ちょっとしたコラム      
               
04.8.21付


夏の甲子園大会記念特別編
黄金左腕・工藤公康(名古屋電気)、三振の山築く

 1981年夏の甲子園大会。愛知・名古屋電気高校(以後、名電)の工藤公康という一人のサウスポーが話題を集めた。バッタバッタと築く三振の山。ストレートは速く、カーブは高校生離れした大きな変化を見せた。

 組み合わせ抽選の結果、初戦は2回戦の長崎西高戦となった。甲子園デビューとなったこの試合で工藤はいきなり大記録を達成する。打者28人に対して四球1つを与えたのみ、実に毎回の16三振を奪ってノーヒットノーランを達成したのだ。その四球も初回の先頭打者に与えたもので、3回にも自らのエラーで2人目の走者を許したが盗塁失敗があり結局3人で攻撃終了。以後は一人の走者も許さずに投げ切った。投球数は102球、外野に飛んだのは4回のライトフライ1つのみと完璧なピッチングだった。ノーヒットノーランは73年有田二三男(北陽)以来、夏の大会8年ぶり19人目の大記録だったが金属バット時代では初の快挙だった。

 打線も2回に8番・寺島のセンター前タイムリーで先制すると、5回には4番・山本(のち巨人)の左越え本塁打で加点。9回にも下位打線の連打で2点を加え7安打ながら小刻みに4得点を奪い工藤を援護した。名電は快勝で3回戦に進出した。

<8月13日・2回戦>
名古屋電気 0 1 0 0 0 1 0 0 2   4
長崎西 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

 

<長崎西の打撃内容>
      1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回
1 江頭 四球   投ゴ     三振     三振
2 吉岡 投犠     右飛     遊ゴ    
3 野下 三振     三振     二ゴ    
4 三振     三ゴ     三振    
5 松尾哲   三振     三振     三飛  
6 小阪   一飛     三ゴ     遊飛  
7 田中恒   三振     三振     三振  
  打左 松尾悟                  
8 渡辺     三振            
  園田           三振      
  寺岡                 三振
9 別宮     投ゴ失     三振     三振

 3回戦は大阪・北陽高との対戦となった。工藤は初回からリリーフに立った高木宣広(のち広島)と息詰まる投げ合いを演じた。名電は初回に4番・山本の中前タイムリーで1点を先行。6回まで二塁すら踏めなかった北陽は7回に初めてノーアウトの走者を出す。2番・西田が送った一死二塁から3番・下村の打球はセンター前へ。二塁走者は三塁ストップの構えだったが、名電のセンター・寺島はバックホームを焦って本塁に大悪投。この間にランナーが返り、北陽は1-1の同点に追い付いた。

 工藤はその後立ち直り、9回まで長崎西高戦と同じ16奪三振。しかし初回の先制直後に登板した北陽の2番手・高木を崩せない。2回を除いて毎回ランナーを出したがホームは遠かった。9回裏には二死1・2塁から2番・高橋雅裕(のち大洋)がセンター前ヒット、サヨナラかと思われたが北陽のセンター・初岡が見事な返球で二塁走者の中井を本塁寸前でアウトにした。試合は延長戦に突入した。

 工藤の投球は延長に入っても勢いを失う事はなく、10回二死から5連続三振を奪った。そして延長12回裏に1番・中村稔(のち日本ハム)のサヨナラ本塁打が飛び出し、ついに名電は勝利を収めベスト8に進出した。工藤は12回を4安打無四球で投げ抜き、奪三振は5回を除く毎回の21個を数えた。

<8月16日・3回戦>
北陽 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0   1
名古屋電気 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1x   2x

 

<北陽の打撃内容>
      1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回 10回 11回 12回
1 初岡 二ゴ     一ゴ     右安   右ゴ     三振
2 西田 三振     三振     一犠   三振     投ゴ
3 下村 左安     三振     中安     左安   一飛
4 西山   三振     二ゴ   三振     投ゴ    
5 西本   三振     二ゴ   投ゴ     投犠    
6 山口   三振     二失     三振   三振    
  小林                        
7 近藤     二ゴ     三振   三振     三振  
8 吉岡                        
  高木     三振     三ゴ   三振     三振  
9 梅田     三振     三振     三振   三振  

