ちょっとしたコラム ・・・「日本シリーズ激闘編」(隔週土曜11/4掲載 今季最終回)

  参考書籍:日本シリーズの軌跡(ベースボールマガジン社)


1983年 西武ライオンズVS読売ジャイアンツ(後編)

 巨人の2勝1敗で迎えた11月2日の第4戦は西武が松沼兄、巨人が江川とシリーズ開幕投手同士が中3日で再び顔を合わせた。巨人は初回に3番・原が先制2ラン。2回裏にも7番・山倉の1号ソロで追加点を挙げ、3-0とリードした。このリードを背に江川は今度こそ、と思われたがアクシデントに見舞われていた。初回の投球中に右足を痛め、テーピングをしての続投。2回まではゼロに抑えたが、3回表に先頭の石毛に二塁打を打たれ、一死後にスティーブにタイムリーを浴びてまず1点を返された。

 5回表にも2安打で二死2・3塁のピンチを招くと、4番・田淵に同点の2点タイムリーを許した。さらに大田、テリーにも連打されたが、ここでホームを突いた田淵はタッチアウト。6回まで10安打されながらも3点に抑えた江川に6回裏、二死1塁で打席が回った。この年、3ホーマー・13打点・打率.286と野手顔負けの打撃成績を残した江川は不甲斐ない投球の借りを返そうと必死のスイング。打球は右中間を破り、一走の鈴木康が一気にホームインして巨人が1点の勝越し。しかしこの時の走塁でさらに足を悪化させた江川は代走と交代した。

 7回からの巨人は鹿取、加藤と繋いで逃げ切りを図ったが、3番手の加藤が8回表に掴まった。先頭の代打・片平を四球で歩かせ、一死後立花に逆転2ランを浴びた。西武はさらに攻撃の手を緩めず、田淵の二塁打と大田のタイムリーで1点を追加、6-4とした。西武は9回にも巨人の4番手・定岡から山崎がソロ本塁打して駄目押し。投げては2回途中からロングリリーフの松沼弟が6回1失点と好投。前日打たれた森も8回から2イニングを無失点に抑えた。7-4で勝利した西武は2勝2敗と再び5分の星に戻した。

11月2日・第4戦
西武 0 0 1 0 2 0 0 3 1   7
巨人 2 1 0 0 0 1 0 0 0   4

勝ち 松沼弟 1勝   セーブ 森 1セーブ   負け 加藤 1勝1敗

本塁打 原2号、山倉1号、立花1号、山崎1号


 続く3日の第5戦は西武が高橋、巨人が西本の先発で始まった。日本シリーズで81年から3戦3完投勝利と波に乗る西本を倒さずして日本一なし、西武打線は打倒・西本に燃えて立ち向かった。この日も3回までは1安打無得点の西武だったが、やはりこの男が打った。4回表先頭の4番・田淵はそれまで苦しめられてきた内角シュートを綺麗に振り抜いた。打球はレフトポール直撃の先制ホームランとなり、西本の無失点記録は29イニングでストップした。この一打に動揺したか、西本は続く大田、テリーに連打を許し続く山崎のピッチャーゴロを二塁に悪送球してさらに1点を失った。2点を先行した西武だったが、この後に伊東が四球で迎えた無死満塁のチャンスに後続が凡退してさらなる追加点を奪えなかったのが後々効いてくる事となる。

 西武の先発・高橋は5回まで1安打1四球とほぼ完璧なピッチング。6回裏に一死から2個目の四球を許すと2番手・永射にマウンドを譲った。永射は後続を断って西武は6回裏も無失点で切り抜けた。7回裏、西武は2点リードを背に満を持して東尾をマウンドに送った。しかし第3戦で5回1/3を投げて中1日の疲れが残っていたか球の切れを欠いた。先頭の原にいきなりレフトスタンドに叩き込まれ、一死後には中畑に右中間三塁打された。続く7番・クルーズに三塁線を破られ、あっさり同点とされてしまった。

