written by Keis

with the idea of Hiroki Maki



Conference dances



 ゼーレは東南アジアの大半の国々を占領した後、実に巧妙かつ狡猾な手を打った。

 世界に向けて、東南アジアにおけるアメリカ抜きの経済機構の設立を宣言したである。

 APECはアメリカの横槍で、大して機能していない。そこでアメリカを抜きにしてEUのように、通貨統合・国家統一を果たそうと言うわけである。

 人権問題について口出ししなければ中国だって入ってこれるし、商売相手としては、莫大な人口を抱えるインドがすぐ傍にある。

 各国の経済人はこぞってこれを歓迎した。そしてこれと同様に、占領された国々の国民はほぼ皆占領を歓迎していた。

 EVAを使った巧みな戦闘指揮によって市街地戦等の大きな戦闘は発生せず、彼らにあまり被害は生じていない。

 インドネシア、ブルネイ、バングラデシュ、マレーシアはイスラム教、ゼーレ、タイ、カンボジア、シンガポール、ベトナム、ミャンマーは仏教国だが、

 ゼーレはスリランカのように比較的各宗教の融和を目指したため、これまた被占領国民に受けがいい。

 そしてなにより大きいのは、発展途上国や最貧国が多い占領国の経済を、ドラッグマネーによって活性化させ、停滞していた経済が潤った事である。

 ゼーレにおけるクーデターと同様、人は衣食足りれば満足する所があり、軍政や金に汚い腐った政府に飽きた国民はこの変化を歓迎したのだった。





 実は、この頃になるとゼーレのトップメンバーの間でも意見の相違が出てきていた。

 最初は国を豊かにしよう、ということで皆が一致団結して事に当っていた。

 所謂先進諸国に介入される事無く自由を謳歌しよう、そのためには力が必要だ。

 そんなわけで彼らはEVAに目をつけ、東南アジア統合を目指したのである。

 それは上手くいった。

 が、それが余りにも上手く行き過ぎたのがいけなかった。

 金持ちであるほどもっと金が欲しいように、勝てば勝つほどより多くを望むのは人間の性なのか。

 欲が出てきた一部のものは更に領土を広げようとした。

 しかし、基本的に陸軍の発言力が強いこの国において、この先の相手は十億以上の民を誇る中国とインド、とてもすんなりと勝てる相手ではない。

 しかもどちらも核武装した国だ。

 穏健派はこれくらい大きな国でこれくらいの人口があればもう十分だといい、意見の対立は段々激しくなっていた。

 そして次第に穏健派の勢力は小さくなり、過激な意見がとおりやすくなっていったのである・・・











 一方、国際世論はかなり揉めていた。

 国際世論と一口に言っても、大抵は欧米の先進国メディアのことであり、正確に世界の傾向を示しているわけではないが・・・

 アメリカなどの大国は、あまり東南アジアの安定などには興味が無い。むしろ少々不安定になってくれて武器でも買ってくれたほうが、国内雇用が確保されて都合がいい。

 貧しい国と高価な兵器の組み合わせは、戦力として無意味なほどの小規模戦力しか購入できないことを意味し、将来的に彼らの頭痛の種になる心配は無いのだ。

 だが、BBCやCNNなどのメディア、NGO、グリーンピースのような環境団体などなどが、人権問題や環境保護などを声高に訴えた。

 そこで先進国も取り合えず、その尻馬に乗って人権問題を非難する声明などを発表しておいた。裏では、衛星や特殊部隊や高高度偵察機などによって情報を収集した。

 そんなことをしている間に、電撃的にゼーレはカンボジアに続きタイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、バングラデシュ、シンガポール、インドネシア、ブルネイ等を占領した。

