4点取って勝っても不満なことがあれば、1点だけしか取れなくても完勝と言えることもある、そんな実感のわく試合だった。午後3時過ぎ、前夜からの強い雨でくじけそうな心を励ましながら競技場に向かう。三ツ沢に着く頃には雨も止み、何とか天気は持ちそうだ。6時25分、いつものように能活が練習に出てくる。気がつくと遙か向こうのゴール前には、マリオが。また日本代表GKコーチに復活して、能活とコンビを組んで欲しい。少し遅れてフィールドプレーヤーが登場。サブ組に外池がいて、ちょっと意外。平日の、昼過ぎまで雨の降っていた日にしては、観客も1万人以上と多い。どうかよいゲームをと、祈るような気持だ。
7時3分、キックオフ。いきなりイエローカードをもらったとはいえ、今日はまずユーリッチが目に付いた。ボランチの位置で守備に貢献している。そして全員が集中していて、意図のないつまらないミスが少なかった。試合は序盤から展開が早く、どちらも相手ゴール前までボールを運ぶ。惜しいチャンスは、まずマリノス。6分、FKからのボールを小村が足で合わせようとするが、ポストを直撃。そのすぐ後は柏のチャンス。左からのクロスは能活がキャッチ。
試合前の練習で見る能活のキックは、いつものこととはいえため息が出るほど正確だ。それに比べて南はまだまだ・・・。などと思っていたら、その南のキックからマリノスの点が入った。半端な位置に飛んだボールをユーリッチが上手くはじき返し、それに反応して抜け出した柳が冷静にゴールを決める。ほんの一瞬の出来事だった。実はあと2点は取れたのではないかと思うが、それは言うまい。柳はこのところ確実に点を入れてくれているのだから。
しかし1点くらいで安心は出来ない。すぐさま柏の反撃。クロスに走り込んできた北嶋の足にボールが触れていたら、あわやというシーンだったが、波戸が付いていて事なきを得る。その次の同じようなクロスは、能活がキャッチし損ねCKに。1stステージの対戦で2度もCKでやられたのを思い出す。能活の前でヘディングをされるが、ボールは外へ。このあたりは少しまだ課題が残るが、フィードや飛び出してのキックは絶品。ただのクリアではなくきちんと前線にそれが繋がりチャンスになるのだ。30分のそれなどは、フィニッシュまで行ったが、松田のボレーシュートは南に防がれてしまった。怪我を抱えているせいか、2ndステージに入ってから上がりが少なかった松田も、ようやく攻撃参加を見せるようになってきた。
このところ今ひとつ精彩を欠いた感のある俊輔も、今日は積極的だった。五輪代表で注目されていることもあって彼がプレイするたびに歓声が上がる。それはただ好きな選手がボールを持ったからと言うのではなく、プレイそのものに感心しているため息のようなものだ。ピッチの端から端までを使ったグラウンダーのサイドチェンジパス、相手をかわすときのボールさばき、DFを抜いての一人スルーパス。客席の高い位置から見ていてもボールを追っていると気づかないようなスペースに、パスが出る。それが得点に結びつかないのは残念だが。前半は1−0で終了、マリノスの選手の顔には充実感があった。
後半ヒヤリとしたのは9分、北嶋の足元に来たボールを能活が押さえに行くがさらわれてゴール・・・と思いきや、オフサイド。その20秒後には南と1対1になった柳のシュート、これは狙いすぎてはずれる。そのCKからの流れでユーリッチ・松田・最後は柳だっただろうか、こちらもオフサイド。本当に目を離せない。テレビ中継などでは、のんびりスローを流していると次のシュートシーンを逃してしまう。しかも後半は特にピンボールのように相手や味方や審判にまで当たって、ボールの行方がわからないことが多いのだ。
20分を過ぎたあたりから、柏のパスが繋がり始め攻撃が増えてくる。それをDFの踏ん張りでくい止める。攻撃では俊輔のパスが目立つようになり、再三安藤にボールが渡るのだが、クロスの精度が悪くシュートまでは到らず。35分、足を痛めた柳に代え外池。先発を外された彼は、黙々と一生懸命プレイをしていた。マリノスはしっかり守りながらも攻撃に出たときはシュートで終わっている。あちこちで選手が倒れ、松田は肘うちを食らったと歯を気にしながらゼスチャーで訴える。DFは最後まで集中を切らさない。ロスタイムに入ってからの選手交代は、守備がためと時間稼ぎだ。能活が素晴らしいキックで前線の俊輔にボールを出す。責めている限り、失点のおそれはない。もちろんむやみにクロスを上げたりしないし、FKも直接ゴールを狙ったりはしない。選手、ベンチ、全員が同じ意図の元、勝利を目指す。そして長い笛が鳴り、久しぶりの完封勝利が決定した。
前回の勝利は、4点取りながら妙な形で2点を失ったせいで、能活の笑顔は見られなかった。だが今回は完封、しかも内容が良い。能活の笑顔は全開だ。久しぶりに彼の白い歯を見たような気がする。敗北という高い代償を払いながらも、少しずつ確実に学習をしているマリノス。この試合で体力はかなり使ってしまっただろうけれど、勝利という薬は良く効くはず。どの試合ももう負けられない中で、次の名古屋戦は特に負けて欲しくないのだ。今日のような集中力があれば大丈夫、また能活の笑顔が見られるだろう。
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