試合レポート

 
第7節 9月29日 横浜マリノス対市原 横浜国際競技場

  日向に座っている人がうらやましい季節になってきた。終わりの時が近づいている──。
 濃いグレイの集団にただ一人、薄いグレイのスーツを着て能活は立っていた。試合前のファンサービス、これを見るのは2度目だが、わざわざ1時間半前という早い時刻に来たのは、残された短い時間に
なるべく多くの姿を見ておきたかったからだ。 この日の未明、オフィシャルサイトで発表されたイングランドへの移籍。決まることを心から望んでいたから嬉しい気持ちの方が強かったが、それでもこうして競技場に来れば感傷的にもなる。能活はサポーター席の真正面に立ち、手を振っていた。

 試合前の練習ではいつも通り、ゴール裏からの声援に手を挙げて応える。セービング、キャッチ、キックとこなす。違っていたのは一足先に引き上げる時、 フィールドの選手から声がかかっていたことだろうか。この日は累積警告で松田、怪我で上野・小村を欠き、怪我が癒えたばかりの遠藤はサブである。代わっての先発は、ナビスコ杯で好パフォーマンスを見せた永山・金子。そしてDFには新人の小原を抜擢、ストッパーではなく中央でというのが驚きだ。もう一つ驚いたのが俊輔のキャプテンマーク。普通なら副キャプテンである能活のはずなのだが、代表から漏れたことを取りざたされている俊輔の奮起を促す意味だろうか。でも結局、新人の小原に声をかけたり、いつもと違う両チームでの写真撮影の時に仕切ったりするのは、能活なのだが。

 3時6分、キックオフ。開始早々に小原のクリアがあった。マリノスのCKの際残っていた彼に能活が声をかけたので、何か修正でもあるのかと思ったが、どうやら「その調子でいいぞ」と誉めている様子。この後も多少のミスパスなどはあったものの、新人とは思えない落ち着きでパスカットなども見せ、最後まで集中していた。この後で移籍会見をする能活、失点を防ぎ、新人にアドバイスを送り、仲間を叱咤激励し、試合に勝たねばならない。もちろん残留争いを考えても。そしてそれに応えるように前の選手が点を取ってくれたのは開始わずかに6分。俊輔からのパスを城がキープ、反転してシュート。キーパーにはじかれるも詰めていたブリットが押し込みゴール。能活は飛び上がって喜び、ナザと抱き合っていた。

 ところがここからがいけない。ボールキープは圧倒的に市原、CKやFKが続きひやっとするシュートを打たれる。なかでも20分のそれは、能活が触っていなければ入っていたであろう、ゴールポスト直撃のもの。マリノスはカウンターで逆襲したいが、例によってボールを持っても走る者が少なくカウンターにならない。セットプレイがあっても、松田や小村がいなくて「マリノスの選手って小さいなあ」という印象だから、入る気がしない。31分にゴールネットが揺れるも、その前にファウルがあって笛が鳴っていた。そんな中でも、城のがんばりが目に付いた。体を張ってボールをキープしていて。ただそれに連動する他の選手の動きがない。金子もまた守備で貢献し、良い働きをしていた。前半は1−0で終了。

 後半になると、少しスペースが空いてきてマリノスもボールが回るようになってくる。石川の上がりからCK、城のパスから石川のシュート、これはオフサイドになるが、少しずつ相手ゴールに距離が近くなって。69分にはブリットを坂田へ、石川を平間へ交代。しかし、次第に足が止まってきて、ゴール前でもたもたしている間にまた市原の時間になる。66分から3回続けてCK、75分からも同じく。枠に飛んだものはすべて能活がフィスチングかパンチングで逃れるが、ついに77分ゴールを割られる。キーパーの遙か手前でヘディングされては防ぎようもない。

 80分ラザロニ監督は最後のカードを切ってくる。城に代えて遠藤。これが怪我以外の交代であれば、かなり疑問だ。後に見たテレビの解説者は城が良くなかったと言っていたが、現地で見た私はそうは思わなかった。彼が居なくては誰がポストになるのか。それならばこの日ボールを取られることの多かったドゥトラを代えても良かったのでは。結局この交代は効を奏さず、1−1のまま90分を終了した。これでまず勝ち点1を失ったわけだが、それでも能活は手をたたき仲間を鼓舞していた。

 延長に入ってすぐ、坂田に絶好のパスが通る。数列前に座っていた男性などは万歳をして立ち上がったが、ボールはゴールをはずれた。その3分後にも坂田のシュートはゴールマウスの外。疲れからか、単純なミスも増え始めて。延長後半に入るとき、能活とナザが口論をしていた。のちの報道によると、DFラインの高さについて言い争っていたそうだが、そんなことのわからない私は「ポルトガル語で言い争えるなんてすごい」などど、見当違いの感想を抱いていたのだが。延長後半、足がばったりとまってマリノスのピンチが続く。CKは目の前でヘディングされ冷や汗。23分のシュートは能活がかろうじて足で跳ね返す。25分には、交錯しながら永山がクリア。細かなことでファウルを取っていたこの日の審判が、ペナルティーエリアでの波戸のプレイに笛を吹かなかったのは幸いだった。

 攻撃はわずかに俊輔の個人技から。ループシュートがはずれたとき、能活はがっくりと膝を付いていた。1分のロスタイムののち無情の笛が鳴り、マリノスの得た物は勝ち点1のみであった。これが降格も 優勝もかかっていないゲームなら、両チームともよく頑張った、そこそこ面白かったよと言えるのだが、そんな状況ではない。加えてこの後能活は移籍会見をするというのに。どんなに勝ちたかっただろう。この日マスコミのカメラはほとんどが彼の守るゴールにむいていた。イギリスBBCテレビのクルーも来ていた。しかし試合後、能活に笑顔はい。相手チームの選手と言葉も交わさずバックスタンドの挨拶へと歩いていく。前節のようにブーイングはなかったが、サポーターも心から彼の移籍を祝福出来ない状態なのだろう。

 キックオフ時暖かな光に包まれていたバックスタンドも、すっかり陽が翳り闇に溶け始めていた。この競技場で川口能活を見るのもあと2試合。いつもサポーターを気にかけ、時には諫め、一緒に喜び、その声援に負けない声でチームメイトを叱咤激励してきた姿を、この目に焼き付けておきたい。そして能活を笑顔で送り出すためにも、J1残留を決めるためにも、残りの試合に勝って欲しい。
          
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