written by Keis

with the idea of Hiroki Maki



Gewitter



 多国籍軍首脳による作戦会議が開かれていた。

 その会議室内には冗談抜きで煙草の紫煙により雲が出来ていた。参加者たちは睡眠不足とコーヒーの飲みすぎ、過度のストレスによって疲労しきり、酷い顔つきだった。

「もはや、あの人型兵器を倒すのは無理だろう。」

 一人が言うと、他の人々も呻くようにそれに同意した。

 手持ちのN2兵器を全てつぎ込んでも倒せなかったのだ。諦めるしかないだろう。

 そのうえアメリカのICBM攻撃を完全に無傷で受けきって見せた。

 しかもそれには傷ついたばかりのはずの紫色の悪魔が、更に化け物じみた力を発揮して見せたという未確認情報が入ってきている。

「そうすると残る手段は・・・」

「うむ。保守・管理・運用をしている人、つまりアレの基地要員全員とパイロットを吹き飛ばすしかない。」

 一旦人型兵器が動き出せば手が付けられない、ならばそれに乗る前になんとかすればいいのだ。

「では・・・」

「まずは特殊部隊による基地の占拠。これに失敗したならば・・・基地ごと吹き飛ばす。」

「・・・どうせなら人だけ殲滅してとりあえず戦争を終わらせてからゆっくりとあそこを接収するというのはどうだ?」

 基地ごと吹き飛ばしたら山一つ掘り出さないとアレを入手できない。できることなら入手したかった。

「確かにそれは魅力的だ。だが手段が無い。」

「細菌兵器や化学兵器は?」

「扱いが難しすぎる。ある程度の威力がないと隔壁などで汚染部分を隔離されたら効かない。だが、威力がありすぎると殲滅後に我々が接収しに行くことが出来ない。」

「それでは中性子爆弾は?」

「持ち運びできるほど小型化は進んどらんよ。空中投下できたとしても地下にある基地に対する効果は薄い。」

「・・・ではしょうがないですな。」

 彼らは特殊部隊が任務に失敗した場合に備えて携帯型核爆弾を持たせることを決定した。











 某所にて。

 ここでは現在、緊迫した任務説明が行われていた。

 正面の画面には髭眼鏡の男や若作りのシャギーカットの女、ケバイ年増女、無愛想な大男の顔写真等と共に、「最優先確保目標」などと書かれている。

 これらは2000年初頭に行方不明になった科学者たちの中でも特に先駆的とされ、例のものの開発に深く関わっているだろうと思われる人物たちだった。

「・・・以上だ。何か質問はあるか?」

 大佐の肩章を付けたごつい男が、彼同様ごつい男たちを睨むように見渡す。

「大佐。」

 大佐は顎をしゃくって発言を許す。

「特級優先目標が抵抗した場合は撃ち殺していいんですね?捕虜にしなくても。」

「うむ。なるべくなら彼らは無傷で手に入れたい。だが逆らうようなら容赦なく倒せ。いいな?」

「「「「はっ!」」」」

「よし。それでは最後に一言。死ぬな。では解散!」

 聴衆一同はさっと立ち上がると一糸乱れぬ見事な敬礼を送った。

 大佐もそれに満足そうに答礼を返すと退室した。

 彼は廊下を下り、自分の執務室に入ると今まで顔に浮かべていた満足そうな表情を拭い去り、非常に不機嫌そうになった。

「コーヒーいかがですか、大佐?」

 振り返ると彼の大隊最先任下士官である所の彼との付き合いは30年以上にも及ぶ特務軍曹がいた。

「ああ、頼む。」

 特務軍曹はコーヒーを二杯入れると大佐に渡し、自分も一杯飲んだ。

「今回の任務は気に入りませんね。特に捕虜を取れ、という所が。」

 特務軍曹はぽつりと言った。

 多国籍軍首脳陣は例の悪魔の接収を諦め、基地ごと吹き飛ばすことを決定した。

 だが、アメリカは多国籍軍のコマンドが破壊工作を行う前に浸透作戦を行い、可能な限り人員の誘拐を図る事に決定したのだ。

「・・・俺もだ。俺たちは捕虜を取るような馬鹿な真似をしない事で名声を築いてきた栄えある部隊だというのに。馬鹿な政治家どもが!」

 大佐は特務軍曹の気遣いをありがたく思いながらそう吐き捨てた。

 この特殊部隊を率いる大佐ともなると簡単には愚痴も言えないのだ。やはり特務軍曹ほどになると敏感に彼の表情を読む。

「お偉方はやっぱりあの悪魔が欲しいってわけですか?」

