ぼすのできごと a day on the boss      2005年2月下旬
   2005年 1月上 1月下 2月上 2月下 3月上

   2004年 9月上 9月下 10月上 10月下 11月上 11月下 12月


16日 人を見たらモンスターと思え
  17日 ニッポンのサザエさん  18日 守ってあげたい
19日 きっかけはフジテレビ
  20日 フンボルトペンギン・ペア  21日 ボケるドリンコ  22日 ブッシュです
23日 ぶらり途中下車の旅
  24日 世界パクり発見  25日 ジンガロ  26日 共食い  27日 悲しい受験生
28日 女生徒

 

2月28日 女生徒

 

「リカちゃんと「同窓生」気分 学校制服、全国で23種類」(朝日) 
http://www.asahi.com/national/update/0228/022.html 

「実在する高校の制服や標準服を着たリカちゃん人形が各地で登場している。学校創立100周年などの記念に、地元百貨店が学校に働きかけたり、同窓会が玩具メーカーのタカラ(本社・東京)に持ちかけたりして商品化されるケースが多い。リカちゃん誕生から38年。親や同窓生の愛校心をくすぐり、少子化時代の中、学校にはPRの一つとして受け入れられているようだ。」 

 かつて自分が身に着けた制服姿のリカちゃんを見て、OGのおばさまたちは女子高生だったあのころ(たとえそれが幻想や妄想であっても)に思いをはせ、母校は愛校心が高まった同窓生から直接・間接に援助を受け、タカラは資金力・組織力のある特定ターゲットへ利幅の大きい商品を販売し、リカちゃんのブランド力も高まる。三方一両得のとてもうまいビジネスです。こうした商品がヒットすれば、「フィギュア萌え族(仮)」のイメージも少しはよくなっていくでしょう。 

 ところで、今年で誕生38周年のリカちゃんですが、35周年の2002年には大々的に記念イベントを展開しました。そのひとつとして企画されたのが、リカちゃんと連動したアイドルユニット“Licca(リッカ)” 。芸能プロダクションとの異業種コラボレーションで誕生したこのユニット、メンバーはホリプロの「21世紀のリカちゃんはあなた!!」オーディションでグランプリ受賞の木南晴夏、衝撃作・映画『デビルマン』主演女優の酒井彩名、そして今話題沸騰のあびる優という超豪華メンバーです。 

 シングル3枚とアルバム1枚をリリースしたLiccaですが、残念ながら期間限定ユニットのため現在は活動していないようです。デビュー兼ラストアルバムのタイトルは『GRADUATION』。高校の制服を着ているリカちゃんですが、実は11歳の小学5年生。Liccaもこのアルバムでは小学生時代の思い出をやや誇張して歌っていたりするのでしょうか。そういえばリカちゃんはマクドナルドやクレープ屋さんで働くやや大人びた小学生ですから、Liccaともある意味では通じるところがありそうです。ラストシングルは『夢みるシャンソン人形〜今度逢うときはもっと〜』と再結成を匂わせたタイトルですが、その可能性は限りなくゼロに近そうです。あびる優さんも今度テレビで逢うときはもっと発言に気をつけて成長した姿を見せて欲しいものです。


きょうの一冊:『時効』 著/北野武

時効

 

 

2月27日 悲しい受験生 

 

「問題流出・誤り指摘…ネットの影響強まる入試」(読売) 
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050226it05.htm 

 英検もセンター試験も流出先は2ちゃんねるで、記事の見出しは「2chの影響強まる入試」が適当かと思いますが、既存マスコミにしたら2ちゃんねる=ネット=社会悪が一般的な認識なのでしょう。  

 それにしても、ちょっと過敏になりすぎている気もします。来年からセンター試験の前日には2ちゃんねるの大学受験板をチェックする受験生が急増するでしょうが、これだけ注目されてしまえばガセネタも大量に投下されるはずで、試験問題を見る前にどの情報が信憑性のあるものかを見分けることは不可能です。だいたい、今年の「マイネムイズケヴィン」だって、情報が流出した可能性があることは大問題ですが、その情報にネットを通じて接した受験生が有利になったわけではありません。英語の問題にはアルファベットが書いてありますくらいの無意味な情報ですから。 

 試験会場への情報端末の持ち込みや通信をどれだけ規制したところで、技術の発達はその上を行っていますから、次々と抜け道は出てきます。数年先には「私大入試でも、「監督者が試験中にメールをしていた」といった書き込みがされるなど、入試担当者らは神経をとがらせている。」というこの書き込み自体が試験中になされるかもしれません。 

 もし、完全にネットを遮断した試験を実施したいなら、地球上では北朝鮮くらいしか試験会場にできる場所はないでしょう。それだと『レイクサイドマーダーケース』のお受験合宿に乗じた殺人ならぬ入試を利用した密室犯罪が多発しそうですが。あるいは、『ほしのこえ』のように通信しようにも返信が来るまでにものすごい時間差できてしまう外惑星まで行ってしまうか。ただ、それだと受験するだけで人生が終わってしまうのが難点です。 
  
 どうせなら、学生数の減少に悩む私大は情報流出を逆手に取ったネット使い放題入試を実施すれば話題性もあいまって人気が出るかもしれません。高度情報化社会では、ネットを使いこなせる人材の育成も大学教育の役割のひとつなのですから。得点が並んだ場合は通信量の少ない方が有利というルールにすれば、ネットが使えない人も安心です。 

 この記事では情報漏えいとともに、ネットの書き込みの指摘で出題ミスの判明が多発していることにも触れられていますが、こちらはネットが入試の適正化に作用する事象ですから、もっと掘り下げて語られてもいいように感じます。過去にどれだけ入試ミスがあったかが大学を評価する基準のひとつになる可能性もあります。さらに派生して、良問・悪問のようにミス自体を評価する活動も出てくれば、例えば香川大医学部のニ次試験数学で、「座標平面上にある2つの図形の面積比を答える問題で条件の設定に不備があり、正解は「無限大対無限大」」というようなミス(参考:「香川大入試でまたミス」(産経)http://www.sankei.co.jp/news/050226/sha074.htm)は、むしろエレガントなミスとして別の意味で注目されそうです。 

 売り手市場から買い手市場に移行した大学入試ですから、いろんな大学の試験問題を評価し、もっとも優れた試験問題を作成できた大学を受験生の方が選ぶ方式こそ実状にあっているのかもしれません。そうすると、受験生に迎合して試験問題に萌えキャラを登場させたり、芸能人が問題を口述するようなミーハー試験も出てきそうです。『萌え単』や芸能人一発合格の推選入試があるのですから、それくらいは普通なのかもしれませんが。


きょうの一冊:『moetan 2 (上)

moetan 2 (上)

 

 

 

2月26日 共食い

 

「「すき家」のゼンショー、「なか卯」買収へ・牛丼2位に」(日経) 
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20050226AT2F2600426022005.html 

