「まだ完全優勝を諦めてない」と言いつつも、心の片隅にはチャンピオンシップがチラチラする今日この頃。現在リーグの首位を走っている鹿島は、その相手になる可能性が高いのだし、特に叩いておかなければいけないチームだ。6時35分、いつもより多いと感じられる声援と鹿島サポからのブーイングを受けて、能活登場。サッカー番組のタレントや法被を着たマリノス君が、サポーターの前でカメラに囲まれている。鹿島サポの声の大きさに、選手紹介のアナウンスが聞こえづらい。鹿島の選手は練習に出てこなかった。
7時3分キックオフ。鹿島の2トップは柳沢と平瀬。遠くからでも存在感を感じる。その2人が始めからプレッシャーをかけてくる。マリノスはいつも以上にバックパスが多い。攻めに専念すると報じられていた俊輔が、あまり前に行けない。ボールを持つと中田が寄ってくる。4分、鹿島が右から良いクロスを入れてきたが、間一髪能活が回り込んでパンチ。CKのボールはしっかりキャッチ。そこからのフィードが抜群だった。前線にいたエジミウソンへ。その後の柳のシュートはGKの真正面だったが。10分には上野のミドルシュート、11分には俊輔のクロスに柳のヘッド、15分にはエジミウソンの1対1、しかしいずれも入らず。そうこうしているうちに、鹿島の攻撃時間が増えてくる。26分にはCKからのボールがゴール前で跳ねてヒヤリ。これは能活がキャッチ。
この試合で目に付いたのは、柏戦に続き守備で奮闘していたユーリッチ。松田が故障なのでリベロの位置に入っていた。以前その位置に入ったときには今ひとつだったのだが、してみるとあれはやはりまだコンビネーションが出来ていなかったせいらしい。ちょっとスライディングが多いかなとも思うが、ピンチには必ず現れる。上野もよくパスカットをしていたし、右サイドの安藤に良いパスも出していた。が、その後か続かない。いつものように足元を狙ってパスを出しては取られてしまったり、クロスが甘かったり。
前節ことごとく壁に当たっていた俊輔のFKは、この日少し工夫がみられた。30分、ニアに低く放り込んで誰かが触れればというボール。のちにVTRで見ると、事前に小村とアイコンタクトを取っていたようだ。しかし触れられず相手GKがセーブ。他にも三浦・俊輔と2人がおとりになって柳の強烈なシュートとか。いずれも実を結ばなかったが。この日は高桑に何度かチャンスを阻まれた。何しろ日本代表をベンチに置いているチームのキーパーだもの、素晴らしいのも当然。だがむしろゴール前で積極的に打たずパスばかりを回すマリノスに、問題がある。「決定率が低いのではない、シュートの数が少ないのだ」という記事をどこかで読んだ。その通りだと思う。打てば何かが起こる。しかし横に動かしている限り、決してボールはゴールに入らない。素人が考えてもわかることなのに、どうしてプロの彼らがチャンスを減らすような行動しかとらないのだろう?そして0−0で前半が終わる。
後半、選手の交代は無し。マリノスの2トップは柳と、このところ得点から見放されてるエジミウソン。なぜ外池ではなく彼なのかと思うが、練習を見に行っていた人の話では紅白戦でゴールを決めていたという。しかし、7分キーパーと1対1のビッグチャンスをものに出来ない。10分、柳のボレーも枠の外。それでもシュートを打っているのだから、前半よりはいい。持ちすぎてDFが揃い結局は後ろに戻すというシーンはもう見飽きた。なのに、その“持ちすぎ”から失点してしまう。ボールをさらわれアッという間のカウンター、途中ユーリッチがスライディングで止めようとするがパスを繋がれ、柳沢にDFが引きつけられフリーになった平瀬がゴール。しかもそれに応対しようとして急激にターンした能活が足を痛めてしまう。誰かと接触した以外の怪我を、初めて見た。何とかプレイを続けるが、相手が倒れた隙を見てテーピング、結局は交代してしまうのだ。
ところが交代が決定的となりボールが切れるのを待っていた27分、まるでピッチを去ろうとする能活の執念がそうさせたかのように、マリノスに点がはいる。小村が放り込んだボールを柳が落とし、エジミウソンが本当に久しぶりに決めた。その得点をいつものように飛び上がって喜ぶことも出来ずに、能活は足を引きずりながらピッチを出る。交代した榎本はJ初出場。最初のシュートを後ろに反らせたときはどうなることかと思ったが、ずっと能活と練習してきたせいか足元に飛び込むプレイはさすが。そのあたりから落ち着いてきたようだ。DFも必死でカバーする。そしてやっとエンジンがかかったのか、攻撃は積極的に。ゆりかごダンスが見たい遠藤、ショートコーナーから俊輔と立て続けのシュート。決定的なのは45分ちょうど、俊輔がDFふたりの前を横断するように出したパスからエジミウソン。しかしそのシュートは高桑に止められてしまう。
ロスタイムは5分と長かった。だがここで急に動きが鈍くなる。まるで引き分け狙いのように。鹿島の方はそれでいいかも知れないが、マリノスはもう後がない。それとも「まだ諦めていない」は口だけで、やはりチャンピオンシップを意識して“負けない”ことを優先したのか。三浦からのショートコーナーの途中で後半は終わってしまった。能活が痛む足を引きずりながら、選手達を励まして回っているのが痛々しい。誰よりも勝ちたいのは、彼のはず。それなのに。
延長戦になって急に降り出した雨は激しさを増し、滝のようになった。次々に客が引き上げる中、必死にプレイする選手達。ずぶぬれになりながら応援する両チームのサポーター。「なんか、修行っぽくない?」と目の前の高校生。傘の中で小さくなりながら私は、この試合に決着がつくまでは絶対に帰るもんかと思う。しかしマリノスはより多くのチャンスをつくりながら、結局は決められずそのままゲームは終了した。引き分けについて考える余裕もなく、濡れた洋服と冷えた身体を何とかしたい一心で帰途につく。ニュースを見て初めて悔しさがこみ上げてきた。せっかく上位チームがみな負けたというのに。だがそれも能活の怪我に比べれば、私にとっては小さなことだ。どうか軽傷でありますように、そう願うのみである。
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