written by Keis

with the idea of Hiroki Maki



Good morning, Captain Bowman...



 紛争当初、アメリカのNROやNSAや宇宙軍、ロシアの宇宙飛行指令センター等々では大騒ぎが起きていた。

 彼らの手持ちの衛星が次々にその機能を停止していったのである。

 状況から考えてゼーレによる組織的な攻撃と思われるがその手段がさっぱり判らない。ASAT(対衛星攻撃兵器)は条約によって破棄されている。

 つまり何者か(アメリカとロシアしか考えられないが)が隠し持っていたのを盗んだとしても、こちらの全ての衛星を破壊するほどの数が揃うはずも無い。

 しかもロケット打ち上げは監視しているので怪しげな衛星攻撃衛星や、衛星攻撃ミサイルを積んだ戦闘機などが居ない事も判っている。

 ともかくは原因究明を、という訳でアメリカは辛うじて生き残っていた偵察衛星をスパイグラス(旅客機に観測機器を搭載した物)で追跡した。

 息を潜めるようにしてモニタを眺めていた彼らは、結局一瞬にして破壊される衛星を見ることに成功した。

 それを録画していたスパイグラスからデータが送られてくると同時に解析が始まり、遂に衛星を攻撃していた物の正体が判明した。

 乗用車、である。

 乗用車が自由に宇宙を飛び回る人工衛星に嫉妬して重力のくびきを逃れて襲い掛かったというのでなければ、誰かが車を投げて衛星を破壊しているのだろう。

 ただ疑問なのはその理由と方法である。

 目的は衛星による偵察を防ぐためなのはわかりきっているのだが、何故車などを用いたのか、そしてどうやって用いたのか、だった。

 彼らが見る限り、車はとんでもないスピードで飛んでおり、とても誘導されていたようには見えない。(あまりに速いとその初速に誘導装置がもたない)

 いったいどうやってあのようなスピードを出したのか、そしてどうやって当てたのか?

 カメラの範囲内に敵の姿は映っていないのだから相当遠くから投げつけたのに違いない。それを人工衛星のような小さな目標に当てるのは非常に難しいはずである。

 それをわざわざ車というような宇宙に持っていくには些か不便な形態をしている物体で行うには一体どんな手段を用いているのか?