 なか卯がすき家の傘下になるようです。どちらも今は牛丼がメインではない(すき家のメニューには牛丼がありますが、サイトの紹介では豚丼の方が上にきています)のに「牛丼チェーン」と呼ぶのは変な感じですが、本当は売りたいけれど輸入できないからしかたがない無罪モラトリアムな状態だから、やはり暫定的「牛丼チェーン」なのでしょう。「豚丼チェーン」はしっくりきませんし、「丼チェーン」だと天丼やかつ丼のチェーン店なんかも含まれますから区別する意味もありますし。 

 僕はなか卯をよく利用しているので、再編で今後のなか卯のメニューがどうなるか心配になります。牛丼のタレは他のチェーンよりも濃厚な感じが好みに合っていますし、ミニサイズがあるのでちょっと小腹がすいたときにも利用できます。丼モノとうどん・そばのツートップのメニュー構成もその時の腹具合や気分で使い分けができますし、半熟の卵がご飯ととけ合った親子丼もいいです。最近はカレーにも力を入れており、カレーに牛丼(現在は豚丼)の肉をのせたあいがけカレーは隠れた好メニューです。 

 対するすき家には残念ながらまだ一度も足を運んだことがありません。郊外店が中心のチェーンで、僕の行動範囲に入りにくいからかもしれません。サイトのメニューを見ていると、他の牛丼チェーンよりもメニューが豊富でいい感じですが、なか卯とは路線が違うように思います。「なか卯のブランドは残し、食材の仕入れや物流などで相乗効果を狙う」とのことで、大株主になったからと言って、すぐになか卯をすき家化してしまうわけではないようですが、当然、食材調達の効率化・合理化でメニューの改定はあるでしょう。 

 なか卯はすき家の弱い都市中心部に多数店舗展開していますが、好立地になればなるほど競合店も多いわけで、思い起こせば僕がよく行くなか卯も最寄り駅から店までの間にかならず吉野家か松屋の前を通る場所のあります。金銭出納帳から、僕が去年一年間に行った牛丼チェーンとその回数を検索してみると、吉野家29回、松屋27回、なか卯19回で、好きだ好きだと言ったわりには上位二強とは差がありました。吉野家・松屋はお金がなくて安く済ませようというときの選択肢になっているのに対し、なか卯は価格設定が高めなために普通の定食屋や弁当屋、コンビニなどとも競合してしまうことがこの個人的データに影響していると思われます。実際、僕の支払った金額を比較してみると、吉野家10,400円(1回当たり359円)、松屋10,830円(1回あたり401円)、なか卯9,890円(1回あたり521円)で、他チェーンよりかなり単価が高くなっています。 

 それでも、利用回数のわりに印象に残るのは顧客満足度が高いことの裏返しでもあります。あのやたらと厚みのある湯呑みを持ったときのホッとした気分を味わいに、懐具合に余裕のあるときはこれからもなか卯を利用していこうと思う次第です。とか言って、湯飲みから合理化されてしまったらとても悲しいですが。


きょうの一冊:『もう牛を食べても安心か』 著/福岡伸一

もう牛を食べても安心か

 

 

 

2月25日 ジンガロ

 

「騎馬オペラ劇団「ジンガロ」の20頭、成田に到着」(朝日)
http://www.asahi.com/culture/update/0224/002.html

「初来日する人馬一体の騎馬オペラ劇団「ジンガロ」の舞台に登場する馬などが24日、パリから成田空港に到着した。 
 馬19頭とロバ1頭、ガチョウ30羽で、運搬したエールフランス航空によると、約11時間半の長旅で、馬は専用の仕切り小屋に入れて丁寧に運んだという。公演は東京都江東区の木場公園内ジンガロ特設シアターで3月12日〜5月8日。朝日新聞社などが主催、エルメスが特別協賛する。 (02/24 14:17)」 


 フランスの騎馬オペラ『ジンガロ』の日本初公演です。朝日新聞社が主催のひとつになっているので、馬が到着したことまで記事になっています。

 これまでも競馬関係の媒体(『優駿』など)で紹介されているのをちょくちょく見聞きしていましたが、この記事から公式サイトに飛び、その迫力の片鱗に触れて、すっかり魅了されました。

 人馬一体という言葉があります。乗馬をほんの少しかじった身としては、この境地に達することにどれだけの時間と労力と、そしてなにより馬への愛情と馬からの愛情が必要か知っているつもりですが、この『ジンガロ』をこそ人馬一体と呼ぶべきなのかもしれません。

 今回の東京公演はヨーロッパ・北米以外でははじめての海外公演とのことです。馬を飛行機で運ぶのにどれだけのコストが掛かるかは競馬の海外遠征で聞きかじっています。代わりのきかない特殊技能を持った馬たちを遥か極東の島国まで連れて来るリスクも大変なものです。来日する数は馬よりもガチョウの方が多いとか文句言っている場合ではありません。

 ご当地フランスでは常に予約で埋まっているそうですから、東京公演のプレミアム席が24,000円、もっとも低価格のA席で8,000円も納得できる料金です。しかしまあ、この価格設定ですから、会場はジャパニーズ・セレブたちでごった返すのでしょう。しかも、エルメスが後援しており、期間中は『ジンガロ』の会場にエルメスショップがオープンするそうです。そこで限定発売されるエルメスブランドの「しおり」がなんと33,000円。『ジンガロ』のチケットよりも高いただの紙切れです。そのしおりを買ったとしても、よく電車のなかでしおりを落とす僕は恐ろしくて持ち歩けそうにありません。

 そういうわけで、この前の日記で夢見ていた「大穴馬」駅ツアーは、『ジンガロ』鑑賞東京旅行に変更です。阪急杯の三連単馬券が僕を東京まで乗せて行ってくれる紙切れになることを願って。


きょうの一枚:『Loungta-ルンタ 』 (ジンガロ2003年フランス公演 DVD)

Loungta-ルンタ

 

 

 

2月24日 世界パクり発見

 

「世界遺産:NHKも3月末から放送 TBSが抗議文」(毎日)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050224k0000m040048000c.html

「TBSがNHKに抗議 「世界遺産番組、趣旨だぶる」 (朝日)
http://www.asahi.com/culture/update/0223/008.html


「NHKが3月末から放送する新番組「探検ロマン世界遺産」について、96年から「世界遺産」を放送しているTBSの井上弘社長は23日の定例会見で、抗議文を送ったことを明らかにした。」(毎日)

 続々と出てくるメディア界の抗争、今度はTBS対NHKです。

 NHKのサイトには、TBSが言及している『探検ロマン世界遺産』という番組はまだ掲載されていませんが、4月の番組改編から放送80周年の目玉企画として世界遺産関連の番組を多数用意しているそうで、その一つ『シリーズ世界遺産100』の案内が出ています。 

