Ex-diary 春来りなば6

Extra diary

小ネタ置場。

破壊王子。輪っかベジたん。ちょっとした連載小説から日記での小ネタログ、その他分類不能な文章置き場です。連載小説はカカベジ/くだらないギャグ系中心。飽きたorくだらなすぎて耐えられなくなったらさっさと辞めてしまうであろう、極めていい加減企画です、ご了承ください(゚Д゚;)ハアハア

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春来りなば 待ち人遠からじ [6]

2010/05/05

ブウ編後のカカベジ。空気読めない男x血圧高い乙女。


「おめえ、今日はこんなに良い天気なのになんで窓開けねえんだ?」
勿体無え、と口にしながらカカロットが窓を開けると(鍵の位置が分からず少しの間手間取っていたが、オレが僅かに視線を動かした事に気が付くと、奴は見事に探り当てた)途端に室内は、遮断されていた外の喧騒と外気に再び満たされる。
肌に温かく感じる風は甘い匂いを含んでいる。これは…そうだ、地球の花と緑の匂い。カプセルコーポレーションの前に面した沿道脇に咲く、黄色い花の匂い。芽吹く街路樹の新芽の匂い。それから……。
「な、寒くねえだろ?」
にこりと笑う奴の顔を見ながら、オレは自然にうなずいていた。先ほどまでの苛立ちが嘘のように引いていく。鼻先に感じるのは花の匂い、緑の匂い。それから……春のひなたの匂い。風と共に運ばれてくる地球人達の声も、春の陽気に誘われてどこか嬉しそうだ。
ぽかぽかと温もった春風が肌に心地良い。先ほどトランクスに窓を閉めさせたのは、この風がひどく腹立たしく憂鬱に感じられたからだ。けれど今は温かい風に包まれる事がとても心地良く、そして胸が高鳴るような不思議な安堵を感じる。


「んじゃ、食おうぜ」
ベッドに腰掛けていたオレの隣りに、奴もどかりと腰を下ろすと、スプリングがギシギシ盛大な音を立てた。……コイツ、オレ様のベッドに座りやがった……。デカイ図体のカカロットが、肩が触れ合う程近くに座ると邪魔な事この上無いはずなのだが、なぜかオレは奴をベッドから蹴り落としてやろうという気にはならなかった。
ちゃっかり自分の好みで選んだバニラアイスの蓋を、カカロットが鼻歌を歌いながら開ける。
「ベジータ、おめえにこれやるよ」
「?何だ?」
奴が射しだしたもの。それは『アイスクリームカップの蓋』だった。
「蓋の裏についてるアイス舐めるんだ、旨えぞ」
隣りに座るオレは奴の横顔を見ながら、ふとある事に気が付いた。鼻先に感じる甘ったるいアイスの匂い。それからカカロットの匂い。
「!!な、なんだと?!誇り高きサイヤ人の王子であるこのオレが、そんな下品なマネをすると思うか!」
「まあそう言うなって、一度試してみろよ。普通に食うより旨えぞ」
下らん事を勧めるカカロットに(…本当はオレも蓋の裏についたアイスを舐めるのは本体以上に好きなんだがな…)オレが腹を立てても奴は気にする様子もなく、そのまま蓋をオレに押し付ける。蓋の裏にこびりついたアイスが、少し溶けかかった部分をペロリと舐めてから。なぜかそれを目にした途端オレの心臓がどきりと跳ねて、喉まで出かかっていた罵声が引っ込んでしまった。言われるままに、素直に蓋の裏を舐める。舌先に感じる甘い味。
――隣りに座る奴の横顔を見ながら、オレはふとある事に気が付いた。カカロットからは、窓から吹き込む春の風と同じ匂いがする。
花の匂い。緑の匂い。それから春のひなたの匂い。コイツは地球の山奥住まいだから木の匂いでも移ったんだろうか。包まれる事がとても心地良く、そして胸が高鳴るような不思議な安堵を感じる「外の匂い」がする。
「ほれベジータ、『あーん』しろ」
蓋の裏を舐めていたオレにカカロットが一匙すくったアイスを示すと、オレは今度は素直に口を開けていた。


「さっさと次を寄こせ」
「ああ分かってるって。そんなに急かすなよ」
カカロットがせっせとオレの口にアイスを運ぶ。ああ旨い。最高だ。天気が良い。風かぽかぽかと気持ちいい。アイスは旨いし。緑と花の匂いがする。眠気を誘うような心地良さに、うっとりと目を閉じる。
「…おめえ、どうかしたんか?」
「……っ!!!!!!!」
怪訝そうなカカロットの声に、オレははっとして目を開けた。気が付くとオレはカカロットの肩に頬を押し付けて、奴にもたれかかっていたーーー。
~~~~~~っ!!!!!なっなななな、何だ!!!!オレはなんという事を……!!!
「なんだベジータ、眠くなっちまったのか?」
可笑しそうに笑う奴の声に、かあっと顔が赤くなる。
「ちっ違う!これはだな!その、なんだ……」
うろたえて必死に言い訳を考えながらその場を取り繕おうとするオレを見て、カカロットがまた可笑しそうに肩をゆする。
「おめえってホント、面白えやつだよなあ。見てて飽きねえや」


「何だと?!キサマ、誰に向かってそんな口の効き方をしやが……」
一瞬バカにされたと感じたオレは再び奴に噛みつこうとして、出来なかった。オレの言葉は最後まで続かなかった。アイス付いてるぞ、という言葉と共に、カカロットの親指で唇の端を拭われる。固い指の腹で唇を撫でられる感触に、情けない事にオレの体はびくり、と震えてしまった。
「……ベジータ……」
そんなオレの反応を見ながら、カカロットがオレの名を呼ぶ。気のせいか……その声は普段の奴に比べて幾分低く、擦れて聞こえる……
奴の大きな掌に顎を掴まれる。拒む事を許さない強い力で強引に顔を上げさせらると、目の前に奴の顔が見えた。緑色に光る双眸。先ほどまでの呑気な表情は嘘のように影をひそめ、相手を射すくめるような鋭い視線を前に動けなくなる。

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