 謎は深まるばかりだった。











「おかえりなさい、レイ。」

 ミサトが帰還した零号機から降りてくるレイを出迎えた。

「百発百中、いい出来だったわ。」

「・・・ありがとうございます。」

 レイはミサトをちらっと見るとそう短く答えた。彼女にとってミサトのお褒めの言葉などその程度のものだ。

 彼女を含めたパイロットは三人とも宇宙空間での活動を想定して厳しい訓練を受けてきたのだ。当然の結果である。

 プールに沈めることによって擬似無重力状態を作り出した球の中でひたすら動き方を学んだ。

 宇宙においてはATフィールドで一瞬空間に球を作って固定し、そこを踏み台として進みたい方向に進むのである。

 ちなみに、EVAが大気中を飛ぶのはATフィールドで重力を遮断して翼で滑空しているものらしかった。

 ミサトは後からやって来たリツコに向かって尋ねる。

「どうだった?私の計画は。」

 ミサトの、ふふん、どうだ、まいったか、という視線をあっさり無視してリツコは答えた。

「あなたにしか考えつかないような無茶な計画だったわね。抱えていったカーフェリーにそこらへんの中古車を山ほど積み込んで衛星攻撃用の弾にしよう、なんてね。」

 NERVとて予算で動いている団体、細かい所での経費削減に努力しているようだった。一々専用の弾なんて開発していられないのだ。

 エンジンと言う塊があるのでそこそこの慣性がつき、EVAの手に馴染む大きさ、大気中での使用も考慮して割と流線型であることも加えると車が適当らしい。

 レイは紛争当初、零号機に乗って上空にいる衛星に地上から車を投げつけて壊していた。

 EVAが積んでいるFCS は非常に優秀でほぼ百発百中の命中率を誇った。だが大気圏を通過するため燃え尽きる車もあり、効率は上がらなかった。

 そこでミサトが考案したのが、どうせなら宇宙に行ってから投げれば空気が無くていい、入れ物は適当な船かなんかで、という作戦案だった。

 EVAにフェリー船のような大きな物を抱えて飛べるのか、という疑問もあったが試してみた所問題なかったので、レイは大量に車を積み込み衛星軌道へと向かった。

 そしてゼーレ上空でやってくる衛星を待ち伏せして全て叩き落すと世界中の偵察衛星、地質観測衛星、通信衛星などを破壊したのである。

 その破片の多くは軌道上に残ってスペースデブリと化し、後の人工衛星投入の阻害要因となった。

 例え小さな破片でも大きな速度を持つのでその運動エネルギーは大きく、大抵の人工衛星にとって大きな脅威となるのである。

 余った車は船ごと宇宙ステーション・ISSに投げつけた。

 先進国の金持ち仲良しクラブが集まって作った宇宙ステーションは大方の予想通り、予定された完成には程遠い状態だったが、念のためだった。

 これによって宇宙はゼーレのものとなったのだった。

 更にこの状態を長くするため、ゼーレは宇宙から各国の打ち上げ基地を襲撃した。

 アメリカのケープカナベラル空軍基地、バンデンバーグ空軍基地、 ロシアのバイコヌール、プレセツク、カプスティン・ヤール、 中国の酒泉、 仏領ギアナのコウロウ、 日本の種子島、 が次々と時ならぬ車の雨に襲われた。

 明らかに人為的と思われ、しかもこの結果有利になるのはゼーレなので明らかにゼーレの起こした行動だろうと思われたが、手段がわからないので非難も出来ない。

 一連の国々は不承不承、沈黙を守ることにしたのだった。











 このようにして人工衛星を破壊された結果、ゼーレ国内の情報を得るには現地に特殊工作部隊を送り込まなければならなかった。

 ロシアの特殊グループ・ヴィンペル、 特殊グループ・カスカード、 スペツナズ、 ブラックベレー、 アメリカのグリーンベレー、 デルタフォース、 ナイトストーカーズ、 SEALチーム6、 イギリスのSAS、 SBS、 グルカ傭兵部隊、 フランスの外人部隊、 イスラエルのサイエレット・マトカル、 ドイツのGSG9、 日本のレンジャー、 オーストラリアとニュージーランドのSAS等々・・・・・・

