6/4コンプリート 3│ゼフェルAM08:20


土曜日---
オレにとって、それは休日より忙しい一日だ。

何と言ってもまず、
「さっき出ていったガキが、三時間程度、週末の諸注意と牛乳飲んだだけで帰ってきちまう」
という、早起きする価値があるのか?的ぼったくられ気分を味わう曜日。
まあ、家庭によっちゃあ、
「一日、一週にやることなんて、大して変わるはずもない」
と、昼寝にフケる旦那連中も少なくは無いだろう。

独身時代---
かつてのオレもそんなもんだった。
(本当に)自慢じゃねぇが、執務中も寝てた。

しかし、一家を構えた今のオレにとっては、この繁忙期以外の土曜休みは貴重だ。
週締めであるこの曜日。
こなすべき細けぇ事はありすぎる。
買い出しを逃せば、来週のお菜の数も違ってくるし、こんな使いや家事で労い、株を上げとくか否かで、コイツの応じる回数も…

おぉっと、そうだった!

その最中だったな。集中集中。
〜ってこら!こっちが集中しようとしてんのに、何パンツ寄せてるんだよ。
始まってねーのに終わるつもりか?

「…アンジェ、何か変じゃなかった?………やっぱり変だよね?ね、そう思わない?」

……ん?

「敵意がね…何時もと違った気がするの…」

ああ、母親のココロになっちまったのか、じゃ、ま、しゃーねーか……
その点もオレは成長した訳だよな。
わかった。わかった。
じゃ、オレも父親になる為にトイレいってくる。
うん。


++ 間 ++


んで、父親モードになったけど。

「わかんねーけど…もしや……そろそろアレか?捨てられるのかな?オレ」
「なあに?ソレ?」
「オレだってわかんねーよ。娘時代の経験なんてねーし。
ただ、父親ってのは、娘にある一時期『捨てられる』んだろ?」
「あ、あれね?うん、まあ、それは確かに」

息子と父のそれとはまた違い、幾分冷ややかに、娘と父の間に発生する虚無空間。
脳天気を絵に描いたようなコイツにも、思い当たる節はあるらしく、懸命に自分の記憶をたぐり始めたので、その間オレの方もこの知識がどこからきたものか、薄い遠い記憶を繋ぎ合わせてみる。

そうだ、あれは聖地にいた頃、だ。

大層仲良かったクラヴィスとその娘(これもアンジェリークって名前だ)が、野生動物と研究者の様に、一定の距離をとっていた時期があった。

「一種の反抗期と言えばいいんでしょうかねぇ。
クラヴィスは『捨てられる時期』が来たのですよ〜大丈夫。時がくれば、元に戻りますよ〜」
と、ルヴァが、やんわりぼんやり教えてくれた。

続柄が共通すれば、誰もが体験するらしい事とはいえ、クラヴィスの場合、本人が常軌を逸して冷ややかな雰囲気を醸し出していただけに周りに与える印象は恐怖に近く、影響力も多大だった為、誰かが知恵の守護聖に教えを請うたのだ。

内容を説明されて、ホッとした者、数名。
「あんなもの、勝手に捨てていくとはけしからん」
と激昂した者、約一名。

オレといえば、やはり若干の恐怖を感じてはいたたものの
「待つのは………慣れている」
と、ストーカーのように他三人(妻・娘・リュミエール)を物陰から見つめ、そっと安らぎを送るその様は不気味つつも、憐れに映り
「メカチュピなんか動かしてみる?」
なーんて、声かけたんだっけ………

しかし、この想い出を反芻しても結論は出ねえ。

「う〜ん。あの子の場合、捨てたい、存在を無視したい、っていうより…
…何かつっかえてる感じがしたわ?
…でも…確かに『捨てる』ような反抗期じゃなくても無意識の不安はあるのかもしれないわね。
心の不安を埋めようとして、イライラしたり、妙な行動を取るのは、大人も子供も同じだものね」