 そして次にゼーレが打った手は、マラッカ海峡の封鎖であった。

 EVAを使わずとも既存の海軍戦力でできるこの行動は多大な反応を呼び起こした。

 北朝鮮との統一を果たした韓国、中国、日本などはマラッカ海峡経由の物資が無ければ国として立ち行かないといっても過言ではない。

 日本など、ブルネイを占領された時点で石油輸入量の10%を抑えられており、マラッカ海峡まで抑えられてはお手上げだった。

 ベトナムに権益のあるロシアも旧宗主国のフランスも、当然首を突っ込む。

 インドネシアを落とされて、旧宗主国のオランダも騒ぎ出す。

 バングラデシュを落とされて、旧宗主国のイギリスが絡んでくる。

 ブルネイと南沙諸島の問題も絡んで中国も口を出す。

 フィリピンに危険が迫り、アメリカが口を出す。アメリカは歴史的経緯からフィリピンを自国領土とする意識が強く、世界の警官としてのプライドもある。

 しかし、ゼーレは資金援助を見返りとして中央アジア、中東・ペルシャ湾岸のアラブ諸国、そして北アフリカの国々に不穏な動きを促した。

 具体的に言えば、シリアやイラクにイスラエルを、イランやタジク・キルギスタン等にロシアを、リビアにエジプトを襲わせ、アメリカの動きをけん制したのである。

 アメリカには前世紀末からの軍事力削減により、3正面作戦はもとより2正面作戦すら取れる戦力は存在しなかった。

 地中海及びペルシャ湾に空母を張り付かせれば、他の空母もそのバックアップに回したり、修理中だったりで、東南アジアに空母を回す余裕は無かった。

 もしくは事態に間に合う時間内に到着させることは不可能だった。

 フランスはド・ゴール級原子力空母を派遣し、これを中心にヨーロッパ各国が少しずつ戦力を出し合い共同艦隊を作り上げたが、連携が悪くゼーレ側の潜水艦に翻弄されていた。

 そして遂に国連軍派遣が安保理の議題として提出された。

 これと同時に、ゼーレの使者が各国に飛んだ。











 ニューヨーク、マンハッタン島の国連本部、そこで安全保障理事会が開催されていた。

「それでは、フランス代表によるゼーレへの動議の決を採ります。ゼーレ政府への非難動議に賛成票を投じる方々は、挙手をお願いします。」

 テーブルについていたほぼ全員が右手を上げた。ゼーレ大使のみが棄権した。

 続いてゼーレ政府への占領地域からの即時撤退決議案、停戦決議案、国連合同調査団の派遣が決議された。いずれもゼーレ大使のみが棄権した。

 最後にフランス代表が、肝心の問題を提案した。

「この決議を実効あるものとするために、ゼーレに対して対外資産の凍結、文化交流及び経済交流の停止と、域内製品のボイコットを提案したい。」

 ロシア、中国及びインド、オーストラリア、アフリカと南米諸国の大半、中近東や中央アジア諸国が棄権、場内がざわつく。否決されたのだ。

「決議を実行あるものとし、当地の平和状態を維持するために、近隣各国による速やかなる平和創設軍の派遣を要請したい。」

 再びロシア、中国及びインド、オーストラリア、アフリカと南米諸国の大半、中近東や中央アジア諸国が棄権、これも否決された。

 議長が閉会を宣言するが、ゼーレ代表の顔から笑みは消えなかった。











「どういうことだ!?」

 急遽、アメリカ代表の部屋で鳩首会談する米英仏独日の各代表。

「何故ロシア、中国とインドが?」

 この問にはアメリカ代表が暗い声で答えた。

「情報では、彼らには軍を出す気は毛頭ないらしい。それどころか基地提供まで拒んでいる。」

「何故?」

 それはこういうことだった。











 まず、ロシア。

 この国は、エリツィンが倒れた後、非常に不安定ながら革新派が主導するトロイカ体制を取ってきた。

 だが、台頭する旧共産党勢力、自由民主党などの極右勢力の影響力も無視しがたく、その政策決定は妥協に次ぐ妥協を迫られた。

 これは彼らを一層勇気付け、また身内とも言える資本主義経済によって私腹を肥やしたノーメンクラツーラとマフィア達の不満も広がった。

 ゼーレはそんな3勢力に接近、資金援助を与えロシア国内に擾乱を巻き起こした。

 これに加えて中央アジアやイラン、トルコ付近の旧ソ連邦構成国やイスラムゲリラ等にも同様の援助を与え、ロシアへの不満を爆発させた。

 まさにロシアは内憂外患、四面楚歌状態でとてもではないが、他国に軍隊を派遣する処の騒ぎではない










 次に中国。

 爆発する巨大な人口を抱える中国は、新世紀に入ってからその視線を常に外部に向けてきた。

 香港及び澳門を取り返し、その次を虎視眈々と狙っていたのだ。

 しかも香港や上海の存在のおかげで沿岸部はかなり潤ってきたが、内陸部との経済格差が非常に広がった。

 元々、民族自治区も数多い多民族国家でもあり、曖昧に変化しつづけているとはいえ共産党による支配は変わらず、不満も多い。

 戦争によって国民の目を逸らすのは古来より政治の常道である。今回国境を接する国々を次々と併合していったゼーレに対して軍を投入するのは歓迎するところだ。

 が、しかし。

 ここに南沙諸島というものが存在する。その領有権を主張する国は中国、フィリピン、ヴェトナム、マレーシア、ブルネイといった国々である。

 勿論、狙いは海底に豊富に存在する石油や天然ガス、そして漁業権なのだが、今、その領有権を主張する国は中国とゼーレのみとなった。

(脆弱な軍事力しか持たないフィリピンなど、彼らの眼中には無い)

