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Part 4 · 自動運転のしくみ

4.1 自動運転レベルとODD

SAE J3016と「運行設計領域」

読了目安 10分前提:1.1 確率とは何か(掛け算と独立)、0.2 数式の読み方(制動距離の式)▶ 動画(約5分)

この回で分かること

  • 運転の自動化の レベル0〜5 の違いを、「運転操作・周囲の監視・困ったときの対応を、人とシステムのどちらが担うか」で説明できる
  • ODD(運行設計領域)が何を決めるものかと、ODD の外に出るときの流れ(引き継ぎ要求・最小リスク状態)を説明できる
  • ODD の広さと、使える時間・確かめる条件の数の関係や、引き継ぎに必要な距離を、簡単な計算で見積もれる

直感で理解する

「自動運転の車」と一口に言っても、高速道路でハンドル操作を手伝う機能から、運転席に誰もいない無人タクシーまで、中身は大きく違います。これを区別するのに広く使われているのが、米国の技術者団体 SAE International がまとめた SAE J3016 の区分です。日本の制度や説明でも、同じレベル0〜5が使われています。

レベルを分けるのは、性能の高さではなく 役割分担 です。運転中にその場で行う仕事(動的運転タスク、DDT)を次のように分け、それぞれを人とシステムのどちらが担うかで区別します。

  • 運転操作:アクセル・ブレーキ(縦方向)とハンドル(横方向)の操作
  • 周囲の監視と対応:周りの車・歩行者・信号などに気づき、対応すること
  • 困ったときの対応(フォールバック):システムの不具合や、使える条件の外に出そうなときの対応
レベル呼び方運転操作周囲の監視と対応困ったときの対応使える条件(ODD)
0運転自動化なし人人人—
1運転支援人とシステム(縦か横の一方をシステム)人人限定あり
2部分運転自動化システム(縦と横の両方)人人限定あり
3条件付運転自動化システムシステム人(求められたら引き継ぐ)限定あり
4高度運転自動化システムシステムシステム限定あり
5完全運転自動化システムシステムシステム限定なし

いちばん大きな境目は、レベル2 と レベル3 の間です。レベル2 までは、システムが加減速とハンドルの両方を操作していても、運転しているのは人 です。ハンドルから手を離せる機能(ハンズオフ)でも、人は前を見て、いつでも自分で対応しなければなりません。レベル3 からは、システムが作動している間の運転の主体はシステムになり、人は前を見続けなくてもよくなります。ただしレベル3 では、システムから 引き継ぎ要求(テイクオーバー・リクエスト)があれば、すぐに運転を代われる状態でいる必要があります。レベル4 では、人が応えなくても、システムが自分で車を安全な状態(路肩に止めるなど)にもっていきます。この状態を 最小リスク状態(ミニマル・リスク・コンディション、MRC)と呼びます。

なお、警報や、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)のように危ないときに一瞬だけ働く機能は、運転を続けて担うわけではないので、運転の自動化には数えません。

レベル5 以外では、システムが使える条件に限りがあります。その条件の範囲が ODD(Operational Design Domain、運行設計領域)で、「このシステムは、この条件の中で動くように設計した」という約束です。ODD は、主に次のような条件の組み合わせで決めます。

条件の種類例
道路と周りの環境道路の種類(高速道路・一般道)、車線の数、交差点・カーブ・坂、工事区間、決められた地域(ジオフェンス)
環境天候(雨・雪・霧)、明るさ(昼・夜・逆光)、路面(乾いている・濡れている・凍っている)、GNSS や通信の受信
交通と自車の状態交通量、周りの車の速さ、歩行者や自転車がいるか、自車の速度

たとえば「高速道路の渋滞時に使えるレベル3」なら「高速道路・車速 60 km/h 以下・強い雨でない」、「限られた地域を走るレベル4 の移動サービス」なら「決められたルート・最高 20 km/h・昼間・雪の日は運休」のように決めます(どちらも説明用の例)。