 TBSの『世界遺産』は、緒方直人の落ち着いたナレーションが心にしみる落ち着いた番組で、僕も毎週見るわけではないもののチャンネルを合わせたときは見入ってしまいます。サザエさんよりもこの番組を見て日曜日も終わりだと実感するくらいです。1996年から放送しているとのことで、足かけ10年の長寿番組ですから、TBSが大事にする気持ちは分かります。
 
 しかし、世界遺産は国連の専門機関であるユネスコが認定しているもので、メディアへの露出も特定の放送局に限られているわけではありません。世界遺産はドキュメンタリーやトラベル関連コンテンツとしては一大ジャンルを形成しており、amazonで検索すると書籍で360件、DVDで72件もヒットします。

 分冊百科も講談社の『週刊 ユネスコ世界遺産』、デアゴスティーニの『隔週刊 世界遺産 DVDコレクション』が刊行中です。講談社とデアゴスティーニは張り合うようにしておなじテーマの分冊百科を出していて、講談社が『ガンダムヒストリカ』を出せばデアゴスティーニは『ガンダムファクトファイル』、講談社が『鉄道の旅』ならデアゴスティーニは『鉄道データファイル』と主要なコンテンツは時間差はあるもののほとんどが両方から発売されます。そもそも、出版界では売れる企画は全体で共有するのがあたりまえで、良く言えば共有財産思想、悪く言えばパクリあいの世界です。ベストセラーが出ると雨後の竹の子のごとくぞろぞろと同じようなタイトル、装丁の本が書店の棚を埋め尽くしますが、そういう風に勝ち馬に乗るのがもっとも効率のいい稼ぎ方だということです。

 そういう世界に慣れているためか、今回のTBSの抗議は賛同できません。たしかに、莫大な受信料収入があるNHKとスポンサー収入に頼る民放ではおなじ企画を立てても費やすことのできる予算の上限が違います。海外ロケが中心の世界遺産の取材ではその影響が如実に出るでしょう。そうしたハンデがありながらあえて世界遺産に挑戦し、先駆者となったTBSの功績は大いに称えられるべきですが、先駆者であるからといって世界遺産を独占していいものではありません。今回の抗議文はNHKに放送の中止を求めるという強い内容ですが、そこまでの権限はどんなメディアも有していないはずです。

 これが立場を変えてNHKが民放に同内容の番組を中止せよと抗議したというものであったら、「NHKは独善的だ」、「民間では考えられない」といった批判が噴出するだろうことは容易に想像できます。TBSはその報道姿勢から民放のNHKと言われることがありますが、官業の悪い面まで真似てしまってはいけません。

「世界遺産条約が生まれたのは、地球上に存在するさまざまな文化遺産、自然遺産を、ある特定の国や民族のものとしてだけでなく、世界の全ての人にとってかけがえのない宝物として、保護していこうという考え方からでした。」

 TBSは番組サイトでこのように世界遺産を説明していますが、この理想に則れば、NHKが世界遺産を取りあげることを推奨こそすれ、批判することはないはずです。むしろ、TBSはNHKの番組が『探検ロマン世界遺産』のタイトルから『世界ふしぎ発見!』に似ていると警戒感を抱いているのではないでしょうか。温和な紳士然としているものの以外にマッチョな司会者が出題する難解なクイズに、頭部がゴージャスな女性が驚愕の的中率で解答するのだとすれば、それはパクっている可能性が極めて高いですが。しかし、本人たちがキャスティングできない以上、畠山智之アナウンサーの司会で解答者は樹木希林くらいが限度かと思われます。


きょうの一冊:『VOW王国 ニッポンお笑い世界遺産

VOW王国 ニッポンお笑い世界遺産

 

 

2月23日 ぶらり途中下車の旅

 

「雑記帳:三重・北勢線に「大穴馬」乗車券」(毎日) 
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050223k0000m040142000c.html 

「三重県北部を走るローカル線「北勢線」を運営する三岐鉄道(同県四日市市)が、25日から同線の大泉、穴太(あのう)、馬道3駅の初めの漢字をつなげた乗車券「大穴馬」を発売する。」 

 2月15日の日記で競馬と鉄道の関連に言及していたので、僕的にはタイムリーな話題です。 

 明治末から大正期にかけて、小づくりで低コストの軽便鉄道が全国各地に施設されました。ナローゲージ(特殊狭軌)という幅の狭い特殊な線路で、その多くはその後より広い線路幅に改軌したり、道路になったり、廃止されたりして現存しないのですが、1914(大正3)年に開業したこの北勢線はそのままの軌道で近鉄(近畿日本鉄道)に合流し、鉄道近代化・電化の波をくぐり抜けて生き残りました。しかし、線路幅が違うことから他の路線に乗り入れできず、長年赤字つづきのお荷物路線となり、近鉄は廃止することにしたのですが、存続を望む地域住民が自治体に掛け合った結果、近隣に路線を持っている三岐鉄道が経営を引き継ぐこととなり、2003年に三岐鉄道北勢線として再出発しました。 

 線路幅というのはやっかいなもので、付け替えるとなるとその路線の端から端まですべてを工事しなければいけませんし、山岳地や住宅密集地だと物理的に線路幅を広げられないこともあります。近鉄でも、僕が利用してる南大阪線は狭軌(1067mm)で、難波ー名古屋間を結ぶ大阪線は標準機(1435mm)ですから、それぞれでデザインは同じでも異なる規格の車両が走っています。さらに北勢線は手放しても、近鉄にはもう一つ特殊狭軌の路線、内部・八王子線があります。三つの異なる軌道を維持しながら日本最長の私鉄にのしあがったのですから、昔の近鉄はたいしたものです。 
(参照:『東への鉄路』 著/木本正次) 

 日本国内が軽便鉄道ブームの明治・大正期、のちに満州国が建国される中国東北部では、日本とロシアがそれぞれの国策で線路幅を設定していたために、日本が影響力を強めてからは、ロシアの敷いたレールの間にもう一本レールを通して狭い日本の軌道にあわせるといった工事がなされました。国ごとに線路幅が違うのは、他国の直接侵略を防ぐ軍事上の必要性があったからでもあり、ヨーロッパでは国際列車でもフランスとスペインの国境では車両の台車を取り替えなければならりませんでした。満鉄(南満州鉄道株式会社)の特急アジア号が日本国内では考えられない最高速度130km/hの高速を出せたのは、どこまでも続くだだっ広い大陸の地に敷かれた標準軌のレールを駆け抜けたからなのです。 
(参考:『二葉亭四迷の明治四十一年』 著/関川夏央) 

