written by Keis

with the idea of Hiroki Maki



Cordiality to you



 MAGI管理者である赤木リツコは当然この侵入者の情報をすぐに得た。

 そしてこれは技術者、パイロット等の人的資源、そしてあわよくばEVAを接収しようとしているか、人員を排除する事によってEVAの運用を止める事が目的だろうと推理した。

 彼女の頭に浮かんだのはただ一つ――脱出のチャンスだ、ということだった。

 こんなこともあろうかと、同志たちの間では緊急ネットワークが確立されており、すぐさま指令が飛んだ。










「本当?!」

『ええ、今敵特殊部隊が本部に侵入中なの。それに対して一時的にEVAを地上に退避させる事になるわ。いい機会よ。』

「そっちの用意はいいの? 装備とか・・・」

『心配しないで。準備は完了してタイミングを計っている段階だったの。』

「了解。地上に射出され次第、計画を遂行します。」

 通信を切るとレイは憂い顔になった。アスカも苛ついた表情を浮かべる。

「全く、こんなときにシンジはどこ行ったのよ!」










「シンジ君、すぐにアスカ達と合流してケージへ向かって。出撃し次第、計画通り行くわよ。」

『リツコさん、何があったんですか?』

「敵特殊部隊が侵入中なのよ。急ぎなさい。」

『分かりました。』

 シンジはすぐに通信を切った。リツコは次の通信先へと波長を変えながらふと思った。

(シンジ君、どうしてあんな所にいたのかしら・・・?)










