を陰で支え、銀行保有株の買取をした実績のある日銀ですので、なかなか迫力があると思います。現総裁は、一旦ターゲットを示すと、それを維持するためにどんな弾が飛び出すか分からないといった、いい意味での期待と不安があるように思います。

○ 株の売買も普通に回せばこのインフレ率よりは、よい利回りになるはずだと説明する人も出てくるでしょう。景気回復の実感が無い時に言われても詐欺としか思えない台詞でも、今では、信じやすく聞えると思います。

○ また、インフレ率の目標を示すことが、金融緩和政策の出口にソフトランディングする良い方法につながるように思えます。デフレ克服は、8分9分まできてから最後の一押しが難しいと日銀も認識しているようです。その最後の一押しを狭い意味のインフレターゲット政策のアナウンス効果で行うのは、とても現実的な方法だという気がしてなりません。


5月2日
小泉政権三年
○ 小泉政権三年を本人の言葉使いに倣って評せば、外交:米軍支持、経済:円安介入、内政:反角栄政治の、三位一体政治だったといえる。

○ 外交については、安全保障について米国支持が全くぶれなったのがよくて、単純な割り切りで判断するブッシュ氏とウマが合った。もし橋本氏や菅氏が首相で、あーでもないこーでもないといってブッシュ氏と話すと、日本にとってもマイナスが大きかっただろう。米軍支持のコストも、結果的に高くなっていたかもしれない。実は、小泉政権は、北朝鮮訪問などアメリカが賛成しないことを多くしているが、ブッシュ大統領との単純な信頼関係が多少の日米のズレも覆い隠した。

○ 一般的に、外交は、国内政治の得点に繋がらない。しかも、この三年は、経済が最大の論点と思われた。にもかかわらず、外交を国内世論支持の得点源にしたのは、この政権最大の驚きであり成果だろう。日本社会の成熟かとも過信したくなるほどである。

○ 経済は、先日(ココ)書いたように、今回の景気回復に対して、意味ある影響を与えた政策は、ほとんど何もしていない。唯一結果に影響がでた政策が、首相や与党の意図とはいいがたい巨額の介入による円安政策(円高阻止政策)であった。

○ 内政は、いわゆる田中角栄型政治に対して、とにかくなんでも反対と破壊に動いた。「自民党をぶっつぶす」というスローガンを実現すべく努力した形跡はない。しかし、「旧田中派をぶっつぶす」、「角栄型政治をぶっつぶす」べく、意固地になって精力を注いだのは、確かである。郵政、道路、対中国御追従外交、など角栄政治の特徴であり、強さの源泉であったものをことごとくつぶそうとしたことだけは、一貫している。

○ さらに、この外交の米軍支持、経済の円安介入、内政の反角栄政治の三つが、相互に支えながら成立してきた。米軍支持によるブッシュ大統領のサポートによって、円安介入に対するアメリカの批判をかわし続けた。後藤田氏や野中氏のような「怖い顔をしたハト派」を特徴とする旧田中派勢力を無視し続け、米軍の軍事行動に協力した。この三つの政策が、三位一体となり相互にもつれあうように補完しながら効果を出した。

○ それでは、今後は、どうだろうか。米軍支持は、変わらないだろう。これが、変わるときは、政権が終わるときである。一方、円安介入は、もう賞味期限が切れ掛かっている。円を押し下げる介入の力も限界に来ているし、円安が経済に及ぼす好影響もそう続かない。内政の反角栄政治も、また、やや賞味期限切れを感じる。郵政も道路も中途半端に一区切りついてしまった。なにより敵対してヒロイズムに浸るには、旧田中派人脈に元気が無さ過ぎる。「迷ったときは、旧田中派が嫌がる方に舵をきる」というこれまでの手法が、今後は、通じない。鹿をしとめたと思ったら鼠だったということになりそうである。

○ 民主党にしろ自民党内非主流の人にしろ、反小泉の人たちは、どうすべきだろう。外交での米軍支持については、重要であるが、批判しても得るものは少ない。たとえ小泉氏を言い負かしたところで、批判者の支持率上昇に繋がらない。外交では、批判よりも建設的な議論をして着実な政権担当能力を示しておくのがせいぜいである。

○ やはり、経済と内政で得点を狙うべきだろう。経済では、円安政策から後を引き継げる政策を提唱すべきである。一方で、産業再生機構や特区等の小泉政権があわててばたばた打ち出した経済政策の結果検証をするべきだ。アイデアは、悪く無いのもあるが実現化の際に骨抜きとなり、無残な姿を野にさらしているからだ、

○ 内政では、首相が反田中政治のトラウマにとらわれている限りチャンスがありそうである。例えば、高速道路について、小泉首相は、旧田中派の牙城である道路公団を潰したいばかりに議論の中で大局観を失い、世論の最も敏感なところを見過ごしてしまっていた。そこをついて、民主党が「高速道路無料化」を打ち出したのは、効果的であった。今後も、小泉首相が旧田中派ともめてくると、論点がずれていく可能性が高い。そこで、世論にうける第三の方法を提唱できるチャンスがくるだろう。

○ 最後に、余談だが、政治にはあまり関心のない女性が言っていた。あの「三位一体」というのが、新聞の一面にでてくるのは、悪い冗談かと思っていた。本人達は真剣に使っているんですねえ。と。この人は、キリスト教者である。


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