written by Keis

with the idea of Hiroki Maki



Conspiracy



「来たわよ、ミサト。」

 リツコが声をかけてきた。

「了解。」

 そう返事をすると深い呼吸を繰り返して精神を集中し始める。

 二人は本部内の人気の無いとある倉庫にいた。もちろん、昼間リツコが接触した人物と密かに会うためである。

 換気孔から侵入してきたのをすぐさまMAGIでキャッチし、保安部に情報を流さず、ここに来るようにウィンドウを彼の前に出す。

 その後は彼がセキュリティに引っかかった場合に警報をすぐさま切る用意をしていたが、彼がそれらに引っかかる事は無かった。

「なかなか侵入工作員としての腕は確かなようね。」

「それは良かったわ。」

 リツコが冗談っぽくそう評するのに短く答える。意識が戦闘モードに入ると大抵こうなる。

 そして彼が倉庫のドアを開けて入ってきた。

「はっ!」

 ドアの脇で蹲っていたミサトは強烈な足払いを掛ける。

 彼はそれに反応して飛ぶのと同時にこちらの頭に向けて鋭い突き蹴りを放つ。

 しかしミサトは下段蹴り単発で終わらず、上方に跳ね上げるように第二の後ろ回し蹴りを放ち、彼の蹴り足に合わせる。

 二人の足が音を立ててかちあい、ミサトは一歩後退、彼はふわりと後ろに跳んで下がる。

 だが、ミサトは素早く前に距離を詰め、彼より高く跳ぶと上から竜巻のような激しい回し蹴りを繰り出す。

 彼はそれをなんとかブロックするも着地でバランスが崩れる。そこへすかさずミサトは彼の額にUSPを突きつけた。

 彼が両手をそろそろと上げて停止すると共に、二人の格闘を黙ってみていたリツコが声をかけてきた。

「で、どう?」

「まあいい線行ってるんじゃない? 白兵戦のプロって訳じゃないんだし、マシな方よ。」

 そう評価してあげた。

「そいつはどうも。」

 彼が苦笑して答える。

 ゆっくりとUSPを再びホルスターに戻すと尋ねた。

「名前は?」

「加持リョウジ。日本人。アメリカ国籍。FBIから国連へ出向して無任所査察官をしている。」

「それは確かにグローバルね。」

 リツコが面白そうに言った。

「それであなたの任務は? その腕前じゃ暗殺とは思えないけど?」

 皮肉交じりの質問に加持と名乗った男は苦笑した。

「まあな。謎の巨人を確認する、そんなところかな。」

 リツコと思わず顔を見合わせた。

「あなた、ここ最近一体どこにいたの? 新聞って何か知ってる? 最近起こったエポックメイキングな事が沢山書いてある紙束のことよ?」

 リツコの痛烈な皮肉にさすがに加持の顔が引き攣った。

「ご丁寧な講義ありがとう。しばらくジャングル暮らしだったものでね、新聞なんざ読んでない。携帯も使えないし。」

「ああ、衛星は全部撃墜したからねえ。それにジャングルの中じゃ新聞配達がこなくても仕方ないか。」

「・・・全部撃墜?」

「報道はされてないけどね。太陽の活動が急に活発化した、とか誤魔化してるみたいだけど。」

「一体どうやったらそんなことを・・・」

 加持は呆然としているようだった。ま、確かに地球の周りをまわっている人工衛星の数は半端じゃないしね。

「それはともかく、あなたが一昨日の新聞を読んだなら一面にあなたの言う所の謎の巨人とやらの写真が大きく載ってるわよ。」

「何?!」





 二日前、周辺諸国がたった一晩で続々と降伏していくのに焦ったインドネシアが真昼間に奇襲をかけてきたのだった。

 殺られる前に殺れ、そういうことらしい。

 KOPASSANDHAが首都に浸透、破壊工作を行い、通信が遮断された。

 上層部からの指示を仰げなくなったNervはキールの独断により、ついに昼間にEVAを出撃させる事を決定したのである。

 もともと、そろそろEVAをお披露目しようかという話が出ていた事もある。

 というのも、既に周辺諸国は大半が膝下にあり、いくら衛星を破壊したと言ってもそろそろ諸大国にも正体が知られる頃合だからである。

 どうせなら派手にこちらで演出して明らかにしたいところだった。

 偽装輸送船に乗ってこちらに送り込まれつつあった海兵隊は、潜水艦の手によって沈められていた。

 マラッカ海峡のような浅くて狭い海域では潜水艦は圧倒的に有利だった。

 インドネシア空軍部隊もこちらの空軍部隊で十分に対処可能。

 そこで華々しくEVAはインドネシアの首都・ジャカルタへ向けて出撃したのである。

 それからマスコミに彼らの行き先についてそれとなくリークした。