 さながらゼーレ国内は特殊工作部隊のサミットのようになりつつあった。

 お互い特に連携しているわけでもないので、場合によっては同士討ちも生じかねない。

 しかも人工衛星や偵察機や大使館つき武官による予めの情報収集が不可能だったので、彼らはどこに彼ら自身が持つ攻撃力・破壊力をぶつければよいのかもわからない。

 よって情報は現地民から引き出すしかない。だが、真相を知っているような人物はそうフラフラとは歩いていない。護衛もいる。

 しょうがなく、彼らは軍の通信を傍受するなど、彼らに似合わない受動的行動を選択した。











 男が一人、ジャングルの中を歩いていた。

 迂闊に掴めば棘が刺さる蔓、足に絡みつく下草、足元に密かに近寄る毒蛇、病原菌持ちの蚊や虻、鬱陶しい羽虫達、巨大な蛭・・・

 およそ御近付きになりたくない環境の中、彼はその顔に笑みを浮かべながら歩いていた。

 やがて、少し開けた所に到着した彼はすぐ近くに見える山を見て呟く。

「ようやく辿り着いたか・・・」

 無精ひげを生やした口元からもれ出た言葉は日本語だった。







Ricordanza IV



 その男、加持リョウジには仲の良い五つ下の妹が一人居た。

「いた」と過去形を使っているからには現在は居ないわけだが、別に病気で死んだとか事故で死んだとかではない。

 リョウジが16の時、行方不明になったのだ。

 リョウジの父は当時、ニューヨークの国連本部で働いていたので、加持家はNYにいた。

 警察(NYPD)は誘拐又は殺人の疑いが強いとして、かなり大々的な捜査を展開したが、見つかることは無かった。

 当時全米で誘拐らしき行方不明者が続出したためFBIが広域犯罪として捜査に乗り出したが結果は同じだった。

 身代金などの要求が一切無いため非営利誘拐であり、つまりそれは誘拐した対象そのものが目的(暴行など)であり、恐らくはもう死んでいるだろう、という見解を貰った。

 加持は失望し、自ら調べようと決心した。そのためには知識と立場が必要である。彼はボストン・カレッジに入学し、そこからFBIに入った。

 FBIは、子供関連の誘拐の捜査をやめることは無い。広域犯罪調査を棚上げにしてでも続けるのだ。

 しかし今回のように誘拐かどうかはっきりしない事件は性質が悪い。11の女の子が自らの意思で失踪したとも思えないが、可能性は絶無ではない。

 そしてNYCには近くに広大な沼地があり、そこは死体の隠匿にはぴったりの場所だった。彼らもここまで時間がたってしまっては被害者が生きている可能性は0に近いことを認めている。

 警察は被害者を助けることは出来ないかもしれないが、復讐することはできる、そう信じて努力を続けるのだ。

 加持は宛がわれた職務に励み、遂に念願の広域犯罪担当となった(その前には対外防諜部FCIで大きな成果を上げている)。

 そこで漸く調べたファイルによると、FBIが関連を疑って調査した行方不明者の数はその年だけでも全米で数千人に上った。

 年齢、性別などプロフィールはばらばらであり、何の関連性も見出せない。しかし、やがて加持はあることを発見した。

 誘拐は港町で多く発生している。内陸部出身の人が多かったので気付きにくかったが、出張や旅行などで沿岸部に来ていた人が大半らしい。

 港と言えば船、加持は入港記録をチェックした。

 そして誘拐が起きたと目される日付近辺には一つの特徴を持つ船が大抵入港していたことに気づいた。多くの船の中に持ち主がラオスの会社の船が一隻あるのだった。

 勿論税金対策でリベリアやパナマ船籍だったが、ロイズ保険に当たった所、判明した。

 しかし、ここで加持の調査は行き詰まった。こんなただの状況証拠だけでは上司を説得できない。第一、FBIはラオス国家警察との交流がなく、加持にラオス国内での捜査権など無い。

 そこで加持は大胆にもFBIから国連の無任所査察官へと出向した。

 あまり知られていないが国連にも警察的な働きをする機関があり、各国警察間の調整に終始するICPOよりマシと考えたからである。

 そこで加持がまず担当したのは2000年初頭の各国の優秀な研究者たちの失踪事件である。

 一部はFBIのFCIでも調べていたが、こうやって纏めてみるとあらゆる分野の人物たちが消えているのが判る。入院や旅行と言う理由は全て偽装だった。

 根気よく調査した加持はやがて、彼らが其々地元の犯罪組織に誘拐されたと信じるに至った。勿論訴追できるような証拠はほとんど無いが、直感だ。

 古巣のFBIと連絡を取ると、どうやらそれらの組織は急に羽振りが良くなったこと、それは東南アジアからの麻薬密輸・密売による物だと言うことが判明した。

「東南アジア、か・・・」

 当たり前のように加持の脳裏にラオスの名が浮かぶ。いや、革命後はゼーレか。

 決心してふと苦笑を漏らすとタバコをもみ消して席を立ち、上司の元へと向かった。

 数日後、加持はゼーレまでの中継点として東京まで飛ぶ飛行機の中に居た。予算不足にあえぐ国連構成員として当然、SSTOではなく普通の旅客機のエコノミーである。

 そんな彼が12時間にも及ぶ飛行時間中にゼーレがカンボジアを一夜にして併合したことを知るのは東京に着いてからだった。

 捜査目的は一次棚上げとなり、ブラックな任務も多少こなしていた加持はゼーレ国内の動きを探ることとなり潜入した。











「潜入したはいいが、こう立て続けに周辺諸国が飲み込まれるとはね・・・」

 思わず愚痴も出よう、というところだ。

 彼がゼーレに入るのも既に一苦労だった。

 当初の予定ではタイから陸路、ということだったが、戦争が始まった事により日本から東南アジア方面への航空便は次々に欠航。

 結局彼は中国から険しい山々を走破する事になったのだった。

 自分の捜査によってゼーレが捜査線上に上がって以来言葉を勉強していたので、そっち方面での苦労はさほど無い。

 割と無国籍な顔立ちをしている事もあって、加持はそれなりにこの国に馴染む事が出来た。

 上司との連絡用にと持ってきた衛星携帯電話はあっさり故障した。予備はあるがこちらも同様だった。

(と、加持は思っているが、実は電話用の人工衛星も撃ち落されたためだった)