 そんなわけで、日本近代を三重の片田舎でくぐり抜けて今も沿線住民の足として活躍する北勢線ですが、沿線に目ぼしい観光地もないため、「外貨獲得」には苦心しているようです。乗務員・駅係員所持の物と全くおなじダイヤグラムを200円で販売したり、山口県から軽便鉄道の機関車を持ってきたりと頑張っているわけですが、そんななかで出てきた今回の「大穴馬」切符の企画。全国紙で取りあげられたことでPR効果はかなりのものでしょう。 

 この切符、馬型と馬券サイズの二種類、400円を各500枚を販売するとのことで、全部売れても40万円ですが、三連単で40万馬券を当てることを考えれば大変な額に思えます。大泉−馬道の直行だと340円のところを、間に一駅挟んで初乗りを稼ぐのも語呂合わせのためには必然性がありますから文句はありません。 

 この北勢線以外に「大穴馬」となる切符ができるかを全国駅名データベースで調べると、「大穴」は比較的近いところで見つかって、JR四国・土讃線の大歩危駅から同じくJR四国・徳島線の穴吹駅で料金は1,060円(特急料金のぞく)。しかし、そこからが問題で、「馬」ではじまる駅名はJRに限るとJR西日本山陰本線の馬堀駅しかありません。穴吹ー馬堀間は、なんと6,320円。JRの大穴馬馬券は合計すると7,380円もするのです。よほどの大穴馬券が当らなければとてもやってられませんが、競馬をしているとこれくらいの額を一日で負けるなんてざらにあるので、7,000円ちょっとで四国から途中下車しつつ京都まで行けるのは少しショックです。 

 ちなみに、実際にこの区間を旅すると、大歩危−穴吹が1時間51分、穴吹−馬堀が4時間48分で、約7時間かかります。料金は特急・新幹線を使うので、2,520円+11,950円=14,470円となります。大歩危に行くまでと馬堀から帰る分の料金もあわせると3万円は越えそうですが、今週の競馬で大穴を買って三連単の大万馬券が当ればこの旅を実践してみようかと思います。


きょうの一冊:『全国軽便鉄道』 著/岡本憲之

全国軽便鉄道 JTBキャンブックス

 

 

2月22日 ブッシュです

 

「自らの不人気ネタも、笑いとっただけ…米大統領演説」(読売) 
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050221i414.htm 

「「ベンジャミン・フランクリンは、(欧州で)『農民から都会人まで彼を人類の友と思わない人はいない』と評される歓迎を受けた。私も同じような歓迎を期待していたが、ライス国務長官から『現実を見なければ』と言われた」――。」 

 BBCの生中継を演説の途中からしか見なかったので、この発言は見逃してしまいました。ちゃんと笑いをとれたのですから、欧州遊説のつかみはOKというところではないでしょうか。ライス国務長官の「学級委員長キャラ」がにじみ出る、笑い話としてはとてもいいエピソードです。ブッシュ大統領のスピーチライターは「ヒロシです」でブレイク中のお笑い芸人ヒロシのネタを参考にしたのでしょうか? 

「ブッシュです。親父が津波被災地をまわって歓迎されとるのを見て、僕もヨーロッパでチヤホヤされるのを期待しとったとですが、ライス国務長官に「現実を見なければ」と叱られたとです。ブッシュです。」 

 ベンジャミン・フランクリンは印刷業で成功し、アメリカ初の公立図書館を設立し、雷が電気であることを証明し、独立宣言を起草しと、経営、政治、科学の多方面で多大な業績を遺したアメリカの福沢諭吉みたいな人物です。100ドル札の肖像にもなっていますから、アメリカの中古車ショップからはフランクリンが列をなして出て行く姿が見られるかもしれません。生誕300年にあたる今年は回顧ブームが沸き起こっているようで、愛知万博のアメリカ館でも案内役として登場します(参考:アメリカ館公式サイトhttp://www.uspavilion.com/jp/) 

 世界でもっとも読まれる伝記の人物だけあって、子どものころから素直で正直で成功に満ちた人生を送ったわけですが、そんな天才を模倣しようとするのはおろかです。ましてや、自分の子どもにフランクリンの伝記を与えて、一緒に過剰な期待も押しつけるのは愚の骨頂でしょう。 

 僕はフランクリンの伝記こそなかったものの、福沢諭吉の自伝を小学六年生のクリスマスプレゼントにもらいました。仏壇の横にクリスマスツリーがあるのに違和感を感じなかったあのころは、なんの疑問も持ちませんでしたが、今になって振り返るとサンタクロースももう少し考えてくれればよかったのにとも思います。まあ、聖書をもらったとしても大差なかったのかもしれませんが。 

 そんな世界中でいい見本になっているベンジャミン・フランクリンとは好対照の悪い見本・ブッシュ大統領ですが、親の脛をかじるだけで親を凌ぐ二期目の大統領を務めているのですから、人間の素質と人生の成功のギャップでは世界史上に残る人物です。これで、『華氏911』での「演技」が評価されてノミネートされているゴールデン・ラズベリー賞の最悪主演男優賞も受賞すれば、映画史上に残る大統領にもなれますし(参考:「最悪男:ブッシュ米大統領が優賞候補に」(毎日)http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/america/news/20050126k0000m030070000c.html)。


きょうの一冊:『フランクリン自伝

フランクリン自伝

 

 

2月21日 ボケるドリンコ

 

「突っ込んでや! コテコテ自販機 ボケて応答」(産経) 
http://www.sankei.co.jp/news/050221/kei069.htm 

「ジュースを買うと、自動販売機が「おーきに、今年もよろしゅう」−。しゃべる自販機が増えているなか、ダイドードリンコ(本社・大阪市中央区)が設置している関西弁や年中行事、季節のあいさつなどで応えるタイプが人気を呼んでいる。なかには「ホンマ、あつはなついねー、って突っ込んでや!」と自販機がボケる応答まであるという。」 

 そんな寒いボケには突っ込めませんが、その自販機のなかのジュースは寒いギャグにさらされてさぞやよく冷えていることでしょう。 

 そういえば、僕はダイドーの自販機を使用した記憶がありません。よく見かけるものの、商品のラインナップに魅力を感じないからです。主力のコーヒー飲料で「ダイドーブレンドコーヒー」くらいは知っていますが、飲んだ記憶はありません。ダイドーのサイトの製品情報を眺めてみても、掲載されているもののうち飲んだことがあったのはピュアウォーターのvolvicだけでした。フランスの天然水volvicはダイドーの自社開発製品ではありませんから、僕はダイドー製の飲料を飲んだことがないかもしれません。サンガリアやチェリオですら一度は飲んだことがあるのに。メロンクリームソーダ、夕張メロンミルク、フルーツ紅茶ミックスと甘ったるい印象のある商品が多く、僕の口に合わなさそうに思えるからでしょうか。 