 そしてCNNを始めとする報道各社のカメラが待ち構える前にEVA3体は現われたのである。

 今までにも報道カメラマンは戦闘シーンを録画する機会は沢山あったが、夜間であったためはっきりした映像をとる事は出来なかったのだ。

 彼らは今初めて見た兵器の姿にぽかんと口を開けて、しかし職業意識からかカメラは回したまま、呆然としていた。

 いつも戦場の最前線で泰然自若として喋ってみせるレポーターも「神よ・・・」と呟き、十字を切っただけだった。

 翼を広げた悪魔のような人型兵器は、音も無く首都に降り立つと、驚異的なまでの精密さを持って政府及び軍施設のみを攻撃した。

 忽ち瓦礫の山となる大統領官邸や軍参謀本部の建物。

 その通り一本隔てた所には何の被害も無く、多少埃が飛んだくらいだった。

 明らかに人的なコントロールを受けているものの動きだった。そしてそれからすぐに、その考えは確信に変わった。

 目標を達成したのか再び飛び立ち首都上空に集まる3体。

 カメラ目線で赤い機体は胸を張って、青い機体は普通に、紫の機体は幾分猫背気味で(見ようによっては恥ずかしそうに)、右手の親指を立てて見せたのだ。

 その後、3体はばらばらの方向へ向けて飛び去っていった(実際には各軍基地へ向かったのだがそれは報道陣には判らなかった)。

 カメラは彼らが飛び去って何も居なくなった空、又は瓦礫の山となった政府施設などをしばらく呆然と写しているのみだった。

 そして一人のレポーターは呟いたのだった。

「我々が見たのは神か、悪魔か? いっそ火星人の攻撃と言われた方がまだマシだ・・・」





 そのときのビデオを見せられこれまた呆れる加持。彼もちらりとは以前姿を見ていたがあれほどの動きをするとは信じられないようだった。

「ふふふ、何度見てもあの決めポーズはかっこいいわね!」

「何言ってるんだか・・・」

 はあ、とかわざとらしくリツコは溜息をついて見せた。

「何よ、文句あんの? 派手に演出しろって言われたからアスカにちょっと耳打ちしただけじゃない。」

「馬鹿!」

 あ・・・しまった。

 私は口を噤んだ。信用できるかまだわからない奴の前で個人名、しかも飛び切り重要な人物の名前を出すなんて・・・

「ごめん。」

「はあ、まあ、いいわ。で、加持君、だったかしら、はこれからどうするのかしら?」

 リツコは加持に話を振った。

「ま、お偉方の考えそうな事は予想できるよ。あの化物を調べろ、可能なら奪取・破壊しろ、そんなところだろ。」

「そんなところでしょうね。」

 リツコも頷いた。

「で、ここからが取引ね。」

「取引?」

「ええ。多少の情報は流してあげるから私たちをここから助け出しなさい。」

 おわっちゃあ・・・リツコ、取引とかいいながら異常に態度デカイわね。ま、値切られる事を想定してだろうけど。

「助け出すとは?」

「私たち技術者は大半が誘拐されてここに来たのよ。助け出されて当然でしょ?」

「誘拐されて、ね。あなたは自分から来たように見えますがね、赤木リツコさん。」

 ぴく。リツコの眉が上がった。私も多少驚きが表情に出てしまったかもしれない。

 加持はしてやったりと満足げな顔をした。

「俺は世界中で多くの人が地元犯罪組織に誘拐され、ゼーレに連れて来られたと疑ってるんだ。

 その調査の過程で2000年初頭に姿を消した多くの科学者たちのことも調べたのさ。

 で、少数ながら誘拐されて無理矢理と言うより自分からここに来たと言える人がいるんじゃないかと思った。」

「見解の相違ね。」

 さすがリツコ、鉄面皮は伊達じゃないわね。

「ま、それはともかく人数は?」

「全部で70と少しかしらね。もちろん日本人じゃなくてもいいわよね?」

「ああ、それは勿論だが・・・70もどうやって逃げ出すんだ?」

「それを今から考えるんでしょう。で、いいのね?」

「はいはい、降参。方法が見つかったら出来る限り手伝わせていただきます。」

 ここでようやくリツコは私のほうを見た。私は小さく頷いてみせる。

「じゃあ、あなたにここのパスを上げるわ。好きなだけ嗅ぎ回るといいでしょう。」

「・・・そりゃどうも。」

 少し驚いたように加持は答えた。そこまでしてもらえるとは思っていなかった、そんなところでしょうね。

「ただし。」

「・・・ただし?」

 リツコの台詞に対して、やっぱりな、とでも言いたげに先を促した。

「「パイロットに手を出さない事!」」

 リツコと声を揃ってしまった。なんかちょっと嫌かも・・・

「・・・それは困ったなあ。」

 ま、そうでしょうけどね・・・あの子達だけは何があっても!

