1月23日 ニセ札に気をつけろ
「偽1万円札、対策などで経済的損失1兆円超にも」(読売)
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050123i112.htm
「第一生命経済研究所は、偽1万円札などが急増していることで、日本企業の業績が最大1兆円超落ち込む可能性があるとの試算結果をまとめた」
小売店などがニセ札鑑別機を導入するコストや通貨の信頼性低下によるインフレが経済に悪影響を与えるらしいです。たしかに、ニセ札によってさまざまな不利益が発生するだろうことは細かく分析せずとも容易に想像できます。僕もいちおうは小売店のひとつで働いていますから、最近のニセ札騒動には敏感になっています。旧一万円札の受け渡しの際には一応、透かしを確認するようにとの通達が出ていますし、旧札を出す際に自ら透かしを確認して渡してくれるお客さんもいたりして、世の中のニセ札に対する警戒感は増しているように感じます。そういえば、今日も昼飯を食べた松屋で食券機が故障して、冗談交じりにニセ札でも入ったんとちゃうか?と言っているのを聞いたりしました。
そんなことでニセ札が社会現象になりつつあるのは実感できるのですが、それが経済的な損失に結びつくかとういうと、そこまでのことなのかなとも思います。記事にあるようなマイナス要因については分かりますが、逆にニセ札鑑別機を販売して利益を上げるメーカーだってあるわけです。また、日本経済は現在デフレのまっただなかにあり、インフレ・ターゲット(政府や日銀がインフレに指向した金融政策をとって、意図的に物価を上昇させる経済戦略)を導入すべきなんていうあやしげなことまでいわれるくらいですから、少々のインフレならばプラス要因と考えることもできます。
しかも、1兆円という額がちょっと大きすぎるのではと、第一生命経済研究所にあるPDFファイルで詳しく見てみると、「対策費用が1兆631億円に上る」場合の試算は、日本全国の「小売業、飲食店、旅館・その他の宿泊所」のすべてでニセ札鑑別機を導入したケースでのことだそうです。ということは、全国のコンビニチェーン全店はもちろんのこと、ひなびた商店街にあるおばあちゃんがそろばん弾いて計算しているような雑貨屋や、平日は観客よりスタッフの方が多いときもある映画館なんかにもニセ札鑑別機なるハイテクメカが置かれると仮定するわけですね。
東京のど真ん中で仕事している研究所の人は、旧札しか交換できない両替機や新五百円硬貨が使えない自販機があったり、いまだに聖徳太子の一万円札が流通してたり、旧五千円札はマギー司郎だと思ってたりする「新世界」という名の旧世界に生きる人々のことは念頭にないようです。それでなくとも、一般的な小売店でもニセ札を受け入れることを防止するよりも優先したい設備投資はたくさんあるはずです。
また、インフレ云々の話も、ニセ札が100万枚以上流通したらという仮定のうえであって、2004年1月〜11月末で見つかったニセ一万円札が5000枚ほどですから、この年末年始にいくら大量に出回ったとはいえ、現実とはだいぶかけ離れた夢物語として聞いておいたほうがよさそうです。
第一生命研究所のニセ札に関するこの試算は、現状からすると過剰に不安を煽るだけで、実際に経済に影響を与えるとは思えないのですが、ニセ札を二千円札に代えてみるとどうでしょうか?
財布の中でババ抜きのジョーカーのごとく居座っている二千円札、お店で出すのは気恥ずかしく、かといって対応している自販機なんてほとんどなくて、しかたなくタンスにそっとしまっている人も多いはずです。そうなると、お金を使わなくなることで消費を抑制する作用をもっているかもしれません。なにせすでに数十億枚流通している二千円札ですから、その影響力はニセ札の比ではないでしょう。しかも、新札切り替えのドサクサにまぎれて、日銀の倉庫に出戻っていた二千円札が市井に放出されているという噂も聞きます。二千円札に対応するために企業はコスト増、使いづらい二千円札で通貨の信頼性が損なわれてインフレになんてことになれば、日本は金融政策で世界の笑いものになってしまいます。日銀に目を付けられかねないそんな研究は、さすがにどこの研究所でもNGでしょうが、経済学部の卒論なんかで書いてみると面白がられるのではないでしょうか。
個人的には二千円札といえば、初お目見えした2000年の沖縄サミットで当時の森首相が各国の首脳に一枚ずつ配って、「2000という額面の紙幣は世界初ですぞ!」と自慢し、そのときにいつも無表情なロシアのプーチン大統領の顔からさらに表情が消えていたイメージと結びつきます。あのプレゼントした二千円札は今どうなっているのでしょうか。場の演出では森首相から友人である(と一方的に思っていた)各国首脳へのおみやげというようになっていたと思うのですが、一応お金なので、帳簿上で表現しないといけないはずです。名目は政治献金で、内閣官房機密費から支出したことになったりしているのでしょうか。森喜朗元首相のキャラクター的には、こっそりODA(政府開発援助)として計上して、先進主要国へ援助してやったぜと自尊心を満足させてたりしてそうです。ならば、これも援助交際の一種といえそうですが。
それはともかく、新札に切り替わっても二千円札が流通するとすれば、発行された時期が古いために最新技術のホログラムなんかがなくて、もっとも偽造しやすい紙幣になるわけで、ニセ二千円札がつくられる可能性もあるわけです。しかも、普段見慣れてない分、受け取ったときにすぐに偽造と分かりづらいので、発見されずにそのまま流通し続けるかもしれません。それ自体偽者くさい二千円札のさらにニセ札となると、明石家さんまのモノマネをする原口あきまさのモノマネのようなものでしょうか。
原口あきまさといえば、今度近所の文化ホールにはなわと一緒に営業で来るそうで、毎朝最寄り駅のポスターで目にします。それが、今日の朝見ると、「安田大サーカス急遽出演決定!」という文字と写真で原口あきまさの顔が半分隠れてしまっていました。若手芸人界も生存競争が激しいようです。
追記:
ついでに、そのお笑いイベントを調べるのに文化ホールの今後の予定を見ていたら、3月に「國府田マリ子アコースティック
コンサート〜みんなでうた。〜」というのを見つけました。僕がお金を払って見に行ったコンサートは10年ほど前の厚生年金会館でのこの人のものだけなので、なんだか甘酸っぱい気分になりました。しかも、市の文化振興事業団設立15周年記念だそうです。たぶん事業団の若手には10年前に僕とおなじ空気を吸った人がいるのでしょう。
きょうの一冊:『超芸術トマソン』 著/赤瀬川原平