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written by Keis
with the idea of Hiroki Maki
Ricordanza III
葛城ミサトは13の時、家を出た。研究ばかりで家に帰ってこない父と、愚痴ばかりこぼしている母に愛想を尽かしたからである。
彼女はまだ若いながら、警察に補導もされず、暴力団関係に拐される事も無く、薬もやらず、体も売らずに生きていく術を見つける才覚があった。
その術とは、とある古流武術の修行である。後継者不足に悩んでいたそこは、弟子入りしたいと言うミサトを喜んで迎えた。
ミサトとしても住み込み可で自衛手段も身につくそこは便利な所だった。こうして両者の利害の一致の元修行を始めたミサトは意外なことにこの方面の才能があった。
メキメキと腕を上げ、五年後には師を追い越し、免許皆伝を受けたのである。そして師の言葉を受け、実戦で腕を磨くべく同門の傭兵について東南アジアへと向かった。
そこでフランス外人部隊に入隊したミサトは、ここでも才能を発揮して見せた。生き残る、と言う点において異常なまでに勘がいいのだ。
見る見るうちに火器の扱いにも熟達し、ジャングルの中で生き残る術を学び、そして今までにも増して傑出した才能を見せつけた。
卓越した戦術指揮能力である。奇襲、夜襲、伏撃、トラップなどを多用し、彼女は部下を殺すことなく目的を達成した。
正規の教育を受けていないため、さすがに戦略的思考を持つには至らなかったが、前線指揮官としてはトップクラスだった。
フランスが正規軍にスカウトしたが、外人部隊の無国籍でオープンな雰囲気、そして何よりこよなくジャングルを愛するミサトはこのオファーを蹴った。
そこへゼーレが声を掛けてきた。2013年、Nervがパイロットを取り合えず三人確保した3年後のことである。
軍部建て直しを図るため全く新しい概念を持って新設した部隊を率いて欲しい、と口舌巧みな説得に負けてミサトはラオス入りし、EVA擁するゼーレの私設部隊Nervを率いることとなった。
Nervが戦術指揮官を必要としていた理由、それは国軍との仲違いにあった。
未だ表面化はしていない物の、EVAの被験者として多くの優秀な兵を失った上に、パイロットに子供を据えるなど軍を馬鹿にしたようなNervの態度に軍上層部は不満を抱いていたのだ。
当初キールは国軍から指揮官を招いて緊張緩和を図ろうとしたが、逆に薮蛇になりそうなこと、そしてEVAを見るにつけその巨大な力を手放すのが惜しくなり、自前で指揮官を探し始めたと言うわけだった。
しかし、この人事はちょっとした問題も抱えていた。ミサト率いる外人部隊に叩きのめされた軍部隊も存在し、更に軍との関係は悪化したのである。
そして意外なことに誰も気が付かなかったが、ミサトの親と親友もNervに居たのであった。
「(うわ、何あの金髪黒眉毛は? 勘違いしたヤンキーみたいな・・・)って、あらぁ? その泣き黒子・・・ひょっとしてリツコ?」
面通しで紹介された作戦部をサポートする技術者とやらに会ったミサトは素っ頓狂な声を上げた。怪訝な顔をしてから眉を寄せて何か思い出そうとするリツコ。
「ほら、あ・た・し、ミサトだってば。葛城ミサト!」
「・・・ミサト? あなた生きていたの。」
12年ぶりに再会する幼馴染に対してもリツコは冷静だった。
「何よ~、もうちょっと驚くなり喜ぶなりしてくれてもい~じゃない!?」
「あら? 私は喜んでるわよ。あの時の借りも返してもらってないし。」
口を尖らすミサトに微かに笑いながらリツコは答えた。
「・・・借り?」
「あなた、家を出る前に私の所に来てお金の無心してったでしょ?」
「あ~ぁ、そーいえばあん時リツコが銀行にクラックして私の預金残高増やしてくれたんだっけ。うん、あんがと、リツコ。」
ぽんぽんと肩を叩いて軽い口調で感謝の言葉を吐くミサトに思わずリツコは青筋を立てた。
「まさか、それでお礼のつもりじゃないでしょうねぇ?」
昔と変わらないリツコの危険信号をキャッチしたミサトは咄嗟に話題を逸らした。
「・・・そーいえばその金髪どうしたわけ? 眉毛染めるの忘れてるわよ、あんた。」
ヒュオオオオオオオォォォォォォォォォ..............
