試合レポート

 
ナビスコ杯準決勝
  10月10日
横浜マリノス対名古屋 三ツ沢球技場

 前夜から降り始めた雨は昼頃から強くなり、競技場に着いたときはほんの少しおさまったように見えたが、開始と共にまた強くなり稲光まで伴って、大雷雨となった。

 試合前の練習、いつもと違うのはGKコーチが居ること。能活とは確か昨日が初めてで、そうして10日後にはお別れだ。一つのメニューをこなすたびに、通訳を交えて話し合っていた。キャッチングの練習が多かったように思う。そしてコーチの蹴ったボールがゴールポストをたたいたとき、ふと気づいた。三ツ沢のゴールポストは“置いて”あるのではなく、“生えて”いるのだと。そうか、サッカー専用だからだ。そう思うと、能活のこのグラウンドへの思い入れがわかる気がして、ちょっと泣けてきた。そんな風に、能活ばかりを見ていたから、このときはまだピッチコンディションの悪さがそれほど気になっていなかったのだが。

 7時5分、キックオフ。始まって数十秒で「この試合、点が入ったらそれは奇跡だ」そう思った。水溜まりなんてものじゃない、まるで田圃の中。選手が1歩足を踏み出しただけで水しぶきが上がる、 蹴ったボールはすぐ止まる、そのくせ場所によってバウンドが伸びるところもある。もちろん視界も悪い。これはもう、サッカーと呼べる物ではないだろう。セットプレイさえ気をつければ…そういう感じだった。それでも前半の初めはいくつかチャンスがあったが、ゴールには結びつかず。次第にピッチに慣れてくると、グランパスの方がパスを繋げてくる。しかしDFと能活は集中していて、未然にピンチの目を摘み、ひやっとしたのはウェズレイのシュートくらいだっただろうか。

  一つ気になったのは、ナザとの連携。早い時間に1度、能活が転がってきたボールを取りに出たけれど、すぐ手前でピタッと止まってしまって結局DFがクリアしたシーンがあった。そにせいか、グラウンダーに対してはいつもほど前に出ていなかった気がする。しかしナザは普段の守備範囲を想定して、DFのコースを切るだけでボールを能活に任せようとする。今日は天候のせいなので問題にするほどではないのだが。とにかく、流れの中からの得点は望めそうに無いこの試合、1st legで1点リードしているマリノスにとって怖いのは、無駄なファウルからFKを取られることだ。前半は0−0で終了。

 後半57分、思わぬアクシデントが起こった。グランパスの選手が倒れ担架で運ばれたと思ったら、もう一つ担架が。FKに備え位置取りをしていた集団の中で、ナザが倒れたのだ。後の情報によると太股を痛めたらしい。とにかくそのまま交代、小原が入る。さすがにこれには動揺した。前半から何度もナザがボールをクリアしていたのだから。どうやら小原が真ん中に入って松田が右、波戸が左に回ったらしい。その数分後、ウェズレイのFKが鋭くゴールに飛んだが、これは能活ははじき出す。77分にも同じくウェズレイのFKがあわやという方向に。かろうじて右にはずれる。

 マリノスも次第にサイドからのクロスなどが出始め、いい形が出来るが、やはり詰めが甘く得点には至らない。後半も30分が過ぎると、時間ばかりが気になる。選手交代や細かい時間稼ぎ。能活もゴールキックのボールをゆっくりとセット。以前それでイエローカードをもらったことがあるので、以来その仕草を見るとハラハラするのだが、よく考えたら今日は退場にならない限りカードをもらっても差し支えはない。なぜなら次の決勝に、能活は居ないから。その同じ日に、ポーツマスでデヴュー戦を迎えているはずだから。

 結局最後の連続CKも何とか乗り切り、ひどく長く感じられた3分のロスタイムも凌ぎ、横浜マリノスはナビスコ杯決勝進出を決めたのだった。嬉しそうな選手達、そして能活。この日は本当に全員から気持ちが感じられた。特に代表3選手は、つい3日前同じく大雨のイングランドで試合をしたばかり。どんなにか疲れているだろう。それでもさすがというプレイを随所に見せてくれた。そして何より「能活に気持ちよく旅立って欲しい」という思いで、皆の心がまとまっていたと言う。この大雨の中屋根のない三ツ沢まで見に行くなんて我ながら酔狂だと思ったが、行って良かった。雨に濡れた荷物をまとめるため客席の下に佇む私の耳に、いつまでも能活コールが響く。今日の試合で、三ツ沢との良い別れが出来たことだろう。
          
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