 その上に、しゃべる自販機となるとますますダイドーの自販機前からは足が遠のいてしまいそうです。自販機そのものは、すぐそばにコンビニがあるのに自販機で買うことがあるくらいよく利用するのですが、それは100円ちょっとの買い物にわざわざ接客対応されるのが鬱陶しいからです。それなのに自販機のほうがウザイとなると、なんの魅力もありません。 

 しかし、そんな僕の好みとはかけ離れたところでダイドーは頑張っているようです。サイト内ではコンテンツに「IR情報」、「エコプラン」、「お客様相談室」と並んで「自販機ワールド」というのがあって、ダイドーの自販機の歴史やキャンペーン情報が掲載されています。商品よりも自販機に重点を置く経営戦略は、あまりよい意味ではなく他社と目のつけどころが違います。そこで実施しているWebアンケートでは、「Q:しゃべる自販機について聞かせて?」の質問に、「見た事がある」、「買った事がある」、「驚いた!」、「楽しかった」、「見た事がない」、「何とも思わなかった」の選択肢から選ぶようになっています。「うるさい」、「ウザイ」、「氏ね」など否定的な意見が見当たらないのは、消費者の率直な意見を集め損なっている印象を受けるのですが。ちなみに、僕が応えた時点では、「買った事がある」が40%で2位の「見た事がない」20%に大差をつけて圧勝でした。「DyDoファンクラブ」という公式ファンクラブも設置しているくらいですから、コアなファンには愛されているのでしょう。 

 けなしてばかりもなんなので、ダイドーがインセンティブで取り入れているポイントカードは、他社がシールばかりなのに比べて独自性があって面白いと褒めてみます。シールに表示される長ったらしい数字をインターネットの専用サイトで打つのは面倒ですが、自販機で即時に溜まるポイントカードなら手軽ですし、店売りのルートが弱いことを逆手に取って自販機販売を重視するのも企業として妥当な戦術です。ただ、現在ポイントを溜めてもらえる景品で唯一僕が欲しいと思えた「ファミコンコントローラー型電卓」なら300ポイントが必要だそうです。この景品の応募期限は4月1日までですから、あと1か月ちょっとのうちにダイドー自販機で商品を300本買わないともらえないわけです。そこまでして欲しいとも思いませんし、苦行だと思ってチャレンジしたとしても、その代償で軽い糖尿病を患うはめになりそうです。まあ、volvic300本なら健康に害はなさそうですが。evianとの利き水ができる地味な特技もおまけで付いてきますし。もしかして、ダイドーは無理にポイントを集めようとするヘビーファンの健康を気遣って、逃げ道としてvolvicと提携したのでしょうか? さすが、健康に気を配る優良企業です。ボケる自販機を開発したのですから、どうせならかつて吉本興業が発売していた和歌山の天然水「天然でんねん」もついでに復活採用して欲しいものです。 

 そういえば、「ダイドードリンコ」という社名、どうしてドリンクじゃなくてドリンコなのかと前から疑問に思っていたのですが、この機会にダイドーのサイトで調べてみると、「英語の「ドリンク(Drink)」に“仲間・会社”を意味する 「カンパニー(Company)」をプラスした当社の造語」(http://www.dydo.co.jp/gaiyo/)だそうです。「dorinco」でGoogle検索してみても、ミシガン州の保険関係の会社しか出てこないので、世界的にもオリジナルのネーミングなのでしょう。ダイドードリンコがコカコーラのような大ヒット商品を出して、世界にドリンコが認知される日が来れば、僕もダイドーの自販機を利用することがあるかもしれません。コーラの類似商品「ミスティオコーラ」を出している間はそんな夢の時代はこないでしょうが。


きょうの一冊:『自販機技術総覧』 日本自動販売機工業会/編

 

 



2月20日 フンボルトペンギン・ペア

 

「ペンギン、雄同士3ペア 独の動物園「温かく見守る」」 
(朝日)http://www.asahi.com/science/update/0220/002.html 

「ドイツ北部にあるブレーマーハーフェンの市営動物園で、飼育しているペンギンに雄同士の同性ペアが見つかった。「雄と雌のバランスが悪い」と考えた同園は、雌を倍に増やしてみたが、ペアは離れようとしない。「同性愛の可能性もあるが、とても仲良しなので温かく見守っていく」という。」 

「同性愛の可能性もある」って、同性愛以外の可能性はないと思いますが。この記事の情報をまとめると、この動物園にオスが10匹、メスが4匹いたわけで、 

♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♀♀♀♀ 

さらに、カップルを()で表わすと、 

(♂♀)・(♂♀)・(♂♂)・(♂♂)・(♂♂)・♂・♂・♀・♀ 

となります。これで、カップルになっていないオスとメス2匹ずつがくっつけば、同性愛もあるもののこの動物園のペンギン社会はとても円満にいくわけです。オス同士のカップル3組は、俺たちが一緒になればすべてうまく行くと、あえて同性を選んだのかもしれませんし。しかし、人間が余計なことをしたために、新たに 

♀♀♀♀ 

がやってきます。これで、一気にブレーマーハーフェン動物園のペンギン社会は複雑化します。 

(♂♀)・(♂♀)・(♂♂)・(♂♂)・(♂♂)・♂・♂・♀・♀・♀・♀・♀・♀ 

 オス10匹、メス8匹の計18匹。『あいのり』のラブワゴンならあきらかに定員オーバーです。動物園の人が望んでいるのは、新たに入ったメス4匹がそれぞれゲイカップルのオスを誘惑することですから、そのもっとも幸運なケースは2組のゲイカップルが別れて、4匹のオスがそれぞれ新入りのメス4匹とくっつき、もう一組のゲイカップルは無風のパターン。 

(♂♀)・(♂♀)・新(♂♀)・新(♂♀)・新(♂♀)・新(♂♀)・(♂♂)・♂・♂・♀・♀ 

 しかし、そんな好都合なパターンにはなかなかならないのが現実です。情報によればメスたちはスウェーデンからやってきたそうで、スウェーデンといえば日本では「フリーセックスの国」というステレオタイプ・イメージがあります。そう簡単に一夫一婦制に移行してしまっては面白くありません。なかでも最悪なのは、新入りメス4匹が同性・異性含めて5組のカップル中4組に割ってはいるケース。 

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 もう昼ドラ並みのドロドロ愛憎劇が展開されそうです。まあ、昼ドラは劇中どれだけ悲惨な展開になっても最後は八方まるく納まるので、最終回では最初のカップルはすべて元の鞘に戻り、新入りメス4匹はレズカップルを形成、ついでに余りのオス・メスたちも同性カップルになる、 

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 超ハッピーエンドの可能性もあるわけですが。ただ、そうなるとゲイ4組、レズ3組、異性2組で異性カップルが一番少なくなって、動物園の人は逆効果だったと頭を抱えてしまいます。ゲイカップルが別れなかった現実が一番無難なのでしょう。 


きょうの一冊:『ペンギンの憂鬱』 アンドレイ・クルコフ著

ペンギンの憂鬱

 

