12月27日 グランプリ
クリスマスも正月も休みがないならと12月最後の日曜日に休みをとった。世の中では二大年中行事に挟まれたなんてことない日曜日だが、12月26日のこの日は競馬の有馬記念があるために僕にとってはとても重要な日。
有馬記念は一年の総決算にして集大成のレース。一昨年、去年と年間収支プラスできていたために気がまえなくむかえていたが、今年は明石家さんまがゴールドラッシュと宣伝しがら、どこにも金は埋まってない新馬券・三連単の泥沼の中でもがき苦しむうち、すっかりパリーグ球団なみの赤字体質におちいってしまった今年の僕にとっては終わりよければすべてよし、一発逆転満塁サヨナラホームランを決める大事なレースになった。
予想の方は一週間前にほぼ確定し、馬券は前日に購入済み、あとは結果を待つだけとなったのだが、せっかくの休みに家でテレビ観戦ではなんとなくもの足りない。さすがに千葉県の中山競馬場まで日帰りする気はないが、同時開催中の阪神競馬場なら現場のレースも見れるしにぎわった競馬場の雰囲気も味わえると兵庫県宝塚市まで出向くことにした。
ここ一週間ほどで急に冬らしく冷え込んだので、屋外で観戦するのは厳しいと暖房完備の室内にある指定席を狙って早朝から出かけた。6時に家を出て、7時に梅田着。そこで同行するウマ友・えばを氏と合流し、阪神競馬場のある仁川まで阪急に。帰りは壮絶な混雑になるので競馬場へ行くときはいつも往復乗車券を買っておくのだが、阪急は往路と復路が別の二枚を買う方式。そんな都会のシステムに慣れていない和歌山在住のえばを氏(厳密に言うともう少しで和歌山になるギリ大阪な山の手に住んでいるのだが、彼は地元から滅多に出てこないためにかなり遠くにすんでいる印象がある。梅田の待ち合わせも紀伊国屋前でないと迷うし)が、この二枚を同時投入してしまって駅員にめずらしがられている時間ロスが発生。
あまり遅くなると指定席が定員に達して売切れてしまうので気持ちがはやっている僕はあせるが、えばを氏と駅員は二つとも穴の空いた往復切符を間に談笑している。結局、五分ほどで検印を押してもらって出てきたえばを氏をせかして特急に飛び乗る。近鉄沿線の僕にとっては阪急の特急料金が要らない特急というのになじめないのだが、特急といわれるとなんだかとても速い気がして、あっという間に西宮北口に着く。そこから今津線の各駅停車に乗り換えて仁川へ。今津線は部活の試合かなにかに行く高校生と競馬場へ行く灰色の人たちが半々。健全な夢と希望を追いかけるスポーツマンに混じる澱んだ欲と打算にまみれた馬券オヤジ&アニキ。「こんな大人にはなりたくない」と「お前らももうすぐこっち側」のせめぎあい。
仁川で下車するとこの電車で数百人はいるだろうという人の波にもまれて、これだと指定席は厳しいなと思っていたら案の定、駅を出てすぐの競馬場直通地下道の入り口で緑の制服の人(JRA職員)が「指定席は完売です」とアナウンスしている。競馬場にはATMもコンビニも競馬新聞を売るスタンドすらもないと思って、何も持たずに着たから寄り道しようよと言うえばを氏に、全部あるから、カイロも売ってるからと言って急ぎ足で先を行って後をついてきてもらい、レースよりも激しい一般席争奪戦に参加すべく、入場門前へ。入場規制の三回目に食い込んで10分もしない7時50分に開門。競馬場入場料200円をケチってか、一刻も早く席を取りたいからか入場券を買わずにダッシュする人ごみにはさすがにまじれず、きっちり入場券を買ったものの、改札で半券もろとももぎ取られて、これなら誰が入場券を買ったか分からないじゃないかと憤りつつも早足で3階禁煙席へと駆け上がってなんとかターフビジョン前の好位置をものにする。
そこから1レース発走までの二時間は、ひたすら暇。得たことといえばモニターで映像が流れた過去16年分の有馬記念のレース結果と前後の席グループの人間関係くらい。前列と横は水筒に焼酎、タッパに梅干、つまみにサキイカと完全に宴会モードなわりには口数の少ない常連らしい馬券おやじのグループ。後列にはヤンママとそのダンナと推定3歳の男の子の馬券ファミリー。ダンナの職場の人があとから来るのでその場所とりに家族総出で駆りだされたらしい。ヤンママは初対面ながらも普段グチだけは聞いているからか、いいイメージをもっていないダンナの職場の人たちとあまり会いたくなさそうで、ダンナは武豊がオグリキャップ以来15年間有馬記念は勝っていないという事実を知らないらしく、モニターを見ながら「武豊が勝ったのこの年やで」を連発。子どもははしゃぎまくり、この分だと午後は寝てるだろうという僕の予想(期待)を裏切るスタミナタイプ。レースごとに最前列まで階段を駆け下りてはまた昇るを繰り返し、昼には他の客にぶつかって食べていた競馬場と築地の店でしか売っていない吉野家の牛丼をこぼさせるやんちゃぶり。注意されると「お前が悪いんやろ」と言い返して、それに母親が「知らん人にお前って言ったらあかん言うたやろ」と論点をだいぶ間違ったしかり方をみせる。インクレディブルなスーパー家族。
