ぼすのできごと 2004年10月上旬
   2005年 1月上 1月下 2月上 2月下 3月上

   2004年 9月上 9月下 10月上 10月下 11月上 11月下 12月


1日 ニッポニアニッポン
  2日 ケータイ刑事 VS シベ超  8日 フォッグ・オブ・ウォー
9日 台風22号関連情報  11日 少女映画  12日 格安ロケット  13日 PLUTO  14日 なつかしい未来
15日 優雅で干渉的な日本野球

 

10月15日 優雅で干渉的な日本野球

 

「球界参入:ライブドアのアダルト接続に質問集中 NPB」 (毎日)
http://www.mainichi-msn.co.jp/sports/pro/news/20041015k0000m050096000c.html 

 なんでもプロ野球に参入するには「公共財としてふさわしい企業、球団か」という審査項目があるそうで、「特にライブドアのアダルト(成人向け)サイトなどを問題視する指摘が相次いだ」そうです。 

 スポーツチームを公共財と言い切る日本プロ野球組織の認識にまず驚かされますが、この質問した巨人の球団代表は、読売系列のスポーツ報知にこんな記事(http://www.yorutomo.net/Scontents/media/images/spohouchi_0810big.gif)も載っていることを承知の上で、ライブドアにものを言っているのでしょうか? また、ひそかに好意を抱いているらしい楽天のオークションで「アダルト」と検索するとどうなるか知っているのでしょうか? だいたい、ライブドア堀江社長の品行方正さは中央競馬の馬主であることで十分に保証されているではないですか(たしかに、北島三郎さんや和田あき子さんや志村けんさんややしきたかじんさんや関口房朗さんも馬主であることにちょっと不安はありますが)。でも、もしプロ野球の球団オーナーになるために中央競馬の馬主になるための厳格な審査以上のものが必要なのだとすれば、きっと今のプロ野球というのは球場前にダフ屋がおらず、外野席を占拠する私設応援団もいず、非合法賭博の対象にもならない健全なスポーツなんでしょう。だからこそ巨人軍は永遠に不滅なんですね。社会に事件がたくさんある現代では、沙羅双樹の花が咲いても新聞紙面にはモノクロの写真しか載せられなくて花の色がよくわからないのでしょう。


きょうの一冊:『優雅で感傷的な日本野球』 著/高橋源一郎

 

 

 

10月14日 なつかしい未来

 

スカイ・キャプテン』をみる。 

 一九三九年ニューヨークに突如飛来した巨大ロボット群、それに立ち向かうエースパイロットと女流新聞記者。ロボット、飛行船、ロケット、小松崎茂的な空想科学の世界が最新の技術を駆使してくり広げられる様はまるでクラシック映画をみているかのよう。原子爆弾の灯も月へ飛び立つロケットの炎もまだ見ぬ頃、科学の進歩がもたらす明るい未来を信じたかったあの時代に少年が夢みた世界がある。ここでは人間存在を問う思想とは無縁にロボットが動き、政治的イデオロギーとは無関係にロケットが飛ぶ。『スターウォーズ』シリーズからしだいに消えていった、宮崎や押井や大友があえて忘却してきた、無条件の明るさをもったなつかしい未来がこの映画にはある。


きょうの一冊:『地球SOS―超特作科学冒険物語』 著/小松崎茂

地球SOS―超特作科学冒険物語

 

 

10月13日 PLUTO

 

 浦沢直樹×手塚治虫の『PLUTO(プルートウ)』を読んだ。 

 『鉄腕アトム』の一エピソードを原作とした浦沢直樹の新作。漫画が原作の漫画、しかもあの手塚治虫のそれも『鉄腕アトム』をベースにして漫画を書くなんて浦沢直樹以外にはできない芸当。 

 浦沢作品は『YAWARA!』から入って、『MASTERキートン』に浸り、『MONSTER』を味わって、ここ最近はご無沙汰だった。コミック誌を読む習慣がないので『PLUTO』は連載の存在すら知らなかったが、大阪の私鉄ターミナル駅にも『PLUTO』単独の大看板広告を掲出するほど大宣伝キャンペーンのおかげで、単行本を刊行まもなく手にすることができた。 

