ミステリーという性質上あまり内容については触れませんのでご安心ください。
主人公は大学の入学を控え、一人暮らしを始めることになった男子学生、椎名。
新居のアパートへ引っ越してきたところ、隣人は少し変わった美青年だった。
「本屋を一緒に襲わないか」
初対面の椎名に対して、いきなりこう提案したのだ。
標的はたった一冊の広辞苑だという……。
美容院で暇つぶしに読んでいた雑誌に、上記のような紹介文がありました。
本屋襲撃で広辞苑を奪おうだなんて、何とも謎めいていますね。作品のタイトルもどういう意味で付けられたのでしょうか。それが私がこの本に興味を持ったきっかけでした。
その上、amazonのカスタマーレビューでも絶賛されていたので手に取ってみることにしました。
物語は、過去と現在が交差しながら進んでいき、気がつけば、ぶっ通しで最後まで読んでしまいました。
登場人物の中に、ブータン出身のドルジという留学生がいるのですが、彼の、彼らの国の人たちの大らかな思想(というか宗教ですね)はとても印象的でした。せかせかした毎日を送っている私たち日本人にとっては、新鮮で強烈で。ブータンって一体どんな国なのだろうと興味も湧いてきました。
でも、★(=朱里的オススメ度)の数を見れば、私の感想は一目瞭然ですね。
いまひとつでした……。
amazonのカスタマーレビューは鵜呑みにしないほうがいいかもしれない。この作品を購入して得た教訓です。
理由はミステリー好き、それも、小説を読みながら犯人や事件、物語の先を読むのが好きな人にとっては、いささか物足りない作品だと感じたためです。
見え透いた伏線、予想通りの展開。読み進めるうちに、サスペンスの度合いは濃くなり、読めば読むほどどんどんストレスがたまっていきます。それはミステリーの醍醐味・魅力ですが、その堆積したストレスがエンドマークを打たれても解消されないのです。
いやな予感を引きずったまま、その通りの展開となっていくのを確かめる読書というのは、なんとも気持ちのいい体験ではありませんでした。
事件の題材も陰鬱なものですし、救いもありません。
――いいえ、救いは用意されていないわけではありません。登場人物たちも納得していたかもしれない。けれど、私は「本当にそれでいいの?」と首を傾げたくなるのです。
あくまで私はブータン人ではなく、日本人だからなのかもしれませんけれど。
読後感はさわやかさを装いつつも苦味がしつこくまとわりついてくる……そんな作品でした。
あ、そういう作品がお好みの方には、ストライクゾーンに来ている作品だと言えますね。
私は受け付けなかったけれど。
……後味の悪い作品として描くなら、もっと徹底的に苦く、さわやかにまとめたかったなら、徹底的にハッピーエンドにしてほしかったなぁ……というのが本音です。
2004-02-21