 

2月19日 きっかけはフジテレビ

 

「【主張】堀江氏発言 産経を支配するって? 少し考えて言ったらどうか」(産経)
http://www.sankei.co.jp/news/050218/morning/editoria.htm 

 ホリエモン対フジテレビのバトルに満を持して産経新聞が参戦しました。しかも社説にあたる「主張」で、名指しの批判ですからかなりのインパクトです。むしろこちらのほうこそ「少し考えて言ったらどうか」と感じるほど挑発的な見出しからは、産経新聞が平常心を失って怒り狂っていることがまる分かりで、ほほえましくさえ思えます。 
  
 この産経新聞の反論は、ホリエモンへのインタビューが掲載された朝日新聞社の週刊誌『AERA』2月21日号の特集記事「堀江フジサンケイ支配」に対するもので、ホリエモンに加えてホリエモンに同調する(と産経新聞が思っている)朝日新聞社をもターゲットにしている点で、今後のメディア戦線のさらなる拡大を予感させます。ホリエモンが朝日と組むなら、フジ産経はNHKに声をかけてみてはどうでしょうか? 日本史で憶えた保元・平治の乱の勢力図みたいで、大河ドラマよりも面白そうです。 

 ホリエモンが『AERA』の取材に対して、「あのグループ(引用者注:フジサンケイグループ)にオピニオンは異色でしょ。芸能やスポーツに強いイメージがあるので芸能エンタメ(注=娯楽)系を強化した方がいいですよ」と答えたことに対して、産経新聞は「「エンタメ」「金融・経済情報」といった類の言葉ばかりで、新聞づくりの理念はうかがいしれなかった」そうです。しかし、このホリエモンの発言は総合エンタメ誌『kamzineカムジン』を昨年末に創刊し、金融・経済情報専門の系列紙・日本工業新聞をフジサンケイビジネスアイにリニューアルしたフジサンケイグループの経営戦略にかなり似ているのは気のせいでしょうか? 

 『AERA』編集部に対しても、「「新聞がワーワーいったり、新しい教科書をつくったりしても、世の中変わりませんよ」と語る堀江氏の発言を「氏特有の冷めたメディア観」とたたえてもいる。」と暗に非難していますが、「冷めたメディア観」と書くとたたえたことになるのかどうかは意見の分かれるところです。ならば、ニューヨークタイムズ紙が小渕元首相へ贈った「冷めたピザ」の愛称も褒め言葉だったのでしょうか? 

 たしかに、産経新聞がコツコツと築いてきた「正論路線」を否定するホリエモンの「あのグループにオピニオンは異色でしょ」の一言は当事者にとっては我慢ならないでしょうが、顔を真っ赤にして怒るのは、自分でも自覚していた欠点を言われたときの反応に他なりません。「冷めたピザでもレンジでチンすればおいしい」 と切りかえした小渕さんの余裕っぷりを産経新聞も少し見習った方がいいと思われます。 

 産経新聞のこの主張は、全体的には自分の主張を大所高所から弁じて終始相手を見下した態度で望みつつも、その割に相手の発言に対しては「うかがいしれなかった」、「驚くべきことといわなければならない」、「残念である」、「一蹴されていいものではあるまい」と婉曲な表現で批評するに止まっています。極めて要約しにくい文章で、これぞ新聞の社説の見本という印象です。ただ、「読者も正論執筆陣の知識人も、そして歴史もそれを許さないであろう。」なんていう文章はなかなか書けるものではありません。「歴史が許さない」なんてセリフを吐けるのは、いまや時代劇のヒーローか産経新聞だけですから、日本のメディア界にとって貴重な存在であることは間違いありません。 

 日本テレビも夕方の『ニュースプラスワン』でホリエモンへの独占インタビューを行ない、わざわざこの産経新聞の記事を読ませてコメントを求めていました。ITベンチャー対既存メディアの構図では見方に立つはずのライバルメディアも、フジテレビが視聴率三冠王を奪取しているだけに、トップは叩いておけとばかりホリエモン寄りの姿勢を見せています。とはいえ、産経新聞は主要5紙のなかでもっとも販売シェアの少ない崖っぷち全国紙。あまりイジメるのも可愛そうです。しかも大阪では全国平均に比べてシェアが高く、産経新聞社は自ら音頭をとって、大阪市南地域を盛りあげようという「ミナミ活性化委員会」を発足するといった文化活動にも積極的です。僕も主義主張には賛同する点が少ないとはいえ、言論の多様性を確保するために、同ネタのニュースは産経から引用するなど地味に支えていくことにします。


きょうの一冊:『産経が変えた風―正論を貫いて』 ウェーブ産経事務局/編

産経が変えた風―正論を貫いて

 


2月18日 守ってあげたい

 

「全公立小学校に警備員配置へ 大阪府知事が表明」(産経)
http://www.sankei.co.jp/news/050218/sha089.htm 
  
「大阪府寝屋川市の小学校内殺傷事件を受けて、太田房江府知事は18日の記者会見で、府内(大阪市を除く)にある733の全公立小学校に警備員を配置する方針を明らかにした。」

 いまさら物騒な世の中になったものだといまさら言うまでもなく、十分に物騒な世の中ですが、小学校の門に警備員がいる光景は、実際目にすると物々しく映りそうです。高齢化社会ではますます貴重になる子どもの命ですから、むしろこれまの公立小学校が無防備すぎたとも言えます。警備員など私立では常識化しているわけで、「警備の手薄な」公立が狙われてきたという考え方もできます。 

「民間警備会社などに依頼し、各校に警備員を1人ずつ派遣。児童の下校まで校門に立つなどして、不審者の侵入に目を光らせてもらうという。予算は年間約7億円を見込んでいる。」とのことで、予算のない大阪府ですから7億円でもやっとこさ出せる額にはちがいないのでしょうが、計画からするとちょっと少なすぎるように感じます。 

 授業日数を200日として、733校に1人の警備員を毎日配置するなら、延べ14万6600人/日です。登校(朝8時)から下校(夕方4時)までの8時間勤務として、予算の7億円だと時給で597円にしかなりません。大阪府の最低賃金は704円ですから、まともに報酬を払っていたら一校あたり一人の警備員は配置できなくなります。 

 ただ、警察OBなどボランティアの活用も考えられますし、警備会社に委託するにしても、警備会社にとっては学校の警備を担当しているとなれば地域の人々へのアピールになり、広告効果や会社の信頼性アップのメリットもありますから、警備会社が低額で契約することも考えられます。そうなると今度は警備員の質がともなわず、お飾り程度になってしまいかねませんが。 

 大阪には数億円の売上げしかないのに10億円の警備費を投入していた商業施設だってあるのですから、もう少しコストをかけても文句は出ないと思うのですが。一昔前は「水と安全はタダ」と言われましたが、現状は「まずい水でも危険でも金は出さん」と言っているようなものです。 