「そう。じゃ、この話はご破算ね。ミサト、保安部に連絡を。」

 リツコの判断は相変わらず素早くシビアだった。

「おいおい・・・」

 加持もちょっと焦っている。

「この条件だけは絶対に譲れないわ。あなたには彼らに会わせることすら許せないわね。それさえ守ればあとはどうでもいいわ。」

「どうでもいい、とは?」

 加持の目がちかっと光った気がした。

「文字通りよ。別にDATAで飼い殺しになってもいいし、刑務所に放り込まれても文句は言わないわ。死ね、とか言われるんだったら少しは考えさせてもらうけど。」

「そりゃ、随分と入れ込んでるんだな。」

「まあね。」

 リツコより先に一言で答えてあげた。誘導尋問に引っかかるほどこちらも馬鹿ではない。

「それじゃ、取り合えず連絡先だけ頂いて俺は退散するとするか。」

 結構諦めもいい男らしいわね。今の所B’の評価を上げましょう。

 リツコも頷き、今回の密談はこれにて終了だった。





「どう思う、あいつ?」

 加持君が消えた後すぐのミサトの質問は相変わらず直裁だった。

「そこそこ優秀そうじゃない。過大な期待を掛けるつもりは無いけど、まあ、何かの足しにはなるでしょう。」

 くっくっく・・・

 見るとミサトが一人で笑っていた。

「気持ち悪いわね。何一人で笑ってるのよ?」

「いやいや、相変わらずリツコの人物評価はシビアだなあって思ってただけよ。私とほぼ同じ意見のようだしね。」

「それは光栄ですわ、葛城作戦部長殿。」

 私の皮肉半分の冗談を聞いてミサトの顔が急に真面目になった。

「?」

「そう、作戦部長なのよね、私。」

「どうしたのよ、今更?」

「今までは順調に進めてこられたけれどここからは、大国が本気で来るわ。そうそう簡単には勝たせてくれないでしょうね。」

 なるほど、そういうことね。

「EVAの能力があれば大丈夫、と言いたい所だけれど・・・」

「それが逆に不安要素でもあるわね。」

 慢心、油断と言うのは古来から敗北要因のトップに挙げられるのだから。

「あの子達のためにもよろしく頼むわよ?」

「ええ、判ってるわ。」











 こうやって個人レベルでの陰謀が進んでいる間、国家的な陰謀もまた大いに進展を見せていた。

 その代表格がインド、中国、オーストラリア、である。

 彼らは今回の紛争当初、ゼーレの甘言に乗ってゼーレによる東南アジア統合を黙認する態勢をとっていた。

 が、今、その態勢に揺らぎが見え始めている。

 彼らは今までの経験から武力統合した国は余りにも内政的に不安定で脅威にはなり得ないと考えていた。

 だが、何故かゼーレが新たに侵略・併合した国々の国民はそれを大方歓迎しているようだった。

 もちろん彼ら為政者にとって重要な富裕層は反対していたが、彼らはさっさと自分たちだけ国外に脱出していたので大した発言力は無い。

 もう一つの重大な勢力である軍は併合された時点でほぼ壊滅状態にある。

 しかもゼーレ側はどの国にもあった官界と財界の癒着を廃し、新興企業を優遇し、海外からの投資を歓迎する意向を示していた。