(しまったぁー!更に刺激してどうすんのよ、私ってば、ああ、どーしよ?)
確実に低下した室温にミサトは焦る。居合わせた作戦部の人々は吹き出しかけて、リツコの冷たい眼差しを受けて凍り付いている。
リツコがミサトに向かって一歩踏み出そうとした瞬間、会議室のドアが開いた。そして天の助けとばかりにそちらを見たミサトは再び固まることとなった。
ミサトの視線の先にはゲンドウ、ナオコ・・・そして父タケシがいた。
「・・・父さん?」
「・・・ミサト、か・・・」
「あら、ミーちゃん。」
ミサトはリツコをさっさと意識から放り出し、つかつかと父に近寄った。
タケシとナオコはそれを懐かしそうに見ている。
「久しぶりね。」
「ああ、そうだな。」
「母さんは元気?」
「・・・死んだよ。」
「・・・え?」
「3年前にな。ガンだった。気がついたときには転移が激しくてもう助からなかった。」
「・・・そう。私、親不孝者ね。親の死に目にもあえないなんて。」
「ああ。だが私も人の事は言えんな。」
「?」
「ちょうどその日は大切な実験があってな。あれの死に目には立ち会えなかった。」
バキッ
それを聞いた途端にミサトは腰の入ったパンチでタケシを殴り飛ばした。
「ちょっ、ミサト!」
慌ててリツコがミサトを後ろから羽交い絞めにし、ナオコとゲンドウがタケシを助け起こす。
しかし、ミサトはリツコを振りほどき、激情を迸らせた。
「何ふざけた事言ってんのよ?! 何が大切な実験よ? 母さんよりも実験の方が大切だって言うの!!」
タケシは(ミサト、強くなったな・・・)などと考えながら立ち上がると、言い放った。
「そのとおりだ。いずれ死ぬと判っている人間の死に立ち会うより遥かに重要な実験だった。」
ミサトはそれを聞いて更に殺気を膨れ上がらせるが、再びリツコが押さえる前にそれを完全に押さえてしまった。
そして一片の感情も浮かべず、平坦な声で「父」に告げる。
「そう。判ったわ。」
そして何が判ったのかは告げずにリツコを振り返る。
「もうこれで面通しは終わり?」
「あ、ここではね。このあとパイロットに会わせるわ。」
「そう。じゃ、行きましょ。」
そう言うと、リツコを急き立て、父を一瞥することもなく部屋を出て行った。
「全く不肖の娘でお恥ずかしい。」
しばらくぎこちない沈黙が続いたのを破ったのは、タケシのそんな言葉だった。
「それにしてもミーちゃんったら、今までどうしていたんでしょうね?」
娘のかつての親友が、家出した事を憶えていたナオコはそう疑問を口に出した。
「いずれにしても、逞しく育った事は確かだな。葛城博士、差し歯が必要ですか?」
「ああ、そうらしい。」
ゲンドウが水を向けると、タケシは賛同しながら床に向かって血と共に奥歯を2本吐き出した。
「あら、大丈夫ですか?」
「ああ。全く、力強くなったものだよ。」
ナオコの気遣いに答えるタケシの言葉にはどこか立派に育った子供に対する嬉しさや寂しさが入り混じったものだった。
「それにしても、わざわざあんな言い方することは無いだろうに・・・」
「いや、私があれの死に目に立ち会うより、あの子達が無事シンクロ出来るように初シンクロ実験に立ち会ったのは事実だ。」
タケシの態度にこれ以上何を言っても無駄と見て、ナオコとゲンドウは会話を切り上げ、三人で再び仕事に戻った。
「ミサト、葛城博士は・・・」
「あいつの話はもう止めてくれる?」
廊下を歩くミサトとリツコ。先程のタケシの発言について、事情を知るリツコが取り成そうとするがミサトはそれを煩わしそうに途中で遮った。
「あいつって・・・」