「・・・ええ、それではよろしくお願いします、将補。オーヴァー。」

『・・・任せてくれたまえ。オーヴァー・アンド・アウト。』

 リツコは通信を終えると後ろに居た二人を振り返った。

「リツコ、あんたいつのまに・・・」

 唖然とするミサトにリツコはいたずらっぽい笑みを見せた。

「こんなこともあろうかと、母さん経由で連絡しておいたのよ。」

 冬月達が上陸したのは衛星で確認されていた。

 西側マスコミの例に漏れず重要な情報を垂れ流すCNNやネット上のサイトからリツコはそれが冬月によって率いられている事を知った。

 更に冬月の履歴も調べ、簡単に彼が京大に居た事、その時期母も居たはずである事を知った。

 すぐにリツコはナオコに冬月に渡りをつけるように頼み、MAGIで戦自通信網をクラックして連絡しておいたのだった。

「加持君、ミサト、用意はいいわね。」

「任せてくれ。」

「OKよ。」

「じゃ、ミサトはお父上の所、私は母さんの所、加持君は・・・ま、適当に。」

 リツコの説明に一瞬加持は苦笑すると、軽く手を振り出て行った。

 ミサトがリツコに向き直る。

「お互い死ぬんじゃないわよ?」

「判ってるわ。それじゃ。」











 加持はリツコの部屋を出ると確保していた自分の部屋へとすぐにとって帰り、徐に大きなかばんを取り出す。

 カバンの中には多種多様な装備――拳銃、予備弾倉、SPASショットガン、予備弾帯、防弾チョッキ、ノクトビジョン、爆薬などがあった。

 加持はFBI時代に、HRTと一緒に戦闘訓練も受けていたのだ。これらの装備はここに来てから現地調達したものだった。

 それらの装備を身に付けると、肌身離さず首にかけているロケットを開いて妹の写真に向かって語りかける。

「いよいよだよ。これで、奴らの息の根を止めてやる・・・!」











プシュ

 リツコが何時もどおり、白衣に身を包んで母の研究室に入ると、母はいつものようにホログラフィックモニタに向かい合っていた。

「母さん。」

「何、りっちゃん。」

 振り向くことなく、そしてキータイプを止めることなくナオコは後ろに答えた。

「ここを出ましょ。もう終わりよ、ここは。」

 それを聞いたナオコは冷静に聞き返した。

「敵?」

「ええ。特殊部隊による侵攻。おそらくそれは失敗するけど、そうしたら多分核で自爆するつもりでしょうね。」

「そうね。」

 ナオコは今まで行っていたシミュレーションをアボートすると、何かのコマンドを打ち込みリツコを振り返った。

「わかったわ。行きましょ。」











プシュ

 ミサトがP90片手に父の研究室に入ると、そこにはいつものごとくこちらに背を向けてコンピュータのホログラフィックモニタと向かい合う父の姿があった。

「お父さん。」

 暫くキータッチの音のみが響いた後に返事が返ってくる。

「どうした、ミサト?」

「さっさとここから逃げ出すわよ。」

「・・・何があった?」

「敵が特殊部隊を使って侵攻してきたわ。これが失敗したら、奴ら核使って自爆するつもりよ。」

「ふむ・・・」

 そういったきり、タケシは動こうとはしない。

「お父さん!」

 ミサトが痺れを切らして大声を出すと、タケシは漸くミサトのほうを振り向いた。

「私は行くつもりは無い。」

「・・・なんですって?」

「行くつもりは無い、と言ったんだ。私はここの研究で完全に満たされた。外に戻った所で面白い研究対象が現われるとも思えん。

 こんなところで研究していたとあってはなおさら、な。私のことはいいからお前は早く行きなさい。」

 タケシの言う事を聞いているうちにミサトは沸々と怒りが込み上げてきた。

パァァアン!!!

 思いっきり父の頬を叩くと声を荒げた。

「いつもいつも・・・父さんはいっつも研究と自分の事ばっかり! 一体それでどれだけ母さんが泣いてきたか判ってるの?!」

 ミサトの突然の感情の爆発にタケシは驚いたように黙ってミサトの顔を見つめた。

「・・・それで・・・お前は、家を・・・出たのか。」

「そうよ! どうして、どうしてそんなことも分かってくれなかったの?!」

 ミサトは涙を流しながら今までいえなかった心の内を吐露した。

「ミサト・・・」

 タケシは立ち上がるとミサトに近づき、彼女の肩に手を置いた。

「すまなかった。」

(人間、ロジックだけではないのだな・・・)

 タケシは自分には不可解な謎としか思えなかったミサトの家出、その理由が分かって長年の懸案が解決した気がした。

「行こう、ミサト。」

 タケシはミサトの肩を押して研究室を出た。

 ミサトは涙を拭くのに忙しく、普段怠らない周辺警戒を忘れていた。この一番大事なときに。

 二人が研究室を出て、右側には赤木ナオコ・リツコ母娘がやってきていた。

 そして左側からは折りしも第二発令所へと向かうアメリカ特殊部隊第二小隊の面々が角から現れたところだった。

 タケシは右腕にミサトを抱えており廊下に出たところで廊下の両側からやってくる味方と敵をすぐに発見した。

 第二小隊の先頭を進んできた斥候はすぐに彼らに反応して銃を構えた。

 タケシは一瞬で決断を下すとミサトが力なく抱えていたP90をひったくってミサトを右側に乱暴に押しやり、すぐそばの壁にあった隔壁の手動制御装置のボタンを叩き付けるように押した。

 一旦緊急装置によって隔壁を手動閉鎖すると、そのあと24時間経過するまで再び隔壁が開くことはない。

「父さん?!」

 ミサトの混乱した叫び。だが、ミサトが気が付いたときには既に隔壁は腰まで降りており父の姿はほとんど見えなかった。

 ミサトの呼びかけへの返事は英語の警告と激しい銃撃音だった。










「Drop your gun and knees down, hands up ...」

ガガガガガガガガガガガッ!!

