6/4コンプリート 1│アンジェリークAM07:12


ゼフェルカット

「今年はクリームのにしようか?苺シロップ混ぜて、ピンクにするの。可愛いよね」

「ゲッ!クリーム系だけは勘弁しろよ」
「じゃあ、パパは苺部分だけ食べてよ」

ヤレヤレ、といった風情の目つきの悪い銀髪青年と、のほほん〜を顔に描いたような金髪女。
私とのゾクガラ(今この漢字ド忘れ)「両親」は今朝もバカップル。

………表向きは………ね………
ふう……

私はアンジェリーク・リモージュ。
スモルニィ幼等科年長・神鳥組女子一番・今週の餌やり当番は兎と鶏。
齢二歳半にして、王立研究院よりお呼びのかかった天才であり、昨年四歳にして、女王宮主催チャリティー全国美少女コンペ一位に輝いた美貌の持ち主。
好きな色はピンクとグレイ。好きな食べ物は甘い物と辛い物と水。嫌いな物はゴキブリとバカな男。嫌いな食べ物は……

「あら、セロリ残しちゃ駄目よ」
「……………………」
「はい、は?」
「………はい」
優しいママについついムスったれてしまうのは悪いけど、今日はダメ。
クリームだ、セロリだの問題じゃないの、はあ〜。
…と思いつつも(ママの為に)その苦々しい物体を放り込む自分は我ながらエライ。
「お、偉いじゃん」

ギン!

急に話に割り込んできたオトコに威嚇する。
アンタの為じゃないわよ!
も〜寄るな触るな、弾けるぞ!

「な、なんだよ。おい?アンジェリーク」
んまあ!アンタごときが私の名(しかもママと同じ名だ)を口にするのもイマイマしいわ!

あっ!髪触んないで!セット後なのよ!
ギャ〜!!!

「何ヘソ曲げてんだ?うらっ」
私はこんなに抵抗してるのに、テキの攻撃はますます激しくなってくる。
こういう時、小さいとか、女ってヤダ。
今コイツにだけは触られたくないって全細胞で叫んでいるっていうのに、頭グリグリってされちゃって、ぶんぶんって振り回されて。
向かいあわせにじっと覗き込まれる。

う………似てる。
この、朱い瞳と銀髪は紛れもなくコイツから譲り受けた物だ。
そう思うとますます腹が立ってくる。

ムカムカムカ〜〜〜〜〜〜〜

「ツンツンしてっとモテねーぞ」

ピシッ!
アンタがいうか?

ガブッ!!!!!!

「!!!!痛ってぇー! 」
「アンジェリーク!なんてことするの!」

フン!

素早い動きで的確に「利き腕を下方噛みつき攻撃」され、奴は見るも無様にのたうち回った。

ケッ!思い知ったか!
小さいから有利な反撃もあるのよ。
先月「歯の健康優良児」で見事金賞を授与された幼稚園児をナメるなっつの。




…………………ふうう


約5分後。
直後の雷を避けるべく、これまた「父親譲り」と評される逃げ足でその場を後にした私は、また大きく溜息をついた。

「そーいえば、もうすぐ誕生日かあ」

今朝の会話を思い出し、ユーウツ度+180…

アイツ…昨日までは「パパ」だったアレと私の誕生日は同じ六月四日なのだ。

この手のアニバーサリーが大好きな上に、親子同日の偶然近辺に、何かしらの乙女ドリームを感じているらしいママは『この日の為に生きていた』と言わんばかりにどの年中行事よりリキを入れる。

だからこの日はどんな状態であれ「ふて寝」とかはムスメ失格なんだけど………
うー…
でも…でもホントの事いうと、その日が楽しかった思い出ってないんだよね。
必ずショックに終わって、気分はドンヨリ……
って、まだ通算五回目を迎えるトコで、記憶にあるのは過去二回くらいなんだけど。
………ここでまた、去年の記憶が蘇って、自らの愚かしさにイカイカ度+120!

きいいいいいいい!!!!
ダンダンダン!

あ〜〜〜!
このまま登園したってダメだわ!
この愛くるしい微笑みで「スモルニィ幼等部の銀天使」と謳われる私の名にキズがつく

〜最悪の気分なんだもん!

パクッ!
お気にいり金魚ちゃんサイフ(口部分ガマ口)の予算を確かめた。

  / 223円 /

ふむ、これだけあれば軽くパチンコ荒稼ぎで元手を増やして、あとはゲーセンにでも豪遊できるわ。
こういうロクでもない才能も「父親譲り」と言われてる事はこの際、脇に置いてってと。


私の両親は仲がいい…と思ってた。
というか、パパ(と認めてた時点の話だから、以下パパ)がベタ惚れなんだってね。

そりゃママだって本当はそうなんだろうけど、パパって、本人は
「オレは仕方なく、ま、折角だしぃ、据え膳食った」
を装っているつもりらしいんだけど、ミエミエっていうか……
私に言わせればとにかく本人がママを評する所の「バカ」に当たる。

私が生まれる時、歩いて3分先の産婦人科を無視して
「女医さんである」というダケの車往復1時間の産婦人科に送迎した事は町内伝説と化しているし、
その仲のよさに使い古しの箸や着古したエプロンがネットオークションにて
「夫婦円満」グッツとして、高額でセリ落とされたとも聞いている。

「若いパパ」って事で、格好のからかい餌食とされる〜
そういうのが何よりも嫌いな癖に、私の送迎大半を自分がかってでているのも、
「私が可愛い」以前に「離婚独身、又は不倫好き」の父親連中と、ママを接触させたくない為らしい。

確かにママって可愛いし、なんていうか、妙な魅力があるんだよね。

ママの親友でパパともお友達の(本人は天敵っていうけど)ロザリアさん(伯母さんっていうのは失礼だから)みたいに
「超美人!」っていうのじゃないんだけど、それに勝るとも劣らない…

……なんだろ?
とにかく「幸せ光線」みたいな物を発してる。

女でも「一家に一人ママ」って思うのに、それが男とくれば…
パパの杞憂も解らなくはない。
「天使が家に舞い降りた」系ママと
「見た目で選んだけど、騙された」見本パパとじゃ、
どちらが持ち帰り得に薦めるかとなると、ムスメという欲目を足してもなあ………
とにかく憐れに値すると思ってたんで、この件においてはパパに同情していた。

…………昨日までは。


対戦台にて、本日五人目の勝利を収めた時点でゲーセンを出た。
やはり…この問題から目を反らしてはいけない。
それがどんなに辛くても、だ。
ママの為に……なにより私自身の為、真実を確かめなくては。




……パパは浮気しているみたいなのだ…