「13の時に家を出てから今まで人生の半分は会ってないのよ。もう赤の他人と同じでしょ。」
「・・・」
「それにあいつがあんな奴だってのは分かっていた事だったのよ。私も何今更興奮してんだか・・・見苦しい所見せて悪かったわね。」
そう言って苦笑してみせるミサト、だがその瞳の奥には僅かな揺らぎがあった。
それを見て、ミサトがまだ強がっているだけ、意地を張っているだけと見て取ったリツコはそれ以上何も言わず、パイロット控え室へと入った。
室内で何か話していた三人が戸口を見る。
リツコの後ろからミサトがついて入ってくると、彼らの顔に微かに疑問が浮かぶ。
「さて、こちらは葛城ミサト、これからあなた達パイロットを指揮することになります。お互い仲良くやってね。」
リツコの言葉に三人は納得した表情を浮かべるが、ミサトの顔に浮かんでいるのは驚愕だった。
「ちょ、リツコ、冗談はやめてよ。」
「あら、何かおかしいかしら?」
ミサトの言いたい事を十分承知しながらリツコは聞き返した。パイロットの情報を事前に渡していなかったのだ。
「私は『全く新しい概念を持って新設した部隊』って聞いたんだけど?」
「まあ、ある意味それは正しいわね。」
「子供がたった三人で部隊?」
ミサトの目がすっと細められる。声も低くなり、多少身に纏う雰囲気も冷たいものになった。
ミサトは外人部隊に居た時の経験から、少年兵に対して大きな嫌悪感を持っていた。
大人の都合で力ない子供たちが攫われ、洗脳されて、無謀な戦闘を繰り広げる。
そんな悪夢をミサトはたっぷりと熱帯雨林の中で経験していたからだった。
これを聞いてアスカは(子供だからって馬鹿にしないでよね!)などと考えていたが、賢明にも口には出さなかった。
「残念ながら『全く新しい概念』に基づいている兵器が彼らにしか操作できないのよ。」
「ふーん。じゃ、そのご大層な役立たずっぽい兵器とやらを拝みに行こうじゃないの。」
リツコの説明に対してミサトが皮肉をバケツ一杯に嫌味をたっぷりといった配合の返事をする。
それに対してアスカの顳にうっすらと青筋が現れ(但しレイとシンジは無反応)、リツコがそれに気がついた。
「ミサト、それはいいんだけど、あなたはこれから指揮する部下に対して挨拶の一言も無いわけ? 円滑な関係を作ろうと言う気すら無いの?」
そう言われてミサトは、はっと子供たちを振り向いた。
「ごめんなさい、つい頭に来ちゃって・・・別にあなたたちのこと忘れてたわけじゃないんだけど。」
「別に気にしてませんよ。」
ミサトの謝罪に対してシンジがそっけない返事を返した。
簡単に頭に血が上って大切な事を忘れるような人が指揮官か、と少し不安を抱えるが表面には出さない。
レイは人見知りが激しくこういう場面では大抵無言であるし、アスカは気性の問題がある。
今アスカは丁度怒っているし、シンジが一番そつない対応が取れたのだ。
「ごめんね。私は葛城ミサト少佐、ミサトでいいわ。中学中退してフランス外人部隊にいたの。これからよろしく。」
大幅に端折ったミサトの自己紹介に子供たちはちょっと呆れたような顔をした。
「なんか無茶苦茶な経歴ですね。第三適格者、EVA初号機パイロットの六分儀シンジです。よろしくお願いします。」
「第一適格者、EVA零号機パイロット、レイ。」
「・・・第二適格者、EVA弐号機パイロットの惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしく。」
お互いの自己紹介を終えてからシンジがふと尋ねた。
「あの、えと、ミサトさん?」
「何? シンジ君。」
「今、葛城、って言いましたよね。ひょっとして葛城博士のご親戚か何かですか?」
