Ex-diary 春来りなば18

Extra diary

小ネタ置場。

破壊王子。輪っかベジたん。ちょっとした連載小説から日記での小ネタログ、その他分類不能な文章置き場です。連載小説はカカベジ/くだらないギャグ系中心。飽きたorくだらなすぎて耐えられなくなったらさっさと辞めてしまうであろう、極めていい加減企画です、ご了承ください(゚Д゚;)ハアハア

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春来りなば 待ち人遠からじ [18]最終話

2010/08/19

ブウ編後のカカベジ。空気読めない男x血圧高い乙女。



「おめえひょっとしてショックだったか?」
「だっ、誰がだ!!」
罪の無い顔をして痛いところをついてくる奴に負けまいと、オレはカカロットの顔を力いっぱい睨みつける。たとえソワソワと揺れるオレの膝の動きが、奴にすっかり気付かれているとしてもだ。
「寝込んじまうほどショックだったんか、悪ぃ悪ぃ」
『悪い』と言いながら、手にしたTシャツを頭にかぶるカカロットの声色はやけに明るい。こっ、こいつ…!どうやってぶっ殺してやろうか!?オレが今度こそコイツをぶちのめしてやろうと拳を握りしめて立ちあがりかけた時、Tシャツの襟ぐりから、すぽん、と笑顔のカカロットが頭をだした。
「けどよベジータ、おめえちょっと間違ってるぞ」
「何だと?!」
「オラは、『おめえと修行すんの飽きちまった』って言ったんだけどな」
「そ、それがどうした!どっちだっていっしょだろうが!」
立ち上がりかけたところを制されて、思わずつんのめりそうになりながらも、今度はTシャツに腕を通すカカロットをもう一度睨みつける。



「なあベジータ」「何だ!!」
先程、カカロットが開け放ったままになっていた窓から、吹き込んできた風が頬に触れる。
「おめえ『四月バカ』って知らねえの?」
「誰がバカだ、バカはキサマだろうが!ワケの分からん事をぬかすな!!」
「あちゃあ、やっぱり知らねえのか。おめえ地球に来て随分立つのに、まだ知らねえ事が多いんだな」
慰撫するような春の風の感触を肌に直に感じて、寄せられていたオレの眉の力が少しだけ抜ける。
「……何の事だ」
「『四月バカ』ってのはさ、四月一日、一年でその日だけは嘘をついても良い日なんだ」
もちろん他の日は嘘なんかついちゃ絶対いけねえんだけどな。シャツの裾をズボンに押し込みながら喋る奴の姿を、オレは少しの間ぼんやりと眺めた。
「……じゃあ、何だ。あの時のキサマの言葉は『嘘』だったって事なのか」
「ああ、そうだ」
山吹色の上衣を手にしたカカロットが、にこりと笑う。


「オラ、飽きたりなんかしてねえぞ。おめえと修行すんの好きだもんな」
「………」
「なんだよその顔は、それじゃ不満か?じゃあ、おめえと修行すんの『愛してる』ぞ?」
事も無げに言ってみせるカカロットの言葉に、途端にオレの頬がかあっと熱くなった。
「!!!ばっバカヤロウ!!妙な言い方するんじゃねえ!!」
「ん?これって変なのか?けど本当に、オラおめえと修行すんのきらいじゃねえんだ」
……きらいじゃない、だと?……それだけか?
「おめえとならイロイロすんのも楽しいしな」
それにさ。全ての道着を身に付けて、ぎゅっと帯を引き絞ったカカロットが、オレの上に屈み込んでくる。
「こうするのも好きだぞ」
「………!!!」
奴の腕に手を引かれ、その胸にふわりと抱きしめられる。分厚い胸からは奴の鼓動が、そして押し付けた鼻先からは、若木と花の匂いがした。それが先程の人気の無い森でもつれ合った余韻なんだと思い知って、また顔が赤くなる。
「なあベジータ、おめえは?」
「………なんだ」
「おめえはオラといっしょに修行したり、こうしたりするの好きか?」
抱擁されて、真っ直ぐに覗きこまれる視線が決まり悪くて、オレは散々視線をうろうろとさまよわせる。
「………す…き、キライ…じゃねえ…」
「な、そうだろ?」
こいつと戦ったりののしりあったり。時に慣れ合ったり。そして時に体を重ねたり。そのどれもが好きでたまらなくて、思うほどにどう表現して良いか分からなくなる。今の自分の顔をカカロットに見られたくなくて、オレは奴の胸にぎゅっと顔を押し付けた。



