試合レポート

 
2002年7月21日 横浜マリノス対東京V 国立競技場

 今シーズン初めての生観戦である。前に見たのは川口選手のラスト試合、あれからあまりにもいろいろなことがあり、レポートも書けぬまま実に9ヶ月が経った。そして今日は中村俊輔選手のラスト試合。彼を見るために5万2千人もの人が集まった。もちろん夏休みに入ったこと、マリノスが首位を走っていること、W杯で新たに興味を持った人がいること、いろいろな要素が絡んではいるけれど、やはり子供にも初心者にもわかりやすい俊輔の“魅せるプレイ”がこれだけの人を呼んだのだろう。「チケットはいつでも取れる」状態しか知らない私にとって、今日の満員、本当に立錐の余地もない国立は、驚きだった。

 マリノスはここ一番に弱いチームである。優勝・残留・送別、そのようなものが絡むとどうも力みすぎるのかコケることが多い。能活の時に苦い思いをしたから、今日こそはと願う。俊輔はいつものようにうつむきがちに入場し、ピッチに立った。試合が始まってみると案の定というか、ヴェルディーにボールを支配される。ウィルは体が重そうだし、中盤のプレスもイマイチ。あいかわらずスペースに走りこむ動きも無い。これといったシュートも無くまったりとした展開が続く。それでも俊輔がボールを持つたびに歓声が上がる。8分には立て続けにCK、FK。そしてフラッシュの嵐。花火大会のようだ。

 最初の得点はヴェルディーに入った。壁が偏りすぎているのではないかと感じたFKが、直接ゴールネットを揺らす。ただ今期のマリノスは1点取られたからといって下を向くチームではない。むしろ失点で目が覚めその後動きが良くなる場合が多い。そしてこの日もそのパターンだった。ドゥトラからのクロス、ウィルの仕掛けからのFK、奥(?)のロングパスから清水の突破、奥のジャンピングボレー、榎本の素早いスローから清水の独走。だがどれも点には結びつかない。ようやく決まったのは、34分、俊輔のFKからだった。触れば1点という軌道のボールは相手GKにパンチングされてナザの頭に。それがそのまま入る。現場では何が起こったのかよくわからなかったが、とにかくゴールだ。湧き上がる会場、勢いづくマリノス。

 追加点もまた俊輔から。強引な突破はあきらかにファウルを誘っているのに、わかっていても足が出てしまう相手DF、見事にPKゲットだ。誰にも渡さないという風にボールを抱えたまま水分補給した後、ゴール前に立つ俊輔。いつもはあまり蹴らないPKにサポーターはハラハラだったが、しっかりと決め追加点となった。その後調子の出てきた俊輔のスルーパスに清水が抜け出したのは良かったけれど、クロスの精度がどうにも・・・。ぼやっとしている間に素早くリスタートをされ、シュートまで打たれるし。それでも何とか残り時間をやりすごし、2−1でリードのまま前半は終了する。

 後半、ヴェルディーは永井を入れてくる。マリノス時代に大活躍したという印象はないが、対戦相手になると活躍されることの多い選手だ。この日もゴール前に何度も顔を見せる。ここで失点などしては台無しだ。このまま逃げ切ろうと思ったりせず、マリノスサポで埋まったサイドでゴールを見せてほしいと願う。60分を過ぎるとあきらかに選手の運動量が落ちてくる。この暑さこの湿気では致し方ないとはいえ、またしてもゲームはまったり。しかし65分、マリノスの連続攻撃が。相手GKのミスキックから清水のパスを上野がヒールで繋いでゴール前のウィルへ。シュートはキーパーに当ててしまうが跳ね返りを俊輔。これはウィルの足に当たり今度は上野。ループ気味のボールはバーを超えてしまった。

 この日レンタルでヴェルディーに行っている田中隼麿が頑張っていたが、突破を試みてもぎりぎりのところでマリノスDFがクリアする。ナザがずいぶん働いていた。ヴェルディーからマリノスに移籍した中澤は、すっかりなじんで以前からの選手のよう。そして鹿島からレンタル移籍してきたばかりの平瀬が登場。すぐに相手ミスからボールが渡るもトラップが大きすぎてシュートまで行けず。その後のCKでも目の前にボールがこぼれたのに決められず。お互いの特性がまだ分かり合えていない今は、こういった偶然のチャンスを物にするしかない。終了近く、独走する俊輔が出したパスはわずかに合わず。本来なら自分で決めて欲しい位置であったが、移籍してきたばかりの五輪仲間をおもんぱかったか。

  84分、遠藤が投入され「そうか、逃げ切りか」と思った。ロスタイム4分は長すぎるのではないかと不満を漏らす。91分のピンチは松田が強さを見せノーファールで対応。その後ゴール前の平瀬にどんぴしゃのボールを出したのは誰だったか。終了を待たず俊輔が交代。松田が最終列から出した矢のようなパスを、またもや平瀬が決められず。それでもその直後に長い笛が鳴り、俊輔ラストゲームは2−1の勝利で終わった。単なる試合として見た場合、W杯の影響で初めて来た人を魅了できたかというと怪しいが、優勝という目標を考えればとにかく勝ち点3に意味がある。

 また、この試合でも目に付いたのは、松田のプレイだった。W杯が終わるやいなや気持ちをマリノスに集中しているのがわかる。理由は何であれ、首相官邸でのレセプションも最初の試合での花束贈呈も無かった。代表に選ばれなかった選手がどこよりも多いというマリノスの事情があるにしろ、シーズン当初から「マリノスが一番大事」と公言していた彼だ。入団当初のやんちゃぶりを見ているものとしては、感慨深いというか。それにしても松田の上がりはいつみても楽しい。それが得点に結びつくことはほとんど無いとわかっていても。

 セレモニーはシャイな俊輔らしく、簡潔なものだった。短い、けれどしっかりとした挨拶。(後ろで見守るマリノス君とマリノスケが保護者のようだ)一人での場内一周、隼麿やなぜか他のヴェルディーの選手も混じっての胴上げ、マリノスの仲間達と一緒にホーム側で挨拶。新ユニフォームのお披露目などは無く、いっそそれがすがすがしい。この試合のすべてが終わるまでは、マリノスの選手なのだから。能活見たさにマリノスの試合に行っていた私でも、俊輔のプレイにはわくわくした。ひょろひょろとした少年だった彼が、いつの間にかたくましい青年になっていた。お世辞にも外交的とはいえない性格に見えるが、そのプレイで自分を伝えて欲しい。サイボーグのような身体でなくとも、努力をすれば世界で通用するという寓話を、元気の無い日本人に見せてもらいたいと、心から願う。  
          
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