星と天文の世界に何となく興味を持ったのは、中学一年の春だった。ちょうどその頃、学校側で八センチ屈折式の望遠鏡を斡旋してくれたのだが、注文してからそれが届くまでの二ヶ月間はずいぶん待ち遠しかったものだ。
もっと大きな反射望遠鏡が欲しくなり、中一の十月から半年間、夕刊だけの新聞配達のアルバイトもした。
何とない天文への憧れをさらに強くしたのは、晩秋の夜に東から上がってくる「すばる」だった。
「すばる」は自動車会社の社名と思われるかも知れないが、実は枕草子にも「星はすばる・・・」と謳われているれっきとした日本語である。天文の世界ではプレアデス星団という言い方の方が一般的で、冬の星座「おうし座」の中の天体である。
その正体は、目が良ければ肉眼で六個、双眼鏡があれば二十個以上の星が固まって見える散開星団と呼ばれるものだ。まさに「宝石箱をひっくり返したよう」な星の集団であり、初めてこれを見たときは本当に感激したものである。
バイト料を元に反射望遠鏡を買って、ずいぶん星空を眺めたものだが、時が経ち、より高性能な望遠鏡がほしくなるにつれ、星空を見る情熱はしだいに薄れてしまった。
今では星空を眺めるのは夜遅くアパートに帰るときばかりである。三十年前と全く変わらない星空を眺めるのは、昔好きだった恋人を遠くから見ているようなもので、変わってしまったのは自分の方だなあ、と思うのである。
しかし、あの子供心の星空への興味が、その後の自分の進む道を何となく理系の方向に導いたような気がして、あの夜の「すばる」との出会いが今の自分の基になっていると思っている。
今年もまた「すばる」を見ることのできる季節が近づいてきた。
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