「じゃあオラそろそろ帰るとすっか」
背を温めていたカカロットの腕がほどかれる事を惜しく思いながら、オレが伏せていた顔を上げる。いつの間にか開け放った窓から吹き込んできた花弁が、風にくるくると舞っていのに目を留めた時、カカロットがああ、と何かを思い出した顔をする。
「そうだ、ベジータ」
「何だ」
「オラ大事な事忘れちまうところだった。おめえに『薬』やるよ」
『トッコウヤク』ってやつだ。唐突な言葉にオレはいささか面食らう。
「薬だと?オレはそんなもの必要な…」
オレが全ての言葉を言い終わる前だった。カカロットの大きな手のひらに両頬を包まれ、強引に上を向かされる。そのまま強く引き寄せられ、気が付けば奴の顔がすぐ目の前に来ていて、甘い緑の匂いがあまりにも近すぎて、オレは思わず目を閉じて、そして……





CHU ♥



!!!!!!!!!!!
額に触れる、柔らかい感触。奴の唇の感触。
「こうすると病気がすぐ直るんだってさ。チチも悟飯にやってたもんな。ふぅっ、危ねえ危ねえ、オラ忘れて怒られちまうところだったぞ」
奴の言葉は半ば耳に入らないまま、オレの顔がこれ以上ならない程に赤くなる。『怒られる』って一体誰からだとか、先程までもっと濃密な行為を交わしていたというのに、額にキス一つでこれほど気恥かしくなるのも妙な話だとか、その時のオレにそんな事を考える余裕は無かった。
「きっきさまああああっ!!」「じゃあなベジータ」
未だ膝の上にわだかまっていたオレのシャツを、渾身の力で投げつける。けれどシャツが奴の顔面にヒットする直前、瞬間移動によってカカロットの姿はかき消えていた。ぱさりと音を立てて落ちるオレのシャツの先には、風に舞う花弁が一枚と、そして水色のビニール袋が一つ、ぽつりと残されていた。








「あら、ベジータ。目が覚めたのね、調子はどう?もうすっかり良さそうね」
「今からトレーニングに行ってくる」
「起きたと思ったらいきなりもうトレーニングってわけ?サイヤ人ってのは本当に回復が早いわね」
広大なリビングの真ん中あたり、ちょうど携帯電話での会話を終えたらしいブルマが、ソファの上で体を伸ばしながらオレを振り返った。
「それからコイツを冷凍庫にでも入れておけ」
手に携えていた水色のビニール袋を、テーブルの上にどさりと乗せる。
「ん?何よそれ」
「……アイスだ」
ビニール袋の中身を目にしたブルマの目がみるみる喜色に輝き、次にひどくがっかりしたものになった。
「ちょっと!これって『ホースラディッシュ』のアイスじゃないの?!しかもこんなにたくさん!あーん全部溶けちゃってるじゃない勿体無い!もう一度冷やしたら食べられるかしら、でもきっと味は落ちちゃうわよねえ」
惜しい、勿体無いを繰り返すブルマから視線を反らし、オレは早々にこの場を立ち去ろうとした。長居をすれば『こんなに沢山のアイスをどうしたんだ』などと、余計な詮索をされるに違いない。足早に立ち去ろうとするオレの顔を、地球一の科学者の視線が目ざとく捕える。
「……あんた、口の端に何か白いのついてるわ?」
「こっこれはアイスだからな!妙なモノなんか口にしてないからな!」
「何うろたえてるのよ、分かってるわよそんな事―――そんな事より、ねえ、ベジータ」
……けれど、大きな瞳でじっとオレを見るブルマの言葉は、オレの予想とは随分違っていた。
「どうだった?私の『薬』はすご~く良く効いたでしょう?」
「薬だと?オレはそんなもの受け取ってな…」




ママがね、後で『すっごく良く効くクスリを持ってきてあげるからね』だってさ。




昼間、トランクスがオレの部屋を出ていく際に残した言葉が耳にはっきりと甦る。
……昔から、ブルマとカカロットは実の姉弟のように仲が良かったらしい。唇をニヤッと笑ませ、理知的に輝く片目をつぶってみせるブルマの顔を見ながら、オレは背筋がゾクゾク寒くなる気がした。
窓の隙間から吹き込んでくる温もった風に、花弁がもう一枚舞いこんで、ひらひらと舞っている。コイツらに、この先どんな難題を吹っ掛けられるやら。寒気に思わず身を震わせながら、自分の両腕で体を抱く。外はもう、すっかり春だというのにな。







-END-

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