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『頭がいい』、『やればできる』は心を壊す

『頭がいい』、『やればできる』は最悪

子供の心を壊す言葉かけ

「子供は褒めて育てる」
「褒めることで才能が伸びる」
といったような教育論があります。

しかし私の見る限り、このような教育論を説く教育者や本には、『一番大切な心を育てる』という概念が欠如しているものがほとんどです。

また、親のほうにも、我が子の学業や習い事、スポーツなどの成績を伸ばすことばかりに目を奪われて、心を育てようという教育をおろそかにしている方が多くみられます。


しかし本当は、人を思いやる優しい心、
親や先生の言いつけを守る素直な心、
人と協力して行動できる協調性や忍耐力、
何事にもチャレンジしてみようという勇気、
少々の失敗や挫折にもくじけない精神力など、
心を育ててやることのほうが、人生にとってはるかに大切なのです。

不登校や引きこもりになる子というのは、ほとんどがこのような心が育っていないために勉強や対人関係などでつまずくと、あっさり心を病んでしまうのです。


そして、そのように心が育っていない子の場合、褒めて才能を伸ばすという育て方をされていると、それが大きなアダとなって、より事態を深刻化させてしまいます。

褒めて育てるには、そんな危険性があるのですが、良い面ばかりしか喧伝されていないので、ここにその弊害を紹介していきましょう。


最も多くの家庭に見られる例は、成績優秀な子にしようとして、『頭がいいね』、『賢いわね』、と事あるごとに褒めて育ててきたケースです。

中には、父親や母親が頭がよくて一流高校、一流大学を出ていて、『やっぱり、あなたはお父さん(お母さん)の子だわ。やればできるのよねぇ』などと言っているケースもあります。

これらは、誤った語りかけの典型的な例です。
最悪の言葉かけと言っても過言ではありません。


もちろん、このような褒め言葉の影響で若干は子供の能力は伸びるでしょうし、それ以上に本人が「お父さん、お母さんを喜ばせるためにがんばるぞ」、という気になるので、小学校、中学校程度では、成績優秀で学年でトップの成績をとることもあるでしょう。

親のほうは、そのような結果が出ればますます鼻高々で、末は博士か大臣かとばかり我が子に期待をかけ、自分の教育方針に対してもゆるぎない自信を持って、心の重要性など、どこ吹く風になってしまいます。

いや、子供が成績優秀を鼻にかけて天狗になっている状態を、積極性もあって明るく活発な子に育っている、と勘違いしているといったほうが正確かもしれません。


いずれにしても、『褒めて育てる』だけを実践した家庭の子で心がちゃんと育っていることは、まずありません。

ちなみに、現代の若者に心を病んでしまう人が激増している大きな要因のひとつに、親による心の教育の欠如が挙げられます。

もとい、なまじ褒められおだてられて成績優秀な状態で高校や大学に進学したりすると悲劇です。

高校や大学は学区で入学が決まる小、中学校と違って、同じ学力の人間が集まってきます。


当然、これまでのように井の中の蛙で成績自慢をすることは非常に難しくなってきます。

トップから一気に劣等生などということもおこってくるのです。


そんなときに、勉強こそが一番大事だという価値観で育てられ、自分もそれを唯一のプライドとしてきた子供は、瞬時にに価値観が崩壊してしまいます。

人を思いやる心どころか、成績の悪い人を見下すことすらしてきた自分が、見下される側になろうなどとは夢にも思わなかったことでしょう。

しかし、現実は現実です。

そんな現実を目の前にしても、心がちゃんと育っていれば素直に人を認めることができますし、そのうえで、自分も負けないようにまたがんばろう、という気になります。

それに対して、心がちゃんと育っていない子は、自分以外の何が間違っているのか、どこがおかしいのか考えだします。

『そうだ。お父さん(お母さん)はオレのこと「頭がいい」だの「賢い」だのと言ってきたが、全部ウソだったんだ。勉強させるためにおだてていただけだったんだ。もっとテレビも見たかったし、ゲームもしたかったし、友だちとも遊びたかったのに。自分の欲望を満たすためにオレを利用しやがって。あの野郎、許せない』

なまじ頭がいいだけに真実を見抜いてしまいます。


こうして徐々に心を病んで、学校にも行けず、親には反抗し、引きこもりがちにもなり、ゲームやネットの世界にもはまりこみ、『こうなったのはお前らのせいだ。責任を取れ』などとわめきちらしたりするようになるのです。

