6/4コンプリート 9


は〜…………

私は今、猛烈に反省している。
物の判断力にはかなり自信があったつもりだったけれど、いざという時に発揮できなきゃ全く意味がない。

私は失敗したのだ。
一番得意とする「冷静さ」という部分で。
一番ナメてかかっていた、身内という分野で。

説明をしてしまうと、つまり……
女王と守護聖であった両親の間には私の前にもう一子、私の「姉」がいたのだ。

この長女を授かった時点は二人共現役だった故、通常と異なる空間である聖地で我が子を育てる事を最良と判断しなかった女王(ママ)は…
否、それは大儀で。
本当の所、当時まだ存命であった自分の両親を慰める意味で、あえて子供を手放し、託したのだという。

姉は成長して王立研究院所属のエンジニアと結婚した。
この相手はなかなかの腕らしく、ひっぱりだこ状態とかで、宇宙各地の研究院施設や実験都市システム、時には未開地調査にも赴く事もあり(今も何か未開の星で怪しげな導線引いてるらしいんだけど)当然、妻である姉も同行していた。

今回以外は。

理由は---

「よしよし、やっとあの野郎と別れる気になったんだな」
説明の途中でまた都合良くバカいうなよ。この親は。

理由は「妊娠したから」だ。

そこで、出産と里帰りを兼ねて、暫く単身両親(と私)の住む主星に住居を構えるべく、この街を訪れていたのだという。

「違う〜別れないってば!あのね、お祖父ちゃんの家を手入れして住もうと思ったの。
皆には、いきなり尋ねて驚かそうと思ったのよ?
なのに来るなりパパに見つかってしまうんだもの!
あんな人混みでよ?
こっちが驚いちゃった」

このパパという生き物との接触経験が浅いせいか、天然か(多分両方だろう)お姉ちゃんはパパのバカをマトモに受けて、興奮している。

そりゃー、パパの顔面識別最優先記憶データといったらママだから。
同じ顔してりゃ、例え蟻の頭に構成されていたとしても見つけるでしょうよ。

でも、私も人の事は言えないや。
パパだけに注目して、何度目かのその親子団らん状況を「浮気現場」と勘違いしたのだから。

うっわ〜恥ずかしい〜〜!!

それが帰宅後、ここまでの経緯。
私はもう、自分の間違いと勘違いにできる事ならその場につっぷして身を捩りたかったけど、それもまた恥ずかしくて、ボード上の水飲み鳥を横目に気にするフリをしながら、チラチラこの血縁達を盗み見ていた。

う〜〜〜ん。

やっぱり、まどろっこしい事をするな!
そういう内部事情は事前に発表しておけ。
とパパにつめよることもできるけれど、それにもまず、謝らなくちゃな。

それからちゃんと、「はじめまして」って挨拶しなくちゃ。「お姉ちゃん」に。
そこまできて、自分の考えにこそばゆくなってしまった。
「お姉ちゃん」だって。
なんか可笑しい。
だって、ママより大きいのに。

宇宙を飛び回っているせいだろう。
姉は生い立ちから逆算した年齢からは何十倍も若かったが、それでもママより二・三歳は年上に見える。
勿論、この見た目に関してはもっと複雑な時間関係があるのだろうが。
若干色味のせいもあるかもしれない。
私同様、パパ譲りの銀髪に朱い瞳は、やもすればきつい印象材料だ。
しかし、造形は私以上にママに似て柔らかく、なんとも微妙なバランスを醸し出している。

うっ……………冷静に自己顕示欲を抜いても、私の方が絶対、美人だとは思うけど………
…お姉ちゃんって、可愛い………ここは、今時点では二歩程度は負けてるかもしれない。

いやいや!そんな事はどうでもいいって!

天使後継者として、今まで独走していた身には、いきなり折り返し地帯から現れたライバルにいささか焦らずもなかったけど、とにかく、今は謝って挨拶しなくちゃ。

「え〜と………コホン。お姉ちゃん」
………………………
…………………………

………………あの、なあ

意を決して立ち上がり、道理をしっかり見据えようとした私の目前にあったのは、全然しっかりしてない大人達(全・身内)の姿だった。

生き別れ?の妹からの「お姉ちゃん」一声に、満面のバカで興奮状態の姉。
その様子を姉以上に興奮し、涙ながらにムービーメール一括送信しているママ。
家長としての尊厳を傷つけられかけた事もわかってんのか、どうでもいいのか、私達三人を順繰り見廻しては、ニヤつくパパ(ママ本人に、自分要素が混じる、他・ママ二人が存在している事に、またアホな満足と妄想を展開しているに違いない)

…………なんか……

この人達と、遺伝子情報や生理食塩水の濃さで繋がっていると思うと、本気で目眩がする。
自分の杞憂が、この人達に適応するかどうか、見極める以前だった自分にも腹立たしい。


あ〜〜〜
バカばっかし………
私はもう溜息もつけず、うつむいたまま、心の中で自分に言い聞かせるように、ただこの一文を反芻していた。


「とにかく、私だけはマトモでいよう」