 兵士がこちらを捕虜にしようとしていることには気付いたが、タケシは無視して銃撃を加えた。

 一応、銃の構造は知っていたので安全装置をはずすとセレクターをオートにし、腰だめに構えて弾をばら撒いた。

 反動で銃が暴れるが、なんとか斥候を倒すことに成功した。

 しかし次の兵士がすぐに床に伏せるとともに彼が構えた銃の銃口が光るのとともに彼の体を連続した衝撃が襲った。

ごっ・・・ごふっ・・・」

 後ろにはミサトがまだおり、隔壁は下がりきっていない。避けるわけには行かなかった。避けられもしなかったが。

 タケシの体には次々と着弾し、それぞれが彼の体内に破片を撒き散らし内臓を引き裂いた。

 タケシは床に崩れ落ちながら僅かに踝くらいが見えている向こう側のミサトへ向かって言った。

「す、すまなかった・・・ミサト。・・・幸せに、なれ・・・よ。」

 そこまで言い切ると同時に隔壁は完全に閉鎖され、タケシも息絶えた。










「父さん!!!」

 ミサトは隔壁にすがりつき、血を吐くように叫んだ。

 嫌いだった父、憎んでいた父、殺意さえ抱いていた父が、最後の最後で彼女を助けて死んでいった。

 たとえどんな戦場でどんな戦況だろうと冷静だったミサトが、この事実に完全に混乱し、取り乱していた。

 リツコはそんなミサトに駆け寄ると一発きれいにミサトの頬を張った。

「ミサトっ!」

 ミサトは混乱に濁り、涙に濡れた目をリツコに向けた。

「ミサト、あなたこんな所で死ぬつもり? しゃっきりしなさい! なんのためにお父上が体を張ってあなたを守ったと思ってるの?!」

 リツコの顔面を引っ叩くような一喝にミサトの意識もはっきりした。

「・・・分かってるわよ、リツコ。ありがと。さ、行きましょ。・・・あ、子供たちは? 皆大丈夫なの?」

 ようやく働き出したらしいミサトの思考に安心してリツコは答えた。ミサトと母を促して歩き出す。

「アスカとレイは大丈夫よ。ケージ傍のパイロット待機室にいたからすぐにEVAに搭乗するように言ったわ。問題はシンジ君ね。」

「問題? シンジ君、あの二人と一緒じゃないの?」

 ミサトは不思議そうに答えた。あの三人はいつでも一緒にいるものと思っていたが・・・

「そう。シンジ君、何故か知らないけど一人で大深部施設にまで入り込んでいたのよ。」

 それを聞いて、ミサトははっとした。シンジがそんな所にいる理由に思い当たったのだ。

「そうか・・・シンジ君、六分儀博士に会いに行ったのね、きっと。」

「あ・・・」

 リツコは何故自分がそれに気がつかなかったのか、不思議だった。しかしそれはすぐに忘れて本部構造を思い出す。

「まずいわね。」

「ええ、まずいわ。多分、今の敵のねらいは第二発令所。シンジ君、ひょっとしたら・・・」

「奴らに会うかも・・・知れないわね。」

 リツコの台詞によって自分の考えが肯定されると、ミサトは自分のサイドアームであるH&KのUSPの弾倉を引き抜いて残弾数をチェックする。

「迎えに行って来るわ。」

 ミサトの行動を見て、その目的も既にわかっていたリツコが冷静に指摘する。

「あなた、死ぬわよ。」

 珍しく一言もしゃべらずに二人についてきていたナオコもそれに頷く。

「かもね。・・・でも、わたしはそうしなきゃならない。わたし達は何をしてでも子供たちを助けなければならないのよ。」

 ミサトはその判断に賛成しながらも、固い意思を持ってそう言った。

「分かったわ。・・・それじゃ。」

 リツコもそんなミサトの考えを読み取って淡々と言葉を吐いた。深い思いを隠しながら。

「ええ、行って来るわ。・・・日本に帰ったら、一緒に飲みましょ?」

 ミサトも透明な笑いを浮かべると、そう言って走り去った。

「ミーちゃん、死ぬつもりね。」

 ナオコがつぶやく。その顔は何か悟ったようだった。

「そうね。行きましょ、母さん。」

 そう言って歩き出したリツコの手は固く握り締められていた。











 リツコからの通信を切ると、シンジは目の前の扉を開けた。

プシュ

 そこには、シンジが知るはずも無いが、いつものように端末のモニタと向かい合っている父・ゲンドウが居た。

「父さん。」

「なんだ、私は忙しい。」

 相変わらずな父の態度にかっとなるが、無理矢理心を静めて右手を握り締めると再び語りかけた。

「僕たちはここを出て行くよ。」

「ふん、何を言っている?」