大抵の子は心が幼児の段階から成長していないので、幼児さながらに、大声を出したり、泣きわめいたり、暴言を吐いたり、暴力をふるうようになったりします。


以上、ここでは勉強の例を挙げましたが、これは勉強だけにかぎりません。

どんなことであっても、『褒めて育てる』ということばかりで、心を育てるということがなければ、いったん褒められた部分で挫折してしまうと、そこから立ち直ることは容易ではありません。


今の時代は、物や金、成績、地位など目に見えるものや客観的評価の容易なものばかりが重要視されますが、本当は目に見えない心こそが一番大事なのです。

何と言っても、幸不幸を感じるのは心なのですから。

それを忘れている現代人が多いような気がします。

褒めて育てて失敗するパターン

人間だれしも自分を立派に見られたいものです。

その延長線上で、自分の分身でもある子供が人から褒められたり、賞賛されたりすると親としてはうれしくものです。

そんな見栄や自己満足のために、子供に勉強やスポーツをがんばらせる親御さんがいます。

また、子供を自分の所有物であるかのように考えていて、自分の持ち物だから一流でなければならないと、勉強やスポーツを頑張らせる親もいます。

ようするに、『私の自慢の子供でいてちょうだい』とか、『オレに恥をかかすな』ということですね。


もちろん、自分ではそんな心を自覚しておらず『これは本当に子供のためなんです。将来、いい仕事について、勝ち組に入れるようにしてあげているんです。それが私なりの親としての愛情です』と、子供思いの愛情深い親だと自負している人が大半ですが。


このような親御さんは、『あなたはやればできるの』とか、『頭がいいわね』といったような褒め言葉でおだてて勉強やスポーツをがんばらせようとしがちです。

このような褒め言葉は、最悪であることはお伝えしたとおりですが、もうひとつありがちな誤ったほめ言葉に『それでこそお父さん(お母さん)の子だ』というものがあります。


勉強やスポーツでいい成績がでているときは、その言葉の罪深さに気づかないでしょう。

しかし、子供が試験や試合などで失敗したりしたときこの言葉はメガトン級の破壊力をもって心の中に蘇ってきます。

『失敗して落ちこぼれたオレは、もうお父さん(お母さん)の子じゃないのかよ。しょせん、あんたは勝ち組の子が欲しかっただけだもんな』

試験や試合に失敗して落ちこんだり、やけになったりした子供の心にはそのような思いが湧いてきます。


もちろんこれは、他愛のないゲームなどで子供が勝ったときに冗談めかして『それでこそオレの子だ』と言ったりしたようなものは含めません。

勉強であれば、常日頃から教育熱心で、成績のことで子供と一喜一憂したりして、親も子供も受験に命をかけている、といったような状況があった上での発言の場合です。


実際、そのような言葉のせいで親に対しての不信感がどんどん募っていき、ひどい家庭内暴力に走ってしまったというケースはたくさんあります。

ですから、少々勉強ができるからといって、それを褒めることなどないのです。

褒めて才能を伸ばすという考えもありますが、褒めて伸びる程度の才能であれば、たかが知れています。


本当に頭のいい人間というのは、塾に行かせたり、家庭教師をつけたりして、親が必死で大金かけて下駄を履かせたりしなくても、自分で勝手に参考書だけで勉強して東大や京大に入ってしまうものなのです。

だから、勉強のことで子供を褒める必要など全くないのです。


それなら、子供は褒めなくてもいいのか、というと、そうではありません。

大いに褒めたほうがいいのは、
子供が自発的に家事などの手伝いをしてくれたとき、
他人に親切にしてあげたとき、
人を助けてあげたとき、
小さい子や動物に優しくしてあげたとき、
などです。