有名な山とはいえ葛城と言う名前はそう頻繁に聞く名前ではない。レイとアスカもふと顔を上げ、・・・ぴく・・・とミサトの顔が強張った。
「一応、血縁上は娘よ。」
ミサトの態度と言葉から複雑な事情があることを察し、軽く「そうですか」と流すと子供たちは立ち上がった。
「ケージに行くんですよね、リツコさん。」
「ええ、そうね。ミサト、ついて来て。」
ケージにて。
「これが私たちの誇る秘密兵器、EVAよ。」
秘密兵器というところで若干顔を赤らめながらリツコが紹介した。恥ずかしがるくらいならやらなければいいのに、とはシンジの心の声である。
しかし、ミサトはそんなものを聞いちゃいなかった。
「なにこれ・・・? ロボット?」
半口を開けながらぼけらっとEVAを見上げる。
「ロボットじゃないわ。特殊な脳波コントロールによって操縦する生体兵器ね。」
リツコが、まあ、これが普通の反応だろうと思いながら淡々と説明を加えた。
「私はそう言うことを言ってるんじゃないの。あんた達、頭おかしいんじゃないの? こんなロボットもどきに子供乗せて喜んでるなんて古いアニメの見すぎよ。」
「性能も知らないのにけちつけるのは止めなさい。これがスペック表よ。」
そう言ってリツコはミサトに分厚いバインダーを渡した。
しばらく黙って読んでいたミサトはやがて愕然とした。
「何これ・・・? 身長約50mで地上走行速度が音速超える?! しかも滑空用としてもほぼ意味をなさない翼だけで空を飛ぶどころか衛星軌道まで・・・」
「そ。しかもFCSは非常に優秀で地上から衛星軌道を狙撃可能。無限の動力源を備え、通信の秘匿は完璧。おまけに無敵のバリアもあるわ。」
「バリア?」
「私たちはATフィールドと名付けてるけれど、使用者の意識によっていくらでも大きくなると思われ、しかも選択的に物質を透過させる事が可能。」
「?」
「つまり敵の弾を防ぎながら、内側から撃つことが可能ってこと。」
ミサトはあまりにも都合のいい話に呆れ果てた。EVAの話を聞いたものは誰しもそうなる。
「どうやらATフィールドは重力遮断可能らしくてそれで飛べるらしいわ。装甲も私たちが破壊するのは非常に困難、素体は自己再生可能。」
「・・・無敵じゃない、こんなのが3体もあったら。」
「ま、そうなるわね。だから言ったでしょ、『全く新しい概念』だって。」
「確かに今までの概念ぶちこわしね、こいつの存在で。戦線は意味なし、後方を襲うどころか敵本拠地の攻撃すら朝飯前。こんな奴どうやって倒せって言うのよ?」
例えば、湾岸戦争のときにイラクがEVAを三機持っていたと仮定してみよう。
一機はサウジアラビアとの国境線沿いにATフィールドを展開して多国籍軍陸軍部隊の進撃を止める。
一機は南部の油田地帯、一機は北部でサウジやバーレーンやトルコからの多国籍軍空軍部隊や海軍航空隊を迎撃する。
取り合えずこれで多国籍軍に大量の物資・武器・弾薬・人員を消耗させたら今度はこちらから攻め込む。
例えば、衛星を撃ち落して相手の目を潰して地上軍の進軍ルートを隠す。
相手の陸軍部隊主力の機甲部隊や後方の砲兵部隊や補給部隊などを踏み潰したりする。
これらのことは戦術面でのEVAの使い道である。では、戦略面ではどうか?
例えばキング・ハーリド・ミリタリー・シティーにいた多国籍軍司令部要員を壊滅させる。
これによって所詮は寄合所帯である多国籍軍などは一気に崩壊するだろう。
更に大きく考えてみる。
EVAは飛行可能だ。燃料切れの心配も無い。
ではアメリカやイギリスやフランスなどの首都を攻撃してみたらどうだろう?