そんな環境に悪影響を受けたのか、午前中はさっぱり当らず。レースをみても直線で買っている馬が勝ち負けにからむこともないので声も出ず。もりあがらないままに昼食を買いに売店へ。500円の格安だった洋風弁当を頼む。どれやったかなと探した店のおばちゃん、一番安いのだとわかるや態度がぞんざいになってあやうく箸がつかないところだった。このころから場内の混雑が加速して、禁煙区域内を一歩出ればヘビースモーカーズフォレスト、トイレに行くにも長蛇の列でしかも順番抜かしアリ。
阪神と中山の6RでPOG指名馬4頭が出て全馬敗退ではじまった午後は、さらに馬券の調子が落ち、返し馬では馬場内のイベントで回っている馬車の馬に目が行き、パドックに馬を見に行っても誘導馬がいちばんよく見える始末。
この日、一度もあたらず11連敗でむかえた有馬記念。レースは別の競馬場だし、前の日に馬券は買ってあるから今日の運勢は関係ないと気を持ち直してみるが、ターフビジョンにちょうど日が射して映像が見えづらくなってまたトーンダウン。タップダンスシチーがうまく単騎逃げにもちこんで、1番人気ゼンノロブロイが3番手でそれをマーク、最後までこの二頭のレースとなって最後に交わしたゼンノロブロイが優勝。昨年をさらに1秒も上まわる新レコードを出されては脱帽するほかない。僕が1着に予想したコスモバルクとデルタブルースはともに本調子を欠いていたよう。えばを氏の馬券は見事に当って、僕はえばを氏と共同予想した馬券すら僕の責任で消したタップダンスシチーが来て僕が全額購入金額を支払うダブルパンチ。
これまでの経験からこんなことになるのではと思ってきちんと予想していた中山と阪神の最終を急いで買いに走る。中山のハッピーエンドカップは、もはやこの状況でハッピーエンドはありえない僕にあたるはずもなく、阪神のファイナルSではそのとおり終わりを告げられた。結果、15連敗となって一度も払い戻しにありつけないまま終戦を迎えた。ふだん電話投票で買っていると口座の残高の字面でしかないので、当って現金を手にする興奮を味わいたいと思ったのだけれど、一度もかなわぬとは。さっさと帰ろうとするとえばを氏が払い戻しがあるから待ってくれと。そこでデジャヴューを感じて思い起こすと1997年、はじめて見に行った菊花賞の日の京都競馬場でも同じことがあった。あれ以来僕はなにも成長していないのかとさらに落胆したが、あのころよりも負けるのには慣れたので、冷静さは保っているよというマイナス面での経験のつみかさねすらも、帰路で梅田の紀伊国屋に寄るつもりがブックファーストに着いてしまって、ああ失敗とエスカレータを降りて紀伊国屋に向かうが、なぜかまたエスカレータを昇ってブックファーストの前にいるという錯乱ぶりに裏切られる。そんな僕の後に着いてくるしかないえばを氏もえばを氏だが、そんな僕を気づかって年明けの正月競馬は回避しようと提案してくれる彼の温情はすなおにうけとっておいた。
もうひとつのグランプリ
帰宅してから、『M-1グランプリ』を途中から見た。一回目の最後で麒麟が出たところから。すでに笑い飯が最終決戦の上位三組からもれており、島田紳助と松本人志の不在は大きいと感じる。
最終決戦でははじめてみた南海キャンディーズがよかった。司会の井上和歌をいじる思い切った出だしから「しずちゃんワールド」に引き込まれた。キャラクターだけで押している部分があるし、しずちゃんの声が小さいのは気になったが、千鳥のネタをはじめてみたとき以上のインパクトがあった。さすがに笑い飯までの衝撃度はないが。
唯一逆転の可能性がありそうだった笑い飯が落ちたことでアンタッチャブルは磐石。ネタのつながりが抜群で漫才のリズムにも安定感があった。有馬記念にたとえるなら笑い飯がコスモバルクでアンタッチャブルがゼンノロブロイか。関西ローカルでよく見ている麒麟だが、今回のネタはいつも以上のものではなかった。
最終三組ではアンタッチャブルの独走。審査員は全員一致かとおもったら中田カウス一人が南海キャンディーズを挙げた。この人は自分の役割をよく理解している。破滅型の相方・中田ボタンとは対照的だ。
先輩芸人が居並ぶ審査員だけの判定では本命決着になりがち。そのほうが番組的にはいいのかもしれないが、見ているほうとしてはせめて一票ずつでもスタジオの観客と視聴者の票も入れてほしい。もし投票権があるなら僕は南海キャンディーズに一票を投じる。
きょうの一冊:『M-1グランプリ2004写真集』