つまり、目に見える成績や試合結果などではなく心の成長が見えたときです。

子供は乱暴な言い方ではガキとも言われますが、これは、決して満たされることのない欲望に責めさいなまれているる亡者をあらわす仏教の言葉、餓鬼からきています。

子供の心は純粋ですが、これは自分の欲望に対しても、素直であるということです。

だから、基本的に子供は自分の欲望、欲求だけを主張し、それが叶えられないと泣きわめきます。

赤ちゃんがそうですね。

そんな自分の欲望を満たすことだけしか考えないガキから、欲望を抑えて我慢することや人を思いやる優しさを身につけることで常識ある大人へと成長していくのです。


そのような心の成長を助けることこそ、一番重要な親の仕事なのです。

親自身が自分の欲望や目に見えるものばかりを追いかける風潮が強くなった昨今、ガキから大人へとちゃんと成長できる子がどんどん少なくなっているような気がします。

学校に行かない不登校 や働こうとしないニートの人たちの中にも、わがままが高じてそうなっているという人も増えてきています。

これも時代の流れで、致し方ないことなのでしょうか。

褒めて育てるを成功させる秘訣

『褒めて育てる』教育法について苦言を呈してきましたが、私は、この褒めて育てるということを決して否定しているわけではありません。

それどころか、とても良いことだとすら思っています。


ただし、ほめていい、いや、ほめなければならないのは、心の成長が見えたときなのです。

先ほど述べたように、手伝いをしてくれたとか、人に優しくしてあげた、といったような場合です。


それでは、勉強やスポーツでがんばったときはほめる必要はないのでしょうか。

答えは、イエスでありノーです。

テストで良い点をとったとか、スポーツの大会で優勝したとか、そんな結果については、ほめようとほめまいとどちらでもかまいません。

それよりも、結果の如何にかかわらず、『がんばった』ということに関しては大いにほめてあげるべきなのです。


そうすることで、子供の心は人間的に大きく成長できるのです。

一流大学をでている人でも、優秀なスポーツマンでも人間的な優しさや思いやり、常識に欠けている人は山ほどいます。

まわりの人間も自分自身も結果だけを追求してきたような環境にいる人は、どれだけ学問やスポーツを極めても、決して人間的に成長することはありません。


どんな分野でも一生懸命がんばって、結果でなくそのがんばりを親や先生からほめられ、評価されて育った子は、人間性が歴然と違ってきます。

これが学問やスポーツ、芸道をとおして人間が作られるということなのです。

ですから、そういうほめて育てるなら私は大賛成です。


ところが実際は、親や子供だけでなく、教える側にもそれが理解できていない人が多いのです。

勉強やスポーツでは良い成績をとればすべてOK、という親御さんや教師、指導者が多いのは今さら言うまでもありません。

しかし、それ以外の習い事でも、かん違いされているケースが多々あります。

例えば、武道をやっていれば人格が磨かれるだとか、お茶やお花、日本舞踊などをやればおしとやかで優しい人間になれるだとか、いったようなある種の迷信がまかり通っていて、それを本気で主張する人すらいます。


学問にもスポーツにも習い事にも、いや、ただの日常生活にも、優劣や良し悪しなどはありません。

何をしていようが、それを人の道としてとらえて、親や教師や指導者が適切な教育をすることで、はじめて立派な人格が作られてくるのです。


よく考えてください。

武道などは基本的に、人を殺したり傷つけたりするための技術です。

本来必要ないどころか、人に害となりかねないものだと言っても過言ではないでしょう。

にもかかわらず、人格形成の道という概念で技術を練磨し、教え、また学ぶことで、人格が磨かれて立派な人間へと成長させる高尚な手段とすることができるのです。

人を傷つけるような技術ですら最高の人格形成の道となるのですから、その他のどんな学問でも習い事でも取り組みかた次第でそうなれるのはお分かりでしょう。

特別何かをしなくても、ただ日々生活しているだけでも親が人生に対してそのような人格形成の道であることを自覚して、心を育てる褒め言葉をかけてやれば、子供は立派に育つのです。


ですから、これだけは覚えておいてください。

どんな学問でも習い事でも、人間的な成長に役立たず、害とすらなってしまうのは、技術や結果ばかりを追い求め、ほめる対象としたときです。

そのような子育てをしていると、子供はいずれ学校や社会からドロップアウトしてしまったり、まわりに受け入れられず、苦しんだりすることになってしまいます。

そして、何事でも最高の人格形成の手段に変えるのは、がんばり、忍耐、努力など、心の成長に対して大いにほめてやることなのです。

不登校や引きこもり、ニートから立ち直らせる一助となるのも、そのような心の教育なのです。

ほめて育てるということをくれぐれも誤解しないように気をつけてください。

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