チャモアペットセミナー基礎編を受講した人は、この日の全日本キックは楽しめたはずだ。特に、メインの佐藤嘉洋対ベンローイ、藤原あらし対YUTAKAの試合は楽しめたはずだ。会場がそれほど涌かなかったこの二試合を楽しめたはずだ。
嘉洋くんは試合後のマイクアピールで「つまんない試合ですいません。でも、ボクの強さはわかってくれたと思う」というような発言をした。でもねえ、たぶん、お客さんの大半はわかってません(笑)。ベンローイは半端なく強かった。でも、嘉洋くんが完璧に封じこめたから、ほとんどの人は「ちょっとパンチが強い外人」くらいにしか思わなかっただろう。
おそらくこの二人がボクシングで勝負したら、1Rでベンローイが勝つだろう。しかし、キックでの勝敗は逆だった。しかもこの試合の凄いところは、嘉洋くんが「パンチを全く捨てた」老人ムエタイ戦士のような技巧で勝ったのでなく、パンチもいっぱい出して勝ったことにある。後半はパンチでも圧倒していた。ボクシングならまったくかなわない相手に対してである。
かといって、打ち合いの場面は皆無。パンチで攻めるベンローイ、ヒザだけでなくパンチもいっぱい出した佐藤嘉洋なのに、である。This
is KICKBOXINGである。
佐藤嘉洋、ホントに強い!!
打倒ムエタイ、十分可能! 是非、K-1なんて放っておいて、打倒ムエタイ路線で行ってくれ! ムエタイの超一流どころと対戦していけば、結果だけでお客さんはついてきてくれる。マスコミもプッシュしてくれる。先輩、鈴木秀明が証明してる、小林さんだって証明してるじゃないか……って書こうとしたら、ジャストタイミングで「ガオラン戦」直訴。文句無し! 100%賛成! 大プッシュ!
で、もう一試合。藤原あらし対YUTAKAも、ムエタイ的キックが、新空手的キックを完全に粉砕した試合。お見事!
ということで、レポート終わり
……ってわけにはいかない。もちろんいかない。関博司復帰第二戦に触れないわけにはいかない。何せ、この日のチケットは、彼が用意してくれたのだから。
前回「関博司は関博司じゃなかったし」と書いた言葉は、名古屋JKFのHPでも紹介されてしまった。NJKF時代の関博司を知っている者は皆、前回の試合で悔しい思いをしたのだろう。1Rで倒されたわしの立場からすれば尚更だ。
金髪に染めあげた関は、1Rから猛攻をかけた。昔と同じように、止むことのない、パンチとローのコンビネーション。ボディーフックに、全日本キックの観客も、驚嘆の喚声をあげる。
しかし、倒しきれない。圧倒しているのに、倒しきれない。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、キレもパワーもない。
しかし、倒すのも時間の問題という展開。「今日はいい酒を呑めそうだ」と確信した。
そうは問屋が卸さなかった。徐々に、相手が盛りかえしてくる。関の攻撃からは、次第に迫力が失われていく。スタミナ……切れたか?
一進一退の打撃戦に場内からは大歓声が上がったが、関サイドの人間には、時間がたつごとにハラハラする場面が増える。「関博司ファンだった」というNJKF現役選手が、わしのそばに寄ってくる。「関ってどうしっちゃったんすか?」。彼は前回の試合を観てないようだった。前回の試合よりは遥かに良い出来だが、それでもNJKF時代とは比べるべくもない。
それでも前半の貯金がある。サドンデスルールのため、3Rで一旦判定が出されるこの試合。「30-29で何とか逃げきり」と思った。しかし判定ドロー。延長に入った。
試合の流れは完全に相手側。しかし、関も見事に気持ちを入れ直し、4R開始早々から猛ラッシュ。再び期待を抱かせた。しかし、残り1分。ガソリンは無くなった。完全に相手に攻められ、ジ・エンド。
判定が読み上げられる。まず、10-9で相手側。しかし、二人目は10-10のドロー。小森会長の顔が引き締まる。疲労困憊の関に「(気持ちを)切るな〜!」と叱咤する。
そして3人目。「10-9……」、この時点で小森会長は「嗚呼」とばかりに天を見上げた。その後は聞くまでもなく、勝負は決まった。
興行後、うなだれる関博司の姿があった。「次」のことは考える余裕がないようだった。しかし、前回と比べたら、確実に「戻って」きた。何より、試合中、気持ちは切れなかった。そこがこの競技をやるうえで一番大事だということは、キックボクサーならみんな知っている。辞めたばっかの人間にとっては、痛いほどわかっている。
次は「関博司が関博司になった」と書きたい。しかし、それは他人がどうこう言えることではないと、「元」キックボクサーは知っている。それが無責任なことだと、わかっている。
わかっているけども……、なのである。
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