雨の強さ(mm/h) 0 5 10 15 20 0 30 60 90 120 車速(km/h) ODD(例) この中ならシステムが運転 ODD の外:人が運転する範囲 ①渋滞中 ②引き継ぎ要求 ③人が運転 ④強い雨:ODD の外
高速道路の渋滞時に使えるレベル3 の ODD を、2つの条件(車速と雨の強さ)で描いた例(模式図)。渋滞が解けて速度が上がると、境界を越える前に引き継ぎを求める。実際の ODD は、道路・天候・明るさ・交通など、もっと多くの条件の組み合わせで決まる。

作動中に ODD の外に出そうになったら、システムは早めに気づいて引き継ぎ要求を出します(図の②)。高速道路の出口のように地図で前もって分かる境界もあれば、急な強い雨(図の④)のように、その場で気づくしかない境界もあります。人が引き継がなかったときは、システムが減速して止まるなどして、最小リスク状態にもっていきます。

「レベルが高いほど安全」ではありません。レベルは役割分担の区分で、安全かどうかは別に示す必要があります(Part 5)。限られた地域をゆっくり走るレベル4 と、高速道路を走るレベル2 の、どちらが上ということもありません。性能や安全を比べるときは、どの ODD での話か を必ずそろえます。

数式で確かめる

① ODD は条件の「かつ」

ODD は、それぞれの条件を満たす範囲が重なった部分です。3.4 の IoU で使った \(\cap\)(重なった部分)で書くと、図の例は次のようになります。

$$\text{ODD} = \{\text{高速道路}\} \cap \{\text{渋滞時}\} \cap \{\text{強い雨でない}\}$$

車の走行時間のうち、ODD の中にいる割合を見積もってみます。走行時間のうち高速道路が30%、高速道路のうち渋滞が20%、強い雨でない時間が90%で、天候は道路や渋滞と関係ない(独立)と仮定すると、1.1・1.2 の掛け算から

$$P(\text{ODDの中}) = P(\text{高速道路}) \times P(\text{渋滞} \mid \text{高速道路}) \times P(\text{強い雨でない})$$

= 0.3 × 0.2 × 0.9 = 0.054、つまり走行時間の約5%です。ODD を「高速道路なら渋滞でなくてもよい」に広げると 0.3 × 0.9 = 0.27 で、使える時間は5倍になります。そのかわり、速い速度での合流や車線変更、高い速度からの停止など、確かめなければならない場面も大きく増えます。

なお実際には、雨の日は渋滞しやすいなど、条件どうしが独立とは限りません(1.1 の共通原因)。割合を見積もるときは、条件の組み合わせごとに実際のデータで確かめます。

② 条件の組み合わせは掛け算で増える

ODD の中で試験をするとき、条件をいくつかの区分に分けて組み合わせを数えると、その数は区分の数の掛け算になります。

$$N = n_1 \times n_2 \times \cdots \times n_k$$

道路3種類 × 天候4種類 × 明るさ3種類 × 交通量3種類なら 3 × 4 × 3 × 3 = 108 通り。路面の状態(3種類)を加えると 324 通りと、条件を1つ増やすたびに何倍にもなります。実際には、速度や雨の強さのように連続的に変わる条件も多く、すべてを走行試験で確かめることはできません。ODD を必要以上に広げないことや、シミュレーション・重要な場面の選び方の工夫が大切になります。→ 5.6 シナリオベース検証、5.7 シミュレーションとXiL

③ 引き継ぎに必要な距離

引き継ぎ要求を出してから人が運転に戻るまでには、時間がかかります。別のことをしていた人が状況をつかむには、数秒以上かかることが知られています。猶予を t 秒とすると、その間に車は

$$d = v\,t$$

だけ進みます。時速 60 km(秒速 約16.7 m)で猶予を 10 秒とすると d ≈ 167 m、時速 100 km(秒速 約27.8 m)なら約 278 m です。システムは、ODD の出口に少なくともこの距離より手前で気づき、要求を出す必要があります(図の②)。

