試合レポート

 
第5節 9月15日 横浜マリノス対東京V 国立競技場

 前半を見ながら「ああ、今日は試合レポートはなしだな」と思った。それほど何も無いゲーム。連携も助け合いもやる気さえもなさそう。それでも気を取り直して、こうして書いているのは、後残り少ないかもしれない能活の出る試合を、見られない人がたくさん居ると思ったからだ。失点でしかGKを語れないスポーツ紙や、確認もせず相手選手の怪我を「キーパーとの接触」と書く通信社からの情報では、不安が募るだろうから。

 試合前の練習中、いつものようにサポーターからのコールに手を振る能活。そんな見慣れた光景にも、胸が熱くなる。引き上げていくとき、小倉と肩を組み何やら話をしていた。キックオフ直前には、先の米国同時テロ犠牲者に対する黙祷が。能活が、ざわついていたマリノスサポの方を振り返り「静かに」とゼスチャーで示した。明日、戦争が起きるかも知れない。今、このとき、サッカーを楽しめるありがたさ。しかし、そんな思いもキックオフと共に吹っ飛んだのだが。

 5分で「今日も寝ている」、10分で「ドゥトラがおかしい」。とても降格争いの直接ライバルと戦っているようには思えない。3連勝中は、波戸がグレてしまわないかと思うくらい左サイドに偏っていた攻撃が、見られないのだ。では右からかというと、そこにいるのは新人の田中。頑張ってはいたが、いかんせんそれだけでは通用しない。何度か駆け上がりクロスを入れるのだが、あまりにも精度が悪く可能性が感じられない。それでも、無難な横パスやバックパスばかりするよりも、チャレンジしているだけ良いのだが。ドゥトラがおかしいと感じたのは、上がりがないだけでなくボールをしょっちゅう取られていたからだ。ナザが足を痛めているのは聞いているが、彼もどこか悪いのかと思うくらい。

 某掲示板に、「能活のどんぴしゃフィードが今日は無かった」という書き込みがあったが、それは出すところがないからだ。前の方で誰も動き出さず、フリーにならない。仕方なく何秒か待つと、FWはDFを背負ってしまう。それでなくても前に行く意識の薄いチーム、せっかく一気にボールを前戦に運ぶチャンスなのに。

 半端なパスを出しては取られてカウンターを繰り返し、何とかDFとGKでしのいでいたが、ついに37分、点を失った。何のプレスもない中盤からあっさりロングボールを放り込まれ、これまた“ど”がつくほどフリーだった前園に決められた。もっとも私がそう認識したのは、帰宅してニュース映像を見てから。現場ではちょっと目を切っていて、気が付くともう能活と1対1だった。このとき前園が骨折をし、一瞬能活と交錯したのかと思ったが、後にビデオを見たところシュートを打つ瞬間にやっているようだ。ただ事実がどうであれ、現場でヴェルディーの選手は「能活に壊された」と思ったことだろう。立て続けに中沢も、これは本当に接触で負傷退場しているし。それが相手チームを一つにした。逆にマリノスはバラバラ。何がしたいかわからない。前半はそのまま0−1で終了。能活は田中を捕まえて、しきりに何か話していた。

  後半立ち上がり、あっさり追加点を取られる。ゴール前で、人数も揃っていたはずなのに。だがここからようやく目が覚めたように、マリノスの選手が動き出す。俊輔からドゥトラのクロス、ブリットのヘッド。俊輔のスルーパスにブリット。そんな中でようやく13分、城のシュートがバーを叩き頭を抱えたサポーター達の目の前のゴールに、ブリットがシュートを決めてくれた。残り時間はまだたっぷりある、とにかく同点に。その後は、能活がほとんど触れるチャンスもないほどの、ボールの支配率。キーパーの手をかすめた松田のシュート、一人で持ち込んで果敢に打った田中のシュート、31分交代で入った坂田のクロスに飛び込んだブリット。しかしどれも決まらない。時間は刻々と過ぎていく。

 30分頃から何やら格闘技めいてきた。田中とポジションをチェンジして右サイドにいた遠藤が、ボールを持った瞬間駆け上がる選手。「あそこに出せ!」だが、もたついている間にチャンスを失ってしまった。ふと見ると、上がってきたのは松田。業を煮やしたというところか。しかし、40分を過ぎるとぱたりと全員の足が止まってしまう。相手もさんざんミスをしていたが、 それにつけ込むことが出来ず結局1−2のままゲームは終了した。ただの負けではない、重い重い1敗。ロスタイムにもらったイエローのせいで、次の試合はドゥトラが出場停止というおまけまでついて。

 俊輔が「生まれ変わった」といっていたチームの雰囲気の良さは、完敗とはいえ清水戦たった1試合でダメになってしまう物だったのか。ペンキを塗り直した家のように、表面は綺麗になったようでも中の木は腐っていたということ?けれどシーズン途中、降格争いのまっただ中で土台から建て直すことは難しい。それでなくても大切な柱である能活が、もしかすると居なくなってしまうかも知れないのだ。 何とか全員の力で、家としての形を保って欲しいのだが。いくら私が能活個人のファンだからといって、6年間見続けたマリノスの降格を見たくはないもの。

 試合後、ひとしきりヴェルディーの選手と挨拶を交わし、一人遅れてゴール裏に行った能活に、拍手が湧いていた。他の選手の時は、ブーイングだったのだが。ぺこりとお辞儀をした能活。その姿がお別れの挨拶に見えたのは、私だけだろうか。
          
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