 公衆電話から国際電話をかけようにも、全ての回線が現在は遮断されている。電話局は回線事故と言っているが、実際は情報封鎖だろう。

(国内の動きを探れったって何を?)

 とぼやいてみた所で状況は変わらない。一応情報屋などに顔を繋いでおいたある日、彼は町の食堂でその新聞記事を眼にした。

ニューヨーク・タイムス紙
多国籍軍、惨敗?
 政府高官によると、東南アジアにおける紛争においてゼーレに侵攻した多国籍軍部隊は手酷い反撃にあっている。
 未確認情報によると、ゼーレ側は全く新しい概念に基づく新兵器の開発・運用に成功しており、これが一因らしい。
 現在多国籍軍部隊は、後方に下がって戦力の再編成に取り組んでおり、再侵攻には時間が掛かる見込み。

 これを読むと同時に彼の脳裏に最近流れている噂が甦ってきた。

 曰く、「軍が悪魔と手を組んだらしい」「巨人が空を飛んでいるのを見た」

 きっとこれが新兵器に関するものなのだろう。そういえば、その手の噂にありがちな一種の怯えのようなものがなかった。

 彼は自分がやるべき事を見定めるため、無為に時を消していたわけではなく、住民感情なども探っていた。

 そしてそれは驚くほどゼーレに好意的だった。

 そしてその理由は究極的には一つの事実に辿り着く、つまり「景気が良くなった」、である。



 クーデターが起きるまで、この国はぱっとしない貧しい国だった。

 ところがクーデターが起きた後、急速に経済状況は好転し始めたのだ。

 物価が安くなり、物が増え、仕事(公共事業による土木工事が多かった)も増え、公共料金は値下がりし・・・

 当然国民も薄々感づいてはいた。

 この国には大した資源も無く、農作物の収穫率もさほど高くなく、世界に輸出できるようなものはただ一つ――麻薬しかないことを。

 だが、国民はそれに目を瞑った。一旦豊かさを手に入れてしまっては貧乏生活には戻れない。

 それがどんなに薄汚れた金だとしても、金であることには変わりなく、その価値が減じることもない。

 別に金が血で汚れているわけでもなく、自分たちの手も汚れないので、事実から目を逸らして豊かさを享受したのだ。

 このことは一種の共犯的な連帯感を国民の間に齎し、一致団結してゼーレを支えたのである。

 そして今回の戦争が始まった。

 元来、戦争と言うものは内政に不満のある国民の目を外に逸らすことが多かったが、今回は大いに国威発揚としての役に立った。

 ゼーレはさしたる被害も無く次々と近隣諸国を吸収したからである。

 国民は新聞、ラジオ、TV、インターネットなどで流れる情報を見て、大いに勇気付けられた。

 それは西洋人と日本人が手を組んだ多国籍軍がこっぴどくやられた事によって頂点に達した。

 遂に今まで散々自分たちを虐げてきた奴等を見返してやった、これでこの国も大国の仲間入りだ、と。

 では、占領された方の人々はどうかと言うと、意外な事にこれまたゼーレの評判は悪くなかった。

 加持が国境付近を訪れて情報を集めてみた所、そんな結果が出た。

 第一にやはり経済が潤った事。第二に軍政に飽き飽きしていた国が多い事。第三に戦闘は主に首都で行われ一般住民の被害が少なかった事。

 これらの要因により富裕層や一部の都市住民を除いてゼーレの人気は上々だった。

 特定宗教に拘ることなく、広く信教の自由を認めた事による影響も大きい。



 加持はここでふと考えてしまった。

(ゼーレのやることのどこが悪いんだ?)