 このため、今まで大手に押さえられていた新興中小企業による海外からの投資が急激な増加を示していた。

 このように内政面、経済面でもあまり問題の無い大国になってしまったのだ、ゼーレという国は。

 しかもかてて加えてあのEVAとかいう恐ろしい兵器を持っている。

 インドや中国、オーストラリアといった、かつて取引をしたものの国境を接している国々はゼーレに恐怖を感じた。

 実は、この恐怖は取り越し苦労でもある。

 さすがに連戦に継ぐ連戦で(いくら激戦でないとはいえ)ゼーレ側の軍は疲弊しており、直ちに大国に侵攻する余裕は無かった。

 今までは小国への侵攻だから電撃作戦で上手くいっていたのである。

 大国相手には慎重な事前工作や準備が必要であり、暫く静かに体力を蓄えるつもりだった。

 と、いうのは実はゼーレ軍部の思惑であり、政府首脳の考えは違った。

 彼らはこれ以上領土を広げる気は無かったのである。

 多民族・多宗教地域であまりにも広大な面積、膨大な人口を抱えるというのは政治家にとって悪夢に近い。

 そのような取り扱いに慎重さを要する国が10億以上の人口を抱える国に攻め込むなど、自殺行為であると彼らは考えていた。

 そんなゼーレ側の思惑を知る由も無いインドや中国は、己の陰に怯えるが如く、裏切りを決意した。

 かといって表立って軍を送り込むような馬鹿な事はしない。

 彼らの代わりに多国籍軍という存在がわざわざ攻撃してくれるのだから。

 従って彼らは自分たちの軍隊も出さず、基地の貸し出しもしなかった。

 ただ、自分たちからのゼーレへの援助を段々少なくし、密かにアメリカなどに渡りをつけ、次のゼーレ攻撃の際には領海及び領空の通過を認めたのだった。







Totentanz



 そして多国籍軍は遂に再びやってきた。突然、航空宇宙防衛警戒センターからの緊急通信が入った。

「レーダーに航空目標多数探知!敵戦略爆撃機及び戦闘機の大編隊です!!」

 ミサトの頭は猛烈に回転し、直ちに答えを導き出した。

「奴ら、数で押すつもりね。恐らくN2を使ってくるわ。EVA各機に連絡!零号機、初号機は地上で本部を防御、弐号機は上空で出来る限り敵機を撃ち落して。」

「了解。」

 そして迎撃開始。シンジとレイは対空迎撃においてお馴染みとなった鉄屑をがんがん放り投げ鈍重な動きの敵機を撃ち落す。

 アスカも自在に飛び回りながらATフィールドを展開し、素手でも叩き落す。

「敵第三波探知、西方及び北方から領空に侵入しつつあります!」

「西と北、ですって?!」

 この報告を聞いてミサトは柳眉を逆立てた。

 これはつまりインドと中国の裏切りを意味するのだ。

 敵もさるもの、この熾烈な迎撃を予想し、空の人海戦術とも言うべき数撃ちゃ当る方式で全方位からの飽和攻撃を敢行。

 爆撃機に混じった戦闘機は各国が開発中の極超音速戦闘機をかき集めたものだった。

 PDWE 、 ASE 、 ATREX 、 RAMJET/SCRAMJET複合エンジン などを装備し、平均速度マッハ5で進入。