 ドイツのロボットを主人公にしてヨーロッパが舞台の中心となる第一巻は『MONSTER』の雰囲気を引き継いでいて、人物の造形もこれまでの浦沢作品と共通している。ただ、一部の人間そっくりなロボットをのぞいた機械風のロボットは手塚治虫的な意匠を受け継いでいる。ストーリー展開は主人公の物語が数話つづいたあと、ぷつりと別のキャラクターの挿話へと切り替わり、さらに次でそれらが重なり合う浦沢作品おなじみの手法。手塚治虫のリメイクというよりも、たまたま原作が手塚漫画の浦沢直樹の新作といったほうが合っている。それでもやはり読者の興味は浦沢直樹がアトムをどう描くのかにあることは作者も分かっており、第一巻の最後の一コマにその登場シーンをもってきている。一ページまるまるを割いたこの大コマは、ひとつの作品やある作家のといった範疇を超えて、漫画の歴史に残る一コマで、おそらく百年後に「漫画史」といったものがあるとすれば確実に引用されるだろうもの。手塚治虫によって生み出されたアトムが、五十年の時を経て浦沢直樹の筆からもう一回誕生した。再生ではなく新生であり、これから手塚アトムと浦沢アトムはともに生きていくだろう、漫画の未来に向かって。


きょうの一冊:『PLUTO(1)』 著/浦沢直樹×手塚治虫

PLUTO (1)

 

 

 

10月12日 格安ロケット

 

「貴重な資料「H2」7号機、引き取り手なく廃棄の危機」 (読売)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20041009i303.htm 

 190億円かけてつくられたロケットだが、後継機の打ち上げに予算を集中するためにお蔵入り。財産目録上の資産価値は「1円」とのこと。ただ同然とはいえ、「全長50メートルの機体は、横倒しにしたり野外に展示したりすると劣化しやすいため、展示場の新設に数億円、本土への輸送にも1億円がかかる」ため引き取り手がないらしい。 

 打ち上げなかったことは、スペースデブリを増やさなかったわけで、NHK教育で『プラネテス』を毎週見ている者としては宇宙のゴミ「デブリ」を増やさなかったからよかったと思うものの、どこも貰い手がなくて地上でゴミになるというのはとても残念。 

 素人考えでも移設先としてはぴったりに思える北九州のスペースワールドは、交渉したが条件が合わなかったそう。経営難の遊園地という境遇には強い親近感を抱く身としては、これも残念でならない。 

 しかし、廃棄するにも解体費用はかなりのものだろうし、いっそネット・オークションに出してみれば世界中の好事家の目にとまってだれかが引き取ってくれるかも。 

 カテゴリは「アンティーク、コレクション」内なら 

 ◎「SF」 
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 ▲「科学、自然」 
 △「フィギュア」 
 ×「骨董品」 

 「ミリタリー」だと外交問題だし、「おもちゃ、ゲーム」にしとくのはもったいない、「ボトルキャップ」はちょっとおもしろそうだが、「おまけ」はいくらなんでも。 


◇一円〜新品未使用「H2ロケット7号機」 

 出品者:宇宙航空研究開発機構 

 商品詳細:2000年夏に打ち上げ予定でしたが、諸事情により中止したため未使用の新品です。打ち上げには最寄りの警察署、飛行場、国土交通省、NASA等への申請・許認可が必要です。人間は乗れません。発送は種子島郵便局から郵パックで送料別(約1億円)、ノークレーム・ノーリターンでお願いします。


きょうの一枚:『プラネテス(1)』 (DVD)

プラネテス 1

 

 

10月11日 少女映画

 

 暴力的・性的な描写等で健全な青少年の育成に悪影響があるとみなされ、15歳以下はみちゃダメよという「R−15指定」の映画があるが、そういう作品の多くは一番面白いと感じる年齢層が規制対象の14・5歳ではないかと思う。 

 昨今、自主規制の嵐となっている『バトルロワイヤル』なんてその典型だろう。 中学生の殺し合いを中学生が面白く感じられないならエンターテイメントとしては欠陥があるわけで、その筋の人がみても面白いヤクザ映画『仁義なき戦い』の監督が撮ったのだから、その点は抜かりがない作品になっていた。それをみちゃダメと取りあげるのは、取りあげる側が「良識のある大人」にみられたいからであって、取りあげた青少年が健全に育つかどうかとは無関係だろう。ある現実の事件の加害者がみていたからといって、それですべての子どもに悪影響があると思うのは勝手な推測(もしくは願望)でしかない。『バトルロワイヤル』は少年犯罪を助長するという考え方は、『おもいっきりテレビ』でみのもんたが言うことを実行すれば長生きできるという思い込みと同じくらい怪しいが、同じくらい信じられてもいる。 