 確かに麻薬売買や人身売買が良い事とは言わない。

 だが、かつて散々イギリスは中国にアヘンを売りつけ、アメリカは奴隷を買っていた。そんな奴らに文句を言われる筋合いは無い。

 国民に支持され、占領された国々の民からも歓迎される行動の何がいけないというのだろう?

 それは現在世界においてデファクトスタンダードとされる西洋的倫理からはずれているからである。

 では何故西洋的倫理はデファクトスタンダードになったのか?・・・世界を征服したからである。

 なんとなく自分の立場や任務について疑問を覚えてしまった頃、情報屋から一つの情報を得た。

 それが「巨人の住む山」についてのものである。

 すぐにぴんと来た加持は直ちにそこに向かったのだった。










 山に着いたはいいが、とりあえずその巨人とやらが出てくるまではする事が無い。

 迂闊にうろついて確実に居るだろう警備にとっ捕まるのは御免蒙る。

 そんなわけで加持は樹上に居を定め、待ちの体制に入った。

 夜間に備えて軍放出品のノクトビジョンを光量増幅型と赤外線探知型の二種類用意してある。準備万端だ。

「・・・閑、だな。」





 それから一週間ほどした後、加持は遂に噂の巨人の出撃シーンを目撃する事に成功した。

 夜中、突然頭上から降って来た大蛇と格闘中に山肌が一箇所、音も無く開いたのである。

 素早く蛇を仕留めると、加持はじっくりと観察した。

 ゲートらしき所に確かに巨大な人影らしきものが見える。倍率を調整すると・・・ソレは翼を広げて飛び立った。

「おいおい・・・」

 思わず加持は苦笑気味に呟いてしまった。

(そりゃ確かに新しい概念だろうな、巨大ロボットとは。アニメの見過ぎじゃないのか?

 どう考えてもあんなにまともに動くはずが無いんだが・・・それに動力はどうなってるんだ、まさか核じゃないよな。

 だいたいどう見たってありゃ飛びそうには見えなかったぞ、おい。

 飛べるくらいの軽さってことは、一体全体防弾性能なんかはどうなってるんだ?)

 それこそ雲霞の如く加持の頭の中には疑問が沸いて出ていた。現実感の無さに対して逃避しそうになるのをそうやって押さえているのだった。

(こりゃ、内部に潜入しなけりゃ話にならないな・・・)

 加持は決心し、山に向かって進み始めた。







Ce qu' on entend sur la montagne



 突然、リツコは今自分が暇である事に気がついた。

 MAGIは今定期的自己診断に入っていて手間が掛からない。今日はEVAの出撃も無く、訓練まではまだ時間がある。

 困った事に、暇になったのが余りに久しぶりなので、暇な時間に何をしたらいいのかさっぱり判らなくなっていた。

 思わずくつくつと笑い出してしまう。

(普段は物知り顔で人に講釈垂れているのに、暇の潰し方すら判らないなんてね・・・)

 自室で睡眠不足を解消、という選択肢も浮かんだが、なんとなくせっかくの暇なんだし、と地上で日に当たる事にした。

「っ!?」

 ゲートを出た瞬間、自分の選択を後悔した。

(ま、眩しい・・・太陽ってこんなに眩しかったかしら?)

 あまりにも穴倉生活が長すぎて、太陽がどんなものだったか忘れかけていたらしい。

 いくらなんでもあまりに不健康な生活を送っている自分に気が付き、少々散歩をする事にした。

「やっぱり、この太陽の下での一服がたまらないのよねぇ。」

 煙草に火をつけ、一吸いした所でそんなことを呟いてみた。

(ダメだわ、こんなところでミサトの真似してみても虚しいだけ・・・)