 しかもマッハ2まで速度を落とした後、N2弾頭を装備したラムジェットエンジン搭載型リフティングボディー形式 の極超音速ミサイルを発射する。

 このミサイルから更にロケットブースターで分離したマッハ8オーバーという速度で来襲する多数の弾頭相手では防御するにも対応時間がかなり限られてくる。

 そしてそれらに対応する隙に爆撃機が通常の音速巡航ミサイルで飽和攻撃を加えてくる。

 攻撃を完全に防ぐことは不可能だった。

「くっ、レイ、ATフィールド全開!」

「了解。」

 シンジとレイはイメージできる限り広くATフィールドを展開するが、N2弾頭のあまりの数の多さにかかる圧力は半端ではなく、フィールドを狭く厚くする事を迫られる。

 そして彼らはATフィールドで支えながら周囲に地獄が生まれるのを眺める羽目になった。

 ろくに本部へのロックオンもせずにミサイルは放たれ、いくら人里離れた所に位置するとはいえそれは大都市が存在しないというだけで、付近には村が点在する。

 そんなことにはお構いなくミサイルは飛来し、目標を選ばず爆発した。

 戦闘終了後、当たりは見渡す限り月表面のようにクレーターだらけになっており、その中心に僅かに森と本部が埋まる山だけが残っていた。

「一体・・・何人死んだんだ?」

 今までは降りかかる火の粉を振り払っていただけ、と自分を誤魔化していたが、明らかに自分たちの巻き添えを食って多数の民間人死傷者が出た。

 この事実は子供たちに重くのしかかった。











「大丈夫?」

 ふとシンジが顔を上げるとレイが心配そうに覗き込んでいた。

 それによって長い事そこに座り込んでいた事に漸く気がつく。

「うん・・・あんまり大丈夫じゃない、かな。」

「どうしたっていうのよ?」

 アスカも若干声に心配げな要素を含みつつ会話に入ってくる。

 普段なら二人に心配されるとシンジも空元気であっても大丈夫な振りをするのだが、今回はそれすらもする余裕が無かった。

「二人とも本部の周りを見たでしょ。」

「「・・・ええ。」」

 レイとアスカの声も少し暗い成分が混じる。その表情にも。

「あの月みたいな周辺、いったいどれくらいの人たちが住んでいたんだろう?

 僕たちがここで戦っている、というだけで何人くらいの人たちが殺されたんだろう?

 そう思うと、ね・・・」

 シンジはそう言って項垂れ、レイとアスカも同じく暗い表情で無言。

 自分たちも同じことを考えていただけに反論できないのだった。

 シンジを慰めたいのはどちらも同じだが、そらぞらしいことを言っても無駄なのは判っている。

「今まで、僕も戦ってきたけど、どこかゲームみたいな感覚だった。」

 シンジが唐突に語り始める。それは半分以上独り言のようだった。

「自分が傷つかないからかもしれない。EVAという絶対最強の器に載ってれば人を殺すのは簡単なんだ。

 でも例えどんな手段をとろうとそれは人殺し、なんだよ。

 殴り殺そうが、ナイフで刺そうが、銃で撃とうが、毒ガスを撒こうが、EVAで踏み潰そうが・・・同じ人殺し、なんだよね。

 そう・・・僕は人殺しなんだ!