 そしてゼーレは中国にこう持ちかけたのである、南沙諸島の中国による領有を認めようと。

 その代わり、採掘事業権において優遇してもらおうという魂胆である。中国はゼーレの足元を見てこれを断った。

 実際問題、中国と本気で戦争しよう、と思う国は無いだろう。

 かの国は、予備兵から何から根こそぎ動員する事によってなんと二億人もの兵力を投入できるのだ。

 いくらEVAを持っているといっても2億人が攻めてきたら負けるだろう。

 そこでゼーレは自信たっぷりに更なるオファーを示した。それが・・・台湾占領(中国に言わせれば回復)の援助である。

 中国は勿論、台湾を完全に己の物としたいが、アメリカなどが煩く現在は一国二制度などという馬鹿らしい措置を取っている。

 何故なら中国に台湾を攻め落とす力が無いからである。

 中国は空軍や海軍戦力の拡充および精鋭化を推し進めてきた物の、未だ台湾に渡洋侵攻してこれを占領できるレベルには達していない。

(勿論、核ミサイルを使えば降伏させる事は簡単だが、放射能を撒き散らす穴ぼこを手に入れたところで何のメリットも無い)

 台湾側も稼いだ外貨をアメリカやフランスからの最新鋭の軍艦や戦闘機の購入につぎ込んで対抗しているからであった。

 ゼーレはそれを見て取り、こう言ったのだ、EVAをお貸ししようか、と。

 中国は間近にEVAの能力を見てきている。忽ち東南アジアを統一できたのは、まずEVAが国家の指揮機能を壊滅させたからなのである。

 中国はこのおいしい餌に食いついた。










 次にインド。

 この国も中国のように巨大な人口を抱え、食糧問題には常に頭を悩まされている。

 国民間の経済格差も酷い物だが、文化的下地としてヒンズー教のカースト制度があるので、それほど問題となっているわけではない。

 しかし、この国は過去イギリスによる統治を経た後に独立したが、パキスタン、バングラデシュが分離している。

 パキスタンはイスラム国家であり、インドとの仲は非常に険悪である。

 特にカシミール地方を巡っての戦争など何回起きたのやら、という中東戦争のような具合である。

 インド洋に浮かぶスリランカ、この国にはタミルイーラム解放のトラ(LTTE)というゲリラ組織が存在し、激しく政府と抗争を繰り広げている。

 何故なら、スリランカはシンハラ人が支配しているが、タミル人は南インドに大量に居りシンハラ人は少数派意識をぬぐえず、これを弾圧しているからである。

 インドはタミル人救援を名目にこれに積極的に介入、平和維持軍まで送り込み、両国の間に深い傷を残している。当然険悪な仲だ。

 ゼーレはここでも甘く囁いた・・・スリランカのシンハラ人政権を打倒しましょう、なんでしたらパキスタンも、と。

 インドはただちにこの提案に乗った。極秘裏に空母を派遣してもよいという言質まで与えたものだ。

 これはタイが装備する玩具のような小型空母しかゼーレ側に空母戦力が無いことを考慮してのことである。










 そしてオーストラリア。

 彼らはアボリジニーという先住民族問題を抱えている。なんと言っても最初のイギリス人が千人ほど上陸した時、既にアボリジニーは30万はいたのである。

 しかしアボリジニーは徹底的に迫害された。子供を親から引き離して無理矢理英国文化を仕込むことまでして。

 最近ではアメリカインディアンのように、麻薬と酒と暴力の問題も多い。

 そして更にはもっと重大な問題があった。それは東チモールである。

 彼らの目と鼻の先にあるこの島は、ポルトガルとオランダ、この二国による植民地時代に東西に分離した。

 やがてポルトガルから独立しようとした東チモールはポルトガル総督を追い払うことに成功する物の、インドネシアによって武力併合された。

 インドネシアはここを支配しつづけるが1990年代末、遂に東チモールは念願の独立を果たした。

 だが、ことはそう上手く運ぶはずも無い。まず小さな島半分しかないような小国が独立してやっていけるはずが無かった。

 近くにあるバリ島のように観光で発展するしかない。南の海底に油田などが眠ると言うが、眠っていては意味が無い。