 どうやら自分は思っていたよりも遥かに疲れているらしい。

「全くだよな。」

 と、相槌を打たれるまで自分が寄りかかっていた木の反対側に人がいることに全く気がつかなかった。

 しかし、すぐに私は緊張した。この組織に日本人はさほど多くなく、私は全員と面識がある。

 そして私はこの声の持ち主を知らない

「どちらさま、かしら?」

「迷子の迷子のお巡りさん、っていったら信じてくれるかい?」

 なかなかのユーモアセンスの持ち主のようね。

「で、日本警察はこんなところで駐車違反の取り締まりでもしているの?」

 くっくっく、そう後ろで笑う声がした。

「いや、官僚の天国たる我が日本の公僕はそこまで仕事熱心じゃないさ。おれはもうちょっとグローバルなお仕事をしている。」

 グローバル・・・国連、かしらね。ICPOかも。

「で、目的は?」

「ちょいと調べて来い、ってね。宮仕えの悲しさかな。」

 この人物は使えるかもしれない、私はそう思った。





 ここ最近、一人になると考える事が多かった。この戦争の行方を。

 私は別にここに対して特別な拘りは無い。自分からここにきたわけではないのだから。

 人より一歩引いたその立場から見ると、この戦いの行く先には不安がある。

 上層部の連中は一体どうやってこの戦いを手打ちに持っていくつもりなのだろうか?

 EVAという究極の兵器が存在している限り、落し所が無いのではないだろうか?

 今の所そこまで積極的な運用はしていないが、戦略兵器としてのEVAの性能を考えると世界征服も夢ではない。

 勿論大国ははっきりとではないが、薄々それを感じ取っているだろう。正確なデータは無くともそれくらいは推測できるはずだ。

 つまり彼らはEVAをなんとしても奪取もしくは破壊しなければならない。だが、そうさせるEVAの性能こそがそれを不可能としている。

 すると近い将来、EVAの破壊を諦めるようになる。

 しかし、なんとしてもEVAの運用を止めなければならない。どうすればいいか?

 運用に必要な人々―― つまりパイロットである子供たちとメンテに必要な私たち技術者を誘拐もしくは虐殺すればいい。

 もう一つの可能性としては私たちが戦う意味を無くすことと同時に戦えなくする事、つまり国土・国民全てを吹き飛ばす事だ。

 はっきり言ってそんな将来は真っ平御免だった。

 それを免れるにはどうしたらいいか・・・それを最近考えていたのだが。

 丁度いいタイミングで手段が向こうから転がり込んできたのではないだろうか。





「あなた、夜にもう一回来てみない? 一応監視の目をかいくぐって内部侵入するくらいの腕はあるんでしょ?」

 それくらいの腕の持ち主でなければ逆に使い物にならないのだが。

「中の何処へいけばいいんだい?」

 一応自信はあるようね。

「入ってきたら私にはすぐ判るからそのときに案内するわ。」

「・・・判った。」

 どうやら向こうもこちらの事を一応信用する事にしたようね。

「じゃ、また今夜。」

 そう言って私はゲートに向かって歩き始めた。中々に意義ある休憩だったわね。










 遠ざかるリツコを見送りながら加持は苦笑していた。

「ありゃ、なかなかの人物だな。」

(判断も早いし、話にも隙が無い。おまけに美人と来た。

 見た感じ、同じくらいの年のようだし、恐らくアレは赤木リツコ、だろうな。

 その昔UGネットの世界で知らないものはいなかった極悪なクラッカー。その実態が実は当時女子中学生だった、なんてな。

 ぱったり話を聞かなくなって、逮捕でもされたか、と噂になったものだが・・・やはりここにいたのか)

 2000年初頭に多数の科学者たちが失踪したが、加持はそれら一件一件の調査資料を吟味していた。

 そしてどうやら赤木リツコは赤木ナオコに対する人質ではなく、将来有望な人材として誘拐されたらしい、という感触を得ていた。

 それがはからずも証明されたのである。

「あれなら誘いこまれて捕まるってこともないだろ。」

 それなら今すぐ声を上げればいい。

「問題は彼女の組織内での地位だな。」

(とりあえず、技術者としてそれなりの地位はあるのだろうが・・・まあ、足がかりにはなるさ)

 そう考え、加持は夜再び訪れるために一旦塒に帰る事にした。





to be continued...







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