 大人と子どもでは同じ映画をみても感じ方がちがうはずで、そのギャップを考慮せずに大人の印象を子どもに投影することが勘違いの要因のひとつになっているが、『下弦の月』はそんな感じ方のちがいをよく分からせてくれる。矢沢あいの同名少女漫画が原作だが、僕が今までにみた少女漫画を映画化した作品のなかではもっとも少女漫画的な雰囲気を再現することに成功した作品に思える。複雑な家庭環境、突然の交通事故、謎の洋館、少女趣味な衣装や小道具、まさに「幻想的な妄想」と呼ぶにふさわしい雰囲気のストーリーと映像。そのうえに役者がこの人たち以外には考えられないくらいはまっている。先日放送されたNHKの『トップランナー』で「視野を広くするために最近は少女漫画を読んでいます」と豪語した栗山千明が映画初主演。同番組でこの映画について「普通の女の子を演じるのが難しかった」と語り、この役柄を普通の女の子と思える女優は彼女くらい。容姿のみならず心のなかから少女漫画的な彼女でしかこの役はありえなかっただろう。 

 そして助演ながらこの映画で存在感ナンバー1のHyde。L'Arc〜en〜Cielのボーカルにして俳優初挑戦の彼が、少女漫画的世界観に見事に適合している。アーティストとしてのキャラクターがまずあり、そのうえに塗りたくるようにしてできた俳優としてのHyde。正直、L'Arc〜en〜CielとLUNA SEAとGLAYのメンバーは入れ替わっていても分からないし、HydeとhideとGacktはちょっとずつ違ってるけれどダチョウ倶楽部のメンバーくらいに芸風が似ているように思っていたが、この映画でHydeというとてつもない個性が存在することを強烈に知ることとなった。序盤では栗山千明の制服シーンに目が行っていたのが、インパクト絶大のHyde登場シーンから一転、スクリーンにHydeがあらわれると期待感に胸がおどり、しばらくHydeが出ないシーンがつづくと禁断症状が出てくるほど、もうHydeに夢中。白眉は英国人と日本人のハーフで「日本語が少し話せる」設定の彼が英語を話すシーン。こんなに自信たっぷりに中学生が英語の授業で音読するような調子で英語を話す日本人をいまだ見たことがない。これを前後のストーリーや演技の流れのなかでまったく不自然に思わせない世界観をつくり出したことが映画の最大の成功だろう。 

 この映画をみおわって出てきた女の子たちのなかに涙をふいている子が少なくなかったが、この映画で感動できる感性を持っているのは財産だと思う。できればその心をもったまま大人になってもらいたい。そのためにも、邪悪に染まった大人たちがこの映画を劇場でみるときは決して感情を露出してはいけない。途中からHydeの姿をみるたびに胸の奥からこみ上げてくるものがあるが、それは我慢しなければいけない、まわりにいる純粋な女の子の夢をこわさないために。


きょうの一枚:『下弦の月』 (DVD)

下弦の月 ~ラスト・クォーター

 

 

10月9日 台風22号関連情報

 

 今年9回目の台風上陸でした。一週おきに週末は台風というのが日常になっているので、もうなれっこなわけですが、今回は大変でした。 

 台風と一緒に沖田君がやってきたからです。 

 沖田君といってもABC『おはよう朝日です』の着ぐるみではなく、NHK大河ドラマの新撰組一番隊隊長の方です。天下の新撰組とあって、京・大坂はもとより遠く江戸からも見物客がやってくるので、前日から問い合わせの電話が鳴りまくりでした。 

 台風は大丈夫ですか?⇒気象庁へお願いします。 
 新幹線は動きますか?⇒JRへ問い合わせください。 
 飛行機は飛びますか?⇒全日空に確認してください。 

 聞かれたところで分かりかねることも多かったのですが、とにかく心配でたまらなそうなところは病弱キャラの沖田君ファンらしいです。これでもし来られないとなれば池田屋事件なみの大混乱となっていたかもしれませんが、沖田君は『バトルロワイヤル』の少年でもあるため逆境に強い人でもあり、台風にも負けず果敢に登場してくれました。多数の見物客があふれかえるなかで無事に御用改めがおわると、沖田君は休む間もなく次の移動先に向かうべく南海ラピート号で関空へと去っていきました。スケジュール的にはまったく平穏無事にとり行われたのですが、しかしまあ、台風の進路がちょっとそれたら危なかったわけで、そのあたりはスターの運の強さなのでしょうか。「嵐を呼ぶ男」ならぬ嵐を呼ばなかった男、沖田君の活躍を目の当たりにして、受信料を払おうという気持ちを新たにした一日でした。