「敵が本部に攻めてきたんだってさ。もうここもお終いだね。僕らはそんなことに付き合ってられないからさっさと出て行くんだ。」

「何?」

 ここで漸くゲンドウはシンジを見た。

「馬鹿な事を言うな。お前のような奴がここから出て行けるはずが無かろう。」

「好きなだけ言ってれば? じゃあね。サヨナラ、父さん。」

 それはシンジの父離れ、自分に立ちはだかりつづけた影からの決別だった。

「待て、シンジ。」

 まだ何か言っているゲンドウを放り出してシンジはさっさと部屋を出た。

プシュ

 ゲンドウは暫く扉を見ていたが、やがて再びモニタに向かい合った。そのとき考えていたのは・・・

(冗談ではない! シンジなんぞに快適な研究環境と研究素材を奪われて堪るか・・・)

 ということだった。

 ある意味、救いがたいほどにゲンドウは、「科学者」だった。











「大佐、恐らくカツラギ博士と思われます。」

「そうか・・・くそっ、最優先確保目標が!」

 少し時を遡る。

 第2発令所を目指していた第2小隊は科学者を一人発見し、確保しようとした途端にその人物から銃撃を受け斥候が即死。

 直ちに反撃して射殺した。

 彼の後ろにもう二、三人いたようだが、彼が隔壁を閉鎖したため追いかけようが無かった。

「大佐、この隔壁を開けることは出来ないようです。時限ロックがかかってますし、一々吹き飛ばしていたら限がありません。」

「ああ、そうだな。別ルートを検索しろ。」

 というような経過を経て、彼らは第2発令所への途上にあった。

 そしてある通路で曲がり鼻に、前方を一人の少年が急ぎ足で歩いているのを発見した。

「・・・こんなところに子供が?」

 不思議そうに呟く特務曹長。それを聞いて大佐ははっとして角の向こうを覗き込んだ。

 前方を歩くのは確かに14、5歳くらいの子供に見える。やたらと薄手のレオタードのような全身ボディースーツを着込んでいる。

 大佐の脳裏には例のものに関する報告書が浮かんでいた。

『・・・である。なお、戦場においてXからまるで子供のような声が聞こえたという未確認情報もある。・・・』

 そうだ、あれは子供のような、ではない。子供があれに乗っているのだ!

「曹長、あれがパイロットだ! 即刻確保しろ!!」

 特務曹長に向かって低い小声で、しかし鞭打つような響きで命令する。

「ハッ!」

 曹長も特にそれを疑問に思う事も無く、すみやかに為すべき事をした。すなわち胸から閃光手榴弾を一つはずすと徐に少年に向かって投げたのである。










(よし、ここで曲って降りればすぐ・・・)

コンッ

「ん?」

 シンジはケージへと急いでいる途中、後ろに何か落ちたような音を聞いた。

 不審に思って振り返るのと閃光手榴弾が弾けるのとは同時だった。

 それは圧倒的な光量を撒き散らし、かつ激しい炸裂音をたてる。

 シンジは瞬時に視界をなくし、一時的な聴力障害を蒙り、すぐさま昏倒した。










「よし!」

 第2小隊の面々は、大きな戦果に喜び、一人がすぐさまシンジを確保しに飛び出す。同時にもう一人も用心のため角から身を乗り出して銃を構え、援護する。

タァン、タァン、タァン!!!タァン、タァン、タァン!!!

 弾けるような銃声が三つ、続けてもう三つ。

 少年のすぐ向こうの曲がり角から何者かが転がり出てきたかと思うと、まず援護していた兵士に三発撃って確実に射殺、次いで意表を突かれて止まりかけた兵士を射殺した。

 咄嗟に残りの兵たちは角の向こうに身を隠し、破砕手榴弾を手に取る。

「いかん!」

 しかし、大佐が慌ててそれを止める。

「しかし大佐!」

「ダメだ、あいつだけは本国につれて帰る。」

 大佐が強い口調で言うと部下たちは渋々従った。

 取りあえず角の向こうを鏡で覗くとそこには攻撃してきた何者かも少年の姿も無かった。

「行くぞ!」










 ミサトはケージの傍からゲンドウの研究室の方へと向かって走っていた。

 イヤフォンからはMAGIが傍受・暗号解読した敵の隊内無線が流れ出し、腕時計型の端末にはシンジの位置と敵の位置がMAGIから送られてくる。

 廊下を疾走しながらミサトは天に祈る。

(お願い、シンジ君、気をつけて! 後ろから敵が・・・)

 もうちょっとでシンジの所、という地点で曲がり角の向こうが急に太陽のように光った。

(閃光手榴弾!!)