通常兵器では傷一つつけられないEVAが攻めて来たら防衛など出来るわけも無く(しかもATフィールドでセンサーを無効に出来る)、政府は壊滅するだろう。
特にアメリカなど、独立以来外敵と本土において戦闘を繰り広げた経験は無いのだし、動揺は大きいだろう。
勿論、大統領・副大統領・下院議員・上院議員・最高裁判事・各州知事などを全滅させたとしても誰かが指揮を取るだろう。
しかしその後彼が取りうる最高の攻撃手段は核攻撃、だがそれすらもEVAは防いでしまう。
そうこうしているうちにEVAが国中の大都市を破壊し始めたとしよう。
例えばEVAが音速で走り回るだけで都市機能は完全に麻痺してしまうだろう。ATフィールドで全てを潰す事だって出来るかもしれない。
しかも彼らは破壊力は核兵器と同等以上だが、残留放射能などの後腐れが一切無い。やろうと思えば壊した翌日からそこに住む事だって可能だ。
首都が、政府が潰れた位では国は潰れない。だが、国中の大都市がどんどん破壊され、国民が殺されていったら降伏しか残された道は無いだろう。
ひょっとしたらEVAが三機いるというだけで世界征服すら可能かもしれない。
一機は国土防衛のために残しておいて他の二機が世界中の国を攻撃して回ったら・・・
「それは私たちの考える事じゃないわ。あなたの役目はこれを運用方法を考える事、私の役目はこれのメンテ。」
そこまで言ってリツコは思い出したように付け加えた。
「そうそう。そのスペックだけど、運動性能は推測値であることを留意しといて。大々的な試験は不可能だから。」
途端にミサトは胡散臭げな顔つきになった。
「なあによ、ふかしなの? これ。」
「勘違いしないで。普通のスペック表とは違って多分それは最低の値であり、実際はもっと性能が高いはず、と私は言いたかったの。」
「・・・嘘。」
『嘘じゃないわよ、葛城少佐。』
そこでいきなりアスカの声が響いた。EVAの外部スピーカからの出力だった。
ミサトが驚いて声がする方向を見るとそこには赤い巨人が腕を組んで立っていた。
『ま、そこで見てなさい。』
そう言うと弐号機は無手で構えをとった。相手は零号機、そして初号機はミサトたちの傍でATフィールドを薄く張って待機している。
『はっ!』
アスカが短い気合の声と共に鋭く零号機に殴りかかる。零号機は僅かに上体を反らす事でそれを避けた。
「冗談、でしょ・・・」
ミサトは愕然としていた。あのような巨体から人が想像するのは当然鈍い動き。
だが、EVAは彼女の予想に反して滑らかに人間以上の動きをしてみせる。
しかもその巨体でなので、振るった腕は水蒸気を引いている。腕の先端部の音速突破による衝撃によるものだ。
そしてその衝撃波の余波がこちらに来た時、目の前に八角形のオレンジ色の波紋がいくつかあらわれた。自分には全く何の影響も無い。
「あれがATフィールドよ。光学機器で簡単に観測できたのが幸運だったわね。」
リツコはそう呟くと、目の前で弐号機と同じく無手の零号機がEVA二体で激しく徒手格闘を繰り返しているのを通信を入れて止めた。
ミサトは「後で話したい事があるから時間取って。」とだけリツコに呟くと、新たに部下となる三人の子供たちを出迎えに行った。
その日の夜。リツコはミサトの私室にきていた。
「なんなの、これ・・・」
ミサトの室内の様子を見てリツコは呆れた。
そこにあるのは数々の銃器、ナイフ、メンテナンスキット、無線、エントレンチツール、携帯食料の入ったダンボールなどが部屋の真中の寝袋を中心に渦巻く混沌だった。
「ああ、全部私の私物。これに囲まれてないとおちおち寝てられないのよね。やっぱり武器は手の届く範囲に置いておかないと。」
そう言いながらミサトは部屋備え付けの台所で湯を沸かし、コーヒーを二人分入れて片方をリツコに手渡した。
礼を言ってさりげなく一口飲み・・・リツコは危うく口から噴出しかけた。