 それを今回はっきりと認識したんだと思う。」

 しかし、そんなどよどよとした雰囲気を吹き飛ばす声が掛けられた。

「何今更甘ったれた事言ってるの?!」

 ミサトだった。本気で怒っている。

「あんた達、今まで自分でやった事をちゃんと認識してるの? 何百人も殺してるでしょうが!」

 その言葉にびくりと体が震える。

「綺麗事言ってるんじゃないわよ! 軍人は命令に従って殺して死ぬのが商売なのよ。その評価はいかに効率的に敵を殺したかで決定される・・・」

 不意にミサトの語調が弱まる。何か思い出したかのように・・・

「その点ではあなた達は最優秀な兵士ね。全く傷無しで重要目標を全て完膚なきまでに殲滅してるんだから。」

「ちょっと、そんな言い方無いでしょ? あんた達が命令出してるんじゃないの! あんた軍隊の基本を理解してないの?

 軍の行動によって生じた問題の責任は、それを命じたものだけが背負う。命じられたものでは決して無い。あたしの言ってる事間違ってる?!」

 アスカが猛烈に反発してみせる。自分たちは安全な所にいて人殺しをさせるミサトに言われて相当カチンと来たらしい。

 そんなアスカに向かってミサトは・・・静かに微笑んで見せた。

「そう、そのとおりよ、アスカ。判ってるじゃない。あなた達には何の責任も無いわ。」

「え・・・あ!」

 思わずシンジは間抜けにも口をあけてしまった。ミサトはわざとあんなことを言って見せたのだ、自分が嫌われ役になっても子供たちの事を思って・・・

 しかも彼女の言う「命じたもの」とは、究極的にはこの国の最高指導者なのだが自分たちに直接命令を下すのは・・・ミサトなのだ。

「すみません、ミサトさん。」

 シンジには謝る事しか出来なかった。アスカも神妙にしているし、レイの目も穏やかになっている。

「いいのよ、シンちゃん、謝る事なんて何も無いわ。確かに私たちは命令を出す責任を感じている。だけど本当に手を下しているあなた達に勝る苦しみは無いわ。」

 しばらくその場を沈黙が支配した。

「それにね・・・」

 やがてぽつりとミサトが言った。それはどこか憤りを込めていて・・・

「確かにあなたたちを狙った弾で人が沢山亡くなったわ。でもそれはあなた達のせいではない、あくまで撃った方が悪なのよ。それだけ憶えておきなさい。」

 そう言ってミサトは立ち去った。











 一方多国籍軍首脳は呆然憮然としていた。

 手持ちのN2弾頭搭載極超音速ミサイル全てと大半のN2弾頭搭載音速巡航ミサイルを費やしたというのに敵本拠地自体には傷一つつけられなかったのである。

 敵は小憎らしいことに爆撃によって廃墟と化した近傍の村において、燃える自宅と家族の遺体の前で恐怖に凍りついた顔で滂沱の涙を流す幼児という映像をマスコミにばら撒いた。

 これによって世論は一気に反戦ムードに傾いたのである。

 反戦デモがホワイトハウス前、日本の外務省前などで盛大に行われ、マスコミ各社はこれを大きく報じた。

 ただでさえゼーレは赤十字、国境無き医師団、UNICEF等などの支援を歓迎していただけにより一層多国籍軍の残虐非道が目立ってしまったのだ。

 多国籍軍司令部はほとんど間をおかず本国政府からの指令を受け取った。手早く紛争を終わらせるか、できないのならば撤退せよ、というものだった。

 本国から遠く離れた戦場で余りにも多くの死傷者を出して弱腰となっていた政府にとって、この件は駄目押しとなったようである。

 彼らは乾坤一擲、ありとあらゆる戦力を一度にぶつける最終作戦案を作り上げると、直ちに物資の補給にかかった。





to be continued...







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