きょうの一箱:『新選組 ! 完全版 第壱集 DVD-BOX

新選組 ! 完全版 第壱集 DVD-BOX

 

 

 

10月8日 フォッグ・オブ・ウォー

 

 キューバ危機、ベトナム戦争時の米国防長官ロバート・S・マクナマラへのインタビューに当時の記録フィルムを織り交ぜて、現代史のターニング・ポイントでアメリカがどのように決断したかを描いたドキュメンタリー『フォッグ・オブ・ウォー』をみた。 

 第二次大戦で日本の空襲計画を立案し、戦後は自動車産業界へ、フォード社社長に就任した直後、ケネディ政権の国防長官に抜擢される。キューバ危機、ベトナム戦争と冷戦真っ只中で陣頭指揮をとり、ケネディ暗殺後のジョンソン政権では泥沼化した戦争の責任を追及されて反戦運動のターゲットに。大統領との確執から政権を離れ、世界銀行の総裁となる。 

 アメリカ屈指の俊英であったマクナマラは、そんな存在であるがゆえに国の舵取りを任される。そして時代はあいにくにも戦争を必要としていた。自らの判断によって多数の人間の生死が左右される立場に立たされる。マクナマラはその時々でベストと思われる判断を重ねていくが、結果としてベトナム戦争は長期化し、アメリカにとって唯一の「負けた戦争」にしてしまった。 

 ジャーナリズムの金字塔、ハルバースタムの『ベスト&ブライテスト』やマクナラマ自身による『マクナマラ回顧録』など当時の当事者による証言の活字を目にしてもいまひとつ現実味を感じなかったが、いまなお健在な本人によるインタビュー映像だからこそ伝わってくるものがあった。国防長官時代のマクナマラはいかにもエリート然としているのに対し、インタビューに答える老マクナマラはどこにでもいそうなアメリカの爺さんでしかないが、そのギャップが逆に歴史の生き証人らしさを増している。過去の自らの決断についての語り口やそのときの表情からは後悔や恥辱といったネガティブな感情はうかがえず、常に自信に満ちており、自らの信念は過去も現在も微塵も揺らいでいないという印象を受ける。インタビュー全体をとおしてマクナマラが主張する「私のこれまでの判断はその時点での最良のものだった、だが結果として間違っていたこともある」という考え方は、現代社会で理想的な思考パターンだが、それを無理なく言い切る人生というのは稀有なものだろう。 


 マクナマラは自分の考え方や選択はたいてい人より優れていることを経験的に知っているのだから、たとえそれが間違いであっても、間違う確率はもっとも低いのだから仕方がないと思えるのだろう。そんな人物だからこそ、自国の未来や世界の存亡がかかった決断であっても平常心を保てたのではないか。とはいえ、人間であるからには焦りや緊張、弱気なども当然あったはずだが、マクナマラにとってそうしたマイナスの感情はわざと隠しているのではなく、自然と記憶に残らないものなのかもしれない。この人が競馬をやったかどうかは知らないけれど、かなりいいギャンブラーの素質がありそうだ。世界の命運を賭けた勝負なんて、人類史上で彼らと孫悟空くらいしかやったことがない。そんな大勝負に際してマクナマラが「オラ、すげえワクワクしてきたぜ」と思ったかどうかは分からないが、少なくとも責任の重さに押しつぶされるようなこととは無縁だっただろう。そんなマクナマラの人生にふれて、今週の重賞を予想するのにもまず外れたときのことを考えるような僕も勝負度胸が少しは沸いてきた気がする。人より優れた判断力は別として。


きょうの一枚:『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』 (DVD)

フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白

 

 

10月2日 ケータイ刑事 VS シベ超

 

「TBS、ドラマで放送ミス 「ケータイ刑事銭形泪」」 (産経)
http://www.sankei.co.jp/news/041001/bun115.htm 

 第1シリーズの4話目と第2シリーズの4話目をまちがえたそうです。タイトルからしてとほほ感がいっぱいのドラマですが、公式サイトを見てみると、もとはTBS系列のBSデジタル局BS-iで放送されたもので、BSでは先月9月26日に第2シリーズの最終回が終わったところです。そして、なんとこの最終回、サブタイトルが「水野晴郎を迎撃せよ!」でゲストが水野晴郎と西田和昭(通称ぼんちゃん)ではないですか。あの映画「シベリア超特急」の名コンビがブラウン管に! 