 準々決勝の相手は香川・志度商。2試合で37奪三振の工藤はこの日も見事な投球を見せた。2回にシングルヒット2本を打たれたが、許したヒットはこの回の2本だけ。打っても5回にライトラッキーゾーンに飛び込む先制本塁打を放った。志度商のエース・白井の前に8回まで散発3安打と苦戦した名電だったが、9回にようやく二死満塁のチャンスを作る。ここで6番・佐藤がライト線にツーベースを放ち二者を迎え入れ待望の追加点を挙げた。工藤はその裏を簡単に三人で抑え、2安打12奪三振で2度目の完封勝利をマークした。名電は準決勝に勝ち進んだ。3試合を終えて工藤は30イニングで被安打6、奪三振49で三振奪取率14.7個。失点1、自責点0で防御率0.00を誇っていた。まさに超高校級のピッチング、工藤擁する名電は優勝にまた一歩近付いたように思われた。

<8月19日・準々決勝>
名古屋電気 0 0 0 0 1 0 0 0 2   3
志度商 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

 

<志度商の打撃内容>
      1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回
1 中野 三振   投ゴ     四球     二ゴ
2 斉藤 二ゴ   三振     三振     遊ゴ
3 原田 三振     中飛     三振    
4 白井   中安   二ゴ     投飛    
5 市岡   三振   一ゴ     三ゴ    
6 後藤   三振     二ゴ     三振  
7 西丸   中安     遊飛     三振  
8 植村   三振     三振        
  橋本               投ゴ  
9 竹内     死球            
  野崎           三振      
  瀬尾                 投ゴ

 しかし名電の前に立ちはだかった相手がいた。投打の大黒柱・金村義明のいる兵庫・報徳学園である。準決勝を迎え、大会初の連投となる工藤の体は試合前から重かった。3試合で被安打6の工藤が毎回先頭打者に安打を許す不安な立ち上がり。それでも後続を断って3回までは無得点に抑えたが、4回表はまたも先頭打者にヒットを打たれた。それも大会に入っての初長打となる三塁打を喫した。ノーアウト三塁。続く4番・金村は打ち取ったものの、5番・西原を歩かせた後に6番・岡部にタイムリーを打たれて先取点を許した。名電にとってこの大会初めて相手にリードを許す展開となった。

 工藤は立ち直りの兆しが見えず続く5回も3番・石田のタイムリーで2点目を奪われ、さらに金村にも3連打となるヒットを打たれて一死満塁のピンチを迎えた。既に被安打は9本、1イニング4安打・3連打とも大会に入って初めての事であった。工藤が本調子でないのは最早誰の目にも明らかであった。しかし、このピンチで工藤は5番・西原を三振、6番・岡部をレフトフライに打ち取り、それ以上の追加点は阻んだ。
 このエースの粘りに打線が応えた。2点を追う名電はその裏3番・吉岡の二塁内野安打で1点を返し、1−2とした。1点差、試合の行方はまだわからない。

 7回表、1番から始まる好打順の報徳は先頭の高原がレフト前ヒットで出塁した。実に初回から7イニング連続で先頭打者がヒットでの出塁。じわじわと工藤は報徳打線の圧力に押されていた。2番・大谷がバントで二塁に送ったが、3番・石田は三振。ツーアウト二塁で打席には強打の4番・金村。敬遠か勝負か−。
 バッテリーの出した答えは勝負、そして金村の打球はセンター頭上を越える大二塁打となって決定的な3点目が入った。

 結局、報徳学園の投打の軸である金村の前に名電は1点に抑えられ、1−3で敗れ涙を飲んだ。工藤は4試合、39イニングを一人で投げ抜き56三振を奪った。56奪三振は大会記録の83個には及ばなかったものの、98年に古岡基紀(京都成章)に更新されるまで金属バット時代最多記録として残った。

<8月20日・準決勝>
報徳学園 0 0 0 1 1 0 1 0 0   3
名古屋電気 0 0 0 0 1 0 0 0 0   1

 

<報徳学園の打撃内容>
      1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回
1 高原 三安   三振   一犠   左安   捕邪飛
2 大谷 投犠   三ゴ   左安   投犠   二ゴ
3 右捕 石田 三振     右3 中安   三振    
4 金村   左安   中飛 左安   中2    
5 西原   一犠   四球 三振   三振    
6 岡部   三ゴ   左安 左飛     一飛  
7 松本   中飛              
  打右 若狭       三振   右安   捕ゴ  
8 野崎     中安 三振   投ゴ併   一ゴ  
9 東郷     一犠   右安 一ゴ     二ゴ

 

<工藤公康の投球内容>
  打者 球数 安打 三振 四死 失点 自責
8/13長崎西○4-0 9 28 102 0 16 1 0 0
8/16北陽○2x-1 12 39 149 4 21 0 1 0
8/19志度商○3-0 9 29 113 2 12 2 0 0
8/20報徳学園●1-3 9 38 113 12 7 1 3 3
合計 39 135 477 20 56 4 4 3

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