ふーん………………………

こういう時のオメーは「いつか見た天使さま」だよな。
慈悲の象徴のような淡い微笑みと憂いと。
女神様、天使様と謳われた、この遜色は経産婦になっても変わらない。
すぐ本来の目的を忘れるオレは、もっと変わらねーが。

「一寸…………ねえ、ちゃんと聞いてる?」

あんまり

「ねえねえ」

クッオメーも学習能力ねーよな。
オレが、こういう態度になった時に近付いたら、もっと聞こえなくなるんだって、わかんねーかな?
…その方が都合いいけど。

ガバッ!
「きゃーーーーー!」

イヤ、10分くらいは待てるようになったんだって、これでも(笑)


「………ダメ……話の途中でしょう……ね……」

オレの攻撃に困りつつも、天使様は微笑む。

ホント、コイツは昔から…時折根拠のない信憑性めいた物があって……
神秘的、っていうのか?
昔コレ、大嫌いだったんだよな。
そりゃ、綺麗だな…とか…尊敬は…してたけどよー………

つまる所「女王陛下のサクリア」による時、より感じたからだ。

今は、そう、ただ「いいなあ〜」と思う。
要するに、独り占めできりゃ、なんでもいーんだ。
どーせ心狭いです。ハイ。

ガキは鎹というけど、オレのバアイ理性の鎹もかってる。
娘の事が入ると、さすがに我に帰るんだが…
…ホラ、娘は今幼稚園で、帰宅にはまだまだ間があって
オメーはトロンと…一種殺人的可愛らしさだ。

………ダメだな、やっぱ。
父親的理性〜は、またどんどん遠くにいって、苔蒸してくる。
だから、ほら、オメーも天使サマは止めて。
「オレさま仕様・おバカアンジェ」に戻れよ…な?

「そっち、後にしねー?」
「ダメーー!ゼフェルはすぐそうなんだよ。ちゃんとお話終わってから!」

ぷぷぷ。
コイツも娘の前では一応一丁前の母親態度に努めようとしているらしいが、二人になると、丸っきし昔のまんまだ。
アンジェ(娘)にやるみてーに頭グリグリしてやるとガキみてーに(それ以上に)騒いで暴れる。

あ〜可愛い!ムギュ!

頭の隅で「正午までに何回」などど計算しちまう自分がちと悲しいぜ。
何時までもダラダラダラダラ、イチャこいていたいのに。
ある意味ガキ作ったのは(オレのせいだが)早まったかな〜やっぱし。
交際と呼べるのは(親分子分の友達付き合いもそれに当たるのかは謎だが)試験中とその後……これもやれ新試験だの、侵略者だの、只でさえ時間のねぇ女王生活を散々蝕みやがるし。
失態の末、籍は入ったものの、マトモな新婚生活なんてある訳もなく、真実そう呼べるのは、更に数年後。
コイツが退任してオレんちにきてからだ。
そん時だって、再びハラにガキはいるわ、オレも退任、の騒ぎのままシャバに戻れば、すぐ出産、育児。
二人きりなんつーのは………

………だから、オレが悪いんだけど。
………だからヘタだからけど(仕上げだけだそ!他は…イヤ何だ)
………だったらちゃんと時期を計算……とか理性ないからだけど。

「アンタ達が何時までたっても子供だから、そーゆー事態を招くのよ。まあバランスっていうか、子供は、どちらもしっかりしてて上手くいくものね」
こう毒づいたのはロザリアだ。
「親がついてる方が、よりしっかりしてるのは反面教師、ってやつかしら?」

………………あ

あ!そーだソレだ!
ついてねー方!

ガバッ! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜クルクル〜〜ゴン
あ、ワリぃ!

絡まってるのにいきなり身を起こした反動で、アンジェが部屋の端に転がっちまったぜ。
慌てて再び抱き上げ、ソファに降ろしてやったが、半分目を回している。

「なんなの!もー」
ブスッたれてきた。
早く話題を出さにゃ。

「アンジェ、あいつが戻ってくるんだ!アンジェリークが!」



……実際この名前、多すぎるんだよ、周り…