 西本も5回以降は得点を許さず、4番・田淵もショートゴロとレフトフライに打ち取っていた。2-2の同点で試合は9回裏に入った。8回から登板していた西武の4番手・森は簡単にツーアウトを取った。しかし第3戦に続き、この場面からドラマは始まった。5番・スミスがしぶとく四球で歩くと西武バッテリーの隙を突いて二盗。シーズン2盗塁のスミスに走られ西武サイドに動揺が走る。ここで6番・中畑を歩かせ7番・クルーズと勝負に出るが、第3戦でホームラン、前の打席では同点打と乗っているクルーズのバットが一閃すると打球はレフトスタンド上段に飛び込むサヨナラ3ランとなった。巨人はシリーズ2度目のサヨナラ劇で3勝2敗と日本一に王手を掛けた。

11月3日・第5戦
西武 0 0 0 2 0 0 0 0 0   2
巨人 0 0 0 0 0 0 2 0 3x   5

勝ち 西本 2勝   負け 森 1敗1セーブ

本塁打 田淵2号、原3号、クルーズ2号


 第6戦は再び西武球場に場所を移して11月5日に行われた。先発は巨人が槙原、西武が杉本。この試合に勝てば優勝の巨人は初回に河埜が四球、篠塚がセンター前ヒットで掴んだ一死1・2塁の場面で、4番・原のタイムリーで1点を先行。先発の槙原も4回まで2安打1四球と無難な投球で西武打線をゼロに抑えた。しかし西武は5回裏、二死2塁から1番・石毛がレフトオーバーの三塁打を放ち同点とした。さらに6回裏にはツーアウトランナーなしから5番・大田がレフトへソロ本塁打して2-1と逆転、1点をリードした。

 初回に2安打で1点を失った西武・杉本は2回から素晴らしい投球を見せた。8回までの7イニングで打者22人に対して許した走者は5回表にショート内野安打で出た山倉ただ一人のみ。巨人は反撃の糸口も掴めずズルズルと9回表を迎える事となった。9回の巨人は一死から3番・篠塚、4番・原が連続四球。ここで本来なら東尾か森の投入であろうが、共に前日打たれている事もあってか西武ベンチは動かない。杉本は5番・スミスをレフトフライに打ち取ったが、6番・中畑に右中間を破られた。二塁走者・篠塚に続き、一塁から原もホームイン。またも9回ツーアウトからの逆転劇で巨人が3-2と試合を引っくり返し、さらにはシリーズ制覇を目前に引き寄せた。

 9回裏の巨人のマウンドに登ったのは何と西本。第5戦で完投勝利を挙げたばかりの西本の気力に藤田監督は賭けたのだ。西本は先頭の6番・テリーをセンターフライに打ち取り、日本一まであと二人とした。打順は7番以降の下位に向かうが、西武はここからしぶとさを発揮した。7番・山崎がレフト前、8番・伊東の代打・片平がライト前にヒットを放ち1・2塁。さらに9番・杉本の代打・鈴木葉もライト前ヒットを放ち一死満塁。西本は一打逆転サヨナラのピンチを迎えた。ここで1番・石毛は三遊間へゴロを転がし、ショート・石渡が捕球するもどこへも投げられず内野安打でついに同点。やはり完投明けの西本に普段の球威はなかった。

 さらに満塁の場面が続いたが、西本は2番・西岡をショートゴロ、3番・スティーブをセンターフライに打ち取り、何とか1点でしのいだ。西武は10回表から第4戦で6回を自責点ゼロのロングリリーフで勝利投手になっている松沼弟をマウンドに送った。松沼は二死2・3塁のピンチで3番・篠塚を迎えるが、広岡監督はすかさず左キラーの永射を投入。永射は期待に応えて篠塚を三振に仕留めてピンチを脱した。
 10回の攻撃で西本に代打を送った藤田監督はその裏、「投手・江川」をコールした。西本に続き第4戦で足を痛めた江川の投入に、王手を賭けて勝ちを急いだ藤田監督の焦りも垣間見られる。

 江川は先頭の行沢を三振に取るが、続く5番・大田、6番・テリーに連打されサヨナラのピンチ。7番・山崎には渾身の速球で見逃し三振に取り、ツーアウト。しかしここで登場した代打・金森は前進守備のレフト頭上を越えるサヨナラ打。二転三転の末、西武がサヨナラ勝ちでシリーズは3勝3敗のタイとなった。東尾・森を温存できた西武に対し、西本・江川の両輪までつぎ込んでの敗戦は巨人に重くのしかかった。

