風邪引いて寝込むとなぁ、いろいろ考え込むもんですな。まるで、走馬燈のように、自分の人生を振り返ったりしちゃうわけ。そして予備校時代を振り返っていたとき、「あ、あのテープひさびさ聴いてみるか」と樹海の奥から取り出したのは、
「代々木ゼミナール
武井の体系世界史 講義テープ
第1回&最終回」
わしはあまり「尊敬する」って言葉は使わないようにはしている。なんかその人物を全肯定しちまうようでイヤなのだ。「仕事はできるけど女癖が悪い」とか「不闘王だけど物忘れが激しい」とか「パンチは強いけど首相撲に弱い」とか、まあ誰にも難癖つけたくなるところがあろうものだ。
だが、予備校時代にお世話になった、この先生にだけはケチをつけられない。人間力が違いすぎて、崇め奉り敬うしかない。「尊敬する」という言葉をためらわずに使える、唯一の人かも知れない。
武井正教
代々木ゼミナール開校時からの世界史の重鎮。まあ、受験世界史に身を置いた人は名前くらい知ってるだろう。その超VIP扱いのテキストと超受験級の授業は、フツウの脳味噌には全く理解できない。だが、このおっさんの授業が凄いのだけは誰でもわかる。教え子から講義テープを聴かせてもらったうちの高校の先生が、感動して、わざわざお金払って講義を受講したこともあった。受験に役立つかは別として、このお方とその講義の水準は間違いなく日本最高水準。その後、大学でいろんな教授に出会ったが、武井さんの比べたら皆カスだった。レベルが違う。わしの今後の人生で、この人以上の人に出会えるかどうかは甚だ疑わしい。
そんな懐かしの名講義のテープを涙ながらに聴いていると、今の汚れちまった自分が恥ずかしくなってくる。あのころのわしは…………なんてことを考えてるとふと思った。
「今、武井先生どうしてるんだろう?」
大学時代は、年に1、2度、代ゼミ代々木校に御挨拶に行っていた。中華料理おごってもらったこともあった。そういえば、あのとき初めて老酒を呑んだ。懐かしすぎて失神しそうだ。年賀状もくれたなぁ。あの人の年賀状は凄くて、しばらく真似をした。就職してからは、1度しか伺ってない。あれはたぶんキック始める前だから、もうかれこれ6年以上ご無沙汰だ。
かなり高齢な方なので「ひょっとしたら……」という懸念も持ちながらネットで検索してみた。すると、2ちゃんねるで「武井先生はいまいずこ?」などというスレッドが立っていた。それによると、やはり代ゼミは勇退されているようだ。その後
も調査を続けると、どうやら新宿にある「プリプス」という予備校で現在も教えてはいるようだ。なんでもここは「最高水準の講義を提供する」ことを売り物とする、超難関校向けの予備校のようだ。武井先生の口癖を思い出す。
「俺は名誉も地位も銭も金もいらねえ! 万人の青年の教師で有り続けたい」
「銭と金は一緒では?」という突っ込みは置いておいて、まだチャレンジし続けておられるとは恐れ入った。ちなみに、わが掲示板でよくみかける「たろ」嬢は、代々木ゼミナール名古屋校での武井先生の講義で、最前列の席を奪い合った戦友だ。おい、たろ! これは行かざるを得ないだろ! 次の上京時は、オーエンジャイより武井詣でだよ、キミィ!!
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