 地上波の放送ミスがもう一週間はやくおこってこのドラマの存在を気づかせてくれれば、水野先生の雄姿を見ることができたのに。シベ超まつりに関わったものとして残念で仕方ありません。

追記:
 ちなみに、スカパーでは10月10日に「シベリア鉄道全線開通100周年記念」として、「シベ超」シリーズを完全放送するそうです。
http://www.nihon-eiga.com/0410/0410_03.html


きょうの一箱:『ケータイ刑事 銭形泪 DVD-BOX I 』

ケータイ刑事 銭形泪 DVD-BOX I

 

 

10月1日 ニッポニアニッポン

 

「大臣訓示で「賭けゴルフ」告白? 麻生総務相 」 (朝日)
http://www.asahi.com/national/update/0930/020.html 

 この記事、大臣が訓示で賭けゴルフをしていたと受け取れる発言をしたことが悪いのか、賭けゴルフをしたこと自体が悪いのかがとてもあいまいです。ゴルフで賭けをすることは広く一般に行なわれていることですし、この記事を書いた新聞記者の周りにも経験者が多数いることでしょう。発言した大臣も、記者も、読者もそれを暗黙の諒解としながら馴れ合っています。大臣は「冗談でした」などとかわさずに、「ゴルフでは確かに賭けをしたが、それは一時の娯楽に供するものを賭けた程度であり、刑法百八十五条で賭博罪の適用除外となる範囲である」と言えばいいし。記者は「こうした発言は訓示にふさわしくないので、大臣の人間性を疑う」という趣旨をもっと明確にすべきでしょう。読者に「こんな発言をしてこの大臣は仕方ないなあ」程度の感想を持たせるために「賭けゴルフ」をぼんやりとした悪徳としてとりあげながら、その本質については言及を避けています。そんな朝日新聞社が、愛郷心やさわやかな青春を謳いながらも一面では組織的な賭博の対象となっている全国高校野球選手権を主催し、公営ギャンブルである中央競馬では「朝日杯」が新聞社杯唯一のG1レースになっているのです。 

 これと同じような構造を背景にもっている記事がもうひとつ、 
「伊勢ケ浜親方を降格 力士がドーピングと週刊誌で発言 」(朝日)
http://www.asahi.com/sports/update/0930/116.html 

 親方は発言したことを否定しているものの、発言したとされる事の正否については言及していない点で「賭けゴルフ」発言と同じお茶のにごし方です。 

 週刊誌では他の格闘技へ転向したりして相撲協会を去った元力士などの八百長発言が頻繁に掲載されていますが、今回は日本相撲協会の内部から組織の不利益となる発言が出たため、協会としては何らかの処分をしなければけじめがつきません。しかし、親方が八百長やドーピングを認めたという事実があってはいけないから、親方の発言は週刊誌の捏造だけれど親方にはそんな記事に名前が載ってしまった責任をとってもらうという、かなりまわりくどいものになりました。 

 神事に則った儀式、女人禁制の土俵など「国技」としての権威によって他の格闘技と差別化され、伝統の継承を義務づけられた大相撲は、100kgを越えて標準といわれる体重を維持しながら、一年に六場所十五日の真剣勝負を続け、横綱ともなればよほどのことがない限り負けることが許されない過酷な世界です。そんな競技や興行の形態が格闘技やスポーツと呼べるかは微妙なところですし、現在の形式と人気が確立してからまだ100年も経っておらず、日本の国技でありながらも優秀な人材の多くを在日・来日外国人に頼ってきたという事実がありつつも、国民的娯楽であることはたしかです。すべての取組はNHKの全国放送で生中継され、なにせ横綱の対戦が終わらない限りは6時のニュースがはじまらないのですから、大相撲の結果はその日のどんな事件よりも重要なのです。そんな大相撲の権威を傷つける中傷は、たとえそれが一部は真実かもしれないと疑いつつも否定しなければならないのでしょう。 
 たぶん、この国にはそういうことがたくさんあって、それをうまくこなしていくことが処世術のひとつなのかもしれません。アテネ五輪で長嶋ジャパンと言っていたのは、天覧試合でサヨナラホームランを打ったスーパースターは病気療養中で人前に姿を見せなくとも地球の裏側の選手を指揮できるからだし、トキは日本海の周辺に生息していた種類がいなくなっても、中国の山奥からつれてきて日本で繁殖すれば絶滅したことにならないのはNipponia nipponという学名を付けられた鳥だからなのでしょう。


きょうの一冊:『ニッポニアニッポン』 著/阿部和重

ニッポニアニッポン