11月5日・第6戦
巨人 1 0 0 0 0 0 0 0 2 0   3
西武 0 0 0 0 1 1 0 0 1 1x   4

勝ち 永射 1勝   負け 江川 2敗

本塁打 大田1号


 雨で1日置いての7日の第7戦。逆転劇やサヨナラ打の相次いだ激闘もついに最終戦を迎える事となった。先発は巨人が西本、西武が松沼兄。西本は先発では中3日だが、前日の試合で救援登板しており3連投であった。西本が疲れている事は分かっていた。しかし藤田監督は最早この西本にチームの命運を託すしかなかったのだ。
 試合は3回表に巨人が8番・山倉のホームランで先制。「意外性の男」と言われた山倉の面目躍如の一発であった。巨人は5回表にもその山倉がショートゴロエラーで出塁。バントと内野ゴロで三塁に進むと、続く河埜のピッチャーゴロを松沼兄が一塁へ悪送球して2点目が入った。

 疲労を気にする周囲の心配をよそに西本はこの日も好投。6回まで3安打無四球無失点と見事なピッチングを見せた。6回が終わって2-0で巨人がリード。巨人の日本一、そして19年ぶりとなる西本のシリーズ3勝の快挙まであと3イニングとなった。だが試合はすんなりとは終わらなかった。
 7回裏の西武の攻撃で西本の投球は急変する。実は直前の7回表の攻撃で巨人はチャンスを逃していた。西本が自らのヒットで口火を切ると相手のエラーもあって二死2・3塁として打席には3番・篠塚。レフト線への打球が惜しくもファウルとなった後、投手・東尾は結局篠塚を歩かせ満塁で4番・原と勝負。1本出れば試合が決まるというこの場面で原は東尾の決め球である外角スライダーに空振り三振。西本は塁上に立ちっ放しの上、追加点も入らないという巨人サイドには最悪の結果であった。

 そうして始まった7回裏、西武は先頭の3番・スティーブがセンター前ヒット。4番・田淵が四球で歩き1・2塁。ここまで無四球の西本がこの試合初めて許した四球だった。ここで5番・大田の打球は西本の正面へ。しかし西本がこの打球を捕り切れず、投手強襲内野安打となって無死満塁。記録はヒットは言え、名手と言われた西本に捕れない打球ではなかった。無死満塁で打順は6番・テリー。外角シュートを捉えたテリーの打球は左中間を痛烈に破った。一人、二人、そして一塁走者の大田もホームイン。テリーの一振りで西武は3-2と大逆転。西本は後続にも安打されたが、西武の盗塁死などに助けられ追加点は阻んだ。

 1点をリードして東尾はさらに気合が乗った。8回表は中畑にヒットを許したものの無得点。そして9回はワンナウトから松本を四球で歩かせるが、代打・山本をセカンドゴロに打ち取りツーアウト。二死2塁と一打同点の状況ではあったが、東尾は悠然としていた。3番・篠塚はボテボテのセカンドゴロ。山崎が軽くさばいて一塁に送球してゲームセット。「巨人を倒してこそ真の日本一」と言い続けた西武・広岡監督が宙に舞い、西武ライオンズはシリーズ2連覇を成し遂げた。西武は翌84年こそペナントを逃すものの、85年から10年間で9度リーグ制覇という黄金時代に突入する事となる。

 シリーズの最優秀選手には24打数10安打で打率.429の大田卓司(西武)が選ばれた。優秀選手には2ホーマー6打点の田淵幸一(西武)、最終戦で決勝二塁打のテリー(西武)、第3戦でサヨナラ打の中畑清(巨人)が、そして敢闘賞には4試合に登板して2勝した西本聖(巨人)が選ばれた。

11月7日・第7戦
巨人 0 0 1 0 1 0 0 0 0   2
西武 0 0 0 0 0 0 3 0   3

勝ち 東尾 1勝1敗1セーブ   負け 西本 2勝1敗

本塁打 山倉2号

(この項完)


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