「ああ。冗談じゃない。あんなものわが国が手に入れたら一挙に地球帝国を築けるよ。奴らとは国の底力が違うからな。」

「ええ、どちらかというと悪夢ですな。」

「全く・・・だが、大統領直々の命令とあれば否とも言えん、科学者連中、そして何よりパイロットは手足の二三本は引き千切ってでも連れて帰るさ。」

 今回、彼らは上層部から特別の意を受けて、なるべくノン・リーサル、すなわち非致死的手段によって敵を無効化することを求められた。

 しかも可能な限り施設を破壊するな、とまで付け加えてくる始末。後でほぼ確実に核兵器で吹き飛ぶ運命にある施設を壊さない事に何の意味があるのだろうか?

 そんなことは彼ら特殊部隊の任ではない、ニッポンのキドウタイでもつれていけばいい、と思いながらもそこは宮仕えの身、計画を立てた。

 まずは標準装備に入っている閃光手榴弾で相手の目を眩ませる。

 そしてここで特殊装備の出番。大きさは対戦車地雷くらいで携行するには少々大きめ。

 こいつは青と赤のハロゲンライトを激しく点滅させる。そのパターンと周期はほぼ人間の脳波と同じ。

 そして同時に100デシベル、10サイクル/秒の音波を浴びせる。

 これによって周囲の人間は頭痛、吐き気などなどで瞬時に立つことすら出来なくなる。

 一種のDEWSであり、その効果は非常に高い。

 だが、問題はこれの使用者をどうやってこれから守るか、だった。

 一応偏光グラスと高性能耳栓が標準装備だが、なるべくこれから離れるのがベストとされている。

 これのほかにも催眠ガスや無力化ガス、高圧で発射できて瞬時に固まる高分子スーパー液体グルーなるものも装備していた。

 武装警備員、または警備兵、そして下手をすると多国籍軍のコマンドに対する通常装備としてはインドアアタックである事を考慮してフレシェットを選ぶ。

 これは小型だが非常に強力な武器で、高圧空気、又はガス圧によって小さな針を大量に撃ち出す物だ。

 インドアにおいてこれに勝るのは火炎放射器くらいのものだろう。

 サイドアームである拳銃にも徹甲弾を使用せず、固いものに当ると簡単に潰れる(つまり貫通力の無い)アルミ弾を用いて施設への付随被害を減らす。

 ただしこれは人員への攻撃力、というか致死性が上がる(弾の破片が体内に飛び散るため)という点で、注意が必要だ。

「ま、いつものように慎重かつ大胆に、なんとかやってのけるさ。」

「はい、大佐。」

 ここで大佐のデスクの上の電話が鳴る。

「なんだ?」

「時間です。」

「判った。すぐ行く。」

 大佐は受話器を下ろすと特務軍曹に短く言った。

「Let’s Rock’n’Roll!」










 ソレは巨大な空飛ぶ糸巻きエイのようだった。

 アメリカ空軍所属、ウロボロス。

 アメリカが(秘密裏に)誇る史上初の空中空母だった。

 45000トンの黒いひし形機体に240mの滑走路を有する。

 ただし、240mしかないと言っても対気速度の関係から滑走路の長さは無限大に等しい。

 つまり着陸しようとする飛行機とほぼ同じ速さで滑走路が動いてる、ということだ。

 その機体は主に炭素繊維から構成されており、エンジンは原子力。

 高度1万mを飛ぶその空中空母の背中の滑走路からもう一機、極秘の飛行機が飛び立った。

 アメリカ空軍はSR−71やF−117、B−2などの飛行機を秘密裏に開発する裏で更なる秘密の飛行機を作っていた。

 それはコードネーム「オーロラ」を持ち、極超音速機のテストベッドだった。

 それぞれ異なるエンジンを搭載した数機をまとめて「オーロラ」と呼んで試験していたが、この機体はパルスジェットエンジンを装備し、戦略任務機と称していた。

 オーロラは巡航速度がマッハ5を超え、敵に迎撃する暇を与えずに侵入し、人員・物資を降下させる。

 オーロラの速度を殺すことなくこれを行うには、高度3万mの巡航高度付近から降下しなくてはならない。

 そんな高度で人間は活動できるようには出来ていない。

 よって宇宙服のような防寒着に身を包んで低温から身を守り、酸素ボンベを装備する。
H     A     H     O
 高高度降下・高高度開傘 によって超遠距離からの侵入を図る。