 いっそのこと、そのへんのおばちゃんが学校の門の前で一日中世間話をしている方が、犯罪の抑止効果がありそうです。なにせ、静岡県がオレオレ詐欺防止に「大阪のおばちゃん」が関西弁でまくし立てるCMを放映したら、大阪府が「イメージダウンだ」と抗議しましたが、そんな大阪府に対してCMに出演した「大阪のおばちゃん」本人が、「なんでわたしらがイメージダウンやねん」と抗議したという漫才のネタみたいな話がまかり通るのですから(「イメージアップやろ! CM問題で府に説明求める」(産経)http://www.sankei.co.jp/enak/2005/feb/kiji/17naniwa.html)。 

 今日も、映画の時間を間違えたおばちゃん二人組みの片方が、「私はそんなん調べられへんねんから、あんたが私の案内役せなあかんのに、そんなことでどうするの、しっかりせんとあかんやろ」と不条理な怒りをぶつけており、電車の中では別のおばちゃん二人組みが、さっきの買い物でおかきを買ったかどうかわからなくなって、「買おうとしたときに、あんたがそんなん食べたらまた太るやろ言うから、買ったか買わんかったか分からんようになったわ」と主体性なき怒りに打ち震えていました。さらには、どちらも映画が始まるころや駅で降りるころにはまったくさっきまでの揉め事はなかったかのようななごやかムードになっているのですから、もうわけが分かりません。 

 急にキレて人を刺す少年と常に不条理なキレ方をしている大阪のおばちゃん。少年の起こす大事件に比べれば、小さなことからコツコツとのおばちゃんは社会に与える害悪は少ないですが、総量としては同じようなものかもしれません。両者はハブとマングースのようなものですから、にらみ合わせておけば双方の動きを封じることができるかもしれません。社会に適応できる(もしくは社会の方を適応させる)のはあきらかにおばちゃんでしょうけれど。 

 産経の記事の「警備員」を「おばちゃん」に変えて読んでみると、もう大阪の小学校には誰一人侵入できないと思えるくらいの迫力があります。自衛隊よりもむしろ大阪のおばちゃんこそが、憲法第9条で禁じられる「軍事力」なのかもしれません。


きょうの一曲:『守ってあげたい』 松任谷由美

 

 


2月17日 ニッポンのサザエさん

 

「「サザエさん」が株価を左右?=視聴率上がると相場下落−大和総研リポート」(Yahoo!ニュース−時事通信) 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000768-jij-bus_all 

「「サザエさん」の視聴率が高い時期は株価が下落し、逆に低い時期には株価が上昇する傾向がある−。国民的人気アニメの視聴率と株式市場との意外な連動性を示すこんなリポートを、大和総研が14日までにまとめた。大和総研は、日曜日に外出せず、サザエさんを見ながら夕食をとる世帯の増加は景気の冷え込みを示唆する一方、視聴率の低下は好景気の表れと分析。2003年以降のサザエさんの視聴率と東証株価指数(TOPIX)の関係を調べたところ、今年に入ってからの米国市場と東京市場の相関関係を上回るほどの強い連動性があった。(時事通信) - 2月15日19時4分更新」 

 こんなレポートをまとめるのは、やはり大和総研でした。『鋼の錬金術師』をコラムで話題にしていたのをこの日記でも取りあげましたが(2月11日付け「等価交換の原則」)、今度は『サザエさん』です。野村総合研究所や日興ファイナンシャル・インテリジェンスのような他の証券会社系シンクタンクには真似できない独自路線を行っている大和総研。実益よりも話題性を優先するその姿勢に対抗できるのは、経済全般のシンクタンクでは第一生命経済研究所(1月23日付け「ニセ札に気をつけろ」参照)くらいでしょう。 

 『サザエさん』の視聴率と株価の連動が具体的にどんなものか、大和総研のサイトを見てみます(株式市場レポート(国内)クオンツ情報)まず、データの集計期間について、「サザエさん症候群という言葉が聞かれ始めたのは何時頃であったろうか?それ程、昔からではない。そこで、2003年以降のサザエさんの視聴率と株式市場の関係を調べた」とありますが、日曜の夕方に『サザエさん』を見るころに明日の仕事を思って憂鬱になるというのはかなり昔から言われていることで、1993年に発売された嘉門達夫の楽曲『NIPPONのサザエさん』でも歌われています(しかも、この曲は『磯野家の謎』ブームに乗ってCD化されるかなり前からコンサート等で「アワビさん」と名前を変えて歌われていました)。2003年以降に絞ったのは、 
@集計するのに手間がかかるので1年ちょっとのデータがあればいいか 
Aこの期間で切ったらいちばん連動性が高かったので 
のどちらかなのでしょう。 

 さらに、「単純に視聴率を見ると大きく変動して分析が出来ない。そこで約半年間である26週の視聴率の平均とTOPIXの関係を捉えた」とあります。株価の推移を表わす指標では一般的ですが、視聴率の26週移動平均をとるというのはかなり斬新なアイデアです。これも、なぜ52週や13週ではなくて26週なのかというのは疑問が残ります。また、仮説を検証する上では日経平均でもいいように思えるのですが、なぜ日経平均ではなくTOPIXなのかの説明がありません。どうも恣意的な選択の可能性が高そうです。ただ、そうした努力の結果はじき出された、-0.86という数値は確かに強い逆相関です。無理やりにしろよく見つけたものだと感心します。 

 仮説にもう少し厳密ならば、月曜日に株価が上った時と下がった時に分けて前日の『サザエさん』視聴率の平均値を出したりするべきだと思いますし、『サザエさん』のストーリー別や次回予告の後にあるじゃんけんの出目別の統計なんかがあればもっと楽しかったのですが、さすがにそこまでやると株式でなく『サザエさん』メインの研究になってしまいます。 

 また、『サザエさん』を視聴することで月曜日からの仕事を思って憂鬱になる→直近の株価に影響という構図は、投資家自身が『サザエさん』を視聴している場合には有効ですが、「月曜日は憂鬱→仕事の意欲減退→企業の生産性低下→企業の業績悪化→株価の下落」だと、かなり先の株価と連動しないとおかしいわけで、仮説の方ももう少し詰めて欲しかったです。 

 ほとんどネタに近いレポートなので、これ以上茶化すのは野暮ったいのですが、最後にもう一つ。東証1部では時価総額ベースに占める外国人投資家の保有率が2割近くにのぼるのですが、こうした外国人投資家の動向も『サザエさん』の視聴率と連動するなら、海外で日本株を動かす証券マンたちの間でも『サザエさん』は必見の番組になっているのでしょうか。日本経済を知るにはまず日本文化から→日本の伝統的な生活スタイルを学ぶには『サザエさん』を見るべしという流れでしょうか。日本の夕方6時半といえば、アメリカだと日曜日の朝も明けきらない時間帯ですが、熱心なものです。思わず、日曜なのに早起きして『ふたりはプリキュア』を見ている日本の女の子たちを連想してしまいます。 

