ちょっとしたコラム      
               
 04.8.7付


夏の甲子園大会記念特別編
1年生エース荒木大輔(早実)の輝ける夏

 1980年夏の甲子園に一人のピッチャーがやって来た。高校入学からまだ4ヶ月余りの荒木大輔(早稲田実業)は当時16歳3ヶ月。しかし背番号11ながらチームのエースとして大活躍を見せ、その名を全国に轟かせる大輔フィーバーを巻き起こしたのだ。

 8月11日、大会4日目の第1試合。1回戦の北陽高(大阪)相手に先発するとヒットわずか1本の完封勝利を収めて鮮やかに全国大会デビュー戦を飾った。それでも4四球を許したあたり、初戦の緊張感はあったのかもしれない。早実打線も初回に2番・高橋のソロホームラン、4回には4番・小山の3ランホームランと序盤から長打攻勢で荒木を援護。さらに5回には3番・栗林のタイムリー、9回にも高橋のスクイズと効果的に加点して6−0の完勝だった。
 荒木が6回の先頭打者に許した1安打は三塁内野安打であり、外野に飛んだのも5回に淵田の打ったセンターフライただ1つであった。

<8月11日・1回戦>
早稲田実 1 0 3 0 1 0 0 0 1   6
北   陽 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

 

 8月16日、続く2回戦は東宇治高(京都)の対戦。またも荒木の右腕が冴え、9−0とワンサイドの展開となった。完封目前だったが8回1/3で降板し、2年生の芳賀にマウンドを譲った。降板までの内容は3安打4奪三振1四死球の無失点であった。打線も引き続き好調で初回に3番・栗林の三塁打などで2点を先行すると、3回には小山のタイムリー三塁打で加点。4回から7回までは立ち直った東宇治のエース・山本に1安打に抑えられたが、8回に打者一巡の猛攻で5点を挙げて試合を決めた。

<8月16日・2回戦>
早稲田実 2 0 1 0 0 0 0 5 1   9
東宇治 0 0 0 0 0 0 0 0 1   1

 

 中1日で3回戦は札幌商(南北海道)と対戦し、2−0で2度目の完封勝利。荒木は投球数99球、散発4安打10奪三振の見事な投球で2度目の完封勝利。四死球も1個と制球も安定し、1回戦から26回1/3無失点となった。この試合は相手投手も好投して7回まで0−0だったが、早実は8回表に7番・播磨のタイムリー三塁打で待望の先取点。9回表にも3番・栗林のタイムリーで追加点を挙げた。粘り強く打線の援護を待った荒木に勝利の女神は微笑み、早実はベスト8に進出した。

<8月18日・3回戦>
早稲田実 0 0 0 0 0 0 0 1 1   2
札幌商 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

 

 準々決勝は一転して南の興南高(沖縄)と当たる。2試合で21得点と好調の興南打線に対しても3−0、またも完封勝利で退けた。早実は初回に3番・栗林の犠牲フライで先行すると、2回には相手守備の乱れから追加点。さらに8回表には1番・荒木達が駄目押しのタイムリーで1点を加えた。荒木の内容は3安打9奪三振。3試合続けて四死球は1個と引き続き安定した投球が続いていた。この試合でも98球と2試合連続100球未満で完投していた。
 荒木が全く点を許していない事が話題になり始めた。ここまで4試合で3完封を含む35回1/3無失点である。

<8月19日・準々決勝>
早稲田実 1 1 0 0 0 0 0 1 0   3
興   南 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

 

 ベスト4に進出した早実は準決勝で瀬田工業(滋賀)と対戦した。準々決勝で浜松商から20点を奪った猛打の瀬田工打線も荒木の前には沈黙した。早実は初回に5番・佐藤のタイムリーで先行すると、2回には2番・高橋の2点タイムリー二塁打、さらに続く3番・栗林の2ランで一挙に4点を挙げて主導権を握った。5回にも佐藤の2ランなどで8−0として試合は一方的になった。快勝で瀬田工を下した早稲田実業はついに決勝戦に進出した。荒木は7安打を許したが、要所を締めて2試合連続完封勝利。大会に入って44回1/3を投げてまだ1点も許さない快投が続いていた。

<8月21日・準決勝>
早稲田実 1 4 0 0 3 0 0 0 0   8
瀬田工 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

 

 決勝は神奈川代表の横浜高校との対戦となった。横浜は超高校級と言われた左腕・愛甲猛を擁してここまで勝ち上がっていた。1回戦で高松商を8−1、2回戦で江戸川学園を9−0と圧倒。その後は3回戦で鳴門高を1−0、準々決勝で箕島高を3−2、準決勝で天理を3−1と接戦をものにしての決勝進出だった。愛甲は42回2/3を投げて37奪三振、自責点わずかに3点で防御率0.63だった。

 防御率0.00の荒木と0.63の愛甲による投手戦が予想されたが、試合は意外な展開を見せた。早実は1回に早くも1番・荒木達と2番・高橋の連打でチャンスを掴み、3番・栗林が手堅く送った後に4番・小山のスクイズで1点を先行した。
 これに対し、1回裏の横浜も一死から2番・足立、3番・愛甲、4番・片平と3連打であっさり同点に追い付いた。荒木の連続無失点は止まり、大会初失点を記録した。これに動揺したか、荒木はボークを犯してこの回さらに1点を失い逆転された。

 横浜は2回裏にエラー絡みで1点、3回裏にも相手のエラーと足立のタイムリーで2点を追加して5−1とリードを広げた。4回表の早実は小沢、荒木達のタイムリーで2点を返したが、その裏のマウンドに荒木の姿はなく、背番号1の芳賀が2回戦以来の登板となった。この回からレフトに回った荒木が再びマウンドに戻る事はなかった。
 試合はその後両チームが1点ずつを取り合ったが、6−4で横浜が逃げ切った。横浜のエース・愛甲は5回4失点と不調だったが、2番手の川戸が6回以降を無失点に抑えて早実の反撃を断った。荒木は敗戦投手となったが、大会を通じた活躍ぶりは見事で、これ以降も常にマスコミとファンの注目を浴びながらの高校野球生活が続く事になる。

<8月22日・決勝>
早稲田実 1 0 0 2 1 0 0 0 0   4
横浜 2 1 2 0 0 1 0 0   6

 

 その後の荒木大輔は3年夏まで5季連続甲子園に出場を果たしたが、この1年夏の準優勝という結果を越えることは出来なかった。それでも甲子園通算12勝でうち半分の6試合で完封勝利を記録した。甲子園最後のマウンドは3年夏の徳島・池田高校戦。池田時代の到来を告げる“やまびこ打線”の猛打に沈んだ荒木は水野に本塁打を許すなど17安打を浴び、10点を失った。3年にわたり甲子園を沸かせたヒーローらしい散り様だった。

<1980年夏の甲子園・荒木大輔の成績>
      投球回 安打 三振 四死球 失点 自責点
1回戦 北陽○6−0 完封 9 1 4 4 0 0
2回戦 東宇治○9−1   8・1/3 3 4 1 0 0
3回戦 札幌商○2−0 完封 9 4 10 1 0 0
準々決勝 興南○3−0 完封 9 3 9 1 0 0
準決勝 瀬田工○8−0 完封 9 7 6 2 0 0
決勝 横浜●4−6   3 7 1 3 5 3
      47・1/3 25 34 12 5 3

BACKNEXT