 ミサトは咄嗟に片目を瞑りながら角にダイブするとUSPを敵が居るであろう方向にポイントする。

 するとすぐ目の前にはシンジが横たわり、その向こうにはこちらへ向けて走ってくるごつい兵隊、そして更に向こうの角からはこちらを狙うライフルが見えた。

 走ってくる兵隊は危険度が低いので、まずは援護している兵隊の頭を吹き飛ばし、次いで立ち止まりかけたほうを刈り倒す。

 確実を期す為に、其々の目標に三発ずつ打ち込む。

 そしてすぐに立ち上がり、シンジを小脇に抱えると元来た道を引き返し始めた。

 後ろで複数の重い足音が聞こえ始めたので素早くいくつかの角を曲がり、ケージへつながる簡易エレベータの前に着く。

 それとほぼ同時にシンジが目を覚ました。

「う・・・うぅ・・・」

「シンジ君! 大丈夫?」

「あ・・・ミサト、さん。・・・はい、多分・・・」

「まだ、頭はっきりしてないと思うけど聞きなさい。すぐにこのエレベータに乗ってケージに向かい出撃。為すべき事をしなさい、いいわね?」

「え?あ、はい・・・」

 シンジはくらくらする体と頭をはっきりすべく軽く首を振りながら答えた。

 それから気が付く。

「あれ、じゃあ、ミサトさんは?」

「わたしは大丈夫よ。」

 短くそう答えて微笑むミサトは綺麗で思わずシンジは見とれた。だが、その態度は不審すぎた。

「ミサトさん?」

 だがミサトはシンジの疑問を無視し、真っ直ぐにシンジの目を見ながら話し始めた。

「いい? シンジ君。あなたには大事な人を守る力があるわ。その力は忌まわしいものかもしれない。

 けれど力無きが故に大事な人を失って後悔するよりも、大事な人と共にその力に立ち向かうほうが遥かに幸せなの。

 それだけは忘れないで!

 そして、もう一つ。・・・絶対に、死んじゃ、ダメ、よ?」

 そう言ってミサトはシンジに深く口付けた。

 シンジは驚きに目を見開くが、ミサトに口の中を蹂躙される。

 ミサトがようやく顔を引くと二人の唾液が糸を引いた。

「これが大人のキス、よ。帰ってきたら続きをしましょ?」

 そう言うなり、ミサトは丁度到着したエレベータにシンジを押し込む。

「ミサトさん!?」

 そのシンジの叫びへの返答は激しい銃撃音だった。

「いい、シンジ君。残された者の悲しみを考えたら絶対に『死んでも守る』なんて言えない筈よ。

 ちんけなヒーロー願望や自己犠牲精神なんて捨てて、どんなに見苦しく足掻いてでも、全員で生き残りなさい。これは最後の命令よ!」

 明らかにどこかに被弾したのであろう、ミサトの苦しそうな、しかし不思議とはっきりと聞こえる声。

 はっとして上を見上げると、エレベータの昇降口を守るように立ちはだかるミサトの姿が見えた。

 そして連続した発砲音の後、(シンジにはそれとは分からなかったが)破砕手榴弾の爆発音が響いた。

 小さく遠ざかりつつあるミサトからさらに何かが飛び散る。

ピチャ・・・

 シンジは呆然としたあと、気が付いたら全身を血に染めて立ち尽くしていた。

 ふと見下ろした自分の右手、ソレは血塗れだった。

う・・・うぁ・・・うわぁぁぁああああぁぁぁああぁぁああ!!!

 エレベータ坑にはシンジの絶叫のみが響き渡った。





to be continued...







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