「・・・何、これ?」
「何ってコーヒー。ああ、一応外人部隊特産品でね、カフェイン三倍増にしてあって覚醒作用のある野草もちょこっとブレンドしてあるのよ。」
リツコは自分と離れている間にミサトの味覚が破壊された事を悟り、二度と彼女の作ったものを口に入れるまいと信じてもいない神に誓った。
「それで、こんな汚い部屋に連れ込んで何が聞きたいの?」
「ん、ちょい待ち。」
そう言ってミサトは何やら小型の機械を取り出し、暫し弄くった。
「OK。これで監視の目も耳も潰したわ。心置きなく話せるわよ。」
「妨害電波?」
「まあ、そんなようなもんよ。それはともかくさ、あのEVAって一体なんなの?」
口調はおちゃらけたままだが、ミサトの目は鋭く真剣だった。取り合えずリツコは韜晦してみる。
「生体兵器だって言ったでしょ? 聞いてなかったの?」
「そう言うことを聞いてるんじゃないわよ。あれは明らかに現在の技術レベルから遥かに突出してるわ。それにあなたもアレの正確な能力がわからないんでしょ?」
「ふぅ・・・しょうがないわね。ミサト、あなた1999年にここらへんに隕石が降って来たの憶えてる?」
「・・・ああ! あれね。うん、日本でも良く見えたからね・・・って、まさか。」
「そう、そのまさか。隕石に乗って降って来たのよ、あれは。」
リツコの話からすぐに先を察したミサトに対して彼女は頷いてみせる。
「よくもまあ、そんな得体の知れないもの使う気になったわね。それで? なんでリツコたちはここにいるわけ?」
「別に望んできたわけでもないわ。攫われてきたのよ。」
「は?」
「世界のトップエリートたちが理由も無しに集まってるわけじゃないわ。皆連れてこられたのよ。」
「・・・逃げる事も不可能じゃないと思うけど?」
「そうね、確かに不可能じゃないわ。でも、EVAに一旦関わってしまったらもう見なかった事には出来ない。そんな魅力があるのよ。」
「はあ、科学者の考える事ってのは良く判んないわねぇ。で、アレを使って何をするつもりなの、この国は?」
「さあ? 世界征服でもするんじゃないの?」
「・・・それ、洒落になってないわよ。」
「あら、悪の秘密結社のやる事って言ったらそれしかないでしょ?」
そう言ってリツコは笑って見せた。リツコとて知らないのだ、EVA所有の目的など。
「まあ、それはおいおい、ってことにしといて・・・なんで子供しか乗れないわけ?」
「子供なら誰でも乗れるわけじゃないし、子供しか乗れないなんて言ってないわ。」
「脳波コントロール、とか言ってたっけ?」
「ええ。簡単に俗っぽく言えば、彼らは超能力者なの。」
「超能力~?」
ミサトはEVAのスペックを聞いたときより更に胡散臭げな顔をした。ばりばりの現実主義者であるリツコからそんな言葉を聞くとは思いもしなかった。
「その顔からすると信じてないわね?」
リツコは楽しそうに微笑んだ。
「私はリアリストなのよ。」
「あの子達の能力は確認済みよ。特にレイは凄いわよ。念話、読心、遠聴、念動力、瞬間移動etc.・・・」
「・・・マジ?」
「ええ。アスカは発火能力者、シンジ君はテレパシーと多少の予知能力もあるようね。」
ミサトはぽかんと口を開けてしまっていた。自分が今まで信じていた世界観が根底から崩されたのだから。
「ま、安心しなさい。本部内はどこもそういった能力が使えないように改装されてるから。同じ室内にいれば話は別だけれどね。」
「じゃ、隠し事なんて無理じゃない。」
「それは大丈夫。レイは滅多な事では読心はやらないから。」
そう言ってリツコは少し暗い顔をした。ミサトもそれに気がつき、少し考え、やがて思い至った。
「トラウマ持ち?」
「ええ。子供の頃から大人の汚い考えに当てられつづけてみなさい、とても読む気になんかならないわよ。」
「それは・・・そうでしょうね。」