人が引き継がなかったときに、減速度 \(a = 2\ \mathrm{m/s^2}\)(ゆるやかなブレーキ)で止まるとすると、0.2 の制動距離の式から

$$s = \frac{v^2}{2a} = \frac{16.7^2}{2 \times 2} \approx 70\ \text{m}$$

で、止まるまでの時間は \(v / a \approx 8.3\) 秒です。引き継ぎの猶予と止まるための距離を合わせると、時速 60 km では ODD の境界の約 240 m(167 + 70)手前には要求を出したいことになります。実際の猶予の長さや止まり方は、国際的な規則(UN R157 など)や各社の設計で決められています。

発展:ODD の境界をどう決めるか

「雨は ODD に含めるか」ではなく、「降雨量いくつまで含めるか」を決めるには、性能が落ちる点をそのまま境界にするのではなく、要求・性能曲線・退避の余裕・検知・遭遇頻度 の順に逆算します。降雨を例に追ってみます(数値は説明用)。

  1. 要求から性能の下限を出す:ODD の上限速度が 100 km/h、処理と反応の遅れが 1.0 秒、減速度が 6 m/s² なら、止まるまでに約 28 + 64 ≈ 92 m(4.2)。どの降雨でも、およそ 100 m 手前で検出できることが守るべき下限になります。
  2. 性能を降雨量の関数として測る:降雨量を何段階か振って(0・5・10・20・30・50 mm/h)、検出距離などを測ります。平均ではなく、分布の悪い側(例:1% 点。1.9)で曲線を描きます。雨 × 夜、雨 × 対向車のライトのような複合条件も、悪い組み合わせで測ります。
  3. 性能の境界と運用の境界を分ける:曲線と要求の交点(例:1% 点の検出距離が 100 m を切る 20 mm/h)が性能の境界です。ODD の境界はその手前に置きます。雨が強まるのを検知してから、引き継ぎ(10〜15 秒)や最小リスク状態への移行(30 秒〜)が終わるまで、性能は要求を満たしていなければならないからです。にわか雨は 1 分で 10 mm/h 以上強まることがあります。
  4. 車が測れる量で定義する:mm/h は気象の量で、車は直接測れません。境界は、運転中に判定できる量(雨滴センサの出力、ワイパーの速度、LiDAR の反射の減衰など)で書き、mm/h との対応を同じ場面で同時に測って校正します。判定のちらつきを防ぐため、入るしきい値と出るしきい値を分け(ヒステリシス)、確認時間を決めます。代理指標の誤差も余裕に含めます。
  5. 遭遇頻度と可用性のかね合い:境界を厳しくするほど安全側ですが、使えない時間が増えます。対象地域の気象データから「10 mm/h を超える時間の割合」(1.4 の遭遇頻度)を出し、境界を広げたときの可用性の増加と残留リスクの増加を同じ表で比べて決めます。
  6. 境界を検証し、見張る:境界ぎりぎりの条件を狙ったシナリオ試験(5.6)で要求を満たすことを示し、境界の少し外まで試験して、性能が急に崩れず退避が間に合うことを確かめます。市場では、境界付近での引き継ぎの頻度や、境界を超えて動作していた時間を安全性能指標にします(5.11)。
段階決めること降雨の例
要求守るべき性能の下限検出距離 ≥ 100 m(100 km/h)
性能曲線降雨量ごとの性能の悪い側1% 点が 100 m を切るのは 20 mm/h
退避の余裕検知から退避完了までの悪化退避開始 12 mm/h、公称の境界 10 mm/h
検知車が測れる量への翻訳雨滴センサ出力 ≥ X が 10 秒継続、ヒステリシスあり
かね合い遭遇頻度と可用性10 mm/h 超は当地で走行時間の 1.5%
検証・監視境界の内外の試験、市場の指標境界付近の引き継ぎの頻度を見張る

