■郷土新聞連載中 「窓」 より
1. 明日を開く「出会い」
2.「すばる」との出会い
3.「造園」との出会い
4. 妻との出会い
5.「神様との出会い」
6. 蕎麦との出会い(1)
7. 蕎麦との出会い(2)
8. 不登校との出会い(1)
9. 不登校との出会い(2)
10. 不登校との出会い(3)
11. スローライフとの出会い
12. 掛川との出会い
9.不登校との出会い(2) 小松正明
 松本へ移ったものの、長女は相変らず家から一歩も外へ出られない生活が続いた。ドラマのシナリオのようにうまくはいかないもので、不安と絶望の日が続いた。
 妙な安定のなかで彼女の日常の様子を見ていると、笑ったり外を見たりする調子の良い日々が続いたかと思うと、再び落ち込んだ日々が続くという風に、気分に上下の波があるのに気づいた。ただ次第に調子の良い日が長く続き、落ち込んでもその度合いが改善しているような気がしたのがわずかな救いだった。変化は薄紙を一枚一枚はがして行くように、緩やかなものだ。悪くはなっていないよね、というのが夫婦の合い言葉だった
 ところで、松本市の小学校には「心の先生」という制度があった。これは、退職した先生に来て頂き、空き教室を使って子供や親の相談を受けたり、学校に来られるものの教室には入れないという子供の避難場所になるものだった。そこで夫婦揃って月に一度ここを訪ねて担任の先生と共に面談をしてもらうことにした。面談と言っても、先生たちから特別に「こうしたらどうですか」「こうした方がよいですよ」といったアドバイスはない。ただ我々の愚痴めいた話を聞いてもらうだけだったのだが、このことでどれだけ我々の重たい気持ちが軽くなり救われたか分からない。逆に、こちらが意を決して親の責任で、クラスメートにプリントを届けてくれるように担任の先生にお願いをしたりした。アドバイスされて動くのではなくて、親の責任で行動をしなくてはと思った。
 そうしてひきこもる生活が続いたある日、彼女が「本屋さんへ連れて行ってほしい」と言い出した。「大丈夫かい?」「うん、行きたい」そうかそれならば、という事で車に乗せて近くの本屋へ連れていった。本屋でも目的の本を買うだけだったが、外へ出たのはほぼ半年ぶりのことだった。これが良いきっかけになるか、と思ったがまだまだ簡単に学校へ行けたりはしなかった。それでもあの本屋に連れて行ったときの青い空と常念岳は本当に美しかった。(さらに続く)

 
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