In My Blue Sphere 13
―Go My Way!―

    




 切り裂く音が場所を支配する。
 神のように折り重なってくるモノたちをなぎ払う。
 進め!
 回廊を通り抜けて。迷わずに。時を止めるな、歩みを止めるな。
 心の中が沸騰していく。体中の血がたぎるのがわかる。止まるな、恐れるな。
 紋章術師が唱える足下からわきあがる光!色とりどりの、劫火がさざめいて、呼び覚ます。原子の鼓動を!
 「この世を取り巻く元素たちよ、我が言に答えわれに力を貸せ。水よ、土よ、風よ、ここに道を作れ、星を呼べ」
 蒼髪の少女から生まれ出でる烈火の星。踏みとどまる前に、彼が技を打つ隙に、後続を断っておく。指先から作り出される印、駆け上がる星々への命。気合いとともに発される言葉に、覆い被さる!
 「……星よ、炎をまといて我が元に来たれ!」
 ヴァズゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
 紅炎をまといし巨大な固まりが召還され、閃光を伴って降り注いだ。光の灼熱が星の属性を持ちてきらめきと裁きをもたらす。機械たちに巻き付き、鉄の固まりと還らせる美しき刃が、追跡者たちを粉々に砕く。
 鮮やかに。
 「キグナスまで、あと3分!」
 その中で、手元に立ちはだかる敵を紙のように切り裂き、寸刻のずれをおいたのちに爆発する衝撃を全身で感じ取り、クロードは一心に身をひらめかせていた。ラジェイのフェイズガンが道を切り開く。幻惑的な光とともに。
 「行けっ!」
 言葉を選ぶ余裕などない。7人の人間から放たれる壮絶な刃は色とりどりの光の柱と残像となって空間をとどろかせていた。劫火、烈火、赤禍。
 「止まるな、走れ!」
 技を放出しても、とどまるのは許されぬ。
 疲弊に滞る呼吸も、その歩みを止めることは出来ぬ。
 まして、機械仕掛けのものどもなぞ、問題にもならぬ!
 「クロード少佐、出口です!」
 道しるべとなる光の羽ばたく音が聞こえたかのようだった。四角く切り取られた出口に向かって一心に突っ走った。そして、外からでてくるのは。
 ……がしゃ、がしゃ。
 さらなるモノ。
 それでも、止まらない!
 「どけええええええっっっっ!」
 気合いとともに、ブレードから空破斬を放った。ヴァズッ、と音がして不可視の奔流が風を薙ぎ、瞬断の刃と化して、さらに雷撃に似た破裂音が疾走していく!
 止まってなどやるものか。あらゆる動作がすべてを求める。生きる、生きてみせる。帰ってみせる!邪魔はさせない。
 (還るんだ)
 自分たちの星に。
 そのとき、一心にフォストブレードを降るクロードの前方、いきなり影が覆い被さるのが見えた。
 「少佐っっ!」
 「なっっっ!?」
 上空から押しつけられる波動砲に間一髪、レナの光の盾が割り込んだ。ズドォォォッゥッ!と音をたててガラスのようなきらめきだけが舞散る。勢いを殺しきれずに向かってくる熱い熱い祝福を前に、クロードは恐るべきモノが目の前にあることを突然認識した。
 「戦闘機……航空兵器か!」
 大空を駆けめぐる疾風の破壊兵器が、まず1台、、彼らをつけねらっていた。ある程度予想はしていたモノの、嫌な想像が頭を駆けめぐった。まさか。
 (まさか!!!)
 『主、サマ……』
 地の底から響いてくる声!
 「まだ生きてやがるのか、あいつは!」
 紫の美しい髪に汗をにじませ、ラジェイが吐き捨てた。レナ、いやフィリアを手に入れるため、彼らは戦闘機まで持ち出したのだ。あの爆発のなかで生きていたことも驚きだったが、ネーデの化学力を考えればあり得ないことではなかった。その間にも、戦闘機は無慈悲な襲来をし続ける。弾が肩をかすりかけた。ただ衝撃だけで吹っ飛ばされるには十分だ。
 「くっっっ!」
 爆発音とともに追い込まれて、必死で交わし続けながら斬檄を空へと放った。しかし、所詮は人の力にすぎぬ。
 (ウリエル、お前は)
 そんなにまでも愛するのか。
 すでに狂っている。レナ、いやフィリアに与える影響なぞ頭の中に入っていないのだ。ここにあの仲間たちがいれば、と独白する。
 (いや、狂っているわけじゃない)
 彼にとっては、当然のことなのだ。愛するモノが手に入らないのならば。
 いっそ、壊してしまえ、と。
 彼らがネーデを欲し、そして手に入れられなかったモノに対して行ったことだった。わかっていたはずだ。殉教者に似たように。愛するモノをまさに狂おしく欲し、心を淀みへとゆだねさせて。
 狂気に、喰らわれて。
 「くっっ!」
 それでも、さすがに戦闘機を相手に出来るほどの戦力はない、ここまでか、というつぶやきをクロードは漏らした。
 ガガガガガガッという音が空間を切り裂いたのはその瞬間!
 「少佐ぁあああああああああっっ!」
 飛来した味方の空挺、通称「アヴェンジャー」!ネーデ戦闘機が打ち落とされる!
 「つかまれ、早くっ!脱出するぞ!」
 レイモンド少佐の援軍だ、と気づいた瞬間に発した言葉はそれだった。まさに天の助けだった。こちら側の戦闘機は性能は劣るものの、向こうは所詮CPだ。「アヴェンジャー」と別に「ヴォーテクス」「カルマ」計3機から垂れ下がるロープを思い切りつかみ取り、近くにいたレナを抱え上げる。
 「クロードっっ!」
 一瞬だけ無防備になる前に、下の機械軍団に向けてフォストガンから一撃を放った。その間にもレナは呪紋を紡ぎ出すのをやめない。白き裁きの刃、光を生み出せし眩みさまよう天恵、重なりて混じり合え、白光聖、顕現せよ!
 「聖なる十字(ライトクロス)!」
 微震、きらめき、烈界が狭間に爆発する!
 十字を伴う光の槍に貫かれて、ミィル43型が次々と破砕音に飲み込まれていった。
 「収容はいらない!このまま飛べ!」
 時間との勝負だ、このまま収容されるよりも多少速度がでなくとも直接キグナスまで運んでいった方が早い。6人全員がうなずいた。ラジェイ、と叫ぶ。
 そしてラジェイへの呼びかけは伝わったようだった。顔の橋に笑いを浮かべ、ラジェイのみが「アヴェンジャー」に収容される。
 「任せておけ!」
 わずかなタイムラグの後に、空挺「アヴェンジャー」が、戦闘機へと変化する!
 ずががががががっ、という音とともに、アヴェンジャーだけが下のモノどもへと紅蓮の炎を発する。操縦するモノが変わった、と明確に伝える動きだった。そう、届けるためには足止めが必要だ。しんがりを任されて、ラジェイは自らがそのものと化したかのようにもう一つの自分に神経を漂わせた。織りなせ。進め!
 目指すはキグナス!
 たどり、つけっっ!

 





    


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