練習船日記

シンガポール→東京

8月19日 01-29N, 104-24E

 朝別課の整列で出港前恒例、C/Oの「御達示」があった。
「達する! 本日1000当港発、東京へ向かう!」
瞬間、実習生の間からどよめきが洩れる。いよいよ東京だ。
 0930S/B、1005出港。1151船内視時に合わせるため時計を51分遅らせる。
 名前を聞かなかったけど、シンガポールの女子高生達、元気でな! バイバイ。

8月20日 07-00N, 108-23E

 08-Noon直、20-M.N.直に入る。銀河丸の当直は、「ドッグ・ワッチ」を採用している。これはワッチ・シフトをしなくても当直が変わるのだ。当直時間は次のようになっていて、1ヶ部づつが(全部で4ヶ部)順番に入直するのだ。

M.N.-04直 04-08直 08-Noon直
Noon-16直 16-18直 18-20直 20-M.N.直

*午後の16-20直が2つに分かれている。

8月21日 12-24N, 113-00E

 風邪気味で頭が痛い。
 午後は遠洋航海最後の操練。防水部署、早い話が衝突や座礁した場合にどうやって浸水を防ぐか、排水の方法は、といった訓練である。
 帰国後税関に提出する乗組員携帯品申告書を書き上げる。

8月22日 17-08N, 117-48E

 M.N.-04直、VHFが船を呼んでいる。どうも本船らしい。そこでなぜか他の当番に入っていた僕が呼ばれ、応答をする。聞けばNNSSによる船位を知りたいとのこと、相手のコールサインはVWGB(船名は発音がややこしくて聞き取れなかった)インド国籍のばら積船だそうな。こっちも日本船籍の練習船で、世界一周の訓練航海で東京に向け、帰国の途にある事を伝えボン・ボヤージを交わして通信を終了する。
 さて、そろそろ気になるのは台風の事。FAXの天気図によると12、13、14号の3つがいる。このうち14号は台湾のあたりをうろうろしていて、非常にやばい。日本では「台風」と言うけれど、天気図や航行警報では T8613などと言う。(T8613は、1986年の13個目のTyphoon: 台風13号)そして、13号はVera、14号はWayneと名前も付けられている。奇数号は女性名、偶数号は男性名、昔は全部女性名だったが、婦人団体から抗議を受けて、両方とも付けるようになったのだが、女性名を冠した方が強く、大きな被害をもたらすことが多いとか。ちなみに台風14号はTS8614(Tropical Storm)である。

8月23日 22-07N, 122-07E

 0700バシー海峡(台湾の南側の海峡)に進入。
 C/Oの話だと今夜半から明日にかけて14号に最接近するとの事。14号は発達してSTS(Strong Tropical Storm)となった。
 1130、与那国島の西をかわって北上、東シナ海に入る。

8月24日 26-24N, 123-52E

 昨晩から船酔いで死んでいる。1ワッチに4、5回は吐く。よくもまあこんなに吐く物があるものだ、といつも思う。ピッチングが激しい。船首で分けた波がドッ! とバケツをひっくり返したような勢いで船橋まで飛んでくる。

8月25日 30-30N, 130-01E

 なんとか台風13、14号をかわして朝、島が見える。臥蛇島だそうだ。そしてNoon-16直、大隅海峡に入る。
 台風の残していったうねりがまだ高い。

8月26日 33-11N, 135-55E(潮岬沖)

 午後課業はスナップ(雑巾)作り。16-18直に入る。僕の最後のサブ・ワッチ。大王埼を過ぎて遠州灘の沖にさしかかる。北東の方向、百数マイル、レーダーに大きな影が映っている…もしやと思い、チャートを見ると大当たり!富士山だ。今度はウイングに出て双眼鏡で見る。雲間に、ちっとも雪を被っていないけれど、確かに。「帰ってきた」と実感したのはこの時だった。

8月27日 東京 沖 <Anchor>

 0315熟睡中に叩き起こされてS/B、船首に出ると懐かしの東京灯標が、前方には僚船「大成丸」が錨を入れて休んでいる。
 0350銀河丸も錨を入れる。午後は例の如く。
 1600、Capt.以下全乗組員が第一教室に集合、Capt.の短い挨拶の後、最後の安着祝いのバドワイザーで乾杯。船内のどこもかしこも安着を祝い、大賑わいを見せて夜は更けていった。

8月28日 東京晴海H-2

 0840S/B、実習生にも士官にも宿酔で頭の痛そうな顔がちらほら、銀河丸は最後の6マイルを航走してH-2に着岸する。
 通関手続きが長引き、実習生の総員上陸は1700を過ぎた。

銀河丸よ、ごくろうさん