 そして世界広しと言えども採算の取れている海底油田は北海油田だけである。

 シドニーからニューヨークまでノンストップで旅客機が飛び、SSTOまで実用化された時代において、貿易中継点などにはなれない。

 インドネシア統治時代、インドネシアは確かに弾圧(枯葉剤散布など)もしたが、世界に主張したとおり大量の資金も投下した。

 道路整備など、他の地域などとは比べ物にならないほど進んでいる。

 そんなこんなで忽ち「昔は良かった」的声が大きくなり、未だ諦め切れぬインドネシアによる西チモールからの工作もあり、東チモールは泥沼と化した。

 東チモールはキリスト教、インドネシアはイスラムという宗教対立もあった。

 PKF、PKOとして大量の人員を派遣していたオーストラリアはこれに巻き込まれ、大量の死傷者を出しており、インドネシアに対する国民感情は最悪だった。

 よって、インドネシアを(表面上)仏教国であるゼーレが併合したこともむしろ喝采が送られた。そんな国民感情に配慮したのが、決議案の棄権であった。










 最後にアフリカ及び南米諸国。

 彼らは工業化も進まず、人口は増加し、食糧問題・水問題は深刻、砂漠化は進み、国は貧しかった。

 そんな状況にもかかわらず、先進国と称する国々は碌な支援も与えなかった。

 ヨーロッパ諸国による植民地支配の結果、部族関係を考慮しない国境の線引きによって、いらざる戦争が多数引き起こされた。

 そして自分たちが豊かになっておいて、これらの国が豊かになるのを阻むかのように環境保護などを言い出した。

 ヨーロッパなど一旦森が無くなるまで開発しておいて何を言う、人は衣食足りてようやく周りに目が行くのだ、という怨嗟の声が満ち溢れた。

 環境保護など主張しておいて、ジャングルの奥から出てくる新種の感染症などには煩い。

 そんな不満が溢れている国々にゼーレは接触し、非合法な商売によって得られる潤沢な資金を援助しようと申し出たのである。

 そして、当然それらの国々はこのおいしい話に飛びついた。












「なんてことだ・・・」

 話を聞いていた各国代表は一様に溜息をついた。











 さて、国連軍派遣の名分すら立たなかったわけだが、多国籍軍派遣が無理矢理決定された。しかし具体的な話は別であった。

 なにせ中国、インド、ロシア、オーストラリアなど近場の大国が軒並み兵力供給及び基地提供を拒んでいる。

 ヨーロッパからはあまりに遠くて戦力派遣にも時間がかかり、補給の手間も異常に増える。

 そしてフィリピンと言う足がかりのあるアメリカも、議会で野党からアメリカの国益にならない戦争で前途あるアメリカ人の若者を殺すのか、といった意見が続出。

 大統領選挙を控えた与党は、レームダック(死に体)症状に陥り、結局表立った兵力派遣は見送った。

 国連への申し訳のように彼らは偵察手段、特殊部隊や潜水艦を派遣した。

 結局アジアで最大の海軍戦力を持つ日本が多国籍軍の中心となった。

 これには韓国、中国、ゼーレによる被占領国共にいい顔をしない。前世紀の所業から考えれば反日感情は当然の反応だろう。

 第一、被占領国民はあまり多国籍軍を歓迎していなかった。

 彼らの旧宗主国が多いヨーロッパは当然として、アメリカにもヴェトナム戦争の記憶があり、またその傲慢な態度から嫌われている。

 多国籍軍の中でも主導権争いなどで、あまり団結していない。常任理事国になったばっかりで張り切ってるドイツ。同じ立場の日本は中国などの主張を押し切って参加。

 どんなに非難を受けようと、マラッカ海峡を抑えられると国がつぶれるからである。

 日本が出るから、と韓国も派兵を拒否。結局ニュージーランドやトルコなどから旅団単位が派遣されたに過ぎなかった。

 パキスタンやスリランカはイスラム国家として、ヒンズー国家であるインドに対抗するため、急に台頭した仏教・イスラム融和系国家であるゼーレに擦り寄ったのだった。





to be continued...







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