ODD の記述の枠組み(ISO 34503、PAS 1883)でも、ODD の属性は測れて検証できることが求められています(考え方の要約)。境界の根拠は、この表の形でセーフティケース(5.10)に残します。

SOTIF・安全との接点

  • ODD が安全の議論の範囲を決める:「安全である」と主張するのは、ODD の中についてです。試験の走行や検証も ODD の条件に合わせて計画し、どの ODD で何 km 走ったかを分けて数えます。→ 1.8、5.6 シナリオベース検証
  • ODD の中にも危険は残る:ODD の中でも、逆光・路面の反射・見慣れない物体など、機能の限界が表に出る状況(トリガー条件)があります。ODD を決めることは安全の出発点で、ゴールではありません。→ 5.3 機能不十分とトリガー条件
  • ODD の外に出たことに気づく:雨の強さや車線の見え方はセンサで推定しますが、推定には誤差があります。学習データの範囲の外では、AI の確信度も当てにならないことがあります。気づかないまま ODD の外を走り続けることが、いちばん危険です。→ 2.8、3.7
  • 人の役割の思い違い:レベル2 の運転支援を「自動運転」と思い込んで前を見なくなる、レベル3 で引き継ぎ要求に応えられない状態になる、といった使い方は、設計者の意図とは違っても十分に予想できます。こうした 合理的に予見可能な誤使用 も SOTIF で扱い、運転者の状態を見張るしくみや分かりやすい表示で防ぎます。→ 5.1 SOTIFとは
  • 引き継ぎの設計も安全の一部:警告の出し方、猶予の長さ、引き継がれなかったときの止まり方は、どれも危険につながりうる設計の判断です。故障したとき(機能安全)と、故障していないが対応しきれないとき(SOTIF)の両方で考えます。→ 4.7 安全の3本柱

まとめ

  • 自動運転レベル(0〜5)は性能ではなく役割分担の区分。レベル2 までは人が運転の主体で、レベル3 からは作動中はシステムが主体。困ったとき、レベル3 は人が引き継ぎ、レベル4 以上はシステムが最小リスク状態にもっていく
  • ODD は「この条件の中で動くように設計した」という範囲で、道路・環境・交通の条件の組み合わせで決める。レベル5 以外には ODD の限りがある
  • ODD を広げると使える時間は増えるが、確かめる条件の組み合わせは掛け算で増える。ODD の外に出るときは、猶予の間に進む距離(d = vt)と止まる距離を見込んで、早めに引き継ぎを求める

確認クイズ

Q1. 高速道路でハンドルから手を離して走れるが、運転者が前を見ているかをカメラで確かめている機能があります。レベルはいくつ?

レベル2 です。手を離せても、周囲の監視と対応は人が担う前提なので、運転しているのは人です。

Q2. レベル3 と レベル4 のいちばんの違いは?

困ったとき(ODD の外に出そうなとき、システムの不具合)の対応です。レベル3 は人が引き継ぎ要求に応えて運転を代わる前提で、レベル4 は人が応えなくても、システムが最小リスク状態にもっていきます。

Q3. 時速 80 km で走行中に ODD の出口が近づいています。引き継ぎの猶予を 10 秒見込むなら、出口の何 m 手前までに引き継ぎ要求を出す必要がある?

時速 80 km は秒速 約22.2 m なので、22.2 × 10 ≈ 222 m です。実際には、気づくまでの時間や止まるための距離も加えて、さらに手前で出します。

Q4. 「限られた地域しか走れないレベル4 のバスは、どこでも使えるレベル2 の乗用車より遅れた技術だ」。この意見の問題点は?

レベルは役割分担の区分で、ODD の広さや、性能・安全の高さを比べるものではありません。レベル4 は ODD の中では人の監視も引き継ぎもいらない一方、レベル2 はどこでも人が運転の主体です。比べるときは、同じ ODD での性能や安全の根拠をそろえます。

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