練習船日記

ホノルル停泊

2月7日 ホノルル港31番岸壁

 0800部署発令、入港の準備を始める。そして0830パイロット乗船。僕は入港風景を撮影するため再びプレス要員となって愛用のAE-1を持って船内を駆け回る。
 0915ホノルル港31番岸壁に着岸。船内の片付けと並行して、士官は入港・上陸手続き、故郷からの手紙の仕分けをおこなっていた。
 ランディング・パーミット(上陸許可証: 観光客とは異なり僕等はパスポートやビザは持っていない。パスポートの代わりに実習生証明書、ビザの代わりにランディング・パーミット~船員用に発給されるものである~を使うのだ)の交付を受けて、上陸員整列でここ(岸壁付近)と街を結ぶバスルートだけ教えてくれた後、1400から総員上陸。ホノルルの街を目指してある者はバスで、またある者は徒歩で出掛けてゆく。
 僕を交えた一行は全米で2番目に大きいといわれるアラモアナ・ショピングセンターへまず行った。途中の写真屋で往航中に撮りだめした写真の現像をたのんだ。どこに行っても相手が気長に付き合ってくれるのでなんとか英語での会話も成り立っているようだ。話には聞いていたTAXがアイスクリーム1つにもかかり、いくら払ったらいいのかレジへ行くまで分からない始末。これに関しては先が思い遣られる。

2月8日 ホノルル港31番岸壁

 右舷直(1、3、5部)の半舷上陸の日。昨日買ったストリートマップに加えて「the BUS」(路線バス)のルートマップも買い込んで行動範囲を拡大させる。と言ってもそれにはおのずと限界があり、どこへ行っても白い制服が目に入る。もっとも、その方がこっちは安心できるが。
 2月というのは旅行業界では暇な時期とされているらしいが、それでもJALパックのおねーさん、おにーさんがうようよいる。はっきり言って日本の植民地だね。店で英語を使ったら日本語で返事をされてばつの悪い思いをしたこともしばしば。

2月9日 ホノルル港31番岸壁

 本日は停泊当直の日。ここでは特に一般公開はしていないが、希望者にはどんどん見せている。見学者の案内にあたるのは当直部の実習生である。英会話のチャンスであるので僕は呼び出しがあるたびに飛んでいく。(皆はこういうのは好きじゃないらしい。)とは言ったものの、説明にはかなり苦労した。

2月10日 ホノルル港31番岸壁

 午前中は街へ出て、読めもしない英語の本(いかがわしいものではない)を買ってくる。午後はバス見学。練習船でまとめて申し込んであるツアーで、半舷づつ日を変えて(上陸舷の連中が行く)交代で行う。
 パンチ・ボール国立墓地、風の名所ヌアヌ・パリ、オアフ島東海岸、ポリネシア文化センター(P.C.C.)等を見学する。
 このP.C.C.はモルモン教が運営しているため、園内には喫煙できる場所が少なく、酒は無論のことコーヒーも一切ダメ。夕食もここでとった。量に関してはバイキング形式のため問題は無かったのだが、先にも触れたようにコーヒーが無いので食後がなんと寂しかったことか。味に関しては個人の好みがあるので一概にはいえないが、「僕等の口には合わない」と言う評価の方が多かった。
 この後、P.C.C.のナイトショー「This is Polynesia」を観る。これは最高のショーだった。ポリネシアの島々の民族衣装を着てポリネシアの歌や踊りを次々に見せてくれるのだ。演出も良くできていて、英語が分からなくても楽しめる。一見の価値があると思う。またこのショーの始まる前に、ホールの入り口でカリカチュア(デフォルメされた似顔絵)を頼んだ。ポラロイドで予め顔の写真を撮っておき、ショーの間に描いてしまうのだ。ビニールでパックされたもので1枚8$也。

2月11日 ホノルル港31番岸壁

 今日は反対舷の実習生のバス見学の日。在船者は整備作業。僕等は4号艇(救命艇)の艤装品のチェックと掃除、あとは課題研究と称して故郷へ手紙を書いて1日を過ごした。

2月12日 ホノルル港31番岸壁

 ホノルルでの最後の上陸日。間の抜けた事をしてしまった。なんと、上陸の際に携帯を義務付けられたランディング・パーミット(これが無いと密入国者とみなされる。トラベラーズチェックを使う時の身分証明書にもなる。)を忘れて上陸してしまったのだ。店でトラベラーズチェックを使っている最中にそれに気が付き、店員に慌ててそれを知らせると、にっこり笑って「船の名前は?」と聞いてくる。「日本丸。N-I-P-P-O-N-M-A-R-U」とこっちが言うと、それをトラベラーズチェックの裏に記入してそれで終わり。助かった。一週間近く白い制服の日本人がうろうろしている訳だから、疑われなかったのだろう。
出掛ける時は忘れずに!

2月13日 ホノルル港31番岸壁

 今日は左舷直(2、4、6部)の連中の最後の上陸日。僕等在船者は帰りの航海用の食糧の積み込みを行う。あとでギャレーからアイスクリームが配られた。

2月14日 ホノルル港31番岸壁

 朝の課業整列で船内の人員の確認をし、その後は公用以外は岸壁にも降りられない。又、給水も再び航海状態に戻り、洗濯機にも脱水機を除いて封がされた。午前中は土産用に免税で購入した酒等を積み込んだ。昨日と同じ要領で(総員並んでの手渡し)船内に搬入した。
 1300出航。当初予定されていた登檣礼は行わなかった。
 日本領事館の要請でワイキキ沖をしばらく帆走した後帆を畳み、機走で南下を開始する。僚船「海王丸」ともお別れだ。
 オアフ島が、海王丸が、徐々に小さくなって、水平線の彼方へ消えてゆく。思い出と長三声をのこして・・・

ホノルルよ、ALOHA!