2月23日 ぶらり途中下車の旅
「雑記帳:三重・北勢線に「大穴馬」乗車券」(毎日)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050223k0000m040142000c.html
「三重県北部を走るローカル線「北勢線」を運営する三岐鉄道(同県四日市市)が、25日から同線の大泉、穴太(あのう)、馬道3駅の初めの漢字をつなげた乗車券「大穴馬」を発売する。」
2月15日の日記で競馬と鉄道の関連に言及していたので、僕的にはタイムリーな話題です。
明治末から大正期にかけて、小づくりで低コストの軽便鉄道が全国各地に施設されました。ナローゲージ(特殊狭軌)という幅の狭い特殊な線路で、その多くはその後より広い線路幅に改軌したり、道路になったり、廃止されたりして現存しないのですが、1914(大正3)年に開業したこの北勢線はそのままの軌道で近鉄(近畿日本鉄道)に合流し、鉄道近代化・電化の波をくぐり抜けて生き残りました。しかし、線路幅が違うことから他の路線に乗り入れできず、長年赤字つづきのお荷物路線となり、近鉄は廃止することにしたのですが、存続を望む地域住民が自治体に掛け合った結果、近隣に路線を持っている三岐鉄道が経営を引き継ぐこととなり、2003年に三岐鉄道北勢線として再出発しました。
線路幅というのはやっかいなもので、付け替えるとなるとその路線の端から端まですべてを工事しなければいけませんし、山岳地や住宅密集地だと物理的に線路幅を広げられないこともあります。近鉄でも、僕が利用してる南大阪線は狭軌(1067mm)で、難波ー名古屋間を結ぶ大阪線は標準機(1435mm)ですから、それぞれでデザインは同じでも異なる規格の車両が走っています。さらに北勢線は手放しても、近鉄にはもう一つ特殊狭軌の路線、内部・八王子線があります。三つの異なる軌道を維持しながら日本最長の私鉄にのしあがったのですから、昔の近鉄はたいしたものです。
(参照:『東への鉄路』 著/木本正次)
日本国内が軽便鉄道ブームの明治・大正期、のちに満州国が建国される中国東北部では、日本とロシアがそれぞれの国策で線路幅を設定していたために、日本が影響力を強めてからは、ロシアの敷いたレールの間にもう一本レールを通して狭い日本の軌道にあわせるといった工事がなされました。国ごとに線路幅が違うのは、他国の直接侵略を防ぐ軍事上の必要性があったからでもあり、ヨーロッパでは国際列車でもフランスとスペインの国境では車両の台車を取り替えなければならりませんでした。満鉄(南満州鉄道株式会社)の特急アジア号が日本国内では考えられない最高速度130km/hの高速を出せたのは、どこまでも続くだだっ広い大陸の地に敷かれた標準軌のレールを駆け抜けたからなのです。
(参考:『二葉亭四迷の明治四十一年』 著/関川夏央)
そんなわけで、日本近代を三重の片田舎でくぐり抜けて今も沿線住民の足として活躍する北勢線ですが、沿線に目ぼしい観光地もないため、「外貨獲得」には苦心しているようです。乗務員・駅係員所持の物と全くおなじダイヤグラムを200円で販売したり、山口県から軽便鉄道の機関車を持ってきたりと頑張っているわけですが、そんななかで出てきた今回の「大穴馬」切符の企画。全国紙で取りあげられたことでPR効果はかなりのものでしょう。
この切符、馬型と馬券サイズの二種類、400円を各500枚を販売するとのことで、全部売れても40万円ですが、三連単で40万馬券を当てることを考えれば大変な額に思えます。大泉−馬道の直行だと340円のところを、間に一駅挟んで初乗りを稼ぐのも語呂合わせのためには必然性がありますから文句はありません。
この北勢線以外に「大穴馬」となる切符ができるかを全国駅名データベースで調べると、「大穴」は比較的近いところで見つかって、JR四国・土讃線の大歩危駅から同じくJR四国・徳島線の穴吹駅で料金は1,060円(特急料金のぞく)。しかし、そこからが問題で、「馬」ではじまる駅名はJRに限るとJR西日本山陰本線の馬堀駅しかありません。穴吹ー馬堀間は、なんと6,320円。JRの大穴馬馬券は合計すると7,380円もするのです。よほどの大穴馬券が当らなければとてもやってられませんが、競馬をしているとこれくらいの額を一日で負けるなんてざらにあるので、7,000円ちょっとで四国から途中下車しつつ京都まで行けるのは少しショックです。
ちなみに、実際にこの区間を旅すると、大歩危−穴吹が1時間51分、穴吹−馬堀が4時間48分で、約7時間かかります。料金は特急・新幹線を使うので、2,520円+11,950円=14,470円となります。大歩危に行くまでと馬堀から帰る分の料金もあわせると3万円は越えそうですが、今週の競馬で大穴を買って三連単の大万馬券が当ればこの旅を実践してみようかと思います。
きょうの一冊:『全国軽便鉄道』 著/岡本憲之