6/4コンプリート 天使の一番長い日 4


「おお、痛ぇ。っとに、そのキョーボーさは母親譲りだよ。オメー」

パパは買い直したケーキ(対戦により、一回転したケーキは、勿論、敗者であるパパが食す刑だ)を慎重にかばいつつ、私のバッシュ底…うさぎラバー型をくっきり刻まれた額をさすりながら、ボヤく。

「ぷんぷん。パパでしょ!それは」
「いいや、アイツ似だね。今でこそ、とりすましちゃいるがな〜
…そういえば、オメーが生まれてから、アイツ、本当オレにとんと手を挙げなくなったな…
そっか、たった五年前のことなんだ」

そこまでいうと、何か思うところがあるらしく、また一人で照れている。
まあ、私はつい先日まで、両親の結婚生活はせいぜい、五・六年程度と思っていたけど、実は相当歴史が長いらしいしなあ。色々あったんだろう。

「ねえ、パパの将来の夢ってなあに?叶ったの?これから叶えるの?もう諦めたの?」
「なっ何だよ!急に」
「だって、今日は誕生日じゃない?私、いつも自分の夢を発表するけど、パパのは聞いたことがないもの。たまには、パパが発表してよ」

ここまで訪ねて、ふと、パパが本当は見た目どおりの年齢ではない事実を思い出した。
うっ、挫折に弱そうなタイプだし、メタメタな過去があったら、どうしよう。
>ある意味、ドンピシャ(笑)

しかし、こちらの杞憂はなんとやら、実にあっけらかんと答えてくれた。

「わかった。ああ、夢全部叶ったぜ。
そりゃ、完璧、理想どおりとは、まだまだ言えねーけどな。
なりたかったエンジニアにもなったし、家も建てたし、空の青い故郷も、家族も……」

そこで一旦、言葉を句切られたので
「やっぱり、私か、お姉ちゃんが、男の子の方がよかったの?」
なんて、的はずれなことを聞いてしまった。

「違う違う。
ま、もーちぃっと、大人しい妻子だと、もっとイイがな〜
…夢は叶ったんだ。
だから…却って、時々すげえ怖くなる。
誕生日の朝なんか、特に『これは全部都合のいい夢だった』って目覚めるんじゃねぇかって…また…」

また、ってことは実際あったの?

「人間って勝手だよな。
オメーみてぇな頃は、今みたいになりてぇって、夢みてた。
それがある日、全部一辺に壊れちまったら、悪夢をみるようになった。
そん時の現実は悪夢より、もっと嫌で嫌で…また現実がマシになって昔の夢が叶ったら、今度はこれが夢ならどうしよう?って怖くなる……」

もう一度、言葉を句切る。

「…アイツ…アンジェリークは、今でも女王なんだ。
歴代の女王とは違う。力がどうとか、じゃなくて」

女王が、なんで聖地に隔離されているか解るか?
力のあるうちは歳をとらねぇから。
力がむやみに外界に影響しねぇように。
その身の安全の為に…色んな意味があるが…
一番の理由は…

女王は、皆に平等じゃなくちゃいけねぇ。
在位期間は献身だけで生きる。

けど、人である以上、人と関わってる限り、そんな事は絶対、無理だ。
だから、一人になる。
それでも女王の在位は短い。
女王でいることに絶えられなくなる

アンジェリークは違う。
自分は愛されなくてもいいんだ。
女王というより、女王の力だけで出来てるようだ、と誰かがいった。
宇宙の危機に生まれた女王だから…
…なんか特別な存在だったのかもしれねぇ…

それを、天使っていうのかもしれない。

オレはアイツが好きで、どうしても独り占めしたかった。
アイツが誰をも愛しているなら、オレがアイツを一番好きになればいい。
そう思って一緒にいたらオレを選んでくれた。
嬉しかった。

「だが、ある日……ふっと思った」

天使は、誰をも幸せにせずにはいられない。
他のヤツらは「アンジェリーク」じゃなくても「女王」がいればいい。
宇宙があれば、女王は代替わりに、この先、いくらでも生まれてくるんだ。

オレは…
オレがアンジェリークを望んだから…
オレだけは、それでしか幸せにならないから、アイツはオレを選んだんじゃないかって。

オレを好きになった訳じゃない。
オレだけを不幸にできなかっただけなんじゃないか?

自分で、自分の罠にはまったんじゃないか?
アイツが誰をも愛しているなら、オレがアイツを一番好きになればいい。
確かにそう望んだ。

---一瞬、セイランの言葉が頭をよぎった。

彼は試したいのかもしれないよ?
本当に、妻が彼自身を愛しているのか。
女神の慈悲で、宇宙の一遍として、庇護しているのか。

「だったら、どうなの?もし…」

「いいんだよ」

「え?」


「オメーが言ったんじゃねーか。
どうして?なんてどうだっていい。
オレはアンジェリークを手に入れた」


アンジェリークは此処にいる。
それでいい。



この人は。

本当に、とても歳をとっているのだ。


此処に立つまでに、この言葉を得るまでに、どれ程の変化を経てきたのだろう。
どれ程の時を経ても、決して変わらぬ、唯一を望んだ故に。

二人の為に宇宙(せかい)は終わり
今、私は此処にいる。