 当然パラシュートはレーダー波吸収素材を使用し、夜間降下である。

 地上で着陸予定地点を確保していた友軍特殊部隊のGPSポイント目指して彼らはパラシュートのトグルを操作し、全員無事降下した。

 すぐにパラシュートを畳んで埋めると、宇宙服も脱いでこれまた埋める。それから個人装備を整え、予め発見されていた通気ダクトからNervへと侵入を開始した。










 事前にNerv側に悟られぬように内部調査は行っていなかったため、Nerv本部の内部構造は完全に未知である。

 そこらへんを都合よく全て知っている幹部が歩いているわけもないので、適当な端末を見つけてクラッキングする必要があった。

 とりあえず人がこなさそうな倉庫を発見し、そこの端末から情報を引き出す事にした。

 ハッカー上がりの隊員がすぐに端末に自分の端末を繋ぎ、クラッキングを開始、情報を得始める。

「・・・こいつぁあ・・・」

 そして彼はすぐに呻き声を上げた。

 大佐がすぐにそばによって彼が見ている画面を見た。そして同じような反応を見せる。

「なんてこったい・・・」

 ディスプレー上には巨大な多層構造の施設がその全容をあらわしていた。

 大きく分けて13階層。それぞれがまた小さな13階層に分かれている。

 例のものがあるだろう適当な大きさの空間は全部で4箇所。しかもそれぞれ大分離れている。

 電気回路やエレベーター、通路の構造から言ってここだろうと思われる指揮機能のある場所は全部で5箇所。

 発電所と思われる場所は施設の最下層に3箇所。

 とても彼らのような少人数部隊の手におえるような広さではなかった。

「科学者達やパイロットの居場所は判らんか?」

「無理ですよ、大佐。そこまでは幾ら時間があっても足りません。」

 その返事を受けて特務軍曹が諦め半分の口調で言う。

「これはどうしようもないですよ、大佐。」

「そうだな。・・・よし、ここは運を天に任せよう。

 第一小隊は発電施設を破壊、ここを皮切りにあとは適当にルートを選べ。

 第二小隊は指揮機能を落とす。まずはここからだな。第二小隊には私も同行する。

 道々適当な捕虜を取って情報を収集、可能ならば技術者たちを確保しろ。何か質問は?」

 大佐がそれぞれ目標を指し示しながら命令を下す。これに対し、一人が質問した。

「大佐、目標選定の基準は?」

「勘だ。どうせ全部落とすのなんざ無理なんだ。いいか、お前らも無理だと思ったら迷わず撤退しろ。こんな任務で死んでも、馬鹿を見るだけだぞ。」

 断定口調で「勘だ」などと言い切る大佐に呆れる一同。だが彼が言っていることが正しい事も理解しているので反論は出ない。

 全員、艶のある敬礼を送ると第一小隊は発電施設へと向かった。

 大佐も第二小隊の隊員たちを振り返る。

「行くぞ!」

「「「イェッサー!」」」











 ネルフ側の警備兵はサブマシンガンを装備している。モノはFN・P90。

 他にはたいした装備は無い。どちらかというと彼らの仕事は脱走を防ぐ事に主眼が置かれているためである。

 これに対して緊急即応部隊はライフルを装備している。モノはH&K・G36。

 こちらは外部からの武装勢力の侵略を防ぐのが任務なので、この他にも分隊支援火器や携帯式ロケット、爆薬類なども装備している。

 しかし、いくら彼らが強力な装備を持っていたところで、敵の居場所を知らない限りその力を振るいようが無い。

 索敵関係は、(余りにも広い空間であり人手が足りない事もあり)全てMAGIによる機械的な監視に頼っていた。

 プライバシーも何も無く、全空間を死角無く監視カメラがカバーし、全てのドアは指紋、網膜パターン等の登録が無い限り開く事は無い。

(特殊部隊はセキュリティー度の低い警備用サーバをハックして倉庫の扉をこじ開けた)

 通風ダクトにもレーザー探知機や要所要所に感圧センサーを埋め込み、徹底的に侵入者を排除する構造となっていた。

 勿論侵入中の特殊部隊もMAGIによってすかさず探知されていた。

 MAGIは全員の位置を緊急即応部隊の索敵モニタに転送し、警備兵は下がらせる。確認した敵装備から警備兵の装備では対抗するのは難しいと判断したためである。

 緊急即応部隊の面々はそれぞれ敵の目標と思われる第三発電所(トカマク型核融合炉)及び第二指揮所(予備)で待ち伏せる。

 アメリカ特殊部隊には万に一つの可能性すら残されてはいないかに見えた。





to be continued...







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