「だから彼女、ちょっと内向的なの。気をつけて。シンジ君は子供の頃から両親に構ってもらえず一人っきりで生きていたようなものだからそれも要注意ね。
で、アスカはこれがまたちょっと特殊なんだけど・・・」
「もうなんでもこいって感じね。」
「小さい頃から現諜報部長の父上からそっち方面の訓練を受けてきたわ。幼い頃に母上を亡くしてる。これはシンジ君も同様ね。」
「・・・聞いた感じ、精神的に歪むと超能力って使えそうね。」
「そんな簡単なものじゃないわよ。」
「はあ。ただでさえ子供の指揮なんてやりにくいのに、3人ともトラウマ持ちですって? やってらんないわね。」
「一応私が彼らの主任カウンセラー兼主治医やってるから、何かあったら相談しに来なさい。」
「そうね。これからもよろしく頼むわ。」
早くも席を立ったリツコに向かってミサトは(気が早いわね、あいかわらず)と思いながら短くそう頼んだ。
「こちらこそ。」
そう言うとリツコは部屋を出て行った。
翌日からミサトによる三人の戦闘訓練が始まった。
メインはシミュレーションである。EVAに乗っての格闘技訓練などできよう筈も無いからである。
「アスカ、前に出すぎよ。」
「シンジ君はそこで前に出る!」
「レイ、すかさずフォロー!!」
鋭い指示が飛ぶ。
そんな調子で二月もすると、三人の連携行動は見違えるほど向上し、三人とミサトの関係も大分改善された。
実は子供たち三人も葛城タケシにはあまり良い感情は抱いていなかった。
常に実験材料を見るような目で見られれば当然ともいえるが・・・
そんなわけでミサトと意気投合したのである。
それからミサトは常に三人の事を気に掛けていた。
自分の指揮でこの三人の子供たちが戦う事になる。
自分の指揮が一つ間違えばこの子達は死ぬ事になる。
面白おかしく一緒に談笑しながらミサトは思うのだった、この心に傷持つ子供たちの未来に光あれ、と。
数年後、この国にクーデターが起こり、その名をゼーレと改める。
勿論首謀者はキールたちのグループだった。それがそのまま国名となったのである。
彼らは野心溢れる若手が多かった。
既に人生において何らかの挫折を乗り越えてきた者達がほとんどで、彼らがこのグループを結成した目的は只一つ。
この国を豊かにする事だった。
ある意味、急進的愛国主義者による結社といってもいいだろう。
そして彼らの具体的な目標はというと、まずは現在の体制を打破すべくクーデターを起こす事。
だが、勿論それには何かしら後ろ盾とすべき何らかの「力」が必要だった。
そして彼らはそれをEVAに求めた。
長い時間、多くの人手、そして大量の資金を掛けてEVAの調査、訓練などを行い、時熟したその時、クーデターを起こしたのである。
彼らは自分達が政権を握る事によって、この国が豊かになれると信じていた。そしてそれは確かに実現する事となる。
次いで彼らはその豊かさを如何に守るか、に腐心した。
このような世界の片隅にある小国など、大国から見れば吹けば飛ぶような価値しかなく、いつでも踏み潰されてしまうだろう。
それを防ぐにもやはり力が必要だった。
今度は誰にでも判り易い軍事力か又は経済力が必要であり、EVAはその片方の条件を十分以上に満たしていた。
この力を見せ付け、尚且つ領土や人口、そして資源などを手に入れることによって国際的な地位を一旦得る事ができたならば、あとは外交次第で生き残れる。
当然諸外国や占領対象国などから激烈な反抗を受けるだろうが、それについては色々と裏から手を回せる。
戦術的な行動によっても、反抗を逸らす事は可能である。
そんなこんなで遂に指導部は、政権奪取から約一年後、隣国カンボジアへの侵攻作戦を開始する事を決定する。
そしてこれを機に、子供たち、そして大人たちの運命も激しい変化を見せる事になる。
to be continued...
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