 ちなみに、このレポートが書かれた時点で最新だった1月30日20.5%以降のデータを取ってみると、『サザエさん』の視聴率は、2月6日19.4%、2月13日22.3%と推移します。この間TOPIXは上昇局面に入っており、大筋では連動しているといえそうです。この間、『サザエさん』を放送するフジテレビとその関連会社のニッポン放送の株が市場の主役だったのは皮肉なものですが。とりあえず、よかったですね大和総研。実用性はともかく、こうした話題を提供して株式に興味を持ってもらおうと試みる大和総研の仕事には好感が持てます。しかし、「自殺は月曜日に多い」というニュースも少し前にありました(参考:「自殺、月曜が最多 期待はずれの週末影響? 厚労省統計」(朝日)http://www.asahi.com/health/life/TKY200501290182.html)し、こうした話題が多く露出している間は日本経済の先行き不透明感は払拭できないのかもしれません。 

 以下は余談になりますが、この記事は15日夜にYahoo!トップページで紹介されていたので、昨日の日記で話題にするつもりだったのですが、その時点では大和総研のサイトにまだ詳細な情報がアップされてなかったために、MBSの『ちちんぷいぷい』に先を越されてしまいました。その『ちちんぷいぷい』の番組内ではこの話題を鵜呑みにせずに、ハイヒール・モモコや桂ざこばがつっこんだりして話半分に聞いており、お昼の関西ローカル番組の情報リテラシーの高さに改めて感心しました。 

 最近の関西ローカルの情報バラエティ番組は各局ともに低予算を逆手に取った質の高さを見せています。なにせ、芸能レポーターに混じってほぼ毎日どこかの局に宮崎哲弥が出演しているのですから。宮崎哲弥といえばポスト田原総一郎とも目される『朝まで生テレビ』常連の硬派な言論人で通っていますが、関西のテレビでも主婦向けの番組にあわせたバラエティ色を見せつつ、きっちり主張するところは主張しています。また、生放送で言えないようなことを生放送で言う浅草キッド、「フィギュア萌え族(仮)」でトンデモ・コメンテーターぶりを発揮する大谷昭宏ら個性派も多数いて、関西だからといって吉本興業の芸人だけではない多様性を感じます。しかも、こうした各局の番組を横断的に新番組視聴率予想や番組制作の裏事情もからめて解説してくれるやしきたかじんの番組までありますから、おそらく、関西は全国的にみてメディアリテラシーが異常に発達している地域になっているはずです。大阪の「振り込め詐欺」被害が少ない背景にはこうしたメディア事情が影響しているのかもしれません。


きょうの一曲:『NIPPONのサザエさん』 嘉門達夫

 

 


2月16日 人を見たらモンスターと思え

 

「あいさつした児童を殴る 若い男が「うるさい」と」(産経)
http://www.sankei.co.jp/news/050215/sha102.htm

「15日午前7時50分ごろ、福島市丸子漆方の市道で、登校中の同市立小2年の男児(8つ)が、通りかかった若い男に「おはようございます」とあいさつしたところ、男は「うるさい」などと怒鳴り、いきなり頭を素手で殴られた。男はそのまま立ち去った。」

 その若い男の虫の居所が悪かったのでしょう。道端で野良犬を見つけてさわりにいったら噛み付かれたようなもので、おかしな人間というのはどんな社会にも一定数いるものです。そういう人間は社会から阻害されているし、阻害されているがゆえに他人とのコミュニケーションがなくなって人間不信に陥る悪循環で、どんどんおかしくなっていきます。きっと、知らない子どもにいきなり挨拶されて驚いたと同時に怒りが湧き出てしまったのでしょう。事件というよりは事故に近い出来事です。

 子どもにしたら、「鎌田小やPTAは児童に対し、普段から「登下校中は地域の人たちにあいさつするように」と指導していた」(朝日http://www.asahi.com/national/update/0215/028.html)ということで、大人に良いと教えられたことを実践したら痛い目を見たことになりますが、そういう経験をするうちに人を見る目が備わってくるものです。不幸な出来事には違いないですが、新聞沙汰にするほどの大事とは思えません。

「同小は事件を受け、児童を集団下校させた」(産経)のも、かなり大げさな対応です。大阪の教員殺傷事件があったばかりですから、過剰反応するのは仕方ないですが、子どもたちは周囲の大人たちが怯えているのを敏感に感じとっているはずで、こうした対応は長い目でみれば子どもに地域社会で生活するうえでの不安感を抱かせることになるでしょう。

「集団下校では教職員が児童に「見知らぬ人から声をかけられたら大声で助けを求め、近くの家に駆け込んで。今日はなるべく外に出ないように」などと呼び掛けた」(産経)そうで、まるで殺人犯が潜伏しているかのような警戒ぶりです。この地域の大人は、見知らぬ子どもからいきなり挨拶され、逆に見知らぬ子どもに挨拶すると大声を上げて近くの家に駆け込まれるわけで、子どもとすれ違うだけでドキドキしてしまいそうです。

 社会の中にモンスターが潜んでいると危機感を抱くことは必要ですが、あまり過度にそういう態度をとっていると、いないはずのモンスターをつくり出すことにもつながりかねません。寝屋川の事件でも、加害者の少年は少年犯罪が社会問題化しはじめた7、8年前には、守るべき側の子どもだったわけで、いつか大人になる存在である子どもたちを特別扱いしてしまうことが、結果的に社会を悪い方向に導いてしまわないかと懸念してしまいます。

 夕刊紙には「ゲーム脳の恐怖」などという馬鹿げた見出しが出ていましたが、モンスターをつくりだすのはゲームでもマンガでも映画でもなく、モンスターにおびえる大人たちです。小学校を封鎖するなら封鎖するで、それはひとつの策ですが、閉じた社会で暮らす子どもたちに狂気の種を植え付けることも自覚しておくべきでしょう。

 特段の専門教育を受けたわけでもないのに教育の理想に身も心も捧げて、少ない給料で入試や生徒の個人情報の管理など細心の注意を要する職務に一つのミスも許されず、赤の他人の子どもである数十人の人間の将来にわたっての健全な成長と安全な生活を保障し、教え子への愛には一片の性欲や金銭欲は介在してはならず、提供するものはすべて無償であらねばならないと望まれる昨今の教師というのは、もはや神に近い存在でなければ務まりません。人間が人間を教え育てることに内在する矛盾に目を瞑って、教育の崩壊という嘘のなかでもがいている間にすべては終局へと向かってしまうかもしれません。


きょうの一枚:『エレファント』 監督/ガス・ヴァン・サント

エレファント デラックス版